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転生したら婚約破棄され負け確定!? ※1話長め
バッドエンドを回避するために私は他国へ協力を求める
馬車が荒れた道を進む。一応道として使われているからしっかり道と言った見た目になっているけど、中世くらいの世界観でアスファルト何かを使って舗装されているなんてこともなく馬車の車輪が石を踏み、轍にはまる等の衝撃が頻繁に発生している。さらに、馬車には衝撃吸収機構が付いている訳もなく、直接体に衝撃が伝わって来てお尻が痛い。
これが隠れての移動じゃなければ過剰にクッションを敷いたりできるのだけど、今は弱小商会の他国への営業を装っている関係で、取引用の商品以外で馬車の中にお金がかかっているような物を置くことを控えている。
かく言う私も普段来ているような、見るからにお金が掛かっている服は着ていない。今は平民の上層が普段着ている生地は上質だけど装飾が少ない服に、上から長めのフード付きのコートを着ている。
見つかったら止められるという不安を余所に、何事もなく王都から出ることが出来た。むしろ王都から出る際に警備らしい警備が無かったことに驚いたのだけど、少し進んだところに検問のようなところがひっそり建っていた。おそらく、あっさり王都を出られたことで警戒を緩めたタイミングを見計らって止めるとか、そんな感じの意図が見える。
しかも、その検問を通過するのにもお金が必要だったらしく、所持金の3分の1程も持っていかれた。もしかしたら、本来はそんなことをしていないのかもしれないけど、安全にこの場を通過するにはそうするしかなかった。
検問を通過してしばらく進んで行くと、川がありそこに架かった橋が見えて来る。今の所、橋の周囲に人影は見えないけど、何か嫌な予感がするので馬車の御者にそれを伝えておく。
この御者は公爵家の関係者であり、公爵家の者が外出する際の影から護衛しているのである程度は戦うことが出来る。そのため、半分は私の護衛役としてこの場に居るのだ。
何事もなく橋を通過した。いやな予感は思い過ごしだったのかもしれない。しかし、まだ何があるかはわからないので警戒はしておく。
そしてしばらく進んだところに、道を塞ぐように倒木が落ちていた。
もう、この段階で嫌な予感は当たったことがわかった。そもそも、小説なりゲームなりこうやって道を塞がれている状況は、ある一種のパターンとして存在しているのだから。
多分この後に、盗賊やらゴロツキやらのガラの悪い連中が出て来るんだろうなぁ。
御者が倒木を退かそうと馬車の御者台から降りようとしている内に、道の脇にある物陰からわらわらと人影が出て来て馬車の周りを囲まれてしまった。
「おい、そこの馬車。荷物全部置いてけや!」
ほらね。
馬車を盗賊と思われる男たちに囲まれている。男たちの着ている服装は不揃いではあるけど、そこまで見苦しい感じの物ではない。むしろ上等な服を着ている者までいる。そういう奴はおそらくリーダー格だと思うけど、少なくとも生活苦でこういうことをしている感じではないな。
それに出てきたタイミングと言い、馬車の囲み方と言い、こっちが馬車1台でここをこのタイミングで通ることを知っていないと出来ないと思うのだけど、どこかで見張られていたと言う事? いや最悪、検問の連中とグルと言う可能性もあるね。むしろこっちの方が可能性が高いかもしれない。
「おい! 御者も中に居る奴も出てこい!」
うーん。出ないと駄目かな。出たら確実にさらに面倒なことになることは目に見えているのだけど。まあ、先に進めないし出ないと駄目か。
馬車の荷台、というか幌の貼られた座るスペースがある荷台?から外に出る。
「おっ! 女じゃねぇか。これはついている」
馬車を取り囲んだ男たちが下種な笑みを浮かべている。まあ、こういう場合女性はいろいろ使えるからなんだろうけど、深い極まりない声と顔だ。
囲んでいる男の数は15人くらいかしら。たぶん全員は出て来ていないと思うからもう少しいるだろうけど、これくらいならどうにかなる…の?
私は御者の方に視線を向けた。さすがにこの人数だと、難しいと思うんだけど。
「御者は動くんじゃねぇぞ!」
私が御者に目を向けたのが何かの合図だと勘違いしたようで、リーダー格と思われる男が声を上げた。いや、ただ心配しただけなんだよ? 何でそこまで警戒するのか、こっちは武器を出していないと言うのに。
「女はこっちに来い」
えー、さすがにそれはない。どう考えても人質扱いされる上に触られるのは嫌だ。うわ、触られることを想像しただけで、吐き気が。
「おい! 早く来い!」
行く訳ないでしょう? 少し考えればわかると思うのだけど。
「チッ! 手間かけさせんじゃねぇよ!」
痺れを切らした男が私に向かって来る。気が短すぎるわね。もう少し時間が掛かるかと思ったのだけど、他の男は……動く気配は無しか。まあ、こいつが女である私に負けるとは思っていないからだろうけど、こちらからしたら好都合ね。
「おら! おとなしくついてこ、うぐおっ!?」
私の腕を掴もうとしていた男の腕を躱し、それを逆に掴み引くことで男のバランスを崩す。そして、腹ばいになるように男の体を地面に叩きつける。まあ、そこまで強くは叩きつけられなかったけど腹ばい状態の男の体を立ち上がれない様に踏みつける。そこからまだ話していない腕を思い切り、骨格の可動域外に動かす。
「うぎゃあああぁあ!!?」
鈍い音を出して男の腕は普通ならあり得ない角度に動いた。いきなり地面に叩きつけられた上に腕の関節を無理やり外された男は悲鳴を上げながら暴れる。まあ、痛さのせいでそんなに大きく動けている訳ではないので、私はまだ男を踏みつけたままなのだけど。
これ、もしかして骨が折れたとかじゃないわよね? 何か痛がり方が異常なのだけど、慣れていないだけかしら。
いきなり信じられない光景を見せられた男の仲間は、一瞬惚けていたがその隙に御者が隠し持っていた剣、サーベル?で切りかかった。それを対処できずに御者の1番近くに居た男が切られて倒れた。
うわぁ、血がすごい。スプラッタね。
ほんのわずかな時間の中で、男たちは私の下で痛みに悶えている男以外、御者に切られて馬車の周辺に倒れ伏した。
うん、血がすごい。というかあの御者、ある程度戦えるとか言って紹介されたけど、どこがある程度なのか。殆ど血も浴びてないのよ? 10人以上切り殺しているのに、しかも馬車に血が掛からないよう意識しながら戦っていたと言うところに驚きを隠せない。
「残りはこいつだけですかな?」
「出て来たのはこいつで最後ね」
御者が声を掛けて来たので、男を踏みつけていた足を退けてから少し距離をとる。
「うごぐっ!」
すると御者は痛みで蹲っている男の横腹を思い切り蹴り、男の意識を無理やりこちらに向けるようにした。蹴られたことで、さらに敵対心が生まれたのか、男はこちらを睨みながらこちらに顔を向けた。
「殺すなら、早くやれよ」
うん、まあ殺しはする。ただ、どうしてここで馬車を襲っていたかを聞いてからだけど。たぶん何の情報も出ないのだろうなぁ。どうせどこかに繋がっていたとしても、トカゲのしっぽとかその辺りの扱いだろうし。
「何故、ここで馬車を襲っていたの?」
「楽して稼ぐために決まってんだろ。早く殺せよ!」
「本当に?」
「ああそうだよ!」
