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貴方の言う真実の愛のお相手は誰なのでしょうか。まさか私の妹ではありませんよね?
突然の婚約破棄
しおりを挟む私の婚約者がなぜか目の前で仁王立ちをしている。しかも、何か勝ち誇ったような表情をし、見下すような視線をこちらに向けてきた。
「レイシャ! この場で婚約を破棄させてもらう!」
夜会の場でいきなり婚約者からそう言い渡された私の頭の中は、困惑で埋め尽くされていた。
最近、婚約者であるシレスの対応が悪くなってきていたことも在り、もしかしたら家を経由して婚約を破棄されるかもしれないと思っていたのですが、まさかこのような場でそれを宣言されるとは想像もしていなかったのです。
普通の感覚ならこのような場でこういった内容の話を大声で宣言するようなことはしないのですが、何が彼をそうさせたのかがわかりません。
「シレス様。それは本気で言っているのでしょうか?」
「ああ! 本気だ! 俺は真実の愛を見つけたのだ!」
真実の愛。恋愛物語に出てきそうな言葉。本来であれば甘く魅惑的な言葉なのでしょうが、このような場で、状況で言葉に出すとこうも薄っぺらく感じてしまいますね。
そんなことを考えながら周囲の状況を確認します。
この場は夜会の会場であり、他の貴族の人たちが大勢集まっている。その場でこのようなことを言うということは、それが冗談だったとしても撤回は不可能でしょう。そして、シレスが大きな声で宣言したことで、夜会に参加している他の貴族の令嬢や子息がこちらに注目しているのがわかりました。
「わかりました。それでは私はこの場から出て行きましょう」
これはもう、どうにもできませんね。否定したところで無意味でしょうし、すでに他の場所にいるものにも伝わっている可能性があります。
「ふん! ああ、さっさとこの場から去れ! 目障りだ!」
一方的な理由で婚約破棄された立場とは言え、この場所に留まっているのは悪目立ちが過ぎますね。不本意ではありますが、シレスの言葉に従ってさっさとこの場を離れることにしましょう。
会場から控室に戻るとすぐに部屋に置かれていたソファに腰を下ろしました。夜会の
私とシレスの婚約は政略的な物でした。そのため、
正直なところ悲しくない、ということはないですね。元より私とシレスの間に恋も愛もありませんでした。だから受け入れることは出来るのです。ですが、長いこと婚約者であったことで多少は家族のような感覚になっていたこともあって、すぐに割り切れないこともあるのです。とはいっても、ずっと引きずるような程ではないのですが。
しかし、不安に思うことがあるのですよね。
シレスは真実の愛を見つけた、と言いましたが、そのお相手が誰なのかわからないのです。よくある物語であれば、シレスの隣に他の令嬢がいるものなのですが、シレスは1人で私のところに来ましたから。あれはどういうことなのでしょう。
実は最近、シレスと妹であるエレーナの仲が良くなっているのを見たのです。前は婚約者の妹という立場以上に関わりのない2人だったのですが、気付けば友達以上に見える距離感で話すようになっていたのです。
まさか、という嫌な予感が頭によぎります。
「ルルー」
「何でしょうか。お嬢様」
「会場の方へ行ってシレスの様子を窺って来てくれないかしら。おそらくあの場に真実の愛を見つけたと言った相手が居ると思うのよ。それを確認してきて欲しいの」
「……わかりました」
その指示に側仕えであるルルーは逡巡したものの、すぐに了承の言葉を出し、控室から出て行きました。
ルルーが一瞬言葉に詰まったのは、側仕えとはいえ私に関わる者が、1度でも退場した場に戻る、というのがあまり良くとられないからです。まあ、この場合は別に会場の中にまで戻る訳ではないでしょうから、気にしすぎるのもよくないでしょうけれど。
ルルーが出て行ったことを確認したことで気が抜けたのか、大きくため息を吐いていました。
シレスの相手は何方でしょう? あまり考えたくはないですがエレーナ? そうなれば確かに政略の意図は変わらないのですよね。それにあの場に出てこなかったのもなんとなく納得できますし。
そんなことを考えながら夜会の場へ行っているルルーが戻って来るのを待つことにしました。
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