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優しき英雄
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――朱音視点――
まだ眠気を感じるが、何とか体を起こした。どうやらかなりの時間眠っていたようである。
少し頭がくらくらした。そしてそれで、昨日のことを思い出す。私は、昨日倒れていたのだった。頭がくらくらしているのは、船に火をつけられたとき、煙を吸いすぎたのだろう。
しかし、目の前で倒れている幸を見て、調子の悪さは一気に吹き飛んだ。すぐに幸の体をゆする。
「幸、幸。ちょっと大丈夫」
幸は、目を開けた。そして上を向いたまま、言った。
「ああ、朱音。よかった大丈夫そうで」
「私のことなんていいわよ。一体何があったの? それに青人は?」
「ちょっと待って。少し休ませて。ちょっと頭がボーっとする」
そう言われて、私は「ああごめん」といって、少し下がった。しかし、幸の現在の様子だけはしっかり診ていた。顔は青ざめていて、まるで自由が利かないように上を向いたまま固定されている。そのほかにもいろいろ目に付く症状があった。
絶対と言い切る自身はないが、これは感電によるものだろう。割と強い電圧だと思う。それにしては、幸がもう、しゃべることができるくらい回復しているのは不自然だが。
しかし、感電か。犯人が誰なのかは、用意に推測できてしまう。軍の仕業だとすれば、今、幸が捕まえられておらず、気絶していた時点でおかしい。私たち五人にもスタンガンが配られたが、私と幸は眠っていた。白羽は、死んでいるし、玄は北島のはずだ。
青人しかいないのだ。
しかも、幸の首元に小さくやけどの跡があった。スタンガンの威力がかなり高くなる場所だ。護身目的でもこんなところには当てない。そして、失神させるなら、何秒か、スタンガンを当てていなければならない。これらのことから、故意に行われたということもわかる。どんな理由があっても許されることじゃない。
私は、幸が何の問題もなく会話できる状態になるまで待った。しかし、時間は十分ほどしか掛からなかった。普通は、もう少し時間が掛かるはずだが、ドラゴンは、電圧に強いのだろうか。
幸は、顔を横に向け、私のほうを向いて言った。
「もう、大丈夫。でも、ごめん。そんなに話せない。早く青人のところに行かなくちゃ」
「その青人に失神させられたんでしょ」
幸は、驚いたような顔をした。幸は、感情を感じるようになってよくこの顔をした。主に幸が知らないことを私が教えてあげたときである。私はいつもその顔を見て得意になっていた。
しかし、今回は、その例外である。私は、怒りを内に秘めながら、幸に言った。
「私は医者よ。そんなことを突き止めるくらいわけないわ。いったい青人と何があったの?」
「青人は、私を守ろうとして、それで・・・・・・」
私は、幸の言葉にため息をついた。そういうことを聞きたいのではない。誰がどう見ても幸が私に何かを隠そうとしていることは明白だった。
「幸、そんなことを聞きたいわけじゃないの。あなたを守るために、青人がそんなことをしたって言うのを疑っているわけじゃないわ。でも私の知っている青人は、例え誰かを守るためでも、こんなことはしないと思う。あなたが好きになった青人もそうでしょう。教えて幸。いったい青人に何があったの?」
私は、幸の目を見た。じっと見た。
幸は、最初は躊躇した様子であったが、ゆっくりと語り始めた。
聞いた内容は、想像を絶するものだった。想像を絶していないはずがない。あの青人が、人を大量に殺し、さらにまた殺そうとどこかへ向ったなんて。
白羽の死は、この出来事すべては、青人を殺戮兵器に変えてしまった。
幸は、全てを話し終わった後、私に言った。
「だからね、朱音。私、青人を止める。青人をああさせたのは、私のせいでもあるから、私が止める。失神したときぼんやりと、青人が港に行くって言ったのが聞こえたから、まず港に行ってくる。朱音はここで待ってて」
幸は、立ち上がった。スタンガンの電流を受けてから、どれくらい時間が過ぎているのかは知らない。しかしそれと失神から目覚めた時間の感覚は、異様に短かった。足元はおぼつかない様子で、これは、青人の元に行くのに相当な時間を要するだろう。しかし、今は、それほど早く回復している理由が分かった。
