聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐

文字の大きさ
40 / 44
転生したら婚約破棄され負け確定!? ※1話長め

計画の実行・反乱

 
 お父様とオルセア皇子は挨拶もそこそこに、我が家で一番厳重に警備されている応接室に入って行った。計画のすり合わせをするのだと思うけど、何か問題が出ないと良いわね。

 ああ、厳重に警備されていると言っても、警備している人が多いのではなく単純に窓が無い上に通路の突き当りに部屋があるってだけ。要はこの部屋は外から中が見られなくて音も殆ど漏れないと言うことね。
 だから今回みたいな、絶対外に情報を漏らせない場合にだけ使われる部屋。まあ、毒ガスとかが充満したら逃げられない欠陥部屋だけど、この世界にはまだそう言った物が無いようだから問題ないとも言えるのだけどね。

 2人は1時間もしない内に部屋から出て来た。2人の様子を見る限り問題は無かったようだ。良かった。

 皇子はこのまま直ぐに前線基地へ戻るらしい。ここに居てもやることは無いし時間の余裕もないのだから仕方のないことだけど、もう少しゆっくりして行って欲しいとも思う。ここまで馬車での移動ではなく徒歩での移動だったし、ここの所侵略のことで忙しそうであまり休んでいる所を見ていないから絶対に疲れていると思う。

 皇子が屋敷から出て行こうとしている所に声を掛けても良いのか悩んでいると、そんな私に気付いたのかそれとも元から声を掛けるつもりだったのか皇子が近づいて来た。

「ミリアさん。…ん? どうかしましたか?」

 あ、これは元から話しかけて来るつもりだったのか。たぶん近づいて来てから私が微妙な表情をしているのに気づいて、それが何なのか気になった感じか。

「いえ、ここの所休んでいる所を見ていないので、直ぐに出て行って大丈夫なのか心配になりまして」
「あぁ、これくらいなら大丈夫だよ。これでもしっかり訓練しているからね」
「そうですか」

 確かに皇子の疲れている様子は一度も見ていないけれど、疲れって一気に来る時があるからしっかり訓練しているくらいだとあまり安心はできない。

「ミリアさん。心配してくれてありがとう。さすがに駄目だと判断したらしっかり休むから安心してください」

 オルセア皇子はそう言うと私の髪を撫で、次第にいつもと同じように頬を撫でて来た。そして頬を撫で終わったと思ったら私の体を軽く抱きしめて来た。まさかここでこのようなことをしてくるとは思っていなかったので、碌に抵抗も出来ずそれを受け入れることになった。私が抵抗しようと思った時には既に背中に回された腕は解かれ、皇子の体は私から離れ始めていた。

 解放された、そう思うと同時に少しの寂しさを感じていると皇子の手が私の髪、と言うか頭を優しく触れるとその近くに手とは違う少しだけ柔らかなものが触れた。
顔が近い。と言うことは頭にキスされた? 何故? そう言えば碧の時に外国の映画に家族観で似たようなことをする場面があった。と言うことは愛情表現的なもの?

 オルセア皇子が心底嬉しそうな表情を向けて来るのに対して、私は恥ずかしさとどうして良いかわからない戸惑いから皇子に向けて、はにかむことしかできなかった。


 皇子が屋敷から前線基地へ向かって行った。
 それを見送ってようやく緊張が解けたのか、一気に疲れが体に現れる。具体的に言うと眠い。時間帯はもう深夜と言えるのでいつもならとっくに寝ている時間だ。この世界には電気なんてものは無いから夜になれば大体すぐに寝ることになる。

 ただ、この世界には魔法とかのファンタジー要素はほとんどないのだけど、加熱すると一定時間光る鉱石があるので完全に真っ暗になる訳ではない。うん。蛍石みたいに一瞬光るとかじゃないからちゃんとファンタジーしているよね。ちょっとだけだけどさ。

 さて、久しぶりに自室で寝ようと思って振り向くと、微妙な表情をしたお父様と目が合った。
 うわぁ、そう言えばお父様が居ることを忘れていたなぁ。皇子とは言え今回初めて会った大して知らない男と娘が触れ合っているのを見れば、まあ気分の良いものではないわよね? どうすればいいのかしら。このまま何もなかったように部屋に戻った方が良いのかしら?
 いえ、こちらに何かを言って来る感じではないようだからこのまま部屋に向かっても良いわよね。ええ、そうしましょう。

 そうしてお父様に軽く会釈してから自室に向かった。お父様も何を言って良いのかわからなかっただけかもしれないけれど、何も言ってこなかったから問題ないってことで良いわよね?


 翌日、お父様から国内での計画の流れと王国内の現状を聞いた。どうやら今の王国は、表面上は変わっていない様に繕っているらしく平民の間では混乱は見られないとのこと。ただし、貴族の間ではかなりの混乱が見られるとのこと。
 どうも腐敗政権側に付く貴族と王国から亡命している貴族が続出しているらしい。これらを聞く限り、取り返しがつかなくなる寸前の状態のようだ。王都に付いた時も思ったけれど、本当に計画が早く纏まってよかったわね。

「ミリア。少し聞きたいことがあるのだが」

「何でしょう?」

「アルファリム皇国の計画では皇子をこの国の王に据えるとあるがそれは聞いているのか?」

「聞いていますよ」

「そうか。なら聞きたいのだが、オルセア皇子は王としての資質はあると思うか? 私では今回初めて接触したから完全には判断できんのだ」

「ああ、なるほど。それなら私の見解になりますけれど、王としての資質はあると思いますよ?」

「思う、とはどう言うことだ?」

「1月半ほど見た限りは問題ないと言うことですね。ただ、少し判断力と言うか、思い切りが悪い所があるので、その辺りを補佐できる人が必要だと思いますけれど。まあ、それは誰が王になっても必要だと思いますけど」

「なるほど、わかった。ミリアの意見も踏まえて補佐役の方を見繕っていた方が良いな」

 ん? 言い方からして元から皇子が王になることを認めているような感じだけどどう言うことかしら?

