53 / 69
近未来編
46.ブレイクタイム
しおりを挟む
敵の追っ手を完全に撒いて、見事辿り着いたのはラニング博士の“師匠”の研究所だった。
とは言ってもその師匠は既に亡くなっているし、個人の別荘兼研究所ということで、潮の香りが漂う程海の近くにあった。
1晩を明かした一行は、テラスで優雅に朝食を取っていた。
「いやーっ、最高だね! 後で海いこっと!」
コバートは初めて見た海に興奮していた。
「たかが海如きでよくもまあ、そんなに喜べるものね。それより博士、例のアンドロイドはどんな具合?」
「うむ、修理は順調だ。徹夜した甲斐もあって細かい所もそこそこ治った。あとは部品の結合とソースコードの修正ぐらいだ」
「……まあよくはわからないけど、頑張って頂戴」
アリータは優雅に紅茶を啜っている。
それは面の割れていないシエロが近くの店で買ってきた物の一つだった。
片や早々に食べ終わった怜央とテミスは、持ち運びのできる小さなテレビのニュースに目を通していた。
「やっぱり、昨夜の戦いは一大ニュースとなって報道されてるわね」
「そりゃ、あれだけ暴れればそうなるだろうな……」
怜央やコバート・アリータ・ラニング博士は顔写真付きで、テミスはフードをした状態の写真が載っていた。
テロップにはテロリストと書いてあり、要するに指名手配だ。
「でも昨日のあれ、あの判断が幸を奏したってとこよね」
「昨日のあれ?」
「車を変えたことよ」
「あー、あれね。我ながら英断だった」
怜央は昨晩のことを思い返した。
◆◇◆
「――ということで、ここなら直ぐには見つからないだろう。それに一世代前のだが、修理には十分な施設もある。どうだ?」
「……分かりました。そこに向かいましょう」
怜央は目的地を定めると、運転するテミスの横から顔を出した。
「テミス、目的地が決まった。これから言うルートで走ってくれ」
「わかったわ――」
そうしてハイウェイに乗り、トンネルに差し掛かった時更なる指示を加えた。
「よし、ここだ。ここなら人目に付きにくい。テミス、先に出てカメラの類があるか見てくれ」
「あったらどうするの?」
「壊してくれると助かる」
そうして映像にあった通りの行動をしたあと、怜央の指示に従って、テミスはバスを召喚した。
「皆、車を乗り換えるぞ」
「ええ? なんでそんなことするのよ面倒くさい」
「これも逃げるためだって、追っ手の居ない今がチャンスなんだ。急いでくれ」
アリータは肩を竦めながら嫌々従った。
他の一同の乗り換えが完了すると、装甲車はテミスに仕舞わせた。
そしてバスの運転はまたもやテミス。
自動運転機能があるにもかかわらず、酔狂でハンドルを握ったたのだ。
このようにして、追っ手からうまく逃れたのだった。
◆◇◆
「まあ、あれも完璧じゃない。他の通行車両も幾つか通ったし、トンネル内で突然現れたバスに気付かれたら結局バレる。ただまあ、修理の時間くらいなら稼げると思う」
「……修理が終わったら彼女はどうするの?」
「――ああ、そこなんだよなあ……」
怜央はしばし沈黙し、この世界に来てからの出来事を振り返った。
「成り行きで拾って来ちまったとはいえ、今更捨てるなんてことは絶対に考えられない。博士には直してもらって連れて帰る――かな」
「そしてギルドに?」
「そういうこと。――まあ、本人がいいって言ってくれるならだけど」
「博士はどうするの? 一緒に連れて帰るの?」
「ワシはアテがある。心配無用だ」
「――アテ? どんなですか?」
「ワシは……海外に亡命しようと思う。彼女の機密データは立派な交渉材料だ。幸い、それを欲しがる国は沢山あるしな」
「……なんか裏切り者みたいでいい感じはしませんが、私が口を挟むことでもない……ですかね。彼女を助けて貰ってる恩もありますし私も手伝いましょう」
「おお、それじゃ1つ頼み事が」
「何です?」
「アンドロイドに君から口利きして欲しい。ワシをそこまで送ってくれとね」
「送るって、そんな機能あるんですか?」
「直しててわかったのだが、彼女にはつい最近実験の成功が発表された反重力装置が着いていたんだ。まさか実用段階まで漕ぎ着けてるとは思はなかったが、あれがあれば海なんて一瞬だ」
「……それ、博士が頼んでもやってくれると思いますよ? 直した張本人ですし」
博士は怜央に手招きし、小声で話した。
「ログを解析してわかったのだが、実は彼女、この前まで持主が登録されてない状態だったらしい。だがここに至るまでの間に、君が持主ということになっていたんだ」
「はぁ……? 自分は特に何もしてませんけど、その持主になると何かあるんですか?」
「基本アンドロイドは持主の言う事しか聞かん。彼女のシステム全てを解明した訳じゃないから絶対とは言わんが……他の機体と同じ可能性は高い」
怜央は肩を竦めると、アンドロイドの様子を見たいと申し出た。
とは言ってもその師匠は既に亡くなっているし、個人の別荘兼研究所ということで、潮の香りが漂う程海の近くにあった。
1晩を明かした一行は、テラスで優雅に朝食を取っていた。
