巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第8話 旅立ち

第8-1話 街を出ました

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○ 旅立ち
 
 今日は、ヒメツキさんもミカさんももうこの家にはいません。キャロルは領主様のところにメイド見習いで住み込んでいます。
 これまで、いろいろと準備をしてきました。馬車を大きくして、馬も買い戻し、薬屋への薬草の納品も少し減らして、次の場所に持って行く分の薬草を貯めています。
「そろそも準備も整いますので、次の街に行きますか。」
「いつ言い出してくるのかと思っていたけど。いつ出発するの?」
「後は皆さんのタイミングだけです。」
「わしは、ここに居すぎたとさえ思っておるでなあ。まあ、いろいろとあったので名残りは惜しいが、いつでもよいぞ。」
「アンジー」
「もともと私のお願いから来ているのだから問題ないわよ。でもねえ、ここの街のご飯はどこもおいしかったからそれだけは心残りね」
「私もこの街の日用品は、なじんでいましたのでなかなかに捨てがたいと思いますよ。」
「僕も長居することになった時には、どうかなと思っていましたけど、今ではちょっと寂しいです。でも、違う街も見てみたいと思っています。」
「あとは、エルフィですね。」下を向いたまま肩をふるわせています。
「あーあーもう、泣いてしまったのね」アンジーがそばにいって頭をなでています。
「どうしますか?残ってここで冒険者をやってもいいんですよ?」
「行きます。私だけ残ってもそれはそれで寂しいと思うので。ご飯作れないし。」
「お酒ばかりじゃ体壊しますしね。」
「そう、でももう少しだけ待ってもらっても良いですか。」
「どのくらいですか」
「私が酒場のみんなに自分の口から言えるまで待ってもらえませんか。」
「いつまで?」アンジーが冷たく言った。
「え?えっとそのー。」
「言うだけなら1週間ね。」
「そんなに短いんですか。」
「あなたねえ!」
「まあ、アンジーがいつものように悪役をかってくれているがのう。これまで、旅の準備を進めてきているのを見ているじゃ、お主も薄々わかっていただろう。なあ。せっかくできた友達と離れたくない気持ちもわかる。だがどちらかを手放さねばならないことは最初からわかっていたはずじゃ。もちろんここに残ってもいいのじゃ。両方とも手に入れるというのは無理な話なんじゃ。」
「お主にとってこの街は、わしらとあの家で出会い、ともに難題を解決し暮らしてきた良い街じゃ。難題については、後半はむしろお主のアドバイスで解決していったと言っても過言ではない。じゃから、この街に対する愛着もまたひとしおじゃろう。メアもユーリも同じ時期に一緒になってはいる。それぞれが事情を持って一緒に暮らしていた。家族は永遠、ここでお主が離れて暮らしたとしてもそれは、別にかまわぬ。いつかは一緒に暮らせる。」
「モーラは、私をここに残そうとしているんですか」エルフィがそう尋ねる。
「いや、そうではないのか?ここに残りたいのではないのか」
「違うんです。実は、冒険者さん達や居酒屋の飲み友達に旅に出るのを言い出してみんなに騒がれるのが恥ずかしいのです。」
「なんじゃそりゃあ。」
「はあ、怒って損した。」アンジーがため息をついている。
「それは、自分からみんなに旅に出ると話すのが恥ずかしいと言う事ですね。」
「は、はい~」
「だったら黙って居なくなれば良いであろう。」
「それは、なんか裏切ったようで、違いますよ・・・うん」エルフィは、うなずいている。
「旅をするのはかまわないと」
「はい」
「みんなに言うのは恥ずかしいと」
「はい」
「それで待ってくれと」
「はい、少しだけ時間をください」
「待てません」
「だってきっとみんなで送別会とかしてくれちゃうんですよ。そうしたらわたし泣いちゃうじゃないですか。恥ずかしいです。」
「あーーーーそういうこと?」
「別に泣いたって良いでしょう」
「だって、つらいじゃないですか。」
「みんなに笑って送られたいのですかねえ。」
「もうどうしていいかわからないんですーーーー」エルフィは、そう言って飛び出して行ってしまった。
「心の中がごちゃごちゃだのう。」
「今までこういう経験がないのでしょうねえ。」
「ああ、そういうことか。」
「これまで、友達いなかったんですねえ。」
「里を出てくる時も、出て行けみたいな感じだったと話していましたしね。」
「寂しがり屋ですからねえ」
「さて、そろそろ行ってきますよ」私は、席を立って玄関に向かう。
「ああ、頼んだぞ旦那様、あやつのおるところは・・・」
「ええ、厩舎です。」
 もっとも馬はいません。たまに馬車をひくのにこちらに来て休憩するくらいです。あとは、薬草の保管庫として使ったりもしています。
 星の明かりが厩舎の中に差し込み、人影が見える。壁にもたれ座っている。
「おや泣いているかと思えば、もう大丈夫ですか」私は、そう言いながら隣に座る。
「みんなの前でね~泣いちゃうとね~すっきりするの~」照れ笑いですか可愛いですね。
「じゃあもう決めたのですか。」
「明日ね、街に行ってきます。」
「一緒に行きましょうか?」
「大丈夫~。絶対泣かないから~。」また、えへへと笑う。
「そうですか、でも挨拶に伺いたいところがありますので、一緒に行きましょう。」
「わーいデートだ。」
「さあ、部屋に戻りましょう。」
「もう少しこうしてていい?」そう言って立ち上がらせようとした私の腕を引っ張り、座らせた。
「いいですよ」そうして、ただぼーっとしている。私もそのまま黙って隣にいました。
 エルフィは、そのまま寝てしまったので、私が抱きかかえて家に戻りました。

