45 / 102
第13話 弧狼族
第13-1話 爆炎の魔女さん
しおりを挟む
夜明けと共に起こされる。
「あんたねえ、いつまで寝ているつもり。早く起きなさいよ。」心地よく響くその可愛い声は、誰でしたっけ。
「まったく、ここで寝起きするようになってから、自分で起きられなくなっているわよ。しっかりしなさい。」アンジーが起こしに来ました。ええ、ここは、地下の研究室です。窓もなく明かりがないと昼か夜かわからない真っ暗な部屋です。
「なんかこうしっくりくるんですよ。もっともここで大規模な実験なんてしたら地下金庫共々爆散してしまいますので、そういう実験はしませんが。考えても、考えても、いろいろな発想が浮かんできて、寝ていられないのです。」そうこうしているうちにどうやら夜が明けてしまっています。それでも、週に2日ほどは、2階の部屋で寝ています。
「そろそろみんな一緒に寝たいって言っていたわよ。」
「そうですか。そろそろ切り替えますか。」
皆さんには、最初にしばらくの間は研究させてくれと一人にしてもらっていましたが、私自身も無精になってしまっています。これではいけません。
「今日は薬草の納品ですか。」
「そうよ、乾燥状態を確認して少量だけね、成分の補正も気をつけてやらないと。」
「そうですね。」
1階に昇る階段をあがって、居間に行くと、大きく楕円形のテーブルが待っている。これは、メアさんとエルフィの自慢の作だ。前のは、大きくすると8人まででしたが、今回は14人まで座れるそうです。ただしそうすると、部屋の大半がテーブルになってしまい、身動き取れなくなるそうですが。
「おはようございます。」
「おはようございます。」すでに食卓には食事が用意されている。手伝いもしないで食べるのが少し心苦しいです。
「今日の予定は、薬草の納品くらいですぐ終わりそうですねえ。」
「私たちは食肉の調達に行ってきます。」パムとユーリとエルフィがすでに戦闘準備して座っています。すでにその格好をしているのはどうしてなのでしょうか。
「そうですか。一緒に行きましょうか?」
「いえ、大丈夫だと思います。肉にしてからは、あとでアとウンに来るように言ってあります。」
「言う事聞きますか」
「とても賢い良い子達ですから。」
「いつ頃来いと言って理解できるものなのですか?」
「それは、まあ慣れでしょうか。そういえばどうやってタイミングを計っているのでしょうか、確かに不思議です」
「それはですね、時間近くになると厩舎を出て馬車を引いて、後を追っています。」
「馬車を引いてですか」
「はい、」
「はみとか馬具はどうしているのですか。誰かがつけなければなりませんよねえ。ああ、出かける前につけておくんですね。」
「いいえ、ご主人様が考案した仕掛けで馬車に向かって後ずさりすると勝手に装着されます。」
「そんな仕掛けがあるのですか。」パムが驚いている。
「もちろんつけるだけで、外すのはこちらでやることになりますが。」
「馬が自発的に馬具を装着するなんて聞いたことがありません。」
「うちの子達は嫌がりませんよ。」
「そうですか。」パムが頭を抱えている。
「はい、良い子達です。話も言って聞かせると理解しているようですし」
「話せる馬ですか」
「まあ、あの2頭が細かい話をしたい時は、エルフィを呼んで欲しいと首を振ります。」メアさんが話を続けます。
「首をですか。」
「はい、2頭揃ってこうぶるんぶるんと。」その真似をメアさんがしてみせる。
「なるほど、」こう、胸の揺れる動きを真似しているんですかね
「こちらからの簡単なお願いは、だいたいわかってくれます。」
「それはすごい、ちゃんと挨拶しないとダメですね」
「ありがとうと頭をなでてあげてください。」
そうして朝の食事が始まった。
「それでは、町に行くのは、残り私とアンジーとメアさんとモーラと言う事になりますね。」
「エルフィ、ユーリ、パムさん、ケガに気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってきます。」全員が揃って敬礼をしています。そこで敬礼しないように。パムさんもそのネタ理解してまったのですか。
私達は、倉庫に行って乾燥棚の一番上の段にある薬草を確認して、作業場のテーブルの上に上げて、ちょっとした調整を行い、その分をまとめて袋に入れて背負いました。そして、3人で歩いて、町に向かっています。うちの町では、魔法使いさんご一行ではなくて、アンジー様ご一行というイメージになっています。ええ、天使様のおつきの者なのです。
「アンジー様、こんにちは」
「あ、アンジー様だー、こんにちはー」
そうして道すがら頭を下げられる。ここは、アンジー教の総本山な訳です。
「神様には悪いのだけれど、本当に教会作ろうかしら」愛想良く町の人に挨拶をしながらつぶやいているアンジー。
「おや、連絡係に降格になった途端、随分と欲が出てきましたねえ。」
「そういえば、堕天したのってこの世界でのことなんですよねえ。」
「代替わりする前のね」
「そうなのですか?モーラの話では神は普遍だとも言っていましたが。」
「神は不変よ、でもその都度発生した人間が信仰でゆがめていくだけのことなのよね。そして、今代は、まだ神が動いていない。存在も明かしてはいない。私は、今代の神が動いたら、教義が違えば静観するし、教義が合えば手伝うつもりだったのだけれど。」
「そうですか。それと天使ってかなりの人数がいると言っていましたよね。」
「教義の数だけいるわよ。生まれては消え、消えては生まれる。」
「死ぬことはないと言いませんでしたっけ」
「あの時は言葉を濁したけど、本当は、神を信じられなくなったとき、絶望した時に消えるのよ。私は、前代の神には失望したけど絶望していないから生きているわ。」
「難しいですねえ。つまり本人の意思の力だと」
「突き詰めればそうね、信じる力ね。だから神に対して絶大な信仰心を持つ者、教義をゆがめてそれをかたくなに信じる者ほど生きているわよ。周りをすべて自分色に染めようとしてね。」
「こわいですね。」
「ええ、天使の力を持って攻撃的になる者が一番恐ろしいのよ。私たちさえ敵と認識するから。まあ、天界も広いからそうそう変なのにも遭わないしね。もっともそういう輩は、たいがい人界に転属してやらかし続けて、しばらくして討伐されるのよ。まあ、やらかし続ける期間は、人間界にするとかなり長くて、討伐される頃には、人間に多大な犠牲を作って手遅れになった頃なのだけれどね」
「なんか、魔族とあまり変わりませんねえ。」
「天界はそんなひどいのはそうそういないわよ。魔族はそうでもないけど、天界にとっては魔族も人間もたいした変わりはないのよね」
「つまらない話だわ、ああ、本当にあなた話をそらすのがうまいわね。教会の話だったわね」
「そうでした。」私のせいですか?
