巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

文字の大きさ
51 / 102
第15話 暗殺者

第15話 暗殺者

しおりを挟む
○日常はここまで
「ご主人様、買い出しに行って参ります。残念ながら今日は、歩きで行ってきます。」
「アとウンは、散歩に行きましたか」
「はい、朝早く2頭揃って出かけたようです。」
「最近雨続きで外に出られませんでしたからねえ」
「明け方早々に出て行ったみたいです。」
「荷物持ちは必要ですか?」
「それはデートのお誘いと思ってよろしいのでしょうか。」
「デート。ええ、そう思ってもらってかまいませんよ」
「では、お願いします。」
「でしたら、普段着でお出かけしませんか。」
「そうですね。戦闘服でデートはいけませんね。」
「メイド服は戦闘服ですか。」
「はい、いつでも臨戦態勢です。」
「さすがに今日は何も無いでしょう。」
「そうですね。」
「モーラ、メアさんの買い物に付き合って町まで行ってきますけど、何か欲しいものはありますか?」
「愛じゃ」
「はあ、愛ですか。この家にはあふれていると思いますが、」
「確かにな。どれ、わしも後で町に行こうと思うがかまわんか」
「メアさん」
「かまいません。隣には私が歩きますので。」
「いや、お主らの邪魔をするつもりもない。時間もずらすが、お主らが帰ってきた時に家にいないかもしれんのでな。」
「わかりました。アンジーさんは?」
「例の定時連絡だそうです。パムとユーリとレイは、久しぶりに外で訓練できると朝からいません。」居間の椅子にはエルフィが眠そうにしている。
「エルフィは外出しなくて良いのですか?」
「昼過ぎからでかけます。昼は自分で作りますから大丈夫ですよ~」
「では、メアさん準備出来次第出発しますか。」
「着替えて参ります。」
「あれ~ウンだけ帰ってきましたよ~」そう言って窓を見ると、中を覗いている馬が見えた。
「どうしたのでしょうか。アに何かあったのでしょうか。」着替えに部屋に戻っていたメアさんが私服になって戻ってきた。私服姿も新鮮でいいですねえ。
『気持ちがダダ漏れじゃな』
『お褒めいただきありがとうございます。声に出してもらえればもっと良いのですが。』
「これから言うつもりでした。」
「冗談です。」
その間もエルフィは馬と会話していいます。いや、窓を開けて頭をつけて話をしています。ああ、人が倒れているのですね。
「わかりました。行きましょう。メアさんごめんなさい。埋め合わせは必ず。」
「大丈夫です。行きましょう。エルフィはウンに乗って先に行ってください。治療をお願いします。」メアさんが私より先に指示を出してくれました。残念な気持ちと早く終わらせたい気持ちが伝わってきます。ことが済んだら2回はデートしましょう。
「ありがとうございます。では、傷薬を持ちましたので、私も後を追います。」
「お願いします。」
『あるじ様大変です。魔族が攻めてきました。』今度はユーリからです。
『人数はどのくらいですか』
『一人ですがとても強いです。パムと私で防戦一方です。場所を教えにレイがそちらに向かっています。』
「ここは、土のドラゴンであるモーラの管轄地ですよ。そんな狼藉が許されますか。」
「まあ、制裁されることがわかっていても仕掛けてくるやつはおる」
「にしても唐突に現れましたね、どうやって侵入してきたのでしょうか」
「何かのシールドで隠れてきたか、空でも飛んできたかのう」
『メアさんそっちは大丈夫ですか。襲われていませんか』
『レーダーによるとその気配もないようです。』エルフィの名前くらい言ってあげてください。
『エルフィのレーダーにも感知されなかったみたいですから、注意してください。』
『了解しました。』

 その草原には、ユーリとパムが剣による打ち合いをしていた。まだ始めたばかりなのか、二人とも少しだが汗をかいている。
 パムは、ユーリとの打ち合いの中、一瞬の揺らぎをユーリの後ろに見た。ユーリも気付いていていたが、パムが気付いたのを見て、パムとその視線の間から体をずらす。
