巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第11話 森を救え

第11-2話 隷属の呪い

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○パム里に到着する。
 冷たく乾いた風が吹いている。何も無い荒野と切り立った岩山、岩山と岩山の間にひっそりと里はある。
私は、里に戻ってきた。これまでも何度か帰ってきたけれど、今回は風景の見え方が違う。
そうなのか私は浮かれているのか。これからの幸せな生活を考えて。この里から縁を切れるということがこんなにも心を体を軽くさせるものなのか。
 もしかしたら見納めになるかもしれないと思うとなんだか切ない。そうしたいと決意したのが自分自身だとしても、こうして里の風景を見れば、幼少期の楽しかった記憶も蘇り、里への愛着も少なからずある。
 エルフの里のように迷いの森があるわけでもない。寒い地方にあり、季節によっては、雪に閉ざされる地方だから、人間が暮らすにはかなり厳しい土地だ。作物は暖かい期間に蓄え、雪の降る時期には、主に狩猟により食料を確保する。
 今は、収穫を終えた時期なのだろうか。周辺の畑も作物が見当たらない。そうか、季節感が私にはない。いつ帰ってきて、いつ旅立っているのか自分の記憶ながら曖昧だ。
 旦那様から「里との関係ももう一度考え直してみなさいね。」と言われていたが、その意味がわかったような気がする。本当に風景の見え方が違うのだ。
 里への道を歩いていると、自分が囲まれていることがわかる。私を警戒しているのか。なぜそんなことをする?そう思いながらも、諜報員としてのサガか慎重にならざるをえない。
 集落の門へと近づくとそこには、里の長が待っていた。ニヤニヤ笑いながら。
「ようもどってきたのう」そう言って里の中に招き入れられた。
自分の家に戻りたかったのだが、そのまま拉致同然に長の家に連れて行かれた。
長と数人の長老達が座る少し狭い畳の部屋。そうだ、ここは文化が違う。旦那様も荷馬車の中では、靴を脱いでいた。
「そうですか、靴を脱ぐ文化ですか。実は私の世界でもそういう文化があるようで、どうしても靴を脱いで過ごしたくなるんですよ。同じですね。」
そう言って優しく微笑んでくれた。ああ、思い出せる。あの微笑み。すでに数日以上離れているのにその笑顔ははっきりと憶えている。そう、里の者の顔なんてほとんど覚えていない。笑った顔なんて見たことあるだろうか。

「どうじゃ、成果は出たか」
「はい、残念ながら、勇者ではありませんでした。」
「ほう、何を見たのかな」
「実は、数日間ですが同行する機会がありまして、その時に探っていたのですが、確信いたしました。」
「根拠はあるのか」
「その地域の魔族とぶつかりまして、戦いを回避して逃げております。臆病者の勇者などいないでしょう。」
「なるほどな。そうであったか。」
「はい、それで勇者でないとはわかったのですが、その者が気になりまして、今後も一緒に行動を共にしたいと思います。ですので、今後は任務等からは、はずしていただきたいのですが。」
「そうか、気になるか」
「はい。」
「まあ、お茶でも飲みながら話そうではないか。」
「はい、」
お茶が出されたことなどこれまで一度も無い。用心しなければいけないかもしれない。
「大丈夫じゃ、安心せい、わしも同じお茶を飲んでおる。椀も綺麗なものじゃろう。お主が気にするのもわかるでな。そう育てたのはわしらじゃ」
「はい」
一口飲んでも確かに違和感はない。しかし、すぐに視界がぼやけ長のニヤついた白い歯だけが妙にはっきり見えた。
「さすが、魔法の薬じゃ無味無臭。お茶の効能に混ぜたものは、わからんわな」
声は聞こえた。しかし、そこで意識がなくなった。

からだににぶく振動がある。身が切られたような感覚。だが、痛みも傷も現れない。
「さすが隷属の儀式を受けた者じゃ傷ひとつつかぬ」
目を覚ますと身動きがとれず、どうやら縛られているようだ。その感覚はある。だんだん目が覚めると、仰向けに寝かされ、両手両足を大の字にされ、はりつけにされていることがわかった。しかも、真上から、剣で身を切られている。しかし、傷はついた様子もなく、すぐ消えて、痛みもない。