「まあ、教会よりも、孤児院を作りたいんだけど、今のところ、そういう子はいないみたいだし。」
「ここの風土が子供はみんなで世話をするというスタンスですからねえ。」
「でも食事とかだけで、あとは面倒見ていないわよ。安心して住めるところが欲しいわね。」
「元住んでいた、この家はだめですか」
「少し小さいし、ここは町から遠すぎるのよ。町に行くまでに人さらいに遭いそうだもの」
「そうですか。メアさん何か良い案はありますか?」
「であれば、エリス様に頼りましょうか。」
「あやつも新参者であろうが」
「潜在的な魔法能力を持った子供を扱っていましたから、ノウハウは私たちよりあります。」
「なるほどな、それなりのネットワークがあるか。」そうですねえ、魔法使い人攫いネットワークですねえ。
「物騒なことを考えるでない。確かに魔法使い候補を里に連れて行っている、人さらいなのじゃが」
「そんな不謹慎ではありませんよ」
「おや、そうこうしているうちに薬屋の前って噂をすれば影がさすですねえ。」
「私の噂をしていたの?まあいいわ、実はね相談事があるのよ。」薬屋さんの前で話すのもなんだと思いますが。
「やっかいそうじゃな。」
「さらには、ここの町の話ではないのよ」
「これはまた旅かな」
「そうなるわね、私の知り合いの知り合いのそのまた知り合いの人から連絡があってね」
「それは、お主の知り合いではないだろう。」
「ところがねえ、その託された人たちすべてが何とかしてやって欲しいと言っているのよ。」
「難儀そうな話じゃな」
「聞いてくれるの?」
「聞かせたいのじゃろう。そして、手を貸してやって欲しいのじゃろう」
「まあ、そうなんだけど。」
「とりあえず、わしらの用事を終わらせてからになるがそれでも良いか。」
「ええ、終わったら声をかけて欲しいのだけれど。」
「ああ、どこで話す?」
「貴方たちの家が良いかしら。一度お邪魔したいと思っていたし。」
「そうか、ならば夕方に来るが良い、おぬし、良いか?」
「ええ、今日は新鮮な肉も手に入りそうですし、食事していってください。」
「いつも悪いわね。」
そうして、薬を少しだけ納品して、買い物をして家に戻りました。
家には、パム、ユーリ、エルフィがすでにいて、作業場のところに獣肉がつるされていて、血抜きを行っていたようです。
「皮は、剥いで加工するのでこちらでやりますが、血抜きのあとの保存はメアさんの指示が必要でしたので。」パムさんが手際よく皮を剥いでいます。さすがドワーフさんです。
「ありがとうございます。今日は、エリス様が来ますので、新鮮な肉で料理を作ります。あとは、冷凍庫に保存する分と保存食用に燻製にしますね。」そう言ってうれしそうに肉をさばこうとしている。皆さんいろいろなスキルをお持ちでいいですねえ。
夕方近くになって、エリスさんが到着しましたが、どうもそわそわしています。メアさんは、食事の用意をしているので、お茶は出せなさそうです。エルフィが気を利かせてお茶を出してくれました。
「どうしますか。先に話をしてしまった方が良いですか。」
私は、内容によっては、楽しくない食事になるかもしれないので、食事の後の方がいいのかと思っています。
「私は話してしまった方が楽になれるのですから良いですけどね。聞いてくれますか。実はね、獣人さん達の話なのよ。」
「ほう獣人とな。」
「ええ、獣人とはそんなに付き合いなんてないのだけれど、獣人は、獣化というのがあってね、それを機能させているのが、魔法な訳ね」
「ほう、ドワーフと一緒か。」筋肉量アップのため代謝を魔力で加速させますからねえ。
「あら、知っていたの?ああ、今回ドワーフさんが仲間になっていますものね」
「初めましてドワーフのパムです。」
「魔女のエリスよ、よろしくね。」魔法使いと名乗るのをやめたのですか。
「挨拶もまだだったとは、けっこう性急じゃな」
「なるほど、獣化も魔法なのですか」私は俄然興味が出てきました。一緒に聞いていた家族は、私を見てげんなりしていますけれど。
「最近わかったのだけれど、獣化と獣人化と相互に魔法で切り替えているのよ。それで、そのためにまれに魔力量が多い子が生まれるのね。」
「人と同じか。」
「そうね、でも決定的に違うのが、知能の問題なのね。」
「知能?」
「いちおう魔法の行使は脳が発達していないとできないのよね。脳の中で獣化、人化を本能的に制御しているの。本能だからそれとは別にね。」
「なるほど。」
「だから、まれに魔力量の膨大な天才的な魔法使いの獣人が誕生するわけね。制御がうまくないので、魔力を持て余すのだけれどね。」
「でも、おぬし達が仲立ちしているのであれば、魔法使いの里で育てれば問題なかろう」
「いつもならそうなのよ、でも、今回は、一族が離したがらないのよ。」
「ふむ、族長の子かなにか、重要な子どもか」
「そうなの、そして、満月の夜に獣化するのよ。それ以外は「人」の子のままなのよ。で、魔力が使えるのは、獣化した後だけなのね。」
「それはおかしいであろう、獣化したときには、本来魔法は使えないのではなかったか。
「それがおかしい点なのよ。何か回路がおかしくなっているのかも知れないのね」
「なるほど、その回路を直して欲しいと言うところか。」
「そうなのよ。さすがに体内の回路まで分析はできないと断ろうと思ったのだけれど、あなたを思い出してね。」
「獣化した後は、どうなるんですか。」
「暴れるのよ。魔力量が半端なくてそれを消費しつくすまで放出し続けるのね。」
「どうやって放出させているのですか」
「祖父も同じ体質なので、毎月満月の夜に付き合って戦っているわ、でも若いからどんどん魔力が増えてきていて、おじいさんも付き合えなくなってきたのよね。」
「あなた、前に獣人を治療したことがあるそうじゃない。その時に獣化の仕組みを理解したと聞いたけど。」
「確かに見ましたけど、傷の治療をしただけですから、全てを理解なんてしていませんよ。」
「それでもいいから、一度見てもらえないかしら。」