 パムは、太ももに挟んでいた、細い針をその揺らぎに放ち、そちらに向かって突進する。しかし、投げた針が跳ね返され頬をかすめ、その勢いをそがれ、立ち止まった。ユーリも振り返り、パムと少し離れたところに立ち様子をうかがう。
「何奴、姿を現せ」頬を切られ血が出たまま、くないのようなものを構えるパム。脇を抜けようとする揺らぎをとっさに感じて右腕で何も無い空間を薙いだ。するとその薙いだくないをはじき返し、そのくないがパムの頬をかすめる。
刹那の攻防。相手は姿を現す。魔族だ。精悍な体躯と端整な顔立ちが、高位魔族であることがうかがえる。ユーリもパムもその魔族の能力の高さを気配から読み取って動けずにいる。
「ここから先は私有地です、ご遠慮願いますか。」パムは、敵を見定めるため声をかける。
「ほう、気配を殺していた私に気付くか」その魔族は、パムの問いに答えずにこう言った。
「はい、残念ながら殺気が殺せていませんでした。」
「なるほど、丁寧だなあ。だが、こちらも都合がある。通らせてもらうぞ。」動こうとする魔族。
「ダメです、ご用事はなんでしょうか。」動こうとする魔族の行く方向を遮るようにパムが足先を変える。どうやら何かを追っているため、その方向に向かおうとしていて、立ち塞がるように2人が立っているようだ。
「答える気はない。通るぞ」
「要件を告げられませんと通せません。」
「やるか。」
「やりたくはありませんが、しかたありません。」
「やりたくないなら通せ。」
「私のあるじに何かあっては困ります。」
「ならば押し通る。」
「レイ、悪いけどあるじ様にここの場所を教えて。」
『わかりました。』すでに獣化していたレイは、家の方向に向かって走り去る。
「ほう、獣人か。ドワーフに人間?不思議な取り合わせだな。まあ、いい。いくぞ」その魔族は、剣を構えすぐさま突進してくる。
「パムさん。」
「はい」
先陣はいつもどおりユーリが務める。相手と同じように剣を構え突進する。剣と剣が出会う刹那、相手の切っ先をかわそうとして、ユーリは、体を数ミリ横に動かした。しかし、その途端、その切っ先の軌道が少し変化した。それにあわせてユーリの剣の軌道が少し移動してそれをいなすような位置に動く。さらに魔人は、それを見て剣の軌道を修正した。そのタイミングでユーリの姿が消える。変わってパムがその剣筋をかわして相手の懐に入り、ユーリはすでに回り込んでいて後ろから切り込む。
それでも魔人はパムの剣をかわし、ユーリの剣もかわし、パムの横から回り込むように位置を変えパムに突きかかる。パムはスウェーしてかわし、その空間をユーリが魔人に向かって剣を突く。そんな攻防をバリエーションを変え、幾度となく繰り返す。
「2人ともやるな、私の攻撃をこれだけしのげる奴はそうそういないぞ。」
「褒めていただけるなら、攻撃の手を止めてください。」パムが静かに答える。その間も2人で攻撃を続けているがこちらの反撃が決まらない。
「いやいや楽しませてくれよ。今回の仕事は、つまらない仕事だと思っていたが、どうやらあたりだったようだ。」
「外れの時はどうしていたのですか。」
「人族とかは、私を見たらほとんどがこうして反撃などしてこないから殺さない。まあ、それでもかかってくる奴は、殺す。」余裕があるのか話しながら2人の相手をしている。
「なるほど、とりあえずは、普通の対応ですね。」パムもその割には、話しながら剣を交えている。いや、話しをつなげて有利な位置に持って行こうとしているが、あとちょっとのところで、かわされている、
「ああ、弱いものを殺すのは性分に合わん。かかってくるなら倒すそれだけだ。」
「その人達が戦わざるを得ない場合もありますよね。何かを守っている時とか。それでも殺しますか。」今度はユーリが話し始める。パムの息が上がったから交代したのか、それとも会話の内容に、単に怒ったからなのかはわからないが。
「まあなあ、私の仕事は、裏切り者や逃亡者の捕獲か抹殺が仕事だからな。そういうことはほとんどないんだ。」楽しそうに剣を交えているその魔族。ユーリは、会心の一撃を放ったがかわされている。そこでユーリは体勢を崩してしまった。
「同族は殺さないのでは?」再びパムが話し始める。
「ああ、これ以上の呪いは勘弁して欲しいが、一度呪われてからは、慣れてどうでも良くなるからなあ。」その魔族もそろそろ終わりにしたいのか、少しだけ剣勢があがる。
