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転生したら婚約破棄され負け確定!? ※1話長め
裏舞台 亡命令嬢の心残り
「リオナ。行きますよ」
「はい。お母さま」
馬車が我が家から出発する。
いつもの移動風景。いつもの御者。いつもとは異なる付き人。馬車に乗り込んでいる人もいつもより多い。
行先は、ルクシアナ国。小国ながら多くの国と交易を結んでいる影響力が大きい国です。私たちが向かう理由は亡命と言うところでしょうか。お母さまの生まれがルクシアナ国であり、そこの伝手を使ってお母さまの実家で一時的に居候のような形で厄介になる予定だとか。私は詳しく聞かされていませんので、それ以上のことはわかりません。
馬車が走り出しました。今回は私の嫁ぎ先の視察と言う名目でルクシアナ国に向かうことになっていますが、実際はそんなことは無いでしょう。場合によってはそうなる可能性は捨てきれませんが、他国の貴族同士が婚姻する場合は両国からの許可が必要になるのでほぼ間違いなく許可は下りないでしょう。少なくとも王国がこのまま変わらず腐敗を進めて行くなら。
そもそも王国から亡命して他国に向かう原因がその王政の腐敗によるものですから、お父様もお母さまも既に王国には見切りを付けているのでしょう。かく言う私も王国の未来は暗いことは理解していますので、反対することは無いのですけど。ですが、私の付き人がいつもと違うのはどういう事なのでしょうか。
いつもの移動でしたらドルスが私の付き人兼護衛役として付いていましたのに、今回は亡命する人選の中にも入っていません。
いえ、わかってはいるのです。おそらく、今回の亡命がうまくいかなかった時に私を政略結婚なり、何なりの交渉する際に交渉材料として差し出されることになることになるのでしょう。私が付き人であるドルスに好意を持っていることはお母さまも薄々は理解しているでしょうし、それは亡命が上手くいかなかった時の交渉材料としては邪魔ものでしかありませんからね。
私も貴族に生まれたからには婚姻の自由はあまりないことは承知しています。家の繁栄や、貴族間の繋がりを維持するために望まない婚姻をすることは覚悟していますから。ですが碌に別れの挨拶も出来ないまま、出発する羽目になったのは少しだけ物申したくはなりますね。口には出しませんけれど。
ルクシアナ王国の南西に位置する領地に着きました。馬車は検問を過ぎてまっすぐ目的地であるお母さまの実家である、ドルセイ子爵家へ向かいます。
馬車があまり整備されているとは思えない道を進みます。周囲の景色は畑が多いですね。少し向こうには農村?のようなものも見えます。私はあまり人の多いところが苦手なのでこういった人が疎らな環境の方が好きです。
しばらく進んだところでドルセイ子爵家の屋敷が見えてきました。屋敷は周囲に比べてほんの少し高い位置に建てられていました。近くに川も流れていますし、増水した際にその被害を受けない様にするためでしょうか。
そして屋敷に着き、出迎えに出て来ていたメイドたちの先導で屋敷の中に入ります。
「ようこそ。久しぶりだね。クラシス姉さま」
屋敷に入ると直ぐにドルセイ家の当主である叔父様がお母さまに挨拶をしてきた。立場上、こちらは受け入れてもらうため下に位置するはずなのですがどうやらその辺りは気にしないで良いのかもしれません。
「ええ、久しぶりね。何か変わったことでもあるかしら? ここを出てから1度も帰ってこられなかったからその辺りが知りたいわ」
「何も変わりはありませんよ。ああ、最近新しく使用人を雇ったくらいですね」
叔父様には今まで1度もあったことがありませんでしたが、とても穏やかそうな方で安心できますね。そう思っていると、叔父様の後ろから私よりも少し年の若そうな方が現れました。おそらく叔父様のお子さんでしょう。
「お前が何れ俺の奴隷になる女だな!」
想像していなかった突然の言葉に私の頭の中は真っ白に染まった。
奴隷? 何故? そのような事は一切聞かされていないのですが、どういうことなのでしょう? そう思い直ぐに確認を取ろうとお母さまの方を向くと、私と同じようにお母さまは驚いた表情をしていました。
