蒼の十字架と裏切りのアリシア

クロハ

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悲しみ 

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口は災いの元
不用意な発言というのは常に自分自身に災いを招くものだ。
「八十…八十一…。」
今数字を数えているののは湯船のなかでやるそれではなく炎天下の元、
私は訓練場と呼ばれる外庭の石畳の上で必死に腕立て伏せを行っていた。

「ハァ…ハァ…。くっ…。」
「こんなことでは、いつまで経っても終わりませんよ!」
メイド改め鬼教官サリエルが全身から汗を流す私を見ながら檄を飛ばす。
今の彼女の眼差しはどこまでも冷ややかで躊躇する気は毛頭ないようだ。
こんな何の面白みもないことをやらされるハメになったのは、ある一言が原因だ。
少しでも早く皆の役に立ちたい!
リハビリと称したトレーニングを続けて二週間が経ち、私は義手を自由自在に扱えるようになると同時に
義手や義足を作り出す工場施設で働く人々と仲を深めながら私は、彼らからそれらの取り付け方を学んでいた。
これからは定期的に交換が必要なのもあり、毎回人頼みではいけないと感じたからだ。
そしてリハビリを終えたその日の夜、酒の席へとホプキンに言われるがまま誘われ気付くと酔っ払っていた私は握っていた大酒を片手に途中から顔を出したイヴァンの前でそう豪語したのが原因だ。
するとイヴァンはその言葉が嬉しかったのか少し微笑んで見せるとその後日彼に呼び出された。
二日酔いに悩まされる頭を抱えながら彼の書斎を訪れると
「いつまでも城の中で散歩するだけでは退屈だろう、ここから少し離れたところに軍の養成所がある。」
本当は少しずつ、外の環境に慣れて欲しい所だが実の所あまり時間がないのが現状だ。そこで君にある任務を与える。」
「イヴァン様…。」
同席したサリエルも物珍しそうに聞いている。
「この国を変えるには、革命的な行動が必要だ。政治上のやり取りや民衆への訴え、そして武装蜂起なども。」
「しかし、それを起こすにはまずある程度敵の内を把握する必要がある。それで君には軍の養成所へと入り内部から情報の収集にあたってもらう。必要な書類はこちらで準備するから楽しんできたまえ。」
突然のことに思考が追いつかない。
軍ってことは闘うための訓練ってことだよね…。
イヴァンやサリエルには十分世話になっているし、私自身今の環境に少し退屈さを感じていたから反論はないのだけれど…。
「ああ、それとサリエル。彼女に向こうで即戦力となるよう訓練をつけてやってくれ。」
「…へ?」
その言葉を境に私は地獄を見ることになった。
まずは城の周囲を十週するところから始まり上体おこしや腕立てなどの運動、さらには格闘戦までやらされる。
全身の筋肉が悲鳴を上げるほど疲れた後にようやく鬼教官サリエルの訓練による一日は終了する。
浴場で死んだようにぐったりとしていた私をアニラにみっともないと咎められつつ、世話をしてくれる姿にありがとうと感謝の言葉を口にしながら私は眠りにつく日々を過ごし始めた。

「いよいよ明日ですね。」
「ええ、今までありがとうアニラ。」
ふと言葉を投げかけられ私は彼女に今までに世話になったお礼を述べる。
「本当ですわ、貴方の世話は本当に大変でした。私がいなくても一人でやっていけるか心配ね。」
「もしかしたら…いや、もしかしなくてもアニラがいないとダメかもしれない。」
「まったく…困った人ですね…。しゃべり方も段々男性みたいになっていますし、心配ですわ。」
相変わらず否定的な発言の彼女だが、最初の時よりはかなり打ち解けて距離が近づいたような気がする。
「あのさ、アニラ…。」
「何ですか?」
「…いや、やっぱりいいや」
出来れば自分の知る友人が近くにいてほしいと思うときもあったが、それはおこがましい考えだ。
イヴァンに頼むという手もあったが、自分の道に人を巻き込むわけにはいかない。
そんな納得しやすい言い訳を考えながらバルコニーで物思いにふけていると、サリエルが現れる。
すると、十分過ぎるほどの金貨を持たせられると同時に外出の許可が出された。
何でももう教えることは全部やった、明日に備えて今日は楽しんでこいとのことだ。
「あ、あの…ありがとうございます!!」
私は颯爽とどこかへ去ってしまった彼女の方に深々と頭を下げた。
「さて…。」
渡された硬貨を手にすぐにでも外に出ようと考えたが、立ち止まる。
一度ホプキンらに連れられて酒場へと外出したことはあったが街の道自体はまったく分からないから案内が欲しいというわけで…。
「まったく…どうして私が…。」
ぶつぶつと文句を言いながらも、普段着を着て街案内をしてくれるアニラ。
彼女に一緒に街へ出掛けたいと話したとき目を見開いて驚いていたが、「仕方ないわね」と少し嬉しそうな表情で承諾してくれた。
彼女によると、私たちの今いる商店街が中央政府の中で一番賑わう場所で周りには様々な人々が所狭しと店を開いている。
様々な屋台のような店があるなかでも私は物珍しい食べ物に惹かれ、つい手に取ってしまう。
城内での豪華な食事に何も文句はなかったが、たまにはこういった庶民的なものに手をつけるのも悪くない。
二人分の食べ物を手にお金を渡しアニラへ手渡す。
途中何度か彼女がお金を出そうとしたが受け取りはせず、その後も二人での時間を楽しんだ。