それはあり得ないと思うのだけど。ただでさえベルテンス王国のアルファリム皇国の印象が悪い中でこの道を使う商人なり人は少ないはずだから。
この道は、ベルテンス王国とアルファリム皇国を直接行き来するために作られた1本道だ。今の王国と皇国の関係を考えるとここを使う人がどれだけいるのか。道を進んできた所からわかる通り、この道は荒れている。頻繁にとは言わないけど、ある程度の交通量があれば道上の石や轍なんかは無くなっていくもの。それを考えればこの道を使っている人はかなり少ないという事はわかる。
そんな状況で、この道に盗賊みたいのが常駐しているのはおかしな話になるよね。
「嘘はいけないわ。この道ではあまり実入りが少ないでしょう? 誰かに指示されない限りこんなところで馬車を襲ったりはしないはずだわ」
「……さあな」
「そう」
沈黙が答えという事でしょうね。御者に指示を出して男を物陰に連れて行かせる。1分も経たずに戻って来たので男は抵抗しなかったという事か。
「後始末はどうしましょうか」
「物陰に運ぶだけでいいでしょう。その内無くなるわよ」
私がそう言うと端からそうするつもりだったような動きで、御者は男たちの亡骸を道脇の物陰に投げ捨てていた。
「あ、それ終わったら、念のため闘鳥を飛ばしましょう。いえ、少し進んだところからの方が良いかも」
「了解しました」
早々に処理を終えて、私たちはその場を離れて先に進んだ。
ついでに倒木は動かしやすいように内側が空洞になっていて、馬を使えば簡単に動かすことが出来た。こんな手間のかかることをやる位なら、盗賊をやらないで普通に働けばいいのにね。
道が緩やかな坂道になって来た。この坂を上り、山を越えたところにアルファリム皇国の対ベルテンス王国の前線基地があるはずだ。
「少し速度を落として」
「了解」
幌の中から後方の空に小さな影が見えた。おそらく先ほど放った闘鳥が戻って来たのだと思う。小さな影が徐々に大きくなってきたので揺れる馬車の中で、馬車の側を伝って隙間を少し大きく開けるように幌を引っ張る。すると、外から素早く体長80センチくらいの鷲みたいな猛禽類が滑り込んできた。
「ありがとう」
私は闘鳥の首裏を撫でながら、報酬として用意していた餌を渡す。そして闘鳥が持ってきた物を確認する。持っていた物は小さな鳥だった。脚に紙のような物が結んである所から伝書鳩とかの類だろう。
その中を確認してみると、文字と言うには汚い線がいくつも書かれていた。これを書いた人間の字が下手だったのか、こういった暗号文なのかは私にはわからないので他の人に確認してもらわないといけないようだ。
それにこの鳥は大方あの盗賊の出てこなかった奴らが放った物だと思う。そうなると、あの盗賊はやはり誰かに雇われてあそこに居たことになるし、鳥を使って文書のやり取りをするくらい頻繁に確認を取っていることになる。もしかしたら今回は私たちが通る際に別の所から放たれた鳥が元居た場所に戻る途中だった可能性もあるけど、それは確認できないのではっきりとはわからない。まあ、盗賊の男たちの臭いを覚えさせてから闘鳥を飛ばしたから、あれらに関係していることは確実だろうけどね。
確認は済んだので闘鳥を籠に戻し、御者に速度を戻すように指示する。
あ、この取って来てもらった鳥の処理はどうしよう。もう亡くなっているようだし、 自然の摂理で闘鳥にあげる?
とりあえず闘鳥に近づけてみると一切反応しなかった。うん? さっきみたいに食べない。どういうことだろう。下処理していないと食べないのだろうか。いや、もしかしてこの鳥毒持っているとか? もしくは毒が塗ってあるとかなのかもしれない。文書を運ぶ時にこの鳥が襲われないよう何かしらの対策はされているはずだしね。そうなると、私もあまり触るのは良くないかもしれない。
だとしたらどうしよう。さすがに馬車からポイ捨ては可哀そうだし、前線基地についてから考えればいいか。それか御者に聞けばいい気もする。何かしらの対処方法を知っている気がするから。
ーー
さらに馬車が進む。そろそろ山道の頂上に着きそうな感じだ。
私は馬車に揺られながら、この体の本来の持ち主であるミリアのこと考える。最初は夢だと思っていたけど、さすがにもう夢ではないことは理解している。
公爵と初めて会話した時にも少し考えたけど、今明確にある意思は私である箕真門 碧の物だと考えている。では、私がこちらに来る前にあったはずのミリアの意思はどこにあるのか。私の意思に押しつぶされて消えたのか、まだ残っているのかが良くわからない。ただ、一つ言えることはこの体はミリア・レフォンザムが体験し積み重ねてきたことを覚えているという事だ。
盗賊の時もそうだけど、碧は武術の経験なんて一切ないし運動神経はお世辞にも良いとは言えなかった。それにも拘らず盗賊の腕を躱して、合気道のような技で相手の力を利用して無力化したのはミリアの積み重ねによるものだと思う。そうでないとあの動きは説明できないし、納得も出来ない。
それに身体能力だけでなく、知識面もミリアの面影を感じることが出来る。碧には貴族のマナーなんてものは一切わからないはずなのに、何の注意もされないほどに様になった所作が出来るなんて普通はおかしい。話し方もそう。たまに碧の話し方になっている時があるけど、基本的には貴族が使うような言い回しなんかもすらすら出て来る。
こんな感じだから最初から私だった説は無い。いや、そもそも最初からそんな説は無かったね。
おそらくだけど私とミリアが入れ替わった説も無い。その場合、身体能力はまだしも知識面での入れ替わりも起きているはずだから。
1番可能性があるのは精神的に弱っていたミリアの中に碧が入り込んだ説ね。これなら知識面での共有は可能なはずだ。問題は本来なら主導権を握るはずのミリアが殆ど出てこないこと。
これは精神的に弱っている時に元から我が強いと言われていた碧が入って来たことにより主導権が逆転してしまったという事なのかもしれない。変な言い方だけど、一応精神統一的な物をしてミリアの意思を探った感じちゃんとあるのは確認できた。ただ、婚約破棄の件もあってかなり弱っている感じだった。
ミリアはもともとそんなに自己主張するような子ではなかったようだ。しかも、早くに母親を亡くした影響で精神的にもそんなに強い感じではないらしく、苛めとかにとても弱い感じだ。
尽くす女と言えば聞こえはいいけど、それは場合によって主体性が無いとも取れる訳だ。記憶を思い出す限り、ミリアはそんな子だったようだ。
しかも、どうやら私がこの体に移る前から苛めにあっていたらしく精神的にかなり弱っていたことも分かった。だから、碧の意思が主導権を握れたという事だろう。
正直、苛めの記憶は不愉快この上ないので、クーデターを起こす際にでも苛めを主導した者にお礼参りにでも行こうかと思う。
山道の頂上を越えた。さあ、次は下り坂だと思っていたら、頂上の先に待っていたのは平野だった。要するにこの道は山道ではなく、丘の上に行き来するための道だった訳だ。
そして。道の向こうには既に前線基地と思われるキャンプ地が見えている。後はあの場所に行って、皇子に会えれば最初のミッションはクリアとなる。
ただ、当たり前だけど皇子ともなれば国の重要人物なのは当たり前。簡単に会える訳がない。いや、そもそも前線基地の中に入れるかどうかも怪しいのでは?
