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3章
入神
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「昨日の事はすまなかった」
開口一番、深雪六花はそう言って店主に向かって手を合わせる。
「お、なんだいきなり。良い事でもあったのか?」
店主も店主で機を逸した様に咽せ返ってそう言うものだからなんとも締まりが無い。
「いや、俺もこう見えて人間だ。だから自分に非があれば認めるし、謝罪もする」
自分に非がある事を認識出来ない場合は_____彼女には何もないのか、男はその声を呑みこむ。
「俺はてっきりお前さんの事を勘違いしていた様だ」
互いがその本心をひた隠しにして、片方は他人の為、もう一方は自分の……いや、二人共他人の為に。
「あと、銃の事はすまなかったな」
六花はそう詫びを入れる。
「あ?」
素っ頓狂な男の声が返って来る。
男は未だその手を休める事なくリズム良く作業を続けていた。
「いや、あの銃俺がその……」
六花にはあの銃を話題に出した時の店主の態度が妙に引っかかっていた。
「ああ、何もお客が気にする事じゃない。あれはただ脆かったから死んだんだ」
アレはお客を殺せなかっただけだよ、そう言う男の表情にはしかし、暗いものが浮かんでいる。
「良いんだ。武器はまた創れるから……」
その言葉とは裏腹に、男の顔は歪み、まるで涙を流している様だった。
「でも、お前何か勘違いしていないか?」
暫く後、六花が涙痕を探した後、そう言った。
「あれ?そうなのか?俺はてっきりお客が……」
違うよ。六花はそう告げる。
「殺したのは確かに俺だ。でも、その銃口が向いたのは別の奴だ」
その後、六花はかいつまんで事の顛末を話した。勿論、六花が巻き込んだ人々の事は話さず、ただ太一との戦闘を解説しただけであったが。
六花は未だこの男を信用出来ないでいた。
「いや~。随分と冒険をしますね、旦那」
驚いた様に男はそう言う。
「普通、銃はそんなに上手く行きませんよ」
滑稽だ、そう言わんばかりに男は肩を震わせる。
「お客の話じゃあ被弾者は銃の上空にいたんだですよね?それに銃口は銃から見て水平方向を見ていた、と」
厳密にはそれは少し傾いていたのだが、状況はさして変わらなかった。
「ああ、言い忘れていた。その銃は握られていたんだ」
何か猛獣の腕の様な毛皮で包まれた物でね。
「そうかい」
なおも愉快そうに店主は笑う。先程の涙と交わってしまいそうな程。
「まあ、確かにマナを使えば視力を上昇させる事は可能だよな……マナはあくまで身体能力を活性化させるものだからな」
出来すぎている。男はそう言う。
「塞翁が馬、だな。数少ないヒントで良くそこに辿りついたね。まあ、当たるも八卦とやらだろうけど」
「何がそんなに面白いんだ」
今度は機を逃すまい、と機を織る様に忙しなく動かしていた手を止めてそう言った。
「面白いだろ。だってあの銃が俺の創ったものじゃなかったらただの暴発だぜ、ホーミング機能付きの拳銃なんて創れる奴なんて俺以外居ない」
「でもお前なんで俺が殺したって分かったんだ?」
「お客は理屈に煩いね。だからさっきも言っただろう、当たるも八卦だって」
企業秘密だ、そう男は言う。しかし、隠し事をしている事は六花にも同じだったので何も追求する事は出来なかった。
「それにお陰でお客の敵について知る事が出来た」
「本当か?」
その衝撃的な店主の告白に六花はそう問い詰める様にして訊いた。
「ああ。生憎俺の店は万年赤字でね。最後に客とあったのは魑魅魍魎の蠢く末法の世界なんだ」
良く薬莢で犯人を特定すると聞くが、その精度と変わりないじゃないか。六花はそう思った。
「でも、アンタがこうして引き籠っている内にそんな銃が存在したのかもしれないぜ?」