 そして翌日。私は居酒屋にエルフィを置いて先に戻り、メアさんが迎えに行き、連れ戻してくれました。きっと私ではダメだったのでしょう。帰ってきて、アンジーからどうだったか聞かれましたが、
「んー酔っ払っていたから憶えていな~い」と笑って言っていました。
 後で聞いた話では、泣かないはずもなく。女将さんの胸でわんわん泣いていたそうです。
 まあ、みんな予想していたことでしょうが、それは内緒にしておくことですねえ。


○ 魔法使いさん
 エリスさんのところに最後の薬を納品に行き、これまでの代金を精算しました。
「どうもお世話になりました。」
「過去形ですか?これからもよろしくお願いしたいのですけど。」
「もちろんです。それでも魔法使いさん達からの要望は減ってきているんですよねえ。」
「あなた甘いわね。逆よ。少しずつ増えているのよ。」
「ええ、そうなんですか?一回りしたらおさまるはずじゃあ。」
「それがねえ、噂が噂を呼んで宮廷魔法士さん達も欲しいそうよ。」
「もう、勘弁してください。」
「そちらに渡さなくなると、一般市民から奪う可能性もあってね、難しいのよ。」
「そんな広範囲に配りたくありませんよ。生産が間に合いません。」
「そうなのよ、うちの街だけでもすでに一杯一杯なのにねえ。いろいろな圧力がかかるなんて、私もはじめてなものでちょっと愚痴を言いたいくらいよ。」
「申し訳ないのですが、しばらくは、旅をしていますので、これまでの量も作れる保証はまったくありませんけど大丈夫ですか?」
「ああ、それはね、だいぶ売り先を絞っているからしばらくは大丈夫よ。それでも在庫が無くなる前に連絡するからその時はよろしくね。」
「ありがとうございます。」
「ところで、最近納入してくれた薬草なんだけど、この乾燥期に以前より納期が短縮していて、さらに効能があがっているのは、どういう理由なの?」
「はあ、薬効について、私は何も改良を加えていませんが・・・ああ、そういえば水を変えましたね。」
「どんな?」
「乾燥期なので、水の確保が難しくて、ある人に水を融通してもらったのですが、もしかしたらそれが影響しているのかもしれません。」
「なるほど、この辺の水ではないのね。」
「はい、少し違うと思います。」
 本当はこの辺の水ではあるのですが、蒔く人が特殊なので、と言ったらバレバレですし、そもそも私にも原因がわかりません。
「水を分けてくれた人って、それって、あの方でしょう?」
「ご想像にお任せします。」
「まったく、謎が多い薬なので、いろいろ聞かれているわ。もちろん答えられないけどね。あと、製作者に会わせろ、がいちばんやっかいね。もちろんお断りしているけど結構しつこいのよ。まあ、これは、他の薬草販売業者からだったので、いつの間にか言わなくなってきたんだけど。こういう話は噂になってしまうから気をつけてね。」
「最近、小分けで持ってきて欲しいというのはそういうことだったんですね。」
「そうよ、それでも領主様もあの商人さんも露天商の元締めの人だって、あなたの薬だとは、決して漏らしていないのよね、普通は噂が流れるのにね、あなた達、あの人達から信頼が厚いのね。もしかして、脅しているの?」
「そんなことはしていませんよ。断言できます。」
「まあ、自分たちの所から情報が漏れたと露見すれば、自分の所に薬が回ってこなくなると考えたら黙ってしまうかもしれないわね。私も欲しいと言われれば、念を押して渡しているからかもしれないわね。」
「適切な対応ありがとうございます。もしかしたら、私たちがいなくなってしまったらばれますかねえ。」
「そうかもしれないわね。でも、その辺は大丈夫じゃない?少しずつでもこの街に販売されていれば。」
「何から何までご迷惑をおかけしていますねえ。」
「いいのよ。本当に儲かっているから。ああ、値段は変えていないのよ。そこはね、良心的な値段で売っているわよ。安心して。それとあの製造ナンバーという考えがなかったら管理できなかったかもしれないわ。ありがとうね。」
「あれは、苦情があったときにいつ作った物かわかるためにつけていたのですが、変なことに役立ってしまいましたねえ。」
「最初に聞いたときは、なにを面倒なことをと思っていたのですけど、役に立つわねあれ。他の薬にも使っているわ」
「それは、役に立って良かったです。」
「そうね、では連絡方法だけど。行き先の街にいる魔法使いに会ってくれれば良いわ。」
「わかりました。そうします。」
そうして、エリスさんとは、別れの挨拶ができました。

