プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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何が正しくて何が正しないか

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 シェドがでた後、サンはベアリオに問いかけた。

「ベアリオ国王、なんであいつを出したんですか? こんなどこの馬の骨ともわからないやつと部屋で2人なんて、一国王のすることじゃない」
「なんだい? サンは僕に何かするのかい?」
「いや、しないですけど」
「じゃあいいじゃないか」
「…………」

 驚いたような呆れたような、そんな顔でサンはベアリオを見つめる。そんなサン表情など気にすることもなく、ベアリオは、話し始める。

「実は、シェドがいると言いにくいことがあってね。だから退出してもらった。まあ大したことじゃないんだがね」
「話しづらいこと?」
「うん、シェドはね。最終的にレプタリア国を支配して、植民地にしたいと思っている。そしてカニバルの国土を広げるんだ。でも僕が目指しているゴールはそこじゃない。君の目がね、あまりにも真っ直ぐだったからさ、それを伝えておかなくちゃ不公平だと思ったんだ」

 ベアリオは、指をクルクル回しながら、頭の中で言葉を練っている様子だった。サンはそんな彼の言葉を聞き逃さぬよう、真剣に耳を傾ける。

「国王にとって、どこがゴールなんですか?」
「僕はね、この戦争を平和に終わらせたいんだ」

 その言葉を聞いてサンの体に鳥肌のようなものが走る。最初にレプタリアに攻撃されたのはこちらだというのに、この国王はどこまで聖人なんだろうか。

「でも、どうやって平和に終わらせるんですか?」
「そこが今頭を悩ませてるところなんだよ。実は、こういう風にさ、色々考えては見てるんだ。それでもまだ何も見通しが立っていないんだけど」

 するとベアリオは、机の下から大量の資料のようなものを取り出した。そこには、湖の水源や、レプタリアの地質。そう言った情報がレプタリアとカニバルの二つの地域で調べられており、その情報量から、このベアリオという国王がどこまで苦労しているのかがうかがえた。

「すごっ。こんなに調べたんですか。それにレプタリアの情報もある。こんなのどうやって?」
「うちにはネクっていう優秀な諜報員がいるからね。爬虫類だからレプタリアの獣人にもバレないんだ。まあそれでも危険な仕事に違いはないけど、彼女はよくやってくれてるよ」

 どこか自分の集めた資料を褒められて上機嫌になるベアリオ。しかし、そんなふわふわした空気も、一瞬で取り払い、彼はまたキリリとした国王のオーラを纏って、サンに言葉を発する。

「そう、だからね。もし、僕が何か策を思いついたときに、それを向こうに飲んでもらうためにも、この戦いが不利に進むわけにはいかないんだ。レプタリアも、カニバルを支配しようと考えている。そんな輩が有利になれば、お互いを平等にするための和平交渉なんて呑んでもらう確率がなくなってしまう。だからこそ、そのためにも君の力を借りたいんだ」

ベアリオは、そう言ってサンの手を力強く握りしめる。さっきの握手なんて比にはならない強い熱量と、国王としての重みが乗った握手。サンは、その手を力強く固く握り返す。彼の中で答えは決まっていた。

「あなたは、正しい人なんですな。ベアリオ国王。こんな俺でよければ、協力させてください。このカニバルのみんなが笑って暮らせるようにするために」

 正しい、このカニバルを戦火に貶めた敵を倒すのではなく、その命さえも救おうとする。そんな彼を、サンはそんな言葉でしか表現することができなかった。

 するとベアリオは、心から喜んだような顔を浮かべ、さらに握る手を強くする。サンの手のひらに僅かな痛みが走る。少しだけ痛みで顔が歪むサンに気づくことなく、ベアリオは勢いよく言葉を発する。

「ありがとう。心強いよ。――でも、サン、少しだけいいかい?」
「なんですか?」

 すると、ベアリオは不思議とさっきまでとは打って変わって複雑そうな表情をサンに向けた。そして彼は続ける。

「何が正しくて何が正しくないか。その決定権は、必ず自分が持っていなさい。決して、その判断を他人に委ねてはダメだ」

 するとその国王は、固く握るサンの手を、そっと離すのだった。

 この時サンは、このベアリオの言葉の意味をしっかりとわかってはいなかった。しかし彼は、カニバル軍の一員としてレプタリア軍との戦いを重ねる中で、その言葉の意味を、深く理解することになるということを、彼はまだ知らない。
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