商店街の合間にある公園のベンチに腰を下ろし、目の前にある池を二人で見つめる。
「今日はありがとう、アニラ。明日出掛ける前にきてよかった。」
「いえ…、私も楽しかったわ。ありがとう…アリシアさん。」
「さんはつけなくていいよ、何か変な感じだし。」
「ふふっ、そうですね。では…。」
「ありがとうアリシア。」
「えぇ。」
一緒にいる時間が長かったものの、こうして彼女と二人きりで出掛けて話をしたのは初めてだ。
明日には彼女と別れてしまうことに若干寂しくもあるけど。
「そういえば、アニラはいつからあの城のメイドになったの?」
「それは…。……。」
気まずい質問をしてしまったのか彼女が軽く俯き表情が前髪に隠されてしまう。
「ごめん!聞いちゃいけなかったかな。」
「いえ、そんなことはありませんが…」
「!?アリシアッ。」
何かを感じ取ったのか慌てて私を抱えたかと思うと、身体ごと持ち上げて跳躍。
人間離れした動きで一瞬で十メートルほど離れた場所へ移動する。
「アニラ…?一体何が…。」
そう言おうとした瞬間爆音とともに自分達の座っていたベンチが粉々に砕かれた。
「相変わらず反射神経はいいみたいだな…アニラ。」
沸き立つような煙の中から顔を出したのはごろつきのような男の集団。
こちらをイラつくような目で見ている。
「お前の所の主人のせいで商売は滅茶苦茶だ、どうしてくれる。」
「ふんっ、人を売るようなことを仕事にするような畜生に話す言葉はありませんわ。」
「よくそんな言葉を口に出来るもんだ。」
「元はてめぇの親父が始めたことだろうが、それをよく畜生と呼べるもんだ。」
「……。」
急に襲いかかってきた彼らと面識があるようだが…。
「まぁ、俺たちはイヴァンに用があるんだ。お前は取引の材料として俺たちの言うことに従えばいい。」
「そんなこと、私が大人しく受け入れるとでも?」
「だから、こうするのさ。」
すると男は一瞬でアニラの前に移動したかと思うと大振りで巨大な拳を振り落とした。
「くっ…!!」
私を庇おうとしているのかそれを正面から受け止める。
「お前は隣にいる女を抑えろ。こいつは俺がやる。」
「アリシアッ!逃げて!」
逃がさないとばかりに子分らしき男が私に襲いかかる。
今にも彼らの手が触れようとしたその時
「!!」
自分が思うより早く身体が反応していた。
掲げられた私の足は横の軸を描きながら男の横顔に綺麗な蹴りを入れていた。
「何だと…こいつも異能持ちか!」
蹴り飛ばされた男は面白いように五メートルほど吹っ飛んだ後、倒れこんだまま動かなくなった。
「余所見している暇がありまして?」
隙を突いたようにアニラが男の手をどけると同時に正拳を繰り出した。
ドンッという大気を揺るがすような音が響くと同時に男は一歩たじろぐ。
「チッ…。」
男は倒れた男を無視したまま人間離れした跳躍力でどこかへと飛び去ってしまった。
「ごめんなさい…。私のせいで…。」
後で二人で食べようと買っておいた食べ物の袋はベンチに置いていたせいでぺちゃんこだ。
「アニラのせいじゃないよ…。それよりも…。」
自分を無理に庇ったのかアニラの普段着は所々が破けていて、右腕からは血が滲んでいる。
「もう今日は早く帰ろう。」
私は足をくじいていた彼女の肩を持って帰路に向かう。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
俯いたまま悲しそうに謝罪の言葉を口にする彼女に私はかつての自分を重ねているようで居たたまれない気持ちに浸っていた。
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