私は、泣きそうになっていた。一人一人と、昔とは、どんどん変わっていくいつものメンバー。それぞれが、それぞれのために、戦場に自ら向う英雄となっていく。それが、寂しく、悲しかった。私は、声を振り絞り、今にも洞窟を出ようとする幸に言った。
「幸、私からもお願い、青人を助けてあげて。そして幸も無事に帰ってきて。そして、また、いつもの日常に戻ろう」
幸は、それを聞いて、笑った。それは、あきらめの色が深く残る笑顔だった。
私は、幸を見送って、泣いた。泣きじゃくった。できることなら、私も青人を助けたかった。しかし、今の青人は、決して私では止まらないのはもう分かっていた。
それに、もうひとつ助けにいけない理由があった。足が、これっぽっちも動かないのだ。動こうとしないのだ。スタンガンを食らったわけでもないのに。弱い私は、恐怖で動こうともしない。
白羽は、全く医学では。証明できないことをした。青人は、積み重ねられてきた歴史で、もはや遺伝子に禁忌とされたものを簡単に打ち破ってしまった。二人とも、自分以外の誰かのために、奇跡に近いことをなした。そして、幸も、今、驚異的な回復力を見せた。
今思えば、幸に、故意を説明した自分がばからしい。私は、きっと好きな人のために、命をかけることなど出来やしないのだ。
自分の無力さに、醜さに、弱さに、泣いた。そして。そのまますがるように何かに願った。
どうか、あの優しき英雄たちを救ってくださいと。
――守視点――
第一小隊は、無事に崖に到着した。港を出てから、おそらく一時間ほどだろう。ここまでは道が荒れているため、車などは使用できない。
「よし、第二小隊の諸君。おそらくドラゴンとその仲間は、この近くに居ると思う。何か人が通った形跡があればすぐに言ってくれ」
そして、隊員たちは散らばった。割と統率は取れているので、おそらくこの中に、暴力団員は入っていないだろう。
自分も探しにいこうとしたとき、中川中尉が、声をかけてきた。
「あの、竜泉大佐。少しよろしいですか」
「なんだ、中川中尉」
「どうしてこの場所を選ばれたのですか。見たところ、特に人の気配は感じられないのですが」
なるほど、そう言われれば。なぜ自分は、ここを選んだのだろう。考えてみれば、これといった根拠もない。疑問に思うのも無理はないだろう。ただ、私には、なぜか確信があった。
「すまん、中川中尉。特に理由があるわけでもない。ただ、断言は出来る。間違いなく、ドラゴンたちは、この近くに居る」
すると、中川中尉は、少し悲しみを浮かべた笑顔で言った。
「親の勘ですか」
「そうなのかな。よく分からない」
「きっとそうですよ。素敵な、ご家族なんですね」
その言葉は、私に十分な衝撃を与えた。
今まで、あまり息子の相手をしてやれなかった。幸にだって、そうだった。だから自分は、しっかりと幸や青人の父親でいられているのか不安だった。しかし、思っていたよりも私は、あいつらの父親であったらしい。
だが、願わくば、あともう少し早く、その言葉をもらいたかった。蛇塚に屈し、幸を見捨てようとしている私にとって、その言葉は綺麗過ぎた。
そう思っていたとき、一人の軍人がこちらに来て、息を切らしながら言った。
「竜泉大佐。今、足跡のようなものを見つけたのですが、それが、崖のふちで途切れていたんです。だから、その崖を降りてみたのですが、そこで洞窟を発見しました。そしてそこに、佐鳥朱音を発見しました」
私は、少しその知らせに驚いた。長いことこの島で暮らしているが、洞窟など初めて聞いたからだ。
「そうか、分かったすぐに行く」
私は、その軍人の案内の下、朱音のところに急いだ。
洞窟は、実際にあった。崖の下にこんなものがあったとは、知らなかった。
その洞窟の中に入ると、二人の軍人に見張られている朱音を見つけた。朱音の体には、縄が巻きつけられていた。昔から朱音は気の強い子だったが、このときは、軍からも逃げようとせず、ただしおらしく座っていた。
しかし、私を見ると朱音は、やはり目の色を変えた。その目には、涙が浮かんでいた。