「みなさんいいですか?」
「あの~獣人族は、他種族と交流をあまりしないと聞いています~。なんの種族ですか~」
「聞きたい?」
「はい~興味があります。」
「孤狼族よ」
「それって、一番交流をしない獣人族じゃないですか。」パムが声を荒げる。
「そうよ。逆にそれくらい切迫しているということなの。」
「ふむ、腑に落ちん」
「えーとモーラ、それはどういうことかしら」アンジーが目を見ながら言った。
「おぬしのところまで話がきた経過がじゃ」
「ふ~ん、まあ、そう言われてみればそうよね。」
「すまんがもう少し探ってはくれないか」
「まあ、モーラがそう言うのならしかたがないわね。」
「こやつが受ける気満々なのも問題なのでな。」モーラ他全員が私を見ました。
「そんなことはありませんよ」私は、一応、否定します。
「その言葉の裏にあるわくわく感がわしらに伝わっておる。自重せんか」
「すいません」いや、感情が伝わるのは確かにまずいですねえ。
「とりあえず、伝えたことだけは話しても良いかしら。」
「いや、断られたと言ってくれ。それでも来て欲しいなら説得するからもう少し詳しい情報が欲しいとな。お主もそれでよいか?」
「私もそれでかまいません。私は、所詮異世界の者ですので、この世界の考え方に従うまでです。」
「じゃあ、エリス、頼んだ」
「はいはい、あ、食事はそうね、ちょっと無理そうねすぐに連絡をしないといけないから、また今度にしてちょうだい。」
「それは残念です。」
そうしてエリスさんは帰っていった。食事の後に話をすれば良かったですねえ、メアさんがかわいそうです。ああ、エリスさん分を後で届けましょう。
そうして、私たちは、食事の準備を始めました。
「良かったんでしょうか。エリス様のお話をお断りして。」メアさんがすまなそうに尋ねる。
「よいか、そもそもこちらから積極的に関わるべき問題では無いとは思うぞ。」
「私もそう思いますよ。うさんくさすぎます。」アンジーは、相変わらず辛辣です。
「でも、困っているのですよね。」ユーリは、いつもやさしいです。
「一族の内部の話に部外者が混じってはいけないんですよ~」エルフィがぽややんと言う。
「エルフィ。ポイントはまさにそこじゃ。」
「ああ、私も引っかかっていたのはそこですね。」パムも賛同しています。
「なるほど。種族間の壁は厚いのですね。」メアさんが納得しています。
「でも、オオカミなんですよね、もふもふしてみたいですねえ。」私はつい想像しています。
「あほか、毛並みは意外にしっとりじゃぞ。」
「そうなんですか。がっかりです。」
その日は、食事後にメアさんがエリスさんの分の食事を届けに行き、うれしそうに受け取ってくれたようです。よかった。
次の来訪は数日後でした。来訪したのはエリスさんと前にお会いした花火の魔法使いさんでした。
「どうも、その節はごちそうさまでした。それと、失礼なことを言いまして本当にすいませんでした。」
「いえ、かえって申し訳ないことをしてしまったと反省していたところです。常識が無いのは、私の方でした。」私は頭を下げ返す
「いえ、魔法使いとしてまた、一から頑張ろうと思えるようになりました。ありがとうございます。」
「はあ」どうしてそう言うことにつながるのかわかりませんので、中途半端な受け答えをしてしまいました。
「まあ、あれからいろいろ頑張っているみたいだし、殊勝な心がけにまでなったから許してあげてね。」
「許すも何も、あの花火きれいでしたし。大変勉強になりました。魔法で火をつけるって便利ですねえ。」
「あなたそこなの。」あの時のヒメツキさんと同じようにこめかみに手を置くエリスさんです。
「ああ、こやついままで着火の方法を知らなかったらしい。」
「なんということなの。レールガンは作れるのにね。」
「電気は早い時期に憶えましたので、それを使っては発火できるんですけどねえ。」
「そうなの?」
「はい、化学反応と電気着火は違いますよ」
「さて、再度ここに来たという事は、例の件の調べがついたと言うところか、それとも別件か?そっちの魔法使の長旅をしてきたような姿が関係ありそうじゃなあ」
「まあ、関係があるし、面倒ごとが増えたというところかしら。」
「皆様、お茶を入れましたのでお席にお着きください。」メアさんが言いました。
お茶を飲んで一息ついたところで、エリスさんが話し始めます。
「この子はね、業炎の魔女という2つ名があるくらいの火の使い手なのよ。」
「その名前はやめてください、今となっては恥ずかしいです。」いつもかぶっているはずの帽子を脱いでいるのに、帽子を深くかぶろうとしてあたふたしている姿はなんか可愛いですね。
「わたしが行くにはちょっと問題があったのでね、この子に里の様子を見に行って欲しいといったのよ。私より隠密行動になれているので。」そこでエリスさんがその魔女さんに話を促した。
「実は、調査に行って見つかってしまいました。気付かれて追いかけられ、襲われてしまったのです。相手は、破壊衝動で動いていて、話も通じない状態でした。魔法攻撃をまき散らしながら追ってきて、殺される一歩手前までになり、やむを得ず火炎魔法で相手を燃やしました。焼き尽くしたつもりでした。でも、立ち上がったのです。そして、人に戻って倒れました。相手をしていたらしい獣も近づいてきたのですが、私を見て、その子の様子を確認して私には何も言わず、その子を連れ帰りました。」
「見られたのに何もせずにですか。」
「それもそうなのですが、問題はそこではなくて、ありえないのです。あの業火を浴びて生きているはずがないのです。再生能力が異常すぎます。考えられるのは、代謝機能が極限まで高まっているのでしょう。その対価としてその子の生命力は獣化して、魔法力を発散するごとに削られているのだと思います。こんなことを続けていたら、早晩死んでしまいます。かなりまずい状態です。」
「なるほどのう」
「それで他に調べられたことはあるのかしら」
