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第7話 宝石移送

第7-7話 名付け

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○拾い子の名前
「つけてもらっていいかしら。」
「カンウさんがつけるべきでしょう。候補は出してあげますね。」
「見てのとおり容姿がねえ。可愛いし、目が茶色なのに肌は透き通るような白、金髪でくせっ毛なのよ。ショートにしているからわかりづらいけどね。」
では、候補を何個か言いますね。ア・は、アンジーとかぶりますね、・・イ・・・ウ・・・エ・・はエルフィとかぶるし、カはカンウさんと紛らわしいですねえ。なので、ア行とハ行とマ行ヤ行はさけましょう。
「それってあなたの国の言語体系よね。」
「そう話していましたか?」
「ええ、言語の翻訳が少し違うかもしれません」
「じゃあ、キxxxで略称はキャロルでどうですか?」
「それね、それにするわ。」
「私たちもキャロルと呼びましょう。」

○大家族の日常
 一緒に暮らすようになってからもキャロルは、どこにいてもカンウ様を気にしていたのですが、数日で慣れてメアさんと一緒にいろいろなことをするようになっていました。しかし、水竜の子ミカさんもなぜか一緒にするようになりました。
「まあ、人間界に暮らすには必要だからこれもいいかもしれないわね。」ヒメツキさんは、そんなことを言って放置しています。
私としては、ドラゴンとしての格をまず教えて欲しいところですので、モーラにそれとなく話しました。
「人間と決定的に違うというのは本能でわかっているとは思うぞ、じゃから別に良かろう。」
モーラからそう言われて、そういうものなのかと思いましたが、慣れすぎるのもどうかと思います。そして、人間のことを知るために勉強することになり、私が教えることになりました。私は先生向きではないんですが。
とりあえず、言語を教えて欲しいと言われて教えることになりましたが、なぜかアンジー、ユーリ、エルフィが一緒にテーブルに座っています。
「どうしましたか?」
「会話はできるのよ。でもね、文字が書けないの。」
「そういえば、私と2人だけで生活していた時も私が勉強している傍らでお菓子食べていましたね。」
「はは、はずかしい。」アンジーがめずらしく赤くなっています。可愛いですね。
「僕も剣ばかり振っていたら、こうなってしまいました。」あれ?おじいさんに習ったはずでは?
「実は、違う地方の言葉なのです。」ああ、そういうことですか。
「同じで~す。会話はできますが、文字は書けませ~ん」
「わかりました。返事は元気なのに、言った後にすぐ寝ないように」
エルフィが寝ようとしているので、アンジーが胸をつねっています。やる気はあるのでしょうが、知能がついていかないタイプですね。
「あー、ひど~い」
「とりあえず、簡単なところからですね。」
そうして授業を始めます。
「知っている言葉や好きな言葉を教えてください」私の第一声はこれでした。
興味を持ったのか、さすがにエルフィも寝ないで授業を最後まで受けました。

「あるじ様はめずらしい教え方をしますね。」
「そうですか?」
「普通は、言葉を構成する文字を全部かかせるのではないですか?」ユーリは、知識として知っている学校をイメージしていたようです。
「ここは学校ではないので、みなさんが憶えている言葉を文字にするにはどうするか、興味のある事、動物、植物、物、感情などを文字で表したりした方が早く憶えると思いませんか。」
「そうね、会話が先にあるのだからそれを文字にするのが簡単よね」
「でも、文章には文法が必要ですよね~」エルフィ良いことを言いますね。
