落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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はじめての依頼

恐怖と執念

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 斬る、蹴る、そして壊す。

 山のようなアンデッド相手に、レオンは獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。

――研究所の時のような失態はもう、許されない

「うおおおおおお!!!!」

 もう何体目かも分からない敵の頭蓋骨に短剣を振り下ろし、力任せに割る。
 すると、この空間において立っているのはレオンとリッチだけとなった。

「この数のアンデッド相手に勝つとは、素晴らしい体だ……欲しくなってしまう。どうだ? 大人しく私に体を明け渡すというのは」

 嘲るようなリッチの言葉は、レオンの耳に届かない。
 レオンは今、『狂戦士化バーサーク』によって、リッチを倒すことだけに全神経を集中させていた。
 次の瞬間、レオンが駆け出しリッチとの間合いを一気に詰める。
 狙いはぼろ布に覆われた、首と頭骨の接合部と思われる箇所。
 完全にリッチの虚を突いた攻撃だった。

――もらった

「『死神の吐息ブレス・オブ・タナトス』」

 リッチが呪文を唱えた瞬間、周囲の空気とともにレオンが凍りつく。
 『狂戦士化バーサーク』は解け、気づけば床に倒れこんでいた。

「惜しかったな。だがここまでだ」

 悠々と話すリッチに一撃を入れてやろうとレオンが立ち上がる。
 しかし足は震え、四肢にうまく力が入らない。

「どうした。震えてるじゃないか。怖いのか?」

 違う。
 レオンの足が震えているのは恐怖しているからではない。

――寒い

 そう『死神の吐息ブレス・オブ・タナトス』をまともに喰らったレオンの身体は現在、吹雪の中で裸で佇んでいるのと変わらない程の寒さに襲われていた。

「これで終わりだな。大人しく降参しておけばよかったものを……これだから馬鹿は救えないな」

 身体を回収しようとリッチが近づいてくる。
 その時、レオンの口が微かに動いた。

「……ろす」

「ん?」

「お前は……殺す」

 リッチの身体を切り裂くような〈殺気〉が襲う。

――なんだ、これは!

 無傷なはずのリッチはその場から動けなくなり、その代わりとでも言うように満身創痍のレオンが一歩ずつ迫ってくる。

――どうしてこいつはまだ動ける!?

――なにがお前をそこまで突き動かす!?

 リッチは声も出せず、遠い昔に経験したことがあるこの感情の名前を記憶から探していた。
 すると、彼は一つの解に辿り着く。

――そうだ、これは私がまだ人間の子供だった頃に経験した感情

 震える手で、レオンがボロボロの短剣を振り上げる。
 狙うは首筋。

――『恐怖』だ

 その思考を最後に、醜い獣の一生は幕を閉じた。
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