「はい、様子を探っていてわかったことは、問題を起こしているのは、族長の孫。困っているのは間違いないのですが、その族長が他人を頼ることに納得していないのです。」
「周囲の人が心配しているのですね。」
「はい、自分の時は父が何とかしてくれた、彼には父母がいない分、自分が同様にしなければならないそれが義務だと。そう言って、このまま続けるつもりでいるそうです。」
「あと、族長の娘夫婦でその子の両親なんですが、人間との争いの時に亡くなっていて、人に対しての憎しみも重なって今回のことなので、そのことを知る他種族は、方法がみつからないため、魔法使いなどの一族を頼るよう話しているのですが、人族と聞いてかたくなに拒むだろうと言っています。」
「でも人である魔法使いさんの伝手なんですよね。」
「はい、人との争いの時、理不尽な人間に対して、影ながら戦ってくれた方がいるそうです。ですから、人族をすべて嫌っているわけでは無いらしいのですが。」
「そのような状態で私のような者が差し出がましいことをしても逆効果なのではありませんか。」
「しかし、たぶん、あと数ヶ月と持たないと思います。」
「そんなにまずいのですか。」
「本人ではなく、祖父の方がまずいのです。老化もあり体力の消耗が激しいみたいです。」
「又聞きでははっきりしたことはわかりませんね」
「はい、ですが、このまま抑えきれなくなって族長が最悪死ぬと他の者では抑えきれないので、その子を殺すしか無くなるのではと言っています。」
「なるほど、同族殺しになるのか」
「でも、できないかもしれません。逆に暴走したその子に全員殺されることになるかもしれません。」
「一族滅亡の危機ですか」
「なるほど、最悪の場合、わしらに殺させたいのじゃな。自分たちでは殺せないから。」
「すいません、話の腰を折って申し訳ありません。皆さんにお聞きしたいのですが、いつも同族殺しがタブーと言っていますけど、この世界ではそんなに禁忌なのですか?」
「ああ、人族を除いて殺した者は殺された者から呪われる。とりつかれ最終的に死ぬ。」
「間違って殺す場合もありますよね。」
「ああ、死んだ本人が相手に殺されたと意識すれば呪われる。誰かが覆面をかぶって殺したとして匂いでわかるからだませないということもある。」
「でも、誰かに操られてとか、共食いせざるをえない状況になったりもしますよね」
「そのような状況であれば呪われないかもしれん。だが、そこまではわからん」
「どうして人だけはならないのですか。」
「他の種族より能力的に劣っているからなのか、知能が発達しているからなのかはわからんが、呪われないという事実だけが存在する。」
「モラルとか心情的なものではないんですね。」
「ああ、実に即物的じゃよ。自分も呪い殺されたくないから殺さない、シンプルじゃろう。」
「そうですね。」
「それでどうする。そのような話なら関わらないですむと思うが。」
「そうですね、下手に関わりになるとその一族と敵対することになりかねません。」
「それがね、その話には続きがあって、焼き殺そうとしたこの子を探しているようなのよ」
「その祖父は、焼き殺そうとした者を探してどうするつもりじゃ、恨んでいるのか。」
「そうなりますかねえ。でも殺してはいないのですよね。」
「はい、もしかしたら短期間だけ対決させたいのかもしれませんね」
「時間稼ぎですか」
「はい、その間に対策を立てようとしているのかもしれませんね。」
「生け贄にするつもりでは無いのか。その、何か制御する能力を得るために」
「そういう考えもありますね。」
「とりあえず、動かない方が良いと思うぞ。」
「静観しましょう。」
「そうもいきませんよ~。」エルフィが耳に手を当てている。
「エルフィ、何か聞こえていますか。もしかして、」
「はい、かなりの速度で森を駆け抜けている物体を検知しました~」
「やっぱりその方なんでしょうか。どうやってここがわかったのですかね。」
「匂いをたどられたとか?」
「あり得ません、ここにくるまでにけっこう頻繁にルートを変えたり、川を渡ったりして匂いをたどれないようにしてきました。」
「衣装は変えましたか」
「いいえ、急いで来ましたので現場から直接来ています。もしかして匂いですか。」
「あなたこれ、もしかして木の実かしら。」マントについていた木の実をエリスさんが手に取る。
「あ、こんなものが服についていたのですか、でも匂いしませんよ。」
「獣人にはわかるんでしょうねえ。」パムがそれを受け取り、いろいろな角度から見ている。
「ああ、この種は、そうみたいです。種の保存のために定期的に殻の中から胞子をふきだす類いの種です。私たちも同じような種を追跡用にたまに使います。」
「どうしても探し出して何かするつもりなのでしょうか。ただで帰すつもりは無いというところですか。」
「ここは大丈夫よね。」
「残念ながら無理ですね。モーラの匂いでこの周囲の魔獣は避けていきますので、匂いについては、シールドしていません。ですので・・・」どんという鈍い衝撃がかすかに家を揺さぶる。
すると外から大きな声がする。
「お、なんだこの衝撃は。なるほどシールドか。おい、そこの家の者。誰かいないか。話がある。」
「到着しましたか。」
「そのようですね。」
「さて、私がこの家の名目上の主ですからお会いしてきましょう。」そう言って私は、席を立つ。
続く
「あんたねえ、いつまで寝ているつもり。早く起きなさいよ。」心地よく響くその可愛い声は、誰でしたっけ。
「まったく、ここで寝起きするようになってから、自分で起きられなくなっているわよ。しっかりしなさい。」アンジーが起こしに来ました。ええ、ここは、地下の研究室です。窓もなく明かりがないと昼か夜かわからない真っ暗な部屋です。
「なんかこうしっくりくるんですよ。もっともここで大規模な実験なんてしたら地下金庫共々爆散してしまいますので、そういう実験はしませんが。考えても、考えても、いろいろな発想が浮かんできて、寝ていられないのです。」そうこうしているうちにどうやら夜が明けてしまっています。それでも、週に2日ほどは、2階の部屋で寝ています。
