渇望のレノ、祝福の朝

雨水林檎

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サクリファイス・レノ

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「思うようにいかないな……」

 その日の晩もレノは研究を進めていた。もう少しで完成するはずだが、まだ完璧な仕上がりとは言えない。過去の知識は使い果たした、あとは足りない何かを見つけなければ。
 けれどこの薬が完成した時、彼はどうするのだろう。記憶が戻ったらグローザはこの町を去ってしまうのではないか? しかし、それも彼の人生、レノにそれを止める権利はない。

「……っ」

 だめだ、情が移り過ぎている。彼に、グローザに一日でも長くここにいて欲しいだなんて。
 そのとき診療所の電話がけたたましい音を出して鳴り始めた。こんな時間に、急患かもしれない。レノが慌てて電話をとれば、低音のどこかで聞き覚えのある声が受話器から響いた。

「ミァン・レノ・シープスか?」
「……そう、ですけどどなたですか」
「私を忘れたか、レノ」
「ヴァイス部長……?」
「レノ、お前と同居している男の件で話がある」

 レノは息を飲む。ソフィア製薬部長、ヴァイス・ジャン・リー。彼の声を忘れるはずはない。

「何の、いまさら何のお話ですか……」
「ふふ、朗報を君に」

 夜の空は雲が厚く、もうすぐ雨が降り出そうとしていた。
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