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第17話 3千対1

第17-1話 家を焼かれる

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発端
その煙は家の方角から立ち上っていた。

最初に見つけたのはエルフィ。荷馬車の幌の上でのんびりしていると、見えたという。

さすがに自分の家の方角とはいえかなり遠いのでまさかと思っていた。疑惑が確信に変わるまで、それからさらに時間がかかった。
山火事である。煙が小さく一筋上がっているだけではあるけれど。
いや、あそこは、薬草の畑にしており湿地にしているから火の延焼はあり得ない。
馬たちも危機を察知したのか徐々にスピードが上がっていく。制御するエルフィもおちつかせるのに慌てている。
途中、十数頭の馬に乗った一団とすれ違った。こちらと挨拶することもなく、かなりの速度で移動している。どうもうさんくさい。
到着してみると薬草の小屋が燃やされ、薬草畑が3分の2焼けているのを見て、私はめまいがしました。
「これはさっきすれ違った者達がやったのでしょうか」
「そう思いますが、残念ながら証拠がありません。」
「さっきの一団の後ろの者がかなりの量の袋を抱えていました。あの袋は薬草を持ち出したのではありませんか。」
「ああ、証拠が確保できそうですね。」
「二手に分かれましょう。馬車を止めます。」
馬車を2両に戻して、小さい方の馬車を軽くする。
「ユーリとパム、レイであの者達の後を追いかけてください。どこかに野宿あるいは、街まで走るはずです。残りの方達は、私と一緒に消火活動に」
「わかりました。」
「決して近づかないでください。野宿しそうならその場所からレイが場所を知らせに来てください。」
「ごめんなさい、私がそちらに向かいたいのですが、消火をするには私の力が必要だと思いますので」
「わかりました。」
二手に分かれて私たちは家に戻る。幸い、ほとんど延焼せず家と厩舎は、結界の効果なのか壁を焦がしただけで終わっている。しかし、倉庫はそうはいかなかった。
「これはひどいのう」
「薬草の乾燥に支障が出ては困るので、結界から外していたのですよ。残念です。」
「それでも、使っていた袋とかまだ焼け落ちていません。」
エルフィが畑の方から戻ってきた。私を見ると悲しそうに首を左右に振った。どうやらだめだったようだ。
「試作の畑の方はやっぱりだめですか」
「全滅ですね~、せっかくうまくいっていたのですが~。土が乾いてしまって、しばらくは、元には戻りませんね~これはショック~」
 試行錯誤の結果、やっと良い方向に育ち始めたところだったのですが。
「まあ、家が燃えなかっただけよしとしましょう。エルフィごめんなさいね。こうでも言わないと心が落ち着かないので。」
「旦那様が一番、畑作りを頑張っていたじゃないですか、それを思うと悲しいです。」
「ありがとうございます。メアさん。」
「はい、とりあえず今後を考えましょう。」
「そうですね。モーラ、アンジーすいませんが・・・」
「ああ、関係者への裏取りじゃな。わしの洞窟を確認した後、町に行って来るわ。」
「お願いします。アンジーには、今回の件、魔王様にお伝えください、まさかとは思いますが、可能性を潰したいので念のため確認をお願いします。」
「そうね、まずあり得ないけど、モーラと一緒に町に行って来るわ。」
「お願いします。」2人は少し離れたところから、飛び去っていった。
「エルフィ、周囲の状況は確認できますか?」
「今のところ大丈夫ですね~」
「では、ユーリ達の所に向かいますか。」
「は~い」馬たちの目の色が変わっている。怒っているのですね?鼻息荒く蹄が地面を蹴っています。
「では、エルフィよろしくお願いします。」
「私も一緒に行きます。」メアさんもちょっとただならぬ雰囲気です。
「一緒に来ていただけるなら、私を抑える役をお願いしたいのですが。」
「ご主人様、残念ながら今回ばかりは難しそうです。」
「みんなそうですよね。」
途中でレイと合流しました。夜盗団はすでに野営先を川の河原にしたようである。
ユーリがかなり離れた場所に馬車を止めて、我々を待っていた。
