落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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あなたへ

リンネの覚悟

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「……ん? 止まれ! 貴様ら、何者だ」

 兵士が二人に気づいて一歩前へと出る。
 もちろん二人は止まらない。
 言葉を返すこともない。

「止まれ! こちらの質問に……」

「『狂戦士化バーサーク』」

 レオンの目が狩人のそれへと色を変える。
 兵士が瞬きをする間に、レオンが彼の視界から姿を消した。

「は……?」

「下だっ!」

 もう一人の兵が声を上げる。
 しかし、遅い。
 一閃。
 兵士のあご目掛けて短剣が鋭く襲い掛かる。

「ぐおっ!」

 すんでのところで体をのけぞらせたものの、兵士のあごは斬撃によって短くなってしまった。

「ぐおおおおお!!!」

「くそっ!」

 後方の兵が剣を抜く。
 それに近づくのはリンネだった。

「あんたの相手は私よ」

 リンネは腰の剣を抜くことなく兵士に斬りかかるかの様な動きをする。

「なにやってんだてめえ! 剣も持たねえで斬れるわけねえだろうが!」

 兵士は当然リンネの攻撃を防ぐことなく襲い掛かってくる。
 しかしリンネの表情焦りはなかった。

「『座標転移ポイントワープ』」

「え……?」

 油断しきっていた兵士の肩が斬り裂かれる。
 リンネの手には、抜いていなかったはずの剣が握られていた。

「なん……で……?」

 兵士が倒れる。
 リンネは静かに剣を納めた。

「『座標転移ポイントワープ』、物質を任意の座標に転移する魔法よ。まだ短い距離でしか使えないけどね」

 返事はない。
 ただ、倒れた兵士の右肩からはどくどくと血が流れ出していた。

「……っ!」

 リンネは目を逸らす。
 その視線の先ではレオンが兵を倒していた。

「こっちは終わった。そっちも……終わったみたいだな」

 小さく頷く。
 おそらくどちらも殺してはいない。
 しかし大怪我なのは間違いないはずだ。
 優しいリンネは兵士達の今後を思い吐き気すら感じたが、押し殺した。
 地獄まで付き合うと言った言葉を、その覚悟を噓にはしたくなかったから。

「二人とも、よくやった」

 シンピがララを連れて姿を現す。
 彼女は一切リンネに視線をよこすことなく、その肩に手を置いた。

「……よく頑張った」

 師匠からの言葉にリンネは涙を流す。

――やっぱり、師匠だなあ

「さて、本番はここからだ……いくぞ」

 リンネとレオンが頷くと、シンピは扉に手を置いた。
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