国中が親友のドラゴンを奪い取ろうとするので、僕らが死ぬ気で守ります

笹原うずら

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家族

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――幸視点――

 私は、港への道を歩いていた。足の痺れはまだ残っていて、気付けば、太陽が沈みかけていた。

 しばらく歩いたとき、急に人の気配がした。おそらく軍人だろう。私は近くにあった建物の陰に隠れた。

 相手に見つかることのないよう私は、慎重に顔を出した。そしてその顔に私は、電撃的なショックを覚えた。

 その人は、父さんだった。父さんは周りを見ず、私にも気付くことなく、ただ走り去って行った。そして、その剣幕な顔と今向っている先を見れば、何をしようとしているかは、一目瞭然だった。青人のところへ行こうとしているのだ。

 私は、父さんを呼び止めようとした。父さんが、青人のところへ行き、何をするのかを聞きたい気持ちはあったが、それよりも父さんがこの作戦に参加した理由を聞きたかった。今の状態の青人を止めたら、自分は軍に捕まり、戦争に行かされるかもしれない。そして、そこで命を落とすかもしれない。だからその前に、父さんが、私を犠牲にして守りたいものが、なんだったのか知りたかった。

 しかし、父さんの背中を見たとき、私の声は出なかった。声を発しようとしても、それは、音にさえならなかった。

 青人から言われたものの、私は、まだ怖かった。本当は、父さんが、ただ利益のために私を捕まえようとしている可能性を否定できなかったのだ。青人に分かっているといったのは、青人に心配を掛けさせないためである。

 私は、そのまま口を閉じた。そして、前を走っていく父さんを見送り、念のため父さんと違う道を行った。


――青人視点――

 ずいぶんと時間がたった。日も既に暮れてかけている。しかし、俺はまだ、戦っていた。

 体感的に、もうすぐ小銃の弾が切れるころである。俺は、後ろに掛けてあるほうのアサルトライフルに持ち替え、再び引き金を引く。

 血のにおい。銃弾の音。叫び声。それら全てが、この小さな島に飛び交っている。

 船は、既に二隻ほど沈めた。撃った人の数は、既に何十人だろうか。

 ふと、見ると一隻の船に、妙な男が乗っていた。見たところ何かを構えているように見える。どうやらカメラらしい。

 その男が乗っていた船は、半田たちが乗っていた船と同じようなものであった。そうなると、蛇塚の部下だと推測できる。おそらく、ドラゴンの戦闘力でも見るために、カメラを持ち出したのだろう。

 しかし、今、俺にカメラが向けられているということは、俺のこの行いも世間に広まるのだろうか。それなら、俺は、幸を逃がした後、大犯罪者として、死刑にでもされるのだろうか。

 どうでもいいか。俺は、カメラの男は、見逃すことにした。もともと戦闘に無害なものだ。わざわざ狙う必要もない。たとえどんなことがあろうとも俺はこの行為を、後悔しないのだから。

 また引き金を引く。また人が死ぬ。もはやその行為に俺は、何も感じなくなっていた。いや、その行為どころか、もはや自分自身が心のない機械になりかけている。人を一人死なせるために、自分の何かが抉られていく。

 十年前のことを思い出した。正確には、九年と三六四日だが。幸に、幸という言う名前をつけたときだ。確かその理由は幸が感情を理解して、幸せだと感じられるようにだった。

 なあ、幸。俺たちは、今、幸せなんだろうか。


――守――
「なんだ、これは」

 目の前には地獄とも言っていい光景が広がっていた。一人の男の中心に幾つもの死骸が横たわっていた。男は、血にまみれて、まだ次々と死骸を増やしていく。多数の相手を蹴り飛ばし、殴りつけ、とどめに引き金を引く。幾多もの敵を同時に相手して、次々とそれをなぎ払っていく。まるで、その男は遠い昔の英雄であり、その人物に対する感情は、もはや恐怖しかなかった。

