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1章
第2話 宇宙人との再会
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再び机を挟む志穂とベム。2人の間に気まずい静寂が横たわる。
「早く石を出してくれないか? そうすれば私も今すぐここから消えよう」
「石なんて拾ってない……」
「バックに入っていないのか?」
「だからないってそんなの……」
呆れた様な声を上げて志穂は大学用のバックを開き、中身のテキスト等を取り出していく。
「ほら!」
空になったバックをひっくり返して何もないことを証明するように上下に振る。すると、ゴトリと音を立ててバックの中から球体が床に落下する。
(!?)
自然石にしては不自然なまでに綺麗な円形をした、野球ボール程の大きさの真っ白な球体が床を転がり、志穂は反射的に目を向ける。
「それだ。やはり持っていたのだな」
驚愕する志穂とは対象的にベムは事もなげに球体を拾い上げると、確認するようにかぎ爪のような指先でコツコツと叩く。
「確かに。ご協力感謝する」
そう言って彼は窓を開け、ベランダの柵に登り跳躍して彼女の視界から消える。
志穂は空のバックを持ったまま、開けた窓の外、既に雨の止んだ景色を呆然と眺めていた。
「は! バイト!」
ハッとした彼女は慌しくバイトの準備を始めた。明日、またベムと出会うことになるとは夢にも思わないまま。
宇宙人を自称する化物とのファーストコンタクトから一日たった早朝。志穂は腕を組んで壁を睨みつけていた。彼女の視線の先には昨日の出来事が夢じゃないと物語るように、宇宙人の突き刺したナイフの刃がはっきりと残っている。志穂はキッチンから持ってきた布巾越しにナイフをつまむ。
「ふん! ふ~ん……! くっ……!」
固く根を張った雑草でも引き抜くように足を開き、力をこめ引っ張るがナイフはピクリとも動かない。
「くっそぉ~……」
痛くなったのかナイフから離した手を振りながら恨めしそうにナイフを睨みつける。
「ね~……これってあたしのせいってことになるの? マジで最悪なんだけど……」
壁についた傷から、高確率でやってくるであろう敷金返還不可の未来を想像して陰鬱な気分となる。
「はあ……大学行かないと……」
引き抜くのを諦め、バックを肩にかけると志穂は大学へと向かった。
「ねえ真奈……」
「なに?」
「宇宙人ってさ……どう思う?」
「はあ?」
1限と2限が終了したお昼時、大学の学食内で志穂の問いかけにうどんを食べる手を止め、声を漏らす女性。黒目がちで明るい茶髪の長い髪にパーマを掛け、セーターとロングスカートに身を包んだ彼女の名前は小清水真奈。志穂の友人である。
「……急になに? 宇宙人はいるかどうかって話?」
「いや……まあ……そうっちゃそうだけど……そうじゃないと言えばそうじゃないというか……」
仮に前日の出来事を包み隠さず話したとしても頭を心配されるだけだと考え、歯切れの悪い曖昧な言葉を並べる志穂。当然伝わる訳もなく真奈は疑問符を浮かべている。
「……よくわからないけど、宇宙人なんて適当なSNS覗けばいくらでも見られると思うよ?」
「はは、確かに。言えてる」
「……なんか嫌なことでもあった?」
「え? な、なんで……」
「ほら、悩みとか嫌なことがあっても宇宙の壮大さを考えるとちっぽけに思える……みたいな感じになってるのかなって……」
「ああ~……いや~……そうではない……。そうではない……のかな?」
ハッキリと否定しない志穂を真奈は疑うような目でじっと見つめる。その視線にいたたまれなくなり志穂が目を逸らすと真奈も凝視をやめ、口を開く。
「……悩みとかじゃなかったら疲れてるんじゃない? 昨日も忘れ物したって言ってたじゃん」
「そ、そうかな? そう見える? 自分では言うほどじゃないと思ってるんだけど……」
そう誤魔化して水筒に口をつける志穂。
「そうなの? ……じゃあなんか変な奴に絡まれたとか?」
当たらずとも遠からずな真奈の言葉に志穂は含んでいた水を吹き出しそうになるがなんとか持ち堪える。しかし、すんなり喉を通らなかった水分によって咽せてしまう。