「そろそろみんな一緒に寝たいって言っていたわよ。」
「そうですか。そろそろ切り替えますか。」
皆さんには、最初にしばらくの間は研究させてくれと一人にしてもらっていましたが、私自身も無精になってしまっています。これではいけません。
「今日は薬草の納品ですか。」
「そうよ、乾燥状態を確認して少量だけね、成分の補正も気をつけてやらないと。」
「そうですね。」
1階に昇る階段をあがって、居間に行くと、大きく楕円形のテーブルが待っている。これは、メアさんとエルフィの自慢の作だ。前のは、大きくすると8人まででしたが、今回は14人まで座れるそうです。ただしそうすると、部屋の大半がテーブルになってしまい、身動き取れなくなるそうですが。
「おはようございます。」
「おはようございます。」すでに食卓には食事が用意されている。手伝いもしないで食べるのが少し心苦しいです。
「今日の予定は、薬草の納品くらいですぐ終わりそうですねえ。」
「私たちは食肉の調達に行ってきます。」パムとユーリとエルフィがすでに戦闘準備して座っています。すでにその格好をしているのはどうしてなのでしょうか。
「そうですか。一緒に行きましょうか?」
「いえ、大丈夫だと思います。肉にしてからは、あとでアとウンに来るように言ってあります。」
「言う事聞きますか」
「とても賢い良い子達ですから。」
「いつ頃来いと言って理解できるものなのですか?」
「それは、まあ慣れでしょうか。そういえばどうやってタイミングを計っているのでしょうか、確かに不思議です」
「それはですね、時間近くになると厩舎を出て馬車を引いて、後を追っています。」
「馬車を引いてですか」
「はい、」
「はみとか馬具はどうしているのですか。誰かがつけなければなりませんよねえ。ああ、出かける前につけておくんですね。」
「いいえ、ご主人様が考案した仕掛けで馬車に向かって後ずさりすると勝手に装着されます。」
「そんな仕掛けがあるのですか。」パムが驚いている。
「もちろんつけるだけで、外すのはこちらでやることになりますが。」
「馬が自発的に馬具を装着するなんて聞いたことがありません。」
「うちの子達は嫌がりませんよ。」
「そうですか。」パムが頭を抱えている。
「はい、良い子達です。話も言って聞かせると理解しているようですし」
「話せる馬ですか」
「まあ、あの2頭が細かい話をしたい時は、エルフィを呼んで欲しいと首を振ります。」メアさんが話を続けます。
「首をですか。」
「はい、2頭揃ってこうぶるんぶるんと。」その真似をメアさんがしてみせる。
「なるほど、」こう、胸の揺れる動きを真似しているんですかね
「こちらからの簡単なお願いは、だいたいわかってくれます。」
「それはすごい、ちゃんと挨拶しないとダメですね」
「ありがとうと頭をなでてあげてください。」
そうして朝の食事が始まった。
「それでは、町に行くのは、残り私とアンジーとメアさんとモーラと言う事になりますね。」
「エルフィ、ユーリ、パムさん、ケガに気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってきます。」全員が揃って敬礼をしています。そこで敬礼しないように。パムさんもそのネタ理解してまったのですか。
私達は、倉庫に行って乾燥棚の一番上の段にある薬草を確認して、作業場のテーブルの上に上げて、ちょっとした調整を行い、その分をまとめて袋に入れて背負いました。そして、3人で歩いて、町に向かっています。うちの町では、魔法使いさんご一行ではなくて、アンジー様ご一行というイメージになっています。ええ、天使様のおつきの者なのです。
「アンジー様、こんにちは」
「あ、アンジー様だー、こんにちはー」
そうして道すがら頭を下げられる。ここは、アンジー教の総本山な訳です。
「神様には悪いのだけれど、本当に教会作ろうかしら」愛想良く町の人に挨拶をしながらつぶやいているアンジー。
「おや、連絡係に降格になった途端、随分と欲が出てきましたねえ。」
「そういえば、堕天したのってこの世界でのことなんですよねえ。」
「代替わりする前のね」
「そうなのですか?モーラの話では神は普遍だとも言っていましたが。」
「神は不変よ、でもその都度発生した人間が信仰でゆがめていくだけのことなのよね。そして、今代は、まだ神が動いていない。存在も明かしてはいない。私は、今代の神が動いたら、教義が違えば静観するし、教義が合えば手伝うつもりだったのだけれど。」
「そうですか。それと天使ってかなりの人数がいると言っていましたよね。」
「教義の数だけいるわよ。生まれては消え、消えては生まれる。」
「死ぬことはないと言いませんでしたっけ」
「あの時は言葉を濁したけど、本当は、神を信じられなくなったとき、絶望した時に消えるのよ。私は、前代の神には失望したけど絶望していないから生きているわ。」
「難しいですねえ。つまり本人の意思の力だと」
「突き詰めればそうね、信じる力ね。だから神に対して絶大な信仰心を持つ者、教義をゆがめてそれをかたくなに信じる者ほど生きているわよ。周りをすべて自分色に染めようとしてね。」
「こわいですね。」
「ええ、天使の力を持って攻撃的になる者が一番恐ろしいのよ。私たちさえ敵と認識するから。まあ、天界も広いからそうそう変なのにも遭わないしね。もっともそういう輩は、たいがい人界に転属してやらかし続けて、しばらくして討伐されるのよ。まあ、やらかし続ける期間は、人間界にするとかなり長くて、討伐される頃には、人間に多大な犠牲を作って手遅れになった頃なのだけれどね」
「なんか、魔族とあまり変わりませんねえ。」
「天界はそんなひどいのはそうそういないわよ。魔族はそうでもないけど、天界にとっては魔族も人間もたいした変わりはないのよね」
「つまらない話だわ、ああ、本当にあなた話をそらすのがうまいわね。教会の話だったわね」
「そうでした。」私のせいですか?
