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……ああ、これからは何回も見にこような
しおりを挟む一方その頃のサンとネクは、宴会場から少しだけ外れたところへ来ていた。サンは、頭を抑えながら、ネクと会話をする。
「いやぁ、いったいなぁ。本当にありがと、ネク。あの場から救ってくれて」
「……別にいいよ。それよりサン。そんなに強くないのに勧められたら飲む姿勢はどうかと思う」
「だって生産者さんが悲しむから」
「……うん、まあ志は立派なんだけどね」
切り株に腰をかけ、互いにジョッキに注いだ水を口にする2人。木々が音を吸うような静寂の中、ネクはサンに声をかける。
「……ねぇ、明日なんだよね。レプタリアを出発するの」
「うん、そうだよ。ネクも行くんだから、ちゃんと準備しといてくれよ」
「……うん、大丈夫。もうできてるよ」
サンは、シェドの勧誘を終えた後、すぐにネクのことも誘った。そしてその時にはもうシェドが一緒に旅をしてくれることはわかっていたので、ネクもすぐ彼と旅に出ることを決めたのだ。
だからこそ、彼女はサンをここに呼び出した。旅をする前にきっと自分は、サンと伝えなければならないと思ったから。
ネクは続ける。
「……ねぇ、サン。今日はね、旅に出る前にサンに伝えなきゃいけないことがあるの」
「おう、何?」
「……そのね。シェドを戦争から解放してくれて、ありがと」
満面の笑みで微笑みながら、ネクは、サンのことをまっすぐに見つめた。サンは、そんな彼女の表情に、不意にどきりとする。彼女がここまでの笑顔を浮かべたところを見るのは、これが初めてだったから。
ネクはサンに対して続ける。
「今までね。シェドは戦争に関わる時本当に辛そうだった。敵の命を奪い、時には味方の命をも奪って、第一線に立ち、カニバルを守らなきゃならない。そんな重圧を背負うシェドを見るのは、本当に辛かった。だから、こういう形で戦争が終わって本当に良かったと私は思ってる。だから、ありがとう、サン。あなたは私にとっての、ヒーローだよ」
そして満面の笑みを崩さぬまま、再び水を一口含むネク。
サンは、そんな彼女をみて、なんだか自分まで朗らかな気分になった。そして彼はそのまま笑顔を崩さず、ネクに言う。
「……ネクってさ。本当にシェドのこと好きなんだな」
――ブホッ。
そしてネクは、口に含んだ水を噴き出した。そして、みるみるうちに顔を真っ赤にし、彼女は、言葉を発する。
「え、な、え、え、な、なんで? 何言ってるの?」
「……そりゃそんだけシェドのことばかり考えてたらそう思うよ。好きなんでしょ、シェドのこと?」
ネクはジョッキを両手で可愛らしく持ち縮こまった。そして彼女は、こくりと小さく彼の言葉に頷く。
「……うん、それは、間違ってない」
「まあそうだろうね。へえ、いつ好きになったの? シェドのこと」
「やだ、教えたくない。恥ずかしい。それより、サンはいないの? そういう人」
「え、いや、俺は、そうだな」
「……その感じだといるんだ。じゃあサンが教えてくれたら、私も教える」
「え、ずるくない?」
「……ずるくない。人は何かを失わなければ何かを手に入れられない。これが等価交換」
「くそ、リアクションさえ間違えなければ、誤魔化せたかもしれないのに」
そうして、サンとネクもまた、彼らなりに、互いの恋の話に花を咲かせた。現在彼らは16歳。本来ならばこうして友人と仲良く、そのような浮いた話をし合うような年齢である。
だからこそサンとネクは、こんな戦争の終わりを告げる夜に、誰にも訪れるべき当たり前の平和を、精一杯満喫するのだった。
そして宴会も終盤に差し掛かり、少しずつ、いつまでも続くと思われていた喧騒も静まっていった頃、サンは、こっそりとその会を抜け出した。なぜなら彼には、ベアリオに頼まれていた別の任務を片付けなければいけなかったからだ。
もうすぐ日も出ようとしているのか、あたりは少しずつ明るくなっている。そんな中サンは南の峠を降り、約束の場所へと辿り着く。するとそこには、サンより先にその場所にたどり着き、彼を待っていたジャカルがいた。
「ジャカル!!」
「やあ、サン! 久しいね! 相変わらずアツい目をしてる!」
「ジャカルには敵わないさ。それよりも、もう体は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫さ! サン。君のお陰でな! まだちゃんも礼を言ってなかったね。本当にありがとう。あとそれと、サンに会わせたい人がもう1人いるんだ」
すると、木の中から小さな人影が出てきた。それはサンをみて、満面の笑みを浮かべる。
「サン兄ちゃん!!」
サンもまた、彼の姿をみて、負けじと笑みを返す。
「ジャック!!」
「サン! サンだ! 久しぶり! やっと、やっと会えたね!」
「そうだな。久しぶり! 何日ぶりだろうな」
少し精神的に疲労する出来事が多すぎたので、純粋な子どもと接し、心を浄化させるサン。そんなサンに対して、ジャックは畳み掛けるように話しかける。
「サン! すごいよ、サン! サンがきたら戦争が終わっちゃった! 本当にサンってすごいんだね!」
「そんなことないよ。父さんやレプタリアの人が頑張ったんだからこういう結果になったんだ」
「そんなのわかってるよ! でも僕は、サンの活躍もちゃんと知ってるんだ。まさにスシフジンノカツレツだったんでしょ? やっぱりかっこいいよ。サンは!」
多分獅子奮迅の活躍だろうか。まあだとしても獅子は自分ではなくシェドの方だが。そんなことを思いながらも、サンは、ジャックに笑顔で言葉を返す。
「ありがとう。ジャックがそう言ってくれるだけで頑張った甲斐があるよ」
サンがその言葉を言い終わるや否や、地平線の彼方から、太陽の光が差し込み出した。日の出だ。そしてその光は、まっすぐにグレイトレイクを照らし、煌びやかな光が、水面を反射する。
「うわぁ、綺麗」
ジャックは、湖の方を見つめて、そう声を漏らす。サンとジャカルもまたその方向をみて、美しい景色に息を呑む。そんな中、ジャックは呟くように声を発する。
「僕、こんなに綺麗なグレイトレイクさ。初めてみたよ」
その光に照らされる息子の顔をみて、ジャカルは、息子の頭に手を当てて、そっと呟く。
「……ああ、これからは何回も見に来ような」
しばらく、湖の美しさに心を奪われる3人、すると再び木の影から、大きな人影が見えた。ベアリオ王である。彼は、頭を抑えながら出てくると、ジャカルとサンに向かって告げた。
「ごめんな。待たせた。じゃあいこうか」
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