落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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はじめての依頼

会敵――レオン&シュンランside――

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「レオンさん、ここからだと森の入り口は逆方向になります。仕方ないですが少し大回りしていきましょう」

 シュンランの提案にレオンは頷く。
 ここはこの森に慣れているシュンランの指示に従うのが賢明という判断だ。

「ところでシュンラン、戦闘はできるか?」

「戦闘、ですか。一応格闘技を少しかじってはいますけど、実戦経験はないです」

「なるほどな……このままリンネ達と合流できずに激しい戦闘になった時、俺じゃカバーしきれない時があるかもしれない。申し訳ないがその時は自分の身は自分で守ってくれ」

 レオンの言葉にシュンランは息を吞む。
 そうだ、ここは五級冒険者の戦場なのだ。
 討伐依頼が解禁されていなかった六級冒険者の場では、ない。

「……はい。わかりました」

「ありがとう。もしもの時は頼んだ」

 覚悟を決めた様子のシュンランにレオンは微笑む。
 この調子なら大丈夫そうだ。

――にしても

 レオンが周囲に気を向ける。
 間違いなく、いる。
 恐らくは複数体で隙を伺っている。
 シュンランと話しつつ〈殺気〉を放っているものの、魔獣の気配が消える様子はない。

――まだ〈殺気〉を使いこなせてはいないか

「ま、そんな状況にならないのが一番なんだけどな……」

――それなら

「『近づくな』」

「え?」

 〈魔獣王〉を試すが魔獣の気配は消えない。
 強力な魔獣なのか、それとも――

「レオンさん、どうしたんですか?」

「……囲まれてる。走れるか?」

 訊ねるとシュンランは驚いた様子だったが、ただ一つ頷いた。

「よし、それじゃ行くぞ……走れ!」

 レオンの掛け声で二人は走り出す。
 それを察知した魔獣達が茂みの中から現れた。
 数は七体、全て人型アンデッド兵だ。

「前には二体か。『退け』!」

 〈殺気〉と〈魔獣王〉のスキルを同時に、前方の二体に集中させる。
 ここまですると、流石に敵の動きが止まった。

「今だ、急げ!」

 シュンランとレオンが敵の間を駆け抜ける。
 追手は多いが、距離はそう近くない。
 うまくやれば逃げ切れるだろう。

「レオンさん、あそこに洞穴があります! 入ってやり過ごしましょう!」

「わかった!」

 二人は一目散に近くの洞穴に入り、手前の岩に身を隠す。
 穴の中は案外広く、奥にかなり続いているようだった。
 アンデッド達の足音が近づき、離れていく。
 どうやら問題なく撒けたようだった。

「……もう大丈夫そうだな。行こうシュンラン……シュンラン?」

 返事がなかったのでレオンが振り返ると、シュンランはしゃがんだままなにかを手に取っているようだった。

「どうした?」

 覗き込んで、レオンは目を見開く。
 シュンランが手にしていたのは、橙色のネックレス。
 彼女が首にかけている物と同じ、六級冒険者の証だった。

「……ここに、いるんだ」

 穴の奥深くより這い出てくる冷たい空気が、二人の頬を撫でた。
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