「え!? 当たってたの!?」
「ま、まあ……大体は……」
「うそ~……ちょ、大丈夫だった? 変なことされたりしてない?」
「うん、大丈夫。すれ違っただけだから。でもすれ違い様に宇宙人がどうとか特殊な石がどうとかブツブツ言ってて、夜だったしなんか怖くて……」
「は~そりゃ確かに大分頭がアレな奴だね~」
「うん……そうなの……」
咄嗟に思いついた脚色を加え、前日の出来事を話す志穂。その説明に納得してしまい、頷きながら腕を組む友人に志穂は若干の後ろめたさを覚える。
「……そーいえばこの前駅で人だかりがあってさー。なんかイベントでもやってるのかなーって思ってのぞいてみたら宗教の勧誘でね。その内容が宇宙がどうたらとか言ってたような気が……」
「え、うそ。そんなことあったの?」
「うん。もしかして志穂がすれ違った奴もそれ関連なんじやない?」
「あ~……そうなのかな……?」
適当な脚色にある程度の整合性を持たせる情報に、志穂はあの化け物が宗教勧誘の一環などとはとても考えられないと内心思いつつも話を合わせるように腕を組む。
「……な~んか前から思ってたんだけど、この辺変な勧誘とか多くない?」
「あ~分かる。大学の掲示板にも貼ってあるよね。学内で宗教とか詐欺の勧誘が頻発してますって」
真奈の言葉に同意し、補足するように志穂が情報を付け足す。
「そう! それで思い出したんだけど! サークルの先輩がこの前大学で料理教室に誘われたみたいなの!」
「料理教室?」
「そ、なんかよくわからないどこだかの専門学生の人達からビラもらってさ。けっこーしつこく勧誘されたみたい。何人かで囲んで『はい』って言うまで帰さないみたいな雰囲気だったって」
「え~なにそれ怖~……。先輩どうやって切り抜けたの?」
「偶然友達から電話かかってきたらしくて、『電話出ないといけないんで~』って言って逃げてきたらしい。その後学生センターに確認したらそんな学校存在しないって!」
「げえ~! なにそれ~! 絶対料理教室じゃないよ!」
「そうでしょー! もしそのまま行ってたら絶対ヤバかった奴だよね~!」
真奈の話の衝撃に食べる手が止まる志穂。それと対照的に、話がひと段落した真奈はうどんをひと啜りし、咀嚼して飲み込むと口を開く。
「だから志穂も気をつけた方がいいよ。疲れてる時って判断力落ちるし、普段なら一発で見抜けるような嘘も見抜けなくなるかも……」
「真奈……」
真剣な表情でそう言う真奈に志穂の心がざわつき、目を伏せる。自分を案じてくれている友人をその場しのぎの適当な嘘で騙してしまった後ろめたさと真摯に向き合ってくれる嬉しさが一つの心に同居してしまっているからだ。そんな心中で志穂が導き出した結論は、友人へお礼を言うことであった。残ったおにぎりを口に放り込み、咀嚼して飲み込むと口を開く。
「ありがとう真奈。あたし――」
顔を上げて友人に感謝を伝えようとした瞬間だった。
「食事は終わったか?」
「ぶわあああああああああああ!?!?!?!?」
上げた志穂の視線がいつの間にか真奈の後ろに立っていた筋骨隆々の黒い怪物、前日のベムと名乗った宇宙人を捉えていた。あまりの衝撃に彼女は叫び声を上げて椅子から転げ落ち、周囲の視線が一斉に志穂達へと集まる。
「でっか~……なにあの人? ボディビルダー? 身長何センチ?」
「てか顔怖くない? 絶対カタギじゃないよあれ……」
耳に飛び込んできた志穂の叫びと目に映ったベムの姿に食堂内がざわつき始める。
「どうしたの志穂!? 大丈夫!?」
「ど、ど、どうし、どうしたもこうしたも! 後ろ! 後ろのでかいやつ! 後ろにいるでかいやつが!」
「後ろ? うわ!?」
必死に自分の背後を指差す志穂に真奈が振り返ると、ベムの威圧感ある巨体が現れ声を上げて身体をのけぞらせる。
「そ、そいつ! き、昨日! 昨日もいきな、いきなり! いきなり出てきて!」
「……知り合いなの?」
「……え?」
映画でもイベントでもない日常に突如現れた怪物の姿を見たにしては冷静な口調でそう答えた真奈に志穂は呆けた声を上げてしまう。
「あ、どうも。畑野さんのお友達ですか? 私、こういうものです」
呆けた志穂に目もくれず、怪物はどこから取り出したのか分からない名刺を真奈に差し出す。
