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30 深影男爵
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カリナが召喚したシャドウナイトとホーリーナイトに襲い掛かって来たレッサーデーモン共の攻撃は白騎士の巨大な盾に弾き返され、黒騎士の大剣によって次々と斬り伏せられる。呼び出された下級悪魔はあっさりと全滅した。
「これで終わりか? ならもうお前に勝ち目はない。大人しく情報を吐いてもらおうか」
カリナに手下共を一瞬で殲滅されたベロン・シェイドグリムは、口に手をやって笑い声を上げる。
「ククク、素晴らしい召喚術だ。だが、所詮奴らは只の下僕に過ぎぬ。さあ今度は我自らが相手をしてやろう」
そう言ってベロンは腰に差していた黒いレイピアを抜いた。どうやらまだやる気らしい。多勢に無勢だが、カリナは容赦せずに騎士達に攻撃を命じた。
襲い掛かる黒騎士達の大剣をレイピアで受け流し、ひらひらと舞う様に攻撃を躱す。伯爵レベルと言うだけあって中々やるようである。だが、どう見ても劣勢。どれだけ悪魔の膂力が無尽蔵でも、これだけ一方的に攻め立てればいつかは被弾する。
「少しは我の能力を見せてやろう」
悪魔が影に沈み込み、その影が10体に分裂する。そこからベロンの分身体が姿を現した。
「面白い能力だな。だが私のシャドウナイトの攻撃からは逃げられないだろう。かかれ!」
全ての分身体に黒騎士が斬りかかるが、どれもがその影の身体をすり抜ける。そしてその中の一体がカリナに斬りかかって来た。すぐさま刀を抜刀し、その攻撃を受け止める。
「ほう、素晴らしい反射速度だ。だが、我の本体がどれか分からなければ攻撃を当てることなどできまい」
ガキィンッ!
刀でベロンをレイピアごと薙ぎ払う。後ろに後退ったところに白騎士の片手剣が振るわれるが、やはりこれも分身体の一つなのだろう。攻撃がその身体をすり抜ける。
「なるほど、影の身体で分身体を作り出し、本体は常に何処かに移動しているということか?」
「ほほう、やはり聡明なお嬢さんだ。だがそれが分かったところでどう対応するのだ?」
「残念だが、その程度の能力なんて創作で腐る程目にしてるんだよ。その程度で勝ち誇るな。白騎士、私を守れ。黒騎士達は隙を見逃さず攻撃を続けろ」
カリナの命令で、白騎士達がカリナを囲む様に陣を組む。そして分身体には黒騎士達が次々と攻撃を仕掛ける。カリナはその間に召喚の祝詞を唱え始めた。
「光よ、目醒めよ。
闇を断つ刃となりて、この手に集え。
星火の精霊、彷徨う灯の名を、今ここに刻み呼ぶ。
震えよ闇、退けよ影。
汝が輝きは、敵を焼き尽くす断罪の焔。
我が命を炎とせよ、
我が叫びを轟とせよ、
――来たれ! ウィル・オー・ウィスプ!
その光で道を穿て!
敵を照らし、撃ち砕け!!」
展開された輝く魔法陣から、全身が青白い炎の様な輝きに包まれた美しい女性の姿をしたウィル・オー・ウィスプが姿を現した。
「おやおや、お久し振りですねー主様」
「ああ、お前も長いこと待たせてしまったようだな。すまなかった」
「いいえー、どうせあたし達精霊は永遠の時を過ごす存在。100年なんて瞬きするような時間ですよー」
軽い口調で喋るウィスプにカリナは命じる。
「さて呼んだのはあの悪魔の能力だ。どうやら影を媒介として分身体を作り出しているらしい。お前の光でその正体を暴いてやれ」
「了解であります」
ふわりと宙を舞い、ウィル・オー・ウィスプが悪魔に人差し指を突き付けて言い放つ。
「おい、下等な悪魔。お前の本体をあたしの聖なる光で暴いてやるよ! セイクリッド・ライト!」