「な、何をしているのですか。」声のする方向に顔を動かして、そう言った。
「お主の隷属しているあるじを殺そうというのじゃ。」
「そんなことができるのですか。」
「ああ、お主に傷をつけようとすると相手にその傷が生じるのじゃ。」
「そんな、話では、私が瀕死の状態になり、体を覆う防御壁ができると言っていたのに。」
「魔力量があるものならばな。じゃが、お主のように微々たる魔力量の者への攻撃は、すなわち、相手の術者への攻撃となる。」
「どうしてそんなことをしなければならないのですか。」
「勇者にもなり得ぬ者なら、わしらの里を襲うことを考えつくかもしれん。そうなれば、お主の隷属の首輪をたどってここにくるやもしれんでな。」
「私を追放すれば良いことでは。」
「おぬしが手引きするやもしれん。しかし、お主を殺すことはかなわん。なればこそ大元を殺すのじゃ。」
「それは、里の考えなのですか。」
「ああそうじゃ。そもそもお主を外に出したのも体の良い厄介払いだったのじゃ。それを余計な首輪をつけてのこのこと帰ってきおって。これだから先代の血を引く」
「祖父の事は言うな。私には関係ない」
「関係あるわ。そうやって外に関係を持つなど祖父そっくりじゃのう。」
「ああ、神よ、ドワーフの神よこの度しがたいほどに愚かなる者達に制裁を」
「ふははははは、神などおらぬわ。里の神はわしらじゃ。」
「あなた様のお力が欲しい。ようやくわかりました。この者達が悪。ぜひともこの者達を排除してこの里を救ってください。」
「それ無理じゃ、お主には体を動けなくする薬を与え、さらに魔術で動けなくしている。」
「ああ、幻聴か。あの方の声が聞こえる。ええ、術式解除、代謝機能促進。はい、わかりました。動けます。はい、逃げます。何もせず逃げます。もううんざりです。」私は、体に力を入れ、筋力を増大させ、拘束を引きちぎる。
「なに、動けるはずが無い。」驚きの族長に答えず、どこかに話すパム。
「はい、殺しません。同族殺しは罪人ですから。動けなくしてからここから立ち去ります。いいえ、誰もいませんので、」
「いったい誰と話している。そうか、相手とか」
「あなた様の傷の分は、死なない程度に反撃しておきますが、よろしいですか。」
「ま、まて、待つのじゃ。」
「待つわけありませんよ。初めて憎しみから殺したいと思うことができました。ありがとうございます。でも、あるじ様のお言いつけですから殺しませんが。」
「ひいいい、誰か、誰かあ」すでに刀を持った男は、最初に動けるようになった時に倒している。残るは、族長のみ。
「ぜひ呼んでください。ついでにこれまでの分返しておきます。祖父の分も」
「あれは、わしではない、わしが仕向けたわけではない。ちがうものじゃ。」
「ああ、主様の言葉は正しかったのですね。その話、その体から両手足がなくなる前に話し終えてくださいね。でないと、次の人に聞かなければなりません。」
「や、やめるのじゃ・・・」

