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第8話 旅立ち
第8-4話 しばしの別れ
しおりを挟む「ありがとうございます。」
「いえ、今回のは、たまたま相手が私と戦いたかっただけなんですよ、だから感謝することはないのです。」
「いえ、本当にありがとうございます。しかい、なぜ、私を助けたのですか。そんなになってまで。」
「それは、まあ、なんとなく、しいていえばなりゆきですね。」
「わかりません。その考え方、私にはわかりません。」
「私にとっては一緒に旅をしている以上、仲間とかでは無く、家族なんですよ。」
「家族・・・ですか」
「そうなのよ、この人、本当にバカだから。一度家族と認識するととことん世話を焼き始めたり、面倒見たり責任まで感じ始めるから。深入りしないように気をつけないと」
「そうなんですよ~、気をつけないといつの間にか隷属したくなってしまいます~。」エルフィ、あなたはそれを言ってはいけませんよ。というか、いつの間にか隷属した人なんてこの中にはいませんよね。
「なにを言っているのですか。私は一度も強制していませんよ。そもそもアンジーとかモーラとかメアさんなんてハプニングですし、ユーリは、まあ、そうですけど、エルフィなんて私をだまして隷属しましたよねえ。」
「はいはいそうですね、いつの間にか隷属させていますよね。」
「とほほ、なんか悪者です。」
「そうなのですか、でも、解除してあげればいいのではないですか。」
「もちろん、自分で解除できるようにしてありますよ。」
「そうなのですか?ならなぜ?」
「それは、まあ、わしらにも都合があってなあ。隷属していた方が楽じゃし、便利なのじゃよ。」
「あと、誘拐されてもすぐ見つけてもらえるし、変な催眠をかけられても大丈夫なのです。アンジーさんが言っていました。これは、保護者機能だと。」一度も催眠なんてかけられたことなんてないですよね。
「もちろん僕は、あるじ様にお願いして忠誠を誓い隷属しています。」そこで無い胸を張りますかユーリ。おっと誰か来たようだ。ユーリが一瞬で私の後ろに回ってぽかぽか背中をたたきますか。やりますねユーリ。
「そうですか、あなた達の関係がよくわかりました。」
「そうですか?まだ片鱗しか見せていませんよ。」
「そうかもしれません、でも私は初めてのこの感情がどういうものなのかようやくわかったような気がします。」
「はあ。」
「実は私は間者でございます。」
「おや、ずいぶん早くデレたのう。」
「はやすぎですよまったく。」
「あのー。モーラさんの言っている意味がわかりませんが。」
「みんな薄々感じていたのよ、怪しいって」
「でもね、この人はバカだから、きっと一番感じていたのに、何か事情があると思って黙っていたのよ」
「間者なのはわかりました。いったい誰の間者ですか?」
「ドワーフ一族のです。」
「私をスパイしても何も出ませんよ。」
「はい、そうなんです。それは、出会ってからこれまでの魔族との戦いでよくわかりました。勇者では無いと。」
「まああれじゃな、噂で変な転生者が、優秀な者を次々と隷属して実績を上げている。この者達が真の勇者か調べてこいというところか。」
「はい、そのとおりです。」
「さらに懇ろになって何かあったときにドワーフ一族を守らせようというところか」
「さすがドラゴン様、すべてお見通しですね」
「わしでなくてもそのくらいみんなわかるわ。」
「さしでがましい口をききました。」
「どうして間者であることを打ち明けたのでしょうか。」
「それは、私が、私の心が苦しくなったからです。」
「あなたさまのその懐の広いお考え、慈愛に満ちた行い。どれをとっても勇者の資質でございます。ですが、」
「ですが?」
「ですが、その無欲さ、そしてゆるぎない家族愛に勇者では無いと感じました。」
「そうですね、勇者では無いというところは、そのとおりです。」
「実は、私も間者に出されるくらいには、日陰者でございます。とうにドワーフの一族とは疎遠な者であります。もちろん未練が無いわけではありませんが、たったこの数日あなた様とともにすごしてみて、あなた様とともにいたいと思う方が大きくなってしまいました。」
『あちゃー』アンジー、心の声がダダ漏れですよ。
「はあ、間者としては失格ですね。」
「はい、そうです。」
