40 / 79
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿と遭遇した
貴族の顛末
しおりを挟む警備兵の詰所に着くとそこには見覚えのある顔があった。
「おや。殿下ではないか。どうしてこんなところに?」
「え? ああ、アースさんではないですか! 私は王都の警備に関する部署の管理を担当しているので、その業務の一環としての視察でここに」
「ああ、なるほど。そう言えば前にあった時にそのような事を言っていましたね」
どうやら王子は詰所の視察に来ていたらしい。
この国の王族は真っ当な一族だ。その影響か、この国に居る貴族はしっかりとした考えを持つ者が多く、その結果、他国に比べて国全体の印象も頗る良いのだ。まあ、アレみたいな例外はいるがな。
しかし、ここに王子が居ると言うのは都合がいい。
「それで、何故ここに?」
「あの小僧が問題を起こしていてな。それに首を突っ込んだ」
「ああ、いつものですか」
「いや、いつもこんなことをしている訳ではないのですけどね。殿下はこう言った場に遭遇する機会が多かっただけですよ」
別に毎回厄介ごとに顔を出している訳ではない。王子の場合は、たまたまそう言う場面での遭遇率が高いだけだ。何しろ、俺が王都に来るたびに毎回と言うレベルで顔を合わせているからな。
「それで、えーと話を聞きたいのですが、殿下がこの場に居ても大丈夫なのでしょうか?」
俺をここまで誘導していた警備兵が不安そうに聞いてくる。
ああ、確かに本来ならこの事案は下っ端の仕事だからな。上司である王子に関わらせるのは立場的には問題があるよな。だが、あれが貴族として権力を笠に着ていた以上、一部貴族が居るとは言え警備兵では力不足かもしれない。
「むしろいてもらった方が良いだろう」
「あーまぁ、そうですね。一応、貴族関係でしたね」
相手が貴族の笠を着ているのなら、その上位である王子がこの場に居た方が話はスムーズに進むだろう。
「殿下も良いでしょうか?」
「話を聞くだけなら問題はない。多少ではあるが時間に余裕もあるからな」
王子の俺に対する話し方と、警備兵に対する話し方が違うのはご愛敬だろう。本来なら俺に対しても上から話しかけるのが普通だ。まあ、色々あったから多少砕けた話し方になっているのだろうが。
「それじゃあ、こちらに来てくれ」
「嫌だ! 何で僕がお前たちの指示に従わなきゃいけないんだよ!」
この場に来てもまだ抵抗を続けるのか。ここに来るまでも相当暴れて抵抗していたのによくやるな。いや、むしろぽっちゃり体系のくせに結構体力あるな。動ける系か?
「あれは、グヌア子爵の令息でしたか。どうしてこの場に?」
「街中で暴行を働いていたので事情聴取ですね」
「ふむ、なるほど」
王子にここまでの経緯を説明する。すると王子は何故か納得しているかのような表情で未だに抵抗を続けているそれを眺めていた。
「何か気になる事でもありましたか?」
「いや、グヌア子爵に関してはあまり良い噂を聞かぬのでな。まあ、近々に調査が入る予定だから、それに関してはその時にはっきりするだろう」
「そうでしたか」
家の方も問題があるようだな。奴隷云々の言葉も普段から使っていないとあの場で出ることは無いだろうから、確実に奴隷関係の何かがあるのだろう。
「それで、これについての対応はどうしたらよいでしょうか」
「ううむ。まあ、近い内にこの事どころではなくなる可能性が高い以上、罰金と治療費の請求で精々だろう」
「そうですね」
「妥当な範囲だな」
「何で僕がそんなことをしないといけないんだよ!? 僕は悪くない!」
こいつ、目の前に居るのが王族ってことに気付いていないのか? それとも知った上での発言なのか?
「話を聞く限りだと、君の一方的な言いがかりで暴行したのではないか。なのに悪くないと?」
「貴族である僕は平民を自由にできる権利がある! だから悪くない! そもそもお前何なんだよ!?」
おいおい、この馬鹿この国の貴族なのに王子のことを知らないのか? 最近この辺りに来たと言う話は聞いたが、それでも今話している間に目の前に居るのが王子であると何度も言っているのだから、気付いていないのはおかしいだろうよ。
「君は目の前に居るのが誰だかわからないのか?」
「知らねぇよ! 誰だよ!」
「この国の王族ですよ」
「え?」
警備兵の言葉を聞いて初めて自分がやらかしたことに気付いた馬鹿は顔を青くしながら王子の顔を見る。そこには自分のことを何とも思っていなさそうな表情をしている王子が、静かに自分を観察していた。
「い……いや。僕はこの国の王族に何と思われようと関係ない! 僕の家は隣の国の重鎮と繋がりがあるんだ。そ……それに僕は転生者の友達も居るんだぞ!? 何をされてもそいつが僕を助けてくれるんだ!」
あぁ、もう駄目だろうこいつ。馬鹿だけじゃ言い表せない程に終わっている。
「王族に対する暴言か。これも罪に問えるな」
「私としては、そのような事はしたくないのですけどね。さすがに今の発言は無視できませんよ」
確かに、勢いで漏らしていたが果たして事実なのかどうか。と言うか、また転生者か。最近多い気がするな。
「とりあえず、追加で王族に対する暴言により、最低でも1週間ほどは牢屋に放り込んでおきます。さすがにこれは罰金で済ませられませんからね」
「その辺は任せるよ。さすがに時間が無くなって来たので私はここまでだ。すまないな」
「いえ、取り調べに付き合っていただき、ありがとうございました。殿下」
何だかんだ30分近く話していたからな。さすがに王子の予定ではこれ以上は無理だろう。
「それではしっかりと業務をこなすように」
「了解です。殿下」
「アースさんも、また会えましたらよろしくお願いしますね?」
「本来ならそう会わない方が良いと思うのですが、私と会う時は何かしら問題が起きている時ですし」
「ふふっ。期待しています」
そう言って王子は詰所から去って行った。王子は何を期待しているのかが気になるな。
後日、グヌア子爵家に調査が入り、当主主導で行われていた悪事の数々が明るみに出た。それによりグヌア子爵家は取り潰しとなり、当主はその罪の重さから公開処刑され、その犯罪に関わった者も相応の処罰が言い渡された。
そして、その悪事の中には人身売買も含まれており、あの令息も関わっていたことが判明する。
それがわかった時、まだ牢屋の中に閉じ込められていた令息は、そこからまた別の重犯罪者が入れられる牢屋に移された。これで当分牢屋を出られないではなく、一生牢屋を出られないと言うことになったのだった。
ついでに転生者の友人は完全なる虚偽であったことをここに記載しておく。
33
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる