プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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国王の言葉で

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 どうやら自分は国王の城の救護室に運ばれていたようである。シェドの後をついていきながら、大きく広がったピカピカの廊下を歩く。一応スカイルには国王というか村長的な存在はいたが、あの人の家はこれほど大きくはなかった。やはり一つの地区にいろいろな国があると、他へ権威を示すために、国王の居住地もある程度の質のものを用意しなければいけないのだろう。

「ここのドアを開けると、カニバル城の王の間に着く」

 そう言ってシェドは立ち止る。大きなドアだった。存在だけでサンにこの部屋に入るのは場違いだと伝えてくるようなドア。しかし、ここまできたのに、身を翻して帰るわけにはいかない。サンは意を決して、そのドアを開ける。

 ――え?

 そこに広がる光景にサンは思わず目を疑った。なぜなら、自分の目の前に広がる空間がとても国王の部屋だとは思えなかったからだ。

 机も椅子もボロボロで、部屋に掲げてる灯りもとても小さい。もちろん決してボロ家というほどの見た目ではないが、決してこの部屋は、一国王の部屋には見えなかった。

「おお! 君がサンか! よく来たね! 僕がこの国の国王、ベアリオだ。ジャカルやシェドから君の活躍は聞いてるよ!」

目の前のベアリオと名乗る男は、大きな体で喜びをあらわにし、サンに手を差し出す。サンは、混乱する頭を抑えながらも、彼の握手に応じる。

「あ、えと、ありがとうございます。よろしく」
「なんだよ。サンとやら。緊張してるのかい? 目の前にいるのはそんな大した男ではないというのに」
「あんたの部屋がぼろすぎて驚いてるんだよ。ベアリオ国王。だから俺は、この部屋に客人を通すのは反対なんだ。先代の頃はそれはそれは豪勢な部屋だったんだけどな」

「しょうがないだろ、あいにく僕は先代ほど煌びやかなのは趣味じゃないんだ。わざわざ嫌な思いをさせてまで、国民の税金で贅沢をするわけにはいかないよ」
「そこがベアリオのいいところなんだけどな。まあ、もっと体裁を意識して欲しいとは思うが、見てくれだけは整えるようになっただけましか」

 やれやれと言った様子でため息を吐きながら、シェドはベアリオにそう言った。サンは今一居心地の悪い雰囲気を味わいながらも2人の関係を模索する。どうやらこの2人、ただの国王と部下という関係ではないらしい。

 とはいえ、そんな関係にわざわざ首を突っ込むほどサンは暇というわけではない。今が何時かは知らないが、もし、手伝わないことを決断したのならはやく次の飛行船の便を確認しなくてはならない。サンは、ベアリオ国王に話を急がせることにした。きっとそんなことをしても怒らない人だろうということは察しがついたから。

「あの、話があるという風に聞いていたのでここに来たんですけど」
「うん、そうだったね。身内話に花を咲かせてしまってすまない。えっと、ここが今どんな状況にあるかを話せばいいんだったかな? シェド」
「ああ、頼むよ。あんたの、国王の言葉で、ここの現状を教えてやってほしい」

 シェドは静かにベアリオの言葉に答えを返す。そしてその瞬間、ベアリオの纏っていた空気がガラリと変わった。先程までの親しみやすさは薄れ、どんどん国王としての威厳が増していく。なるほど、一つの組織を担う人物はこうも、色々な顔を使い分けるものなのだなと、サンは感心する。

「わかったよ。じゃあとりあえずサン、そこに座ってくれるかい? きっと長くなるだろうからね。まああまりいい椅子ではないんだけど」

 そう言ってベアリオが進めた椅子に腰掛ける。たしかに少しだけ傷が目立つが、元が上質なものだからか、思ったよりも座り心地はいい。またシェドは椅子に座ることなく、入り口のドアの前で腕を組んでいた。おそらく何が起きてもすぐ対応できるようにだろう。

 こうしてサンは、カニバル国の国王ベアリオから、この戦争について聞かされることになるのだった。
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