○ 領主さん
「どうもお久しぶりです。」
「ええ、何か問題でもありましたか?」
「そろそろここを出て旅をしようかと思います。」
「ついにその時が来てしまいましたか。それは残念です。」
「いろいろ良くしていただいたのにその恩も返せないままで申し訳ないのですが、」
「いいえ、あの王国での件では、こちらこそ力不足でご迷惑をおかけしましたし、その後の大規模な魔族の襲来にも最前線で戦っていただきました。こちらが恩を感じることはあってもそちらが感じることではありませんよ。」
「そうではありません。最初にこの街に来たときから、なにくれとなく私たちを気にかけていただいていたことは、私の家族からもいろいろ聞いております。たまたま、大きな事件があり、私たちが微力ながらお力をお貸しできたのは、まずもって領主様が温かく迎えてくれたおかげです。本当にありがとうございました。」
「そう言われるとむずがゆくなりますが、それにしてももう少しいらっしゃるかと思いましたが、どうしたのですか?」
「最初にこの街に来たときに話しましたとおり。最初からこんなに滞在するつもりは無かったのです。色々事件があったり、家族が増えたりしまして、薬草を作ることもなかなかままならない期間もありました。例の件で冒険者の資格が取れたことでかなり生活資金がまかなえまして、薬の販売の分で十分旅費をためることができました。そういう意味でも感謝しております。」
「その件もですね、冒険者になっていただいてから野獣の討伐率があがり、盗賊の出現率も下がりまして、あなたのいた町への流通ルート以外にもいろいろなところへ安心して通行できるようになったのです。こちらとしては、もっと早く冒険者に登録しておかなかったことを後悔していたぐらいなんですよ。」
「ありがとうございます。ですので、当初の目的である人捜しをしようと思います。」
「そうでしたね、人捜しの旅でしたね。次はどちらに行かれるのですか?」
「最初は、娘が方角を示していましたが、今はその力もほとんどなくおぼろげです。ですが、最初に示した方角に向かって進もうと思います。」
「それは、」
「北です。」
「それではあの王国に?」
「いえ、その横を迂回しようと思います。」
「そうですか、あの国の周辺は、あの国に滅ぼされ、いえ、無理矢理統合されていますので、今でもあまり治安がよろしくないのです。」
「そうですか。気をつけます。」
「旅の無事を祈っております。」
「ありがとうございます。」