「パムさんが様子をうかがいに行っています。」
「なるほど、エルフィどうですか。」
「もう少し近づけば会話は聞き取れますね~」
「モーラとアンジーから連絡があるか、確証がつかめたら近づきます。」
そうしてしばらくは、その場所にじっとしている。少しして、盗賊の集団の様子を見に行っていたパムがもどってくる。
「会話を聞いていましたが、ぬし様が以前に会ったという王女様のところの王様の家臣が雇ったようですよ。」
「ああ、それでは、問題なさそうですね。」
『魔王様からは、事情は聞けたわよ。ルシフェル様はそんな小さいことはしないと、この前会った暗殺者が断言したわ。』
『あのときの暗殺者さんですか。いきなり、前に出てきましたね』
『私たちに顔が割れたので今後は私たちの対応をするそうよ。』
『なるほどね。』
『モーラはどうでしたか。』
『やはり他の者達のからみではないな。エリスの所にも何度か嫌がらせがあったみたいじゃが、例の賢王らしいぞ。』
『盗賊達もその話をしているようですねえ。』
『ふむ、慎重に対応しないとけっこうまずいからな。まだ手を出すなよ』
『どうしてですか?』
『もうじきそちらに着く、全員に話しておかないとな。先走られても困るからなあ。』
『そんなに慎重にならなければいけませんか』
そうこうしているうちにモーラとアンジー、なんとエリスさんまでお見えになりました。
「まだ手を出しておらんな」
「そうですけど、一体」
「盗賊じゃが、エリスからの話だと、国使みたいなのじゃ。国の依頼書を持ってエリスの所にきておる。」
「なるほど、国使が盗賊ですか。なおのこと許せませんね。」
「おぬしならそうなるじゃろう。だが殺すなよ。殺せば、あっち側はどうとでも難癖をつけられる。最悪攻め込んでくる可能性がある。」
「ああ、口実ですか」
「今は、そんな状況ではないがいずれそれを理由に攻め込んでくるかもしれぬぞ」
「うちが狙われた理由はなんですか。」
「隣国との戦争が長期化して医薬品が欠乏しつつあるところに、効果のある薬草が流通を始めていてな、それに目をつけて買い占めようとしたらしいわ。国の力を使ってな」
「なるほど、あんな国にまで流通してしまいましたか。」
「それについては、私も悪いわ、今回の元魔王一家の騒ぎの間、冒険者への闇流通が公然化していったのに発見できずにいたから。」
「ああ、水面下でそんな話もありましたね。それはしかたがないです。しばらく戦争はないと言っていましたけど。戦争が始まったんですか?」
「少し前にあの王様が隣国から奪い取った領土があるのだけれど、それを取り返しに隣の国が反撃に出たのよ。」
「それは、しかたがないことですねえ。」
「あの略奪戦争から二十数年経過し、城壁都市を拠点にして、住民も定着を始めていたんだけれど、その城壁都市をいきなり奪われたのよ。なんでも、今の王様のやり方に不満があった一部の者達が寝返ったらしいわ。そこに住んでいる魔法使いがそう言っているのよ。」
「それで、戦争再開にあたって薬が必要になったということですか。」
「ええ、以前いた街や今住んでいるこの町は、どこかの国の属国ではなく経済都市だから、自衛が必要になるのだけれど、間に壺の国があるおかげで、賢王の国から直接攻撃されることはないのよ。今回壺の国の王は、この薬草については一切知らないからうちの国には関係ないと賢王に話していて、ならば、我が国で確保しても問題ないことを承諾させられたそうよ。そして、国として私の所まで買いに来たと。でも、そもそも供給できる量を作っていないことを話してお帰りいただいたのだけれど、在庫はないのかとか、店の中の品物を検分させろとか、私がいるときには必ずやってきては、邪魔をしていたのよ。」
「なるほど、でも、私の家が狙われたのはおかしいですね。」
「そこは、わからないのだけれど、出入りする人間を見張っていたのじゃないかしら。そして、突き止めたと思うのよね」
「それは、かなり切迫していますねえ。今回長期にいなくなったことで、盗みに至ったという事ですか。」
「その前は、獣人やら魔族やらが出入りしていたから警戒していたんじゃないの。」
「住民に不便がないように人間は結界を通れるようにしていましたからねえ。でも戦争になるというのはどういうことですか?」