行き当たりばったりな気もするけど、時間が無い以上前に進まなければならないので仕方ないとしておこう。
前線基地は検問としても機能しているようだ。ベルテンス王国を出た後に通過した検問に比べてかなり厳重な警戒態勢を取っていることが印象的ではあるけど、国境付近の検問所である以上本来はこれぐらいが普通だと思うのよね。
検問所の順番が回って来た。まあ、回って来たと言うより、担当の兵士が来るまで待機していただけなのだけれど。そもそも、ベルテンス王国からアルファリム皇国に入っている者が少ないから、検問担当の兵士が常駐していないようだ。
検問の対応は御者に任せてある。と言うか公爵にそうするよう求められたので私はこの間は口を出すことは無い。
検問所の通過が許可された。馬車は検問所を通過し前線基地の場所置き場に向かう。この前線基地はどうやら元からあった小さな集落を基地として活用しているようだ。
おそらく昔はベルテンス王国から来た者たちの停泊所も貸せていたのだろう。ただ、最近はベルテンス王国からこの集落に来るものはめっきり減ってしまっているだろうから、収入を得るために兵士たちを誘致したのかもしれない。いや、それを見越して兵士が話を持ち掛けたのかも。うん、その方が現実的かもしれない。
さすがに集落のエリアと基地のエリアは柵で分断されている。基地には武器などの危険物があるだろうし、集落の子供が間違って入ってしまったら大変なことになる。集落の人もそれは理解しているのか、不満があるような感情は見えない。
私たちは、御者がどう話を付けたのかはわからないけど、先ほど検問を担当していた兵士がこの集落にある唯一の宿屋の場所まで案内された。誰も部屋を借りている人はいないようなので実質貸し切りなのだけど、重要なのはこの後のこと。
そう。ようやく目当てのオルセア・アルファリムに会うことになるのだ。
ここまで流れるように進んでいるのだけど、御者はどうやってここまで話を通しているのか気になる所ね。いくら公爵家とはいえ伝手だけでは簡単に王族、もとい皇族に会える訳がないのだから何かあるのでしょうけど。
集落の中にある基地へ向かう。今更だけど馬車に積んできた荷を下ろして、宿で一旦休憩していたので結構時間が過ぎてしまい既に日が落ちている。果たしてこんな時間に皇子に会うのは普通なのだろうか。まあ、そもそも会う約束なんてものは取り次いでいない中でやって来て、会おうとするよりも大分ましなのだろうけどね。
基地のエリアに入ると、一旦また検問のようなところに通された。当たり前だけど、危険物とかを持ち込ませないための物なのでしょう。
しかし、検査は予想外にしっかりされずに目視だけの検問だった。おそらくここまでスムーズに来られている何かが関与しているとは思うのだけど、私にはよくわからない。ミリアの記憶を読んでみても思い当たる物はなさそうなので、本当にわからないのよね。
あ、もしかして、この御者は何かしらの重要人物だったのかも? それなら色々と納得できるところがあるわね。公爵に指名されるとか予想以上に強いとか、ここに来て何かスムーズに事が進んでいるとかね。
基地の中の奥に進んで行く。屋根が木材じゃなくて幌で出来ているから最初にキャンプ地とは言ったけど、結構しっかり建物が立てられている。まあ、殆ど同じ形で建てられているからプレハブとかと同じで、簡単に建てたり解体したりできるものだと思うけど。
何でこんなことを言っているかと言うと、全部同じように建てられているからどの建物の中に皇子が居るのかが判断できないのよね。たぶん先導してくれている兵士が案内してくれるところに居るのだろうけど、どこまで行くのかわからないから心の準備が上手く出来ない。いえ、すぐに会うと仮定して準備はした方が良いわね。
「こちらで皇子がお待ちになっています。失礼の無いように」
ちょっと待って! 早いって! 準備しようとした瞬間にだなんて、もう少し待って欲しいのだけど!
私のそんな気持ちは知らず、兵士と御者は間隔を置かずに皇子の居る建物に入って行ってしまった。私も内面を出さない様に付いて行く。
建物…いや、兵舎の中はかなりすっきりとした感じだ。皇子が居るから謁見の間みたいになっているのかと思ったけれど、どちらかと言うと会議室の方がしっくりくる作りだった。そして、議長席らしき位置に皇子と思われる人物が座っていた。
「ようこそ。ここに来た詳しい理由は聞いていないけど歓迎はするよ」
ああ、やっぱりこの人がアルファリム皇国の第1皇子であるオルセア・アルファリム皇子なのね。
「アルファリム皇国第1皇子のオルセア・アルファリムだ。何用でここに来られたのかを詳しく聞きたいところだが、それよりもデュレンが生きていたとは驚きだ」
「さて?」
デュレン is 誰。いやまあ御者のことなのだろうけど、やっぱり重要人物だったのか。しかし、皇子がかなりの美形だ。少し幼い感じだけどたぶんミリアと同じくらいの年齢かな。王国の第2王子と比べても十分上の外見と言うか顔と立ち居振る舞いが良い。
ゲームでは立ち絵が無かったし名前が出たのも2回だけだったし、その所為で外見が一切わからなかったけど何で皇子の立ち絵作らなかったの? ミリアの立ち絵より皇子の立ち絵作った方が絶対もっと売れたよね? 皇子×王子の薄い本も絶対出ただろうし。どうしてもミリア視点で婚約破棄の場面を描きたかったのだろうけど、明らかに選択ミスよね。
「それで、そちらの方はどのようなご用件でこちらに来たのかな?」
私がいらない妄想をしている間にも会話が続いていたようで、その流れでこちらに話を振られた。あ、ヤバイ。挨拶とか何も考えていないのだけど、どうしよう。い、いや、とりあえず自己紹介をしている内に考えないと。
「ああ、ごめんなさい」
私はそう言って時間を稼ぐように大きく間をおいて、まだ被ったままだったフードを取ってコートの中にしまっていた背中の中ほどまである髪をファサァ、と言うかバザァと言った感じで出した。いやうん、何か見た目のインパクトがあるけどコートの中に髪の毛を仕舞っていたら熱がこもっていて不快だったのよね。早く出したかったし、印象付けるには良いかなって思って。
「初めましてオルセア皇子。私、ベルテンス王国のレフォンザム公爵の娘、ミリア・レフォンザムと言います。以後、よしなにお願いしますね」
自己紹介終わり! さて、次は計画の協力してもらうための打診? いえ、さすがにそれは唐突過ぎるか。
うん? 何か皇子の様子が変、と言うか表情が固まっている? 何で? 何気に障る事でもしてしまったの? あ、髪の毛バサァはあまり良くなかったのかも。
「皇子?」
さすがに私の自己紹介に対して何の反応もない皇子におかしいと感じたのか、隣に立っていた秘書と言うか助言役らしき人が声を掛けている。
「あの、大丈夫でしょうか。私、何か無作法な事でもしてしまったのでしょうか」
ここまで無反応だとかなり不安になって来たので、皇子に問いかける。すると、はっと我に返ったように皇子が反応した。
「あ、ああ、すまない。何でもないよ。しかしベルテンス王国の公爵家令嬢がここになんの用だい? ここがどういう理由で存在しているのか理解しているのかな?」