「まあ、教会よりも、孤児院を作りたいんだけど、今のところ、そういう子はいないみたいだし。」
「ここの風土が子供はみんなで世話をするというスタンスですからねえ。」
「でも食事とかだけで、あとは面倒見ていないわよ。安心して住めるところが欲しいわね。」
「元住んでいた、この家はだめですか」
「少し小さいし、ここは町から遠すぎるのよ。町に行くまでに人さらいに遭いそうだもの」
「そうですか。メアさん何か良い案はありますか?」
「であれば、エリス様に頼りましょうか。」
「あやつも新参者であろうが」
「潜在的な魔法能力を持った子供を扱っていましたから、ノウハウは私たちよりあります。」
「なるほどな、それなりのネットワークがあるか。」そうですねえ、魔法使い人攫いネットワークですねえ。
「物騒なことを考えるでない。確かに魔法使い候補を里に連れて行っている、人さらいなのじゃが」
「そんな不謹慎ではありませんよ」
「おや、そうこうしているうちに薬屋の前って噂をすれば影がさすですねえ。」
「私の噂をしていたの?まあいいわ、実はね相談事があるのよ。」薬屋さんの前で話すのもなんだと思いますが。
「やっかいそうじゃな。」
「さらには、ここの町の話ではないのよ」
「これはまた旅かな」
「そうなるわね、私の知り合いの知り合いのそのまた知り合いの人から連絡があってね」
「それは、お主の知り合いではないだろう。」
「ところがねえ、その託された人たちすべてが何とかしてやって欲しいと言っているのよ。」
「難儀そうな話じゃな」
「聞いてくれるの?」
「聞かせたいのじゃろう。そして、手を貸してやって欲しいのじゃろう」
「まあ、そうなんだけど。」
「とりあえず、わしらの用事を終わらせてからになるがそれでも良いか。」
「ええ、終わったら声をかけて欲しいのだけれど。」
「ああ、どこで話す?」
「貴方たちの家が良いかしら。一度お邪魔したいと思っていたし。」
「そうか、ならば夕方に来るが良い、おぬし、良いか?」
「ええ、今日は新鮮な肉も手に入りそうですし、食事していってください。」
「いつも悪いわね。」
そうして、薬を少しだけ納品して、買い物をして家に戻りました。
家には、パム、ユーリ、エルフィがすでにいて、作業場のところに獣肉がつるされていて、血抜きを行っていたようです。
「皮は、剥いで加工するのでこちらでやりますが、血抜きのあとの保存はメアさんの指示が必要でしたので。」パムさんが手際よく皮を剥いでいます。さすがドワーフさんです。
「ありがとうございます。今日は、エリス様が来ますので、新鮮な肉で料理を作ります。あとは、冷凍庫に保存する分と保存食用に燻製にしますね。」そう言ってうれしそうに肉をさばこうとしている。皆さんいろいろなスキルをお持ちでいいですねえ。
夕方近くになって、エリスさんが到着しましたが、どうもそわそわしています。メアさんは、食事の用意をしているので、お茶は出せなさそうです。エルフィが気を利かせてお茶を出してくれました。
「どうしますか。先に話をしてしまった方が良いですか。」
私は、内容によっては、楽しくない食事になるかもしれないので、食事の後の方がいいのかと思っています。
「私は話してしまった方が楽になれるのですから良いですけどね。聞いてくれますか。実はね、獣人さん達の話なのよ。」
「ほう獣人とな。」
「ええ、獣人とはそんなに付き合いなんてないのだけれど、獣人は、獣化というのがあってね、それを機能させているのが、魔法な訳ね」
「ほう、ドワーフと一緒か。」筋肉量アップのため代謝を魔力で加速させますからねえ。
「あら、知っていたの?ああ、今回ドワーフさんが仲間になっていますものね」
「初めましてドワーフのパムです。」
「魔女のエリスよ、よろしくね。」魔法使いと名乗るのをやめたのですか。
「挨拶もまだだったとは、けっこう性急じゃな」
「なるほど、獣化も魔法なのですか」私は俄然興味が出てきました。一緒に聞いていた家族は、私を見てげんなりしていますけれど。
「最近わかったのだけれど、獣化と獣人化と相互に魔法で切り替えているのよ。それで、そのためにまれに魔力量が多い子が生まれるのね。」
「人と同じか。」
「そうね、でも決定的に違うのが、知能の問題なのね。」
「知能?」
「いちおう魔法の行使は脳が発達していないとできないのよね。脳の中で獣化、人化を本能的に制御しているの。本能だからそれとは別にね。」
「なるほど。」
「だから、まれに魔力量の膨大な天才的な魔法使いの獣人が誕生するわけね。制御がうまくないので、魔力を持て余すのだけれどね。」
「でも、おぬし達が仲立ちしているのであれば、魔法使いの里で育てれば問題なかろう」
「いつもならそうなのよ、でも、今回は、一族が離したがらないのよ。」
「ふむ、族長の子かなにか、重要な子どもか」
「そうなの、そして、満月の夜に獣化するのよ。それ以外は「人」の子のままなのよ。で、魔力が使えるのは、獣化した後だけなのね。」
「それはおかしいであろう、獣化したときには、本来魔法は使えないのではなかったか。
「それがおかしい点なのよ。何か回路がおかしくなっているのかも知れないのね」
「なるほど、その回路を直して欲しいと言うところか。」
「そうなのよ。さすがに体内の回路まで分析はできないと断ろうと思ったのだけれど、あなたを思い出してね。」
「獣化した後は、どうなるんですか。」
「暴れるのよ。魔力量が半端なくてそれを消費しつくすまで放出し続けるのね。」
「どうやって放出させているのですか」
「祖父も同じ体質なので、毎月満月の夜に付き合って戦っているわ、でも若いからどんどん魔力が増えてきていて、おじいさんも付き合えなくなってきたのよね。」
「あなた、前に獣人を治療したことがあるそうじゃない。その時に獣化の仕組みを理解したと聞いたけど。」
「確かに見ましたけど、傷の治療をしただけですから、全てを理解なんてしていませんよ。」
「それでもいいから、一度見てもらえないかしら。」
「みなさんいいですか?」
「あの~獣人族は、他種族と交流をあまりしないと聞いています~。なんの種族ですか~」
「聞きたい?」
「はい~興味があります。」
「孤狼族よ」
「それって、一番交流をしない獣人族じゃないですか。」パムが声を荒げる。