「いやーっ、最高だね! 後で海いこっと!」
コバートは初めて見た海に興奮していた。
「たかが海如きでよくもまあ、そんなに喜べるものね。それより博士、例のアンドロイドはどんな具合?」
「うむ、修理は順調だ。徹夜した甲斐もあって細かい所もそこそこ治った。あとは部品の結合とソースコードの修正ぐらいだ」
「……まあよくはわからないけど、頑張って頂戴」
アリータは優雅に紅茶を啜っている。
それは面の割れていないシエロが近くの店で買ってきた物の一つだった。
片や早々に食べ終わった怜央とテミスは、持ち運びのできる小さなテレビのニュースに目を通していた。
「やっぱり、昨夜の戦いは一大ニュースとなって報道されてるわね」
「そりゃ、あれだけ暴れればそうなるだろうな……」
怜央やコバート・アリータ・ラニング博士は顔写真付きで、テミスはフードをした状態の写真が載っていた。
テロップにはテロリストと書いてあり、要するに指名手配だ。
「でも昨日のあれ、あの判断が幸を奏したってとこよね」
「昨日のあれ?」
「車を変えたことよ」
「あー、あれね。我ながら英断だった」
怜央は昨晩のことを思い返した。
◆◇◆
「――ということで、ここなら直ぐには見つからないだろう。それに一世代前のだが、修理には十分な施設もある。どうだ?」
「……分かりました。そこに向かいましょう」
怜央は目的地を定めると、運転するテミスの横から顔を出した。
「テミス、目的地が決まった。これから言うルートで走ってくれ」
「わかったわ――」
そうしてハイウェイに乗り、トンネルに差し掛かった時更なる指示を加えた。
「よし、ここだ。ここなら人目に付きにくい。テミス、先に出てカメラの類があるか見てくれ」
「あったらどうするの?」
「壊してくれると助かる」
そうして映像にあった通りの行動をしたあと、怜央の指示に従って、テミスはバスを召喚した。
「皆、車を乗り換えるぞ」
「ええ? なんでそんなことするのよ面倒くさい」
「これも逃げるためだって、追っ手の居ない今がチャンスなんだ。急いでくれ」
アリータは肩を竦めながら嫌々従った。
他の一同の乗り換えが完了すると、装甲車はテミスに仕舞わせた。
そしてバスの運転はまたもやテミス。
自動運転機能があるにもかかわらず、酔狂でハンドルを握ったたのだ。
このようにして、追っ手からうまく逃れたのだった。
◆◇◆
「まあ、あれも完璧じゃない。他の通行車両も幾つか通ったし、トンネル内で突然現れたバスに気付かれたら結局バレる。ただまあ、修理の時間くらいなら稼げると思う」
「……修理が終わったら彼女はどうするの?」
「――ああ、そこなんだよなあ……」
怜央はしばし沈黙し、この世界に来てからの出来事を振り返った。
「成り行きで拾って来ちまったとはいえ、今更捨てるなんてことは絶対に考えられない。博士には直してもらって連れて帰る――かな」
「そしてギルドに?」
「そういうこと。――まあ、本人がいいって言ってくれるならだけど」
「博士はどうするの? 一緒に連れて帰るの?」
「ワシはアテがある。心配無用だ」
「――アテ? どんなですか?」
「ワシは……海外に亡命しようと思う。彼女の機密データは立派な交渉材料だ。幸い、それを欲しがる国は沢山あるしな」
「……なんか裏切り者みたいでいい感じはしませんが、私が口を挟むことでもない……ですかね。彼女を助けて貰ってる恩もありますし私も手伝いましょう」
「おお、それじゃ1つ頼み事が」
「何です?」
「アンドロイドに君から口利きして欲しい。ワシをそこまで送ってくれとね」
「送るって、そんな機能あるんですか?」
「直しててわかったのだが、彼女にはつい最近実験の成功が発表された反重力装置が着いていたんだ。まさか実用段階まで漕ぎ着けてるとは思はなかったが、あれがあれば海なんて一瞬だ」
「……それ、博士が頼んでもやってくれると思いますよ? 直した張本人ですし」
博士は怜央に手招きし、小声で話した。
「ログを解析してわかったのだが、実は彼女、この前まで持主が登録されてない状態だったらしい。だがここに至るまでの間に、君が持主ということになっていたんだ」
「はぁ……? 自分は特に何もしてませんけど、その持主になると何かあるんですか?」
「基本アンドロイドは持主の言う事しか聞かん。彼女のシステム全てを解明した訳じゃないから絶対とは言わんが……他の機体と同じ可能性は高い」
怜央は肩を竦めると、アンドロイドの様子を見たいと申し出た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます
夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった!
超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。
前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる