(完結)婚約破棄ですか…いいでしょう!! おい国王! 聞いていましたね! 契約通り自由にさせてもらいます!!

にがりの少なかった豆腐

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これから貴方と過ごす場所

閑話 取り残されたギルド職員

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 村に取り残されていたギルド職員視点

 ―――――

「どうしたものか」

 薄暗い小屋の中。声に出しては見たものの今やれることは何一つない。
 既に自分の周囲には魔物が蔓延り、隠れている場所から出て行けばすぐにでも見つかりかねない状況だ。辛うじてここなら身じろぎしたり小さな声を出したりする程度であれば気付かれることはないだろう。

 しかし、もう持ち込んだ食料は尽きた。最後に食べてからそれほど時間が経ってはいないのでまだしばらく持つだろうが、現状を鑑みれば誤差みたいなものだ。
 
 現状を打破する方法は存在しない。もともと監視目的でこの村に滞在していたのだから、戦うための武器は持ち合わせていないし、そもそも自分は戦うのが得意な方ではない。だからこそ、こうやって魔物を監視する役目を負ったのだ。
 だが、その所為でこのような目に合っているわけだ。これなら苦手だからと逃げずに少しでも戦闘訓練を受けておけばよかった。人よりも体格が悪いからそれほど強くはなれなかっただろうが、今の状況を打開するくらいの強さは得られていたかもしれない。

 隠れているため、そんなことをつらつらと考えてしまう。ああしていればこうしていればというのは、今更考えたところで意味はないことだ。考えたところで何が変わることはない。

 さて、本当にどうするべきだろう。食料も尽きたのでずっとここにいれば餓死することになる。そうなれば、一か八か、ここから出て魔物から逃げ果せるのに賭けるか。それとも助けが来ることに賭けるか。

 この村が魔物に占領される前、同じ任務に就いていた同僚が逃げてからおそらく4日は経っている。しかし、救助が来たようすは感じられない。あの同僚が逃げる途中に魔物にやられてしまったというなら仕方がないが、逃げ果せておいて何もしていないのであれば色々と物申さなければならない。

 自分が逃げ込んだ場所のお陰で今のところ魔物に見つかってはいないが、正直ずっとここにいるのは嫌だし、ここで死ぬのも嫌だ。むしろここで餓死して死ぬのなら魔物に食われて死んだ方がマシだと思えるくらいだ。

 咄嗟だったとはいえ、農地に使う肥料を保管する小屋に入ったのは正解だったが、失敗だった。
 畑に使う肥料はとにかくくさい。その所為で、既に自分の鼻はろくに機能していない。ある意味それによって助かってはいるが、初日は本当に辛くて酷かった。
 
 しかし、その匂いのお陰で魔物の鼻を誤魔化し今まで見つかっていないのだから、正解だったのだろう。おそらく他の小屋や家に入っていれば今頃魔物の腹の中にいたはずだ。

 やはりここは賭けに出て、ここから出た方がいいだろう。救助を待っていた方が危険は少ないかもしれないが、ギリギリまで待って来なかった場合に、その段階でここから抜け出せるほどの余力があるとは思えない。それにそれまで見つかっていないという保証もないのだ。

 そう決めてからここから出て逃げ出すための準備を始める。
 持つ道具は最低限。かさ張るようなものは逃げる時の邪魔になるのですべてここに置いて行く。靴も問題なし。服装は……まあ臭いが酷いだろうがこれ以外にないので仕方ない。

 準備も整ったので静かに外の様子を確認するために倉庫の扉を小さく開く。
 そして、少し先にあった、赤い目と視線が合った。

「嘘だろ」

 どうしてあんな近くに魔物が居るのか。まるで、自分の事を待ち伏せしていたかの如くの位置だ。しかもぱっと見ではあるが、居たのは1匹だけではなかった。視線が合ったのは確かに1匹だけだが、他にも2匹自分の視界に映っていた。

 このまま外に出れば確実にやられる、そう判断してすぐに倉庫の扉を閉めようとするが、既に魔物はこちらに向かって走り出していた。距離にして10メートルもない。そんな距離、魔物にとってはないも同然だった。

「うわああぁぁぁあ!!」

 ギリギリのところで扉を閉めることは間に合ったが、魔物が扉に向かって突撃して来た衝撃で扉どころか倉庫そのものが大きな音を立てて軋んだ。

 あの魔物たちは絶対自分がここから出て来るのを待っていたのだ。食糧事情の関係ですぐに自分を仕留める必要がなかっただけで、自分がここにいることは知られていて、たまたま見逃されていただけに過ぎなかったのだ。

 魔物が倉庫を攻撃している。そのたびに扉が歪み、外の景色がより見えて来る。これで外が完全に見えるようになれば、その時が自分の最後だろう。

 どうすればいい? どうすれば助かる?

 そう焦る気持ちとは裏腹に、冷静になり始めている自分がいる。

 どうせ何をしても死ぬのは変わりない。
 脚の早さでは敵うことはない。力の強さでもそうだ。何をやったところで結果は変わらないだろう。

 いっその事、1匹でも道連れに出来れば他の場所での被害を多少とはいえ、少なく出来るのではないだろうか。
 今持っている武器といえば、辛うじてナイフくらいだが、1匹と差し違えるくらいであればどうにかなるかもしれない。

 そう覚悟を決めた瞬間、とうとう倉庫の扉が大破し、倉庫の中に1匹、1匹と魔物が入って来た。

 それを見てナイフを構える。先に腕をやられたら終わりだ。
 そして、自分の事を視界に抑えた先頭に居た魔物がこちらへ向かって飛び掛かって来る。

 思った以上に飛び掛かってきている魔物が大きかったため、決意が揺らぎ、足が微かに震える。
 だが、覚悟を決めた以上、やらねばならない。無駄死には御免だ。

 そう思い、ナイフを魔物へ突き出そうとした瞬間、目の前を炎が覆いつくし、赤い炎以外、何も見えなくなった。

 そして炎が消え視界が元に戻った時には、目の前にいた魔物は1匹残らず目の前から消え失せ、倉庫も既に原型をとどめていない。

「ひいぃぃやあぁぁぁ!」

 あれほどの攻撃が出来る魔物となれば、対峙する以前の問題だ。目が合っただけで殺される、目の前に立つことすら許されないだろう。もしかしたら次の瞬間にも殺されているかもしれないし、遊び半分でなぶり殺しにされるかもしれない。

 そう思った瞬間、それまで持っていた気持ちは霧散し、無様にも這う這うの体で攻撃が来た方とは反対側に逃げ出していた。

「あら、人がいたのね。誰も見なかったから全員避難していると思っていたのだけど、取り残された感じかしらね」
「……え?」

 逃げた方向の反対側、自分の背後から人の声が聞こえて来たので咄嗟に足を止める。その所為で盛大に転んだが、そんなことはどうでもいい。
 
 まさか、まさか、まさか。こんな瞬間に助けてもらえるとは何ということか。これは神の導きか? 

「大丈夫かしら?」

 そう言って自分のことを心配そうに見て来た女性は、空から降る光も相まって本当に女神のように見えた。
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