100 / 102
……ああ、これからは何回も見にこような
しおりを挟む一方その頃のサンとネクは、宴会場から少しだけ外れたところへ来ていた。サンは、頭を抑えながら、ネクと会話をする。
「いやぁ、いったいなぁ。本当にありがと、ネク。あの場から救ってくれて」
「……別にいいよ。それよりサン。そんなに強くないのに勧められたら飲む姿勢はどうかと思う」
「だって生産者さんが悲しむから」
「……うん、まあ志は立派なんだけどね」
切り株に腰をかけ、互いにジョッキに注いだ水を口にする2人。木々が音を吸うような静寂の中、ネクはサンに声をかける。
「……ねぇ、明日なんだよね。レプタリアを出発するの」
「うん、そうだよ。ネクも行くんだから、ちゃんと準備しといてくれよ」
「……うん、大丈夫。もうできてるよ」
サンは、シェドの勧誘を終えた後、すぐにネクのことも誘った。そしてその時にはもうシェドが一緒に旅をしてくれることはわかっていたので、ネクもすぐ彼と旅に出ることを決めたのだ。
だからこそ、彼女はサンをここに呼び出した。旅をする前にきっと自分は、サンと伝えなければならないと思ったから。
ネクは続ける。
「……ねぇ、サン。今日はね、旅に出る前にサンに伝えなきゃいけないことがあるの」
「おう、何?」
「……そのね。シェドを戦争から解放してくれて、ありがと」
満面の笑みで微笑みながら、ネクは、サンのことをまっすぐに見つめた。サンは、そんな彼女の表情に、不意にどきりとする。彼女がここまでの笑顔を浮かべたところを見るのは、これが初めてだったから。
ネクはサンに対して続ける。
「今までね。シェドは戦争に関わる時本当に辛そうだった。敵の命を奪い、時には味方の命をも奪って、第一線に立ち、カニバルを守らなきゃならない。そんな重圧を背負うシェドを見るのは、本当に辛かった。だから、こういう形で戦争が終わって本当に良かったと私は思ってる。だから、ありがとう、サン。あなたは私にとっての、ヒーローだよ」
そして満面の笑みを崩さぬまま、再び水を一口含むネク。
サンは、そんな彼女をみて、なんだか自分まで朗らかな気分になった。そして彼はそのまま笑顔を崩さず、ネクに言う。
「……ネクってさ。本当にシェドのこと好きなんだな」
――ブホッ。
そしてネクは、口に含んだ水を噴き出した。そして、みるみるうちに顔を真っ赤にし、彼女は、言葉を発する。
「え、な、え、え、な、なんで? 何言ってるの?」
「……そりゃそんだけシェドのことばかり考えてたらそう思うよ。好きなんでしょ、シェドのこと?」
ネクはジョッキを両手で可愛らしく持ち縮こまった。そして彼女は、こくりと小さく彼の言葉に頷く。
「……うん、それは、間違ってない」
「まあそうだろうね。へえ、いつ好きになったの? シェドのこと」
「やだ、教えたくない。恥ずかしい。それより、サンはいないの? そういう人」
「え、いや、俺は、そうだな」
「……その感じだといるんだ。じゃあサンが教えてくれたら、私も教える」
「え、ずるくない?」
「……ずるくない。人は何かを失わなければ何かを手に入れられない。これが等価交換」
「くそ、リアクションさえ間違えなければ、誤魔化せたかもしれないのに」
そうして、サンとネクもまた、彼らなりに、互いの恋の話に花を咲かせた。現在彼らは16歳。本来ならばこうして友人と仲良く、そのような浮いた話をし合うような年齢である。
だからこそサンとネクは、こんな戦争の終わりを告げる夜に、誰にも訪れるべき当たり前の平和を、精一杯満喫するのだった。
そして宴会も終盤に差し掛かり、少しずつ、いつまでも続くと思われていた喧騒も静まっていった頃、サンは、こっそりとその会を抜け出した。なぜなら彼には、ベアリオに頼まれていた別の任務を片付けなければいけなかったからだ。
もうすぐ日も出ようとしているのか、あたりは少しずつ明るくなっている。そんな中サンは南の峠を降り、約束の場所へと辿り着く。するとそこには、サンより先にその場所にたどり着き、彼を待っていたジャカルがいた。
「ジャカル!!」
「やあ、サン! 久しいね! 相変わらずアツい目をしてる!」
「ジャカルには敵わないさ。それよりも、もう体は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫さ! サン。君のお陰でな! まだちゃんも礼を言ってなかったね。本当にありがとう。あとそれと、サンに会わせたい人がもう1人いるんだ」
すると、木の中から小さな人影が出てきた。それはサンをみて、満面の笑みを浮かべる。
「サン兄ちゃん!!」
サンもまた、彼の姿をみて、負けじと笑みを返す。
「ジャック!!」
「サン! サンだ! 久しぶり! やっと、やっと会えたね!」
「そうだな。久しぶり! 何日ぶりだろうな」
少し精神的に疲労する出来事が多すぎたので、純粋な子どもと接し、心を浄化させるサン。そんなサンに対して、ジャックは畳み掛けるように話しかける。
「サン! すごいよ、サン! サンがきたら戦争が終わっちゃった! 本当にサンってすごいんだね!」
「そんなことないよ。父さんやレプタリアの人が頑張ったんだからこういう結果になったんだ」
「そんなのわかってるよ! でも僕は、サンの活躍もちゃんと知ってるんだ。まさにスシフジンノカツレツだったんでしょ? やっぱりかっこいいよ。サンは!」
多分獅子奮迅の活躍だろうか。まあだとしても獅子は自分ではなくシェドの方だが。そんなことを思いながらも、サンは、ジャックに笑顔で言葉を返す。
「ありがとう。ジャックがそう言ってくれるだけで頑張った甲斐があるよ」
サンがその言葉を言い終わるや否や、地平線の彼方から、太陽の光が差し込み出した。日の出だ。そしてその光は、まっすぐにグレイトレイクを照らし、煌びやかな光が、水面を反射する。
「うわぁ、綺麗」
ジャックは、湖の方を見つめて、そう声を漏らす。サンとジャカルもまたその方向をみて、美しい景色に息を呑む。そんな中、ジャックは呟くように声を発する。
「僕、こんなに綺麗なグレイトレイクさ。初めてみたよ」
その光に照らされる息子の顔をみて、ジャカルは、息子の頭に手を当てて、そっと呟く。
「……ああ、これからは何回も見に来ような」
しばらく、湖の美しさに心を奪われる3人、すると再び木の影から、大きな人影が見えた。ベアリオ王である。彼は、頭を抑えながら出てくると、ジャカルとサンに向かって告げた。
「ごめんな。待たせた。じゃあいこうか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる