聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐

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転生したら婚約破棄され負け確定!? ※1話長め

目覚めたら公爵令嬢になっていた私はバッドエンドを回避したい

 ※今作は1章を1話にまとめているため、1話当たりの文字数が非常に多いです。 
 ―――――


 目覚めたら見慣れない天井だった。何か安い物語のような展開だけどこれはどう言うことなのだろうか。よく見ると高そうなドレスの端が目に入った。ドレスの裾を持ち上げると、どうやらこのドレスは私が着ている物だった。

「なに…これ?」

 さらに混乱する。これはどういう事なの? ますます理解できない。周りを確認してみる。
 今座っているソファも高そうだけど、いつの間にここに来たのだろうか。いや、夢だなこれ。そうに違いない。じゃないと私がドレスを着ていることが説明できない。
 とりあえずソファを撫でる。ふわふわでふかふかだ。実に触り心地がいい。横になったらすぐに寝れそう。ああ、これはソファに座って転寝(うたたね)をしていたってことなのだろうか。
 現状を確認していると部屋のドアがノックされた。
 
「お嬢様。ご支度は済まれていらっしゃいますか?」
「え? あ」

 私が返事をしたと判断されたのか、ドアの外に居た人が部屋の中に入って来た。メイド服? 夢にしては私が知らないような服装が出て来たな。そういえばこのドレスも私の知識の中にあっただろうか。
 ロングスカートのメイドが私のところまできて、服装を確認し始めた。後ろの結びが少し緩んでいたのか、メイドは後ろに回って結んであった紐を直しているようだ。

 改めて思うけど、やっぱりメイド服はロングがベストだよね。コスプレとかで超ミニのメイド服とかあるけど、あれはもう別物と言って良いはずだ。私はあれをメイド服とは認めない。

「ドレスの方は問題ないようですね。ですが、お嬢様。転寝していましたね? 御髪が乱れております」

 メイドはそう言って私の所に端に会った板のようなものを持ってきた。
 あ、鏡か。と言うかドレスはある程度直してくれたけど髪は自分でやれと言うことか。そう思って鏡を覗き込んで私に更なる疑問と混乱か舞い降りた。
 あ…あれ? 私の顔じゃない。いや、どっかで見たことがあるような…どこだったっけ?

 私は髪を直すことも忘れ、今ある思考に没頭する。
 最近見た? うん、確か最近見た記憶がある。確かあれは……ゲーム? あ、乙女ゲーの振られ役だった公爵令嬢!

 とにかく主人公の性格が悪いと評判になった乙女ゲームに出ていた令嬢の姿そっくりじゃない! 
 別にあのゲームに思い入れなんてなかったし、夢で見るほどの内容でもなかったはずなのだけど。ただ攻略キャラがかっこいいだけの駄作だったし、主人公が婚約者の居る攻略キャラを奪っていくとかどんな内容よ! って感じで、突っ込みどころ満載のストーリーだったからなぁ。販売元は何を思ってあんな物を作ったのか。まあ、ある意味話題作ではあったけどね。悪い意味で。

「どうなさいましたか? 何やら驚かれているようでしたが」
「あ、いえ。何でもないわ。気にしないでくださいませ」

 思考に意識を持ってかれている状態で話しかけられたから咄嗟に公爵令嬢っぽい口調で返してしまった。普段こんな話し方はしないから、もしかしたらこの体に染みついている条件反射か何かかもしれない。
 差し当たって本当にこの状況は何なのかを考えなくては。そもそも思い出す限り、さっきまで外に居たはずなのだけど。

・――

 休日の買い物帰りに突然の雷雨。さっきまで晴れていたと思ったらいきなり雨が降ってきて、建物に避難する前に豪雨になった。
 本屋によってから家に帰る途中だったのだけど、最悪。鞄から水がしたたり落ちているから、中にある本はもうずぶ濡れになってしまっているだろう。
楽しみに待っていた新刊だったのだけど、今更急いでも手遅れだからこのまま帰ろう。気落ちしながらそう考えたところで視界が真っ白に染まった。

