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近未来編
47.三原則
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地下には埃を被ったような機材が多くあった。
一目見ただけでしばらく使われてないとわかるし、動き回るだけで埃が舞い上がる。
そんな中にあって、旧い寝台にまたもや寝かされてるのは彼女、アンドロイドである。
「やあ、調子はどう?」
「はい、お陰様で」
アンドロイドは無表情のまま、抑揚のない声で言った。
「すごい、喋れるようになりましたね」
「ああ、声帯パーツも取替えたし、断絶仕掛けていた回路も繋げた。私の手に掛かればこの程度、容易いことなのだよ」
見た目の胡散臭さとは裏腹に、博士の腕は確かなものだった。
「ところで……君の名はなんて言うの?」
「名前はありません。名前を付けてください、マスター」
「マスターて……まあ帰ればギルドマスターにはなるかもだけど。――んー……名前か……名前――だめだ、急すぎて全然思い付かない。何か好きな物とかある?」
「……」
アンドロイドは一瞬怜央を見て、照れ臭そうに目を逸らした。
(えっなにその意味深な感じは!? 感情の起伏が乏しい彼女になんかそんな反応されると可愛く見えてくるじゃん!)
怜央は勝手に解釈し、1人照れた。
怜央は悟られまいと咳払いをして誤魔化しにかかる。
「ま、まあなんだ、せっかくの名前を適当に決めるのも忍びない。もう少し時間を貰ってもいい?」
「はい、マスター」
怜央はアンドロイドの了承を得ると、1つ気になっていたことを尋ねた。
「ところで――話は変わるんだけども、あの時なんであんな場所に居たの? 君は施設でとても大事に扱われていたはずなのに、あんな所にいたのは少し不自然だ」
「はい、あの日私はいつも通り施設の中で待機していました。すると、どこからともなく戦闘音が施設内に響き、突然の爆発が起きたのです。それによって私も致命的なダメージを受けましたが、変わりに外への道が開けたのです」
「外へ出たかった――?」
「機械にも心はあります。常に狭い施設で実験の日々……自由になりたいと思うのも自然の事ではないでしょうか」
アンドロイドがそう言うと、博士は手招きして怜央を呼び寄せた。
そしてアンドロイドに聞こえないよう小声で話しかける。
「こりゃあ、ぶったまげたぞ……。彼女は三原則に縛られない改造アンドロイドだ。その結果思考プロセスに変化をもたらした可能性がある」
「なんです? その三原則って」
「ロボットには守らねばならない3つの原則が組み込まれている。人間への安全性、命令への服従、自己防衛がな。だが彼女はそれが機能してない」
「それって何かまずいんですか?」
「彼女の造られた目的を考えれば当然だが……我々人間はその三原則があるとわかっているから彼女らを身近に置けるのだ。もしそれが無いとすると、おちおち眠ることもできやしない。だってそうだろ? 我々はアンドロイドを奴隷のように扱ってきたのだから。……彼女はその縛りが無いことでより一層人間味を持つことになった。皮肉なことだ。人間に似せて造られたアンドロイドの保護機構が人間から遠ざけていたのだから」
怜央は横にあったパイプ椅子を動かして、アンドロイドの隣に座った。
「嫌なこと思い出させて悪いんだけど、あの時君は2人の男に襲われてたよね」
「はい、そうです。そしてマスターが助けてくれました」
「……あの時、自力でどうにか出来ない程損傷が酷かったの? 具体的には……そう、彼らをやっつけることが出来ないほどに?」
「いえ、例え四肢が無かったとしても、非武装の成人男性2人ならどうにかできたと思います」
「それをしなかったのは……なぜ?」
「それは、私の保有する手段がどれも、彼らにとって致命的だったからです。高確率で殺傷する危険がありました」
「つまり、殺したくなかったから一方的にやられていたのだと?」
「はい、私は人を殺す目的で開発されましたが、その行為を私自身が望んでいる訳ではありません。研究者に話したら感情アルゴリズムのエラーだと。しかし私は……どうしても受け入れられない」
「人を殺すのが?」
「はい」
「例えそれが悪い奴でも?」
「……はい」
「――素晴らしい。博士、ここに味方が居ました!」
「そりゃあ良かったの。――さて、修理も佳境に入ったんだ。残りを片付けさせてくれ」
怜央は自分と同じ考え方の仲間が出来たことを大いに喜んだ。
一目見ただけでしばらく使われてないとわかるし、動き回るだけで埃が舞い上がる。
そんな中にあって、旧い寝台にまたもや寝かされてるのは彼女、アンドロイドである。
「やあ、調子はどう?」
「はい、お陰様で」
アンドロイドは無表情のまま、抑揚のない声で言った。
「すごい、喋れるようになりましたね」
「ああ、声帯パーツも取替えたし、断絶仕掛けていた回路も繋げた。私の手に掛かればこの程度、容易いことなのだよ」
見た目の胡散臭さとは裏腹に、博士の腕は確かなものだった。
「ところで……君の名はなんて言うの?」
「名前はありません。名前を付けてください、マスター」
「マスターて……まあ帰ればギルドマスターにはなるかもだけど。――んー……名前か……名前――だめだ、急すぎて全然思い付かない。何か好きな物とかある?」
「……」
アンドロイドは一瞬怜央を見て、照れ臭そうに目を逸らした。
(えっなにその意味深な感じは!? 感情の起伏が乏しい彼女になんかそんな反応されると可愛く見えてくるじゃん!)