「そうですねえ、とりあえず間者をしていることがばれたことを一族に連絡してくれませんか。」
「はい、」
「そして、あなたの処遇は、生かすも殺すも私の意志次第、殺されてしまうかもしれないので、助けて欲しいとそう言ってほしいのです。」
「説得力が欲しいのう」モーラがニヤニヤ笑っている。
「はあ、そうですね」アンジーがため息を深くついた。まあ、2人の思っていることはわかる。みんなもうすうす気付いてうなずいている。
「なにをされるのですか。」
「なーに簡単じゃ、わしらの前でおぬしの真名を言い、こやつに従いますと言えばよい。」
「はぁぁぁぁ。そうですねーーーーー」アンジー露骨に嫌そうな声を出さないでください。
「そんなことで良いのですか。」
「ちょっと待ってください。いいですか、さきほど聞いたように、これまでこの人達は、そうやって」アンジーがいつになく真剣な顔で声を荒げる。
「あなた様に隷属していると。」
「わかっていてそれを言いますか。あのですね、隷属の意味を軽々しく捉えていませんか。私たちはこうやってのほほんとしていますが、この人が、死ねと命じれば、迷うこと無く従うんですよ。自分の意志にかかわらず。もちろん死ねと言われなくても、何か恥ずかしいことをしろとか命令されたら従わざるをえないんですよ。隷属というのは・・・」
「はい、理解しております。ですからむしろ願ったり叶ったりです。私は、これまでもこれからも何もありませんので。むしろ、そのような形でつくせるのであれば願ったり叶ったりです。」
「もう、これだけ言ってもわかりませんか。隷属までしなくても、この人なら何とかしてくれるかもしれないのですよ。」
「それは、私が望んでいることで、一族と袂を分かつために必要なけじめなのです。はい。」
「あああ、もう」
「アンジーもうよいか?」
「どうしてこの人にはこういうバカばかり集まってきますかね。この際だから言っておきますけど、皆さんわかっていますか。このバカが死んだらどうするんですか?」
「ああ、その話はすでにしておるじゃろう。」
「あの時は、他の世界に帰る前提でしたよ。でもね、ここまで来てしまったら。魔族からも目をつけられてしまったら。いつ死んでもおかしくないんですよ。」
「魔族にこだわるのう。」
「こだわっているわけではありませんけど」
「アンジー様のおっしゃりたいこともわかります。ですが、私のこの気持ちは、変わることはありません」アンジーがため息をつく。
「特技は皆様のようにありません、雄一誇れるとすれば、私はドワーフ一族の里の中で最強です。ですから、多少なりともお手伝いできることもあると。末席に加えてください。お願いします。」
「ちょっとまってドワーフ最強って言いましたか。」
「はい、言いました。」
「お、お、お、女の子ですよね。」
「はい、」
「ほかに屈強な男の人もいますよね、」
「はい、体格のいい者はたくさんいます。」
「なのに最強?」
「はい、残念ながらここ数十年私に勝てる者はいません。」
「これだからドワーフは、」
「どういうことですか?」
「ドワーフは、外見を変えられます。つまり」
「はい、今は服が破けるのがいやなので、さすがにしませんが、体格は倍以上になります。」
「なるほど。そういうことですか。」
「ぼ、僕の立場が危うい。」ユーリの顔に縦線が入った。
「いえ、聞けば魔法剣士であらせられるとか。私は体力バカなのです。魔法耐性はあるものの、魔法行使力・魔力量がありません。ですので、物理的には最強でも魔法戦闘においては魔法耐性を活用して盾になるくらいしかないのです。」
『タンカーきたー』いや、アンジーその叫びはおかしいでしょう。どこのネトゲーですか
「追われていたときに見せた素早さは?」
「あれは、この体の時には、速さに配分しているだけです。体格を変化させるとそのぶん筋力がそちらに振り分けられて体が大きくなり速度は遅くなります。」
「なるほど。モーラさん魔力量を測ってください。」
「うむ、ちょっとおでこをくっつけようか。」
「はい」
「なるほど、こやつも特化型じゃな。魔力の流れによって筋肉や骨変形を行うが、そもそもの魔力量はさすがに少ないのう。まあ、近距離での通話くらいは、ぬしをバイパスすれば可能じゃがな。ユーリ大丈夫じゃ、ぬしの剣技と魔力量・魔法力なら引けを取らぬわ。むしろ、互いに戦えば、練習にもなるし、戦いの幅も広がるし、二人で組めば物理最強じゃな。」