・――
 思い返してみれば、記憶があるのはそこまで。
 あの後何があったのだろう。とりあえず、そこで意識が途切れている感じだから、気を失った? そういえば凄く雷が鳴っていたような。もしかして雷に当たったとか? まさかとは思うけど、否定も出来ない。
 まあ、夢なら冷めるまでは公爵令嬢として過ごさせてもらおう。
 そんなことを考えているとさっき鏡を持ってきたメイドがブラシ何かを持って隣で待機していた。

「本当に大丈夫でしょうか。何やらいつもと雰囲気が違うように感じられますが」
「大丈夫よ。髪の方、直してもらっていいかしら?」
「はぁ、わかりました。何かあったら言ってくださいね」

 そう言ってメイドは私の髪を整え始めた。すごい髪がサラサラなのがわかる。いつもだったらすぐにブラシが止まるくらい癖毛だったのに、何の抵抗もなくブラシが通っていく。やっぱり貴族の令嬢ともなると相応のケアはしているんだね。
 そんなことを考えている内に髪の手入れは終わったようだ。

「そういえば、グレテリウス王子の姿が見えませんがどうしたのでしょう。夜会の時は何時もお出迎えに来られておりましたのに」

 メイドは辺りを見回して他の人が居る痕跡を探しているようだ。
 グレテリウス王子。確かメインの攻略対象だったはず。夜会と言うとゲーム内だと何回かあったけど公爵令嬢が夜会に出て来るのはゲームの中盤だけだった。しかも立ち絵の登場がそれきりで次に出るのは公爵令嬢が自殺したという1行の文章だけだ。明らかに重要人物のはずなのにそれしか出ないのはおかしいけど、ストーリー上はそうなっている。
 そうなるとゲーム内の時期から考えれば、今がちょうど主人公が王子をちょろまかしたくらいになるはずね。

 あれ? と言うことはこの後この公爵令嬢は婚約破棄されてフェードアウトしていく展開になるのでは? しかも、知らないうちに自殺する展開だし。

 そもそも今の私の状況を考えてみればネット小説に良くある展開? もし、現実に戻れないとなると、ここで今後の展開をどうにかしないと私(公爵令嬢)は死ぬってことになってしまうのでは?

 状況をみて考えを巡らせる。
 少なくとも現状はあまりよくない状況かもしれない。
 この後の話の流れは、公爵令嬢は夜会に出て、そこで王子とゲームの主人公の子爵令嬢が仲良くしている所を見つけて問い詰める。すると、突然王子から婚約破棄の話を持ち出される。って感じ。当然ゲームの展開上主人公の方を持ち上げる取り巻きが出て来て、公爵令嬢は何も出来ずに婚約破棄を呑まなくてはならなくなる。そして公爵令嬢はフェードアウトと言う流れだ。

 はっきり言って、このゲームをやっている時はバカバカしい流れだと思った。普通に考えても、夜会の最中に公爵令嬢に婚約破棄の話を持ち掛けるように王子に諭す主人公がどこに居るのだろう。まあ、このゲームの中には居たんだけど。
 そもそも何で王子はこの話に乗ったのかも理解は出来なかった。まあ、このゲームに出て来た登場人物の大半はどこか変なところがあったから、この国の国民性がそんな感じなのかもしれないとも考えた。いや、それでもおかしいと思ったけどね。

 ともかく、この後の展開を考慮した上で行動しなければ、起きた時に目覚めが悪い感じになりそう。


 どうするべきかを考えている内に時間になったので、夜会の会場に向かう。
 案の定王子は公爵令嬢の控室には来なかった。と言うことはあのゲームと同じ展開になるのだろう。今は公爵令嬢になっている以上、貴族の令嬢としてなるべく顔に出さない様に意識しているけど、いやな気分にはなるよね。
 この後いきなり婚約破棄してくるのがわかっていると、いやでもそれを意識してしまう。