「今のお父様、その言い方だと皇子が王になることを肯定しているように聞こえますが?」

「ああ、元より私はあの皇子が王になることはある程度認めていた。短時間ではあるが話した感じから充分な情報の取捨選択は出来ているようだし、そもそもそれが出来なかったとしても今の王よりは数千倍はましだ」

 オルセア皇子が多少だけどお父様に認められていると思うと少し嬉しい。いや、現王の評価が低すぎてまともに比較が出来ないから、どのくらい認めているのか正確にわからないけど。

「そうですか。それは良かったです」

「ミリア。お前はオルセア皇子……いや」

「そうかしましたか?」

「あぁ、いや聞きたいことはあるが、これはことが済んでから聞くことにしよう」

「そうですか」

 私とオルセア皇子の関係を聞こうとしたようだけど、踏ん切りがつかなかったのか別の思惑を思いついたのか、とりあえず私は気付かなかった振りをして返事をしておいた。

 
 計画当日。日が沈む時間帯に、多くの人数がしかし静かに王城へと向かう。今回の計画に賛同してくれた貴族は合計で9。決して多くは無い。
 今、私と一緒に王城に向かっているのは15人程度。少ない、と思うかもしれないけれど、そもそも私は他の陽動による混乱に乗じて城の中に気付かれずに入る事を目的としている。それを考えればむしろ多い方だと思う。

 今の所、まだ他の場所で突撃が開始されていないようで辺りは静かだ。出来れば大きな戦闘が起きない状態で城内を制圧したいところだけれども、どうなる事か。

 幸いかどうかはわからないけど、王城付近は貴族の家が立ち並んでいる。しかも、既に王国内、王都内から脱出している貴族が多いため、殆ど人がいないため人的被害が出にくくなっている。残っているのは腐敗政権に加担しているろくでもない貴族ばかりなので、酷い言い方をしてしまえば死んだところで問題は無いのだ。

 しばらくして、アルファリム皇国が攻めている方向から鈍い音が響き、地面が少しだけ揺れた。
 おそらく侵略軍が大砲を使ったのだと思う。 確かアルファリム皇国が攻める方には軍の関係施設があったはず。さすがにこんなに早く、オルセア皇子の指揮で何かあったことがわかるようなことをするとは思えないので、その辺りで抵抗されてやむなく使った感じかもしれない。

 しかし、これでこちらが王城に近づきやすくなったと思えばいいのかもしれない。ただ、王城内の警備が厳重になる可能性が上がるから、その辺りはあまり良くないかもしれない。

 大砲らしき音に気付いた時に止めた足を動かそうと周囲を確認して安全を確かめていると、いきなり爆音が鳴り響き、閃光が夜闇を照らした。

 え? 何…って爆弾? いや、そんな物はなかったはず。いや、大砲を打ち出す時に使うから火薬自体はあるけど、爆弾単体で使える物は…。
 まさか、ダイナマイトとかじゃないわよね? 確かベルテンス王国って鉱山を持っているからそこで似たような奴が使われている可能性はある。いやでも、それをここで使う? しかもあの方向はお父様が指揮している陽動隊が居る方向じゃないの? 大丈夫であって欲しい、そう思うけど今はそれを確認できる状況じゃなくなった。

 ん? あぁ、なるほど。グラハルト商国として考えると、別に被害が増えても良いのか。欲しいのは国であってそこに住んでいる人ではないし、物でもないのだから。むしろ被害が増えた上に人が減った方が支配しやすいから、態と被害を増加させるために爆弾を使っているのかもしれない。

 これ以上の被害を増やさない様にするためには早く王城に到着して、その辺りを指揮している人間をどうにかしないといけないわね。
 そう思いより早く移動する。そして、王城付近に近づいたところであまり予想していなかった事態に脚を止めた。
 何時もならいないはずの兵士が城内の入り口を固めていたのだ。
 
 これだと城の中に入れないわ。と言うか、ここまで対応が早いとなると、どこかから情報が漏れていた可能性がありそうね。
 別の入り口から入るべきか、このまま多少の犠牲を出してでも早く事態を収めるために正面突破すべきか悩んでいると、私たちとは違う方向からアルファリム皇国軍だと思われる集団が城内の入り口を警備していた兵士に突っ込んで行った。

 オルセア皇子は居ないみたいだから別動隊かしら。いえ、それは今考えることではないわね。この隙に城内へ入ってしまいましょうか。


 まあ、城内に入ったと言っても城そのものの中に入ったのではなくて、城の手前にある庭園に入ったところなんだよね。一応、城から伸びている建造物で囲まれているから庭園も城の一部ってことになるから、城内って表現になるらしい。

 そして本格的に城の中に入る前に皇子が率いる軍と合流することになっている。私たちは最短の道を使ってきたから早く着いたけど、皇子はまだ来ていない。いや、入る時に軍の一部が来ていたからもうすぐ来るとは思うけど。

 庭園の中には完全に入らないで中を確認する。城の手前にある庭園は式典とかで使用するためかなり見晴らしが良い。だから敵を見つけ易くはあるのだけれど、同時に私たちも見つかりやすいと言うことにもなる。