彼女の全身が薄暗い迷宮全てを明るく照らす。その光によって、ベロンの分身体は全て消え去り、本体だけがその姿を現した。
「ぐああああっ! 眩しいっ! おのれ、このような方法で我が幻影を見破るとは」
カリナははぁと溜め息を吐くと、呆れた口調で悪魔に言い放つ。
「だから言っただろ。その程度の能力なんて創作で腐る程目にしてるってな。お前が薄暗い迷宮で行動しているのも光が弱点なんだろ? 分かり易いんだよ」
「おのれ小娘……。我を小馬鹿にしおったな。ならば我が力を見せてくれる」
何てテンプレな物言いだとカリナは思いながら、抜いた刀に闘気と魔力を集中させる。
「輝く光よ、刃に宿れ。魔法剣ホーリーライト」
瞬歩で地面を蹴って一瞬で距離を詰めると同時に、その胸に刃を突き立てる。
「刀技、嵐牙突」
「がはっ!」
貫いた刃に宿った光が内側から悪魔の身体を焼く。
「バカな、貴様は召喚士では……?」
「そうだ。そして魔法剣士でもある。私は召喚魔法剣士カリナだ。冥土の土産に憶えておくいい」
「クククク、よもやこのような小娘に追い詰められようとはな。いいだろう、我の真の姿を見せてやろう」
貫いた身体がドロドロに溶けて、再び一つの身体を構築していく。そして現れたのはこれまでによく目にした巨大な悪魔の姿だった。側頭部から二対の角を生やし、背中からは巨大なコウモリの様な翼。赤く輝く瞳に、裂けた口からは鋭い牙が生えている。
「なんだ、ただの悪魔のいつもの姿じゃないか。何が真の姿だ。そんなのもう見慣れてるんだよ」
カリナはうんざりして、そのまま悪魔の巨体に魔法剣で斬りかかった。それをベロンがレイピアで受け止める。
「やるではないか、だが所詮貴様ら人間はあのお方の前に膝を折る未来しか残されていない!」
最初の紳士ぶった口調は最早通常の悪魔の荒々しいものになっている。所詮は人間の振りをしていたに過ぎないのだろう。カリナの刀を受け止めた状態でベロンが叫ぶ。
「いいのか? 私にだけ意識を向けていて」
「何だと? ぐああああっ!」
四方から黒騎士の大剣が斬り付けられる。黒い血飛沫を上げながらも悪魔が放った闘気で、身体の軽いカリナと斬り付けた黒騎士達が弾き飛ばされる。
「おのれ、煩わしい連中だ。ならば我の魔法を見せてやろう。受けろ、アビス・ロア!」
悪魔を中心に黒い闇の魔力の衝撃が放たれる。しかしすぐさま体勢を立て直したカリナが剣技を発動させる。
「魔法剣技、魔封剣」
周囲にいた黒騎士達はその衝撃をもろに喰らって吹き飛ばされたが、カリナの方向、前方に向けて放たれた衝撃は全てカリナの魔封剣によって刀へと吸収された。
「な、なにぃ! 我が暗黒の魔法を吸収しただと?」
「魔法剣士は剣と魔法のエキスパートだ。剣に魔法を宿らせて攻撃に利用することができる。この魔封剣はその対極。相手の魔法を吸収して剣に宿らせることができるんだよ。そら、返してやる。アビス・ロア!」
カリナが刀を一閃すると、そこからベロンが放ったものと同じ攻撃魔法が放たれる。その一閃を真正面から喰らって、ベロンは後ろへ吹っ飛んだ。
「ククク……、よもやこれほどの人間が存在するとは。これはあのお方への最高の贄になる」
「まだやる気か。やめておけ、お前に勝ち目はない。さっさとそのお方とやらの情報を吐け」
ウィル・オー・ウィスプの光で能力は半減され、カリナには魔封剣に呼び出した騎士達がまだ揃っている。勝敗は明らかだが、この悪魔にはそれなりの矜持があるのだろう。簡単には情報を吐きそうにない。
「ククク、まだだ、封じていた力を開放する……! あのお方に捧ぐ血路となるためになぁッ!! 我が身を焦がせ、邪焔! ここからが本当の儀式だ! うがあおおおおおおおおおっ!!!」