「そんなものですか。」しかし、パムもそれに合わせて少し剣の速度を上げる。
「もちろん、殺される方に後ろめたさがあるとこちらを呪えるほどのこともないのさ。」
「なるほど。勉強になります。」
「おまえたち殺してしまうのはもったいないなあ。ここを通してもらえないか。」
「気配を殺して、最初に攻撃してきたのはそちらでしょう。」
「それについては、あやまる。気付かれていないと思ったのに気付かれてな、とっさに手が出てしまった。」
「ならば引いてください。」
「だからいったろう、それはできないんだ。」
「ならば引かせてやろう」上空に巨大な影が現れる。ドラゴン姿のモーラだ
「おや、ドラゴンの縄張りか」一瞬にして影がなくなり、小さな影がその魔族の前に降り立つ。
「わしの縄張りに何のようじゃ。」
「裏切り者を追ってきた。この2人はあんたのところの者かい」
「ああ、そうじゃ。」
「それはすまなかった。お前達もそう言ってくれれば良かったのになぜ言わん。」
「それは・・・」
「軽々に主の名などださんであろう」モーラがフォローする。
「まあそうか。で、わざわざ出てきたという事は、簡単に渡してはくれないのか」
「わしとて、魔族に敵対などしておらんからな、事情が納得できるものなら考えよう」
「なるほど、「考えよう」だね、情報を引き出す時の常套手段だ。残念だが私は何もしらないんだ。その者を見つけて捕まえるか、それでも逃げるなら処刑しろとしか言われていないのでね。」
「処刑じゃと。追っているのは同族ではないのか。」
「ああ、今回は、獣人だから同族ではないな、でも私は処刑人だから同族でも殺す。」
「ほう、呪いをうけてもか」
「ああ、私にはたいしたことではない。」
「ドラゴン様、その方は呪いは殺される本人に恨みの心がなければ、たいした呪いにはならないと申しておりました。」
「ほう、そういうものなのか?」
「ああ、あまりおおっぴらにはなっていないが事実だよ。私が生きた証拠だ。これまで結構な数の同族を葬ってきたが、この通り生きている。」
「わしは、実際呪い殺された者も見てきているがそういうものなのか?」
「恨みの大きさだよ。私が殺しているのは裏切り者とか犯罪者でね、そいつらは殺されてもしょうがないと本人自身が思っているのさ、だから呪いにならない。」
「ふむ確かに理にかなっているな。」
「まあ、そんなことはいい。もう一度言うが、私は何も知らない。ただ、捕らえるか抵抗するなら殺せと言われている。」
「ふむ、おぬし、どう思う?」モーラはそう言って後ろから走ってくる人間と獣人を待つ。
「とりあえず、その獣人さんの話を聞いてみませんか。」レイを連れて私は駆けつけた。
「誰だよ」その魔族は不審そうな顔を向ける。
「通りすがりの魔法使いです。」
「あとね、私を知っているでしょう。」おや、アンジーさん町から直接こちらに来ましたか。
「ほう、ここが噂の指名手配犯のねぐらか。いいだろう。話を聞こうか」
そうして、家に全員戻った。

 居間のテーブルに全員が座る。玄関側にけがをした獣人を
「それにしても、すごいメンバーだな。人族、ドラゴン、天使、エルフ、ドワーフ、獣人、それとたしかホムンクルスか。まさに異種族展覧会だな」
「それで、殺す理由は知らされていないんですね。」
「捕まえろとは言われたが、一応建前でね、だいたいは殺すことになる。連れて帰ろうとすると途中で逃げようとするからな」
「では、獣人さん逃げている理由を教えてください。」
「教えた後、私を殺したりしないですよね。」
「そんなもの内容によるじゃろう。お主が悪いことをしていなければ大丈夫だ」
「盗み聞きしてしまったのです。大変なことを」
「魔族の5大魔神と言われるお一人が、人族と結託して人族を滅亡させようとしていると。」
「意味がわかりませんね。人族が人族を滅亡させようとしている。ということですよね。」
「はい」
「獣人のお主がそんなことを聞ける状況にあったのか?」
「それが、気付かれていると思ったのですが、話を続けていました。」
「聞かせられたかな。」
「ああ、スパイを殺すための理由かな。」
「逃げ出せればその間に噂を広められて信憑性を高められますしね。」