「私が最初この地に来たとき、結局は単語をつないで会話をしました。単語を書けなければ文章は作れないのです。」
「逆転の発想なのね。」まあ、そうとも言えますね。
「あとは、単語を構成する文字には規則性もあるのです。そこに興味が行くと単語も簡単に読めるようになりますよ。」
そういう感じで教えているのですが、さすがに子ども達の方が覚えは早いです。アンジーは特にバイリンガルになるので大変そうです。
次に魔法も教えます。これは、私が長く話したくなるのをアンジーに止めてもらいながら教えることになりました。
「一緒に習いますか?」
キャロルは、見よう見まねでミカさんと同じように手を出していますが、魔法を使おうとはしていません。違和感があったのでモーラを呼びました。
「どれどれ」モーラはキャロルと額を合わせます。
「ほほう、これはこれは、」
「もしかして」
「ああ、かなりの素質持ちじゃ。のうお主、何かやらかしたな?」モーラは、優しく微笑んで聞いていますが、キャロルはなぜか怯えています。近くにいたメアさんの後ろに隠れました。
「ここにいる人達は誰も怒らないですし、変な目でみないですから言ってごらんなさい。なにか恐い思いをしたのですか?」メアが言うと、おそるおそるうなずきました。
「そうか、親からも気味悪がられたか。つらかったのう。」そばに寄ったモーラから頭をなでられて、表情が変わり、泣くまいと歯を食いしばっていましたが、一粒ポロリと涙をこぼすと堰を切ったように泣き出しました。モーラが抱きしめるとより一層激しく泣き出すキャロル。
「魔力を暴走させ疎まれてカンウの所に出されたな。かわいそうに。何が付き人にじゃ、ていよく厄介払いしただけじゃろう。」
私は、そばでだまって見ているだけでした。ふと、この世界では、潜在的に魔力を持っている人が多数存在しているのではないのでしょうか。そんなことを考えていました。とても不謹慎ですが。
「さて、この子の魔力の系統じゃが、不明じゃ。」
「わからないんですか?モーラでも?系統くらいはわかりそうですけど。」
「いいやわからぬ、明らかにわしとは違うのはわかるが、さりとて知っている系統とも違うようじゃ。」
「はあ、」
「ふむ、系統の話をするまえに真祖と呼ばれるドラゴンの者達の話をしようか、今のところ真祖とよばれているのは、光・闇・火・水・氷・風・土・金・草木の9柱じゃ。しかし、最初は、光・火・水・風・土の5つとされていたそうじゃ。闇については、光の正対として、氷については、水の正対として真祖達から認められ、金・草木については、さらにその後、さきの真祖達が認めたものらしい。じゃから、真祖も9柱ではなくもっと多くなる可能性もある。その上で魔法自体の系統属性については、街から出て行った坊主の死霊使いの魔法とか、おぬしの空間操作系の魔法や、重力をあやつる魔法については、今のところその系統のドラゴンは現われてはいない。つまりドラゴンの真祖と系統属性は一致せず、さらに不変ではない。もしかしたら、ドラゴンは存在するが、能力値が低くて真祖足るに至らない可能性もある。要するに知らない系統属性もあるのじゃ。」
「なるほど新たな系統属性も生じる可能性があるのですねえ。」
「まあ、今のところそんなもんじゃろう。お主のように空間操作だけではなく、細胞分子レベルで遺伝子操作ができるとかもそうじゃ。わしらのしらない技術が転生者によって持ち込まれればどんどん混沌としてくると思うがな。もっともお主にはその意志がないらしいが、他の転生者でそのような知識があり、しかも堂々と行使する者がでてくれば、大変なことになるかもしれんな。」
「そんなこと考えもしませんでした。」
「まあ、そうよな。考えもしないから狙われもしない。わしも安心じゃ。」
「いつからそう思っていますか?」