 一方、エルフの里を出たところでは、迷いの森を少し離れたところに主人公がメアの膝枕で瀕死になっている。エルフィとアンジーが必死になって治癒魔法、回復魔法をかけ続けている。
「ここの記述が違うのです。違和感があったのです。」私は、モーラに話し続ける。
「ここの、我と共に滅されんです。ここだけ、記述が違うのです。たぶん本来は、我と共に栄えるべし。なんですよきっと」
「わかったからもうしゃべるな、口から血を吐きながらしゃべるな。胸からの血が止まらん。」
「だめです、傷口を治しても次から次へと傷が増えて治癒ができません。」エルフィが叫ぶ。
「またわしのせいか。」
「いいえ、違いますよ。どう見てもモーラに教えた人に作為があります。たぶん、里での教育に組み込まれているのです。ドラゴンがそもそも隷属することなどありえませんけど、何かの理由でそうせざるを得なかった時のための自衛手段なのでしょう。嘘を見破る魔法の前でも、本人が嘘だと思っていませんから引っかかりませんし。」
「ああそうか、そういうことか。納得はしても、この状況は覆せんわ。」
「大丈夫です。傷がなくなりました。」エルフィもアンジーも一息ついている。
「さきほどから何かブツブツつぶやいていたが、何かの呪文か?わしと会話しながら何かをしておったが。」
「ああ、よかった。パムさんが、無事危機を脱出できたみたいです。」
「何を言っているのじゃ、パムがどうした」
「パムですよ、無事に里の長を成敗して、おじいさんの無念を晴らしているところです。ここから後は大丈夫そうですのでここで終わりましょう。」
「ずっと見ていたのか。」
「ええ、正式な隷属とはすごいですね。彼女の目を通して私の方から何でも見えてしまいます。これは、プライバシーの侵害どころの話ではありませんよ。一度解除しましょう。」
「そうなのか。すまなかった。」
「なぜ、モーラが謝るのですか。何もしていないのに」
「うかつじゃったなあと。」
「そんなことですか。相変わらずですね、あの時に私が違和感に気付いて解析しておけば、良かったのですよ。それだけです。」
「じゃがなあ」
「さて戻ってくる前にこちらの問題も終わらせてしまいましょう」
「ほんに、お主は、バカじゃな。」
「それって褒め言葉ですよね。」
「ああ、そうじゃ。それも大馬鹿じゃ。これだけの傷を負ってなおそれを言うか。」
「私はね、この世界のためにとかそういうご大層なことには関心が無いのです。自分の家族が助けて欲しいと思っているのなら全力で動きたいとそう思っているのです。ただそれだけです。でも、これでドワーフの里も少しは変わると良いのですが。」
「そこまで言うか。」
「そうそう、モーラ、ひとつ聞いて良いですか?」
「なんじゃ、」
「ドラゴンって死ぬ時どうなるんですか。」
「はあ、なんじゃ頭でもおかしくなったか」
「死にそうになって考えたのは、みんなを残して死ねない!、あ、でもモーラが何とかしてくれる、でもモーラも死んだらどうしよう、そういえば、モーラって死んだらどうなるんだろうと。死なないのかなあとか考えたんですよ」
「なるほど、わしは、死ぬぞ。当たり前にな、でもその場合死体は土に還る。」
「意識はあるんですか。」
「老衰だけでなく事故で死んだ時でもゆっくりと土と同化しているらしいぞ。だからしばらくは、意識はあり続ける。まあ、もしかしたら、意識をつなげば復活できるかもしれん、まあ、体がなくなるので無理だろうがな。だが、自分が生きることに面倒になっていたり、飽きていたりすればむずかしかろう。」
「そういうものですか。」
「もう一つ、今回の事で良かったことがあります。とてもうれしいことがありました。」
「そうか、よかったな」
「ええ、とてもうれしいです。この世界に感謝です。」


そして、再びドワーフの里です。
パムは、数人のドワーフに囲まれて見送られています。
「ここまでもわざわざ見送ってくれてありがとうございました。」パムは丁寧にお辞儀をしている。
「今更わしらが、顔を出せる立場でないことは承知している。だが、ここに長くとどまるわけでもなく、どうしても行くというのなら、せめて見送らせて欲しい。それと、これまでもおまえが苦労したことをわしらは知らされておらんかった。内通していた者も聞かされていなかったというのがな。それだけ、現長の一派はやりたい方題していたようだ。すまなかった。」
「あなたが謝ることではありません。むしろ、影ながら私や私の両親にしていただいたこと、ありがたく思っています。」
「お主の両親の死については、わしも何もできなかった。それは本当に悔いている。」
「いえ、むしろ私の両親が他人に薬を譲っていたのを目にしています。私の両親は、わたしの誇りです。」
「そうか、でも、これから里もどうなるかわからん。良い方向に向かえば良いのじゃが。」
「私が、ここにとどまって何かできれば良いのですが、私の立場が立場ですので、むしろ邪魔をしそうです。それに、私の家族が待っています。たぶん、今、何かの危機を阻止しようと頑張ろうとしているようなのです。ですからできる限り早く合流して手助けしたいと思います。」
「そうか、家族か。家族ができたのか」
「少なくとも私にはそう思える仲間ができました。」
「落ち着いたら連絡をしてくれないか。その、いろいろ話したいこともある。」
「はい、連絡します。お元気で」
「ありがとう。気をつけて」