○ルート設定
「北上するルートは決めたのか?」モーラが私に尋ねる。
「あの国の城塞都市を通るわけには行きませんので、その国の魔族との国境線にあたる外れの都市を通ろうかと思います。関所があるわけではありませんので、脇を抜けて通過したいと思います。」
「ふむ確かに最短距離ではあの国を通らねばならぬからなあ、しようがなかろう。さて、ルートが決まったのなら、ちょっと連絡を取るかな。」
「どこにですか?」
「あそこはなあ、草木のドラゴンの末裔の者が縄張りにしておるらしいのでな、事前に通行することを断っておこうと思ってなあ。」
「ヒメツキさんを通してですか?」
「そうなるか、風の奴はどこをさまよっているやらわからんからな。」
「では、お食事会にしますか。」
「おお、そうであったな。」
「ついでに風の方にもお世話になりましたので、お呼びしてはどうでしょうか、それともヒメツキさんとは仲が悪いのでしょうか?」
「はて、そんな話は聞かないが。まあ、あいつに聞いてみようか。」
「ええ、せっかくですから。ここの旅立ち記念なので」
「そういうことか。」
「はい。」

○ 団長さん
「そうですか、旅立たれますか。どちらに行かれるのですか」
「例の国を避けて遠回りしながら北に向かいます。」
「では、あの土地を通られるのですね。」
「はい、何かありますか?」
「やはりあそこを通ることになるのですか。でしたらそれは運命なのでしょう。ユリアンの様子に気をつけてください。」
「どういうことですか?あ?あの紋章と関係が?」
「はい、さすがに顔は知られていないとは思いますが、お気をつけください。」
「はい。」

○お別れ会
 会と言っても質素なものです・・・・と言いたかったのですが、なにやら結構な人数になりました。というより居酒屋でやることになりました。ええ、領主様と商人さんのはからいで。
「それでは、アンジー様御一行の旅の安全を祈願してカンパーイ」すっかり大人気なアンジーさんです。
「そういえばアンジー教の信徒はどうしていますか。」
「参加していますよ、ほら、あの隅の方で。アンジー様が声を掛けに行っています。」
「おや、アンジーが声を掛けていますね。めずらしいですねえ。」
「丁寧に頭を下げていますねえ。かえって信徒さんがあわてています。」
「おや、ひとりずつと握手をしていますね。信徒さん達が感激で泣いてしまいましたよ。何を言ったのですかねえ」

「モーラ飲み過ぎないでくださいね。」
「ヒメツキさん何とかしてください。」
「まあ、昔から酒癖はわるかったのよねえ。暴れると手がつけられないのよ。今日はまだましなほうね。」
「だから止めてください。」
「はいはい、とうっ」頸動脈にチョップをいれる。一瞬で静かになる。」
「これで、しばらくはおとなしくなるわね。」
「ユーリは・・・女の子達から囲まれていますねえ。その周りを男の子達がうらやましげに見守っています。」
「あの冷淡な対応がまたいいのでしょうか。その女の子達が逐一私を見て睨むのだけは勘弁して欲しいですねえ。」
「ミカさんもモテてますねえ。キャロルは、逃げ回っていますが。」
「それぞれ年齢層が違いますねえ。興味深いです。」
「はっわしはなにを」モーラが飛び起きました。
「ああ、アルコールも抜けましたか。大丈夫ですか?」
「なんじゃお主ひとり黄昏れておるなあ。」
「みんなそれぞれこの街になじんでいたのですねえ。」
「お主はあまり溶け込まなかったようじゃなあ。」
「その機会がありませんでしたねえ。」
「誰かと一緒に街に出ていたからのう。自分ひとりの時間はなかったか。」
「それでも、行きつけの店はできていたんですよ。」
「その店の者は来ておらんのか。」
「ええ、人見知りなので、こういう場にはなかなか、なのでこちらから出向くと言っておいたのです。」
「店をやっているのに人見知りとは、」
「それは秘密です。ちょっと行ってきますね。」
「早く戻れよ。」
 そして私は、宴会会場の居酒屋を出ます。そして、薬屋さんのある薄暗い路地の方に向かう。そして、いつもは壁しか無いその場所に扉がほのかな光を出している。
その店の扉を開く。暗い店内の奥のカウンターにだけほのかな薄明かりが見える。店長はそこにすわってグラスを磨いている。
 私は、それを確認すると、いつも座っている一番奥の席にすわる。
「いつものを一杯」
「・・・・」
 何も言わずコーヒーカップに入った黒い液体が出される。入れ立てのような良い匂いがする。私は両手でカップをもてあそびながら、少しずつその液体を飲む。
「行くのか」店の主人であろうその男は、私も見ずにグラスを磨きながらそう言いました。
「はい明後日出発します。」
「そうか」
「また来ますよ」
「ああ、たぶん会える。どこにいてもな」
「そうですね。必ず来ます。」
「ふふ、本当に来られるのかな」
「それではまた」
「ああ、良い旅を」
「あなたも」
 そう言って私はその店から外に出る。振り返るとそこにあったはずの店と扉は消え、壁だけがある。
『お主どこにいる。』
『ああ、路地裏にいますよ。』
『連絡が取れなくて心配したぞ。大丈夫なのか』
『通信障害がたまにありますねえ。』
『まあ、何も無くて安心した。しばらく帰ってこないからみんなが心配してな、探し始めるところだったぞ。』
『すいませんでした。』頭の中で会話しながら歩いているとモーラが走ってきました。
「ああ、ここですよ」
「まったく、不安になるではないか」私の手を握り引っ張って歩き始める。随分と早足だ。
「すいません。知り合いに会っていました。別れを告げに。」
「そうか、それはすまなかった。でも連絡が取れるようにしておいてくれ。心配になるだろう。」
「そうですね、ちょうど別れた後でしたので。」
「宴会も終わりそうなのにお主がいなくて終わらないぞ。早く来い。」