え? これはお母さまも聞かされていなかったことなのでしょうか。そう考え叔父様を見ると驚きを通り越して驚愕の表情をしていらっしゃいました。あれ、ではこれはどういう事なのでしょうか。
「ロイス」
「ひっ!?」
お母さまの底冷えしそうなほど冷ややかな声で我に返った叔父様が悲鳴を上げました。ああ、なるほど兄弟間の力関係は完全にお母さまが上なのですね。
「私はこのようなことを一切聞いていないのですが、どういうことなのでしょうね? ねぇ、ロイス?」
「え? あ、いえ、ええ?」
お母さまの威圧で叔父様の顔から急速に血の気が引いて青白くなります。あの状態になるとお父様でも抑えることが出来なくなりますから、心の中でご愁傷様としか言えません。私は今のお母さまに睨まれたくは無いので無言を貫くことにしましょう。
「オ、オイガ! なぜそんなことを言うんだ!? 私はそんなこと一度も言ったことは無いはずだが?」
「え? グイがそう言っていたからです。我が家の下に付くのですから何れそうなると……言われ…て」
どうやら、場の空気をようやく感じ取られたようで、オイガ様の声が徐々に小さくなっていきました。顔色もあまりよろしくありませんね。ああ、私の正面に居るという事はお母さまの正面に居るという事ですから、お母さまに睨まれているのかもしれませんね。
しかし、グイとは何方のことでしょうか? 少なくとも貴族の年若い令息にそのような事を言うのですから、真面な方とは到底思えませんね。
「グ、グイだと!?」
「グイとは何方なのですか。ねぇロイス?」
「ひっ! あ、いえ。グイはこの前新しく雇った使用人の1人です!」
「そう。ならそいつをここに連れてきなさい。それと新しく雇った他の使用人も別室に確保しておくように。いいわね?」
「は、はい! お、おい! 早くクラシス姉さまの指示に従って動け!」
一部のメイドが戸惑っているようですが、お母さまがここに居た時から使えていたと思われる方たちは既に動き出していたようですね。ですがお母さま。いくら現当主の姉だとしても、こうやって威圧して指示を出させるのはあまり良くないのではないでしょうか。怒っているお母さまが怖いので口には出しませんけど。
しばらくして、執事服を着た男性が同じく執事服を来た初老の男性に連れられてきました。おそらくこの方がグイと言う方でしょう。何かあまり良くない空気を纏った方ですね。
「いきなり何用でしょうか。仕事の途中だったのですが」
おそらく上司である方に連れてこられたと言うのに不服そうな感情を一切隠さないのは良くないと思います。何故このような方が当主の家族に関われる立場に居たのでしょうか。
「貴方がグイね?」
「そうですが、あんたは?」
対応がなっていませんね。明らかに現当主と同格か上の立場だとわかるような立ち位置にいますのに、この態度は在り得ません。それにどうあれ客人だとはわかっているはずですが、それでこの対応と言うのは貴族家に雇われたものとしては失格でしょう。
「……ロイス。何故こんなゴミを雇ったのかしら。経緯を話しなさい。全てよ!」
「え…あっ、その」
「ドルセイ子爵家の当主に向かってその態度ぐっ!?」
お母さまの自らの雇い主に対する気に食わなかったのかグイはより態度が悪くなりました。そしてお母さまに近づこうとしたところでグイを連れて来た執事によって取り押さえられました。
「申し訳ありません、クラシス様。ロイス様がグイの自由にさせろと言う言いつけがあったため、このような態度を取らせてしまいました」
「構わないわ。貴方のせいでは無いようだし、それでロイス?」
どうやら他の使用人たちも何か思うところがあったのでしょう。取り押さえたところを見る限り、最初から危険視はしていたみたいですから。
「あっ、いや、グイは最近懇意にしている商人から優秀な人材だと紹介されまして。それで以前いた貴族家が取り潰しになったとかで、就職先を探しているから宜しければどうか…と」
「そう……商人。その商人はどこから来ているのかは知っているのかしら?」
「…ベルテンス王国からと」
「おかしな話ね。ベルテンス王国とルクシアナ国では物価が大分違うはずよね。それなのに商売に来るなんて、逆ならまだしもそれでは利益どころか損しか出ないわ」