「よ、よかったー」無い胸をなで下ろすユーリ。あ、睨まれた。聞かれていましたか。
「あるじ様嫌い」横を向かれてしまいました。とほほ
「何を言っているのですか?」さすがに頭の中で会話しているのでわかるわけはないですね。
「まあ、その辺はおいおいな。さて、お主、覚悟は決まったか?」モーラはなぜかアンジーを見る。
「いいですか、これ以上の戦力強化は、目立ちすぎるんですよ。」
「わしらが黙っていればわかるまい。あと、騒動をおこさなければもあるがな」
「そうなんですけど。」
「アンジー様、お嫌でしょうか。」
「そうじゃない、そうじゃないのよ。もう、わかりました。わかりました。」
「アンジー様が懸念しているのは、たぶん勇者として見られてしまうと言う事ですよね。」メアが助け船を出す。
「そうです。噂では、私が探している人も、もしかしたら勇者の中にいるかもしれないのです、年齢的にはまだ無理でしょうけど、でも、勇者になる資質を持ち、勇者を目指していれば、私たちのような存在は、いてはならないのです。こんなメンバーを前に、勇者を名乗るなんて到底できなくなってしまいます。たぶん目指す前に気持ちが折れます。そんなことには、したくないのです。心が折れるのを見たくないのです。でも勇者になることが転生した理由なのかはわかりませんけど、可能性がある以上、守護していた者としては、それを阻害する要因に自分がなるわけにはいきません。もちろん目的を達成してもらわないと私が戻れない可能性もあるからです。それと、私たちにどんどん優秀な仲間が増えれば、勝ち続ければ、自分たちの意志にかかわらず本当に勇者に仕立て上げられてしまいます。それは本意ではありませんよ。」
「なるほどのう、守護する者が守護される者の心を折るなど本意では無いと。もしかしたら、勇者にさせるのが目的で転生させられたのに、目的を果たせなければ、主も帰られなくなるかもしれないしなあ。」
「まあ、そんなところです。でもね、私は、彼女が、パムが入ることは嫌じゃ無いのよ、けっして。」
「難しいですねー。でも、そんなの気にしていてもしようが無いですよ。だってこういうのは、縁ですからー」
「そうです。皆さんそうですよね。」アンジーを除く全員がうなずく。いや、パム、君はうなずいてはいかんでしょ。
「ですので、あなた様ぜひお願いします。」
「そういえば、正式な形ってどうやるんですかー。見たい見たい」お気楽エルフが言った。
「おお、そうじゃな。これまでは、一度たりとも正式な儀式をしておらなかった。今回の場合は、相手のところに行ってきてもらうから、特に正式にやっておくべきじゃのう」
「正式にやるとなにか違うのですか?」
「ああ、隷属した者に致命的な危害が加えられると、はね返すことができるらしい。まあ、致命的な危害が加えられた時のみらしいが、そうなったときは、魔法で体全体を包むので不死身じゃな。まあ瀕死状態で保存という事らしいが。」
「ええ?」
「もちろん、こやつの魔法力の範囲内で可能なことに限られると聞いている。」
「そんな大事なこと今頃教えないでくださいよ。」
「これまで正式に儀式を行っておらんじゃろう。だから効果があるのか、わからんかったからな。過信されてもこまるわ。」
「そういうことですか。」
「まあ、全員必要がないくらい強い者達じゃからそもそも必要なかったじゃろうがな。」
「確かに違いがあるのか、比較してみたいですねえ」
「おぬし相変わらず技術的な話になると興味津々じゃな。」
「まあ、そうなんですけど、そんな理由でやってしまったら人間としてダメですよ。」
「今回の場合は、良いのでは無いか?本来は、間者であることがばれた段階で、殺されてもしようがないのに、無事に帰されておる。つまり相手の間者に・・・おお、お主の頭の中にあるダブルスパイってやつじゃなあ。そう思われても当然じゃ、なので下手したら捕らえられて殺されるかもしれん。それを回避するためにはいいじゃろう。」
「私自身は、負けることはありません。」
「ああ、おぬしが言っているのは、一対一の正式な戦いではな。じゃが、薬を使われるとか卑怯な手を使われることまでは想定していないじゃろう。」
「それは、一族同士の争いでは、あってはならないことです。」
「それは、一族の者だと認めた場合じゃ、お主はすでに裏切り者、敵と思われているとしたらどうじゃ。」
「・・・・」