「ああ、最初は気軽に旅する怪しい者と思っていたが、あの空間魔法を見たときからこいつはやばいと思っていたぞ。まあ、お主の頭の中はお花畑だったから今のところ大丈夫じゃが、お主が自分の構築した魔法を試したくなったときに、そしてその欲望を抑えきれなくなったとき、この世界に対して正常な思考力を失ったとき、そのときが問題じゃな。」
「恐いことを言わないでください。」
「わしらの誰かを失ったときにお主ならやりかねんのではないか。少なくとも自分自身でそう公言しているではないか。」
「そうですね。世界を呪うかもしれません。」
「そうならないで欲しいがのう」
「わたしもです。」
「おお、話が長くなって子ども達が飽きて居眠りしているぞ」
「そうですね。でも系統不明でもなんでもできるんでしょうか。」
「主の話では、かつてのネクロマンサーの坊主も少しはできたみたいだから、大丈夫ではないか?」
「では、明日から、なにかしら私の憶えた基礎魔法を一緒に真似してみましょうか。もちろんモーラはそばにいてくださいね。何が起きるかわからないので」
「うむ、お主が余計な事をせんよう、アンジーと共に見ているわ」
「そうね、2人で話し込むと授業にならないから。」
「すまぬ。」「すいません」


○真名付与の儀式
「では、いってくる。」
「気をつけていってらっしゃいませ。」
 そうして、モーラ、ヒメツキ、ミカの3人が玄関から飛び立っていった。キャロルは、メアさんの手をつかみながらも寂しそうに反対の手で手を振っていた。
「大丈夫ですよ、すぐ戻っていらっしゃいます。」メアさんがキャロルを見ながら言った。それでも去って行った空をしばらく見ていました。
「でもすごいわねえ、ドラゴンの真祖達が、一堂に集まるんでしょう。こんなこと100年単位でないと起きないことなのよねえ。」
「そうなんでしょうねえ。だとすればモーラさんは挨拶だけでも大変そうですね。」
「確かに。」

高くそびえた山脈、その中でも高いところ。常に雲に覆われた所にそれはある。
 ドラゴンの里。里とは言っても大部分のドラゴンは大なり小なり縄張りを持って世界に散っているので、そこに住んでいるのは、縄張りを若い者に譲ったり、ドラゴン達のまとめ役を任せられた少数の者である。
 しかし、何か問題が起こった時や、今回のように儀式を行う時にはここに集うことになっている。
山頂に広場があり、広場の反対側には洞窟のある峰があり、手前には、家がある。
その家の前にモーラとカンウ、そしてミカが立っている。
「長老の家か、久しぶりじゃなあ。この大きさだと人にならないと入れないと思うのだが。こんな感じだったかのう」 
「長老は、小さい方がいいとか言って、人型になっているわ。」
「おおそうか、それはドラゴンの長としてどうなんじゃ」
「だから、周囲も不満に思っているのよ、長老に追従するお着きの人達もその流行に乗って賛同しているから。」
「それは、まずいなあ。」
「今回の儀式だって、会場が狭いからと人型で行うとか言っているわよ。」
「なるほどのう、むしろ火とか闇とかの方の言っていることの方が正しいんじゃないのか」
「火はね、長老達に向ける敵意を人族のせいで長老がダメになったと思っているふしがあってねえ。」
「それは、どっちもどっちじゃなあ」
「火は、長老を尊敬、いや、崇拝しているから、長老は悪く無いと思いたいのでは、ないのかしら。」
「どっちもだめじゃのう」
「あら、少しは里のことが気になるんじゃない。あなたが長老になればいいのよ」
「別にどっちになっても里は変わりそうにないじゃないか。わしがなったからといって変わるものかよ」
「そうかもねえ。あ、この中に長老とそのとりまきがいるわよ」豪奢な建物である。作りは、あやつの頭の中にある寺院とか神社に近い。