「エルフィ、ここに残っても良いのですよ」
「どうしてそんなにここに残したがるんですか。邪魔ですか?」
「ではどうして泣いているんですか。」
「うれしいんです。みんなから励まされ旅立ちを祝ってくれてこんなにも私を気にしてくれている人がいる。それがうれしかったんです。自分がこの街で暮らしてきたことが無駄じゃ無かったって思えるんです。生きてきてこれだけ、みなさんにありがとうと言われたことも元気でまた会おうと言われたことも無いんです。うれしくて。別れはもちろんつらいですけど。でも、うれしいんです」
 そう言ってテーブルで寝てしまうエルフィ、誰かが頭をなでる。いつもなら反射的に手を払うのに今回はそれがない。我も我もと一言声を掛けてあたまをなでる。一段落したところで私がかついで帰ることに。道すがら。
「さっきは起きていたのでしょう。」
「はい。うれしくて涙があふれて止まらなかったです。」
「良い街ですねえ。」
「はい」
 そうして、宴会場でみなさんから送り出されて家に戻りました。
 家の解体はしなくて良いと大家さんから言われたので、持って行けるわけもありませんので、テーブルやベッドなどもそのままにして行くことにしました。そのことでむしろお金をもらってしまいました。もちろんお風呂は壊しましたが。

 最後にカンウさん達とちょっとしんみりしたお食事会になりました。残念ながら風さんはこられませんでした。
「ミカ、お主はもう縄張りが決まったのか。」
「はい、前から空白になっていた山になりました。」
「そうか、住処は作ったのか?」
「はい、ドラゴンが住むには十分な洞窟が見つかりまして、ちょうど地下水が洞窟に流れていました。環境としては十分です。」
「そうか、それはよかった。」
「本当はもう少しここに暮らしたかったんですが。」
「どうせ、里のうるさがたが早く住処を見つけろとか言ったんじゃろう?早く里から出た方がいいぞ。あいつらの文句に付き合うくらいならなあ」
「あら、言われたら即いなくなった人の言葉は説得力があるわね。」カンウさんがそう言った。
「なんでこう、年寄りは人のやることにいちいち口を出すんじゃろうなあ。」
「暇なのよ。それに、里もしばらくは大丈夫でしょうから。」
「しばらくはって、火が動いているのか。」
「水面下でちょろちょろとね。だから私たちには直接の被害が及ばないと。でも、長老達はそれを調べろとかうるさいのよ。」
「キャロルはどうですか?何かひどいことをされたりしていませんか。」
「はい大丈夫です。」しっかりとした目で私達を見てそう言った。
「キャロルは、素直で、正直です。言われたことをそのままするところがあります。でも、悪意に対しても素直なので大丈夫かと思っていましたが、大丈夫そうですねえ。」
「あそこのメイド達は非常に良い人ばかりでなあ。わしもかわいがってもらっておったから大丈夫じゃ。」
「しつけの厳しいメイド長さんもさりげなくフォローしてくれていますよ。」一緒に行っていたアンジーが付け加える。
「孫みたいなものだしなあ。」
「今時、このくらいの子がメイドに雇われることはそうそう無いですからね。」
「なんかあったら助けを求めろよ。エリスにな」