 さらにその先に見慣れた男が立っていた。そうかこの男にも挨拶しておきたかった。
「どうしても行くのか」
「ええ、急がなければなりません」
「結局俺はお前に勝てなかった。」
「それは、精進してください。」
「勝ったら言うつもりだった、ずっと好きだったと」
「ごめんなさい。もっと早くに言ってくれれば・・・いえ、それもきっとありませんね。お断りしていたでしょう。」
「そうか、これから考えてもらえないのか」
「それは、ごめんなさい、無理ですね。私は、今、その方達と一緒にいることが幸せなのです。ごめんなさい。」
「そうだよな、戻ってきた時にあっていた程度では。」
「そういうことでもないのですが、本当にごめんなさい。」
そうして軽くお辞儀をした後、パムは森に向かって走り出しました。ええ、私の気配を感じるその方向へ。

○森の危機
「やっと落ち着きました。とりあえず調査を開始しましょう。」
「服はそのままでよいのか?」
「傷はエルフィに治してもらって大丈夫ですから気にしている場合ではありません。頻発しているとすれば、何かの予兆かと思いますので早急に原因を究明しないとなりません。」
「うむ、そうじゃな。わしが感じないという事は、地面から発生している現象ではない、人為的なものだろうな」
「では、モーラ。現地までお願いします。エルフィ場所はわかりますか?」
「はい、森の高い木から見ればわかるくらいに何カ所か枯れていますから、よく見れば上空からでも見えると言っていました。」
「では、参りましょう。」
そしてシールドの箱を作り、モーラの手の中に収まる。
「このシールド、以前とは違い、風が強いですね。前は密閉状態だったと思いましたが」メアさんが長い髪を気にしながら言った。
「今回は、匂いがわかった方が良いかと思いまして、ちょっと穴をあけてあります。」
『まったく、技術ばかじゃな』
『そうですね、この人は懲りない』
『僕は、良いと思います。すごく、役に立っています。すごいと思います。』
『信者はゆるぎないのう』
『私もユーリに賛成です。役に立っていますよ。』
『まあ、特に炊事方面は格段に便利になっておるな』
『はい、うれしい限りです。』
『日常生活にフィードバックできない技術なんて基礎研究だけで良いのですよ。』
『よくわからないですけど~旦那様はいつもすごいです~。だから』エルフィのすがるような声が気になります。
『ああ、今回も役に立ってもらうぞ』
『期待は裏切り予測は裏切らない感じですけどねえ』
『普通は逆でしょ?予想は裏切り期待は裏切らないじゃなかったかしら』
『まあ、魔法なんて予想範囲内にしか効果出ませんよ』
『そういうところが勇者じゃないのよね』
『いつも言っているじゃないですか、勇者ではないと』
「あ、あれ」さすがエルフィあの点を目視しますか。私は気付きませんでした。
「かなりの規模じゃな。近くに降りるぞ。」
どしんと地面に着陸する。ショックアブソーバーなしですか。
森の一部が枯れている。普通枯れると茶色に減退するのに、黒くなっています。
「これって」
「ああ、魔法の効果じゃ」モーラが幼女に戻っています。
「その黒いのにさわらないで」不用意に触ろうとしたエルフィにアンジーが叫んだ。びっくりして手を引っ込める。
「見て」そこに落ちていた枯れ枝を黒いところに差し込んでみる。すると木の枝を飲み込むように包んで黒いものと一体となった。
「まだ効果が出ている?」
「まあ、残滓といったところね。」アンジーさん分析できますか。
「ふむ、アンジー出番じゃな。」
「まったく。能力を解除したらさっそくこれね。まさかとは思うけど、ルシフェル様が仕組んだのかしら。」
「それはなかろう。あの魔王様はこういう手を使う感じではないと思うが。」
「そうね、私も違うと思う。でも、これって」
「ああ、うちらの領域の魔法じゃな。それも闇のドラゴンの領域じゃ。」
「でも、どうして、この世界には不介入なんでしょ」
「わからん。アンジーそれを無効化できるか。」
「やってみるわ」そう言ってアンジーが手をかざす。黒が白になり、まがまがしさはなくなったが、土は元の色に戻らず、真っ白になってしまった。
「やはり闇か。」
「そのようね。でも性質がちょっと違うかも。」
「そうなのか?」
「まあ、感覚的なものだけどドラゴンの魔法だけとは言えないかも。」
「よう、アナライザーどうじゃ得意分野じゃろう」
「解説しますか、」
「いや結論だけでよい。」
「そうですか。結論だけですか。結論は、わかりません。ですね。」
「なんじゃ。詳しく話してみい、その代わり簡単にな」
「言語か違うんですよ。魔族の高度な魔法なのかドラゴンの高度な魔法なのかわからないのです。」