「安全警備社……宇人宏さん……。警備会社の人?」
「ええ、畑野さんとは昨日の夜間警備中に出会いまして、話していく内に意気投合したんですよ。話の中で私が大学見学をしたいと言ったら畑野さんが来てみなよと仰っていたのでお言葉に甘えさせて貰いまして……」
「あ~そういうことだったんですか~」
異形の存在に疑問も持たず、すらすらと並べ立てられる彼の嘘を受け入れていく真奈。
「え、え、え、ええ……? ええ??????」
そんな光景に志穂は困惑の声を上げ、疑問符をいくつも浮かべるが、『この異常事態の原因が今友人と何食わぬ顔で談笑している化け物の仕業』という思考の浮上とともに泡となり消える。
それと同時に怒りにも似た感情が湧き上がり脱力した身体を張り詰させ、立ち上がらせる。
「ちょっとあんた! 真奈になにしたの!?」
険しい顔つきでそう言う志穂に真奈とベムの視線が彼女へ向けられる。
「……ああ、すいません。話し込んでしまって。少しですが大学を案内してくれる予定でしたね。では行きましょうか」
「はあ!? 誰がいつそんなこと言ったのよ!?」
自分が望んでいた答えとは全く異なる、それでいて要領を得ない返答が志穂の声に苛立ちの色を濃くさせる。しかし、ベムはまるで動じる事なく志穂に近づき、その手で彼女を真奈から隠すようにして話始める。
「いえいえ、昨日言っていたじゃないですか。『昼休みの余った時間だけなら案内する』と……」
「言ってねえよ! ウソつくのも大概に……!」
志穂がそこまで言ったところで怪物はいつのまにか手にあった500円玉を畳むように折り曲げる。一連の光景に、志穂は言葉を詰まらせる。
「言いましたよね?」
「あ……うん……言ったよーな気がするわ……昨日……」
「では行きましょう」
ベムが志穂の肩を掴むと食堂の外へ歩き出す。志穂が振り返ると、真奈が笑みを浮かべて小さく手を振る。志穂は引き攣った笑みを浮かべながら小さく手を振りかえしてその場を後にした。
直後、真奈のスマホが着信を告げるバイブレーションを起こす。
「はいもしもし……。あ、先輩? はい……はい……大学の外ですか? わかりました……今から行きます」
短い会話を終え、真奈が電話を切ると空いた食器を片付けて呼び出された先へ向かうのだった。
「早く石を出してくれないか? そうすれば私も今すぐここから消えよう」
「石なんて拾ってない……」
「バックに入っていないのか?」
「だからないってそんなの……」
呆れた様な声を上げて志穂は大学用のバックを開き、中身のテキスト等を取り出していく。
「ほら!」
空になったバックをひっくり返して何もないことを証明するように上下に振る。すると、ゴトリと音を立ててバックの中から球体が床に落下する。
(!?)
自然石にしては不自然なまでに綺麗な円形をした、野球ボール程の大きさの真っ白な球体が床を転がり、志穂は反射的に目を向ける。
「それだ。やはり持っていたのだな」
驚愕する志穂とは対象的にベムは事もなげに球体を拾い上げると、確認するようにかぎ爪のような指先でコツコツと叩く。
「確かに。ご協力感謝する」
そう言って彼は窓を開け、ベランダの柵に登り跳躍して彼女の視界から消える。
志穂は空のバックを持ったまま、開けた窓の外、既に雨の止んだ景色を呆然と眺めていた。
「は! バイト!」
ハッとした彼女は慌しくバイトの準備を始めた。明日、またベムと出会うことになるとは夢にも思わないまま。
宇宙人を自称する化物とのファーストコンタクトから一日たった早朝。志穂は腕を組んで壁を睨みつけていた。彼女の視線の先には昨日の出来事が夢じゃないと物語るように、宇宙人の突き刺したナイフの刃がはっきりと残っている。志穂はキッチンから持ってきた布巾越しにナイフをつまむ。
「ふん! ふ~ん……! くっ……!」
固く根を張った雑草でも引き抜くように足を開き、力をこめ引っ張るがナイフはピクリとも動かない。
「くっそぉ~……」
痛くなったのかナイフから離した手を振りながら恨めしそうにナイフを睨みつける。
「ね~……これってあたしのせいってことになるの? マジで最悪なんだけど……」
壁についた傷から、高確率でやってくるであろう敷金返還不可の未来を想像して陰鬱な気分となる。