「モーラ、そんなに追い詰めないで。あくまで最悪の結果の話でしょ?」
「おまえたちが思うほど、ドワーフ族はきれい事では済まんぞ」
「そうなの?」
「まあわしが知っているのは、かなり昔の話じゃから変わっているかもしれん。しかし、こういうのはそうそう変わるものではあるまい?」
「・・・・」
「何か覚えがあるようね。聞かないけど。」
「ごほん、そういうのはいいのです。本人の気持ちが一番なのです。」
「じゃが、安易に・・・」
「目を見ればわかるのですー」
「ああ、エルフィ、そうか、そうじゃったな。すまぬ、わしも少し言いすぎた。」
「あなた様、お願いします。私に隷属の儀式を」片足を立ててひざまずいて、見上げられました。弱いんですよねえこういう、すがるような目。
私は、大きく息を吸って心を落ち着けて口を開く
「ここにいる方達は、みんな隷属をしています。それは、偶然によるもの、作為によるもの、願いによるものといろいろです。でも、皆さんそれをよしとして隷属しています。そして、隷属の魔法は、いつでもそれぞれ自身が自分で解除できるようにしています。今回初めて、正式な儀式による隷属ですので、解析ができるまで解除ができなくなるかもしれません。いいですか?」
「かまいません。みなさんと共にありたいと、あなた様に従いたいと願っております。」
「わかりました。では、モーラさん。方法を教えてください。」
「お主なら簡単じゃ。魔力を高め、それを手に集中し、この者の頭に当て、次の言の葉をわしについて唱えるが良い。」
「はい、ではいきます。」私の体から光があふれます。そしてその流れが手に集中すると渦を巻き始めました。
「その者、聖なる魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」
「その者、聖なる魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」言葉を発することで、魔力の質が、色が変わる。ああ、そうなのか。こういうことか。
「我が名は、バルミリア・エイス・ドゥーワディス、あなた様に生涯付き従うと誓います。」
「ならば、この名を と与えん」
「ならば、この名をバルミリア・エイス・ドゥーワディスと与えん」光がパムを包み静かに消える。
「そなた、パムよ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に滅されん」
「そなた、バルミリア・エイス・ドゥーワディスよ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に滅されん」
「我、バルミリア・エイス・ドゥーワディスは、あなた様に生涯付き従い、あなた様と共に生き、あなた様と共に滅されます。」
静寂に包まれる。
「さあ、立ってください。大丈夫ですか?その身に何か変化はありますか?」
「加護が、魔法による加護を感じます。それと、隷属したときに一瞬だけ見えました。あなた様につながる鎖が。」
「そうですか、私にも見えました。これが正式の儀式による隷属なんですねえ。」
「解除はできそうなのか?」
「これからです。言葉の中にかなり魔法式が編み込まれています。古代語なのでしょうか、現在使われている言葉では無いですね。解析を進めれば大丈夫かと。」
「もうそこまでわかったのか。」
「今回のは、脳の中に直接響いていましたから。」
「それにしても、パムの方も最後の言葉は、誰から聞いておったのじゃ。」
「それは、頭の中に自然に現れました。」
「そういうことか。」
「ところで、さきほど真名をおっしゃりましたが、ドゥーワディスと言われましたよね。」エルフィがめずらしく尋ねる。
「はい、言いました。お嫌でしたか?」とつぜん顔を曇らせ下を向きながらパムが言う。
「エルフィ、本人が話しづらいこともあるじゃろう、無理に聞くなよ。まあ、話すつもりがあるなら、話してみい。」
「はい、私は、ドゥーワディスと言います。以前族長だった者の孫です。だからといって、一族の転覆など考えてもいませんし、何をする気もありません。ですが・・・里はそうは考えなかったのです。」
「自分の身の潔白を証明したいなら、間者をやれと言われたというあたりですかねえ。」
「なぜ、その話を先にしなかったのじゃ。」