「いいや、違う。その銃は座標ではなくマナでソイツを特定した筈だ」
未だ魔物が大手を振って歩く様な地獄にはなっていないだろ、そう言う。
「まあ、確かにな。それで、ソイツについて教えてくれないか?」
「ああ、良いぜ。ソイツの名前は……」
勿体ぶる様に空気を吸い込む。
「……名は?」
「……CMの後で」
全くこの男は、
「だいたいお前平安時代以降ずっと引き籠っていたんじゃないのか!」
ついつい六花のツッコミにも力が入ってしまう。
「?!つ、続きは河原書きの後で!」
「とんだブラックジョークだな!」
時すでに遅し。またしても男は機を逸してしまった様だ。
「何を言うかと思えば……いいか、注文が来ていないだけで俺は引き篭もりじゃないんだよ!」
「毎日、鍛治をして?」
「ウンウン」
「毎日、コンビニとかに行って?」
「ウンウン」
「腹を凌いで挙句に注文は来ない、と」
「ウンウン……うん?」
「まるっきりの引き籠りじゃないか!」
「い、いや違う。ちゃんと毎日家事もした」
「上手い事言えたみたいな顔をするな!全然上手くねえし」
時すでに遅し……重度の引き籠りは開き直ってそう言った。
閑話休題。
「まあ、それは追い追い教えるとして」
六花は何か誤魔化された気がして釈然としないまま話を聞く。
「しっかし、おかしいんだ。何故俺が自分の創った武器を通して念視出来なかった事が」
もう買いたくないな、そう六花は不覚にも思った。
「そんな事が出来るのか?」
「いや、通常時は出来ないよ。魔力が強まる産声と死に際だけだよ」
線香花火みたいなものさ、そう言う男の顔は一転してまた悲しいものと変わっていた。
「……生きてたのかもな」
「?なんて?」
男は小さな声でそう呟いた。
「いや、お客が魔人だったのが原因かなって」
六花はその理由に辟易としながらもすんなりと受け入れた。
「それで、材料は集まりそうかい?」
六花を思う、好ましく思う存在_____六花にはそれが最も自信の無いものだった。
「はい、ここに」
いつの間にか話を聞いていたのだろう、麗らかに答えるグレートヒェンの姿があった。
開口一番、深雪六花はそう言って店主に向かって手を合わせる。
「お、なんだいきなり。良い事でもあったのか?」
店主も店主で機を逸した様に咽せ返ってそう言うものだからなんとも締まりが無い。
「いや、俺もこう見えて人間だ。だから自分に非があれば認めるし、謝罪もする」
自分に非がある事を認識出来ない場合は_____彼女には何もないのか、男はその声を呑みこむ。
「俺はてっきりお前さんの事を勘違いしていた様だ」
互いがその本心をひた隠しにして、片方は他人の為、もう一方は自分の……いや、二人共他人の為に。
「あと、銃の事はすまなかったな」
六花はそう詫びを入れる。
「あ?」
素っ頓狂な男の声が返って来る。
男は未だその手を休める事なくリズム良く作業を続けていた。
「いや、あの銃俺がその……」
六花にはあの銃を話題に出した時の店主の態度が妙に引っかかっていた。
「ああ、何もお客が気にする事じゃない。あれはただ脆かったから死んだんだ」
アレはお客を殺せなかっただけだよ、そう言う男の表情にはしかし、暗いものが浮かんでいる。
「良いんだ。武器はまた創れるから……」
その言葉とは裏腹に、男の顔は歪み、まるで涙を流している様だった。
「でも、お前何か勘違いしていないか?」
暫く後、六花が涙痕を探した後、そう言った。
「あれ?そうなのか?俺はてっきりお客が……」
違うよ。六花はそう告げる。
「殺したのは確かに俺だ。でも、その銃口が向いたのは別の奴だ」
その後、六花はかいつまんで事の顛末を話した。勿論、六花が巻き込んだ人々の事は話さず、ただ太一との戦闘を解説しただけであったが。
六花は未だこの男を信用出来ないでいた。
「いや~。随分と冒険をしますね、旦那」
驚いた様に男はそう言う。
「普通、銃はそんなに上手く行きませんよ」