「なんで、今頃来たんですか。何で幸のことを裏切ったんですか。あなたのせいで、あなたのせいで」
そして朱音は、そこで言葉を止めうずくまった。溢れ出てくる涙を、どうにかこらえようとしているようだった。
「みんな、少し二人にしてくれ。私が、彼女から、ドラゴンの場所を聞く」
そういうと、洞窟に居た三人は、すぐに出て行った。人の気配もなく聞き耳は立てていない様子だった。
「朱音、青人と幸と白羽はどこに行ったんだい」
「言うわけないじゃないですか。あなたが軍についたせいで、なにがあった知らないくせに」
朱音は、ほぼ叫ぶような形でそう言った。しかし、私は冷静だった。ここであの四人に何があったとしても、顔色を変えてはならなかった。軍は、人質を殺さないように配慮している。死人は出ていないはずだ。それ以外のことで何があっても受け入れる準備は出来ていた
しかし、その後、朱音は続けた。この時朱音がどういう風にそのことを伝えたのかはよく覚えていない。白羽は死に、青人は大量殺人者となった。そのことだけが情報として入ってきただけで、言葉として頭に入れることは、そのときの私には困難だった。
朱音の話はもう終わっていたらしく、今は、私の目を見て、反応を待っていた。
そのとき、急に無線がきた。そして、無線を手に取った私に、情報が流れてきた。竜泉青人が、港で武装して、暴れているという情報が。
私は立ち上がった。ゆっくりと立ち上がった。朱音は私に言った。
「ちょっとどこに行くんですか。これ以上何をすれば気が済むんですか」
私は、一度しゃがみ、幸の縄を解きながら、考えていた。
一応、戦いに来た理由はあった。正義もあった。だがもう、私は、どんなに批判されようとも取り返せないことをしていたのだった。縄を解いた後、少し戸惑っている朱音に言った。
「朱音。いつか必ず、白羽が死んだ罪は償う。青人もだ。だが、今だけは、それは出来ない」
そう言って、私は洞窟を出た。誰かに状況を説明することなく港へと走った。
実際、青人と会ったとき、自分はどうするのか分からない。白羽を殺してしまったのに、まだ幸を捕まえる意思があるのか分からない。あの二人と会ったとき何を言えばいいのか分からない。
しかし、私はただ走った。
まだ眠気を感じるが、何とか体を起こした。どうやらかなりの時間眠っていたようである。
少し頭がくらくらした。そしてそれで、昨日のことを思い出す。私は、昨日倒れていたのだった。頭がくらくらしているのは、船に火をつけられたとき、煙を吸いすぎたのだろう。
しかし、目の前で倒れている幸を見て、調子の悪さは一気に吹き飛んだ。すぐに幸の体をゆする。
「幸、幸。ちょっと大丈夫」
幸は、目を開けた。そして上を向いたまま、言った。
「ああ、朱音。よかった大丈夫そうで」
「私のことなんていいわよ。一体何があったの? それに青人は?」
「ちょっと待って。少し休ませて。ちょっと頭がボーっとする」
そう言われて、私は「ああごめん」といって、少し下がった。しかし、幸の現在の様子だけはしっかり診ていた。顔は青ざめていて、まるで自由が利かないように上を向いたまま固定されている。そのほかにもいろいろ目に付く症状があった。
絶対と言い切る自身はないが、これは感電によるものだろう。割と強い電圧だと思う。それにしては、幸がもう、しゃべることができるくらい回復しているのは不自然だが。
しかし、感電か。犯人が誰なのかは、用意に推測できてしまう。軍の仕業だとすれば、今、幸が捕まえられておらず、気絶していた時点でおかしい。私たち五人にもスタンガンが配られたが、私と幸は眠っていた。白羽は、死んでいるし、玄は北島のはずだ。
青人しかいないのだ。
しかも、幸の首元に小さくやけどの跡があった。スタンガンの威力がかなり高くなる場所だ。護身目的でもこんなところには当てない。そして、失神させるなら、何秒か、スタンガンを当てていなければならない。これらのことから、故意に行われたということもわかる。どんな理由があっても許されることじゃない。
私は、幸が何の問題もなく会話できる状態になるまで待った。しかし、時間は十分ほどしか掛からなかった。普通は、もう少し時間が掛かるはずだが、ドラゴンは、電圧に強いのだろうか。
幸は、顔を横に向け、私のほうを向いて言った。
