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今からその俺の覚悟を見せるよ

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「だからサン。俺は君に問いたい。戦争で大切なことは喧嘩の強さじゃない。覚悟の強さだ。なあサン。君は、このシェド軍で見知らぬカニバル国のために命をかけるアツい覚悟はあるかい?」

 ――そっか。そう言うことか。

 サンは自身がジャカルに抱いていた印象を強く恥じた。違う。彼が自分と手合わせを望んだ理由は、嫉みとか妬みとかそういう感情じゃない。彼はこの戦いを通じて問いたかったんだ。自分にこの戦争に本当に参加する覚悟があるのか。

 ――なるほど、だからこの人はこんなに強いのか。

 サンは、ジャカルがこれほどまでに手強い理由を理解できた。彼にはしっかりとした信念があるのだ。だからこそ、彼は今の実力に達するまで努力を辞めなかった。

 ――さて、覚悟か。

 そして、サンは自分の心のうちに静かに問う。このカニバル国のために、命をかける覚悟があるのか。サンの頭に、ジャックの純粋さが、ベアリオの誠実さが、そしてジャカルのアツさが次々と脳裏をよぎる。

 ――もうここは見知らぬ土地なんかじゃないよ。

 サンは、ジャカルに、告げる。

「正直さ。命をかけられるかはわからない。でもさ、このカニバルの人たちってさ、すごく良い人ばかりだったんだ。だから、その笑顔を失わせたくないって思った。目に映ったこの人たちを守りたいって思ったんだ。だから今からその俺の覚悟を見せるよ」

 ――ボォォッ。

 サンは、自身の刀に激しく炎を灯した。まだサンはこのカニバルでは、炎を使っていない。その理由は、ファルに妙な輩に目をつけられないよう使用を控えろと言われていたからだ。まあ一応、シェドとの戦いの後で再生のために炎を使ったが、きっとそれはシェドしか見ていないだろう。

「な、なんだそれ? 君は炎を使えるのか?」

 サンの力に驚きを隠せないジャカル。サンはそんな彼に対し言葉をかける。

「うん。本当は隠すつもりだったんだけどね。俺は、みんなのためにこの力を使うよ。いくよ。ジャカル」
「そっか。わざわざ俺のために見せてくれたんだな。ありがとう。きてくれよ、サン。その力の強さ。俺に見せてくれ」
「ああ」

 サンは、刀を構える。そして離れたジャカルに照型を放つ。

「陽天流五照型、飛炎・白夜連斬!」

 幾多もの斬撃が、ジャカルへ向かって飛んでいく。彼は、ナイフを強く握りしめる。

「炎の斬撃か! 中々にアツい攻撃だが、これくらいなら弾き落とせる! いくぞ、切り裂き竜巻!」

 体を旋回させて、サンの斬撃全てを弾き落とすジャカル。すると、サンが大きく間合いを詰めていることに気づく。慌ててナイフをサンに振りかざすジャカル。再び、武器と武器とが激しく衝突する。

 木製のナイフだが、何故か燃え移ることはなく、サンと武器をかわすジャック。炎の熱が手に伝わるのは辛いが、それを除けば、2本の武器を持つジャカルの方が接近戦はサンより有利だ。

「どうした! サン! 炎を使えるようになっても間合いを詰めたら意味がないじゃないか!」

 しかし、この時ジャカルは気づいていなかった。サンが、ジャカルの攻撃の隙を狙っていることに。そしてサンは、息が詰まるような、戦闘の最中、ジャカルの僅かな隙を見つけ出す。

 ――アツッッ。

 サンの炎を灯した右手に自身の腕を弾かれ、突然の熱さに思わず一瞬攻撃を止めるジャカル。もちろんサンはその瞬間を逃さない。

 生い茂る木の葉の隙間に差しこむ、陽光のように。

「陽天流一照型、木洩れ日!!」

 ジャカルのナイフを左右にはじき、瞬時に突きの姿勢を作り、ジャカルに剣先を向けるサン。そして勢いよく、突きを放つ。

 ――くそ、やられる!!

 サンの攻撃を覚悟し、目を瞑るジャカル。しかしいつまでも、サンの突きの感触はジャカルにはなかった。妙だと思いゆっくりと目を開けると、ジャカルは彼の刀が自分の喉元近くで静止していることに気づいた。

 真っ直ぐにジャカルに対して、視線をぶつけるサン。己の目で、『自分は十分実力を示した』とジャカルに訴える。ジャカルは、そんなサンを見て静かに呟く。

「刃を止める余裕さえある、か。全くその若さで大したものだな」

そして彼はサンに対して笑顔を向けた。

「認めよう。君の覚悟を。俺は君をシェド隊に歓迎する。この実力の若者がうちの隊に入ってくれるなら、これほど心強いことはないさ」

 しかし、そのジャカルの笑顔はひどく寂しそうで、サンは、すぐに彼の言葉に喜びの感情を表すことが出来なかったのだ。

 その後、ジャカルに少し独りにしてくれと言われて、サンは、ジャックの待つ家に戻った。30手前でプライドを持ってカニバル軍の第一線を張ってきたジャカルが、自分より何歳も年下の若造に負けた彼が、一人外で何をしていたのかサンにはわからない。

 そう、例え彼が家に戻った時、やけに目を真っ赤にして、瞳を腫らしていたとしても、サンは、彼が何をしていたのか気づかないよう、ひたすらに瞼を閉じるのだった。
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