 これが完全に馬鹿な王子とかだったらなんとも思わなかったけど、ここの王子は別に嫌な奴という訳じゃない。常に嫌味を言っているよう俺様王子とかではなくて、単に思考回路が緩いだけのダメ王子と言うだけで。

 グレテリウス王子は王子としては失格と言えるけど、結婚相手と考えれば性格は優しい方だし、器量も良いし、そこまで悪くはないと思う。それにダメ男好きのコアなファンが居るとも聞いたことがある程のキャラクターなのだ。

 この話の流れは、設定上流されやすい性格だったからこその展開だと思うけど、この後の流れはゲームと同じ展開になるようにしなければいけないのかなぁ。
 いっそのこと直ぐに引き下がった方が精神的に楽になるよね。だったらさっさと終わらせた方が良い。

 話の流れからどう対処していけばいいかを考えている内に夜会の会場に到着した。

 ゲームの背景にあった見覚えがある扉だ。この先は令嬢たちの戦場。我先にと言い男に言い寄ろうと裏で画策し、ライバルを蹴落とすと言ったことを平気でやる令嬢が多くいる場所だ。ゲーム内で体験したから知っているけど、今の王宮内も貴族内もかなり腐った環境だった。そんな中の夜会。面倒だから、はっきり言って入りたくはない。
 でも入らないと話が進まないから、今の私に拒否権は無いのよね。
 
「では、お嬢様。行ってらっしゃいませ」

 そう言って付随して来たメイドが会釈してから下がった。

「ええ、行ってくるわ。ああ、でももう少しここに居てくれる? 何となく嫌な予感がするのよ」
「え? あ…いえ、了解しました」

 少し戸惑ったような対応をしたメイドだったけど、私の言葉の意味を感じ取ったのか今までに見せた態度よりも畏まった様子で頷いてきた。

ーー
 夜会の会場に入る。すると、予想と言うよりゲームの流れと同じように入口から少し離れた位置に公爵令嬢の婚約者である第2王子とゲームの主人公である子爵令嬢がこちらを確認していた。
 私はその様子を確認して直ぐにそこへ向かった。

「こんばんわ、グレテリウス王子。この場は夜会ではありますが、婚約者がいる身で未婚の令嬢と親密に会話をするのはどういう事ですか?」

 ゲームだと公爵令嬢が王子の様子に気付くのはもう少し時間が掛かっていたけど、いちいちあれこれやって時間が掛かるのは面倒なので、一気に話を進めて行こう。
 ゲームとは違う流れでやってみたけど、この後の反応はどうなるのかな? 

「え? ああ済まないミリア。えっと、私との婚約を破棄して欲しいんだ。私は…真実の愛を見つけたんだ!」
「あ、お願いします。私は王子を本当に愛しているんです」

 王子は何だろうか、台本を読んでようやく全部のセリフが言えたって感じの、よく出来ましたって言いたくなる話し方だった。
 ゲームだと何故か公爵令嬢の視点で婚約破棄の話になるからわからなかったけど、もしかしたらゲーム内で王子と主人公が話しているシーンは完全に仕込みだったのかもしれない。
 主人公である子爵令嬢に関しても王子が言い淀んだことに何か思うところがあるのか、ゲーム内の話から少し違う言い方だった。

「そうですか。なら邪魔な私はこの場を去りましょう。では王子、それと取り巻きの皆さん」

 私はそう言ってさっさと夜会の会場を後にした。手を振ってその場を去る前に周囲を確認すると取り巻きの野次馬が集まり始めていた。もう少し話すまでに時間が掛かっていたら野次馬に扮した取り巻きに囲まれていたかもしれない。それを考えると直ぐに外に出てきたのは正解だった。