「ああ、いるじゃろう、わしが生まれた時にさんざんもてあそんでくれた奴らがなあ。この入り混じった匂いが思い出したくないことまで蘇って教えてくれるわ。」
「かなり恨んでいるわねえ」
「いろいろと話を聞かせて欲しいと言っている時は楽しそうに話してくれるのに、疑問や反論したらすぐ説教じゃったからなあ」
「あんた小さい頃から賢かったものねえ。」
「子どもの疑問に答えられないからって怒ることはなかろう。知らないでいいじゃろう。」
「まあまあ、」ミカさんがなだめに回る。
「さて、入るわよ。」
中に入ると侍従らしき女性のドラゴンが2人お辞儀をして向かい入れてくれて、部屋まで案内してくれた。
そこは、靴を脱いで入るように少しだけ高くなっており、低い方には、履き物が並べてあった。奥の方には、数人の人間が座っている。
「靴を脱いで入ってこい。」
「いつからドラゴンは人間の風習を真似するようになったんですかねえ」
 そう言いながらもモーラは履いていた靴を脱ぎ、素足でそこに立った。二人もそれにならう。
「かなり昔に出会った人間となあ、この方が体にいいといわれてな、まあ、わしの座興じゃ。許せ。」
「確かに人間には習うべき所もあるが、こういうことではなかろう。おや、これはあやつの言っていた畳というやつではないのか」
「知っているドラゴンがここに来るとは、さすがに転生者と共に暮らしているだけはあるな。そう、畳じゃ、めずらしかろう。」
「この匂いが本物じゃとしたらそうなのか。この世界でもい草が取れるというなのか。」
「ああ、魔法使いの里に行けば手に入るぞ。」
「なるほどな、まあそれはいい。久しぶりに戻りました。皆様ご壮健そうで何よりです。」
 モーラはそう言って、あぐらをかいたまま頭を下げる。
「そういうときは正座といって足を組まぬのじゃが、知らなんだか。」
「いや、そこまで義理を尽くすつもりがないからです。」周囲の人の形をしたドラゴンがざわめく。
「ちょっと、モーラ」
「はは、相変わらずだなあ。」若く明るい声の男が部屋の右手奥の方から現れる。そして、長老達とモーラ達の間の端の方にあぐらをかく。
「おまえ、光の」
「久しぶりじゃないか。土の・・今はモーラと呼ばれていると言ったか」
「来てたのか」
「あたりまえだろう、お前が名付け親として儀式に出席すると聞いて、お前の晴れ舞台を見になあ。」
「よせ、恥ずかしい。今回は、わしではなくこの子の晴れ舞台じゃろうが、」
「ははそういうことにしておくわ」
「光の、久しぶりです。」居住まいを正し、正座をしてモーラがその男にお辞儀をする。
「ああ、土の、久しぶりです。」その男も正座になり挨拶を返す。所作を終えると2人ともあぐらをかき直す。
「それにしても、その姿可愛いなあ。彼氏の趣味なのか?」
「ばっ違うわ。あいつはそういうのではない。この姿も事情があって。というか、わかっていながら、尋ねるのは失礼であろう。」
「ごめんごめん、おまえの、おおっと、土の昔を知っているだけに、その姿が可愛すぎてついからかいたくなっただけだ。許してくれ」
「まあ、許そう。あまりからかうな。」
「ここには、長くとどまるのか。」急に真面目な顔になり光のドラゴンは、言った。
「明日の儀式の後、帰るつもりじゃ。お主は」モーラも真面目な顔をして言った。
「俺も、先ほど来て挨拶を済ませたところでなあ、明日には帰るよ」
「わしと違って忙しくはないだろう。」
「そんなわけないだろう?俺もけっこう忙しいのさ。」
「そうか、それにしてもこうやって会えて良かったわ」
「ああ、儀式の時だけなら、会話もままならないからなあ。」
「確かに」
「顔も見られたし俺は先に出るよ。では儀式で」
「ああ、儀式でな。」
そう言って、光のドラゴンは、席を立った。
「昔話は終わったな」その言葉にモーラはそちらに向き直った