怜央は勝手に解釈し、1人照れた。
怜央は悟られまいと咳払いをして誤魔化しにかかる。
「ま、まあなんだ、せっかくの名前を適当に決めるのも忍びない。もう少し時間を貰ってもいい?」
「はい、マスター」
怜央はアンドロイドの了承を得ると、1つ気になっていたことを尋ねた。
「ところで――話は変わるんだけども、あの時なんであんな場所に居たの? 君は施設でとても大事に扱われていたはずなのに、あんな所にいたのは少し不自然だ」
「はい、あの日私はいつも通り施設の中で待機していました。すると、どこからともなく戦闘音が施設内に響き、突然の爆発が起きたのです。それによって私も致命的なダメージを受けましたが、変わりに外への道が開けたのです」
「外へ出たかった――?」
「機械にも心はあります。常に狭い施設で実験の日々……自由になりたいと思うのも自然の事ではないでしょうか」
アンドロイドがそう言うと、博士は手招きして怜央を呼び寄せた。
そしてアンドロイドに聞こえないよう小声で話しかける。
「こりゃあ、ぶったまげたぞ……。彼女は三原則に縛られない改造アンドロイドだ。その結果思考プロセスに変化をもたらした可能性がある」
「なんです? その三原則って」
「ロボットには守らねばならない3つの原則が組み込まれている。人間への安全性、命令への服従、自己防衛がな。だが彼女はそれが機能してない」
「それって何かまずいんですか?」
「彼女の造られた目的を考えれば当然だが……我々人間はその三原則があるとわかっているから彼女らを身近に置けるのだ。もしそれが無いとすると、おちおち眠ることもできやしない。だってそうだろ? 我々はアンドロイドを奴隷のように扱ってきたのだから。……彼女はその縛りが無いことでより一層人間味を持つことになった。皮肉なことだ。人間に似せて造られたアンドロイドの保護機構が人間から遠ざけていたのだから」
怜央は横にあったパイプ椅子を動かして、アンドロイドの隣に座った。
「嫌なこと思い出させて悪いんだけど、あの時君は2人の男に襲われてたよね」
「はい、そうです。そしてマスターが助けてくれました」
「……あの時、自力でどうにか出来ない程損傷が酷かったの? 具体的には……そう、彼らをやっつけることが出来ないほどに?」
「いえ、例え四肢が無かったとしても、非武装の成人男性2人ならどうにかできたと思います」
「それをしなかったのは……なぜ?」
「それは、私の保有する手段がどれも、彼らにとって致命的だったからです。高確率で殺傷する危険がありました」
「つまり、殺したくなかったから一方的にやられていたのだと?」
「はい、私は人を殺す目的で開発されましたが、その行為を私自身が望んでいる訳ではありません。研究者に話したら感情アルゴリズムのエラーだと。しかし私は……どうしても受け入れられない」
「人を殺すのが?」
「はい」
「例えそれが悪い奴でも?」
「……はい」
「――素晴らしい。博士、ここに味方が居ました!」
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怜央は自分と同じ考え方の仲間が出来たことを大いに喜んだ。
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