俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐

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転生ガチャでSランクの転生チケットを当てて聖女に転生! って、は? いやちょっと待て、この状態は求めていなかったんだが!?

それからしばらく

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 最終話になります。
 ―――――



 俺がこの体に転生してからしばらく、とまでは言わないが1週間ほどが経った。

 シェケルとのやり取りのあと、何があったわけではないのだが、とりあえず気まずい関係にはなっていない。

 ……いや嘘を言った。あの後、無茶苦茶気まずかった。

 あの時は半ば聖女の意識に乗っ取られているような状態だったから、あれが終わった後、俺が元に戻ったというか意識を取り戻した瞬間から内心は汗だらだらだった。シェケルはギャン泣き寸前だし、なんか甘い感じの雰囲気だしで、どうしたらいいのかマジでわからなかった。

 あれこれやってどうにかやり過ごしたが、しばらくシェケルの顔を見るのがしんどかった。

 まあ、とりあえずあれから距離が近づいたとか遠慮がなくなったということもない。何と言えば良いのか、元の聖女と同じではないがそれに近い扱いをされるようになったというべきか。
 さすがに異性云々の感情は見せてこないが、たまに変な視線を向けて来る時がある。

 未だに気持ちの切り替えが出来ていない、というわけではようだが未練自体は残っているのだろう。
 聖女の記憶からしても両想い。ただ、お互いの立場もあるし、種族的な寿命の問題もあるから死んでいなかったとしても、お互いの気持ちが交わることは難しかったと思う。

 あと、この体の中から聖女の未練が無くなったわけではないらしく、ちょいちょい気持ちが引っ張られるときがあるんだよな。しかし、この体になってまだ一週間。前世の記憶がまだ色濃く残っているから、男女のあれこれするのはきつい。
 
 いや、シェケルが相手だからそういうのはないと思うが。

 ああ、そうそう。
 ぽろぽろ落ちていた首は、あの後なぜか普通にくっつくようになった。外そうと思えば外すこともできるし、驚くと外れてしまうこともあるので、完全にくっついたわけではないのだが、どうしてできるようになったかは不明だ。

 もしかしたら、俺の中にまだ聖女の未練が多く残っていたからその影響でくっつかなくなっていたのかもな。
 それもほぼほぼ解消されて出来るようになったという感じなんだろう。

 そういえば、数日前に聖女に関する報告云々で王城から調査隊というか、本来は聖女を迎えに来る予定だったらしい騎士団(団というには人数は数人だけだったが)が着いて話を聞いていった。

 領主が死んでいるし、連れて行くはずだった聖女も死んでいるしで問題が発生するかと思いきやそういうこともなく、かなり穏便にことは進んだ。

 どうやらあの領主自体、聖女云々関係なしで廃爵の予定だったとか。騎士団の長曰く、あいつらはそれを撤回させるために聖女に手を出したのではという見方をしていた。

 だったらふつう殺さねぇよな? と思うが、自分たちに従わない人間はとりあえず殺すのが常になっていた一族だったらしいので、いつも通りやったらああなったということなのかもしれない。
 もしかして、あの後聖女の代役でも立てるつもりだったのかね?

 こういうやつらだとわかっていたなら、どうして早く対処しなかったのかと思うが、貴族のあれこれとかしっかり証拠がないと動けないんだろうなと思わなくないが。
 ただまあ若干、作為を感じるんだよなぁ。騎士団の連中、聖女が死んだって言われても驚いた様子がなかったし、指摘したらどうなるかわからないからしないけど。

 え? なんでこんなことを知っているかって? 