現在のベルテンス王国は政治が上手く行っていない影響で他国との商取引が減ってしまい、その結果物の価格が大幅に上昇してしまっています。平民が扱う食べ物などは王国内で生産していますのでまだ問題ないのですが、貴族などの生活にはかなりの影響が出ているのです。そんな中でベルテンス王国からルクシアナ国へ販路を作ると言うのは普通ではありません。
それに一商人が貴族の使用人の斡旋と言うのもおかしくもありますね。普通でしたら、そう言ったものは貴族間でのやり取りになるはずですから。
「あなた、出身はどこかしら?」
何か思うところがあるのでしょうか。お母さまがグイの出身地を聞きました。
「何故、そんなことを話す必要があるので?」
「いいから言いなさい」
「それは私がここで働く上で必要ないでしょう?」
何故、ここまで拒否をするのでしょう? 言ったところで何かある訳でもないでしょうし、むしろ言わない方がより疑われるでしょうに。
「何故言わないのかしら。いえ、言えないのかしらね?」
「だから何だと言うのです?」
「グラハルト商国」
「っ!?」
お母さまがそう言うと同時にグイの体が少しだけ強張りました。ああ、なるほど。だから言いたくなかったのですね。
私たちがここに来た原因を作った国ですし、貴族としてその被害に合っていますから1番に警戒しています。それについては相手も気づいていたと言うことなのでしょう。まさか、叔父様の子から疑惑が生まれるとは思っていなかったのでしょうけどね。
ですが、グラハルト商国の関係者がこの国まで来ているなんて。確かこの国との間に3つくらい国があったと思うのですが、もしかしてその国はもうグラハルト商国によって侵略されてしまっているのでしょうか。
グイが他の使用人に運ばれていきます。おそらくこの後に尋問なりをするのでしょう。他に新しく雇ったと言っていた使用人も同じような立場なのかはわかりませんが、出来るだけ早く対処しませんといけませんね。…まあ、私がやる訳ではありませんからどうなるのでしょうかね。
「さて、ロイス。それとオイガ…だったかしら?」
お母さまが目の前に居る2人に呼び掛けると、事の顛末を見て惚けていた2人は一瞬で意識をお母さまに戻し、恐怖からその身を強張らせました。
「貴方たちには指導が必要なようですね? 特にロイス。当主である以上もう少し疑うことを覚えなさい。今回は一時的に世話になる形だったのであまり口を出すつもりはなかったのですけど、このままではドルセイ家の存続に関わりそうなので仕方がありませんね」
「は、はいっ!」
オイガ様は涙目になっていますね。もしかしてあまり叱られたことが無いのでしょうか? 確かに起こっている時のお母さまは怖くはありますが、今回に関しては多少怒っている程度でそこまで怖くはなっていないのですけれど。
「それにしても、お父様は何をしていたのでしょう? あんな者を雇っているとわかれば前当主として追放くらいは出来たでしょうに」
「え? いえ、父上はひと月ほど前から体調を崩して寝込んでいると、連絡を入れていたのですが、もしかして届いていなかったのでしょうか?」
「何ですって? ちょっと、ここひと月でドルセイ家から書簡は届いていたかしら?」
「いえ、そのような物は届いていません」
お母さまは近くに居た我が家の執事に確認を取りましたが、執事は首を横に振りました。稀に通達した書簡が届かないことはありますけど、貴族の間ではそう言ったものは複数出すものです。なので、それが全て届いていないと言うのはあまり考えづらい事です。
「ロイス。その通達は誰に指示しました?」
「グイ…ですね」
なかなか危ない状況の中に私たちは到着したようですね。
おそらく、この件でもお母さまからの指導が入ると思うので、叔父様が明日の朝を真面に迎えられるようにお祈りでもしておきましょう。まあ、自業自得ではありますけどね。
ドルセイ家に到着してから数日が経ちました。
到着してから起きたことに関しては凡そ事態は落ち着き、安心して過ごせるようになりました。
叔父であるロイス様はお母さまの指導を今も受けているようで、食事の際に見かけると少しやつれたような表情をしています。オイガ様はどうやら教育係が変わったようでたまに愚痴をこぼしては叱られている所を見かけるようになりました。
