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追加閑話
森の中での生活
しおりを挟む隠れ家に住み始めて半年ほどが経過した。
ここに住み始めてから少し経ったくらいにあの辺境伯が国家反逆罪で処刑されたと言う話を小耳に挟んだが、至極当然な結果だと思う。そして、それの手伝いをしていた俺たちも捕まれば同じように処刑されることになるのは目に見えているので、いまだに隠れ家を出て生活することはできない。
いっそのこと他の国へ移動してしまえばもう少し自由に生活できると思うが、指名手配されている犯罪者が国境門を越えるのは不可能に近いので諦めている。
実際、俺たちが指名手配されているかどうかは知らないが、あれだけのことをしているのだからされていてもおかしくはないだろうし、されていなかったとしても国境を越える際見つかって捕まる可能性の方が高い。
半年も生活していれば隠れ家に備蓄してあった食料は尽きている。
当時から所持していた金銭はほとんど持っていなかったので、今では近くの町でひっそりと名前を変え傭兵として活動し、それで金銭を稼いでいる。
アイリは足の怪我は完全に治ることはなかった。今では日常的に杖を使って移動しなければならないこともあり、アイリは傭兵の活動はせず家にいることが多い。
アイリは元々、装飾品を作るのが趣味だったらしく、俺が傭兵の活動をしている間に家で装飾品を作り、俺が傭兵活動の際に街へ売りに行くといった感じでお金を稼いでいる。
「アイリ、帰ったよ」
「んー」
傭兵の活動を終えてある程度の食料を買い込み、家に戻るとアイリにそう言葉をかける。作業をしているからというのもあるのだろうけど、アイリは素っ気ない返事をしてきた。まあ、これはいつものことなので気にしない。
「アイリの作ったものは全部売れてた。これが売り上げね。それでこれが頼まれていたもの、ここに置いておくよ」
アイリが作業している机の端に置くと、またこちらを見ず同じような返事が返ってきたが、先ほどよりも少し高めの声だったので、自分が作ったものがすべて売れていたことが嬉しかったのだろう。
日が傾き少し空が暗くなり始めたら夕飯の時間だ。
ほとんどが木で出来ている隠れ家の中を明るくするには魔道具を使う必要がある。俺もアイリも保有魔力は多い方だが、1日中家の中を明るくするのに必要な魔力量は相当な量になる。できないわけでもないが、何かあったときのために無理にする必要はないので、普段は少しの時間しか魔法で明かりを灯すことはない。
「アイリはかなり料理がうまくなったよね」
目の前に並んだ料理を見る。今では食事のほとんどをアイリが作るようになっている。最初のうちは失敗することが多かったけれど、最近は失敗することなくおいしい料理がテーブルの上に並ぶ。
俺もアイリが作れない日に作るので多少できるようになったけれど、アイリの方がうまくなっているのは回数の差が大きいと思うけど、もともと手先が器用だったのが大きいのかもしれない。
「やらなきゃいけないから、いやでも上達するわよ。そもそもできなかったのはやる機会がなかったからだし」
確かに元の生活ではこんなことをする機会なんて存在しない。あの時がどれだけ恵まれていたのか、今になってよくわかるようになった。
まあ、理解したところで元の生活に戻れるわけではない。それに、今の生活もなかなか悪くはないと思う。あの頃みたいに周囲から比較されることもないし、しがらみも少ない。
自力で生活するための資金を稼がなければいけないのは面倒ではあるが、王族や貴族として生活するよりはかなりましだ。
今後も今と同じような生活を送り続けられるかはわからないが、できればこの生活を長く続けていきたい。
「何ぼぅっとしているのよ。料理が冷めるでしょ」
自分が作った料理を放置されていることが不服なのか、アイリが少し怒ったような拗ねたような口調で注意してきた。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「そういうのは後にしなさいよ。もうそろそろ暗くなるんだから、食べるのも難しくなるわよ」
「すぐに味わって食べるよ。ありがとう」
なんだかんだ怒っていても心配してくれているアイリに感謝しつつ、目の前に出されている夕飯をしっかり味わって食べる。
こんな生活がいつまで続くかなんてわからないけれど、できるだけ長くこの生活を続けていきたい。
こんなことをアイリに言えば辛辣な言葉が返ってきそうな気もするけれど、アイリもこの生活になってからは昔よりものびのびと過ごせているようだし、案外内心は同意してくれるかもしれない。
「アイリ、今の生活はどう思う?」
すでに夕飯を食べ終え、正面から俺が食べている様子を見ていたアイリに問いかける。アイリはその問いの意図がつかめず少し首を少しかしげていたが、何かを察したのか呆れと少しの恥ずかしさが混じったような表情になった。
「……まあ、悪くはないわね。あなたが少し頼りないのを除けばだけど」
「手厳しいなぁ」
アイリの返しに苦笑いを浮かべながら、本当にこの生活がずっと続けばいいのにと、そうしみじみと想った。
―――――
これにて閑話も含めて完全に完結となります。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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