落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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魔龍動乱

頼んだ

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「あんたはここで止める」

 リンネが剣を構えると、それに続いて両脇のビーディー、ララが身構える。
 戦う準備は出来ていた。
 それを見て、もう一人のレオンはさぞ残念そうにため息を吐く。

「それがお前の答えか。俺は君たちと戦うつもりはないんだが……仕方ない」

 もう一人のレオンが赤い目を大きく見開き、その視界に三人を捉えた。

「止められるものなら止めてみろ! 我が仲間達!」

 魔龍が嵐の如き咆哮を上げる。
 決戦開始の合図だ。

「ララ、リンネ! お前らは脇から回れ! あたしが正面を抑える!」

「わかった!」

「了解! 頼んだわよ!」

 去り際、リンネが言った言葉に、ビーディーがニヤリと笑う。

「誰に言ってんだ。余裕に決まってんだろうが」

 体勢を低くするや否や、ビーディーが大地を蹴り上げ、もう一人のレオンの眼前へと飛び出した。

「よお……あたしらの男、返してもらいにきたぜ」

「ふっ、ほざけ! 『解放バースト』!」

 魔龍と同じ赤黒いオーラを纏ったもう一人のレオンが、ビーディーの拳をガードする。
 だが、この程度で終わるビーディーではない。

「はああああ!!!」

 右手、左脚、右脚、頭突きと目にも止まらぬ速度でビーディーがラッシュを繰り出す。
 その攻撃はどれ一つを取っても、岩を砕く程の威力があった。

「うおおおお!!!」

 しかし、もう一人のレオンも当然負けていない。
 一つ一つの攻撃をいなし、躱し、反撃を加える。
 そうして二人は鬼神の如き形相で一進一退、息もつかせぬ攻防を繰り返す。



「はぁっ、はぁっ……! ビーディー、すごいっ……!」

 魔龍の左手に回りつつ、ララは二人の闘いを見ていた。
 本来であればララ自身が闘いたい場面であったが、何故だろう。
 今のララは、どうにも自分の中の“良くない何か”を抑えることで精一杯だった。

「でもっ……! おじいちゃんはっ、倒さなきゃっ……助けてあげなきゃっ……!」

 レオンへの忠誠の行き場が無くなった今、ララは本来、暴走するはずだった。
 しかしララは自分自身の力のみでそれを抑え込み、走っている。
 それは根性、そしてドラクルへの想いと言うに他ならない。

「私が……助けるっ……!」

 足を止めたララは、大きく息を吸い込む。
 これが今の彼女の全身全霊だ。

「おじいちゃーん!!!」

 その叫びによって、魔龍の注意がララへと向く。
 そうして付近で飛び回る虫けらを払わんと、鋭いかぎ爪を振り上げる。
 だがララの目から希望の光が消えることは、ない。

「リンネ……頼んだ」

 小さく笑ったララの視界の端で、蒼がきらめいた。
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