 で、庭園の中を確認したところ、どうもバリケード的な物が無数に置かれている。これで、こちらの行動が完全にバレていたことが明るみに出た訳だ。おそらく、いくつかのバリケードの裏には兵士が隠れているのだろう。

 これは皇子が来るのを待った方が良いかもしれない。私と一緒に行動している人たちは賛同してくれた貴族家に仕えている私兵だ。なので体は鍛えているし、武器を扱う技術もある。ただ、地の利があちらにある状態で突っ込むのは愚策でしかない。

 やはり皇子を待つべきよね。そう判断して他の人にそう指示を出そうと庭園から視線を逸らした瞬間、私たちから一番近い位置にある植込みの影から兵士らしき影が飛び出してきたのを視界の端に捕らえた。

「っ!」

私はそれに気づき、咄嗟に左手に持っていた小さめの盾を庭園側に向けた。

「はあっ!」
「くっ!」

 飛び出してきた兵士が振り落としてきた剣を盾で受け止める。盾から鈍い音が鳴り、私の腕に重い衝撃が走った。まずい。他にも兵士がこちらに向かって来るのが見える。まさか対して大きくない植え込みの陰からいきなり出て来るとは思っていなかったから、一緒に来ていた私兵の反応が良くない。

 いや、ベルテンス王国はここのところ平和な時期が長く続いていたから遠征とかに行くこと兵士とは違って、そう言ったことのない私兵の戦闘経験はほとんどなかったのかもしれない。それを考慮するのを忘れていたし、まさかバリケードに意識を向けさせて近くの植え込みから奇襲されるなんて考えていなかった。

 ようやく私兵が近づいて来ている兵士に反応して応戦し始めた。
 って、え? まって、私の前に居る兵士は無視するの? 嘘でしょ? さすがに正面から兵士と戦うような訓練何てしていないから、そろそろ腕が持たないのだけど。

 いや、本当にまずい。あ、盾が弾き飛ばされた。
 どうしようと焦る私を見て兵士の表情が楽しそうに歪んだ。そして、私の頭…ではなく腕を狙って兵士は剣を振るってきた。おそらく1撃で殺さないようにするためだ。甚振って殺す積もりなのか、痛めつけてからお持ち帰りするつもりなのかはわからないけど、確実に私の状況は悪い。

 剣を避けるために後ろに下がる。元より殺すつもりのない剣は私の前すれすれを通り過ぎた。しかし兵士は、躱されたことが気に食わなかったのか表情が険しくなった。そして、今度は完全に私を殺すつもりで剣を振り落としてきた。

 あぁ、これは躱せない。少なくとも最初の攻撃より早いし、さっきの攻撃より確実に当てるつもりの攻撃だ。多少、護身術的な物を齧った程度のミリアでは躱せるものではなかった。

「ミリアさん!!」

 後ろから皇子の声が聞こえたと思ったら前に居た兵士が吹き飛んだ上に血を流して地面に落ちた。

「良かった。間に合った」

 ああ、今の登場の仕方は物語に出て来る王子みたいね。オルセア皇子。
 
 安堵した様子のオルセア皇子に抱きしめられる。皇子の後ろから続々と軍の人が来るので一応合流は成功したと言うことになるだろう。タイミング的にギリギリだったけど。
 気付くといつの間にかに、奇襲をかけて来た他の兵士は対応していた私兵と後から来た軍人によって倒されていた。

 うーん、皇子に抱きしめられているのだけど、今は戦いの最中な訳よ。だからね。

「皇子。助けていただいたのは有り難いのですけど、その、鎧が」
「あっ」

 いやもう、金属製の鎧を付けた状態で抱きしめられると硬いし、角が当たって痛いのよね。引き寄せられた時は結構勢いが付いていたけど、抱きしめる時は優しくしてくれたからそこまで痛くはなかったけど、多少痛かったのは事実だし。

「すまない。鎧を着ていることを考えていなかった。申し訳ない」
「皇子が来てくれなかったら駄目だったと思うので、それほど怒っていないのですよ」

 謝って来る皇子を窘めるように言葉を返す。

「まあ、とりあえず合流できましたのでこの後のことですけれど」

 庭園の方に視線を向ける。皇子も私につられて庭園の中を見つめ、他の軍人に指示を出していた。

「このまま進むと確実に奇襲を受けることになりそうだ。だから、何かが潜んでいそうなところにそれで攻撃する」

 そう言って皇子は軍人が持っていた重そうな荷物を指した。それは小さい大砲のような物だった。たぶん籠城した時に使うつもりだった物だと思う。

 そして皇子が指示を出すとその小型大砲が発射され、発射された火の球がバリケードの一つを破壊した。いや、何か鉄球を飛ばすと思っていたのだけど、何で火が付いた球が飛んで行ったのかしら?
 小型大砲から火の球が飛んで行ったことに戸惑っていると、突然バリケードが爆発した。

「えっ!?」

 皇子が私に覆い重なる。爆発した場所からそこそこ離れているから爆風はそこまでこない。でも、爆発地点に在ったバリケードの破片などが周囲に勢いよく飛び散った。大半は盾でその破片から身を守っているが反応が遅れた者の中には破片が直撃したのも居たようだ。

「あ…ありがとうございます」
「いや、ミリアさんを守るのは当然のことだ」

 嬉しい。そう思い気が緩むと同時に、今は戦いの中だから気を引き締めなければと思い、複雑な気持ちになる。

「他の物も壊しておいた方が良いな。後で爆破されたら面倒だ」

 皇子がそう指示を出すと、他のバリケードに向かって小型大砲から火の球が打ち出された。

「え、あれってあの火の球が爆発したんじゃ?」
「いや、さすがにそんな危ない物を大砲で打ち出したりしないよ。手元で爆発したら唯じゃすまないし。たぶんあの障害物の後ろに爆弾を持った兵士なんかが居たんじゃないかな」