 夜会会場から出て直ぐの所に先ほど付随して来ていたメイドが待っていた。まあ、待つように指示したのだから当然だけど、居なくなっていないことを考慮すると少なくともこのメイドは王子側ではないのだろう。もしかしたら公爵家のメイドなのかもしれないけど。

「お嬢様。お早いお帰りでしたね。何かございましたか?」
「ええ。まあ、予想通りだったけどグレテリウス王子から婚約破棄の申し出があったわ」
「は? ええ? 何故そのような事に?」
「よくわからないけど、王子は真実の愛を見つけたそうよ」
「は?」

 さすがに理解できる限界点を越えてしまったのかメイドはそれ以上言葉を出すことは無かった。

「とりあえず控室へ戻りましょう」
「あ、はい!」


 控室に戻ってくる頃にはメイドが大分冷静になり状況を理解したようだった。明らかにさっきとは異なり怒気を隠せてはいない。この様子からこのメイドはこのミリア公爵令嬢のお付きのメイドのようだ。

「この話は旦那様に通しておかなくてはなりませんね」
「そうね。でもその内王族側から婚約破棄についての書面が届くと思うわ」
「そうでしょうね。この婚約は王族とレフォンザム公爵家との公式なやり取りで取り成ったものですから」

 メイドもこの婚約破棄についてお冠のようだ。まあ、このやり方だと公爵家としての顔を汚されたようなものだし、そもそも正式な場面でもないのにその話を出したのもマナー違反ではある。
 今後の展開を知っている身からしてみれば、ここまでの展開は予想通りなのでそこまで怒りは湧いてこないのだけど、今後のことを考えればどうにかしなければならないことははっきりしている。

「ああ、そういえば王子ルートのバッドエンドで王国は乗っ取られていましたね」

 あのゲームは基本的にバッドエンドがない。ただ、王子ルートだけは何故かバッドエンドが存在していた。4つあった王子ルートで普通だったらあり得ない選択肢を選び続けることで行きつくバッドエンドは、隣国のアルファリム皇国に侵略されて王国は滅ぶというものだ。
 その際に主人公と王子は一緒に居るところを皇国の兵士が放った矢がお互いに刺さって死ぬという展開だ。そのシーン自体突っ込みどころが満載で、何で室内なのに矢が2本以上飛んできているんだとか、王子なのに率先して部屋に逃げ込んでいるのはどうなんだ、などと言われている。
 私はそのシーンの段階でこの世界観だとそういう物として扱っていたので何とも思わなかったけど。

「お嬢様、何か言いましたか?」
「独り言よ。気にしないでいいわ」
「そうですか」

 とりあえずバッドエンドルートになるように画策していこう。
 おそらく、これ以外でミリア公爵令嬢がまともに生きられるルートは存在しなさそうだからね。

 ーー

  
 翌日、昼頃に公爵家の屋敷に戻って来た。屋敷の中の雰囲気からどうやら婚約破棄の話は既に伝わっているようだ。

「戻りました。お父様は執務室かしら?」
「ええ、執務室の方にいらっしゃいます。ですが今から行くのはよした方が良いかもしれません」

 ミリアの父親であるレフォンザム公爵にもしっかり婚約破棄の話は伝わっているようだ。ミリアと第2王子との婚約は父親である公爵が進めた物なのだから、断りもなしにいきなり破棄してきたら、それはもう怒髪天ものだろう。

「いえ、大丈夫よ。行ってみるわ」

 私を心配そうに見ていたメイドにそう言って断ってから、父親の執務室に向かった。


「お父様、ミリアです」

 執務室のドアを軽くノックしてから中に居るはずの父親に声を掛ける。

「ああ、ミリアか。少々立て込んでいるのだが……いや、入りなさい」

 まあ、夜会での出来事に関することで抗議文やら何やらで取り込んでいるのだろう。ただでさえ公爵である以上、貴族としての責務は大きいし、持っている領地もある。おそらく夜会の情報が回って来てから一度も休んでいないのだろう。
 ドアを開けて執務室に入る。予想通り少し疲れた様子のレフォンザム公爵、ミリアの父親が執務机に大量の書類を抱えて、その書類を処理していた。