「なるほどな、どちらかと言うのはわかるのか」
「それもちょっと。もともと魔族さんのもドラゴンさんのも、低位魔法しか見たことないのですよ。で、カンウさんじゃない、ヒメツキさんに見せられた魔法も、そんなに高度なものではなかったんです。でも、これは、両方の共通言語。いわゆる始祖魔法なんじゃないですかねえ。断言できませんけど。」
「元をたどれば、魔族もドラゴンも使う魔法は同じだと」
「かもしれません。」
「さて、とりあえずこの範囲を浄化しますか。」
「まあ、まて、こんなことが頻繁に起こっているのじゃろう?ならば、その大元の原因を探らねば、対処療法にしかならんじゃろう。」
「そうですねえ。」
「もう何カ所か見に行こうではないか。」
「浄化は、アンジーができるんですかね。」
「ああ、できるわよ。とりあえずやってみる?」
「いえ、この面積では、たいした魔力量は使わないのでしょうけど。森の危機とか言っていましたよね。」
「ふむ、この森一帯となるか。どうじゃアンジー」
「モーラに乗せてもらって全体を見てみないとわからないけど、厳しいと思う。浄化というのは、光だろうと闇だろうとすべてをゼロに変換して地上から神の世界に送ると言われているのよ。だから、それなりの面積を浄化するには魔力を相当に消耗するわ。」
「では、これを一度やってみてください。」
「やるの?」
「はい、是非お願いします。」メアが急に声を出す。
「どうしたのメア、急に」
「実は、夕暮れが迫っております。このままだとここで野宿になります。」
「馬車は?」
「エルフの里の近くに放置してあります。」
「このままにして、馬車にもどるか。」
「そうですね。」
「このままでいいのですか?」ユーリはそのままにするのが嫌なようです。
「少なくともこれまでの時間経過で範囲は拡大しておらんようだ。ここに線を引いて明日見に来ようではないか。」
そうして再びモーラの手に乗って、馬車の場所にもどる。馬の所に行くと馬たちが寂しそうにヒンと啼きました。もちろん、優しくたくさんなでてあげましたよ。
食事を終えて、私は、寝ずの番ではなく、火が消えないように見ていました。
凍えるような寒さでもないので、みんなは、毛布を手に馬車の中や火の回りで寝ています。
エルフィがそばに寄ってきました。やはり森が心配なのでしょう。いつもの元気はありません。
「心配ですか?」
「はい、特に浄化が」
「浄化がですか?」
「はい、アンジーに明日聞こうと思います。」
「浄化されれば、元に戻るのではないのですか?」
「違うわよ、すべてを無に帰すの。そこにあった微生物も細菌も動物も植物も全部ね。」アンジーが近づいてきて残念そうに言う。エルフィは最初に微生物やら細菌はわかりませんでしたねえ。
「死の土地になると」
「まあ、百年単位で使い物にならなくなるわ。綺麗すぎる水の中で魚は住めないでしょう。徐々に土の細胞である微生物や、風に乗せられてくる草花の種やらが肥料になって、生物が移り住めるような状態になるのを気長に待つしか無いわよ。」
「それは、闇よりは少しましというところですか。」
「そうね、闇はすべてを取り込んでも闇のままで未来永劫闇でしょうけどね。浄化だって、それ以上は何もしない。でも、そのままにしておいて触った手から細菌が消えて綺麗になるからそういう活用法があるかもしれないわよ。」
「人間の体には無数の細菌がいて、うまく調整していますから、細菌がいなくなると困りますね。」
「そうなんですか?」しげしげと手を見るエルフィ
「この世界がそうとは限りませんがね」
「いや、あなたのような転生者が来て何も無いことがその証明でしょう。何を言っているの。」
「そうなりますかねえ」あまたの転生者が転生先で病原菌をまき散らして世界を全滅させた話なんてありそうですけど。
「わしの出番じゃな」
「モーラの土の力でできるのですか。」
「まあ、小規模な範囲ならわしでも何とかなるじゃろう」
「今回の森ならどうですか?」
「まあ、やってみないとわからないな」
「できなかったらどうするんですか。」
「わしの力をすべて使いきってしまえば、わしは土と同化してしまうじゃろう。前にも言ったが、わしが死ぬ時はそんな感じらしいぞ。」
「死ぬとか言わないでください。」
「わしらは長命じゃ、だからといって永遠に死なないわけではない。だから、死んだ時にどうなるかも知っている。わしの場合は土と同化して土に還る。」
「そういえばそんなことを話していましたねえ」
「さて、眠れ、わしが起きていよう」
「じゃあお願いします。」
一人きり、モーラだけになった。
「そうじゃな、そうなったらわしの出番じゃな」
誰もがその言葉を心のつぶやきを耳にしていたことをモーラは知らない。