「ええ、ベルテンス王国へ侵略するため…ですよね?」
含みもなく直接そう言われると思っていなかったのか、皇子は驚いたように翠色の瞳を大きく見開いていた。
ーー
「何故、何処でそのことを知って?」
さすがに先ほどとは違い直ぐに皇子は反応した。まあ、本来なら現段階で外に漏れるような情報ではないから驚くのは無理ないと思うけど、もう少し感情を表に出ないようにしないと皇族としてやっていけないのではないかしら。その辺もまだ経験値不足ってことなのかもしれないけどね。
「知っているのかわからないのだが、この基地は最近あまり良い噂が無いベルテンス王国との国境を警備する名目で一月ほど前に作られた場所です。表向きは国境警備、しかし本来の目的は貴方が言ったように、ベルテンス王国へ侵略するための前線基地として作られました」
うーん。私が侵略するためにここがあるって言ってから部屋の空気が重い。いや、機密情報が漏れていたってことと、侵略する側の公爵令嬢がそれを知っていたってことで警戒心が最大になっているからだろうけど、この空気は結構きつい。
「しかし、何処から情報が漏れたのか。もっとしっかりと管理しなければいけませんね」
うん、まあ。その必要は無いのだけどね? ゲームの内容から知っていただけで、情報が漏れたとかではないのだけど、言ったところで信じてもらえないだろうけど。
「まあ、それは今更かな。それでどのような要件があるのか聞きたいのだけど」
「ええ、それは…」
「ああ、すいません。こちら公爵様から皇子への文でございます」
私が要件を言おうとしたのを遮って、御者もといディレンが皇子へ密書的な物を渡した。って、私そんな物があるなんて一切聞いていないのだけど、もしかして公爵からあまり信用されていないのかしら。
今更だけど、最初に相談した時の姿勢って、元のミリアのあまり出しゃばらない性格から考えたらあり得ないことなのよね。もしかして私がミリアではないことがバレているのかもしれない。いや、その後に何度か会っている時に反応が変わらなかったから、何かしら吹っ切れてその反動でそうなったとでも思っているのかも知れないわ。…そうであって欲しいわね。
「なるほど。近年の理解しがたい王国の動きはグラハルト商国が原因という事か。確かにあの国は色々と黒い噂があるからな。しかしなるほど我が国の噂もこれが原因かもしれないとは」
「おそらくはそうでしょう。あの国は印象操作や情報操作が上手ですから」
「そうようだな」
この皇子は現在のアルファリム皇国の印象に思うところがあるようね。でも、皇国がその辺りを気にしている何て思っていなかったのだけれど、もしかしてオルセア皇子はその辺りを気にする少数派なのかしら。それなら話が通し易くていいのだけれど、まあ話を進めて行けばわかる事よね。
「それで、本題に入りますね。おそらく先ほど渡したお父様の文にも書かれていたかと思いますが、私たちにベルテンス王国への侵略を助力、いえ手伝わせていただきたいのです」
「こちらとしてはその申し出はとてもありがたい。しかし、そうすることによって貴方たちが得るであろう利点は何でしょうか」
「それは、そうですね。確かにその部分を話す必要がありますか」
あれ? その辺の話はさっき渡した文に書かれていなかったのかしら? 凄く重要な部分だと思うのだけど、そこは私が説明しなさいと言うことなの? 私、説明するのはあまり得意じゃないのだけど。
「私たちが得る利点ですが、大まかに言えば王国の民を守ることが出来る。と言う一点に尽きます」
「国民を守る? 侵略の手伝いをするのに?」
まあ、そうよね。自国に対して侵略してくる他国を手助けするなんて、国民にとっては生活を脅かすことを助長しているのと同じだから疑問に思う事に無理はない。
「お父様が渡した文にどこまで書かれていたかを私は把握していませんのでどこから話せばいいのか悩みますが、大まかに言いますと現在ベルテンス王国はグラハルト商国から侵略を受けています」
「ああ、それはこれにも書かれていたね」
オルセア皇子はそう言って先ほど渡した文を小さく掲げた。あれ、まだ持っていたのか。机に置くなり、他の人に渡せばいいと思うのだけれど。あ、でも密書扱いだから下手に他の人に渡すとかは出来ないのかも。
「ええ、それでその侵略の進み具合がかなり進んだ状態です。既にほとんどの王族がグラハルト側に回ってしまっています。おそらく後1年もしない内に完全に侵略されてしまうでしょう」
「それは急いで対策を建てなければならないな。しかし、それがどのしてこちらに協力するという話になるんだい? それに国民を守ると言う話にも繋がらないのだけど」
これはあくまで王国の現状だ。繋がらないのは当たり前でしょう。最大の問題はこの次のことなのだから。
「問題はグラハルト商国が奴隷推奨国であることです。もし、グラハルト商国の侵略が成功してしまうと、国民すべてが奴隷として扱われてしまう可能性が高いのです」
「ああなるほど。確かグラハルト商国は表向きには奴隷を推奨していないが、実状は奴隷を多用している。しかも劣悪な環境で使役されているという話も聞くこともあるな。あまり多くの情報が入ってこないからどこまで信頼して良いのかはわからないけど」
うん。これがどうしてもグラハルト商国に完全な侵略を許してはいけない理由だ。
そもそもこんな詳しい理由はゲームでは出ていなかった。では何でこの事を私が知っているかと言うのは、この体の持ち主であるミリアが頑張って調べ上げていたから。ミリアは父親の公爵や他の貴族とは違い第2王子の婚約者だったため王城内に入ることが出来た。だからそこで王政がおかしいことを一早く知ってその原因を探していたようだ。そしてこの情報に辿り着いたという事らしい。それもあの夜会があった少し前にね。
「ですから、グラハルト商国に侵略される前にアルファリム皇国がベルテンス王国に侵略して欲しい。それが私たちが協力する理由であり、私の願いです」
王国に居る人たちを守る。それは私の願いではない。これはミリアが何よりも優先したいと想い続けている願いだ。
奴隷にはなりたくないからグラハルト商国の侵略を止めたいとは考えているけど、正直私は王国に何の思い入れもないし、無くなったところで少し残念に思うくらい。でも、ミリアはベルテンス王国の公爵家で生まれて小さい頃から王国のために生きるように教育されている。それに国のために動いていた公爵である父親を見て育っているから余計にそう言う感情が強いように思う。
と言うか、ミリアが第2王子との婚約を受け入れていたのだって王国のためになるからだし、第2王子に対して恋愛感情は大して持っていないのよね。婚約破棄されて落ち込んでいた理由だって、弱っている時の追い打ちと言う面もあるけど、いままで自分に1番懐いていた飼い犬が、いきなり自分以上に他の人に対して甘えていることに衝撃を受けたとかそんな感じだったし。
うん。あのゲームの主人公も変だと思っていたけど、この子も大概変な子よね? うっ、何か精神の片隅で反論されている感じがするわ。
「そう…ですか。ええ、理解しました」
私の下手な説明でもオルセア皇子はしっかりと理解出来たようだ。あれでも、あまりいい顔はしていないようだけど、どうしてかしら?
「ですが、もしこのまま我が国のベルテンス王国への侵略計画に協力し、成功した場合に貴方は売国奴として罵られる可能性があることを理解していますか?」
ああ、だからあまりいい顔をしていなかったのね。まあ、確かに他国からの侵略に協力しているのだからそう言われても否定することは出来ないものね。
でも、私はそうしたいと強く思っているのだから、居候のようにこの体の中に居る私は本来の持ち主である私の意見を尊重することにしている。それがどのような結末になろうとも。
それに最初は夢だと思ったから勝手に動いたけど、私は1度死んでいるみたいだし、本当ならこの物語の主人公はミリアなのよ。だからミリアの意思がある限り、余程のことでないなら私が出しゃばることはしない方が良い。
「十分に理解しています。それでも私が優先すべきことは国の民を守ることなのだから」
「わかりました。我々はそちらの協力を受け入れましょう」
良かった。とりあえず提案は受け入れてもらうことが出来たわ。これで大きく前に進んだことになるはず…よね?
「この後に細かい調整や話し合いが必要だと思いますが、もう周りが暗くなってしまっている時間です。この話は一旦切り上げて、また明日ここで話の細部を詰めていきましょう」
「そうですね」
オルセア皇子がそう言って話を切り終えた。確かに兵舎の窓から外を見る限りもう周囲は真っ暗になっている。それに、1日馬車に乗っていたからその疲れが出て来て、体が少しだるい感じもあるから続きを明日に回してもらったのは有り難かった。
話も区切りがついたし、宿に戻って夕飯食べて直ぐに寝よう。そう思って退出する前にオルセア皇子に会釈しようと視線を戻すと、皇子はさっきまで居た位置とは違い私の目の前1メートル程の位置まで近づいて来ていた。
「うぇっ!?」
意識を逸らしている間に凄く近くまで来るとは思っていなかったので、驚きで体が一瞬震えて声を上げてしまった。さすがに皇子相手にこれは拙いと思ったけど、どうすればいいのかわからず皇子の顔を見つめた。
「え、ああ、すまない。別のことに意識を向けていたようだけど、まさかここまで驚くとは思っていなかった」
「あ、いえ、私の方こそ驚いてしまって申し訳ありません。あ、あの、何か御用…でしょうか?」
ここまで近づいてくるという事は何かしら用があると言う事なのだと思うけど、何だろう? 皇子の方から話を切り上げたから、計画云々の話ではないと思うけど。
うーん、でも近くで見ると本当に美形ね。身長は180くらい? 確かミリアが160くらいのはずだから、それくらいかしらね。
ふむ。整った顔に金色の髪、翠色の瞳で身長も高め。うん。The 皇子って感じね。まあ少し優しめの顔立ちだから王族と言うか皇族としての威圧感はあまりないけど、その代わりずっと見ていられる顔だわ。
「聞いて良いか悩んだのだけど、嫌なら答えなくても良い。レフォンザム公爵の令嬢と言えばベルテンス王国第2王子の婚約者だったと記憶しているのだけど、そのような立場でこちらに協力するのは大丈夫なのかい?」
あー、なるほど。隣国の皇子だから王国の王族に関する情報も持っているのね。逆の情報は全く無い訳なのだけど、密偵や何かで情報を得たという事かしら。
と言うかお父様が渡した文には何が書かれていたの? ここに来た経緯とかが書かれていると思っていたのだけど、もしかして、ただの紹介状とかそんな感じの内容しか書かれていなかったのかしら。割と重要な部分だと思うのだけど。それとも私に直接関わることだから、自分から言いなさいと暗に言われているのかしら?
「ああ、それなら問題ありませんわ。グレテリウス王子から数日前の夜会で直接婚約破棄の話をされましたから。なので、今の私は王政とは無関係なのです」
私が婚約破棄されたときっぱり言うと、オルセア皇子は理解できないと言った表情をした。
「え? いや、王族の婚約は王の名で取り決められるはずだ。そう簡単に破棄できるわけがない」
「本来ならそうなのでしょうけど、それが出来てしまうのが今のベルテンス王国の現状なのです」
ーー
「そう…ですか。なるほど、それは好都合だな。しかし、そこまで王政の統率が取れていないとは、想定以上に時間が無いようですね」
納得してもらえたようで安心ね。でも何が好都合なのかしら? うーんまあ、それは別にいいかしらね。さて、何か考え込んでいるようだし、皇子の疑問もこれくらいみたいだから宿に戻りましょう。
「あ、すまない。待ってくれ」
……また? できれば早く休みたいのだけど、今度は何かしら。
「ああ、何度も呼び止めてしまい申し訳ない。デュレンとミリアさんは食事の方はどうするおつもりで? もし宜しければ、一緒にどうでしょうか。まあ、基地の中なのでそれほど良いものが出せる訳でもないのですが」
食事の誘いかぁ。本当なら断りたいところだけど、皇子からの誘いだし断り辛いな。まあ、宿より良いものは出してくれそうだけど、宿の方はもうお金払っているのだけどどうするべきか。
「あの、宿の方にもう料金を支払ってしまっていて」
「それでしたら私がこの件について宿の方へ言ってまいります」
「え、あ、そ…そう。なら良い…のかしら?」
うぐぅ、私が断ろうとしたところでデュレンに逃げ道を塞がれてしまった。いや、明らかに断ろうとしているのになんでそんなことをしてくれるのかしら?