「戻りました。お父様」

 普段、この親子がどのようなやり取りをしているかわからない以上、それっぽい感じに進めて行く。下手に怪しまれると今後の計画に支障を来すので慎重に話を進めて行こう。

「ああ、お帰り。昨日の夜会は散々だったらしいな。こちらにも色々と話が入って来ている」
「色々…ですか? 昨日の夜会ではそこまで言われるほど長い時間は参加していなかったので、そこまで言われるほどの内容は無いと思うのですが」
「む?」
 
 どうやら在ること無いことを言い触らしている輩が居るようだ。まあ、ゲームの内容から精神的に追い込んで自殺させているくらいだから、まだ序の口だと思うけど。

「私の所には第2王子から直接婚約破棄を言い渡された、新興子爵家の令嬢に言い負かされた、何も言い返せずに泣きながら会場を後にした、など、他にもいくつか細々としたものまで届いているが、どこまでが本当なのだ?」
「最初の婚約破棄の話以外は嘘ですね。子爵令嬢に関しては王子の隣に居ましたが、話は一言も話してはおりませんし、泣きながら会場を後にもしていませんね。誰がそのような事を言い出したのでしょうか?」
「…ふぅむ?」

 虚偽の報告を受けていたことに対して考えているのか、それともその話の出所について考えているのか。どちらにせよこちらから王国を乗っ取り計画の話を切り出すにはもう少し、タイミングを見計らは無いといけないわね。

「とりあえず夜会のことは理解した。しかし、婚約破棄についてはどうなっているのだ? 私には何の話も通されていないが」
「それに関しては私もわかりません。昨日、突然言われたことなので私も驚いているのです」
「そうか。王族への抗議文は今朝がた送ってはいるが、さてどうなるか」

 抗議文を送っても良い返事が来ないことは理解している。それは公爵も同じようだ。貴族である以上、こういった無駄な行動でもやっておかないと下に見られる可能性があるから形だけの抗議文だと思うけどね。

「この際、王子との婚約に関してはもういいと思います。それよりも私の今後のことを考えなければなりませんね。すでに嫌な噂が出回っているようですし」
「ああ、確かに。だがどうするつもりだ? 今まであった他の家のことを考慮すると簡単にはいかないはずだ」

 なるほど、今までもゲーム内のミリア・レフォンザムと同じように自殺に追い込まれた令嬢ないし令息が居ると言うことか。ゲームのシナリオだと不要な部分だから語られてはいなかったけどそう言うことね。どおりで場の作り方や協力者の手配なんかが慣れた手口だった訳だ。

「おそらく火消は間に合いませんね。そもそも手数が違うので太刀打ちできないとも言えますが」
「ふむ、まあそうだろうな」
「なので、やるだけ無駄なので噂に関しては何もしません。その代わり私はこれ以降療養か何かを理由にして表に出ないようにします。そうすれば下手な噂は出回らなくなるでしょう。まったく無くなると言うことは無いでしょうけど」

 まず計画を進める上で最初の段階でこの国の貴族に関わる必要は無い。なので引きこもっていることを理由にして表に出てこない理由を作る。その上で変装なんかをした上で暗躍を進める。
 計画を進める上で最初に会わなければならない相手は、隣国であるアルファリム皇国の皇子であるオルセア・アルファリムだ。こいつに会わないと計画が進まないので早めに会いに行きたい。

「それとお父様には申し訳ないのだけど、私はこの王国に見切りを付けました。お父様は私を王子に嫁がせて内部から影響力を高めようとしていたようですが、もうそれでどうにかなる段階は過ぎてしまったと思います」
「な!? 気付いていたのか!?」
「気付かない訳がないでしょう? あれだけ王国に尽くして来たのに、王が代わって直ぐに大臣だったお父様を王城内から追い払われたのです。それにも関わらず、王族に嫁がせようとするならそれぐらいの理由があって然るべきですから」
「そうか。すまない。そうしなければこの国は留まることなく腐敗していくと想いそうしたのだ」