「もう、大丈夫。でも、ごめん。そんなに話せない。早く青人のところに行かなくちゃ」
「その青人に失神させられたんでしょ」
幸は、驚いたような顔をした。幸は、感情を感じるようになってよくこの顔をした。主に幸が知らないことを私が教えてあげたときである。私はいつもその顔を見て得意になっていた。
しかし、今回は、その例外である。私は、怒りを内に秘めながら、幸に言った。
「私は医者よ。そんなことを突き止めるくらいわけないわ。いったい青人と何があったの?」
「青人は、私を守ろうとして、それで・・・・・・」
私は、幸の言葉にため息をついた。そういうことを聞きたいのではない。誰がどう見ても幸が私に何かを隠そうとしていることは明白だった。
「幸、そんなことを聞きたいわけじゃないの。あなたを守るために、青人がそんなことをしたって言うのを疑っているわけじゃないわ。でも私の知っている青人は、例え誰かを守るためでも、こんなことはしないと思う。あなたが好きになった青人もそうでしょう。教えて幸。いったい青人に何があったの?」
私は、幸の目を見た。じっと見た。
幸は、最初は躊躇した様子であったが、ゆっくりと語り始めた。
聞いた内容は、想像を絶するものだった。想像を絶していないはずがない。あの青人が、人を大量に殺し、さらにまた殺そうとどこかへ向ったなんて。
白羽の死は、この出来事すべては、青人を殺戮兵器に変えてしまった。
幸は、全てを話し終わった後、私に言った。
「だからね、朱音。私、青人を止める。青人をああさせたのは、私のせいでもあるから、私が止める。失神したときぼんやりと、青人が港に行くって言ったのが聞こえたから、まず港に行ってくる。朱音はここで待ってて」
幸は、立ち上がった。スタンガンの電流を受けてから、どれくらい時間が過ぎているのかは知らない。しかしそれと失神から目覚めた時間の感覚は、異様に短かった。足元はおぼつかない様子で、これは、青人の元に行くのに相当な時間を要するだろう。しかし、今は、それほど早く回復している理由が分かった。
私は、泣きそうになっていた。一人一人と、昔とは、どんどん変わっていくいつものメンバー。それぞれが、それぞれのために、戦場に自ら向う英雄となっていく。それが、寂しく、悲しかった。私は、声を振り絞り、今にも洞窟を出ようとする幸に言った。
「幸、私からもお願い、青人を助けてあげて。そして幸も無事に帰ってきて。そして、また、いつもの日常に戻ろう」
幸は、それを聞いて、笑った。それは、あきらめの色が深く残る笑顔だった。
私は、幸を見送って、泣いた。泣きじゃくった。できることなら、私も青人を助けたかった。しかし、今の青人は、決して私では止まらないのはもう分かっていた。
それに、もうひとつ助けにいけない理由があった。足が、これっぽっちも動かないのだ。動こうとしないのだ。スタンガンを食らったわけでもないのに。弱い私は、恐怖で動こうともしない。
白羽は、全く医学では。証明できないことをした。青人は、積み重ねられてきた歴史で、もはや遺伝子に禁忌とされたものを簡単に打ち破ってしまった。二人とも、自分以外の誰かのために、奇跡に近いことをなした。そして、幸も、今、驚異的な回復力を見せた。
今思えば、幸に、故意を説明した自分がばからしい。私は、きっと好きな人のために、命をかけることなど出来やしないのだ。
自分の無力さに、醜さに、弱さに、泣いた。そして。そのまますがるように何かに願った。
どうか、あの優しき英雄たちを救ってくださいと。
――守視点――
第一小隊は、無事に崖に到着した。港を出てから、おそらく一時間ほどだろう。ここまでは道が荒れているため、車などは使用できない。
「よし、第二小隊の諸君。おそらくドラゴンとその仲間は、この近くに居ると思う。何か人が通った形跡があればすぐに言ってくれ」
そして、隊員たちは散らばった。割と統率は取れているので、おそらくこの中に、暴力団員は入っていないだろう。
自分も探しにいこうとしたとき、中川中尉が、声をかけてきた。
「あの、竜泉大佐。少しよろしいですか」
「なんだ、中川中尉」
「どうしてこの場所を選ばれたのですか。見たところ、特に人の気配は感じられないのですが」