悪魔の身体についた傷が塞がっていく。そしてその身を黒炎が包み込み、更に闘気と魔力が肥大化していく。
「主様ー、あれは結構まずいかも。多分全ての力を振り絞って何かするみたいだよー」
悪魔の身体から攻撃的な魔力が嵐の様に吹き荒れて来る。伯爵レベルの悪魔の全力の闘気と魔法の攻撃。魔封剣で吸収できるかもわからない。カリナは相手が奥の手でくるのなら仕方ないと思い。その間に簡略化した祝詞を唱え始める。
「牙持つ神狼よ、封より出でよ。
荒ぶる風を裂き、我が敵を喰らえ。
――来い、フェンリル!」
展開した魔法陣からエメラルドグリーンの風を身に纏った輝く神狼フェンリルが姿を現した。
「召喚に馳せ参じました。我が主よ。ふむ、どうやら状況は切迫しているようですな」
「よく来てくれた。再会を懐かしんでいる時間はない。頼んだぞフェンリル。ウィスプは隊員と一緒に後ろに避難していろ」
「はーい、そうしまーす」
フェンリルが遠吠えをすると同時にその姿が輝く鎧へと変化する。そしてその輝く風に包まれたカリナの身体にエメラルドグリーンに輝く神秘的な神狼の姿を模した聖衣が装着された。
「何だ……、その姿は? ククク、まあいい、さあ受けるがいい! 我が最強の奥義を! 滅びは甘美だ……味わうがいい、黒翼葬刃!!!」
悪魔が羽搏かせた翼と、前方に突き出した両掌から高圧縮された闘気と魔力の塊が撃ち出される。生身でまともに喰らえば全身が斬り裂かれるだろう。しかし聖衣を纏ったカリナは左の掌を前方に翳して、その威力を全て受け止めた。
シュウウウウウウゥ……
黒翼葬刃はカリナの掌一つで黒い煙と共に霧散した。それを見たベロンは驚き狼狽え始める。
「な、何だ……?! その力は?! 我が黒翼葬刃を片手で受け止める程の防御性能だと?! そんなものが存在するのか!?」
「知らなかったのか? これが召喚士が己の召喚獣と真に心を通じ合わせたときに身に纏うことを許される聖衣というものだ。さあ、今度は此方の番だな。死ぬなよ。まだ聞きたいことが山ほどあるからな!」
カリナが胸の前で両手を上下に合わせると、そこに精霊力が高まり巨大なエネルギーの塊となっていく。それを両手に握り締め、掌底の様に前方へと撃ち出した。
「フェンリル・ファング・バイト・ブロー!!!」
カッ! ドゴオオオオオオッ!!!
撃ち出された精霊力が雄たけびを上げるフェンリルのオーラとなって駆け抜ける!
「ガハアアアアアアッ!!!」
その衝撃に飲まれたベロンはズタズタに嚙み砕かれ、迷宮の壁に激突すると、頭から墜落した。最早身動きの取れない悪魔に歩み寄り、カリナが話し掛ける。
「勝負あったな。さあ、約束通り答えてもらうぞ。お前達の言うお方とは誰のことだ。それに悪魔にはまだ他の階級があるのなら全て吐いてもらう」
深影男爵ベロン・シェイドグリムは自分を見下ろす少女が途轍もなく強大であり、恐怖を感じた。
「ククク、いいだろう……。我を圧倒したのだ。話してやろう、ガハッ! 我等悪魔には表向きの階級である公爵、侯爵に伯爵、子爵、男爵という位が存在する。だが真の下僕である我等には、上から深淵公、魔界侯、災禍伯、獄炎騎士、影霊子爵、堕落男爵がいる。そしてそれぞれが魔界兵団やレッサーデーモンといった使い魔族を使役しているのだ。いや、あのお方のことだ、まだ我も知らない階級があるのやも知れぬ。そして我らを統べるそのお方こそが……、魔、ぐああああっ!」
「なっ?!」
以前の侯爵のときと同様、一番重要な何かを言いかけたその瞬間、ベロンの身体が業火に包まれる。
「クククク、やはり口止めが施されているようだな。気を付けるがいい、召喚士カリナよ。我には勝ったつもりだろうが……我が命は……あのお方への供物……間もなく……闇は満ちる……絶望に……沈むがいい! ……この程度では、我が主の目覚めは止まらぬ……。クククカカカカッ!!!」
