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理解していく
しおりを挟むテレジア様はこれまで深い親交があった方ではありませんし、キレス様も私と婚約してから彼女の名前が話の中に出たことは一度もありません。
今は私と婚約しているため他の女性の名前を出すことは極力しないようにしているのでしょうけど、一切出てこないというのも少し不安になるのです。
「なるほどな」
私の問いかけにキレス様は少し驚いたような声色になりました。
「君がこのようなことを気にするとは思っていなかったな」
「あまり接点のない方でしたし、キレス様とテレジア様が婚約者としてどのような付き合い方をしていたのか存じていないので」
今回の件のキレス様と婚約するまで深い付き合いがあったわけではありませんでしたし、キレス様とテレジア様が婚約者としてどのような関係を築きあげていたのか知らないのです。
「確かに、元の婚約者が気になるのも理解できるな。僕もノエルの元婚約者についてはしっかり調べているわけだから」
「キレス様も気になっていたのですか?」
今まで接していた態度からそのような物は一切感じることはできませんでしたが、キレス様も同じように気にされるという事を知って少し安心します。
「そうだね。それであの子についてか」
そう言ってキレス様は少し考え込むような表情になりました。
「僕とテレジアの関係は、いうならば君と元婚約者と同じような関係だった。父上が決めたものだったから深い感情はないよ。おそらくあちらも同じだろうね。とはいえ、今回の件について何も思うところがないとは言えないが」
「そうでしたか」
よくある婚約者の関係ということなのでしょうか。キレス様の声の感じから印象の悪い方という事はなさそうですし、私とコーリーの関係とは違いテレジア様との関係自体は悪いものではなかったのかもしれません。
「お聞かせくださり、ありがとうございます」
「ああ、でも君がこのようなことを聞いてくるとは思っていなかったから驚いた」
「えっと?」
なぜそのようなことを思われていたのか理解できず、どう返事を返したらよいのかわからず言葉に詰まってしまいました。
「今までの君の印象は、物事に対してあまり私情や感情を挟まずに判断できる女性だと思っていたんだよ」
「いえ、そのようなことはない…と思います」
そう言いながら、また一つ君のことが知れたと嬉しそうな様子でキレス様はこちらに笑いかけてきました。
極力そのようなことがないようにと務めていますが、完全にそれが出来ていると言い切ることはできません。それに婚約者の件については、今後のことを考えて知っておいた方がいいと思っただけですし。
……キレス様がまだテレジア様のことを未だ想っているのではないかと不安になったというのも多少はありますけれど。
「少しでも不安に思わせてしまったのなら申し訳ない。下手に意識させないよう話に出さないようにしていたんだ」
「そうだったのですね。お気遣いありがとうございます」
「いや、そのせいで不安にさせてしまったようだし、本当にすまなかった」
「あの、私が勝手に不安になっていただけですから、気にされなくても大丈夫です」
キレス様の謝罪に焦ってあたふたしていると、正面に座っていたキレス様が立ち上がり、私の隣まで移動してそこに腰を下ろしました。
隣にキレス様が座ったことでソファのクッションが沈み、少しだけ私の体がキレス様側に傾き少し寄りかかる様な姿勢になりました。
「キレス様…?」
身長の差もあり見上げる形になりながら隣に座ったキレス様の方を向くと、今までで一番近くにキレス様の顔があり、その整った顔に少し息を飲みました。
「お互いにまだ知らないことが沢山ある。それはこれから少しずつ知っていけばいい」
「はい。そうですね。これからおい互いに知っていけたらと思います」
優しい笑みを向けながらキレス様が私の顔を見つめてくるので、恥ずかしさから目を逸らしたくなりましたが、ここでそうするのは失礼だと判断し頑張って耐えることにしました。
すると、徐々にキレス様の顔がゆっくりこちらに迫ってきていることに気づきました。
そこでキレス様が何をしようとしているのか察しました。婚約者である以上、このようなことをすることもおかしいことはありません。突然のことで緊張しますがこの場で拒否するのも婚約者としてあまりよろしくないので、何をされてもいいように身構えておきます。
「おっと、この場でこれ以上はよくないね」
「え?」
キレス様はそう言いながら隣に座っていても自然な距離まで顔を離して、私の表情を見て嬉しそうな顔をしていました。
そのキレス様の表情を見て、少し揶揄われたことを理解し、顔が一気に熱くなります。
「キレス様」
揶揄われたことに対する抗議としてキレス様を少し睨みましたが、それを見てキレス様はさらに嬉しそうな表情をしただけで、あまり効果はなかったようです。
これからお互いに知っていけたらと言いましたが、私も1つキレス様のことを知ることが出来ました。
どうやらキレス様は少し意地悪な方のようです。
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