到着した時に寝込んでいると言われていたお母さまの御父上はどうやら毒なのか薬なのか詳しくはわかりませんが、それを意図的に飲まされていたようです。それに気づき服用をやめると、症状の悪化が無くなったようです。
さすがにここまでしてくるとは思っていなかったようで、お母さまは王城に仕えているお母さまの兄弟である他の叔母さまや叔父さまの伝手を使って、ルクシアナ国内に警告とグラハルト商国の関係者が国内に入って来られなくする法を作るよう動いているようです。
これで少なくとも私たちが住んでいたベルテンス王国のようにはならないでしょう。本当に良かったです。
さらに1カ月程時間が過ぎました。
我が家の伝手によって10日に一回くらいの速さでベルテンス王国の内情が伝わって来るのですが、状況の改善は見られずむしろ悪化しているとの事。
しかも、最後の砦と思われていた第2王子も腐敗側に回ってしまったようです。これではますます我が家に帰る目途が立たなくなりました。
ああ、ドルスはどうしているでしょうか。
一応王都にある我が家には他にも家の維持を目的として残っている使用人は居ます。ですが、家の維持程度ではそこまで人員が必要という訳ではありませんし、残っている使用人に対してはっきりと給金が減る旨を伝えていますので、もしかしたらもう我が家には居ないのかもしれません。
それはとても悲しいことではありますが、生きる上でお金という物は必要な物ですから仕方が無いことだと思います。出来れば残っていて欲しいと思うことは私の我が儘なのですけれど、居なくならないでくださいね、ドルス。
ドルセイ家に来てから3カ月が経ちました。
ベルテンス王国の内情は悪化の一途を辿っています。もう殆どの王政が成り立たなくなっているようです。これでは国を立て直すどころか壊して作り直した方が良いとお母さまが零していました。おそらく王国への帰還は絶望的ではないでしょうか。
お母さまがお父様に向けて手紙を書いていましたが、おそらく王国を離れるようにとの進言でしょう。このまま王国内に留まれば王政の崩壊と共に共倒れになってしまいます。それに背後にはグラハルト商国が居ることがわかっているので、それに巻き込まれない様にと言う意図もあるかと思います。
私もですが、お母さまは王国への帰還は不可能と判断しているようなので、我が家に残してきた使用人をこちらに寄こして良いかと聞きましたが金銭的にも立場的にも無理だと言われてしまいました。わかってはいましたが残念で仕方がありません。
ああ、もうドルスには会えないのでしょうか? できればもう1度だけでも手を繋ぎたい、いえ一目見るだけでも構わない。それでもいいのでもう1度だけドルスに会いたいのです。
そう思ったところで会えないことは理解しています。私はここから動くことは出来ませんし、ドルスも王国を離れることは難しいはずですから。
しばらくして王国で反乱が起きたという話が届いてきました。王政と反乱軍が争い、結果は反乱軍が勝利したという話です。反乱軍の背後にはアルファリム皇国が居るとのことですけど、少なくとも元ベルテンス王国の王政よりは良い政治をしてくれることを願います。そうすれば、私は我が家へと戻ることが出来るのですから。
反乱が収まって半月ほどが経ちました。本当でしたら直ぐにでもベルテンス王国に戻りたいところでしたが、反乱の影響で王国内が混乱しているとのことだったので状況の確認が済んで問題ないと判断でき次第戻ることに決まりました。
「お母さま、ベルテンス王国からの報告はどうなっているのでしょうか?」
「まだ、返事は来ていないわ。領地の方まで確認してから戻るように指示してあるから早くても後半月は掛かるわね。リオナが早く戻りたいと言うのはわかっていますが、反乱により王国内が荒れている以上、安全の確認は万全にしなければなりません」
「…わかりました」
あと半月も掛かるなんて。もう少し早く返事が来ないでしょうか。できれば王都にある家の状況だけでもわかればよいのですけれど、そうもいかないのでしょうね。
さらに半月が経ちました。まだ王国からの返事は届いていないようです。ですが、別口の情報として王都の混乱は落ち着き始めたとのことなので、近い内に王都の家へは戻れると思います。
「リオナ。ベルテンス王国へ戻る日程が決まりました。ただ、王都の家は確認をした後に直ぐ領地の方へ向かいます。おそらく王都での滞在時間は長くとも半日になります。そのように覚えておきなさい」