「ちっ!」
好き放題喋りながらベロンは燃え尽きた。そこには悪魔が残した素材と黒い結晶があった。カリナが手に取ったそれは通常の悪魔が残す魔法結晶とは色が異なる。まるで闇深い冥界の宝石の様な輝きをしていた。紫色に光る魔法石や魔法結晶とは明らかに異質な輝きである。これは何かの証拠や発見に繋がる可能性があると思い、それらをアイテムボックスに仕舞い込んだ。
悪魔が斃されると、迷宮を覆っていた幻覚が消え去り、壁に埋まっていた冒険者達も地面に倒れるように落下した。カリナは一人一人の状態を確認したが、ただ気を失っているだけのようだ。ヒーリング・ライトの魔法をかけると、彼らは意識を取り戻した。
「おーい、大丈夫か?! って、まさかお嬢ちゃん一人で解決しちまったのか?」
幻影が解けて、援軍に駆け付けた高ランクの冒険者達が最下層に辿り着いたのだろう。彼らは輝く鎧に身を包んだ小柄な少女と、その少女が巻き起こした戦いの痕跡を見て驚く。
「応援の冒険者達か? なるほど、ジュリアが手配してくれたんだな。取り敢えずこっちは片付いた。主犯は悪魔の伯爵だ。怪我人を運ぶのを手伝ってくれ」
聖衣を解除し、礼を言うと、ケット・シー隊員だけを残して召喚体達はその主に挨拶をすると光の粒子となって消えて行った。
「これで終わりか? ならもうお前に勝ち目はない。大人しく情報を吐いてもらおうか」
カリナに手下共を一瞬で殲滅されたベロン・シェイドグリムは、口に手をやって笑い声を上げる。
「ククク、素晴らしい召喚術だ。だが、所詮奴らは只の下僕に過ぎぬ。さあ今度は我自らが相手をしてやろう」
そう言ってベロンは腰に差していた黒いレイピアを抜いた。どうやらまだやる気らしい。多勢に無勢だが、カリナは容赦せずに騎士達に攻撃を命じた。
襲い掛かる黒騎士達の大剣をレイピアで受け流し、ひらひらと舞う様に攻撃を躱す。伯爵レベルと言うだけあって中々やるようである。だが、どう見ても劣勢。どれだけ悪魔の膂力が無尽蔵でも、これだけ一方的に攻め立てればいつかは被弾する。
「少しは我の能力を見せてやろう」
悪魔が影に沈み込み、その影が10体に分裂する。そこからベロンの分身体が姿を現した。
「面白い能力だな。だが私のシャドウナイトの攻撃からは逃げられないだろう。かかれ!」
全ての分身体に黒騎士が斬りかかるが、どれもがその影の身体をすり抜ける。そしてその中の一体がカリナに斬りかかって来た。すぐさま刀を抜刀し、その攻撃を受け止める。
「ほう、素晴らしい反射速度だ。だが、我の本体がどれか分からなければ攻撃を当てることなどできまい」
ガキィンッ!
刀でベロンをレイピアごと薙ぎ払う。後ろに後退ったところに白騎士の片手剣が振るわれるが、やはりこれも分身体の一つなのだろう。攻撃がその身体をすり抜ける。
「なるほど、影の身体で分身体を作り出し、本体は常に何処かに移動しているということか?」
「ほほう、やはり聡明なお嬢さんだ。だがそれが分かったところでどう対応するのだ?」
「残念だが、その程度の能力なんて創作で腐る程目にしてるんだよ。その程度で勝ち誇るな。白騎士、私を守れ。黒騎士達は隙を見逃さず攻撃を続けろ」
カリナの命令で、白騎士達がカリナを囲む様に陣を組む。そして分身体には黒騎士達が次々と攻撃を仕掛ける。カリナはその間に召喚の祝詞を唱え始めた。
「光よ、目醒めよ。
闇を断つ刃となりて、この手に集え。
星火の精霊、彷徨う灯の名を、今ここに刻み呼ぶ。
震えよ闇、退けよ影。
汝が輝きは、敵を焼き尽くす断罪の焔。
我が命を炎とせよ、
我が叫びを轟とせよ、
――来たれ! ウィル・オー・ウィスプ!
その光で道を穿て!