 まあ、やり方は色々あっただろうけど、少なくともこの公爵家は今の王宮にとどまっているゴミ貴族から警戒されている。そんな状況でどうにかしようとしたら娘を影響力を持つようなところに嫁がせるくらいしかなかったのだろう。

「いいのです。そうしたことも理解できますから。ただ、もう王政に関わる貴族たちの暴走はどうにもできない段階に来てしまっています」
「なら、どうすればいい?」

 このレフォンザム公爵は長く王政に関わって来た。それも公爵である以上、成人する前から関わっていただろう。だから今の王国の現状をどうにかしたいと常に考えているはずだ。しかし、自身よりも王政に近い位置に居た娘にどうすることも出来ないと断言されて、どうしていいかわからなくなってしまったのかもしれない。
 だからこそ今が計画の話をする絶好のタイミングだ。

「ならお父様」
「なんだ?」

この国・・・乗っ取ってみませんか・・・・・・・・・・?」

--

 
 公爵の動きが止まった。もしかしたら呼吸も止まっているかもしれないと思う程、微動だにしない。
 まあ、いきなり娘から国を乗っ取ってみないか、なんて言われたら戸惑うどころの話じゃないよね。でもこの計画を進めるにはミリアの父親である公爵の力は必須だ。少なくとも現状、悪い噂が出回っている上に王族との繋がりを絶たれた娘である私では国内の協力者を作るのは難しい。

「…なんだ、耳を疑うような話だが、本当にそんなことをするつもりなのか、ミリア?」
「ええ。そのつもりですわ」
「……そうか」

 父親の沈黙が長い。公爵として大臣として過去の王政を担っていた以上、王国を乗っ取るということに対するリスクや成功した場合の面倒ごとなどを予想しているのかもしれない。

 とは言え少なくとも私は、現行の王政を排除して乗っ取ること自体はそこまで難しくはないと予想している。ただ、問題はその後だ。国の政治や地域を担うはずの貴族の大半が腐ってしまっている以上、それらは排除しなければならない。これはまだいいけど、そうした後にその穴埋めをどうしたらよいかと言うのが一番の問題なのだ。
 まあ、それは追々考えればいいことだ。それにいくら公爵家の者だろうとミリアはそのようなところに関与する程の権力も貴族間の繋がりも無いのだから、ミリアの父親である公爵や他の真面な貴族に丸投げすればいい。

「まあ、それも一つの方法か。すでに私では王城内の状況を直接見ることは出来なくなった。入ってくる情報も、私に届いたミリアの噂を鑑みるとどこまで本当のことか見当がつかんな。今までに入ってきた情報からまだ取り返しが効く状況だと判断していたが、王子の婚約者として王族の近くに居たミリアがそこまでのことをしなければ、と考える程だとすると状況は頗る悪いと言うことだな」

 うん、まあ…直接見た記憶は無いのだけど、結果は知っているし実質見たとも言えるはずだ。今更だけど本来のミリアの意識はどうなっているのだろうか? 今は完全にみどりの意識としてあるけど…いや、今は公爵との会話に意識を向けよう。

「そうですね。私が近くに居ながら王族の中では比較的真面だったグレテリウス王子も腐敗側に回ってしまいました。これで真面と言える王族は継承権を放棄している第1王子だけです。そしてそれも国外へ逃亡済み、という状態ですけどね」

 本当ならクーデターの指揮を執ってほしい第1王子は既に王国から逃げ出している。おそらく王城内が腐敗していく様を間近で見て感じて危機感を持ったのだろう。そこで腐敗に対して行動を起こしてくれればここまで悪化することは無かったと思うけど、第1王子は既に結婚していて子供もいる。そんな中で現王政に反旗を翻せば子供や婦人の安全が脅かされる可能性が高くなるから国を出たのだと思うけど、自分くらい残る気概を見せて欲しかった。