「そこじゃ、国使を殺すという事は、敵対行為と取られるということじゃ。」
「そうですねえ。じゃあ捕まえてそのままその王の所まで行きましょうか。」
「その者達が本当のことを話すと思うか?わしらのせいだと国王に訴えるのは、間違いないぞ。買い取ったものを奪われたとか言い出すぞ。」
「そうですね、それを証明する方法はありませんねえ。じゃあ誰とも知らない夜盗に殺されてくれればいいですね。」
「おい、まさか。」
「ああでも、こちらが襲われてやむを得ず殺すのは正当防衛ですが、こちらから殺意を持って殺してしまえばそれは人殺しですねえ。でも、盗賊のところに私が身一つで行けば、きっと襲ってくれますよね。」
誰も答えずにいる。そうだ、誰もが同じ気持ちなのだ殺したいほど憎いと。
「今回の件、私ひとりで片付けますね。」私は皆さんに聞こえるように言った。
「行かせませんよ」アンジーが腕をつかんでいった。
「行かせてくださいよ。」
「どうせ、あそこにいる盗賊をひとまとめに捕まえて、そのまま直接王様のところに行って直談判して、脅して帰ってくるのでしょう?」
「まあ、だいたいそのとおりですねえ、ついでに王女に王様になってもらおうかと。」
「まあ、人を殺さないつもりでいるあんたのシナリオはそんなところよね。その後その王様が何をしてくるかわかるでしょう?」
「さすがに隣国をまたいでこちらに侵攻してこないでしょう。まあ、その意思を示したところでお灸をすえにいきますが。」
「あなたがやろうとしていることは国を動かそうとしているのよ。」
「でも、前回も壺の件の時は、あそこの王に直接理解をしてもらいましたよね。」
「前回と今回は状況が違うのよ。わかっているのでしょう?」
「まあ、確かに違いますね。」
「今回は、あたし達の家の場所を知られているのよ、今後は、常に家と家族を守らなければならないの。国を相手にね。」
「でも、魔王様にも家の場所を知られてしまいましたしねえ。今更ではないですか。」
「ルシフェル様は、以前、敵対するときはお互い予告すると言ったでしょう。それは守られるわ。」
「敵対すると宣言されたら、それからは、魔族と戦いの日々ですね。」
「それはそうなんだけれど、でも、私たちは、国にまで干渉してはいけないのよ。」
「では、どうすれば今後も安心してここで日々の生活の糧を得て暮らしていられるのでしょうか。」
「そうですねこの人達の記憶を忘れさせることくらいですかね。忘れさせるというよりは、違うことと認識させることですか。」
「記憶誤認ですか。」
「記憶を1日丸々消したりするとそこに空白というかひずみができるので、そのひずみに昨日やったことを今日もやったこととして思い出すようにさせます。」
「昨日、家を見つけたと記憶していることを、一昨日店に行って因縁をつけたことにすり替えて、家を見にも行ってないことにします。ここに野宿しているのは、期限が来て帰る旅路なのだと思い込ませます。」
「大丈夫ですかねえ。」
「ほころびがいつ出るかですが、王の前か臣下に会って質問された時に違和感があって思い出すかもしれませんが、普通は昨日何しておとといは~と、記憶を順番に思い出そうとするので、記憶が連続していれば大丈夫だと思います。」
「では、その方向で薬草を取り返しに行きますか。」
「だいぶ冷静になったようじゃな」
「はい、落ち着きました。では、エルフィとパムさんは、ひとりも逃さないように彼らの後ろに回ってください。」
「はい」
「特にエルフィは、人数を確認して漏らさないように。」
「は~い」
「では行きますよ」

「こんばんは~」私は、たき火に近づいて行く。両手を挙げて、降参するように。後ろには、ユーリとメアがついてきている
「誰だお前達」
「何か食事をされているんですねえ、火の明かりと匂いにつられて来てしまいました。」
「おまえらにやる食い物など無いわ」
「そうですか残念です。そのかわり、持っている荷物をいただきますね。」
「はあ?俺らから荷物を奪う?ふざけるなよ。できるものならやってみろ。そんな子ども連れで何がで・・・まさか」
「いやあ、私たちから奪っていった荷物だけでいいのですが返してもらえませんかねえ。」
「いや、これは、さる国に献上しなければならないもので・・・」
