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これが夢だったら。

結ちゃんが死んでしまって幽霊になったのも、裂が結ちゃんのことが見えないのも、そんな2人の様子を俺が見てるのも。



全部全部、夢ならば。



誰も不幸にならないで済む、所謂ハッピーエンドなのに・・・・・・でも世の中そんなに甘くない。残念なことに、全て現実なんだ。

でも今の裂にそれを言って、果たしてどれだけを理解してもらえるか。でも、今の裂がいつも通りじゃないのなんて、一目瞭然だ。



「・・・・・・ごめん」



不意に、そんな声が耳に届く。

その弱々しい声の主は、目の前の裂。さっき伸ばした腕を、再び結ちゃんに向かって伸ばす。案の定突き抜けてしまう手を、何度も何度も結ちゃんに伸ばすのだ。

それが何の謝罪かは、俺にはわからない。そこは俺が入っていけない領域だ。

でも、結ちゃんは裂の意図を理解したらしく、目を大きく見開いた。そしてさっきからずっと目に張っていた薄い膜の正体である大粒の涙がぽろぽろと溢れ始めた。



「・・・・・・私もッ、ごめ・・・・・・し・・・の、原・・・酷いこと、言っ」

「泣くなよ・・・俺も、謝ろうと思って、あの日帰ったら、お前いなくて・・・もう帰ってきてくれないのかと思ってたぁ」



ついさっきまで、双方一方通行だった2人の会話。今はちゃんと成り立ってる。結ちゃんの裂には聞こえないはずの声が聞こえているのだ。裂が結ちゃんの声聞いて、答えてる。

本来当たり前であるべきそれが、酷く奇跡的なやりとりなんだ、あの2人にとっては。
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