「ああ、明日の儀式については、何か注意点はあるのか。」
「そうだな。私の後について言葉をくりかえせば良い」
「わかった。人の姿で儀式をやると言っていたが、本当なのか」
「前の儀式から比べると、かなり参集者が増えたのでなあ、来場するドラゴンの全員はこの庭に入らんのだ。だが儀式に使う法具を他に移すわけにもいかないのでな、その旨は事前に説明して了解を得ている。この次はちゃんとするつもりではいる。だから、そう言う意味では、そなた幼名ミカよ、お前にはすまないことをしたと思っている。」
そうして頭を下げる長老とその周りの者
「頭をお上げください、私は儀式をしていただけるだけで幸せと思っております。」
「わしらを思ってそう言ってくれるのであろう。その心遣い胸に刻ませてもらう。」
再び全員が頭を下げる。
「さて、水の」
「はい」
「此度の壺の件については、この者の祝いの儀式に免じ不問とする。ありがたく思うように。」
「ありがとうございます。」
「今後は、里のため尽くすように。」
「わかりました。」
「あと、土の」
「はい」
「おぬしは、一体何をしたいのか教えてくれぬか。」
「私は何もありません。ただ心の向くまま、旅をしたいと思います。」
「それは、あのいわゆる転生者の影響か。」
「影響と言われればそうでしょう、ですが、私が旅をしてみようと思った時にたまたま出会ったからとしか言えません。」
「さかしいお前じゃ。監視の意味もあるのではないか。」
「それは、旅を始めてから感じております。」
「ふむ、ならば旅を続けよ」
「ありがとうございます。」
「その方ら、明日は祝いの日じゃ、今日はゆるりとくつろぐがよい。」
「ありがとうございます。」3人ともゆっくりと頭を下げ、ゆっくりと頭を上げる。そして、その部屋をでる。
近似の者に見送られてその屋敷を出て、少し離れてから3人で深いため息をつく。
「どうくつろげばいいのかしら。」
「実は、今回の儀式にあわせて、人型の宿や店も作ったらしいですよ。」ミカがそう言って、反対側に見える町並みを指さす。
「長老達は一体何がしたいんじゃ。」
「さあ、わからないわ。はあ」カンウはため息をつく。先ほどから元気がない。
「気にしているのは長老連から言われたあれか。」
「そうよ、使いっ走りを宣言されたわ。しかも断れないわね」
「あの壺の件がこんな風に影響するとはなあ。」
「ええ、知られていても、こんなことをやらされるとは思わなかったわ。」
「なんかすまんな、うまくできなくて。」
「あれ以外に正解はなかったわよ。ありがとうね。」
「さて、宿があるという事は、風呂もあるのだろうかなあ。」そうして、その町の中に入っていく。
「なんじゃあこれは、板に書いてあるだけか、張りぼてか。」
「でもあそこにはちゃんとした宿がありますよ。その隣には居酒屋らしきものも」
「まあ、食事でもしますかねえ」
「カンウ元気出せわしが飯をおごってやるから。」
「あら、ここってお金かかるのかしら」
「一応価格は書いてありますねえ。」
 そうして、3人で食事をして宿を取った。しかし、お風呂はなかった。
 その夜。隣の居酒屋でドラゴンが人の姿で宴会している。
「よう土のさすがに来たのか」そう言ったのは金のドラゴンさん。恰幅の良い男性で顔は、痩せたらイケメンな感じだ。残念ながら少し太くて身長はあまり高くない。
「おぬし、どうして人型だとそういう体型になるのじゃ、もっとかっこいいのを選べば良いじゃろう」
「それがなあ、イメージがわかなくてなあ。これが一番しっくりくるし、なじんでいるからかなあ。それより、元気にしていたか。飛び出して行った時にはみんな心配していたぞ。まだ子どもなのに大丈夫かとね」
「なんとかなあ。」
「それにしても、その姿はなあ、やっぱり彼氏の趣味なのか」