 しかし、目の前の光景が想像しうる最悪の光景に見えているのは、視覚的なものだけではなかった。何よりひどいなのは、この光景を作り出しているのが、紛れもなく自分の息子であるということだった。しかも、その息子の目には、一度見たことのある光が宿っていた。

 それは、自分の野望のためなら何でも犠牲にし、特に敵に関しては、石ころ程度にしか思っていない目。そう、蛇塚の目である。

 私はその場で、足を止めた。さっきまで全速力で走っていた体は、寒気を感じていた。そして、それと同時に足が凍ったように動かなくなった。私は、倒れるようにひざを突いた。

 ――あれが息子の姿なのか。私の知っている息子は、あそこまで躊躇なく人を殺せるのか。

 もはや、あれに勝てる意欲がわかなかった。勝てるはずなどなかった。港を守っていた軍隊には、私よりも強いやつなどいくらでもいた。しかし、彼らですら勝てていない。それは、銃の性能の差でも、身体能力の差でもないのだろう。

 私達は、最初は人を殺そうとする気などなかった。誰も殺すべきではないと考えていた。

 しかし、青人は、最初から私達を殺す気だった。おそらくその差なのだろう。現代において決してあってはいけない、その思想の差が彼らと息子との勝敗を決定しているのだろう。

 私は、呆然と青人が人を殺す様子を眺めていた。このままだったら、いずれ見つかり殺されてしまうだろう。ただしかし、おそらくそれが、白羽と青人に対する償いなのかもしれない。

 そのときふと、目に一丁の拳銃が目に入った。

――あ、あれは!

 そして、それをみて私はすぐに私が泉に渡した拳銃だということがわかった。

 私は、急いでそこまではって進んだ。その銃を手に取ったとき、目の前にあったのは、腹に穴が開き、眠ったような顔をしている泉だった。

 泉とは、中学からの付き合いであった。高校で一度離れたが、同じ防衛大学に進むことになった。私以外の者に対してもとても友達思いなやつで、おそらく私の一番の親友となると思う。
 
 その親友は今死んだ。

 私は立ち上がった。そして青人のほうへと進んでいった。

 なぜ、一瞬あきらめたのか甚だ疑問である。息子は、泉を殺したのだ。これからの人生を踏みにじり、その家族の思いを踏みにじり、そして今もなおその行為を続けているのだ。

 誰がどう考えようとも息子は間違っている。そして、息子の間違いの責任をとり、それをただすのは親の役目である。

私は、右手に拳銃を持ち、それを強く握り締めた。


――幸視点――

 港に着いた。そしてそこには、真っ赤に染まった青人が居た。

 この青人を見るのは、二回目である。しかし、一回目と同じような衝撃が、私にはあった。きっとこれは、何度見ても慣れることの出来ない、いや慣れてはいけない光景なのだろう。

 耳をふさぎたくなるような悲しさが聞こえた。目を覆いたくなるような残酷さが見えた。

 私は、その二つの衝動をこらえるためにこぶしをきつく握り締めた。しかし、溢れ出てくる涙は、止められはしなかった。そして、その涙の理由は、皮肉なまでによく理解している。

 軍人の皆さんがかわいそうだと思うし、青人のことが怖いとも思う。しかし、その二つはきっと泣くほどのものではないのだろう。私は、前の青人と違って、それほど泣き虫なわけでもない。ならば、これは何の涙かと言われれば、それは、青人の顔に対するものだった。機械的に血を流し、機械的に引き金を引く表情。しかし私には、しっかりとその顔から、悲しみが見て取れた。

 青人は、自分が人から離れていくのが悲しいのだ。しかし、それでも彼は、もはや自分の意思と関係なく、引き金を引いてしまうのだ。そんな青人を見て、私は泣いた。

 私は、戦争についてわかっていなかった。日本史や世界史の授業、そして、戦争に関する講演などはしっかり聞いていたが、そもそも人間ですらない私は、どこか他人事のように考えていた。しかし、今、私は戦争を少し知ったと思う。実際に本当の戦争を経験した人には敵わないだろうけど、普通の人よりは、少し分かったと思う。戦争は、きっと負けた人はもちろん、勝った人までつらい思いをするのだ。一生、人として何かが欠如した自分を後悔するのだ。国家的には潤っても、精神は乾いてしまっているのだ。

