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王と忠誠
力になりたいんです
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「〈魔龍〉ドラクル。〈魔獣王〉のことなら彼に聞くのがいいだろう」
シンピの言葉に、レオンは息を吞む。
魔龍と言えば、連邦東部に生息する龍の中でも何らかの理由で魔獣と化した個体のことを指す。
父、ティガーがそのような強力で凶暴と呼ばれる魔獣を従えていたことに驚きを覚えたのだ。
「つっても今あいつのいるとこってめちゃくちゃ遠いだろ。転移できんのか?」
ビーディーの問いにシンピが頷く。
「ああ。彼の居場所にはいつでも転移できるようにしている。だがそうだな。〈魔獣王〉の話をするのならレオンと……ララの二人がいいだろう」
「え、私?」
突然名前を呼ばれ、夕飯に夢中になっていたララがその顔を上げる。
「ああ。レオンの〈魔獣王〉の影響を一番に受けるのはララだろう。それならその道の先輩の話を聞いておいて損はないはずだ」
「まあそっか……強くなれるかもしれないなら行くしかないよね」
ララがそう言ってレオンを見やる。
「強くなりたい」。
病室で涙を流し、そう言っていたララの姿をレオンは思い出す。
――そうだ、強くならなくちゃいけない
その決意を思い出し、レオンは小さく頷いた。
そんな二人を見るリンネがどこか表情を曇らせていることに、ベルは気づいていた。
「それなら明日、ドラクルを訪ねることとしよう」
シンピが告げる。
月は、夜の黒をたたえる天上にただ一つ、ぼんやりと浮かんでいた。
その夜、夕飯も終わりリンネはキッチンで片づけをしていた。
「リンネさん」
リンネの背後から声がかけられる。
入口を見やると、そこにはベルの姿があった。
「ベル、どうしたの?」
「その、眠れなくて。よければお手伝いさせてもらってもいいですか?」
「お客さんなんだから別にいいのに」
「あはは……料理人としての癖で。食事の後に自分で片づけまでしないと落ち着かないんです」
「ふふ。職業病ね。それなら洗い物を手伝ってくれる?」
「はい」と返事をしてベルはリンネの横に立つ。
横顔を見やると、リンネの表情にはどこか悲しみのようなものが隠れているような気がしてならなかった。
「……そういえば、ブレンダムではありがとうございました」
「え?」
「魔獣が出てきた時、戦ってくれたじゃないですか。あの時リンネさんがいなかったら、きっと沢山の人が殺されてました」
「ああ……そんなことね。いいのよ、お礼なんて。私がしたくてやってることなんだから」
「それでも。リンネさんに助けてもらったことに変わりはありませんから、感謝はしますよ」
「……そういうものかしら」
「そういうものです」
ベルの言葉を最後に、二人の間にどこか重たい沈黙が流れる。
先にそれを破ったのはベルの方だった。
「……もう一人のレオンさんになにか言われたんですか」
予想外の方向から来た質問に、リンネは言葉を詰まらせる。
「……ッ。特になにもなかった。そう言ったはずよ」
「噓ですよね、それ。レオンさん達は鈍感だから気づいてないみたいですけど、ビーディーさんやシンピさんもきっと気づいてました……別に話したくないならいいんです」
「ならなんで……っ!」
リンネが少し声を荒げ、ベルの顔を見やる。
するとその視線はまっすぐリンネに向けられていた。
「私も力になりたいんです。皆さんが背負っているもの、ブレンダムで少しだけ見てしまったから……知っていて放っておくことなんて、できない」
水に濡れた冷たい手で力強く、ベルがリンネの両の手を握りしめる。
「リンネさんが抱えているもの、少しだけ私にも背負わせてくれませんか」
シンピの言葉に、レオンは息を吞む。
魔龍と言えば、連邦東部に生息する龍の中でも何らかの理由で魔獣と化した個体のことを指す。
父、ティガーがそのような強力で凶暴と呼ばれる魔獣を従えていたことに驚きを覚えたのだ。
「つっても今あいつのいるとこってめちゃくちゃ遠いだろ。転移できんのか?」
ビーディーの問いにシンピが頷く。
「ああ。彼の居場所にはいつでも転移できるようにしている。だがそうだな。〈魔獣王〉の話をするのならレオンと……ララの二人がいいだろう」
「え、私?」
突然名前を呼ばれ、夕飯に夢中になっていたララがその顔を上げる。
「ああ。レオンの〈魔獣王〉の影響を一番に受けるのはララだろう。それならその道の先輩の話を聞いておいて損はないはずだ」
「まあそっか……強くなれるかもしれないなら行くしかないよね」
ララがそう言ってレオンを見やる。
「強くなりたい」。
病室で涙を流し、そう言っていたララの姿をレオンは思い出す。
――そうだ、強くならなくちゃいけない
その決意を思い出し、レオンは小さく頷いた。
そんな二人を見るリンネがどこか表情を曇らせていることに、ベルは気づいていた。
「それなら明日、ドラクルを訪ねることとしよう」
シンピが告げる。
月は、夜の黒をたたえる天上にただ一つ、ぼんやりと浮かんでいた。
その夜、夕飯も終わりリンネはキッチンで片づけをしていた。
「リンネさん」
リンネの背後から声がかけられる。
入口を見やると、そこにはベルの姿があった。
「ベル、どうしたの?」
「その、眠れなくて。よければお手伝いさせてもらってもいいですか?」
「お客さんなんだから別にいいのに」
「あはは……料理人としての癖で。食事の後に自分で片づけまでしないと落ち着かないんです」
「ふふ。職業病ね。それなら洗い物を手伝ってくれる?」
「はい」と返事をしてベルはリンネの横に立つ。
横顔を見やると、リンネの表情にはどこか悲しみのようなものが隠れているような気がしてならなかった。
「……そういえば、ブレンダムではありがとうございました」
「え?」
「魔獣が出てきた時、戦ってくれたじゃないですか。あの時リンネさんがいなかったら、きっと沢山の人が殺されてました」
「ああ……そんなことね。いいのよ、お礼なんて。私がしたくてやってることなんだから」
「それでも。リンネさんに助けてもらったことに変わりはありませんから、感謝はしますよ」
「……そういうものかしら」
「そういうものです」
ベルの言葉を最後に、二人の間にどこか重たい沈黙が流れる。
先にそれを破ったのはベルの方だった。
「……もう一人のレオンさんになにか言われたんですか」
予想外の方向から来た質問に、リンネは言葉を詰まらせる。
「……ッ。特になにもなかった。そう言ったはずよ」
「噓ですよね、それ。レオンさん達は鈍感だから気づいてないみたいですけど、ビーディーさんやシンピさんもきっと気づいてました……別に話したくないならいいんです」
「ならなんで……っ!」
リンネが少し声を荒げ、ベルの顔を見やる。
するとその視線はまっすぐリンネに向けられていた。
「私も力になりたいんです。皆さんが背負っているもの、ブレンダムで少しだけ見てしまったから……知っていて放っておくことなんて、できない」
水に濡れた冷たい手で力強く、ベルがリンネの両の手を握りしめる。
「リンネさんが抱えているもの、少しだけ私にも背負わせてくれませんか」
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