なるほど、そう言われれば。なぜ自分は、ここを選んだのだろう。考えてみれば、これといった根拠もない。疑問に思うのも無理はないだろう。ただ、私には、なぜか確信があった。
「すまん、中川中尉。特に理由があるわけでもない。ただ、断言は出来る。間違いなく、ドラゴンたちは、この近くに居る」
すると、中川中尉は、少し悲しみを浮かべた笑顔で言った。
「親の勘ですか」
「そうなのかな。よく分からない」
「きっとそうですよ。素敵な、ご家族なんですね」
その言葉は、私に十分な衝撃を与えた。
今まで、あまり息子の相手をしてやれなかった。幸にだって、そうだった。だから自分は、しっかりと幸や青人の父親でいられているのか不安だった。しかし、思っていたよりも私は、あいつらの父親であったらしい。
だが、願わくば、あともう少し早く、その言葉をもらいたかった。蛇塚に屈し、幸を見捨てようとしている私にとって、その言葉は綺麗過ぎた。
そう思っていたとき、一人の軍人がこちらに来て、息を切らしながら言った。
「竜泉大佐。今、足跡のようなものを見つけたのですが、それが、崖のふちで途切れていたんです。だから、その崖を降りてみたのですが、そこで洞窟を発見しました。そしてそこに、佐鳥朱音を発見しました」
私は、少しその知らせに驚いた。長いことこの島で暮らしているが、洞窟など初めて聞いたからだ。
「そうか、分かったすぐに行く」
私は、その軍人の案内の下、朱音のところに急いだ。
洞窟は、実際にあった。崖の下にこんなものがあったとは、知らなかった。
その洞窟の中に入ると、二人の軍人に見張られている朱音を見つけた。朱音の体には、縄が巻きつけられていた。昔から朱音は気の強い子だったが、このときは、軍からも逃げようとせず、ただしおらしく座っていた。
しかし、私を見ると朱音は、やはり目の色を変えた。その目には、涙が浮かんでいた。
「なんで、今頃来たんですか。何で幸のことを裏切ったんですか。あなたのせいで、あなたのせいで」
そして朱音は、そこで言葉を止めうずくまった。溢れ出てくる涙を、どうにかこらえようとしているようだった。
「みんな、少し二人にしてくれ。私が、彼女から、ドラゴンの場所を聞く」
そういうと、洞窟に居た三人は、すぐに出て行った。人の気配もなく聞き耳は立てていない様子だった。
「朱音、青人と幸と白羽はどこに行ったんだい」
「言うわけないじゃないですか。あなたが軍についたせいで、なにがあった知らないくせに」
朱音は、ほぼ叫ぶような形でそう言った。しかし、私は冷静だった。ここであの四人に何があったとしても、顔色を変えてはならなかった。軍は、人質を殺さないように配慮している。死人は出ていないはずだ。それ以外のことで何があっても受け入れる準備は出来ていた
しかし、その後、朱音は続けた。この時朱音がどういう風にそのことを伝えたのかはよく覚えていない。白羽は死に、青人は大量殺人者となった。そのことだけが情報として入ってきただけで、言葉として頭に入れることは、そのときの私には困難だった。
朱音の話はもう終わっていたらしく、今は、私の目を見て、反応を待っていた。
そのとき、急に無線がきた。そして、無線を手に取った私に、情報が流れてきた。竜泉青人が、港で武装して、暴れているという情報が。
私は立ち上がった。ゆっくりと立ち上がった。朱音は私に言った。
「ちょっとどこに行くんですか。これ以上何をすれば気が済むんですか」
私は、一度しゃがみ、幸の縄を解きながら、考えていた。
一応、戦いに来た理由はあった。正義もあった。だがもう、私は、どんなに批判されようとも取り返せないことをしていたのだった。縄を解いた後、少し戸惑っている朱音に言った。
「朱音。いつか必ず、白羽が死んだ罪は償う。青人もだ。だが、今だけは、それは出来ない」
そう言って、私は洞窟を出た。誰かに状況を説明することなく港へと走った。
実際、青人と会ったとき、自分はどうするのか分からない。白羽を殺してしまったのに、まだ幸を捕まえる意思があるのか分からない。あの二人と会ったとき何を言えばいいのか分からない。
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