敵を照らし、撃ち砕け!!」
展開された輝く魔法陣から、全身が青白い炎の様な輝きに包まれた美しい女性の姿をしたウィル・オー・ウィスプが姿を現した。
「おやおや、お久し振りですねー主様」
「ああ、お前も長いこと待たせてしまったようだな。すまなかった」
「いいえー、どうせあたし達精霊は永遠の時を過ごす存在。100年なんて瞬きするような時間ですよー」
軽い口調で喋るウィスプにカリナは命じる。
「さて呼んだのはあの悪魔の能力だ。どうやら影を媒介として分身体を作り出しているらしい。お前の光でその正体を暴いてやれ」
「了解であります」
ふわりと宙を舞い、ウィル・オー・ウィスプが悪魔に人差し指を突き付けて言い放つ。
「おい、下等な悪魔。お前の本体をあたしの聖なる光で暴いてやるよ! セイクリッド・ライト!」
彼女の全身が薄暗い迷宮全てを明るく照らす。その光によって、ベロンの分身体は全て消え去り、本体だけがその姿を現した。
「ぐああああっ! 眩しいっ! おのれ、このような方法で我が幻影を見破るとは」
カリナははぁと溜め息を吐くと、呆れた口調で悪魔に言い放つ。
「だから言っただろ。その程度の能力なんて創作で腐る程目にしてるってな。お前が薄暗い迷宮で行動しているのも光が弱点なんだろ? 分かり易いんだよ」
「おのれ小娘……。我を小馬鹿にしおったな。ならば我が力を見せてくれる」
何てテンプレな物言いだとカリナは思いながら、抜いた刀に闘気と魔力を集中させる。
「輝く光よ、刃に宿れ。魔法剣ホーリーライト」
瞬歩で地面を蹴って一瞬で距離を詰めると同時に、その胸に刃を突き立てる。
「刀技、嵐牙突」
「がはっ!」
貫いた刃に宿った光が内側から悪魔の身体を焼く。
「バカな、貴様は召喚士では……?」
「そうだ。そして魔法剣士でもある。私は召喚魔法剣士カリナだ。冥土の土産に憶えておくいい」
「クククク、よもやこのような小娘に追い詰められようとはな。いいだろう、我の真の姿を見せてやろう」
貫いた身体がドロドロに溶けて、再び一つの身体を構築していく。そして現れたのはこれまでによく目にした巨大な悪魔の姿だった。側頭部から二対の角を生やし、背中からは巨大なコウモリの様な翼。赤く輝く瞳に、裂けた口からは鋭い牙が生えている。
「なんだ、ただの悪魔のいつもの姿じゃないか。何が真の姿だ。そんなのもう見慣れてるんだよ」
カリナはうんざりして、そのまま悪魔の巨体に魔法剣で斬りかかった。それをベロンがレイピアで受け止める。
「やるではないか、だが所詮貴様ら人間はあのお方の前に膝を折る未来しか残されていない!」
最初の紳士ぶった口調は最早通常の悪魔の荒々しいものになっている。所詮は人間の振りをしていたに過ぎないのだろう。カリナの刀を受け止めた状態でベロンが叫ぶ。
「いいのか? 私にだけ意識を向けていて」
「何だと? ぐああああっ!」
四方から黒騎士の大剣が斬り付けられる。黒い血飛沫を上げながらも悪魔が放った闘気で、身体の軽いカリナと斬り付けた黒騎士達が弾き飛ばされる。
「おのれ、煩わしい連中だ。ならば我の魔法を見せてやろう。受けろ、アビス・ロア!」
悪魔を中心に黒い闇の魔力の衝撃が放たれる。しかしすぐさま体勢を立て直したカリナが剣技を発動させる。
「魔法剣技、魔封剣」
周囲にいた黒騎士達はその衝撃をもろに喰らって吹き飛ばされたが、カリナの方向、前方に向けて放たれた衝撃は全てカリナの魔封剣によって刀へと吸収された。
「な、なにぃ! 我が暗黒の魔法を吸収しただと?」
「魔法剣士は剣と魔法のエキスパートだ。剣に魔法を宿らせて攻撃に利用することができる。この魔封剣はその対極。相手の魔法を吸収して剣に宿らせることができるんだよ。そら、返してやる。アビス・ロア!」
カリナが刀を一閃すると、そこからベロンが放ったものと同じ攻撃魔法が放たれる。その一閃を真正面から喰らって、ベロンは後ろへ吹っ飛んだ。
「ククク……、よもやこれほどの人間が存在するとは。これはあのお方への最高の贄になる」
「まだやる気か。やめておけ、お前に勝ち目はない。さっさとそのお方とやらの情報を吐け」
ウィル・オー・ウィスプの光で能力は半減され、カリナには魔封剣に呼び出した騎士達がまだ揃っている。勝敗は明らかだが、この悪魔にはそれなりの矜持があるのだろう。簡単には情報を吐きそうにない。
「ククク、まだだ、封じていた力を開放する……! あのお方に捧ぐ血路となるためになぁッ!! 我が身を焦がせ、邪焔! ここからが本当の儀式だ! うがあおおおおおおおおおっ!!!」
悪魔の身体についた傷が塞がっていく。そしてその身を黒炎が包み込み、更に闘気と魔力が肥大化していく。
「主様ー、あれは結構まずいかも。多分全ての力を振り絞って何かするみたいだよー」