「わかりました。…ですが、どうしてそのまま領地へ向かうのでしょうか」
「王都の混乱は収まりましたけど、王都としての機能はまだ回復していないのよ。だから生活するにはまだ難しいわ」
「そうですか。わかりました」
生活するのが難しいという事は家に残っていた使用人はどうしているのでしょうか? いえ、貴族が生活するのが難しいという事なのかもしれませんね。
ああ、ようやくドルスに会えると思うと気持ちも軽くなりますね。早く出発しませんでしょうか。出発まで数日ありますけど、もどかしく思います。
ベルテンス王国へ戻る日が来ました。私はもともと持ってきたものは少なかったので直ぐに出発の準備が出来ましたけど、どうやらお母さまは領地の支援のために持っていく物が増えたために少し準備に時間が掛かっているようですね。私も手伝った方がよろしいでしょうか…いえ、それは使用人にさせるべきですよね? 私が手伝うと余計時間が掛かる気がしますし、仕事の邪魔をすべきではありませんね。
馬車を走らせること数日、ベルテンス王国の領地に入りました。周りの景色は出て行った時とそう変わりはありませんね。反乱の多くは王都でしか起きていませんので当たり前ですけど。
王都に近づくにつれて、壊れた建物がいくつか見られるようになりました。しかし、どうやったらここまで建物が壊れてしまうのでしょうか?
「酷いものね」
「お母さま。何故ここまで建物が倒壊しているのでしょうか?」
「王政側がグラハルト商国から仕入れた爆弾を使ったらしいわ。仮にも王都を守る側だと言うのに何故自ら壊すようなものを使ったのか、理解できないわね」
なるほど。爆弾ですか。確か鉱山の採掘に使う物でしたね。それならばあそこまで建物が倒壊しているのも理解できます。
そしてそろそろ家の近くまで進んできました。この辺りは結構な建物への被害が広がっています。これも王政側がやったことなのでしょうか。もうすぐ家に着くのですけど、そこはかとない不安が襲ってきました。もしかして我が家も同じように被害に合っているのかもしれません。
そして、家の前に到着して私は茫然としてしまいました。
私の目の前には元が我が家であった瓦礫の山が映っています。被害に合っていたとしても、まさか原型もとどめていないとは想像していなかったので言葉も出ません。
いえ、残っていた使用人たちはそうなったのでしょうか! まさかがれきの下敷きになってしまったとかではありませんよね!?
確認のためにお母さまへ問いかけようとそちらを向くと、お母さまの表情は悲痛な物になっていました。
これは、まさか…そう言うことなのですか?
「お母さま」
「生き残りは居ないそうよ」
お母さまは私が聞きたいことを理解していたのか、問いかけるよりも早く言葉を返してきました。
それを聞いて、衝撃のあまり私は何も考えることが出来なくなりました。
嘘、嘘でしょう? 生き残りが居ないと言うことはドルスは……死んだと言うことですか?
……いえ、何かの間違いでしょう。
「リオナ。これを」
お母さまから何かが書かれている紙を渡されました。我が家の被害者名簿…と言うことは反乱の際に亡くなった方の名前が書かれた物で………ドルスの名前もこの名簿に記載されていました。
あぁ、もうどうすることも出来ないのですね。
もうドルスとは会うことが出来ない。そう考えてしまいったことによる絶望から体の力が抜けてしまい、私は地面に両膝と両手を突いてしまいました。
いつもならこんなことをすれば直ぐにお母さまからお叱りを受ける所ですが、どうやら私の気持ちを汲んで何も言わないでくれているようです。
私はどうしたらよかったのでしょう? 王国を出る前にドルスに領地へ向かうように指示を出しておけばよかったのでしょうか。それとも無理やりでもドルスを連れて行けばこんなことには、ならなかったのでしょうか。
いえ、今更このようなことを考えても仕方がありません。涙があふれてきますが、受け入れなければならないのでしょう。貴族たるもの泣き顔を他の方に見られるのはよろしくありません。…ですが、もう少しだけ……。
「おや、どうしましたか? 泣いていますと可愛いお顔が台無しですよ?」
え?