「おいおい、あんた達、そこまで勘ぐるか。」
「知っているかもしれないけど、魔族の内部が分裂している状況にあるのよ。なので、どんな情報も嘘と真実が混ざっているのよ。」
「なるほど、この獣人が死のうが生きようがあまり変わらないんだ。」
「その漏れた中身が広まったかどうかね。そもそもあまり信憑性のない話だし。一方で公然の事実とも言われている内容だしねえ」
「話していたのは、誰なの」
「ベヒーモスと言っていました。」
「おやおや、共存主義の筆頭の名前じゃない。それはすごいことね。天地がひっくり返るわねえ。もっとも本当だとしたらだけど。」
「わざと嘘だと思わせるということかもしれませんね。」
「それでもあえてその名前を出しますかねえ」
「やはり魔族絶対主義派の工作でしょうか。」
「どうでしょう。」

「にしてもここまで良く逃げおおせたわね。あなた。」
「ああ、いつ頃から逃げておるのじゃお主。」
「3日前くらいからです。」
「この森に来たのはさきほどです。」
「誰かに送ってもらったのかな」
「いいえ、そんな協力者はいません。」
「はい、ダウトーー」
「なんですか。ダウトって」
「うちで今、流行しているカードゲームですよ。」
「それはそうとして、そこの魔族さん。あなたはこの獣人の言葉の証人として、それと、獣人を殺したことで、その一族の恨みを買わされるところでした。」
「どういうことだ」
「つまり嘘の証人として引っ張り出されたのです。」
「ほう、頭の悪い私に教えてくれ。」
「この獣人は、最初から殺される前提なのです。今、その獣人が言った嘘をあなたに告げてね。」
「あなたは、その嘘を知ったまま帰還する。その話を報告する。そして、その噂されている人とともに疑われる。一方で今回の件を企んだ者は、無罪の獣人があなたに殺されたと宣伝する。あなたはその獣人一族に狙われる、最終的には呪いで命を落とすという感じですかねえ」
「ここに逃げ込んだ理由は、私がいるからですね。」アンジーがその魔族と獣人にそれぞれ視線を合わせながら言った。
「ああ、ルシフェルに筒抜けじゃ。ここに連絡係がいるからな。そしてルシフェルの不安をあおる。疑心暗鬼にさせればそれでいいし、信頼関係を少しでもゆるがすことができるならいいと思ったんじゃろうなあ。」
「残念ですねえネクロマンサーさん。そろそろ死体から死臭が発生しかけていますよ。」
「ふんそこまでばれていたか、ならばこのゲームは終了じゃ。」その獣人はそう答え、小刻みに震えだす。私は思わずその獣人の回りにシールドを展開する。シールドの中では、獣人の震えがひどくなり、最後には爆散した。

「これは、まあ魔族絶対主義派のちょっとした時間稼ぎですね。」
「私は巻き込まれたという事で良いのか。」
「そうですね、しかも獣人との諍いの種にされて、そこから魔王様が獣人と調整しなければならなくなったでしょうから。」
「姑息な事を」
「魔族絶対主義派もかなり追い詰められていますね。」
「とにかく時間が稼ぎたいのだろう」
「ちなみに私はなんと報告したら良いと思う」
「何も・・・ありのままでいいんじゃないですか。そうですね、追いかけたドラゴンの縄張りに侵入してしまった。そうこうしているうちに獣人が爆散した。原因は不明で何も聞いていない。でどうですか。」
「確かに嘘は言っていないな。お主らと接触したことは言ったほうが良いのか」
「聞かれたら答えて下さい。ドラゴンとその配下には会った、話もした、その間に獣人は爆散した何も聞いていないでいいですよ。うそは言っていませんよね」
「そうだな。」
「私の方からルシフェル様には報告をしますので、何も無いとは思いますよ。もし事実がねつ造されたらその依頼主があやしいことになります。ますます反対派がまずいことになりますね。」
「依頼主は、そんなことは知らないていで聞くじゃろうしな。大丈夫じゃ。」
「まったく馬鹿げている。私がこんな事にかり出されるとはな」
「良いですか、組織に組み入れられるということは、理不尽なこともあります。それに耐える必要はありません。後ろ盾が弱いとすれば逃げればよいのです。」
「そんな、今更逃げ切れないだろう。」