「はあ……大学行かないと……」
引き抜くのを諦め、バックを肩にかけると志穂は大学へと向かった。
「ねえ真奈……」
「なに?」
「宇宙人ってさ……どう思う?」
「はあ?」
1限と2限が終了したお昼時、大学の学食内で志穂の問いかけにうどんを食べる手を止め、声を漏らす女性。黒目がちで明るい茶髪の長い髪にパーマを掛け、セーターとロングスカートに身を包んだ彼女の名前は小清水真奈。志穂の友人である。
「……急になに? 宇宙人はいるかどうかって話?」
「いや……まあ……そうっちゃそうだけど……そうじゃないと言えばそうじゃないというか……」
仮に前日の出来事を包み隠さず話したとしても頭を心配されるだけだと考え、歯切れの悪い曖昧な言葉を並べる志穂。当然伝わる訳もなく真奈は疑問符を浮かべている。
「……よくわからないけど、宇宙人なんて適当なSNS覗けばいくらでも見られると思うよ?」
「はは、確かに。言えてる」
「……なんか嫌なことでもあった?」
「え? な、なんで……」
「ほら、悩みとか嫌なことがあっても宇宙の壮大さを考えるとちっぽけに思える……みたいな感じになってるのかなって……」
「ああ~……いや~……そうではない……。そうではない……のかな?」
ハッキリと否定しない志穂を真奈は疑うような目でじっと見つめる。その視線にいたたまれなくなり志穂が目を逸らすと真奈も凝視をやめ、口を開く。
「……悩みとかじゃなかったら疲れてるんじゃない? 昨日も忘れ物したって言ってたじゃん」
「そ、そうかな? そう見える? 自分では言うほどじゃないと思ってるんだけど……」
そう誤魔化して水筒に口をつける志穂。
「そうなの? ……じゃあなんか変な奴に絡まれたとか?」
当たらずとも遠からずな真奈の言葉に志穂は含んでいた水を吹き出しそうになるがなんとか持ち堪える。しかし、すんなり喉を通らなかった水分によって咽せてしまう。
「え!? 当たってたの!?」
「ま、まあ……大体は……」
「うそ~……ちょ、大丈夫だった? 変なことされたりしてない?」
「うん、大丈夫。すれ違っただけだから。でもすれ違い様に宇宙人がどうとか特殊な石がどうとかブツブツ言ってて、夜だったしなんか怖くて……」
「は~そりゃ確かに大分頭がアレな奴だね~」
「うん……そうなの……」
咄嗟に思いついた脚色を加え、前日の出来事を話す志穂。その説明に納得してしまい、頷きながら腕を組む友人に志穂は若干の後ろめたさを覚える。
「……そーいえばこの前駅で人だかりがあってさー。なんかイベントでもやってるのかなーって思ってのぞいてみたら宗教の勧誘でね。その内容が宇宙がどうたらとか言ってたような気が……」
「え、うそ。そんなことあったの?」
「うん。もしかして志穂がすれ違った奴もそれ関連なんじやない?」
「あ~……そうなのかな……?」
適当な脚色にある程度の整合性を持たせる情報に、志穂はあの化け物が宗教勧誘の一環などとはとても考えられないと内心思いつつも話を合わせるように腕を組む。
「……な~んか前から思ってたんだけど、この辺変な勧誘とか多くない?」
「あ~分かる。大学の掲示板にも貼ってあるよね。学内で宗教とか詐欺の勧誘が頻発してますって」
真奈の言葉に同意し、補足するように志穂が情報を付け足す。
「そう! それで思い出したんだけど! サークルの先輩がこの前大学で料理教室に誘われたみたいなの!」
「料理教室?」
「そ、なんかよくわからないどこだかの専門学生の人達からビラもらってさ。けっこーしつこく勧誘されたみたい。何人かで囲んで『はい』って言うまで帰さないみたいな雰囲気だったって」
「え~なにそれ怖~……。先輩どうやって切り抜けたの?」
「偶然友達から電話かかってきたらしくて、『電話出ないといけないんで~』って言って逃げてきたらしい。その後学生センターに確認したらそんな学校存在しないって!」
「げえ~! なにそれ~! 絶対料理教室じゃないよ!」
「そうでしょー! もしそのまま行ってたら絶対ヤバかった奴だよね~!」
真奈の話の衝撃に食べる手が止まる志穂。それと対照的に、話がひと段落した真奈はうどんをひと啜りし、咀嚼して飲み込むと口を開く。
