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追加閑話
堀の中からの脱出
しおりを挟む王子視点
―――――
今までもうちょっとかんばっていればよかったと後悔ばかりだけど、アイリにあんなことを言われたら頑張らないと駄目だよな。
まあ、いつもどおり抑揚のない声だったから本心ではないだろうけど、それでもそう言ってくれるってことは少なからずそう思ってくれてはいるはず。アイリはどうでもいい事は本当に考えないから、一切そう思っていなかったらああいう発言はしないし出来ないんだよな。
それに、演技も結構下手だ。自分では完璧に出来ていると思っているようだけど、声も表情も露骨だから嘘とか演技だってわかりやすいんだよね。まあ、そういうところが可愛いんだけどさ。
さて、この堀の中から脱出するためにどうすればいいのかを考える。
堀の壁はほぼ垂直で、強引によじ登るようなことはできそうもない。そもそも、あまり動けないアイリも同じように脱出させなければならないからこの方法は駄目だ。
だったら堀の壁を掘って削って坂道を作ればいいと思ったが、俺の魔法では堀の壁を掘るどころか削ることもできなかった。
後、残るは俺たちと同じように堀の中に落ちてきた魔物の死体を積み上げてそれを足場に上まで登るくらいだが、それができるほどに数があるのかはわからないし、アイリのことを考えると避けた方がいいと思う。さっき堀の壁から離れていった時に魔物を怖がっているように周囲を必死に伺っていたし、できる限り負担はかけたくない。
いつもみたいに気丈に振る舞ってはいるけど、明らかに無理をしているのは見れば分かる。それに魔法で怪我を治したといってもあまり状態は良くない。ここに落ちてきてから半日どころか一日近く経過しているんだ。できるだけ早くここから脱出して、安全なところで休んだ方がいい。
そんなことを思いながらアイリのことをこっそり見ると、自分で作ったのか土でできた背もたれに身を預けていた。
……あれ?
「アイリ、その背もたれって…」
「何? 自分で作ったんだけど、文句ある?」
「いや、そういうんじゃなくて」
なんでそんなことを聞いてくるの、といったあからさまに不機嫌な表情と声色でアイリはそう答えた。
魔法使いとしてのレベルが同じくらいのアイリが当たり前のように地面の土をいじれているということは、とそう思い俺は地面を蹴って地面の様子を確認した。蹴った感触は普通の地面を蹴ったのと同じだ。これなら堀の壁に比べればかなり柔らかいだろう。
これなら俺の魔法でもなんとか上に上がるくらいはできそうだ。
そう思い地面を魔法で弄ってみと、あっさり地面は意図した形に変形した。
地面の土なら魔法が使えることがわかったので、壁沿いに階段を作っていく。最初は坂を作ろうと思ったが、転んだりよろけた時のことを考えて階段にした。それに、アイリのことを考えれば急な階段にはできない。なるべく緩やかで幅のある階段を意識して作っていく。
一段、一段しっかり作っていく。10段ほど作ったところで魔力が尽き始めてきたので一旦休憩。そして魔力がある程度回復したところで作業を再開する。
それを何度か繰り返して、日が完全に暮れて夜もそれなりに更けたところでようやく上に辿り着くまで作ることができた。
アイリは最初から最後まであの位置から動かなかった。
でも、最後の方は少しだけ作業が楽になっていたので何かしら手伝いはしてくれていたのかもしれない。俺が作業に慣れただけかもしれないけど、一日作業していた程度でわかるほどに慣れるとは思えないから、やっぱり何か手を出してくれていたのだろう。
「アイリ。ようやく階段が出来たんだけど、上まで行けそう? 駄目そうなら俺が上まで背負っていくけど」
少し眠そうにしていたアイリにそう聞くと、少し考えた後に無理だと判断したのか背負うように指示を出してきた。
そこからアイリを背負って壁に沿って作った階段を登る。幅に余裕をもって作ったがアイリを背負っているため慎重に一段一段登っていく。
そうしてようやく俺たちは堀の中から脱出することができた。
数日後、作った階段をっそのまま残しておくと俺たちが生きていることがバレてしまうと気づき、壊しに行ったのだがすでに俺の作った階段は跡形もなく無くなっていた。
さすがにここに他の人が来るとは思えないので、元々俺の拙い魔法で作ったものだったから、数日も持たずに崩れてしまったということなのだろう。
俺はそう思うことにした。
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