「それは、里から逃げるためにあなた達にすがったように見えるのが嫌だったのです。私は、私の考えであなた様に隷従し、皆さんと一緒にいたい。そう思えたのです。偏見無く私を見て欲しかったのです。」
「ああ、確かにそうじゃな。」
「パムさん、大丈夫ですよ。ここにいる皆さんは、決してそんなことはありません。話してもいいし話さなくても良いのです。それが家族です。家族にはそれぞれ秘密があったとしても家族は家族なんですよ。大丈夫です。」
「ありがとうございます。里にいたときからどうしてもそうなってしまって。」
「おやアンジーさんどうしました」アンジーが頭を抱えている
「もしかして、先代の族長の孫なのですか?あの、豪腕ゴルディーニの」
「そうです。その豪腕ゴルディーニの孫です。その名前よくごぞんじでしたね。」
「そんなにすごい人なんですか?」
「ああ、そういえば、町で遊んでいた子ども達の知っている童話の中に出てくるのじゃ。伝説級のドワーフじゃよ。その強さ神のごとしとね、しかも清廉潔白で、人間も助けるようなお人好し。人間界にも伝説として童話になって残るほどのな。」
「人間界でそんなに知られているとは知りませんでした。お恥ずかしい限りです。」
「それじゃあ、里の一番も当然ね。でも、世代交代するにはまだ早かったと思うけど。」
「私の祖父は、人間や魔族との共存を願っていました。当然里の意見とは違いましたので、」
「なるほど、そういうことか。」
「それなら失脚させて終わりよね。でも、屈強で長命なはずのドワーフが若くして死んだのはなぜ?」
「わかりません、狩りの途中で死んだとしか聞かされていないのです。それからは、族長が交代して、私が生まれた頃には里の端の方で生活していました。」
「ご家族は、里にいらっしゃるのでしょう?」
「いいえ、原因不明の病気が流行り、里でもかなりの人が死にました。その時に2人とも死んでいます。」
「そうですか。」
「これも縁かのう。どうやら、本当に勇者パーティーになりかけておる。」
「ですよねー」アンジーがまた頭を抱えた。
谷を抜けた時にパムが故郷へ旅立った。
「私は、里に戻って事の次第を話し、袂を分かってきます。」
「それがいいでしょう。一緒に行きますか?」
「いえ、エルフの里同様秘密になっておりますので。」
「そうですか。気をつけて。」
「いつ頃戻ってこられるのでしょうか」
「そうですね、季節がひと巡りするくらいは。」
「そんなに?」
「途中、何かと物入りだったので、働いたりしましたので、」
「では、このお金を持っていってください。」そう言って一袋のお金を渡しました。
「こんなにですか。」
「その代わり、なるべく早く里に行ってきてください。ですが、旅の道中によく考えてください。ひとつは、一族に戻れるなら戻ることをもう一度考えること。ひとつは、私たちと本当に一緒に暮らしていくのかどうかを考えること。もちろん途中で考えが変わってもかまいません。私の所に戻って来た時に、明るい顔であなたの答えをあなたの気持ちを言って欲しいのです。」
「私の気持ちですか。」
「はい、あなたの気持ちです。一族に籍を残したまま私たちと暮らすでも良いのです。自分なりの結論を出してください。」
「わかりました。考えてみます。今までそんなことを考えたこともありませんでした。」
「お願いしますね。」
「お主、里との関わりを切りたいだけなら、隷属する必要はないぞ。自由にして良いんじゃよ。」
「それについても考えてみます。」
そうしてパムは私たちの元を離れました。ええ、別れたでも帰ったでもなく離れたのです。
馬にゆられながら私は思いました。
「うまく誤解を解いてほしいものです。」
「お主は、性善説の信奉者じゃのう」
「そうありたいと思っていますよ。たぶん、昔何かあったのかもしれませんね」
「記憶は相変わらず戻らんのか」
「ええ、まあ」
「昔何かあったとしても、この世界でのお主は、いい人じゃ安心せい、過去に何があったとしても、たとえ殺人鬼だったとしてもとうに罪は許されていると思うがな。」
「ありがとうございます。私の過去を気にしてはいないのです。(昔からこれだけの力を持っていたら、こうありたかったという願いをこの世界で成就しているのかもしれませんね。)」
「さて、旅は続きますよー。」手綱を持ったエルフィがそう声を出した。
第8巻に続く
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