21 / 44
従順そうな妹が良いとおっしゃいますが、本当にその子で大丈夫ですか?
呼び出し
監視が終わった2日後。私は学生寮の談話室に呼び出されていた。
学生寮の談話室は基本的に予約制の部屋で、使用率はそれほど高くはありません。一々予約する手間もありますが、使用した者が最後に部屋を整えなければならないという規則が、貴族の者としてあまり受け入れられていないということなのでしょう。
使用人に任せてしまえば事足りることではありますが、複数人で予約を取った場合、誰の使用人を使うかで揉めることがあるため、それが嫌で予約をしない人が多いのです。それに無関係な者に見られる可能性はあるものの空き教室はいくつもありますし、教室の清掃はそれを仕事にしている者が学園内に居ますので、そこを使用してしまえば面倒なことをしなくて済みますからね。
「失礼します。レインです」
「入れ」
談話室のドアをノックして中へ声を掛けると、中から入室の許可が聞こえてきました。既に談話室へ来ている人が誰なのかがわかっているので、なるべく粗相のないように気を付けながら入ります。
「お久ぶりです、お父さま。それと――」
談話室の中に居たのはお父さまとそのお付きで来ているコルト。そしてもう1人の男性とその付き人。
「二レス伯爵さまもお久しぶりですね」
「あ、ああそうだな」
ニレス伯爵はグレイの父親です。
今回、この談話室に集まった理由は私とグレイの婚約を破棄するための話し合いをするためのものです。なのでグレイも呼ばれているはずですが、まだ来ていないようですね。
それに、ニレス伯爵が私に対して少し申し訳なさそうな態度を見せていますね。いえ、それはお父さまにもその態度は向けられているようです。
おそらくグレイからの報告が嘘であったことを知ったのでしょう。もしかしたらお父さまがコルトに私たちの監視をさせたのと同じように、ニレス伯爵も監視役を付けていたのかもしれません。こちら側だけの情報だけではこうも態度は変わらないでしょうから、その可能性は高いでしょう。
「失礼します」
その様な事を考えていると、いきなり談話室のドアが開き、グレイがそう言って中に入ってきました。中に目上の方が居ることがわかっているはずなのに、一切の確認を取らないのはなかなかに問題ある行動ですね。
少し視線を動かしてみるとニレス伯爵が眉間を抑えているのが見えました。さすがに息子の行動に問題があることを認識しているようです。
そしてグレイの方へ視線を向けてみると、グレイは私に向かって勝ち誇ったような表情を浮かべました。
何故そこでそのような表情をするのかが理解できません。もしかして、この場が自分の意見が通って婚約が破棄されたとでも思っているのでしょうか。
婚約破棄自体は確かにグレイの意図するところでしょうけれど、場の空気をもう少し読み取れるようになった方が良いと思うのですよね。
ニレス伯爵が先ほどよりも険しい表情になっているところなど、察すべき箇所は多いと思いますから。
「グレイ。部屋の中に誰かが待機しているとわかっている場合は入室の許可を取ってから入ってきなさい」
「えぇ? ですが中に誰が居るのかはわかっていますし、別に構わないでしょう? そもそも私は呼ばれた側ですから」
論外。お父さまの表情からきっぱりとそう読み取れました。ニレス伯爵の方は……ああ、もう完全に手で顔を覆ってしまっていますね。
呼ばれたと言っても、招待ではないのです。普通に目上の方からの呼び出しですから、今のグレイの態度はあり得ないもの。気の短い方でしたら既に話し合いは無効か破談になっているでしょう。
今回は婚約を破棄するための話し合いですから、そのようなことはないでしょうけれど、今後の立ち位置が大分変ることになりそうですね。
ニレス伯爵は昔から子煩悩なところがありましたから、これまでかなりグレイの事を甘やかしてきたのでしょうね。最低限の作法すらできないところからして相当です。いえ、これはグレイ自身の気質でしょうか?
「それで、今回の話は私とレインの婚約を破棄する物で良いですよね?」
どうしてグレイが話を進めるのでしょうかね? しかも最後に来ておいて謝罪の言葉もない上に、本来話を進めるべき両家の当主が居るというのに何様のつもりなのでしょうか。
「ニレス伯爵。先に話しておいた通りレインとその者の婚約は破棄で進める。それに伴い、契約の履行も白紙にする」
「は、はい。申し訳ありませんでした。我が愚息が……」
「謝罪は要らぬ」
「そ、そうですか」
お父さまはグレイの言葉を無視して話を進めて行きます。むしろ存在すら無視しているのかもしれません。
自分の事を無視されていることに気付いたグレイが不機嫌な表情をしていますが、口を出すべきではないことは理解しているのか、開きかけた口を閉じました。
立場的にはニレス伯爵家よりも我が家の方が上です。同じ伯爵家とはいえ、経済状況や領地の大きさなどで上下はありますからね。我が家より下位に当たるニレス伯爵の息子であるグレイがこのような態度をとったのは、ニレス伯爵家にとって最悪な展開でしょう。
それに我が家とニレス家は私たちの婚約を持って協力関係にあった訳です。それも今回の事で破談になった形ですね。
ニレス伯爵にとってこの結果は最悪の事態でしょうが、家での教育が至らず自身の息子がやらかした結果なので、しっかりと受けてもらいませんとね。
こうして私とグレイの婚約の破棄は書面に記載され正式に決定しました。
あなたにおすすめの小説
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?
なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。
干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。
舞踏会の夜。
聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。
反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。
落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。
水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。
レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。
やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。
支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。
呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。
――公開監査。
記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。
この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。
これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
妹が最優先という事で婚約破棄なさいましたよね? 復縁なんてお断りよッ!!
百谷シカ
恋愛
私の婚約者クライトン伯爵エグバート卿は善良で優しい人。
末っ子で甘えん坊の私には、うってつけの年上の彼。
だけど、あの人いつもいつもいつもいつも……なんかもうエンドレスに妹たちの世話をやいている。
そしてついに、言われたのだ。
「妹の結婚が先だ。それが嫌なら君との婚約は破棄させてもらう」
そして破談になった私に、メイスフィールド伯爵から救いの手が差し伸べられた。
次々と舞い込んでくる求婚話。
そんな中、妹の結婚が片付いたと言ってエグバート卿が復縁をもちかけてきた。
「嘘でしょ? 本気?」
私は、愛のない結婚なんてしないわよ?
======================================
☆読者様の御親切に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
ご心配頂きました件について『お礼とご報告』を近況ボードにてお伝えさせて頂きます。
引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです♡ (百谷シカ・拝)
妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?
志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」
第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。
「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」
「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」
「そうですわ、お姉様」
王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。
「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」
私だけが知っている妹の秘密。
それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