プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

文字の大きさ
44 / 102

今からその俺の覚悟を見せるよ

しおりを挟む
「だからサン。俺は君に問いたい。戦争で大切なことは喧嘩の強さじゃない。覚悟の強さだ。なあサン。君は、このシェド軍で見知らぬカニバル国のために命をかけるアツい覚悟はあるかい?」

 ――そっか。そう言うことか。

 サンは自身がジャカルに抱いていた印象を強く恥じた。違う。彼が自分と手合わせを望んだ理由は、嫉みとか妬みとかそういう感情じゃない。彼はこの戦いを通じて問いたかったんだ。自分にこの戦争に本当に参加する覚悟があるのか。

 ――なるほど、だからこの人はこんなに強いのか。

 サンは、ジャカルがこれほどまでに手強い理由を理解できた。彼にはしっかりとした信念があるのだ。だからこそ、彼は今の実力に達するまで努力を辞めなかった。

 ――さて、覚悟か。

 そして、サンは自分の心のうちに静かに問う。このカニバル国のために、命をかける覚悟があるのか。サンの頭に、ジャックの純粋さが、ベアリオの誠実さが、そしてジャカルのアツさが次々と脳裏をよぎる。

 ――もうここは見知らぬ土地なんかじゃないよ。

 サンは、ジャカルに、告げる。

「正直さ。命をかけられるかはわからない。でもさ、このカニバルの人たちってさ、すごく良い人ばかりだったんだ。だから、その笑顔を失わせたくないって思った。目に映ったこの人たちを守りたいって思ったんだ。だから今からその俺の覚悟を見せるよ」

 ――ボォォッ。

 サンは、自身の刀に激しく炎を灯した。まだサンはこのカニバルでは、炎を使っていない。その理由は、ファルに妙な輩に目をつけられないよう使用を控えろと言われていたからだ。まあ一応、シェドとの戦いの後で再生のために炎を使ったが、きっとそれはシェドしか見ていないだろう。

「な、なんだそれ? 君は炎を使えるのか?」

 サンの力に驚きを隠せないジャカル。サンはそんな彼に対し言葉をかける。

「うん。本当は隠すつもりだったんだけどね。俺は、みんなのためにこの力を使うよ。いくよ。ジャカル」
「そっか。わざわざ俺のために見せてくれたんだな。ありがとう。きてくれよ、サン。その力の強さ。俺に見せてくれ」
「ああ」

 サンは、刀を構える。そして離れたジャカルに照型を放つ。

「陽天流五照型、飛炎・白夜連斬!」

 幾多もの斬撃が、ジャカルへ向かって飛んでいく。彼は、ナイフを強く握りしめる。

「炎の斬撃か! 中々にアツい攻撃だが、これくらいなら弾き落とせる! いくぞ、切り裂き竜巻!」

 体を旋回させて、サンの斬撃全てを弾き落とすジャカル。すると、サンが大きく間合いを詰めていることに気づく。慌ててナイフをサンに振りかざすジャカル。再び、武器と武器とが激しく衝突する。

 木製のナイフだが、何故か燃え移ることはなく、サンと武器をかわすジャック。炎の熱が手に伝わるのは辛いが、それを除けば、2本の武器を持つジャカルの方が接近戦はサンより有利だ。

「どうした! サン! 炎を使えるようになっても間合いを詰めたら意味がないじゃないか!」

 しかし、この時ジャカルは気づいていなかった。サンが、ジャカルの攻撃の隙を狙っていることに。そしてサンは、息が詰まるような、戦闘の最中、ジャカルの僅かな隙を見つけ出す。

 ――アツッッ。

 サンの炎を灯した右手に自身の腕を弾かれ、突然の熱さに思わず一瞬攻撃を止めるジャカル。もちろんサンはその瞬間を逃さない。

 生い茂る木の葉の隙間に差しこむ、陽光のように。

「陽天流一照型、木洩れ日!!」

 ジャカルのナイフを左右にはじき、瞬時に突きの姿勢を作り、ジャカルに剣先を向けるサン。そして勢いよく、突きを放つ。

 ――くそ、やられる!!

 サンの攻撃を覚悟し、目を瞑るジャカル。しかしいつまでも、サンの突きの感触はジャカルにはなかった。妙だと思いゆっくりと目を開けると、ジャカルは彼の刀が自分の喉元近くで静止していることに気づいた。

 真っ直ぐにジャカルに対して、視線をぶつけるサン。己の目で、『自分は十分実力を示した』とジャカルに訴える。ジャカルは、そんなサンを見て静かに呟く。

「刃を止める余裕さえある、か。全くその若さで大したものだな」

そして彼はサンに対して笑顔を向けた。

「認めよう。君の覚悟を。俺は君をシェド隊に歓迎する。この実力の若者がうちの隊に入ってくれるなら、これほど心強いことはないさ」

 しかし、そのジャカルの笑顔はひどく寂しそうで、サンは、すぐに彼の言葉に喜びの感情を表すことが出来なかったのだ。

 その後、ジャカルに少し独りにしてくれと言われて、サンは、ジャックの待つ家に戻った。30手前でプライドを持ってカニバル軍の第一線を張ってきたジャカルが、自分より何歳も年下の若造に負けた彼が、一人外で何をしていたのかサンにはわからない。

 そう、例え彼が家に戻った時、やけに目を真っ赤にして、瞳を腫らしていたとしても、サンは、彼が何をしていたのか気づかないよう、ひたすらに瞼を閉じるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...