 まあ第1王子は大義名分を得るための旗頭として何れ呼び戻すとして、話を進めよう。

「私がこの話をしたのには2つ程理由があるのです。1つは今の話にあった王政の腐敗。もう1つが他国からの侵略になります」
「侵略だと!?」

さすがに予想していなかった内容なのか公爵は驚きを隠せずに今まで座っていた執務椅子から立ち上がった。

「そのような話は一切聞いていない。…いやそうか、なるほどこちらに流れて来る情報が操作されていたと言うことか!」
「そうですね。ここまで情報が入って来ていないとなると、我が家の諜報員も買収されているかもしれませんね」

 まあ、現段階でわかっていたらこんな悠長にしていないよね。たぶん既に王国を抜け出している貴族はこの情報を得たからだろうし。

「ああ、それもあるかもしれないな」

 その辺りの細々とした部分は父親がどうにかすることなので私は関与するつもりはない。そもそも、諜報員自体公爵直属みたいな感じで繋がっていると思うし、元からどうにもできないけど。

「他国に関しては、グラハルト商国とアルファリム皇国です」
「グラハルト? グラハルト商国はベルテンス王国の友好国だが、何かの間違いではないか? 侵略なぞするような国ではないと認識していたのだが」

 グラハルト商国は確かにこの国の友好国だ。しかし、グラハルト商国がこの国の友好国になった本当の目的は別にある。
 グラハルト商国について詳細に話すと長くなるので端的に言うと、他国の友好国として近づき信頼を得つつ内部から侵略し、最終的にその国を隷属させて搾取するという悪質な国である。
 そして現状、この国の内情を見る限り最終段階に入っていると見ていいと思う。なので、なるべく速いこと計画を進めて行かないとグラハルト商国にこの国は乗っ取られてしまうと言うことだ。

 本当にあの乙女ゲーはどうしてこんなところまで設定を作り込む必要があったのか。そう思ってしまう最大の要因は、グラハルト商国の搾取の対象は物だけでなく人も対象だと言うところにある。それも平民であろうと貴族であろうと、ましてや王族であろうと搾取の対象であり、後に奴隷として扱われることになるのだ。

 それをさせないためにも王国乗っ取り計画は成功させなければならない。そして私がコンタクトを取りたいと考えている皇子の母国であるアルファリム皇国に関しては、確かに周辺国を多く取り込んで国土を増やしている国ではあるが、内情は意外と真っ当な国政である。しかし、ここもまたグラハルト商国の情報操作で悪辣国として広まっているのが現状だ。まあ、それに関してアルファリム皇国は気にしていないようだけどね。



 私はグラハルト商国に関する情報を父親である公爵に詳細に伝えた。記憶を思い返すようにやや長く沈黙していたが、どうやら思い至る部分があったのか、公爵は深く嘆息すると脱力したように執務椅子に腰を下ろした。

「確かに、そう聞けば思い当たるものが多くある。いや、納得の方が大きいな。思い起こせばグラハルト商国との友好を結んでから王政の空気が変わったように感じたな。しかしなぜそれを今まで気付けなかったのか。…いや、それも情報操作によるものか」
「それにアルファリム皇国の印象が悪いのもその結果によるものでしょう。そもそもアルファリム皇国は別に奴隷推奨国ではありませんし、過度な攻撃による侵略も行ってはいませんよ。おそらくグラハルト商国の実態と置き換えられていると言う事なのでしょう。私たちを含めた王国の民が持っているアルファリム皇国の印象と、グラハルト商国の実態は殆ど一致していますし」

