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アツい覚悟はあるかい
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「なあ、サン。少し、俺とも手合わせしてくれないか?」
「え?」
予想の斜め上の発言に驚きを隠せないサン。そんな彼に、なおもジャカルは言葉を続ける。
「わかってるさ。隊長が既に認めた男なんだ。サンがシェド隊に入隊しようと俺がどうこういう問題じゃない。そんなの気にするなんて、アツい男とはいえない。ただそれでも、シェド隊は、カニバル国民全員の希望を背負っているんだ。それだけの強さがサンにあるのか。俺はどうしても知りたい」
そして、ゆっくりとサンから離れて、ジャカルは両脇の木製のナイフに手を当てる。なんで夜の散歩にそんな物騒なものを持っていくのかと思ったらそういう訳だったのか。サンは、その訓練用のナイフを見て、自身の考えを巡らせる。
もちろん、サンにもジャカルがどんな感情を抱えているか想像はついた。自分が強い志をもって席を置いている場所にノコノコと現れた新人が居座ったらいい気はしないだろう。だがまさか、手合わせすることになるとは。いや、きっとその新人がどれほど強いのか体で感じなければ、自分の気持ちを納得させることは難しいのか。
サンはペンダントに手を当てる。そして『サン、ライズ』と呟く。眩い光を放って、サンの右手に、彼の上半身ほどの真っ赤な刀身を持った刀が顕現する。
「ジャックから聞いていたが、本当に急に剣が現れるんだな。それに相変わらず妙な形だ。ソードともサーベルとも違う鍔の形。そんなもの俺は見たことがないよ」
「そうなのか? ファル先生に、陽天流はこの武器を使うって言われていたから、この刀を持っても違和感はなかったけど」
「そうか、カタナというんだな。それは、アツい名前だ。そして、サンには師がいるのか。いいな。俺は独学だったから羨ましいよ」
「ああ、世話焼きだけど目つきの悪い師匠がいるんだ。そんなことより、やるなら早く始めよう。きっと俺には、あんたを納得させる義務があるんだと思うから」
「そうか、悪いな。俺が勝手なことを言い出したのに。じゃあ早速、俺からいくぞ! サン!」
――うお、速い!
二つのナイフを取り出し、低い姿勢で、間合いを詰めるジャカル。
この前のアマガエルもそうだが、どうやらグランディアにも素早い戦法をとる獣人は多いらしい。おそらく身が重かろうと、その分足の筋力もつくから、余分な筋肉を落とし、足だけを鍛えれば、素早い身のこなしも可能なのだろう。何というか、そう考えると、素早い身のこなししかできない鳥人族が不憫だか、空を飛べるということを考えれば仕方ないのかもしれない。
――けれど、スアロやファル先生ほどじゃない。
きっとこのジャカルはグランディアの中では素早い部類に入るのだろう。ただそれはあくまでグランディアの中での話。速さしか取り柄のないスカイルの選りすぐりの剣士たちは、もっともっと速かった。
――シュッ
ギリギリまで引きつけて、ジャカルの二刃の突撃をかわすサン。そのまま体を大きく旋回させ、あの照型を放つ。
「陽天流三照型、日輪!」
思い切り刀を振りかざすサン。しかし、ジャカルは姿勢をさらに低くし、それをかわす。
――な! かわすのか。これを。
サンの刀の速度は決して遅くなどない。警戒してれば、ファルやスアロならかわせるだろうが、それは鳥人族の目を持つからこそだ。
しかし、ジャカルはそんな目を持っているわけではない。その上低姿勢だから、サンの動きをしっかり見えていないはず。ならば彼は野生の本能だけで、サンの攻撃を交わしたというのか。
ジャカルは、しゃがんだ姿勢からナイフを構える。そして、立ち上がる力を利用し、サンへ右手のナイフを振りかざす。
――あぶねぇ。
サンは着地と同時に後方に体をそらし、なんとかそのナイフを避ける。大きく体制を崩すサン。そんな彼にジャカルは、左のナイフで斬りかかる。
「もらった!」
切迫するジャカルのナイフ。サンはそれを、右手の腕力で押し戻し、どうにか、ジャカルのナイフめがけて、武器を切り上げる。