幻聴でしょうか。ドルスの声が聞こえます。ああ、悲しみのあまり他の方の声をドルスの声と勘違いしているのかもしれません。
声がした方を確認します。ああ、ダメです。涙で前が良く見えません。ですが、どうやら声の主はゆっくりと私に近づいて来ているようです。私は体に力を入れて立ち上がり、手は汚れているので、はしたないですけど袖の裾で涙を軽く拭います。
「ああ! 袖で涙を拭うのは良くありませんよ」
良いのです。これではっきりと前に居る人が見えるのですから。
幻聴ではなかった。ドルスが目の前に居る。脚に怪我をしているのか杖を突いていますが、生きている。良かった…良かった! 本当に。
杖を突いている所為でゆっくりと歩いて近づいて来るドルスに、私は居ても経ってもいられなくなり自らドルスの元へ駆け寄り抱きしめました。
「あ! ちょっ、リオナお嬢様! 待ってください。私、怪我しているので今は上手く貴方を支えることは出来ません。少しで良いので加減してくださいよ!」
「…良かった」
生きていた。また会えた。何やらドルスが私に向けて抗議しているようですが、それよりも今、この瞬間をかみしめていたい。
「ドルス。どう言うことか説明なさい」
お母さまがドルスに何故生きていたのか、被害者名簿に関することを聞こうとしているようです。私にとってはもうそれほど重要な物ではありませんが、王都の家を管理しているお母さまからしたら必要なことなのでしょう。
「奥様、もうし訳ありません。報告が遅くなりました。それで、あの、えっと…」
「そのままでも構わないわ」
「あ、ありがとうございます。他の使用人に関しては私も含めて生き残りが居ます。ただ、残念ながら助からなかった者もいますのでそちらの確認をお願いします」
「ええ、わかりました。それで、これには死亡者一覧に貴方の名前も載っていますが、これはどういうことなのかしら?」
ドルスの匂いと思いましたが、どうやら消毒液の匂いの方が強いようですね。より強くドルスの胸に頭を押し付けます。ああ、安心させようとしているのかドルスが私の背中を優しくなでてくれています。久しぶりの感覚です。
「家主不在の貴族家に勤めていた者の生き残りは全て死亡扱いにしているようです。おそらく雇用契約関係かと思われますが私は詳しく聞かされていませんので、その辺りに関しては処理に当たっているレフォンザム公爵様の所へ行くようにとの言伝を預かっています」
「レフォンザム公爵? わかりました。領地へ向かう前にそちらへ向かうことにしましょう」
お母さまはそう言って馬車の方へ向かって行きました。予定を変更することを使用人に通達しているのでしょう。
「あの、お嬢様? そろそろ話していただけると助かるのですが」
「嫌です」
「いや、そうは言いましても。奥様もこの後に公爵家へ向かうと言っていましたから、何時までもこうはしていられませんよ?」
「わかっています。ですがもう少しこうしていたいです」
「あー、まあ、わかりました。けど、向かう時にはちゃんと離してくださいよ?」
返事はしたくありませんね。ですがそれは出来ないと理解はしていますので、その時が来たら離しましょう。
「お嬢様?」
「わかっています」
「ならいいのですけどね」
「そういえば、ドルスは今までどこに居たのでしょう?」
「王城ですね。今は反乱で怪我した者をそこで治療しているのです。他の生き残った使用人も今はそこで治療をしています」
「そうでしたか」
王城を開放しているとは反乱を指揮していた方は剛毅な方なのかもしれませんね。
「まあ、私も怪我をしているのでお嬢様と一緒に領地へ向かうことは出来ませんが、怪我が治り次第、他の使用人と共に向かわせていただきます。奥様の許しが出たら、ですけど」
「え?」
またドルスと離れなければならないのですか? もう2度と離れたくは無いのに、どうしてそんなことになっているのでしょう。もういっそのこと私は王都に残っても良いのではないかしら?