「そんなことはありませんよ。共存しているところもあります。もちろんここではありません、ここは個人的なつながりでしかありませんから。他にもっと大きな里があります。」
「少し考えて見るよ」
「それにしても今度は、ネクロマンサーですか。もうなんでもありですね」
「魔族なのか獣人族なのか。たぶん魔族なのだろうな。」
「そのまま外に出して死体処理しないとなりません。」
「持ち帰ってもいいか、始末した証拠にしたい」
「魔法残滓を見てみたいので見てからになりますが。」
「かまわない。魔力残滓を見てわかるのか?」
「見てみないとわかりませんが、何事も勉強ですので。」
「そうなのか」
「パムさんとメアさん申し訳ありませんが、これを外に出してもらえませんか。」
「はい」そう言ってその樽状の物を裏口から出した。玄関から出すには少し大きかった。
「ご一緒にどうぞ。」私は玄関から出ようとする。
「あ、ああ、わかった。一つ聞いて良いか」
「なんでしょう。」
「今更聞くことでもないが、俺が恐くないのか」
「家にまで迎え入れておいて怖がっていたら本末転倒でしょう。むしろ、今度はあなたとどこで会うことになるのかと考えてしまいます。」
「そういうことを考えているのか。」
「ええ、出会いは縁ですから。」
「そうなのか」
「まあ、普通は魔族を見て怖がるよなあ。」モーラが突っ込む。
「私はかなり怖がってますよ~」エルフィがさすがにびびっている。
「ご主人様の前でそのような姿は見せられません。」メアさん外に出たはずでは。
「親方様に何もないよう、攻撃態勢です。恐いけど」レイ、尻尾が丸まっていますよ。
「あなたの剣には私たちに対して殺意がないのです。恐くはありません。」と、ユーリ
「同意です、あなたに私たちに対する敵意はありませんね」と、パム
「ま、家に家主が入れた時点で客として扱う。そういうことよ。」アンジーが最後を締める
「お主、そういうものなのか?」
「まあ、そうなんでしょうねえ。」
「はは、おもしろいな」
そうして全員で外に出てその樽状の物を開ける。腐臭が一瞬だけ立ちこめる。
私は近づいてその爆散した死体をつついてみる。やっぱりわかりませんねえ。
その魔族は、名前も告げず。爆散した死体のうち洋服などわかりやすい物を持って帰って行った。
見送る我々は、
「でもどうやって2人とも結界を抜けてきたのかですねえ。」
「死体じゃからとは考えられんか?」
「3日前からでしょう?」
「あれは、嘘ではないか。現にあの魔族は、気配がいきなり現れたぞ。」
「あと、いつ殺して操っていたのでしょうか。」
「ふむ、何か気配を消す道具があるのかもしれないな。」
「気配を消す事ができるのなら、是非知りたいです。」
「ああわしもじゃ」
 そうして、ちょっとした事件はすぐ解決した。

ここは、魔王城、あまり明るくない、いやむしろ暗い城だ。その中の広い部屋の奥の方に大きい机があり、そこに立派な白い羽をたたんで、端整な顔立ちの顔の白い男が座っている。
「戻りました。」さきほど、戦っていた魔族の男です。
「会ってきたか」
「はい、遠くから彼らを見張っていたのですが、他の魔族から、近くにいるならと、人捜しを頼まれて、結界を越えて行ったら会えてしまいました。どうやって会おうかと思っていましたが、意外に簡単でした。」
「どう思う」
「考え方はまさに勇者ですね。」
「やはりそう思うか」
「はい、ですが、人間のための勇者ではないですね」
「だよなあ。いったい誰のためなのか」
「そうですね、ミクロ的には家族のための勇者。マクロ的にはこの世界の勇者ですね」
「この世界の勇者とな」
「はい、人族とか魔族とかを越えて、正義のために戦う勇者というところですか。」
「そうみえるのか、ならそうかもしれないなあ」
「なので、ルシフェル様の考えている対魔族用人族の勇者ではありませんね。」
「やっぱり使えないか」
「たぶん残念ながら。」
「やっぱり消した方がいいのかなあ」
「今はやめておいた方が良いかと思います。」
「なぜだ?」
「まだ、人間を間引くには時期尚早ですし、人間のための勇者をもう少し育てて魔族に矛先を向けさせる必要があります。そうしないと人間を間引きする理由ができないからです。さらには、他の種族と人族とを切り離す必要もありますし、他種族と魔族とが信頼関係を築かなければいけません。まだそこまでの信頼関係が築けていないので、今、ことを起こすと、他種族は魔族にも不信感を持ち、今度は我々に牙を向けると思います。