「だからそうではないとみんなに言っておるのだが、どこで誤解が起きているのか。」
「風の奴がなあ」
「あれ、あたし?」
「おぬしか、わしのこの姿が、あやつの趣味だとか吹聴しているのは、」
「だってそう言っていたじゃない。あいつが趣味でこの格好をさせているって」
「いや、わしは不本意だが、が抜けているじゃろう」
「いや、仕方なくってたとえ隷属していても姿くらい変えられるでしょう。」
「いや、まあそうなんじゃが、わしにもいろいろ事情があるのじゃ。」
「はいはい、そこまでー」
「おおカンウ助かったぞ。」
「おお、水神様のおなりじゃありがたやありがたや」
「やめてよ、私だって先代から継いだだけでしかたなくやっているんだから。」
「そう言いながらやめないよな。」金はしつこい。
「そういう野暮なことはここで話すなよ、みんな久しぶりだなあ。」
「おお、光の、これからどうするんだ」
「金のいきなりだなあ、なにをこれからどうするんだ?」
「そりゃあ決まっているだろう里の話よ」
「俺は、関わりたくないんでね。そうだろう土の」
「そうだなあ、ここはどうでもいい。しかもこんな物まで作りおって。人間かぶれが過ぎるぞ。」
「まあ、今関心があるのはあの男だもんねえ」風は相変わらずだ。
「そういう話はいいと言っているんじゃ。」
「それくらいしか話題がないからねえ」
「そうそう、今回の儀式って火も闇も草木もくるのでしょう?」
「当然、今回の儀式は9柱全員来ることが絶対条件だから。」
「あと一人は、ああ、氷か」
「もう来てるわよ」
「おわ、来てたのね。ちゃんと挨拶してよ。まったく」風はいつでもマイペースだ。そのぶん誰に対しても分け隔て無く会話している。
「久しぶりね皆さん」
「おお、氷の久しぶり」
「元気してたか?氷の」
「うちの縄張りも何も無いわ。」
「あれ?なんかありそうだけど大丈夫かい?」光は言った
「なんとかなるわよ。」
「ならいいけど、頼ってもいいんだよ」
「その気持ちだけ受け取っておくわ」
「光の、ここにいない3人の動きをどう思っているのじゃ」
「ああ?しばらくは、見守るよ、あいつの気持ちもわかるからなあ。こんな風に長老が変わってしまうと、何とかしたいと思うんだろうし。」
「方向は間違っているじゃろう。」
「土は、人間側なの?やっぱり彼氏・・」
「そういう事ではない。わしはどんな種族もいて欲しいと思っておるからなあ」
「確かに方向性は間違っているよねえ。でも、悪だくみは、成功していないでしょ。」
「そうなのか?」
「ああ、大きい奴はつぶされているみたいよ。」そう言って光は、水を見る。
「そうなのかしらねえ。」
「まあ、いいじゃないか。とりあえず見守ることにしているよ。」
「それなら俺もそうするわ。」
「そうね、監視役も変わって私は気楽になったし。」
「やっぱりそういう事になったのね。」頭を抱えるカンウいや水
「そういうことか。」
「そういうことさ、おお、明日の主役のヒロインが来たよ」
「あ、どうも」ミカが入ってきた。
「お姉ちゃんがいなくて、寂しくなったのかい?」
「いえそういう訳ではありませんが、」
「本当に金は、もう」
「なんでだよ、本当ならミカちゃんを置いてひとりで飲みに出てきた水を責めるべきではないのかい」
「カンウ様を迎えに来ただけです」
「ああ、そうね。モーラ行くわよ。」
「どこにいくんじゃ」
「言ってなかったっけ、この後朝まで禊ぎよ。」
「そんな話聞いておらんぞ」
「ああ、そうだったわね、長老連から直前に話せと言われていたんだったわ。それくらいの意地悪は許すと言ってね。」
「水の、お前は、」
「お風呂大好きなあなたにはつらいでしょうねえ」
「お主だって一緒に風呂に入って・・・ああまだだったか」
「そうよ、先に憶えてしまうと土と同じになってしまうからやめておいたのよ。さ、行きましょうか」