「ああ、それは良かった。では私に付いて来てくれ。デュレンはここに案内役を置いておくから、用が済んだらここに来てくれればいい」
「了解しました」
くそぅ。これは分が悪い。と言うかデュレンは私よりもオルセア皇子の方の優先度が高い気がするのだけど、どういうことなのかしら。まあ、お父様の部下であって私の従者とかではないのだから、私の意見は優先度が低いのかもしれないけど、それでも皇子よりも優先度が低いってやっぱり皇子と元から関係性があったってことなのかもしれないわね。
そうしてオルセア皇子に付いて今までいた兵舎とは異なる建物の中に入って行った。そこには既に食事が人数分用意してあった。そう、私の分まで用意してあったのよ。
それは、最初から私を食事に誘うつもりだったという事であり、逃げることも出来なかったのだと私はその光景を見て理解した。
夕食は普通においしかった。確かに公爵家で食べた料理に比べれば味も見た目も落ちる。だけど、国境付近にある基地の中でと考えれば十分な質だった。それに、屋敷に専属料理人として仕えているならまだしも、基地の中に居る料理人は兼業のはずだ。まあ、皇子が居るから腕がいい人が料理しているだろうけど。
「おいしかったわ。想像していたよりもずっと」
「そう。それはよかったよ」
皇子はとても安堵した表情でそう漏らした。まあ、自分から誘った点前料理を出して不味いと思われたら嫌だろうしね。
と言うか、結局デュレンはここには来なかった。確かに料理は用意してあったからそのうち来るだろうと思っていたら、使用人だから一緒に食べることは出来ないとか言って別室に料理が運ばれていった。いや貴方、皇子と親しそうに話していたよね? 明らかに使用人とかの範囲は超えていたと思うのだけど!?
もう過ぎたこととは言え、その所為で皇子と2人きりで食事をする羽目になった。まあ、食事中に話をするのはマナーに反するのであまり会話は無かったのが救いかしらね。その代わり食事中頻繁に私を見て笑顔を見せつけられたのだけど。結局あれは何だったのかしらね?
「でも、さすがに普段からこのような感じの物が出て来る訳ではないのでしょう?」
「ははは、やはりわかってしまいますか。確かに毎回このような物でしたら、予算が直ぐに尽きてしまいます。これはあくまで要人などの重要人物が来た時だけですよ」
「ふふ、そうですよね」
重要人物ねぇ? デュレンのことかしら、それとも私? まあ、ここまでの反応的にはデュレンのことだと思うけど。どうなのかしら。
「ミリアさん。貴方も十分に重要人物ですよ。むしろデュレンより重要度は高いのですからね?」
「え…そ、そうかしら?」
もしかして表情に出ていたのかしら。考えていたことを言い当てられてしまったわ。
「…そうだと良いのですけど」
ミリアの記憶を辿った感じで今までの扱いを鑑みると、公爵家の者とは言え所詮は家を継ぐことは無い小娘だからってかなり軽く扱われていたみたいなのよね。まあ、王国に居る貴族の多くが腐っていたとは言え、ずっと雑に扱われていれば期待もしなくなる訳よね。私はこの体になってあまり時間も経っていないから何とも言えないけど、ミリアにとってどんなに努力してもいつも同じような反応しか返ってこないって言うのは、かなり精神的に堪えていたみたいだし。思わせぶりな態度とかにはあまり良い感情が出てこないわね。
「本当のことですよ」
「あ、いや…でも」
「僕を信じてください。…って今日会ったばかりの僕の言葉はあまり響かないでしょうね。なので、何れ今言ったことが本当だったと信じてくれるまで僕は努力し続けますね」
え? これって何かオルセア皇子に目を付けられたという事なのかしら? と言うかこの皇子もちょっとおかしい方だったのかしら。
オルセア皇子に目を付けられたような発言の後は、さらに呼び止められることは無く宿屋に戻って就寝した。さすがに2度も食事をキャンセルするのは良くないし、誘われることもなかったので朝食は宿屋で取った。
そして、予定通り基地のエリアに行こうと思ったところで、今日話し合う時間を決めていない、と言うか一切決めていなかったことを思い出した。
「ねぇ、デュレン。今日の話し合いって何時からなのかしら。貴方は知っている?」
「いえ、そういえば私も聞いていませんね」
「どうしましょう?」
このまま、基地の中に入ってしまって良いのだろうか。さすがに案内なして基地の中に入るのは拙いのは理解できる。この場合、基地の出入り口に居る兵士に聞くなり、連絡を取って貰った方が良いのかしら。とそう思っていると、基地の入り口がある方向から兵士らしき人が走ってくるのが見えた。
「あ、レフォンザム様! もしかして前線基地の入口へ向かっている途中でしょうか?」
「ええ、そうですね。どうかしましたか?」
「あ、いえ。私はレフォンザム様を案内するようにと言われておりまして。それで、急いで向かっていたのですが、良かったすれ違いにならなくて」
なるほど。元から用意が出来次第、案内役を送るつもりだったから詳しい時間を指定していなかったのね。まあ、それならそうと言っておいてくれたらよかったのに。言い忘れかしらね?
「それは良かったわ。私もいつ頃行ってよいのか聞いていなかったから、とりあえず向かっていたのよ」
「そうですか。ならこの先は私が先導されていただきます」
「よろしくお願いしますね」
そうして私たちの所にやって来た兵士の後をついて、昨日の話し合いに使った兵舎に到着した。そこには既にオルセア皇子が昨日と同じ位置に座って私たちを待っていた。何か昨日と違って兵舎の中の香りが違うのだけど、もしかして事前にお香でも焚いていたのかしら。
「やあ、ミリアさんとデュレン。すまないね。昨日に今回の時間について話していないのを朝になってから気付いてね。伝令の兵士を送ったのだけど大丈夫だったかい?」
「ええ、問題はありませんでしたよ。それに時間については私も聞かなかったのが悪いですから」
私がそう言ってオルセア皇子に笑顔を向けると、皇子は嬉しそうに笑顔を返してきた。
うーん。さすがに見惚れそうな笑顔ね。
昨日はいきなりの訪問だったし話自体が短かったから、座ることなく話していたけど今日は予定に入っていたおかげかしっかりと椅子が用意されているようだ。まあ、もちろん私のだけなんだけどね。デュレンは一応私の従者としてここに居る訳だし、あったところで座らないだろうけど。
「それで、ベルテンス王国への侵略に関しての話し合いなのですが、正直今話し合えることはあまり多くはありません。我が皇国の軍を動かすには私の父親である皇の判断による指示が必要ですし、ここの前線位置に居る兵はどちらかと言えば偵察や情報収集を主に担当している者が大半です」
それはそうだろうね。皇が国の頂点として真っ当に機能している中でいくら皇族だからと言っても、たかが皇子1人の判断で軍を動かせてしまうのは色々と問題が起きるだろうから。
「現状ベルテンス王国の内情に関してこちらはあまり把握出来ていません。ですが、その辺りの情報はレフォンザム公爵から父上に宛てられた密書に書かれていると記されていたので、それである程度は把握できるでしょう」
あれ? それじゃあ話し合う事ってほぼ無いのではないのかしら? そもそも侵略の協力をするってことだけど、それってベルテンス王国の情報を渡したり、内部協力者を募ったりって感じのはずだから、本当に何を話し合えばいいのかしら?