 ああ、なるほど。火が付いた球を飛ばしているのだから、それが爆弾だったら危険すぎるわね。それにこの世界にスイッチ押したら爆発するような物はまだないだろうからそうなるのか。爆弾を持って待機していた兵士はご愁傷様ね。

「しかし、まさか爆弾を使って来るとは思わなかった。公爵からは多少情報が外に漏れていると言う報告は貰っていたのだけど、まさかこんなことをするとは」
「本当ですね。まあ、相手からしたら欲しいのは国であって、物や人はそこまで重要ではないと言うことでしょう」

 と言うか、お父様は情報が洩れていることを知っていたのね。でも、何で私に伝えてくれなかったのかしら。まさか、忘れていただけとかではないわよね?

 そうこうしている内に庭園に設置してあったバリケードは全て破壊され、同時に爆弾も処理された。その間に、いくらか兵士が逃げ出しているようだけど、それは一部の軍人が居っているようだから私たちは無視していいわね。



 庭園を抜けて、城の中に入った。
 王城は入って直ぐの所はホールになっている。普段であれば夜であろうとメイドや兵士が待機しているのだけど、今は私たち以外の人は見つからない。

 もしかしたら、先に入って行った軍人で組まれた制圧隊が排除しているのかもしれないけど。

「とりあえず城内に残っている奴らは確実に確保しろ! 抵抗された場合は致しかた無いが、なるべく攻撃はするなよ!」

 城の内部にまだ残っている人を確保するために先行していった軍人に対して、オルセア皇子が指示を飛ばす。

 私はこのまままっすぐ王族が普段いる場所へ向かい王と残っている王族の説得または確保することになっている。おそらく説得は出来ないので、ほとんど確保するために行くようなものかもしれない。

 城の奥に進んで行く。一緒に進んでいるのはオルセア皇子と10人ほど。王の近くは厳重に守られているだろうからもう少し人が欲しいのだけど、オルセア皇子曰くこれで十分とのこと。
 本当に大丈夫なのかしら?

 奥に進んで行くと、謁見の間から光が漏れて来ていた。
 いや、何であからさまにここに居ますって感じになっているのかしらね? まあ、罠の可能性もあるけどね。

 周囲を警戒しながら謁見の間を覗く。
 すると謁見の間の中央付近にある豪華な椅子に大きな男が堂々と座っているのが確認できた。その近く、と言うか周囲には20人以上の兵士が守りを固めているので、たぶんあれが王なのだろう。

 何で、だろう、なのかと言うと、ミリアの記憶にある王の姿と違い大分横に大きくなっているからだ。
 まあ、最近は贅の限りを尽くした生活をしていたと聞いていたから、別に急激に太っていたとしても不思議ではないのだけれど。

 近くに居るオルセア皇子に手振りで確認を取り、先に軍人が謁見の間に突入した。

「ふん、来たようだな。我が国に侵略している蛮族どもが」

 突入して直ぐに王が声を上げた。と言うか、たぶん急激に太ったせいもあるのだろうけど、大分苦しそうな話し方ね。このまま行ったら成人病で早死していたかもしれないわね。まあ、その前に処刑されて死ぬことになるのでしょうけど。

「私たちは無駄な戦いはしたくない。出来れば穏便に王位を明け渡していただきたい、ベルテンス国王よ」
「はっ、何故そんなことをしなければならない。我が王だ」

オルセア皇子の問いを王は馬鹿にした態度で一蹴した。

「ならば仕方ない」
「数で負けているのに気づいていないのか? やはり蛮族は碌に考えることも出来ないようだな。やれ」

 王がそう指示を出すと王を守っていた兵士が剣を抜き、こちらに向かって走り出した。ただし、指示に従った兵士は半分だけだったけどね。

「ぬ? お前ら何故指示にしたごっ!? ぐぅふっ!」

 指示に従わなかった兵士が王を椅子から引きずり下ろし、王の体を床に押さえ付けた。

「お前っ! 何故我を攻撃する。裏切ったのか! 国を見捨てるつもりか!?」
「いえ、これは国のためですよ。貴方が王であり続ける限りこの国は崩壊し続ける。故に貴方には王の座から降りていただきたい、愚かな王よ」

 ああ、なるほど。兵士の中でも協力者は居たのね。それもかなり真っ当な考えを持った人が。

 仲間によって王が拘束されたことに戸惑いを隠せない兵士を軍人は躊躇なく倒していった。そして、完全に動ける敵兵が居なくなったところで私の出番になる訳よ。まあ、説得する訳だけど、王の態度を見る限り無理なのよね。

「お久しぶりですね。ベルテンス国王」

 
「お前は…」

 ん? あれ国王の反応が鈍い。もしかして私のこと忘れていたりして? いや、さすがに元とは言え、息子の婚約者だった人を忘れる訳ないよね? 