そして、翌朝、調査を再開する。
昨日の所に行き、範囲がほとんど拡大していないことを確認した後、モーラに乗ってさらに高い位置から森を眺める。もっとも雲も多く断片的にしか見えません。
「メアさん、位置情報を把握できますか」
「はい、確認できます。」
「地図に落とせますか。」
「終了しました。これを」ドラゴンの手のひらに地図を描きその点の位置を表示する。
「規則性がありますね。」
「ええ、現在5カ所目が発見されています。結んでもいびつな形になりますね。」
「でも、もう一カ所増えると」
「はい六角形ができます。」
「六芒星ですか。魔族が何かしでかしましたかねえ。」
「これは、そうですね。」
「どうして魔族だと思うんですか」ユーリが不思議そうに尋ねる。
「そうね、魔族がよく使う形なのよ六角形って」
「あるじ様が六芒星というのをイメージしていましたよね。なんか山羊のこわい銅像も」ユーリ最近魔法の技術が上がってきましたね。えらいえらい。でも、そっちの方向にあまり能力を伸ばさないでください。私のよこしまな気持ちまで見られてしまいそうです。
「まあ、そうなんでしょうねえ。」
「では、魔方陣の構築を阻止しないとだめですかね。」
「エルフィ、里で何か聞けていませんか。」
「そこまでの話は出ていません。最近、気になりだしたと言っていましたので、でも、最後の発見は、割と早かったのですぐ見つかったと。それが、数日前です。」
「メアさん、発見された時期から次の構築の時期を推定できますか?」
「そうですね、数日前と言うことは、満月ではなく新月のあたりですかね、その時に構築していると考えられます。でも、単に月が無い時期に設置されていると考えた方がよろしいかと思います。」
「長期戦になりそうですねえ。」
「大丈夫じゃろうか」
その日は6カ所目と思われる場所をみんなで探しましたが、成果はありませんでした。
翌日、一番里に近いところの地点に向かい、アンジーが、その黒々としている中心にモーラの手から直接降りる。ゆっくりと降下し、地面に触れるか触れないかまでくると、その闇が、アンジーを中心に消えていき、アンジーの回りだけ白い地面が現れる。そこにしゃがみこむアンジー。その地点を中心にして円を描くようにしてアヒル歩きを始める。しばらくして、アンジーが叫んだ
「ここは、違うわ、魔方陣が存在しない。」そう言ってモーラの手を近くまでさげてもらい手の中に戻ってきました。
「どういうことじゃ」
「ダミーなのでしょうか?いや、テストかもしれません。」
「そうね、もう一度空から見てみないと。」アンジーも首をかしげている。
 モーラが森全体が一望できるようなかなり上空まで飛び上がる
「これだけ雲が厚いと上空から俯瞰できんぞ。だからといって頻繁に飛び交っていたら、こちらが調べているのがばれて、相手の動きを加速しそうじゃが。」
「わかっている拠点をしらみつぶしにしましょう。」
「気付かれないか」
「空は使いません。でも、一度だけ上空から見て位置を憶えてください」
「ドラゴン使いが荒いのう。」
「メアさんを連れていってください」
「わかりました。であれば、頭の上に角に掴まらせてください。」
「手でもかまわんぞ」
「いえ、単に乗ってみたかったので」
「そうか。なら何も言うまい」モーラは苦笑してメアを頭に乗せる。
「いいなあ」