「それを踏まえた上で話し合えることは、侵略に関しての細かい部分、どの程度の被害を想定するか、敵対分子の扱いなど。それと侵略を終えた直後はどのように収めるのか。そして侵略が終わった後のベルテンス王国をどうするのかですね」
あー、それもそうか。終わった後のことはあまり考えていなかったわね。とりあえずミリアを虐めていた奴らに復讐する事しか考えていなかった。
まあ、少なくともグラハルト商国の関係者は凡そ排除は確実かしら。乗っ取りに成功したとしても残っていたらただの不穏分子にしかならないしね。
「そうですね。その辺りのことはしっかりと話し合う必要がありますね」
「では、先に侵略をする際に関することを話し合っていきましょう」
そうしてオルセア皇子とベンテンス王国への侵略計画について本格的に話し合いが始まった。まあ、あくまで私たちがまとめた計画は草案のような感じに扱われることになると思うけどね。
そもそもミリアもオルセア皇子も成人してそれほど経っていないし、国を動かすわけだから最終的には上の立場の者、まあこの場合はアルファリム皇国の皇が判断することになるはずだ。
そういえばオルセア皇子の歳っていくつなのかしら? おそらくミリアと同じくらいだと思うのだけど。
ーー
話し合いは順調に進んだ。人的被害は最小限に、その他に関してはある程度は許容する形にと言う形で纏まった。そして敵対勢力に関してはグラハルト商国の関係者は全て排除、それ以外存在は状況次第で対処することになった。侵略の際に出た物的被害に関しては、現在ベルテンス王国で腐敗政治にかかわっている貴族家を取り潰しにしてそこから資金を得る形になる予定ね。
そこまで話し合ったところで昼の時間になった。まあ、昨日と同じように食事が用意されていたので断ることが出来ずに皇子と食事をとることになった。
昼食も食べ終わって食後の紅茶を出され、この後はまた話し合いの続きね、と思っていたところに話し合いの最中にも皇子の隣に居た秘書なり執事だと思っていた兵士が現れた。
「オルセア皇子。準備が整いました」
「ありがとう。さて、それでは行こうか」
ん? どういう事なのかしら? 話し合いをする兵舎に行く…だとそもそも準備をする必要は無いはずだから準備の部分がつながらない。
そして、差し出されるオルセア皇子の手。エスコート的な奴? 何でこの状況で?
「え…っと?」
とりあえず、差し出された皇子の手に私の手を添える。そして少しだけ皇子の力を借りて椅子から立ち上がった。そしてそのまま皇子に連れられて昼食を食べた兵舎から外に出ることになった。
いや、オルセア皇子。そろそろ手を離してくれませんか? もう手を繋ぐ必要はないですよね?
「え、あの、手を」
「いいじゃないか。互いに婚約者が居ないのだから、問題は無いだろう?」
まあ、そうですけどね? でも、この世界って結構貞操観念がしっかりしているのですよ? 婚約者だろうと人前で手を繋ぐのはあまり良いか押されないのですけど。それとも、アルファリム皇国はその辺りが緩い国なのでしょうか?
「あの、そ…そうは言いましても」
「さて、こちらですよ」
私が必死に言葉で抵抗しようとしても完全に無視されてしまった。これはもう離すつもりは無いようだ。仕方ないので皇子のエスコート?に従って歩いていく。この方向だと基地の外に出てしまうのだけど、どこに行くのでしょうね?
でもエスコートしてくれているのだけど、腰に手を回すとかはしないのね。碧の時に男性が女性の腰に手を回すのは大抵が性的な目的があるとか見聞きしたことがあるし、そう言った関係かしらね。本場のエスコートを見たことが無いから何とも言えないけど。
ミリアの記憶にもその辺りのことはあまりないのよね。長い付き合いのはずのグレテリウス王子は何をしていたのかしら?
「さて、着いたよ」
目の前には私がここに来るまでに乗って来た荷馬車とは違う、よく見る貴族が利用している馬車がある。いや、え? 本当にどういう事かしら? 何で馬車の所に連れてこられたのかしらね。わからないわ。
「えっと、これはどういう事でしょうか?」
「ああ、さすがにここで決められることには限りがあるし、ミリアさんもずっと宿で過ごすことは出来ないだろう? だから一旦計画の報告のついでに城に戻ろうと思ってね」
確かにずっと宿で過ごすのは持ってきた資金的には難しい。出来ない訳ではないけど貴族として色々とあるから、それを考慮すると何れ家に戻る必要があるとは思っていた。でも、アルファリム皇国の城に行くことは想定していなかった。と言うか普通はそんなことは考えないと思う。
「ほら、おいで」
先に乗り込んだオルセア皇子に馬車に乗るよう催促される。いや、おいでって私は何扱いを受けているのだろうか。
拒否することも出来ないので、馬車に乗り込もう。そして、馬車の踏み板に足を掛けたところで皇子に腕を引かれて一気に馬車の中に乗り込んだ。しかし、まさかここまで強く引き上げられるとは思っていなかったので勢いが付きすぎて、そのままオルセア皇子と抱き合うような姿勢になってしまった。
「あ、えっと。…ごめんなさい」
「あ、あーいや、悪いのはこちらだ。必要以上に力を入れてしまった。申し訳ない」
顔が近い。いや、ほぼ密着している状態だから当たり前だけどね!? と言うか思いっきり皇子にもたれ掛かっている体勢だから変に力が入れられない。ちょっと待って! サスペンションみたいな振動吸収機構が付いているのか馬車が揺れて余計に力が入れられないのだけど!?
「す…すいません。体勢が悪いのか力を上手く入れられなくて」
うわぁ本当に顔が近いのだけど。あ、まつ毛長い…っじゃなくて、ああもう! さっき手を引かれていた時から意識しない様にしていたのに、これは駄目だわ。手が大きいとか、所々硬いところがあるから剣だこかしらねとか、結構体重が掛かっているはずなのによろけないから力が強いのねとか、それに薄っすらと香水の香り…って、何か皇子が笑顔なのだけど!?
「ごめんね? 失礼するよ」
「? えっ!?」
皇子が少し屈んだと思ったらいきなり抱きしめられた。突然のこと意図がわからず私の思考が途切れ、そのまま皇子を見つめることしかできなくなった。そして皇子はそのまま流れるように私を横抱きしてゆっくりと馬車の座席に私を座らせた。
もうこの段階で私の許容できる範囲はとうに超え、恥ずかしさのあまり顔を手で覆うことしかできなかった。今、絶対に顔は真っ赤に染まっているはず。
いや、ミリアもそうだけど私も碌に恋愛経験がないのだから、オルセア皇子のような美男子に優しく抱きしめられるとかどうして良いのかわからなくなるのよ。
「大丈夫かい? 動けないようでしたので抱きかかえてしまったのですが、嫌…でしたか?」
「っ! い…いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
恥ずかしさのせいでまともに皇子の顔を見ることは出来なかったけど、少しだけ見えた皇子の表情はかなり嬉しそうだった。いや、私は一杯一杯なのだけどね!?