 確かに最後に会ったのは1年近く前だから、会っていなかった間に成長して見た目も多少変わったかもしれないけど、わからなくなるほどじゃないと思うのだけれど。

「あぁ、グレテリウスの元婚約者か」

 あ、良かった。完全に忘れていたわけじゃなかったようね。……ド忘れはしていたようだけど。

「ええ、そうですよ」
「何だ、振られた腹いせに蛮族の協力でもしたのか? ぐふっ、それとも其方の体を売って協りょぶっ!?」

 あ、国王が下種なことを言おうとする前に皇子に蹴られた。うん、まぁ。気持ち悪い笑みを浮かべていたから、蹴られても仕方ないのだけどね。

「オルセア皇子。さすがにここで殺さないでくださいよ?」
「あぁ、すまない」

 国王の発言が気に入らなかったからなのか皇子は私が止めるまで何度も蹴り続けていた。このままだと死んでしまう、と言う程強くは蹴っていなかったのだけれど、止めなければずっとしていたかもしれない。

「それで、国王」
「うっ、ぐっ、何だ」
「先ほどオルセア皇子からもありましたが、こちらに王位を明け渡していただけませんか? 今、貴方が受け入れてくだされば、後の流れが穏便、且つ、事が滞ることなく進められるのですけれど」
「ふん! だから何故そのような事をしなければならない」

まあ、予想通りと言うかわかり切っていたけど、そう言うよね。このまま明け渡してくれれば周辺国とかの対応が楽でよかったのだけど、仕方ないわよね。

「仕方ありませんね。まあ、貴方を捕らえた段階でことらの目的は殆ど達成していますので、王位の明け渡しはそこまで重要な事ではないのですよ。元からこうなるだろうと予想は建てられていましたしね」
「はっ、グレテリウスは其方との婚約を破棄して正解だったと言うことだな。蛮族に股を開くような者が王家に入らなくて清々する」

 蛮族、蛮族って国王はかなりグラハルト商国に洗脳されているのかもしれないわねぇ。
 入って来る情報を鵜呑みにして、碌に自分で判断するってことが出来なくなっているのかも。たぶん、それもグラハルト商国の策略の一部なのでしょうけど。

「先代の国王は良い方でしたのに、なぜ貴方はここまで愚かな王になってしまったのでしょうか」

 先代の国王も別に優秀だった訳じゃないのだけどね。碌に情報を精査しないでグラハルト商国と友好関係を結んでいるし。ただ、この国王よりも数十倍マシだったことは確かだけど。

「先代? あの愚図が私よりマシだと? あの碌に良し悪しを判断出来なびゅっ!?」

 あ、今度は取り押さえていた兵士に殴られた。と言うかこの国王、発言が迂闊過ぎない? 敵に囲まれているのに何で相手を煽るようなことを口に出すのか。その辺も国王として足りなすぎる。

「な、何をする!」
「貴様に先王をそう呼ぶ権利はない。何においても劣っている貴様が先王を馬鹿にすることは許さない。確かに先王は貴様に王位を継がせた失敗を犯した。だが、それ以外は真っ当にベルテンス王国を導いた。なのに何故、貴様のようなゴミに後を継がせたのか、そこだけが私には理解できない」
「き、貴様だとっ!? われぐぉっ!?」

 ああ、国王が兵士によって引きずられていった。と言うかゴミの部分は無視なの? それとも気付かなかったのか。
 と言うか兵士も不満とかを結構ため込んでいたのかもしれないわね。国王を罵倒していた兵士の年齢からして、先王の時代から仕えていたみたいだし。

 とりあえず、国王が退場したから一応ここは幕引きと言うことになる……のかな?
 いきなり国王が引きずられていったから場が唖然としているけれど、軍の人も何人かついて行っているから問題は無いと思う。
 実は演技でした、とかがあっても対処できるだろうしね。

 いや、あの兵士の態度からしてそれは無いだろうけど。
 
 さて、国王を確保したし、後は王城を制圧して腐敗王政の重鎮を捕まえれば侵略は達成したと言えるわね。
 たぶん、その辺りはアルファリム皇国軍がやってくれるから大丈夫だと思うけど、後は何をしたらいいのかしら。
 王が外に運ばれて行ってから何人か軍人が皇子に報告に来ているから、着々と侵略は進んでいるみたいなのだけれど。

 あ、そう言えば第2王子であるグレテリウスは見つかったのかしら。普段通りなら城の中で生活しているし、居ると思うのだけど。

「オルセア皇子。現段階で第2王子の確保は出来ていますか?」
「いや、まだ確保どころか目撃もされていない。何処かに隠れているとは思うけれど、もしかしたら既に城から脱出しているかもしれない」

 うーん。まだ見つかっていないのか。脱出は多分ないと思うのだけど、そもそもグレテリウスはあまり判断力は無いし、行動力もない。だから城が攻められていたとしても自分から脱出する何て選択はしないはず。
 ただ、一緒に居たあの令嬢がどう判断するのかがわからないから何とも言えないのだけれど。

ん? いや、そう言えばゲームの侵略ルート、と言うかバッドエンドルートだと2人とも死んでいるのよね? と言うことは、まだ城の中に残っている可能性は高いのでは?

「ひゃっ!?」
「うおっ!?」

 突然、城のどこかから爆発音が聞こえ、城が大きく揺れた。私は考え事をしていたため突然の揺れに対応できずにバランスを崩してしまった。

「おっと」

 私が倒れそうになっているのに気付いたオルセア皇子が直ぐに手を伸ばし、体を支えてくれた。

「あ…ありがとうございます」
「いや、構わない。が、まさか城の中でも爆弾を使って来るとは。大分追い詰められているのか? それとも見られては困る情報でも消しているのかも知れないな」

 む? それは困るわね。王族のすげ替えにはその辺りの情報は必要だから、消されたら大分困ることになるのだけど。

「それは困りますね。とりあえず、爆発があった所に行くべきでしょうか」
「まあそうだな。しかし、ミリアさんは行かない方が良いと思う。ただでさえ城の中で爆弾を使ってくることがわかったのだから、出来れば城の中からも出ていて欲しいのだけど」
「いえ、それは出来ません。このことに深くかかわっている以上、半端な状態で手を引くことはしたくありませんので」
「そうか。……ならなるべく私たちが先行するから、ミリアさんはその後についてくる形にしてくれ。でないと何かあった時に庇いきれない」
「…わかりました」