「盗んだものを献上するのですか、すごいですねえ」
「こちとら、その国の国使としてきているんだ、うかつに手を出すとその国が動くぞ」
「国使が盗みですか。ひどい国ですねえ。」私はそう言った後一瞬消え、その男の前に現れる。
「ひっ」その男は怯えている。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないですか。どうしたんですか?」その男の顔に出来るだけ顔を近づけなめるように見る。
「いや、俺がよく噂で聞いているやつら・・・人達によく似ているので・・」
「へえ、どんな噂ですか~」私はちょっと面白くなってきました。
「やさ男と女の子ども・・・さん2人とメイド服を着た女・・・の人、大剣を背負ったおん・・女性、あと、エルフが・・」
「そうですか、残念ですねえ、エルフは今ここにはいませんよ・・・それで、どんな噂なんですか~」
「いや、関わるとろくな事にならねえ、両腕切り取られるらしいってなあ。」
「それは、正しくないですねえ、両腕を切り取ってもちゃんとつけてあげるんですけど。」
「あ、ああそうなのかい?それはいいことだなあ。」
「でも、後で落ちるかも知れないってその男は言うんですよ。違いますか?」
「ああ、ああそういう話だ。まさかとは思うが・・・」
「違うと思いますよ~エルフも一緒にはいませんので、でも、あなたの後ろにエルフが立っているかも知れませんねえ、」その男は思わず視線を後ろにそらす。エルフの顔が炎に浮かんで見えた。
「ひいいい」全員が後ろを見てエルフが立っていることを確認する。
「おや、エルフさんいましたねえ。ところで、盗んだ薬草・・・」
「わかった返す。返す。火をつけたことも謝る。頼むから殺さないでくれ。」
「あれえ?国使だったんじゃないですか、偉い人なんですよねえ。」
「確かに国の依頼だし、国王からは、なんとしても手に入れてこいと言われていた。だが、命が危ないのにそんなことを言ってはいらねえ。頼む殺さないでくれ。」
「でもそのまま帰ったらあなたの身も危ないのでは?」
「取引先までしか追えなかったと言う。言うから。」
「わかりました。でも、倉庫を燃やしてくれたお返しはしませんとねえ」
「頼む腕を切らないでくれ。」
「そんなことはしませんよ。」
「本当か?」
「はい、ところで誰が火をつけるように指示したのですか?」
「そ、それは、」
「皆さんで指さしてください」全員がこの男を指さす。
「やはりそうですか。」
「仕方なかったんだ、手に入れたら他の所には売れないように燃やすよう言われていたんだ。俺は悪く無い、悪く無い。」
「そうですね、あなたに命令した人が悪いですね。」
「そうだろう?」
「だからといってあなたがそれをする必要はなかった。そうですよねえ」
「いや、だから、」
「腕を切らないと言ったじゃないですか、大丈夫切りませんよ。でも腕を切られたときよりももっとひどい苦痛をあげますね。」私は、その男の顔を手でおおい、こめかみを親指と中指で握りこむ。その男は、両腕でその手を必死にはがそうとするがその男の体が徐々に持ち上がっていき、足をばたつかせている。
「うああああああああぎゃあああああ」ひどい叫び声を上げ、その叫び声が止まり体ががくりと動きを止めた。手が離されて、空中にあったその体は、どさりと地面に落ちる。こめかみには黒い跡があり、血がにじんでいる。放心状態でうつろな目をしている。
「大丈夫ですよ、あなた達には痛みがないようにしますから。」私はそう言って、両手を前に出して指を握ったり開いたりして近づいていく。
『ひとり逃げました。見えません。』エルフィが心の声を叫ぶ。
パムさんが『ああ、大丈夫です。ワイヤーでしっかり捕まえています。』
『よかった~』
『この方はたぶん魔法使いですよ。どうしますか。』私は、向かう方向を変え、その場所に向かう。
「逃げられなくて、残念でしたねえ。」人の体の形にからまった細い糸が浮いている。私がパムに言われて作った特殊な糸だ。声をかけるとその人は姿を現す。
「ねえ、取引しない?」ずる賢そうな目で薄笑いを浮かべた女の口がそう言った。
「何を取引するのですか?」
「今回の事、王様には黙っていてあげるわ。」
「それが取引の条件になるのですか?」