 私は、こぶしのまま涙を拭き、青人のほうを向いた。青人は、次の兵に銃を放とうとしているところだった。しかし、その銃弾は、放たれても兵の頭を貫くことはなく、少し頬に傷をつけただけだった。

 そして、青人は、こちらのほうを向いた。私は、これが最後のチャンスだと思い、声を出した。少し離れていたので、私は大声を出そうとした。

「もう、やめて」

 気持ちとは裏腹にその声はかすれてしまっていた。しかし、青人はまるでその声が聞こえたかのように、一瞬だけ止まった。

 ――バンッ

 そのとき、私の耳に銃声が聞こえた。


――青人――

 俺は、特に疲弊もなく、外傷もなく、淡々と戦っていた。もう、残りの船は片手の指で足りるぐらいだし、敵の数も最初から、半分ぐらいにまで減っていた。

 敵から次々と繰り出される弾丸をうまく交わし、現在の状況を瞬時に判断し、人に優先順位をつけ銃を放っていく。

 俺は、戦いながらあることを考えていた。それは、船を全て沈め、兵を全滅させた後、何をするかだった。苦戦はしてはいるが、このペースなら何もなければ、十分その可能性にたどりつく。考えて損はないだろう。

 といっても、よくよく考えれば、俺に未来などあるのだろうか。例のカメラを持っている兵の船はまだ沈めていないので、俺がこれほど人を殺していることは日本中に伝わるだろう。そうすれば、死刑確定である。もっともそのころには、幸はもう竜の島へと帰っていて、もう二度と会う機会はない。ならば、死んでもよいかもしれない。

 そんなことを考えていたとき、視界の端に、急に一本の木の後ろから幸の顔が見えた。

 なぜこんなところに居るんだ。失神から立ち直るのが早すぎないか。疑問に思ったことは、これ以外にもたくさんあった。だが、それよりも、ひきつけられたのは幸が泣いていたことだった。

 少し、俺の回転力が落ちた気がした。それだけ幸の涙が唐突に来ることは、俺に衝撃を与えた。

 洞窟にて、幸は、今と全く同じ涙を流していた。それがおかしいのだ。俺は、幸に対し、スタンガンを使い、失神させるようなまねをした。そして、未だに、恐怖すら感じるくらい人を殺し続けている。それなのになんで、幸は、俺のために涙を流してくれるんだ。

 心が揺らいだ。戦いの最中になくなっていたものが、少しずつ修復されている気がした。目から涙が流れかけていた。

 しかし、俺は、その感情を振り払い、また一人を撃った。ここに来る前に決めたはずだ。幸に嫌われようとも、俺はこのやり方で幸を守ると。

 しかし、次の一人に銃を撃とうとしたとき、俺は無意識に手を少し動かした。その行動は弾道に誤差を生じさせ、男の頬を傷つけただけだった。その男は、地面に座り込んだ。

 戦いをやめる気はない。しかし、今、反射的に行動してしまったように、幸が居るとどうしても先頭に影響が生じる。俺はスタンガンを仕舞っているポケットに手を入れ、こうでもしなければ戦えない、自分の情けなさに身を震わせながら、幸のほうを向いた。

 そのとき、幸が言った。幸との距離もかなりあり、幸の声もかすれ声だったが、俺の耳には、確かに届いた。

「もう、やめて」

 そして、俺の体は、一瞬だけ動かなくなった。また、無意識に体が止まってしまったのだ。しかし、その一瞬が命取りだった。

 殺気を感じて、その方向を見る。銃声が鳴る。

 そこに居たのは、父親だった。
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