 庇うって、いや、今後のことを考えると私よりオルセア皇子が生き残らないと拙いのだけど。
 庇うとか、守るとか言ってくれるのは嬉しいのだけど、私がここで死んだところで大きな影響はあまりないのよ? なのに何で、当たり前のように私を庇おうとしているのかしら。

「さて、行くぞ」

 皇子がそう近くで待機していた軍人に指示を出して、爆発が起きた場所へと向かった。

 そして爆発があった地点に到着すると、そこには多くの城の一部だったものの破片や、爆発した時に近くに居たであろう人の死体が多く散らばっていた。
 中にはまだ息のある人もいるのだけど、おそらくこの世界の医療技術ではもう助からないくらい。

 そんな中に、見覚えがある人物が居ることに気付いた。

「グレテリウス王子」

 怪我の具合から、爆発地点から多少離れた位置に居たのかもしれない。
 ただ、爆発の際に飛び散った城の建材が当たったのか、爆風に飛ばされたのか、少なくとも複数個所の骨折と裂傷が見られた。


 うーん、何でグレテリウスが爆発に巻き込まれるような場所に居たのかしら。それに、一緒に居ると思っていたあの令嬢も居ないし。
 あ、もしかして城の一部を崩して足止めでもしようとしたのかしらね?

「あぁ、ミリアか。何でここに…って、その恰好を見ればわかるか」

 グレテリウスは私の姿を確認して力なく乾いた笑いを浮かべた。

 一応戦いに出る以上、私も鎧的な物は着けている。まあ、重量とか筋力的な部分で金属製ではなく皮鎧だけど。
 しかし、グレテリウスは鎧、と言うか防具を付けていなかったのは何でかしら。

 こちらが攻めて来ると言う情報が漏れていたから待ち伏せの兵士がいた訳なのに、王子であるグレテリウスが防具も着けていないのはおかしいわね。もしかして情報は細部まで回っていなかった?
 いや、国王には情報が回っていたから、王族であるグレテリウスも知っているはず。
 
 ん? そう言えば、グレテリウスが居たと思われる部屋は、吹き飛んできたと考えたらここかしら? 

 うーん。ここは客室ね。しかもベッドがあるから他国の重鎮が長期滞在の時に使うところ…ね。
 ……ベッドの近くに鎧、乱れたシーツ、女物の羽織。いや…まさかね? さすがにこんな時にねぇ。

「ねぇ、グレテリウス?」

 客室を見てから私が訝しんだ目を向けるとグレテリウスは、気まずそうに視線を逸らした。
 おい。こんな時に何やっていたのよ。あれかしら、危機的状況で気持ちが盛り上がったとか、燃え上がったとかで致しちゃったと? そんな感じなの? 状況考えなさいよ!

「貴方、馬鹿なの? あ、いえ、馬鹿だったわね」
「さすがにこんな状態になっていたら否定は出来ないなぁ。……何か、ミリア雰囲気が変わった気がするけど何が…」

 さすがに思い当たる節はあるわよね? 自分がやったことなのだから。

「さすが親子ね。国王と同じで口が軽いと言うか、考えなしと言うか。王族としての立場からしたら在り得ない迂闊さだわ」
「否定できないけど、その言い方からしてもう父上は捕まっているのか」
「そうね。先ほど確保したわ」

 私がそう言うとグレテリウスは諦めたように息を吐いた。

「と言うことはこの国はもう終わりか。ミリアもこの国のために尽くすと言っていた割にあっさり他国に乗り換えているみたいだし、何処がいけなかったのかなぁ」

 何処がいけなかったって、貴方があの令嬢に乗り換えたのが事の始まりなのだけど? いや、正確に言うとさっき確保した国王が王になったのが最大の間違いだけどね。

「おい」
「ん? 君は…確か、皇国の第1皇子だったかな」

 今まで後ろで様子を見ていたオルセア皇子がグレテリウスに近付いて行ったのだけど。何か凄く怒った表情をしていたわね。
 また蹴るの? さすがに動けない怪我人を攻撃するのは止めて欲しいのだけれど。

「お前は、この国の現状を見て何も思わなかったのか? それに先ほど別動隊が国倉を確認した所、殆ど中身が残っていなかったらしいが、その辺りは把握しているのか?」
「え? 国倉の中が無くなっているなんて聞いていない。別の倉庫じゃないか?」
「いや、元々それを管理していたレフォンザム公爵から国倉の位置は聞いている。なので間違いではないはずだ。しかし、その反応からして一切知らなかったようだな。王族だと言うのに」
「嘘だろう? 国倉の中身が尽きかけているなんて話は一切聞いたことが無い」

 うん、まあそうだろうね。グラハルト商国関係の貴族が裏から国力を減らすために浪費を進めていたから知ろうと思わない限り気付けなかったんじゃないかな? しかも、この分だと国王も知らなかったかもしれないわね。

「王族ですら国の現状を把握できていないとはな。それにお前はミリアさんの元婚約者だろう? 普段から王国の現状の悪さは話していたと聞いているが、何故そのような状況で何も思わずに過ごせるのだ?」
「過剰なことを言って危機意識を持たせようとしていると思っていた。周りの者に聞いてもそのような事実はないと聞いていたから、そうなのだろうと」
「何故自ら調べようと思わないのか。あの国王と言い本当に救いのない王族だ。入って来る情報がすべて正しいとどうして思うのか理解できない」

