落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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王と忠誠

ご相談

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 その夜、レオンの口から語られたのは、にわかには信じがたい内容だった。

「つまり、お前の中に〈魔獣王〉を名乗るもう一人のお前がいる……ということか?」

 シンピの確認に、レオンが頷く。
 ララはまだ内容を理解しきれていない様子だ。

「えっと……じゃあゴーレムを倒したのはレオンだけどレオンじゃないレオン? ってことで……む、難しい……!」

「ララの気持ちも分かる。俺自身まだ飲み込めていない部分が大きい。あれは本当に〈魔獣王〉なのか。ずっと俺の中にいたのか。目的はなんなのか……分からないことだらけだ」

 食卓を、戸惑いにも似た静寂が支配する。
 それを打ち破ったのは能天気にすら思えるビーディー発言だった。

「勘違いなんじゃねぇの? スキルが自我を持つなんざ聞いたことがねぇし、ティガー……お前の親父もそんなこと言ってなかったぞ」

「それは……」

「そんなことはありません。もう一人のレオンはいます」

 言葉につまったレオンに代わり口を開いたのは、これまで静観を貫いていたリンネだった。

「言うべきか迷ってたんですけど……今の話を聞いて確信しました」

 リンネが真っ直ぐにレオンを見やる。

「私ね、会ったの。もう一人のレオンに」

 各々に衝撃が走る。
 遭遇した者がいるとなれば話が大きく変わってくる。

「お、俺は……あいつは、〈魔獣王〉はなんて言ってた?」

「それは……」

――悪を滅ぼすのは正義か?

 少し考えた後、リンネは首を横に振った。

「……ううん。特にはなにも。だけど、雰囲気があまりにも違って、目の色も赤く変わってた」

「目の色が赤……?」

 シンピとビーディーが少し驚いたように顔を見合わせる。

「師匠、ビーディー。なにか知っているんですか?」

 レオンが追求すると、二人は少し困ったような表情を見せたが、ビーディーは「任せた」と言って葉巻を取り出した。
 シンピはため息をついて話し始める。

「……私たちにとって、赤い目と言えば“奴”……ウルフ本来の目だ。今は他人の体を借りているから変わっているかもしれんが」

「そういうことですか……他に、なにか思い当たることや〈魔獣王〉について知っていることはありませんか?」

「悪いが特には……ビーディー。お前はどうだ?」

 煙をくゆらせつつビーディーが答える。

「知らねぇよ。知る気もねぇしな。ま、〈魔獣王〉についてならあいつが一番知ってんだろ」

「そうだな……隠居しているところ申し訳ないが、今回ばかりは彼を頼らせてもらうか」

「師匠。彼っていうのは……?」

 レオンが問うと、シンピが答える。

「〈魔龍〉ドラクル……ティガーの契約者。お前にとってのララのような存在だ」
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