ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第二章

―エピローグ―

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「お前はいつもタイミングが悪いんだよ、
 声の主は、弘のよく知った人物のものであった。
 ――詩夏香穂。
 なぜ彼女が、という疑問は、けれど状況を鑑みればあっという間に飲み込めてしまう。
 即ち――
「あら、そうでしょうか」
 けれど弘が結論を出すよりも早く、香穂がそういった。
 弘はどこか安堵したように胸をそっとなで下ろすと、けれど悟られまいと口を開いた。
「なんの用だ」
「わざわざ私が『第三オーナー』と言いましたもの、何となくはわかるでしょう?」
 弘はそっと嘆息すると、「あぁ」と否定混じりの肯定を返した。
「話しておこうと思いまして」
 からかうような、しかしそれでいて真面目くさった物言いの香穂に、弘はただただ嘆息するばかりであった。
 けれど香穂が今から話す内容について、抽象的な事はわかれど、具体的な話はイマイチ検討がつかないのも事実であった。ならば拒否する理由は絡まった感情故のみであり、冷静を装う弘がハッキリとそういった姿勢を表すことはなかった。
「何を」
「この儀式についてです」
 儀式というのはつまり、今弘たちが巻き込まれている事象について、であろう。
「紅葉君。あなたはどこまで、知っていますか?」
 漠然とした答えに弘は、「どこまで、とは?」と聞き返した。
「核心的なこと、などです」
「いや、なにも」
「そう、でしょうね」
 それはつまり、香穂は知っていることであろうか。
 ――何故?
 けれどそんな疑問は胸中にしまい、弘は話に耳を傾ける。
「そもそもこの儀式を引き起こしたのは――菜奈花ちゃんです」
 菜奈花、と聞かれて段々とつま先の方へと向かう視線が、香穂に吸い込まれた。
 見知った名前の女子。それは、度々香穂の口から出てくる、そして弘自身も幾度となく会話を交えた存在であった。
 要するに、知り合いであり、さらに言えばクラスメイト――三年連続の。
「なぜ、アイツが現況になる?」
 知り合いの名前が出てきた以上、追求せざるを得なかったらしく、一瞬の戸惑いこそみせるも、すぐに質問を投げかけた。
「簡単な話です」と香穂、「菜奈花ちゃんが、アルカナを目覚めさせたからです」
「お前じゃ、ないのか?」
「えぇ、違います」
 なら何故詳しい、と言いかけたが、弘はぐっと飲み込む。
「そもそも、この儀式?は何を目的とした儀式で、そもそもアルカナとは何なんだ」
「アルカナは、過去の偉人が残した遺物です。――魔術の」
 と、香穂はその場を行ったり来たりと、ゆっくりと歩き出した。
「そもそも魔術、というのは人に宿る霊的な力――魔力を用いて形成する術、儀式です。即ち、アルカナとは儀式の道具であり、また儀式そのものでもあるわけです」
「儀式には必ず目的があるだろう」
 香穂は、「ええ」と頷いた。
「なら、この儀式は何を目的としている?」
「恐らくですが、主を求めているのかと」
 それは、曖昧な答えであった。
 知っているといいつつも、恐らくときわけで、ならば弘は訝しむような表情を醸し出していた。
「曖昧だな」
「こればっかりは、仕方ありません」と香穂、「けれど、曖昧ではありますけれど、私はこれこそが、この儀式の真髄だと思っています」
 香穂の意見はシンプルなもので、儀式は主――即ちオーナーを決める、そのためのものである、ということらしい。
 けれどならば納得ができない点がいくつかあるというのも、事実であった。
「ならなぜ、オーナーは四人いる」
「四人の候補から、真のオーナーを決めるため、でしょう」
 それはまだ理解できる。
「どうやって、オーナーを絞る。戦うのか?それとも獲得枚数か?」
 香穂は、口を開こうとはしなかった。
「そもそも、何故アイツはアルカナを目覚めさせることができた」
「偶然、菜奈花ちゃんはそういう力があった、そしてそれにアルカナが惹かれた、それだけでしょう」
 それもまだ辛うじて理解できる。
「ならなぜ、アイツをオーナーにしない。そしてなぜ、俺達まで選ばれた。これじゃあまるで――」
「まるで、菜奈花ちゃんの周囲の人間が選ばれていると、そう言いたいのですか?」
 弘は、黙って頷いた。
 香穂は、ぴたりと足と止め、振り返ることなく、言った。
「オーナーを中心として儀式が展開されてますもの、仕方ありません。私たちには偶然素質があった、それだけです」
 理解は出来ても、到底納得の行くことではなかった。
 と、香穂は唐突に話題を戻した。
「先ほどの質問に答えましょう。アルカナの真のオーナーの決め方、それは――アルカナ全てがそれぞれの手に渡った時にわかります」と香穂、「それと、選ばれた理由については、もう一つあります」
「なんだ?」
「真のオーナー、その存在には、特典がつくのです」
「特典……?」
「囁かな――を――」
 その言葉が、弘の脳内で反響した。
「内に秘めたもの、あるのでしょう?」
 こちらを向いてそう言う香穂の表情は、先ほどの真面目くさったものではなく、からかうような、普段彼女がよく見せるような、そういう表情であった。
 弘が何かを言おうと言葉を探していると、けれど香穂は踵を返した。
「そうそう、私は隠密に動かせてもらいます。くれぐれも、菜奈花ちゃんには内緒に、ね」
 語尾に星がつきそうな程には弾けた声色で、軽く振り向いてウィンクを飛ばす香穂に、弘は思わず目を背けた。
「それは構わない。けれど、俺はアルカナは集めない」
 弘は目線を背けたまま、鼓動の高鳴りを押さえつけ、極めて冷静を装っていた。
「どうしてです?」
「オーナーの決め方は分からずとも、枚数は少なければ、成る事はないだろう?」
「恐らく、ですがね」
「なら、俺はそうまでして得たいものを持っているわけでもない」と弘、「それに、こういうのは自分でどうにかするものだ」
「そう……かもしれませんね」
「なら、それはアイツにこそふさわしい」と弘、「元々、この儀式は第一オーナー――桜之宮を試す儀式なんだろう?」
 弘が引っかかっていたこと、それはつまり、この儀式の不可解さであった。
 第一オーナーを優遇しておきながら、さらに三人を用意する。本来、目覚めさせたのなら素質も資格も十分ではないかと。即ち、第一オーナー以外はアルカナが選んだ五枚目ではないのかと。
 香穂は、弘の質問に答えることなく、かわりに微笑んだ。
 それが意味することはつまり、肯定か、或いは否定か。
 ――正直今の弘には分かり兼ねる事であはあったが、けれど何れわかると胸中に押さえ込み、しかし脳内のどこかに留めて置こうと、そっと香穂から目をそらした。
 気がつけば、ガラスが崩れるように、世界を覆っていたズレが崩壊を始めていた。
 天を仰げば、薄暗い空に星が、遮られたものをなくし、生き生きと光を届けてきていた。
 そうしておもむろに香穂の方を見やれば、そっと歩みを進めていた。
 と、香穂はまたおもむろに口を開いた。
「私も、菜奈花ちゃんに、是非とも良き結末を得てもらいたい、そう思っていますよ」
「それは――」
「あぁ、そうそう」と香穂、「ちなみに私は、『第二オーナー』です。今後共よろしくお願いしますね、『第三オーナー』さん」
 その言葉だけを残し、ズレの崩壊とともに、香穂は砕ける結界の破片の奥へと消えていってしまった。
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