 ああ、なるほど。グレテリウスに何を言っても良い反応をしなかったのって、既に正確な情報が入らない様にする包囲網が出来ていたからなのね。
 まあ、たぶんこの段階でミリアは目を付けられていて、あの夜会の対象になったと言うところかしら。

「それに、ミリアさんは国を乗り換えた訳ではない。ベルテンス王国は皇国ではないある国から既に侵略されつつあった。そして、その国に完全に侵略されるのは拙いと判断し、私が居るアルファリム皇国に助けを求めただけだ」
「どう言うことだ? 侵略されていたとは、どこの国に?」
「グラハルト商国ですよ、グレテリウス」

 私と婚約破棄する前から結構あからさまに王宮内で動いていたようだけど、それにも気付いていなかったのかしらね? ミリアが変だと思って調べ始めたのもその辺の動きがあったからだし。

「いや、友好国だぞ。そんなことをする訳がない」
「王宮内でグラハルト商国に否定的な重鎮が消え、商国に不利益を生む貴族が消え、その反対に友好的な新興貴族が乱立したと言うのに、それを一切不自然に思わないのかが理解できない。お前は何を見ていたのだ?」
「オルセア皇子。もういいですよ。何を言っても無駄です。おそらくそれを不自然に思わない様に刷り込みなり洗脳に近いことを常にやられ続けていたのでしょう。そうなれば、そこを正すのは直ぐには無理です」
「いや、だが」
「いえ、時間の無駄ですし、どうしようもないです。そもそも、その辺りの結果がこれですしね」

 今まで碌に考えてことかった結果がグレテリウスの今の現状だ。それに、出血量を見るからにそろそろ限界だろうから。

  
「はは、本当にね。あぁ、確かにこれは自業自得だ」
「いや、笑い事ではないだろう」

 グレテリウスは自身の行動を思い返してか苦笑していると、オルセア皇子が呆れたように言い返した。

「グレテリウス」
「何かな」

 このまま、グレテリウスの話に付き合っていても時間の無駄だし、たぶん自業自得のくだりは時間稼ぎな気がするからさっさと話しを進めよう。

「元婚約者として、最後に話をしましょうか」
「最後…か」

 うーん。あからさまに時間稼ぎしようとしているなこいつ。

「あ、そう言うのは要らない。どうせあの令嬢が逃げ切れるように時間稼ぎしているだけでしょう?」
「うっ! いや、そう言うのは気付いていてもそれとなく躱そうとするものじゃないかな。ミリアは昔から割と話の流れを無視するよね」
「時間の無駄ですから。と言うか折角綺麗に話を終わらせようとしたのに、なぜそう言うことを言い出すのかしら」

 これ、もういっそ無視して先に行った方が良いわよね? でも、ミリア的にはしっかり区切りをつけた方が良いのは事実だし、面倒だわ。

「はあ、もういいです。近くに居ながら貴方を碌に矯正できなかったのは私の不手際ですし、貴方の手綱を上手く操れなかったのもあります。それに最大の失敗はあの令嬢が貴方に近付かせてしまったことです」
「あの子は悪くない」
「いえ、それはないです。あれは貴方を腐敗側に巻き込むために近付いて来ただけですよ。少なくとも最初は、ですけれどね? まあ、今はこんな時にやる位には仲が宜しいみたいですけれど。それに、多少は気付いているのでしょう?」
「…さぁ」
「…貴方がどう思っているかはわかりませんけど、婚約破棄については多少傷つきました。ただ、別に長く引きずるとかは無いので気にする必要は無いですよ? 元より親から決められた婚約でしたし、子供の頃から一緒に居たせいで異性と言うよりも家族と言う印象が強かったせいで恋愛感情は一切ありませんでしたからね。貴方もそうでしょう?」
「まあ、そうだね。姉とかそう言った印象が強いかもしれない」
「なので、あの令嬢に貴方が取られても、今まで大事にしてきた犬が相手に取られたくらいの衝撃でしたから」
「え…犬?」
「ちょっとお馬鹿で私に懐いていた犬ね。それがいきなり私を無視して他の相手に思いっきり尻尾を振って媚びを売っていたって印象ね」
「酷い言い方だ」
「でもそうでしょう? あの令嬢がくれた餌が美味しかったからあちらに付いたのでしょうよ」

 私がそう言うとグレテリウスは完全に黙ってしまった。色仕掛けに引っかかったのだから餌が美味しかったという表現も間違っていないだろうから、気付いていれば言い返せないわよね。

「本当なら、貴方が王位を継承した上で、私と協力しながらベルテンス王国を立て直していく予定だった。でも、そうも言っていられないと言うことに途中で気付いたのよ。それであの夜会の前に色々していたら貴方はあの令嬢に丸め込められているし、私は完全に王宮から追放される流れになっていた。だからね。グレテリウス。私にはこうする以外の選択肢はなかった。そうしないとこの国は崩壊するし、私は死んでいたから」
「僕はミリアを殺そうとはしていない」

 グレテリウスがそんなことを考えていないことくらいはわかる。単に馬鹿と言うだけで優しい性格であるのは知っているのだから。

「貴方はそうでしょうけど、あの令嬢は違うわ。少なくともあれは直接ではないだろうけど、結構な数を死に追い込んでいるわ」
「いや、あの子はそんなことはしない。とても優しい子だ」
「貴方に対してはそうなのでしょうけど。そもそも、あの夜会を取り仕切っていたのはあの子でしょう? あんな場を作るような子が優しいとかありえないわ」