その中にあって、彼は、勇者ではありませんが、彼の「縁」の力で種族を越えてつながりを作っています。本来の勇者ならこのまま野放しにすると、もしかしたら、どんどん種族間の垣根を越えてつながってしまい、対魔族で団結する可能性もあります。」
「ならば、なおのこと早急に始末する必要があるではないか。」
「本来の勇者ならです。残念ながら彼の繋がり方はいびつに思えます。家族を守るためにと言う部分が大きい。ですので、個人的なつながり方が絶対優先で、妥協や打算ともとれる契約を他の種族とするとは思えません。まあ、同盟なりの契約をできたとしても、相手側をだまして彼を裏切らせれば勝手に殲滅してくれると思います。ですから今のところは、様子を見ていて、ある程度の種族と深くつながった段階で相手側から裏切らせることで、何とか始末できるかと」
「それは、しばらくは、泳がせておいて、こちらの都合の良いように使うコマとしてとっておくということか。確かにあれだけのメンバーをそろえていて、今の段階ですでに、人間側からも魔族側からも疎ましい存在になってくれている、膠着状態を作り出すには最適じゃな。」
「そうですね」
「そもそも、信頼関係を築く可能性は、ほとんどないと思うがどうなんだ。人間を性悪説だと言っている男だぞ。」
「だからこそ、彼は他の種族から信頼される可能性があるのです。」
「ああ、逆もまた真なりということか。ちなみに魔族が彼の仲間になる可能性はどうだ。」
「実のところ、可能性はあります。」
「お主もしや。」
「ええ、ルシフェル様のお使いでなければなびいていたかもしれません。一緒に暮らしたいかというと別ですが、すこしだけ興味がわきました。」
「魔族も仲間になれるか」
「そうですね、仲間になれるかと言うとそうだと思います。」
「歯切れが悪いな」
「あの家を監視していたときに彼が孤狼族の長との会話で見せたあの激情は、とても恐かったのです。彼は、家族、礼節という幻想にしばられ、それを壊さないようにするのが自分に課せられた義務みたいなところがあるようで。家族と礼節以外は、この世界などどうでも良いというのが見え隠れするのです。世界と家族を天秤に掛けられたら家族を選び、この世界を見捨てるでしょう。それが恐い。私が仲間になったとして、仲間と家族は違うと言われて切り捨てられそうな気がします。」
「なるほど、家族愛ね。見捨てたところで世界がなくなれば終わりのような気もするが。」
「はい、それでも彼は空間を操れると噂されています。そうなった時には、どうにかするつもりではないでしょうか。もっとも、今の彼には、そこまでの力はないでしょうけど。」
「人は何世代も交代して生きていて何度か滅亡しかけても文明をリセットされても生き延びている。すさまじい生命力であり精神力じゃ。生への執着じゃ、生存本能なのかもしれないな。」
「そうでしょうか。彼をこの世界に送り込んだ者、仮に神としますが、神はいったいどういうつもりで彼をこの世界に送り込んだのでしょうか。」
「まあ、この世界に生きる我々には思いもよらぬ理由なのだろうな。」
「そうですね。あと、あの魔法使いについてもう一つだけ、対魔族用人族の勇者にする方法があります。」
「ああそうだな、それは対魔族用と言うよりは対私用勇者ということだろうが。」
「そうですね、失礼しました。彼の家族の誰かひとり、もしくは全員を殺せば間違いなくこちらを殺しに来ます。でも、それでは、人族に恐怖を植え付けられませんが。」
「その前に人族の勇者として持ち上げなければならんなあ。それは難しいのはわしにもわかる。」
「単独で、都市国家とでも諍いを起こしそうですからねえ。」
「逸材は適材ならずか。まだまだ見守らなければならんか。」
「配下の者を交替で見張らせます。」
「ああ、これから何が起こるのか楽しみになってきたよ。」
「言ってはいけないのでしょうが、私も少し興味があります。」

続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...