「そうよ。逆にそれくらい切迫しているということなの。」
「ふむ、腑に落ちん」
「えーとモーラ、それはどういうことかしら」アンジーが目を見ながら言った。
「おぬしのところまで話がきた経過がじゃ」
「ふ~ん、まあ、そう言われてみればそうよね。」
「すまんがもう少し探ってはくれないか」
「まあ、モーラがそう言うのならしかたがないわね。」
「こやつが受ける気満々なのも問題なのでな。」モーラ他全員が私を見ました。
「そんなことはありませんよ」私は、一応、否定します。
「その言葉の裏にあるわくわく感がわしらに伝わっておる。自重せんか」
「すいません」いや、感情が伝わるのは確かにまずいですねえ。
「とりあえず、伝えたことだけは話しても良いかしら。」
「いや、断られたと言ってくれ。それでも来て欲しいなら説得するからもう少し詳しい情報が欲しいとな。お主もそれでよいか?」
「私もそれでかまいません。私は、所詮異世界の者ですので、この世界の考え方に従うまでです。」
「じゃあ、エリス、頼んだ」
「はいはい、あ、食事はそうね、ちょっと無理そうねすぐに連絡をしないといけないから、また今度にしてちょうだい。」
「それは残念です。」
そうしてエリスさんは帰っていった。食事の後に話をすれば良かったですねえ、メアさんがかわいそうです。ああ、エリスさん分を後で届けましょう。
そうして、私たちは、食事の準備を始めました。
「良かったんでしょうか。エリス様のお話をお断りして。」メアさんがすまなそうに尋ねる。
「よいか、そもそもこちらから積極的に関わるべき問題では無いとは思うぞ。」
「私もそう思いますよ。うさんくさすぎます。」アンジーは、相変わらず辛辣です。
「でも、困っているのですよね。」ユーリは、いつもやさしいです。
「一族の内部の話に部外者が混じってはいけないんですよ~」エルフィがぽややんと言う。
「エルフィ。ポイントはまさにそこじゃ。」
「ああ、私も引っかかっていたのはそこですね。」パムも賛同しています。
「なるほど。種族間の壁は厚いのですね。」メアさんが納得しています。
「でも、オオカミなんですよね、もふもふしてみたいですねえ。」私はつい想像しています。
「あほか、毛並みは意外にしっとりじゃぞ。」
「そうなんですか。がっかりです。」
その日は、食事後にメアさんがエリスさんの分の食事を届けに行き、うれしそうに受け取ってくれたようです。よかった。
次の来訪は数日後でした。来訪したのはエリスさんと前にお会いした花火の魔法使いさんでした。
「どうも、その節はごちそうさまでした。それと、失礼なことを言いまして本当にすいませんでした。」
「いえ、かえって申し訳ないことをしてしまったと反省していたところです。常識が無いのは、私の方でした。」私は頭を下げ返す
「いえ、魔法使いとしてまた、一から頑張ろうと思えるようになりました。ありがとうございます。」
「はあ」どうしてそう言うことにつながるのかわかりませんので、中途半端な受け答えをしてしまいました。
「まあ、あれからいろいろ頑張っているみたいだし、殊勝な心がけにまでなったから許してあげてね。」
「許すも何も、あの花火きれいでしたし。大変勉強になりました。魔法で火をつけるって便利ですねえ。」
「あなたそこなの。」あの時のヒメツキさんと同じようにこめかみに手を置くエリスさんです。
「ああ、こやついままで着火の方法を知らなかったらしい。」
「なんということなの。レールガンは作れるのにね。」
「電気は早い時期に憶えましたので、それを使っては発火できるんですけどねえ。」
「そうなの?」
「はい、化学反応と電気着火は違いますよ」
「さて、再度ここに来たという事は、例の件の調べがついたと言うところか、それとも別件か?そっちの魔法使の長旅をしてきたような姿が関係ありそうじゃなあ」
「まあ、関係があるし、面倒ごとが増えたというところかしら。」
「皆様、お茶を入れましたのでお席にお着きください。」メアさんが言いました。
お茶を飲んで一息ついたところで、エリスさんが話し始めます。
「この子はね、業炎の魔女という2つ名があるくらいの火の使い手なのよ。」
「その名前はやめてください、今となっては恥ずかしいです。」いつもかぶっているはずの帽子を脱いでいるのに、帽子を深くかぶろうとしてあたふたしている姿はなんか可愛いですね。
「わたしが行くにはちょっと問題があったのでね、この子に里の様子を見に行って欲しいといったのよ。私より隠密行動になれているので。」そこでエリスさんがその魔女さんに話を促した。
「実は、調査に行って見つかってしまいました。気付かれて追いかけられ、襲われてしまったのです。相手は、破壊衝動で動いていて、話も通じない状態でした。魔法攻撃をまき散らしながら追ってきて、殺される一歩手前までになり、やむを得ず火炎魔法で相手を燃やしました。焼き尽くしたつもりでした。でも、立ち上がったのです。そして、人に戻って倒れました。相手をしていたらしい獣も近づいてきたのですが、私を見て、その子の様子を確認して私には何も言わず、その子を連れ帰りました。」
「見られたのに何もせずにですか。」
「それもそうなのですが、問題はそこではなくて、ありえないのです。あの業火を浴びて生きているはずがないのです。再生能力が異常すぎます。考えられるのは、代謝機能が極限まで高まっているのでしょう。その対価としてその子の生命力は獣化して、魔法力を発散するごとに削られているのだと思います。こんなことを続けていたら、早晩死んでしまいます。かなりまずい状態です。」
「なるほどのう」
「それで他に調べられたことはあるのかしら」
「はい、様子を探っていてわかったことは、問題を起こしているのは、族長の孫。困っているのは間違いないのですが、その族長が他人を頼ることに納得していないのです。」
「周囲の人が心配しているのですね。」
「はい、自分の時は父が何とかしてくれた、彼には父母がいない分、自分が同様にしなければならないそれが義務だと。そう言って、このまま続けるつもりでいるそうです。」