「陽天流四照型、旭日!」
――カァァァァン。
音を上げて、打ち上げられるジャカルの左手。サンはジャカルの追撃が来ることを恐れて、一度大きく後退する。
サンは、息を切らしながら呟く。
「強いな。すげえ強い」
本心だった。別にサン自身まだ、自分の実力が彼に劣っているとは思っていない。しかしそれはファルという素晴らしい師に8年間教えてもらっていたからだ。だからこそ、サンは今の実力を手にすることができた。
けれども眼前のジャカルという男は独学でここまでの実力を身につけたという。どれほど、工夫に工夫を重ねて、彼は強くなっていったのだろうか。
「ありがとう。だが、サンもやはり強いな。シェド隊長が認めただけのことはある。ただもう少しだけ付き合ってくれるか」
「構わないよ、ジャカル。気が済むまでやろう」
サンは、再び闘気を満たせてそう言った。ジャカルが自分の強さに納得するまで、サンもこの戦いを降りる気はなかった。
先手必勝。今度は、サンからジャカルへ激しく斬りかかる。激しく響き渡る武器と武器との衝突音。そんな中で、ジャカルはサンへ、思いを述べる。
「ジャックの母親は、つまり俺の妻、ピュマはさ。数年前の南の峠をレプタリアが占国した事件で亡くなったんだ」
「――――!?」
突然の告白に、動揺を隠せないサン。しかし、剣の勢いだけは緩まないように全力を尽くす。話の内容に気を取られて、力を出し切らないことが、一番このジャカルという男に失礼になる気がしたから。
ジャカルは、サンが手合わせに集中してくれていることに対して、彼の誠実さを感じ取りながらも続ける。
「そう、不幸な事故だった。それで悲しむ息子を見て、俺はアツく誓ったよ。こんなことは二度と起こさせない。そして、こんな悲しい思いを他の人には絶対させないって。だから、俺はこのカニバル国のためには、命を捧げる覚悟は出来てる」
「――そっか」
勢いを増すジャカルのナイフ。サンはそれを必死に捌く。すると、ジャカルは唐突に大きく後退した。そして、サンへ彼は想いを叫ぶ。
「だからサン。俺は君に問いたい。戦争で大切なことは喧嘩の強さじゃない。覚悟の強さだ。なあサン。君は、このシェド軍で見知らぬカニバル国のために命をかけるアツい覚悟はあるかい?」
「え?」
予想の斜め上の発言に驚きを隠せないサン。そんな彼に、なおもジャカルは言葉を続ける。
「わかってるさ。隊長が既に認めた男なんだ。サンがシェド隊に入隊しようと俺がどうこういう問題じゃない。そんなの気にするなんて、アツい男とはいえない。ただそれでも、シェド隊は、カニバル国民全員の希望を背負っているんだ。それだけの強さがサンにあるのか。俺はどうしても知りたい」
そして、ゆっくりとサンから離れて、ジャカルは両脇の木製のナイフに手を当てる。なんで夜の散歩にそんな物騒なものを持っていくのかと思ったらそういう訳だったのか。サンは、その訓練用のナイフを見て、自身の考えを巡らせる。
もちろん、サンにもジャカルがどんな感情を抱えているか想像はついた。自分が強い志をもって席を置いている場所にノコノコと現れた新人が居座ったらいい気はしないだろう。だがまさか、手合わせすることになるとは。いや、きっとその新人がどれほど強いのか体で感じなければ、自分の気持ちを納得させることは難しいのか。
サンはペンダントに手を当てる。そして『サン、ライズ』と呟く。眩い光を放って、サンの右手に、彼の上半身ほどの真っ赤な刀身を持った刀が顕現する。
「ジャックから聞いていたが、本当に急に剣が現れるんだな。それに相変わらず妙な形だ。ソードともサーベルとも違う鍔の形。そんなもの俺は見たことがないよ」
「そうなのか? ファル先生に、陽天流はこの武器を使うって言われていたから、この刀を持っても違和感はなかったけど」
「そうか、カタナというんだな。それは、アツい名前だ。そして、サンには師がいるのか。いいな。俺は独学だったから羨ましいよ」
「ああ、世話焼きだけど目つきの悪い師匠がいるんだ。そんなことより、やるなら早く始めよう。きっと俺には、あんたを納得させる義務があるんだと思うから」
「そうか、悪いな。俺が勝手なことを言い出したのに。じゃあ早速、俺からいくぞ! サン!」
――うお、速い!