 はっきり言って私が協力を求めようとしているアルファリム皇国の印象は、この王国内では頗る悪い。おそらく私がアルファリム皇国の皇子に協力を要請すれば多少時間は掛かろうとも了承してもらえるだろう。しかし、その後にこの王国内に残っている真面な貴族の協力を得るには、この印象は大きな壁になるはずだ。

 とはいえ、そう簡単に印象が良くなる方法がある訳が無いので色々とやる必要があるのだけどね。一番楽な方法は王国の貴族がアルファリム皇国の領土に行って実状を見ることなのだけど、それをスムーズに進めるには皇国側の有力者が必要になる。まあ、それがアルファリム皇国の第1皇子なのよね。

「今の王国の内情を考慮しますと、さすがに両国からの侵略を止めることは不可能です。なので、侵略された後の扱いが良く交渉の余地が大きいアルファリム皇国の者に接触して協力を仰ぎたいのです」
「王国内の貴族だけで行うのではないのか? それではどの道乗っ取られてしまうことになるが」
「おそらく、王国内で協力していただける貴族だけで行っても可能だとは思います。ただし、その後のことを考えると、後ろ盾として影響力のある国は必要です」

 王国内の貴族だけで王国の政権奪取は可能だと思う。しかし、それをするにも犠牲は出る。それと王国軍もおそらくグラハルト商国の手は及んでいるだろう。しかも、王政を乗っ取ったとしても王国の友好国としてグラハルト商国は強く出て来るだろう。それに、王政を取り戻すという名目で攻め入ってくる可能性も十分ある。
 だから、後ろ盾…いや、牽制の意味合いでもアルファリム皇国の協力は必要と言うことだ。

「ああ、そうか。内々で済ませても国は確実に疲弊する。そしてそうなれば内通者がいる限り攻め入る好機を与えるだけか」
「そうです。王国は既に自力で事を終え、他を抑え込むほどの力は残っていません。だからこそ他国を抑え込めるほどの国力を保持しているアルファリム皇国が必要なのです」
「なるほど、理解した。しかし、アルファリム皇国の者に協力を仰ぐとは言うがどうするつもりだ? 王国内にはアルファリム皇国の関係者は居ないぞ」
「それに関しては、どこに行けばよいか多少の情報がありますので、私に任せておいてください」
「む? ……情報の出所が気になるが、ミリアが言い出したことだ。そちらは任せよう。私は協力できそうな貴族を当たってみるとする」
「ありがとうございます。お父様」

 そうして公爵との話は一旦終わった。
 これから準備を始めるとして、出来るだけ早くアルファリム皇国とこの王国の間にある山岳の国境にある駐屯地に滞在しているはずのオルセア・アルファリムに会いに行かなければならない。
 それにゲームだとバッドエンドより他のエンディングの方が早くストーリーは終わっているから、だらだら時間をかけていると最悪バッドエンドへの道が途切れる可能性があるんだよ。

 まずは国境に行くまでの足だけど、これは公爵家の馬車を使う訳にはいかない。王政が腐り警備が緩くなった状態でも公爵家の馬車が普段行くことのない場所に行けば、王国内に工作員が多くいるグラハルト商国には気付かれるだろう。そうなればあちらの計画が前倒しになる可能性が上がるし、こちらの計画が明るみになる可能性も上がる。
 さて、どうしたものか。この辺は深く考えていなかったんだよね。何とかなるとは思うけど、時間をかけるわけにはいかないし。

 夕食のタイミングでもう一度公爵と会話できたので、昼に話しきれなかったことの補足をした。外に出ない理由を精神の不安定化と体調不良として決め、計画実行の目安は半年となった。そしてどうしても私では思いつかなかった足の着かない移動方法を聞いたところ、色々提案されてしまった。思いの外多くの案が出て来て、貴族と言うのは自由に移動できる感じではないのだなと感じた。
 それと、私がどこに行って何をしようとしているかも薄々感づかれたようだ。でも、これで国境までの移動方法は確保できたので良しとしよう。これ以上突っ込んで聞いてくる感じでもなかったし。

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