悪魔の身体から攻撃的な魔力が嵐の様に吹き荒れて来る。伯爵レベルの悪魔の全力の闘気と魔法の攻撃。魔封剣で吸収できるかもわからない。カリナは相手が奥の手でくるのなら仕方ないと思い。その間に簡略化した祝詞を唱え始める。
「牙持つ神狼よ、封より出でよ。
荒ぶる風を裂き、我が敵を喰らえ。
――来い、フェンリル!」
展開した魔法陣からエメラルドグリーンの風を身に纏った輝く神狼フェンリルが姿を現した。
「召喚に馳せ参じました。我が主よ。ふむ、どうやら状況は切迫しているようですな」
「よく来てくれた。再会を懐かしんでいる時間はない。頼んだぞフェンリル。ウィスプは隊員と一緒に後ろに避難していろ」
「はーい、そうしまーす」
フェンリルが遠吠えをすると同時にその姿が輝く鎧へと変化する。そしてその輝く風に包まれたカリナの身体にエメラルドグリーンに輝く神秘的な神狼の姿を模した聖衣が装着された。
「何だ……、その姿は? ククク、まあいい、さあ受けるがいい! 我が最強の奥義を! 滅びは甘美だ……味わうがいい、黒翼葬刃!!!」
悪魔が羽搏かせた翼と、前方に突き出した両掌から高圧縮された闘気と魔力の塊が撃ち出される。生身でまともに喰らえば全身が斬り裂かれるだろう。しかし聖衣を纏ったカリナは左の掌を前方に翳して、その威力を全て受け止めた。
シュウウウウウウゥ……
黒翼葬刃はカリナの掌一つで黒い煙と共に霧散した。それを見たベロンは驚き狼狽え始める。
「な、何だ……?! その力は?! 我が黒翼葬刃を片手で受け止める程の防御性能だと?! そんなものが存在するのか!?」
「知らなかったのか? これが召喚士が己の召喚獣と真に心を通じ合わせたときに身に纏うことを許される聖衣というものだ。さあ、今度は此方の番だな。死ぬなよ。まだ聞きたいことが山ほどあるからな!」
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「フェンリル・ファング・バイト・ブロー!!!」
カッ! ドゴオオオオオオッ!!!
撃ち出された精霊力が雄たけびを上げるフェンリルのオーラとなって駆け抜ける!
「ガハアアアアアアッ!!!」
その衝撃に飲まれたベロンはズタズタに嚙み砕かれ、迷宮の壁に激突すると、頭から墜落した。最早身動きの取れない悪魔に歩み寄り、カリナが話し掛ける。
「勝負あったな。さあ、約束通り答えてもらうぞ。お前達の言うお方とは誰のことだ。それに悪魔にはまだ他の階級があるのなら全て吐いてもらう」
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「ククク、いいだろう……。我を圧倒したのだ。話してやろう、ガハッ! 我等悪魔には表向きの階級である公爵、侯爵に伯爵、子爵、男爵という位が存在する。だが真の下僕である我等には、上から深淵公、魔界侯、災禍伯、獄炎騎士、影霊子爵、堕落男爵がいる。そしてそれぞれが魔界兵団やレッサーデーモンといった使い魔族を使役しているのだ。いや、あのお方のことだ、まだ我も知らない階級があるのやも知れぬ。そして我らを統べるそのお方こそが……、魔、ぐああああっ!」
「なっ?!」
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「クククク、やはり口止めが施されているようだな。気を付けるがいい、召喚士カリナよ。我には勝ったつもりだろうが……我が命は……あのお方への供物……間もなく……闇は満ちる……絶望に……沈むがいい! ……この程度では、我が主の目覚めは止まらぬ……。クククカカカカッ!!!」
「ちっ!」
好き放題喋りながらベロンは燃え尽きた。そこには悪魔が残した素材と黒い結晶があった。カリナが手に取ったそれは通常の悪魔が残す魔法結晶とは色が異なる。まるで闇深い冥界の宝石の様な輝きをしていた。紫色に光る魔法石や魔法結晶とは明らかに異質な輝きである。これは何かの証拠や発見に繋がる可能性があると思い、それらをアイテムボックスに仕舞い込んだ。
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「おーい、大丈夫か?! って、まさかお嬢ちゃん一人で解決しちまったのか?」
幻影が解けて、援軍に駆け付けた高ランクの冒険者達が最下層に辿り着いたのだろう。彼らは輝く鎧に身を包んだ小柄な少女と、その少女が巻き起こした戦いの痕跡を見て驚く。
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これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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