 まあ、あの夜会の精神的リンチを考えたのは別の人かもしれないけど、少なくとも実行している段階で優しいと言うのは在り得ない。

「いや、…でも」
「貴方が見たい所しか見ないのは昔からわかっているからこれ以上は言わない。でも、あの夜会で私たちの道が分かれたことは事実だから、最後に言っておくわ。
貴方のことは愛していなかったけど、家族としては大切な人だったわ。グレテリウス」
「…ミリア」

 とりあえず、グレテリウスとの会話は終わりね。後は、逃げているであろうあの令嬢を捕まえて終わりかしら。

「ああ、そうだわ。私たち側だけど第1王子が来ているのよ。最後に会って来たらいいのではないかしら?」
「え? 兄上が?」

 元から伝えるつもりだった情報も渡したし、後は軍の人に任せて先に進みましょうか。
 それにあの令嬢にはいろいろやられているから、早く仕返ししないとね。


 グレテリウスは後から来た軍人たちによって運ばれていった。あの怪我だし血もそれなりに出ていたから多分そう長く持たないと思うけど、何でかしら。何だかんだ生き残りそうな気もするわ。
 まあ、そうだとしても敗政側だから何らかの形で処刑されるだろうけれど。

「ミリアさん、大丈夫かい?」

 オルセア皇子が心配そうに声を掛けて来た。一瞬、何故皇子が心配して来たかしらと思ったのだけど、どうやら私泣いているみたいね。
 ああ、これはミリアの精神部分から来るものね。みどりではグレテリウスと決別したくらいでは泣けないもの。

最近は殆ど意識が混ざり合っていて完全に同化していると思っていたけど、そうでもなかったらしい。

 でも、たぶんミリアの意識が出て来るのは今回が最後。
 大して悲しいとは思っていなかったのに、涙を意識したら喪失感が生まれて私も悲しくなってきたから。おそらく完全に同化したのね。

 うん。悲しい。心に大きな穴が開いた感じかしら。腐敗側に回ってしまったけれど、ミリアにとってはこんなにも大きな喪失感を覚えるくらいに大切な人だったと言うことね。

「大丈夫ですよ」
「本当に?」

 強がり。だけど、それ以外に何も言うことは出来ない。今はまだ終わっていないし、ここで立ち止まることは出来ないのだから。

「そうか」

 オルセア皇子はそう言って私の頭を撫でた。戦いの最中だから厚手の手袋をしているけれど、前と同じように優しい手つき。本当に初めて会った時から私を喜ばせるのが上手い皇子だわ。

「行きましょう。まだ事は終わっていませんから」
「そうだね」

 そう言って私たちは王城内の奥に進んで行く。
 すると、明らかにこの先に居ますよ、と言わんばかりに通路を通れなくするように物が置かれた場所に辿り着いた。

「この先は何があったかわかるかい。ミリアさん」
「確か、この先は王城内で働く使用人用の場所だったと思います」
「立てこもっているのか? それともこの先に出口でも在ったりするのだろうか」
「うーん、いえ。おそらくこれは見せ掛けでしょうね。確かにこの先に出入り口はありますが、王都内に出るための物なのでそこから逃げるのは向いていないと思います。それにあの令嬢はグレテリウスから逃走用の道筋を聞いているでしょうからそちらに向かったのだと思います」
「逃走用、と言うことは王族が逃げるための物か?」
「そうです。確かそれなら少し前の部屋に、その通路に出るための隠し扉があったと思います」

 普通に考えたら皇子の恋人的な位置に居たはずの令嬢が知っているとは思えないけど、さっきグレテリウスが時間稼ぎをしていたと言うことは、逃走用通路を教えていても不思議ではないと思う。

「なるほど。ではそちらの通路に向かおう。ただ、この先に誰も居ないと言う保証はないのだから半数はここに残り、この先を確認してくれ」

 ああ、確かに裏の裏をかくようなこともあり得るわね。さっき聞いた情報だと腐敗政権側の重鎮が全員捕まっていないらしいから。

 そうして私たちはあの令嬢が逃げた可能性が高い、逃走用の裏通路に向かうことになった。

あなたにおすすめの小説

妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」 妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。 私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。 「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」 ぶりっ子の妹は、実はこんな女。 私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。 「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」 「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」 「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」 淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。 そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。 彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。 「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」 「えっ?」 で、惚れられてしまったのですが。 その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。 あー、ほら。言わんこっちゃない。

私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?

百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。 だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

妹が最優先という事で婚約破棄なさいましたよね? 復縁なんてお断りよッ!!

百谷シカ
恋愛
私の婚約者クライトン伯爵エグバート卿は善良で優しい人。 末っ子で甘えん坊の私には、うってつけの年上の彼。 だけど、あの人いつもいつもいつもいつも……なんかもうエンドレスに妹たちの世話をやいている。 そしてついに、言われたのだ。 「妹の結婚が先だ。それが嫌なら君との婚約は破棄させてもらう」 そして破談になった私に、メイスフィールド伯爵から救いの手が差し伸べられた。 次々と舞い込んでくる求婚話。 そんな中、妹の結婚が片付いたと言ってエグバート卿が復縁をもちかけてきた。 「嘘でしょ? 本気?」 私は、愛のない結婚なんてしないわよ? ====================================== ☆読者様の御親切に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。 ご心配頂きました件について『お礼とご報告』を近況ボードにてお伝えさせて頂きます。 引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです♡ (百谷シカ・拝)

妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」  第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。 「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」 「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」 「そうですわ、お姉様」  王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。 「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」  私だけが知っている妹の秘密。  それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