「くそおおおおおお」
「お風呂ってなんだい」光が言った。
「ああ、私もまだ入っていないけど、水浴びの上位互換ね。」
「水浴びがあんなに嫌がるくらいに良いものなの?」
「そう思うならモーラの住んでいる家に行って一度入るといいみたいよ。二度とやめられなくなるって」
「そうなのか」
「おもしろそうだね」
「まあ、例の観察者とは、あまり親しくならない方がいいと思うよ」
「そうね、今のところは、危険だわ」
 そうして、水垢離をさせられているモーラです。もちろんドラゴンに戻ってさせられているのですが、かなりきつかったようです。

「幼名ミカxxよ真名○○を名乗るが良い。」
「真祖○○よつつしんで拝命いたします。」

「これは、ドラゴンの里で行われていることがここで見られているのですか。」ユーリが驚いている。
「はい、先日、あの壺の件でカンウさんが使っていた魔法です。長時間持つように専用の水をモーラの来ていた服にしみこませました。」
「ご主人様、さすがです。」
「ほら、カンウさんも映っていますよ」それを見て抱きつこうとするキャロルしかし、その手は空を切る。
「って、なんでみんな人型なんですか。ドラゴンの儀式ですよ」アンジーが画面に向かって突っ込む。
「その辺は後で聞きましょう。まあ、ドラゴンでいると場所を取るから儀式に不都合なんじゃないですかね。」
「それって、人の真似をしているという事ではないんですか?」
「何度か滅びている人類の真似をしているというのもどうかと思いますがね」
「あ、よく聞き取れませんね」
「さすがにばれたんじゃない?」
「そうみたいですが、もしかしてカンウさんがわかっていて見せてくれているのかもしれませんね。」
「あ、消えた。」
「ここまでですか。」

「どうした。」
「あ、ええ、あの子達が見られるのはここまでにするわ。」
「ほう、どうやって見ていたのかな」
「くやしいけど、私の遠見の魔法を憶えていたみたいよ」
「さすがは観察者じゃのう。」
「まったく。見つけていたから真名も聞かれずに済んだけど、聞かれていたら全員殺されているのにね。」
「まったくじゃ。じゃあ細工をしてわざと見せていたと。やるな」
「私の魔法ですからね、そこだけ聞こえないようにしていたわよ。」
「さすが水の○○様じゃ」
「もう、そういうときだけじゃない。土の○○さん」
「もうその名前で呼ばれてもピンと来ないのう」
「私もよ。慣れって恐いわね。」
「まったくじゃ」
「ごほん」
「ああ、長老の長い話か、別にいいじゃろう」


「ただいま」
「お帰りなさいヒメツキさんモーラ」
「さんはいらないわよ」言いながら、ヒメツキさんは、抱きついてきたキャロルを抱き上げる。
「良い子にしていた?」うなずくキャロル


そして、何事もなく時は過ぎる。
数ヶ月の暮らしの中でキャロルは魔法の技術をより高みへと伸ばしていく。竜の子ミカ(幼名をそのまま使っている。)と競うように。
「本当に属性がわかりませんねえ。」
「ああ、本当にな。なんでもそこそこ使えるな。」
「マルチタイプですね。ただ、問題は、ひとつだけありますね。」
「ああ、複合技が出せないのう。」
「ええ、右手に炎、左手に氷とかができないみたいです。あまり器用ではないですね。」
「ああ、しかも単体でも威力がない。」
「魔力量がけっこう多いのですがねえ」
「やはり、最初に起こした何かで、同時に違う魔法を使ったり、そもそも魔法を使うことをためらっているな。これは、克服するまで難しいかもしれないな」
「そうですねえ、無理しなくても生活に影響が出ないんですからかまわないでしょう。」
「ああ」

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