 翌々日、皆さんに見送られて、その街を後にしました。
 元気よく手を振るエルフィ。見えなくなる頃には、涙で顔はくしゃくしゃになっていましたが、元気よく手を振り続けました。
「さあ、旅の始まりです。皆さん覚悟は良いですか。」
「覚悟といってものう」
「まあ、乗り心地だけよねえ。」とアンジー
「それでも、普通の馬車よりは格段に乗り心地は良いですよ。」とユーリ
「それはそうですよ。本来の単なる鉄製の車軸ではなくて、センター部分で分割して、四輪独立懸架にしてありますからねえ。見た目はわかりませんが、ショックアブソーバーにエアサスを使っていますから。」と私は胸を張って言います。
「メア、今の話を理解できたか」とモーラ
「いえ、わかりませんでした。しかし、この乗り心地は確かに違います。ほとんど横揺れがありませんね」メアさんナイスフォローです。いつもありがとうございます。
「直接突き上げがないとかどういうしくみじゃ。ああ、いい、説明せんでいい。余計わからなくなる。」
「まあ、この世界にあってはならない技術ですからね。簡単に言うと空気と金属のバネで衝撃を緩和しているのよ。」アンジーが説明している。いや確かにわかりやすいです。
「そのとおりです。さすがアンジー」
「技術バカに説明を求めるのが間違いか」
「こういう人って、説明したがりますよね~」
「でも、あるじ様は本当にすごいです。」
「褒められるともっと色々したくなりますねえ。」
「それ以上しなくていいですからね」
 アンジーがちょっと怒っています。まあ、調子に乗ると悪ふざけし始めますから私は。
 急ぐ旅ではありません。でも、馬たちは気合いが入っています。旅の主役は自分たちだとばかりに頑張ろうとしています。
「馬の名前が「あ」と「うん」ですか。どうしてその名前になったのでしょうか。」メアさんが私に尋ねます。
「あるじ様の国の文字なら「あ」の次は「い」ではなかったですか?」ユーリよく覚えていましたね。
「そうじゃな、最初の馬の名付けの時は、最初の文字にすると言っておったから、普通は次の文字にするものだと思ったが、違うのか。」モーラも首をかしげている。
「最初は「い」にしようかと思ったのですが、どうも「い」では、呼ぶときの語感が悪いので、少し考えまして。」
「「う」って3番目の文字ですよね。1文字飛ばしたんですか?」
「実は、阿吽の呼吸という言葉がありまして、息がぴったりと言う意味なのです。」
「ほう」
「そして、「阿」と「吽」と言う、それぞれが神を守護すると言われている想像上の人物の名前で実際に像として残っているのです。」そして私は、その像をイメージする。
「なるほど、そう言うことか。もっともわしらは、馬に守護される必要は無いからなあ、馬たちには、荷物を守護してもらおうかのう。」
「ああ、そういう風に考えればいいのですねえ。」
「だってよ~、よろしくね~阿と吽~」手綱を取るエルフィが馬たちに声をかける。なぜか、馬たちが声をそろえていなないたのです。
「驚いた。私達の話していることが理解できたみたいね」アンジーが驚いている。
「いい馬たちですねえ」
「そうじゃのう」
 そして、馬車のスピードが少しだけ速くなった。
「あ~、急いじゃだめだってば~」


○私の妄想
 私は、たまにくだらないことを想像している。ええ、本当にくだらないことを。
「今、マジシャンズセブンとか思いつきましたね。これ以上仲間を増やすとかありえませんから。」アンジーがつぶやく。
「あら、ばれましたか。ちょっと頭を横切りましたね。7人なら私を除いて2人ずつ組にできるなあと。」
「まったく、何を不謹慎なことを考えているんですか。今のところ私は戦力外ですし、メアとモーラとエルフィとユーリの4人で2組ですよね、ちょうど良いですよね。それをどうしてあと2人も増やすとか考えますかねえ。そんなことをしたら・・・まあ、目立ちすぎますよ。」
「まあ、確かに奴隷商人の面目躍如ですけど、モーラは、手を出せないですし、アンジーは、戦ったら光になって死んでしまうかもしれませんし、実際のところ3人なんですよ、ですからねえ。何とかもう2人くらい欲しいかなと思ったのですが、確かに目立ちすぎますよねえ。」
「そうです。多すぎます。そんなこと考えないでください。」
「まあ、そんなことにはなりませんねえ。」
「意外に増えるかも知れませんよ~」エルフィが微笑みながら言った。ああ、予言するときの顔ですねえ。
 本当になるとは思っていませんでしたけれど。

  続く
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