私たちが乗り込んだ後、しばらくして馬車はアルファリム皇国の城に向かって走り出した。到着までは休憩を最小限にして4日掛かるとのことなのでそれまでは馬車の中に皇子と2人きりで居ないといけないのでしょうか? いえ、皇子の従者の方は居るので完全に2人と言う訳ではないのですけど、従者の方は基本的に私たちが居る所から微妙に隔離された位置に居るので実質2人と言う状況なのよね。
デュレンは家から前線基地までに乗って来た馬車を引いて、私たちが乗っている馬車に追従している。私はそちらに乗りたかったのに、なぜこっちに乗っているのかしら。
うぅ、気まずい。と言うか、あの後の皇子は当たり前のように私の隣に座って来て、しばらく無言で私の方を見ていたようだ。私は恥ずかしさによって手で顔を覆っていたので最初の笑顔以外は詳しくは知らない。まあ、皇子は馬車が動き出す少し前に私が座っている向かいの座席に座りなおしていたけど、それまでは隣に居るって言うので、ずっと落ち着けなかった。本当、いきなりあんなことが起こるのは少女漫画だけだと思っていたけど、実際にそれを体験するのは体に良くないわね。
「落ち着いたかな?」
「え…ええ、申し訳ありません。ああ言ったものは余り慣れていなくて」
「婚約者が居た身では異性との接触もよくは見られないからね。仕方が無いことだよ」
いや、貴方も皇族なのだから婚約者くらい居るでしょ、って思いかけたけど馬車に乗る前にオルセア皇子が婚約者は居ないみたいなことを言っていたことを思い出した。皇族なのだから普通に考えて小さい時から婚約者が居るものだと思うけど、アルファリム皇国の皇族は違うのかしら? それとも別の理由があるのかもしれない。って違う! だったら何で皇子はこんなに余裕があるの? もしかしたら慣れているってこと…なのかしらね。
「いえ、公爵家の娘としてあれは少々問題があるかと思います」
「そうだろうか? 私は問題無いと思うけどね」
「いえ、さすがにあれは」
「それに、そのままの方が私は好きだよ? かわいいから」
「っ!」
いやいやいや、だから何でこうサラッと…って、待って言葉に出してきたのは初めてだよ! 何!? 今日はサービスデーか何かなの?
うん? もしかしてこれは揶揄われているだけなのではないかしら? なるほど、手を引かれただけで恥ずかしそうにしている私を見て楽しんでいると。それなら皇子の表情も理解できますね。
「オルセア皇子。あまり揶揄ったりしないでくださいませ」
「そういう意図は一切ないのだけど。そうか」
露骨に悲しそうな表情にならないでよ! 何か別に悪いことはしていないのに罪悪感が湧くのだけど、だったらどうしろと言うのかしら。
「あ、いえ…あの」
悲しそうな表情をした皇子にどう声を掛けたらいいのかわからずに戸惑っていると、それを見ていた皇子が薄っすら笑みを浮かべているのに気が付いた。
って、ちょっと。演技だったの? 私の心配と言うか気遣いを返して欲しいのだけど!?
そんなやり取りをしている間にも馬車は進んで行く。
このままだと精神的に辛いから早く最初の目的に付いて欲しい。切実にそう思う。
前線基地から出て4日目。ようやく馬車からアルファリム皇国の城が見えて来た。予定では後数時間で皇都に着くみたいです。まあ、そこから城に着くまでさらに時間が掛かるようですけどね。
ああ、ようやくこの精神修行から解放される。長かった。途中休憩なり昼食なりで止まることはあったけど、基本的に日中は馬車の中。馬車の中には私と皇子、そして存在がかろうじて確認できる皇子の従者だけ。
馬車に乗っている間はずっと皇子に見つめられている。さすがに2日目後半になれば多少は慣れて来ていたから微笑み返すくらいは出来たけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
それと、まだ話し合っていなかった部分についても凡そ話し終わった。残念ながら、侵略が成功した後に王政を乗っ取るまでは問題なく決めることが出来たのですが、その後の国の存続については纏めることは出来なかった。まあ、まだ時間はあるし、私たちよりお父様や皇当りに決めてもらった方が無難な気はするのだけどね。
「ああ、そろそろ道が舗装された場所に入るから、その時に少し揺れるよ。速度的にはそこまでじゃないと思うけど気を付けてね」
「ええ、わかりました」
アルファリム皇国の皇都は地面全体が舗装されているようね。ベルテンス王国は王城へ行き来する道しか舗装されていなかったのだけど、経済の違いか文化の違いかしらね。
しばらくして馬車を引いている馬の蹄鉄の音が変わった。
「ひゃん!?」
それから一瞬遅れて舗装されている場所の境目の差が大きい所に当たったのか乗っていた馬車が少し跳ねた。事前に注意されていたとは言え、ここまで強い衝撃が来るとは思っていなかった私はその衝撃で体が座席から少しだけ前に飛び出してしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
私が衝撃で前に出てしまったのを見て皇子は直ぐに反応し、私の体を受け止めてくれた。馬車に乗る時とは違い、肩をやんわり掴んで支えて貰っているからそこまで恥ずかしくは無い。まあ、肩を掴んでいるのは皇子なりの配慮かしらね。何がとは言わないけど、ミリアはそこそこ大きいから。
「大丈夫です。助かりました。ありがとうございます」
とりあえず、直ぐに皇子が受け止めてくれたので安堵して感謝する。ただ、馬車がまだ動いている状態なのでこのまま動くと危ない、そのため皇子が御者に減速するように指示を出していた。完全に止めないのは後続にはデュレンが走らせている馬車があるためだと思う。そして馬車が減速したところで、私たちは元の座席に座りなおした。
「改めて助けてくださり、ありがとうございます。オルセア皇子」
場が落ち着いたところでもう一度感謝をしておく。直ぐに感謝はしていますが、それはまだ事が収まっていなかったので、もう1度しっかり感謝は伝えるべきでしょう。
「ああ、いや。改めて言う程のことではないよ。ミリアさんを助ける私としては当然のことですから」
「いえ、直ぐに助けていただけなければ、大怪我はしなかったと思いますが、少なくとも多少の怪我はしていたと思います。ですから感謝するのは当然のことだと思います。ですので、ありがとうございます。皇子」
私がそう言って軽く頭を下げてから笑顔を向けると皇子は特に言い返す言葉が出てこなかったのか、それ以上言い返してくることは無かった。
気のせいだと思うのだけど皇子の耳が赤くなっていた気もするけれど、それは気のせいよね? 恥ずかしくなるようなことは言っていないのだから。
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