無理なことはわかっていますよ。私が残ったところでやれることはありませんから邪魔になるだけです。それに生活するところも今はありませんから、どうやっても出来ないことです。
「リオナ。行きますよ」
「……はい。お母さま」
ああ、もう離さなければならないなんて、もう少しでいいからこうしていたいです。
「ほら、お嬢様」
そう言ってドルスが私の背中から腕を離しました。
「ああ、ドルスも一緒に来なさい。一応関係者あのですから経緯の説明が必要な個所があるかもしれません」
「え? あ、はい。わかりました」
え? それならもう少しドルスと一緒に居られると言うことですか!?
「ほら、行きますよ。ドルス」
「あ、はい。いきなり上機嫌になりましたね。お嬢様は」
「気にしないでください」
そうして馬車に乗って公爵家へ向かうことになりました。
公爵家に向かってから数日、予定ならあの後に領地へ向かうことになっていたのですけど、どうやらお母さまが公爵様に現国王の補佐をするようにと頼まれたようです。そのため領地には戻らず今は王宮の中で生活しています。
王都の我が家が建て直されればそこに戻ることになっていますが、ドルスもまだ怪我が治っておらず王宮に居るので、私にとっては嬉しい事ですね。
そして、今は私はやることが無かったため、王宮に居る怪我人の治療の補佐をしています。ドルスが居る近くに居られることは嬉しいのですけれど、あまり話すことが出来ないのが不満の種ではあります。
ですが休憩中は話すことは出来ますし、このようにくっ付くこともできるのですから、不満を言ってはいけませんよね。
「あの…お嬢様。このような場所で私と接触しているのはよろしくないと思うのですが」
「いいじゃないですか」
「いえ、貴族である以上、安易に異性と触れ合うのは良くないと」
「もう、何処にも行ってはいけませんよ? ドルス」
「え、ああ…なるほど。長期間合わなかったことによる反動か、これは」
「聞いていますか?」
「ええ、聞いていますよ。少なくとも私は何処にも行きません」
私もドルスの側を離れることは無いので一生一緒に居られますね。……一生ですか。
「あの…ドルス」
「何でしょう?」
「私、ドルスと結婚したいのですけど」
「は? あ、いや。さすがに使用人とは無理かと思いますよ?」
「先日、侯爵家の令息と平民上りのメイドが結婚していましたから問題は無いと思います」
なかなか思い切ったことをする侯爵家です。我が家は子爵ですし、ドルスは男爵家出身ですから当りは少ないと思いますが、平民上りを嫁として迎え入れると言うのは結構なことだと思います。ですが、そのおかげで私も思い切ることが出来るのですから、ありがたいことですけどね。
「あ…あぁ、確かに、それがありましたね。いや、そうだったとしても少なくとも奥様の許可が必要だと思いますよ?」
「そう言うと言うことは、ドルスは私と結婚してくれると言うことでしょうか?」
失言だったのかドルスは私がそう聞くと一瞬ですけど体を強張らせました。
「……まあ、私もお嬢様のことが好きですからね。結婚できると言うなら願ってもいないことです」
「そうですか。私もドルスのことが大好きですので、意地でもお母さまに許可を貰わないといけませんね」
「…そうですね」
何やらドルスが呆れたような気配がします。しかし、お母さまに許可を貰うにはどうしたらよいでしょうか? 何となくあっさり許可が貰えそうな気もしますけど、出来ることはやっておきませんと公開することになるかもしれません。
「お母さまに許可を貰いに行く時はドルスも一緒に来てくださいね?」
「もちろん。一緒に行かせていただきますよ。お嬢様」
さて、私とドルスが結婚できるように頑張らなければなりませんね。ですがまずは、私に振られた役目を全うしませんといけませんね。そうしなければお母さまの印象が悪くなってしまいますから。
さあ、頑張っていきましょう。
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そんな中、妹の結婚が片付いたと言ってエグバート卿が復縁をもちかけてきた。
「嘘でしょ? 本気?」
私は、愛のない結婚なんてしないわよ?
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☆読者様の御親切に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
ご心配頂きました件について『お礼とご報告』を近況ボードにてお伝えさせて頂きます。
引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです♡ (百谷シカ・拝)
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