滑稽だ、そう言わんばかりに男は肩を震わせる。
「お客の話じゃあ被弾者は銃の上空にいたんだですよね?それに銃口は銃から見て水平方向を見ていた、と」
厳密にはそれは少し傾いていたのだが、状況はさして変わらなかった。
「ああ、言い忘れていた。その銃は握られていたんだ」
何か猛獣の腕の様な毛皮で包まれた物でね。
「そうかい」
なおも愉快そうに店主は笑う。先程の涙と交わってしまいそうな程。
「まあ、確かにマナを使えば視力を上昇させる事は可能だよな……マナはあくまで身体能力を活性化させるものだからな」
出来すぎている。男はそう言う。
「塞翁が馬、だな。数少ないヒントで良くそこに辿りついたね。まあ、当たるも八卦とやらだろうけど」
「何がそんなに面白いんだ」
今度は機を逃すまい、と機を織る様に忙しなく動かしていた手を止めてそう言った。
「面白いだろ。だってあの銃が俺の創ったものじゃなかったらただの暴発だぜ、ホーミング機能付きの拳銃なんて創れる奴なんて俺以外居ない」
「でもお前なんで俺が殺したって分かったんだ?」
「お客は理屈に煩いね。だからさっきも言っただろう、当たるも八卦だって」
企業秘密だ、そう男は言う。しかし、隠し事をしている事は六花にも同じだったので何も追求する事は出来なかった。
「それにお陰でお客の敵について知る事が出来た」
「本当か?」
その衝撃的な店主の告白に六花はそう問い詰める様にして訊いた。
「ああ。生憎俺の店は万年赤字でね。最後に客とあったのは魑魅魍魎の蠢く末法の世界なんだ」
良く薬莢で犯人を特定すると聞くが、その精度と変わりないじゃないか。六花はそう思った。
「でも、アンタがこうして引き籠っている内にそんな銃が存在したのかもしれないぜ?」
「いいや、違う。その銃は座標ではなくマナでソイツを特定した筈だ」
未だ魔物が大手を振って歩く様な地獄にはなっていないだろ、そう言う。
「まあ、確かにな。それで、ソイツについて教えてくれないか?」
「ああ、良いぜ。ソイツの名前は……」
勿体ぶる様に空気を吸い込む。
「……名は?」
「……CMの後で」
全くこの男は、
「だいたいお前平安時代以降ずっと引き籠っていたんじゃないのか!」
ついつい六花のツッコミにも力が入ってしまう。
「?!つ、続きは河原書きの後で!」
「とんだブラックジョークだな!」
時すでに遅し。またしても男は機を逸してしまった様だ。
「何を言うかと思えば……いいか、注文が来ていないだけで俺は引き篭もりじゃないんだよ!」
「毎日、鍛治をして?」
「ウンウン」
「毎日、コンビニとかに行って?」
「ウンウン」
「腹を凌いで挙句に注文は来ない、と」
「ウンウン……うん?」
「まるっきりの引き籠りじゃないか!」
「い、いや違う。ちゃんと毎日家事もした」
「上手い事言えたみたいな顔をするな!全然上手くねえし」
時すでに遅し……重度の引き籠りは開き直ってそう言った。
閑話休題。
「まあ、それは追い追い教えるとして」
六花は何か誤魔化された気がして釈然としないまま話を聞く。
「しっかし、おかしいんだ。何故俺が自分の創った武器を通して念視出来なかった事が」
もう買いたくないな、そう六花は不覚にも思った。
「そんな事が出来るのか?」
「いや、通常時は出来ないよ。魔力が強まる産声と死に際だけだよ」
線香花火みたいなものさ、そう言う男の顔は一転してまた悲しいものと変わっていた。
「……生きてたのかもな」
「?なんて?」
男は小さな声でそう呟いた。
「いや、お客が魔人だったのが原因かなって」
六花はその理由に辟易としながらもすんなりと受け入れた。
「それで、材料は集まりそうかい?」
六花を思う、好ましく思う存在_____六花にはそれが最も自信の無いものだった。
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