「だから志穂も気をつけた方がいいよ。疲れてる時って判断力落ちるし、普段なら一発で見抜けるような嘘も見抜けなくなるかも……」
「真奈……」
真剣な表情でそう言う真奈に志穂の心がざわつき、目を伏せる。自分を案じてくれている友人をその場しのぎの適当な嘘で騙してしまった後ろめたさと真摯に向き合ってくれる嬉しさが一つの心に同居してしまっているからだ。そんな心中で志穂が導き出した結論は、友人へお礼を言うことであった。残ったおにぎりを口に放り込み、咀嚼して飲み込むと口を開く。
「ありがとう真奈。あたし――」
顔を上げて友人に感謝を伝えようとした瞬間だった。
「食事は終わったか?」
「ぶわあああああああああああ!?!?!?!?」
上げた志穂の視線がいつの間にか真奈の後ろに立っていた筋骨隆々の黒い怪物、前日のベムと名乗った宇宙人を捉えていた。あまりの衝撃に彼女は叫び声を上げて椅子から転げ落ち、周囲の視線が一斉に志穂達へと集まる。
「でっか~……なにあの人? ボディビルダー? 身長何センチ?」
「てか顔怖くない? 絶対カタギじゃないよあれ……」
耳に飛び込んできた志穂の叫びと目に映ったベムの姿に食堂内がざわつき始める。
「どうしたの志穂!? 大丈夫!?」
「ど、ど、どうし、どうしたもこうしたも! 後ろ! 後ろのでかいやつ! 後ろにいるでかいやつが!」
「後ろ? うわ!?」
必死に自分の背後を指差す志穂に真奈が振り返ると、ベムの威圧感ある巨体が現れ声を上げて身体をのけぞらせる。
「そ、そいつ! き、昨日! 昨日もいきな、いきなり! いきなり出てきて!」
「……知り合いなの?」
「……え?」
映画でもイベントでもない日常に突如現れた怪物の姿を見たにしては冷静な口調でそう答えた真奈に志穂は呆けた声を上げてしまう。
「あ、どうも。畑野さんのお友達ですか? 私、こういうものです」
呆けた志穂に目もくれず、怪物はどこから取り出したのか分からない名刺を真奈に差し出す。
「安全警備社……宇人宏さん……。警備会社の人?」
「ええ、畑野さんとは昨日の夜間警備中に出会いまして、話していく内に意気投合したんですよ。話の中で私が大学見学をしたいと言ったら畑野さんが来てみなよと仰っていたのでお言葉に甘えさせて貰いまして……」
「あ~そういうことだったんですか~」
異形の存在に疑問も持たず、すらすらと並べ立てられる彼の嘘を受け入れていく真奈。
「え、え、え、ええ……? ええ??????」
そんな光景に志穂は困惑の声を上げ、疑問符をいくつも浮かべるが、『この異常事態の原因が今友人と何食わぬ顔で談笑している化け物の仕業』という思考の浮上とともに泡となり消える。
それと同時に怒りにも似た感情が湧き上がり脱力した身体を張り詰させ、立ち上がらせる。
「ちょっとあんた! 真奈になにしたの!?」
険しい顔つきでそう言う志穂に真奈とベムの視線が彼女へ向けられる。
「……ああ、すいません。話し込んでしまって。少しですが大学を案内してくれる予定でしたね。では行きましょうか」
「はあ!? 誰がいつそんなこと言ったのよ!?」
自分が望んでいた答えとは全く異なる、それでいて要領を得ない返答が志穂の声に苛立ちの色を濃くさせる。しかし、ベムはまるで動じる事なく志穂に近づき、その手で彼女を真奈から隠すようにして話始める。
「いえいえ、昨日言っていたじゃないですか。『昼休みの余った時間だけなら案内する』と……」
「言ってねえよ! ウソつくのも大概に……!」
志穂がそこまで言ったところで怪物はいつのまにか手にあった500円玉を畳むように折り曲げる。一連の光景に、志穂は言葉を詰まらせる。
「言いましたよね?」
「あ……うん……言ったよーな気がするわ……昨日……」
「では行きましょう」
ベムが志穂の肩を掴むと食堂の外へ歩き出す。志穂が振り返ると、真奈が笑みを浮かべて小さく手を振る。志穂は引き攣った笑みを浮かべながら小さく手を振りかえしてその場を後にした。
直後、真奈のスマホが着信を告げるバイブレーションを起こす。
「はいもしもし……。あ、先輩? はい……はい……大学の外ですか? わかりました……今から行きます」
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