「私が戻らないと探しに来るのよ。どうしてかわかる?」
「どうしてですか?」
「私がねえ王女と一緒に勇者をやっているからよ。」
「それだと探しに来るのですか?」
「当然でしょ、勇者チームの一員に何かあったら大変ですもの。」
「もしかしてあなた、さきほどうちの納屋に火を掛けましたか」
「それと何の関係があるの。そうよ私が火をつけたわよ、それが何か?」
「勇者様の一員が火付けをするのですか。一般の薬師の小屋を」
「だっていないんですもの、それが王の命令だし。」
「あなた王女の勇者の一員であって王の手下じゃないんですよね。あなたの正義はどこにあるのですか。」
「あるわけないじゃない、私は魔物を討伐するだけよ、今回は、王に言われたから来たのよ、ちょっと興味があったから。それはね、あんなすごい薬をどうやって作るのか興味があったからよ。まあ、あんたたちいなかったしね。いたら、作り方教えてもらったあとに殺してレシピを自分だけのものにしようと思っていたけど、ねえ、作り方教えてくれる?教えてもらっても殺さないであげるから。」
「そうやって、王女の威をかりて好き勝手にしていると。」
「そうね、相手の国の市民を焼くのは私の仕事だしね。焦げる匂いを嗅ぐのは最高に幸せだから。」
「それを王女は知っているのですね。」
「さあ、私は王女が去った後に焼き尽くすだけだから知らないかもしれないわねえ。あ、でも最近疎遠なのはそれを感づかれたのかもしれないわねえ。あははははは」
「ならば今は勇者一行じゃないですよねえ。」
「王は一応勇者の一員と言ってくれたわよ。」
「実は、最近ではなくてかなり前から王女とは一緒に行動していませんよね」
「どうしてそう思うのかしら。」
「王女様に一度お目にかかったときにあなたはそばにいませんでしたよ。」
「ふう~ん会ったんだ~」
「さて、あなたのメッキもはげたようですし、どうしましょうかねえ。」
「ふ、ふ~ん。どうするつもりよ。」
「私は師匠がいないのですよ。なので、勉強させてください。いや、私と勝負してください。」
「へえ、ただでは勝負しないわよ」
「私を最大級の炎で焼き尽くした後、先ほど使った消えた魔法で逃げてください。」
「はあ?」
「私を焼き尽くせたらあなたの勝ちですからそのまま逃げられますよ。他の者にも追わせません。」
「へえ」
「ただ焼き尽くせず、逃げられなかったらあなたの負け、殺しはしませんけど、他の国の人とは言え人間を殺したことを少しは反省してもらいます。どうです?悪い話ではないでしょう?」
「なるほど、先に消えてもいいのね。」
「かまいませんけど、先に逃げようとしても逃げ切れませんよ。もっとも逃げ切れるほど遠く離れて私を焼き尽くすのは問題ありませんよ。」
「いいわよ~、じゃあ少し離れましょうか。」そう言って川縁から離れる。
「いいですよどうぞ。」声を待たずその魔法使いは消えた。
「あ~逃げましたよ~」
「わかりました。」私は、足に魔法を使い素早く移動して魔法使いの腕をつかむ。
「まってたわ~」その魔法使いは、そう言って魔法を使い、つかんでいる私を火だるまにした。しかし、私が手を離さないので火がその魔法使いの体に移り始める。
「このこのこの」声と同時に炎が何度も吹き上がる。しかし、私は腕を離さない。
「あんた私と心中したいわけ?」つかんだ腕から魔法使いの服に燃え移る。
「そんなわけないですよ。」パッと腕を放す。すでに私の周りの炎は消えている。
「私を黒焦げにすることもできず逃げることもできませんでしたね。残念でした。私はおかげで勉強になりました。」
「で、私をどうするのよ。」
「右手の人差し指をお出しください。」
「何を」出された指を左手の親指と人差し指で潰すように挟み込む。
「ちぎれるちぎれる」
「大丈夫ですよちぎったりしません。」
「何をしたのよ」
「簡単です、火の魔法を使ってみてください。」ちょろちょろと火が出る炎と呼べるものではない。
「これは、」少し力を入れると、その火が炎となり、自分の方向に吹き上がる。
「あつつつ。なんなのよこれ」
「しばらくは、そうして不便を感じてください。いつ治るかわかりませんので、あなたを恨む誰かが、それを知ってあなたを襲うかも知れませんね。すこしは肝を冷やしてください。」
「なっ」
「あと、私たちと会ったことを忘れなさい。」先ほどの男にやったように頭を鷲掴みにしてこめかみに力を入れる。ほんの一瞬「うがっ」と言ってその魔法使いは意識を失った。私は、鷲づかみにしていた手を離す。そして、どさりと地面に落ちたその魔法使いをみることもせずに、他の盗賊達に視線を向ける。誰もがおびえている。一番近くにいた盗賊の側に行き嫌がるその男の頭をわしづかみにして気を失わせる。その男が痛がらずに倒れたのを見て安心したのか、全員素直に術にかけられてくれた。そしてその場でみんな眠っている。
「終わったか?」モーラが聞いてくる。
「ええ、そんなにみなさん怯えないでください。何もしていないんですよ。本当に暗示をかけただけで、町に行ったが薬を作っている人には会えなかった、場所もわからなかった、当然薬も手に入らなかった。毎日薬屋を見張っていただけで成果はなかった。と思い込ませただけです。怖がらせたのは演技です。」
「演技なのはわかったけどノリノリだったわねえ。あんた才能あるわよサイコな悪役の」
「感情がつながっているからこそじゃなあ。だが、あやつらが憶えていたら夜中に絶叫するくらいの恐怖だろうに。」
「皆さんも怒りをぶつけたかったでしょうけど。毎度すいません。」
「さて戻りましょうか。」

モーラがドラゴンになり、隠密の魔法で消えた後私たちの馬車をつかんで、家の近くまで戻りました。
「もし、あるじ様の考えているとおりにあの国に乗り込んでいたらどうなっていましたでしょうか。」
「そうですねえ、あの場で言質を取った後、全員手足を一度切ったあとつないで馬車に乗せて、出発です。ああ、あの魔法使いは、あの話を聞いた後、燃やしていますね。」
「そういえば、あの指先の魔法が斜めになるのは。どうやったのですか?」
「いえ、何も。そこの魔法陣展開の所の領域を小さくゆがませたのです。なので、魔方陣が大きく展開できず、小さくなっていますから、火力を上げようと魔方陣を大きくするとゆがんでいるので方向がかわります。でも、一時的なものですので、すぐ直りますよ。記憶を変える前にショックを与えたかっただけなので。彼女のおかげで、透明化の魔法をゲットできましたしね。」
「なるほど。で、死体と盗賊を載せて馬車で行くのか。」
「途中で肉が必要になったら順番に誰かをエサにして、食いついたところで魔獣を殺し、傷薬で傷を治すというのを繰り返してその王の元まで行くと思いますね。」
「気が狂うであろう。」
「その前に魔獣の肉が余りますよ。そして、国使様をお助けしましたと国王の前に行き王女がいたなら、黒焦げの魔法使いを見せ、こういうことをしていたことを知っていますか?と聞きます。王様にはガタガタ騒ぐならこの場で殺すと脅しておきますね。」
「それで、私のことを無礼千万と言ったら、あなたの国の方が無礼でしょう。無礼な国とその国の王などいらないと言って王の首をはねたいのだが、良いですかと王女に尋ねますね。」
「王女がいなかったらどうするんですか?」
「そうですねえ王様を説教しているうちに連れてこいと言いますねえ。」
「そりゃあ災難じゃ」
「まあ、その説教の間にいままでしてきた占領の歴史を確認していきましょう。国益のための戦争と言った瞬間首に刀をつきつけましょう。いいかげんにしろと。だったら私の私益のためにこの国が潰されても文句は言うな、くらいは言わないとダメですね。まず最初にあんたの首をさし出しておけくらいはね。」
「首を取ったらそうですね、この者国益と偽り私腹を肥やし、国益と信じた兵の命を粗末にしたこと万死に値する。として、首を城前にさらすことにします。」
「相変わらずえげつないことしようと考えているのう」
「人間なんて、これくらいしないと変わりませんよ。しかもしばらくしたらすっかり忘れて私を襲いに来ますよ。」
「気分が優れません。」
「私も~変にリアルなイメージで気持ち悪いです。」
「これは、拷問にも近いくらいリアルなイメージでした」
「レイ、吐くなよ」
「毛玉がのどにこみ上げて・・・げろげろげろ」毛玉って猫じゃないんだから
「こんなもので終わって良かったわ。」
「ああ、そうじゃな」

続く


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