少年と蛇影

Zerueru

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第ニ章「力の呼び声」

「誘い」

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アルは学校から帰るため、荷物をまとめていた。周りには人の気配はない。
学校が終わるとみんなすぐ帰るからだ。
その時、アルの後ろで声がした。
「ねぇ、アル君。少しお話ししない?」
アルは驚愕した。もともとこの教室にはアル以外誰もいないはずであったし、何より、この学校でアルに話しかける人間などはいないはずなのだ。
落ちこぼれに声をかける。つまりそれはアルを揶揄うためだとアルは考察した。
故に…
「なんの用でしょうか」
少し身構えながら答え、後ろを振り向いてさらに驚愕した。
そこにいたのはこのクラスでも美少女の部類に入るレイナだった。
レイナは眩いロングの金髪に同じく金色の瞳をしていた。教室には丁度西日が差し込んでおり、レイナの金色は輝いて見えた。
(こんな人が俺に話かけるのはおかしい…。何を企んでる…?)
アルはそう考えてさらに身構えた。
「別に何も企んでないわよ。少しお話しがしたいだけなんだけど…。」
アルの心を見透かしたような言葉だったのでアルは驚いた。
と言っても、アルははたから見ても異常に身構えていたのでその言葉も当然といえば当然である。
「話とはなんでしょうか?」
「簡単よ。今日の魔術学の授業のことよ。」
アルはやはりそうかと思った。
今日アルが最も恥をかいたのが魔術学の授業だった。
馬鹿にしたいのなら、この話を取り上げればいい。
「君も…」
そういう人だったんだねと続けようとしたが、アルは最後までいう勇気がなかった。
レイナは続きを促すように首を少し傾げた。
「…いや、なんでもない。」
そう、アルは答えておいた。
これ以上面倒くさいことにならないようにとアルは考え、レイナに話しかけた。
「それで、魔術学の何について話したいのでしょうか。」
「その敬語やめてほしいんだけど…。まあ、いいわ。
話というのはね、彼らにやられっぱなしでいいの?ってことを聞きたかっただけよ。」
アルは驚いた。何故彼女がそんなことを気にするのか分からなかった。
「いいってわけじゃない。
僕には力がないから仕返しはできない。」
自信がなくて、声が小さくなってしまった。しかし、レイナには聞こえたようだ。
「ふーん。諦めるんだ。」
アルは少しずつ怒りが込み上げてきた。
「じゃあどうしろっていうのさ?
所詮、この世は力がある人の言いなりになるしかない世界なんだよ?」
「そんなの知らないわよ。自分で考えなさい。」
(なんで人間はこうなんだ!自分から問いを投げるくせに自分は答えを晒そうとしない!うんざりする!
彼女もきっとそういう人間なんだ。)
そうアルは考えたが、口には出さなかった。
「あなたがこのまま馬鹿にされ続けるのを見るのは私がイライラするから少しは反撃してほしいのよ。」
理不尽を突きつけられ、アルは頭に血が昇った。
「力がなきゃ何もできないだろ!
俺にはその力がないんだよ!」
そう口に出してしまった。
頭に血が昇ったせいで滅多に使わない俺という一人称を無意識のうちに使ってしまっていた。
「いいよな!生まれ持った力がある奴は!
俺にはその力がなかったんだよ!その差の責任を俺に押し付けやがって!」
(俺は何を言ってるんだ?)
「力が無いせいで父さん達からも褒められたこともない!」
(やめろ…止まれ…)
「力を手に入れる?そんなことが出来たら苦労しねぇよ!
好きで俺がこの状態でいると思ってんのか?」
(止まれ…!)
そこまで言ってからアルは黙った。
アルの目から涙がこぼれた。
レイナはそれを見てハッとしたようだった。
「ごめん、取り乱して。」
一拍置いてレイナは話し始めた。
「いいえ。
私こそ、あなたを傷つけるようなこと言ってごめんなさい…。」
彼女が申し訳なさそうにするのを見ると罪悪感が湧いてくる。
「いいよ、事実だから。」
レイナは何か考えるそぶりを見せた。
そして…
「仕方ないわね。私が魔術を教えてあげる!」
「はぁ?」
アルは驚いてそれしか言えなかった。
「私が鍛えればアル君は強くなれるし、私も嫌な思いしなくて済むでしょ?」
「いやいや、それただの時間の無駄でしょ?」
「ごちゃごちゃ言わない!
私がやると言ったらやるの!
じゃあ、私の家行くわよ!」
「何故家⁈」
「そっちの方が都合がいいからよ。
とにかく行くわよ!」
そんなやり取りの後、レイナはアルの腕をがっしと掴む。そのままアルはレイナの家に連れて行かれた。

「誰か…助けて~…。」
教室にはアルの声がこだまするだけだった…。
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