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自分の守りたいものを守らなければ
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――はぁはぁはぁはぁ。
息を切らしながら全力で山道を降りるサン。来た道をまっすぐに戻り、ネクとジャカルとの合流を目指す。
手足はまだ少し痺れている。だがこれは毒ではなく痛みでだ。シェドの推論の通り神経系を焼き払って欠損させ、健康な体に作り替えた自身の体内は、痛みは残っていても、なんの悪いところもありはしなかった。
フェニックスの炎には、再生と破壊の力の両方が備わっている。それは、サンがスカイルやカニバル軍での訓練期間で色々試して気づいたことだった。考えてみればその通りなのだ。この炎は、グリフォンの獣人と戦う際、大男を吹っ飛ばすほどの力を持ちながらも、周りの木々を少しも燃やしていなかった。ファル先生と戦った時も道場の壁もそうだ。
どうにも彼の炎は自身がダメージを与えたいと願ったものにしか、焼き尽くすなどの破壊の面を見せないものらしい。
つまり、それは言い換えれば自身の意識の持ち方次第で、炎の破壊と再生の割合の設定が可能ということだ。だからサンは、今回自身の神経系に対して、破壊と再生を50%ずつの割合で炎を燃やした。こうすることによって、自身の毒に侵された部分を欠損させ、そしてそれと同時に回復をすることを可能にしたのだ。
もちろんそれは、大きな痛みを伴う物である。自身の神経を炎で焼き尽くす。わかりやすく言えば、剥き出しの神経にレーザーを直接当てるのである。普通の人間なら立っていられないほどの痛みだ。
しかしそれは、サンにとって、あの場でだれかを見殺しにする痛みと比べれば大した物ではなかった。
――さて、確か相手はゲッコウとか言ったか?
サンは、カレオンとシェドの会話を思い出す。一応今日に至るまでに、サンはネクから敵の主要戦力のレクチャーを受けている。確か、レプタリア軍最強の兵士であり、シェドと、3度戦闘していながらも、全て引き分けるほどの強敵だったはず。
自分があっけなく負けてしまったシェドと同等。そんな相手に今の自分がどれだけ歯が立つのかわからない。ただわかっているのはジャカルとネクでは、彼には勝てないということだ。
ふと、サンの頭に血まみれで倒れているネクとジャカルのイメージが浮かぶ。彼は慌てて首を振り、自身の悪い想像を振り払う。
しっかりしなければ。そうならないために自分がいるんじゃないか。シェドの、ベアリオの、そして自分の、守りたい物を守らなければ。
サンはキリキリと痛む手足を最大限に稼働させて、彼らの元へ急ぐのだった。
息を切らしながら全力で山道を降りるサン。来た道をまっすぐに戻り、ネクとジャカルとの合流を目指す。
手足はまだ少し痺れている。だがこれは毒ではなく痛みでだ。シェドの推論の通り神経系を焼き払って欠損させ、健康な体に作り替えた自身の体内は、痛みは残っていても、なんの悪いところもありはしなかった。
フェニックスの炎には、再生と破壊の力の両方が備わっている。それは、サンがスカイルやカニバル軍での訓練期間で色々試して気づいたことだった。考えてみればその通りなのだ。この炎は、グリフォンの獣人と戦う際、大男を吹っ飛ばすほどの力を持ちながらも、周りの木々を少しも燃やしていなかった。ファル先生と戦った時も道場の壁もそうだ。
どうにも彼の炎は自身がダメージを与えたいと願ったものにしか、焼き尽くすなどの破壊の面を見せないものらしい。
つまり、それは言い換えれば自身の意識の持ち方次第で、炎の破壊と再生の割合の設定が可能ということだ。だからサンは、今回自身の神経系に対して、破壊と再生を50%ずつの割合で炎を燃やした。こうすることによって、自身の毒に侵された部分を欠損させ、そしてそれと同時に回復をすることを可能にしたのだ。
もちろんそれは、大きな痛みを伴う物である。自身の神経を炎で焼き尽くす。わかりやすく言えば、剥き出しの神経にレーザーを直接当てるのである。普通の人間なら立っていられないほどの痛みだ。
しかしそれは、サンにとって、あの場でだれかを見殺しにする痛みと比べれば大した物ではなかった。
――さて、確か相手はゲッコウとか言ったか?
サンは、カレオンとシェドの会話を思い出す。一応今日に至るまでに、サンはネクから敵の主要戦力のレクチャーを受けている。確か、レプタリア軍最強の兵士であり、シェドと、3度戦闘していながらも、全て引き分けるほどの強敵だったはず。
自分があっけなく負けてしまったシェドと同等。そんな相手に今の自分がどれだけ歯が立つのかわからない。ただわかっているのはジャカルとネクでは、彼には勝てないということだ。
ふと、サンの頭に血まみれで倒れているネクとジャカルのイメージが浮かぶ。彼は慌てて首を振り、自身の悪い想像を振り払う。
しっかりしなければ。そうならないために自分がいるんじゃないか。シェドの、ベアリオの、そして自分の、守りたい物を守らなければ。
サンはキリキリと痛む手足を最大限に稼働させて、彼らの元へ急ぐのだった。
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