 それはその話し合いに俺も参加していたから。正確に言うと、騎士団の長、この国の第7王子らしい、との話し合いの中で、俺の存在を知らせておいた方がいいと判断されて、王子とこの教会のトップであるシェケルと俺の3人ですり合わせという話し合いをした。

 デュラハンになってしまっているとはいえ、聖女の体が動いているんだから、バレた際の口裏合わせは必要。下手にばれて殺されたくはないからな。

 国としては俺のことは黙認することになるだろうと言われた。聖女が死んだことは公表されるが、それが生き返ったとどうなるかわからないからだ。
 それにデュラハンというのは下手に殺すことが出来ない存在らしい。死なないとかではなく、一部では神の使いと言われている精霊の一種であるため、殺すと何が起こるかわからないからだそうだ。

 暗にこれ、消せたら消しているって言われているよな。よかったよ、転生して速攻殺されるようなことにならなくて。

 とまあ、こんなことを話し合った後、騎士団は普通に王都へ帰っていった。

 しかし、聖女が元となった樹を研究素材と称して少し採取していたが、あれは大丈夫なのだろうか。
 あまりいい結果にならないような気がするんだが。
 ……ま、別にいいか。

 こんな感じで俺は晴れてデュラハンとして、新しい生活を送ることになった。
  
 とはいえ、外に出て生活ができるわけもないので、教会の見習いシスターとして働くことが決まった。当分の間は婆さまにあれこれ教えてもらいながら過ごすことになる予定だ。
 


 ・
 ・
 ・

 
  
 俺が聖女に転生してからどれだけ時間が経過しただろう。

 すでに何年もの月日が経過しているのはわかっているが、どうもこの体は普通とは違うようであまり時間の経過が感じられないようだ。
 まあ、もう死んでいるから成長もしないし老化もしないからだろうが。

 相変わらずシェケルは教会の神父をしているが、婆さまは去年亡くなった。今は俺がその立場になって教会を切り盛りしているが、まだまだ婆さまがしていたようにすることはできていない。他のシスターたちの手を借りながらどうにか教会の仕事をしているところだ。

 シェケルとの関係は何というか家族と言っても差し支えない感じになっている。まあ、同じ屋根の下で長く生活していればそういう感じになるだろう。言っておくが男女の関係にはなっていない。今のところは、と付くが、おそらくこの先もこのままの関係が続いていくと思う。

 この体にはまあそこそこ慣れた。たまに驚いて頭が取れかけるのはご愛敬だが、女として生きる ―すでに死んでいるので生きるという表現はおかしい気もするが― のも違和感が無くなった。 
 たまに教会にやって来た野郎にナンパされて、それをあしらうのも相当経験した。教会に来てまでナンパするなよ、と言いたいが、この体の見た目が良すぎるのがよくないんだよなぁ。
 
 男は単純だから、見た目のいい女によくしてもらうとコロッといっちゃうもんで、教会で働いている以上、そういう対応が多くなるんだよな。
 そうして教会に来た男たちにちやほやされていると時々、シェケルから嫉妬というかやきもちを焼いているような視線を受けるのも、なんというか不謹慎な感覚ではあるんだが、悪くないって感じるんだよな。

「なにかありましたか?」
「いや、なんでもない」

 目の前で作業していたシェケルをじっと見つめてしまっていたため、それに気づいたシェケルに声をかけられたが、言葉と首を振って何でもないことを伝える。
 俺の対応にシェケルが少し不思議そうにこちらを見ているが気づいていない振りをしてやり過ごした。

 この生活がいつまで続くか。ずっと続いていてほしいと思えるということは、俺がこの生活を気に入っているってことなんだよな。

 あれ? そういやこれあれか? 最初にあの神に頼んだ聖女になる理由の一部が反映されているのか? いや、ちやほや云々は要望として言ってはないな。
 しかし、あの神に頼んだ要望はおよそ叶っているんだよな。

 聖女になりたいと理想の体型、それにしがらみのない環境。

 この世界に転生してしばらくの間はともかく、今では国の干渉もないし、田舎だから教会の上層部からの圧とかも来ていない。めちゃくちゃストレスフリーで過ごせている。

 なんだかんだあの女神もしっかり要望は聞き入れてくれていたってことか。

 転生するときに思い描いていた生活とはだいぶ違うが、この生活もなかなか悪くない。
 ここに来てからの生活を思い出して、そう思う。




 ―――――
 最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


 ※短編集に掲載されている作品の順番を変更しました。最新の作品が一番前に来るようになっています。ご注意ください。

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