「ユーリ落ち着いたらな」モーラは、ドラゴン姿のまま微笑んだ
「わーい」
そして、上空から憶えた地点を馬車で移動します。かなりの距離があります。
「ここも、違いますね、」
「おかしいですね、エルフの里のある迷いの森の近くから順番に見ていますが、魔方陣が、ありません。どうも練習の跡でもないようです。」
「もしかしてダミー?時間稼ぎですか。」
「もしかしてもっと大きい範囲なのでしょうか。」
「ご主人様、私たちは、見つからないように地上を進んでいますが、もしかして、全然別な場所なのかもしれません。」
「ええ、エルフの里の危機ではないと」
「はい、この森全体を消すつもりではないでしょうか」
「! だとすれば時間がありません。すでに1週間以上経過しています。」
「エルフの里では、森の危機と予言を受けたのが1年ほど前、エルフィが私たちと合流したのが、半年前。ここにきてエルフの里から召集されたのが1ヶ月前とすると、そろそろまずいかもしれません。」
「時間がありません。モーラ、」
「わかった、ばれても良いなら、羽根の風圧で雲を飛ばしながら探す。全員乗せて行くか。」
「そのほうが良さそうです。馬車もお願いします。」
「ああ、そうじゃな。でも、何か起こっていたとして馬達がそばにいたら危険じゃないか。」
「この子達の危機察知能力に期待します。あとシールド展開しますので。」
「わかった、行くぞ!手に乗れ」馬車にシールドを張り、さすがにそのまま鷲掴みでは、馬が怯えるので、両手で抱えるように持ち上げる。
羽根が雲を一掃し、広大な森の全貌が見える。大きさはそうでもないが、黒くまがまがしい気配が立ち上っている箇所がある。中心からどんどん拡大しているのが見ていてわかる。なんだろう私たちが動くのを待っていたかのような動きだ。
「ありました、全体ではかなり大きいです。」
「これは、発動したら大変なことになるぞ。森がなくなる。」




○閑話 火と闇
「最近研究熱心だな。闇の」
「火か、どうした。まあ、水の奴とか風の奴がいろいろ面白そうなことをやっていると聞いてな、負けられないと思ってなあ」
「確かに、まだ研究の余地がありそうだものな」
「だが、なかなか場所がなくて困っているんだよ。後始末できないからなあ」
「そうか、そうだろうと思って、ちょっと良い場所を教えてやろうと思ってな。」
「これ以上どこに土地があると言うんだ。」
「魔族の土地だが、使っても大丈夫な土地があるんだ。」
「いいのか?里は了解しているのか」
「別にいいだろう、その縄張りの魔族からOKもらっているんだ。」
「それならいいが、」
「里に話したら、縄張りがとか魔王への許可がとかできるものもできなくなるからなあ」
「確かに、まあ使えるならお願いしたい。」
「でも、ただとは言えないとさ」
「そうだろうな。」
「立ち会わせてくれと」
「しようがない。いいぜ」
「そう言うと思った、さあ行こうか。」





森を救えに続く


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農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

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