二つのナイフを取り出し、低い姿勢で、間合いを詰めるジャカル。
この前のアマガエルもそうだが、どうやらグランディアにも素早い戦法をとる獣人は多いらしい。おそらく身が重かろうと、その分足の筋力もつくから、余分な筋肉を落とし、足だけを鍛えれば、素早い身のこなしも可能なのだろう。何というか、そう考えると、素早い身のこなししかできない鳥人族が不憫だか、空を飛べるということを考えれば仕方ないのかもしれない。
――けれど、スアロやファル先生ほどじゃない。
きっとこのジャカルはグランディアの中では素早い部類に入るのだろう。ただそれはあくまでグランディアの中での話。速さしか取り柄のないスカイルの選りすぐりの剣士たちは、もっともっと速かった。
――シュッ
ギリギリまで引きつけて、ジャカルの二刃の突撃をかわすサン。そのまま体を大きく旋回させ、あの照型を放つ。
「陽天流三照型、日輪!」
思い切り刀を振りかざすサン。しかし、ジャカルは姿勢をさらに低くし、それをかわす。
――な! かわすのか。これを。
サンの刀の速度は決して遅くなどない。警戒してれば、ファルやスアロならかわせるだろうが、それは鳥人族の目を持つからこそだ。
しかし、ジャカルはそんな目を持っているわけではない。その上低姿勢だから、サンの動きをしっかり見えていないはず。ならば彼は野生の本能だけで、サンの攻撃を交わしたというのか。
ジャカルは、しゃがんだ姿勢からナイフを構える。そして、立ち上がる力を利用し、サンへ右手のナイフを振りかざす。
――あぶねぇ。
サンは着地と同時に後方に体をそらし、なんとかそのナイフを避ける。大きく体制を崩すサン。そんな彼にジャカルは、左のナイフで斬りかかる。
「もらった!」
切迫するジャカルのナイフ。サンはそれを、右手の腕力で押し戻し、どうにか、ジャカルのナイフめがけて、武器を切り上げる。
「陽天流四照型、旭日!」
――カァァァァン。
音を上げて、打ち上げられるジャカルの左手。サンはジャカルの追撃が来ることを恐れて、一度大きく後退する。
サンは、息を切らしながら呟く。
「強いな。すげえ強い」
本心だった。別にサン自身まだ、自分の実力が彼に劣っているとは思っていない。しかしそれはファルという素晴らしい師に8年間教えてもらっていたからだ。だからこそ、サンは今の実力を手にすることができた。
けれども眼前のジャカルという男は独学でここまでの実力を身につけたという。どれほど、工夫に工夫を重ねて、彼は強くなっていったのだろうか。
「ありがとう。だが、サンもやはり強いな。シェド隊長が認めただけのことはある。ただもう少しだけ付き合ってくれるか」
「構わないよ、ジャカル。気が済むまでやろう」
サンは、再び闘気を満たせてそう言った。ジャカルが自分の強さに納得するまで、サンもこの戦いを降りる気はなかった。
先手必勝。今度は、サンからジャカルへ激しく斬りかかる。激しく響き渡る武器と武器との衝突音。そんな中で、ジャカルはサンへ、思いを述べる。
「ジャックの母親は、つまり俺の妻、ピュマはさ。数年前の南の峠をレプタリアが占国した事件で亡くなったんだ」
「――――!?」
突然の告白に、動揺を隠せないサン。しかし、剣の勢いだけは緩まないように全力を尽くす。話の内容に気を取られて、力を出し切らないことが、一番このジャカルという男に失礼になる気がしたから。
ジャカルは、サンが手合わせに集中してくれていることに対して、彼の誠実さを感じ取りながらも続ける。
「そう、不幸な事故だった。それで悲しむ息子を見て、俺はアツく誓ったよ。こんなことは二度と起こさせない。そして、こんな悲しい思いを他の人には絶対させないって。だから、俺はこのカニバル国のためには、命を捧げる覚悟は出来てる」
「――そっか」
勢いを増すジャカルのナイフ。サンはそれを必死に捌く。すると、ジャカルは唐突に大きく後退した。そして、サンへ彼は想いを叫ぶ。
「だからサン。俺は君に問いたい。戦争で大切なことは喧嘩の強さじゃない。覚悟の強さだ。なあサン。君は、このシェド軍で見知らぬカニバル国のために命をかけるアツい覚悟はあるかい?」
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