「あと、族長の娘夫婦でその子の両親なんですが、人間との争いの時に亡くなっていて、人に対しての憎しみも重なって今回のことなので、そのことを知る他種族は、方法がみつからないため、魔法使いなどの一族を頼るよう話しているのですが、人族と聞いてかたくなに拒むだろうと言っています。」
「でも人である魔法使いさんの伝手なんですよね。」
「はい、人との争いの時、理不尽な人間に対して、影ながら戦ってくれた方がいるそうです。ですから、人族をすべて嫌っているわけでは無いらしいのですが。」
「そのような状態で私のような者が差し出がましいことをしても逆効果なのではありませんか。」
「しかし、たぶん、あと数ヶ月と持たないと思います。」
「そんなにまずいのですか。」
「本人ではなく、祖父の方がまずいのです。老化もあり体力の消耗が激しいみたいです。」
「又聞きでははっきりしたことはわかりませんね」
「はい、ですが、このまま抑えきれなくなって族長が最悪死ぬと他の者では抑えきれないので、その子を殺すしか無くなるのではと言っています。」
「なるほど、同族殺しになるのか」
「でも、できないかもしれません。逆に暴走したその子に全員殺されることになるかもしれません。」
「一族滅亡の危機ですか」
「なるほど、最悪の場合、わしらに殺させたいのじゃな。自分たちでは殺せないから。」
「すいません、話の腰を折って申し訳ありません。皆さんにお聞きしたいのですが、いつも同族殺しがタブーと言っていますけど、この世界ではそんなに禁忌なのですか?」
「ああ、人族を除いて殺した者は殺された者から呪われる。とりつかれ最終的に死ぬ。」
「間違って殺す場合もありますよね。」
「ああ、死んだ本人が相手に殺されたと意識すれば呪われる。誰かが覆面をかぶって殺したとして匂いでわかるからだませないということもある。」
「でも、誰かに操られてとか、共食いせざるをえない状況になったりもしますよね」
「そのような状況であれば呪われないかもしれん。だが、そこまではわからん」
「どうして人だけはならないのですか。」
「他の種族より能力的に劣っているからなのか、知能が発達しているからなのかはわからんが、呪われないという事実だけが存在する。」
「モラルとか心情的なものではないんですね。」
「ああ、実に即物的じゃよ。自分も呪い殺されたくないから殺さない、シンプルじゃろう。」
「そうですね。」
「それでどうする。そのような話なら関わらないですむと思うが。」
「そうですね、下手に関わりになるとその一族と敵対することになりかねません。」
「それがね、その話には続きがあって、焼き殺そうとしたこの子を探しているようなのよ」
「その祖父は、焼き殺そうとした者を探してどうするつもりじゃ、恨んでいるのか。」
「そうなりますかねえ。でも殺してはいないのですよね。」
「はい、もしかしたら短期間だけ対決させたいのかもしれませんね」
「時間稼ぎですか」
「はい、その間に対策を立てようとしているのかもしれませんね。」
「生け贄にするつもりでは無いのか。その、何か制御する能力を得るために」
「そういう考えもありますね。」
「とりあえず、動かない方が良いと思うぞ。」
「静観しましょう。」
「そうもいきませんよ~。」エルフィが耳に手を当てている。
「エルフィ、何か聞こえていますか。もしかして、」
「はい、かなりの速度で森を駆け抜けている物体を検知しました~」
「やっぱりその方なんでしょうか。どうやってここがわかったのですかね。」
「匂いをたどられたとか?」
「あり得ません、ここにくるまでにけっこう頻繁にルートを変えたり、川を渡ったりして匂いをたどれないようにしてきました。」
「衣装は変えましたか」
「いいえ、急いで来ましたので現場から直接来ています。もしかして匂いですか。」
「あなたこれ、もしかして木の実かしら。」マントについていた木の実をエリスさんが手に取る。
「あ、こんなものが服についていたのですか、でも匂いしませんよ。」
「獣人にはわかるんでしょうねえ。」パムがそれを受け取り、いろいろな角度から見ている。
「ああ、この種は、そうみたいです。種の保存のために定期的に殻の中から胞子をふきだす類いの種です。私たちも同じような種を追跡用にたまに使います。」
「どうしても探し出して何かするつもりなのでしょうか。ただで帰すつもりは無いというところですか。」
「ここは大丈夫よね。」
「残念ながら無理ですね。モーラの匂いでこの周囲の魔獣は避けていきますので、匂いについては、シールドしていません。ですので・・・」どんという鈍い衝撃がかすかに家を揺さぶる。
すると外から大きな声がする。
「お、なんだこの衝撃は。なるほどシールドか。おい、そこの家の者。誰かいないか。話がある。」
「到着しましたか。」
「そのようですね。」
「さて、私がこの家の名目上の主ですからお会いしてきましょう。」そう言って私は、席を立つ。
続く
0
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜
ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」
「街の井戸も空っぽです!」
無能な王太子による身勝手な婚約破棄。
そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを!
ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。
追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!?
優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。
一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。
「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——!
今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける!
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる