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第17話 3千対1
第17-2話 戦闘準備
しおりを挟むそうして、再び家に着いた。まだ木の焦げる匂いが立ちこめている。エリスさんは、途中で別れて町に帰って行った。
食べる気分でもないが、おなかが空いているので、メアさんが簡単な夕食を作り、とりあえずそれぞれの部屋に戻った。
部屋でも何をする気にもならないので、私は、風呂に向かおうと廊下に出ました。廊下には、モーラが立っていたが、気まずかったので私は部屋に戻ろうとした。
「何遠慮している。こういう時こそ一緒に入ってわだかまりを流すのじゃ。」
いつもはアンジーの言葉だ。
「それでいいんですかねえ」
「いいも何も湯船につかればいい気持ちじゃろう。」
「そうですね。では一緒に入りますか。」そうして再び階段を降りた。
「抜け駆けはなしよ。」
アンジーがすでに脱衣所にいた。髪をブラッシングしている。私を見るとブラシを押しつけてくる。いや、脱衣所でしかも裸でヘアブラシでブラッシングさせられました。確かに入浴前に軽く埃を落としたほうが良いらしいですが。私は、だまって髪の毛をすく。おいてある金属の鏡に映るアンジーは気持ちよさそうだ。何回か梳いた後、
「ありがと」
そう言ってブラシを棚に戻し、私の手を取って風呂場に入っていく。私はその自分の姿を顔を鏡で見た。そして、その顔の情けなさにシャワーを浴びながら涙を流していた。
「つらかったわね、お疲れ様。」
アンジーに声を掛けられ大声で泣いてしまった。2人とも別のシャワーで髪と体を洗いすでに湯船に入っている。私は湯船につかる。涙は収まったが嗚咽は続いている。
そんな中、次々と家族が入ってくる。何も言わずそれぞれがお互いの髪を体をお湯で流してから湯船に入る。全員が揃った。
「しかし、疲れたのう」
「まったくです。あの獣人さんは底なしに食べましたから。あとで食費を請求したいくらいです。」
先ほどの件には触れませんね。
「確かにすごい食べっぷりでした。」
「あのまま居座られたらたいへんじゃったなあ」
「自分の食い扶持は自分で稼いで来てもらわないと」
「あの子は元気にしているのでしょうか。」
「久しぶりに両親とゆっくり暮らせるのじゃ幸せだろうさ。」
「てっきり、あの子が~うちの家族になるのだと思っていましたよ~」
「確かに素質は十分じゃし、格も問題ない」
「格ってなんですか?」
「なんじゃ、お主も鈍感じゃな、ここに居る者すべてこの世界の一級品ばかりじゃぞ。」
「そういう意識はなかったわね」
「僕、わかりません」
そうやって中途半端に子犬になるのやめなさい。顔だけ獣人とか気持ち悪いですよ。人面犬ですか。
「そうか、わからんか。パムは、元英雄のドワーフの孫、ユーリは亡国の姫、エルフィは、異色のハーフクオーターエルフでハイエルフ、レイ、お主だって弧狼族の族長の孫にして、獣人の魔法使いじゃろう。そして、メア、この世界唯一無二のホムンクルス。そして、アンジー、この世界に唯一人化している天使。まあ、わしは、末端じゃが一応ドラゴンだしなあ。」
「おや、ドラゴンの世界の序列一桁、1柱をなす土のドラゴンでしょ。そして、最後に異世界からの異端児で変態の空間魔法使いですよね。」
「ただし日常生活特化型魔法使いですけどね。」
「だからあの子も格という意味では、十分資質はある、だがな。」
「だが?」
「あの子にはあってわしらにはないものがある。わしらには共通して、あるものが欠けているのじゃ。」
「そうよねえ。」
「家族・・・ですか」
ユーリが寂しそうにつぶやいた。
「そうじゃ、家族という概念がな。エルフィやパムは多少はあるのだろうが、転生してきて記憶のない者、小さいときに家族をなくし覚えていない者、小さいときから家族の愛情を受けなかった者、そもそも家族の概念のない者なのだ、それらが一緒にいるのじゃよ。」
「そう言われればそうね、そんなこと今まで考えもしなかったわ」
「口にしなかっただけじゃろう。言い方は悪いが、わしらは家族に憧れがあるのだろうな。だからこそ家族を大事にする。自分を省みずにな。どこまでが家族がしていいことなのか、その限界も境界線もわからないままにな。」
「それだけにあの子にはこのままずーっと幸せであって欲しいわね。」
「また会いたいです。」
「きっと会えるよ。」
と私が言ってしばらく静かになった。
その時、エルフィが何か感じたようだ。
「リビングに何かあります。」
「なんじゃと、誰も侵入できないはずじゃが。」
「何か音がしています。」
「ここにいてもはじまりません。急いで出ましょう。」
ばたばたと浴槽をでて、シャワーを浴び、タオルを巻いて脱衣所を出て行く。みなさんパンツくらい、はきましょうよ。
「ああ、生きていましたか。」声だけが居間に響いている。
「その声はルシフェル様ですね。」
「どうやってこの結界の中に声を届けていますか。」
「それはねえ、その結界のおかげで、直接連絡が取れなくなったので、わしの側近がそちらに行ったときにちょっと連絡装置を置かせてもらったのですよ。」
音をたどってパムがテーブルの裏から小さい豆粒状の物を剥がしてテーブルに載せる。
「なるほど、中継器ですか。」
「そう言うものなのか。まあ、家にいてくれて良かった。というかいるのはわかっていたが、声に反応しないので死んでいるのかと思ったぞ。」
「別な部屋にいましたからねえ。」
「すごいな、さらに別な部屋に結界を張っているのか。」
「単に距離の問題でしょう。さて、魔王様自らが連絡をくれるという事はかなり重大なことだと思われますが、どういったご用件ですか。」
「他人行儀だな。まあよい、そちらに危機が迫っている。注意するように。」
「また魔族絶対主義派ですか?」
「いいや、人間だよ。例の賢王を名乗る国がこれからおぬしの家を攻めに行くらしい。」
「私の居所は、相手には、ばれていないはずですが。」
「ばれたようだぞ。」
「そのことが起きたのは数時間前ですよ」
「たぶん、お主らがどう動こうと派兵するつもりだったのではないのか?」
「派兵ですか。人とは戦いたくありませんねえ。」
「たぶん欲しいのは薬草の製法だろうねえ。確かに魔族にも効果がある塗り薬だから、必要と思えないこともないのだが、魔族は普通に自分たちの回復魔法と豊富な魔力量で十分だからなあ」
「代謝もはやいからすぐ回復するじゃないですか。」
「だが、人間はそうはいかんな。」
「なるほど、最初から渡せばよし、渡さないなら力尽く、ですか。相変わらずどこが賢王なんだか。」
「なので、情報は教えるがわしらは静観するぞ。」
「情報ありがとうございました」
「あともう一つだけ忠告しておこう。今回、国を相手にしているが、決して勝つなよ。」
「なるほど、」
「ルシフェル様、勝つと私たちは・・」
「ああ、わしもかばいきれなくなる。なので、お主、そこにいる最果ての賢者とともにうまく言い逃れできる体裁を作って逃れよ。」
「相手の戦力が少なければ勝ってもいいと思いますが、さすがにここまで派兵はしてこないでしょう。」
「最終的には意地になってくるかもしれないのでな、これまでのようにうまくごまかすがよい」
「ごまかすようなことは、まあ、確かに水神とか使っていますねえ。」
「ごまかさないと、さきの森の件のようになるぞ。残念ながら下級魔族はお主らのことを聞いただけで戦意を失っているのだ。わかるな。」
「あの戦闘で逃げ帰った人達は見ていますからねえ。」
「一応な、魔族だって義のない戦いはしたくないものよ」
「では、できるだけうまくごまかしますよ。」
「いきなり国王強襲もやめておいてくれ。それが一番わしらを刺激するのでなあ。」
「魔族の本拠地なんて知りませんよ。魔王相手にそんなことできませんから」
「噂というのはそういうものなのだよ。一度恐怖にとりつかれるとそれを排除するまで疑心暗鬼になる。」
「ああ、確かにそうですね。」
「おっと、話しすぎた。一応この玉はこちらから一方的に音声を届けることはできるが、そちらが答えないとつながらないようにしてある。だから盗聴はできぬ。安心して置いていてくれ。」
「玄関に置いておきましょうか。」
「それがいいですね。」
「どこに置いてもいいがこれを使うときはたいがい緊急性があることだからな。」
「情報提供ありがとうございます。何かお返しできればいいのですが」
「今回の元魔王一家の件では本当に迷惑を掛けた。むしろ感謝したいくらいだ。ありがとう。」
「その言葉だけで報われました。では、また」
「ああ、頼むから生きていてくれ。」
「はい」
沈黙が部屋を包む。みなさんとりあえず服を着ませんか。湯冷めしてしまいます。
「はあ、動きが速いですね。あの時誰かに見られていたのかしらね?」
アンジーがエルフィを見てそう言った。しかし、エルフィが首を振る。
「では、連絡が途絶えたり、意識が無くなったりするとわかるようにしてあったんですかねえ。」
「何らかの連絡手段があるという事ですね。」
「まあ、魔法使いの里にはあるらしいから手に入れているのかも知れないな。」
エルフィとモーラとレイは何かに気付いた。
「夜も遅いというのに今度は来客か。」
「知っている人ですね。」
玄関をノックしてから答えを待たずに扉が開いた。エリスさんが入ってきた。
「あんた達何をしたのよ、あの国の軍が動き出したっていうわよ。」
「ああ、あの国にも魔法使いさんがいますから情報が入りましたか。それにしても数時間前のことをもう知ったのですか?」
パムが疑問形で言った。
「あそこの国の通信は、魔法使いの力を使っているから私たちにも筒抜けなのよ」
「まったく変な国ですね。そんな秘密にしなければならないことを堂々と通信してしまうなんて。ああ、私たちに聞かせたかったのですね。」
「そうかもしれんな。」
「では、今度は本当に出かけなければなりませんね。」
「軍隊を3千人ほど動かして進軍中だそうよ。」
「家にこの世界の地図ありましたっけ」
「簡単に作ったものならあります。」
メアさんが台所に引っ込み大きな巻紙を持ってきてテーブルの上に広げる。
「王都からここまで来るのに、普通の道を通れば、休みなしに進んでも1週間以上かかりますねえ。」
「しかし、他国との境界に兵を置いていれば、」
「となれば、ここには5日後くらいですかね。」
「ここに来るまで待つのか?」
「いいえ、ここの町に迷惑がかかってしまいます。進軍スピードを見極めて、広い草原にてお相手しましょう。」
しかし、その地図には平野だとか森林だとか具体的なことは何も書いていない。
「戦うのか?」
「できるだけ血を流さずに穏便に済ませたいので、ちょっとした虚仮威しで帰ってもらいましょう。どうでしょうか。」
みんなうなずく。みんなだって無駄な争いはしたくないのだ。
「なので、あくまで内緒でモーラ、レイとパムを連れてモーラの縄張りのギリギリのところで降ろしてすぐこちらに戻ってください。レイとパムは、そこから山を越えて国軍がどのくらいの進軍スピードなのかと初日の宿泊地を確認して、さらに戻ってくる時に2日目に野営しそうな場所を確認して私達と合流してください。」
「わしは手伝わなくて良いのか?」
「申し訳ないのですが、モーラの縄張りの外で交渉することになりますので、」
「しかし、わしも家族なのじゃぞ。」
「モーラわかって、私達があなたの庇護下にいて安全に暮らしていられるのは、人族以外の種族に対してなのよ。でもね、今回は、人と人のいさかいなの。だから、今回は見守って。」
「またわしは置き去りか。」
「元魔王の時は、役割を存分に発揮してもらいましたよ。確かにモーラの言う意味での活躍はできませんでしたけど。」
「あんたの格が高いからしかたないでしょう。暴れたら追放じゃなくて、里に戻されるかもしれないわよ。」
「それは嫌じゃなあ。まあ、しかたないのう。おとなしくしておくわ」
「エリスさん情報ありがとうございました。大変助かりました。」
「あなたに情報提供しておくことが、私の処世術という結論に達したのよ。この町が壊されても困るしね。貸しを作って積み上げておかないと何が起きるかわからないしねえ。」
「あの時は、すいませんでした。でも助かります。」
「何をするのかわからないけど急ぎなさい。今回は、時間が生死を分けるかもしれないわよ。じゃあね」
「ありがとうございました。」
エリスさんは、そうして帰って行った。
私は、少し考えた後、みなさんに声をかけました。
「さて、それでは、出発しますか。モーラ先行してくださいお願いします。」
「わかった。まあ、ちょっと試したいことがあるので、縄張りを越えて2人を置いてきてもいいか。」
「見つからないのであれば。」
「もちろんじゃ、お主が、あの元魔王がまとっていたローブを解析していたじゃろう。あの時わしも解析してみたのじゃ。さすがに体がでかくなったのでなあ。どこかに行くときに常に見られるからな。さらにあの魔法使いが使った気配が消える魔法。あれならわしでも使えそうなのでなあ、ちょっと実験してみるわ」
「失敗したらどうするんですか?」
「そのときは、見回りの時についついはみ出てしまったと言い訳するわ。」
「まあ、いいでしょう。」
「2人を置いたら、わしは、馬車に戻って来て良いのじゃな。」
「ええ、大丈夫ですよ。突発的に何かあったらよろしく願いします。」
「そうじゃな。」
モーラは、家からから飛び出し、ドラゴンの姿になった。パムとレイを手に載せたとたんその姿は消えて、羽ばたく音とその風で揺れる木のざわめきだけが聞こえている。
「しかし、分析して体得するドラゴンですか。他の属性の魔法も憶えていきそうですねえ。」
「それはさすがにやらんわ、では、行ってくる。」
一瞬羽ばたきが強くなり、強い風が吹いて、モーラの気配は消えた。
「で、私達はどこに行きますか?」
「モーラが戻って来て問題の無いモーラの縄張りの境界線ギリギリのところに向かいます。」
「なるほど、では、食料などはどうしますか?」
「たぶん2~3日分あれば良いかと」
「そんなに簡単に終結しますか?」
「そのつもりです。あとユーリ、鞍を馬車に積んだままにしておいてください。たぶん私が草原を走ることになります。」
「はいわかりました。」
野宿の準備を馬車に積んだ後、家を出発した。馬車は3頭立てなので、結構なスピードで走っている。
羽の音が聞こえ幌の上に人が飛び乗ったようだ。
「まだこんなところを走っておったか、もう置いてきたぞ。」
「実験はどうでした。」
「大丈夫じゃ、ばれてはおらんと思う。あと、わしの洞窟の中にわしと同じ雰囲気の物体を置いてきたので、このままわしも一緒に行けるぞ。」
「それは心強いです。私が暴走した時には止めてくださいね」
「暴走する気まんまんじゃなあ。」
「何があるかわかりませんから。」
「では、目的地はどのあたりになりますか。」
「ここからモーラに乗せてもらい、モーラの縄張りの端の草原に降ろしてもらいます。そこから道のない草原やら山やら進みます。アとウンとクウには大変そうですが。進軍している軍にむけて直線距離で最短を行きます。」
「間に山がありますが。中腹まで行って山腹を通ることになります。まあ、山越えよりも最短になりますから。」
「何やら木の妖精ドリュアスが協力を申し出ているようよ」
「ああ、薬草燃やされて怒っていますか。確かに株が全滅していないと良いのですけれど。」
「それなら、進むスピードが上がりますね。」
夜が明けるまで、走り通しだったので、さすがに疲れて休憩を取っています。特に馬たちには休憩が必要でした。彼らもかなり怒っているらしく、夜からずっと興奮状態だったのでエルフィと私でなだめてやっと眠っています。
みんなが寝ている間、私とエルフィは、パムとレイに連絡を取っています。さすがに2人は、次の軍の休憩地の予測までしながらこちらに戻って来ているので、合流はまだ先のようです。
「もう一泊ってところかしらね。」
アンジーが眠い目をこすりながらこちらに来た。あなたが一番睡眠が取れているのかもしれませんねえ。アンジーは、3頭の馬に回復魔法をかけてくれていますが、やはり馬にも睡眠が必要ですよね。
「本当なら次の野営地に到着する前に段取りをしたかったのですが。」
「詳細を聞いても良いかしら。」
「はい、次に相手が野営地にしそうなところに到着する前に予告状を送って、到着した日の翌日にその場所から少し離れた草原で話し合いがしたいと通告します。」
「で、話し合いをすると。」
「はい、どうせ決裂しますがね。そこまでは考えてあります。」
「誰が来ると思いますか?」
「まあ、勇者様ご一行ではないですかねえ」
「王女が出てくるのかしら」
「国のメンツもかかっていますから必勝体制だと思いますよ。」メアが言った。
「そうなりますよねえ。戦って勝ったらまずいのではないかしら。」アンジーが言った。
「たぶん王女は、私と一度会っていますので、会敵した時に私を見て、その力を理解すると思います。ですから、この戦いには否定的になるでしょう。どこかに引き際を探してくると思いますけどねえ」
「変な横槍が入らなければうまく撤退してくれそうだけど、大丈夫かしら。」
「王女が出てこなければどうするのじゃ。」
「指揮官に私の力を見てもらうしかないですね。そうなると、手傷を負わせなければならないでしょう。」
「無傷では帰ってくれないでしょう。隊長さんは、国王への言い訳ができないでしょうし、プライドがねえ。」
「そこが厄介ですね。国王の前で圧倒的な力を見せるのが効果的なのですが、」
「さすがに直接国王のところに出現したら、その事を知った他国からも脅威認定されますねえ。」
「旦那様~パムから入電です~明日の野営地の予想が立ったそうで~す。」
「エルフィ、パムの言っている場所は私達からは近いですか?」
「山を越えて頑張ってきたおかげで、かなり近くにありますよ~。この後すぐ出発すれば、夕方には、到着しそうなところですね~。」
「内緒で壺の国の領地も駆け抜けてきましたからねえ。あと、その近くに広い草原はありますか?」
「大丈夫だそうで~す。かなり広い平原で3千人が反対側に整列するくらいの余裕はあるようですよ~。」
『そうですか。では、そこにしましょう。パム、レイに書状を持たせてください。』
『はい、書状には何と書きましょうか。』
『明後日の昼にこの場所もしくは、そちらの野営地でお話し合いをしましょうとね。残念ながら急いでもそこに到着するのが精一杯だと。こちら側はもちろん私ひとりです。と必ず書いておいてください。あと、その書状は、明日の朝に届けてください。なので、書状には、明日の昼にとなりますね。』
「大丈夫なの?」
「まあ、何とかなりますよ。パムさん、指揮官は誰ですか?」
『現在は、代行らしいです。明日、合流するようです。』
『誰かは聞けていますか?』
『姫と言っていましたから、たぶん、その方なのだと思います。』
『それは良い。話が早く進みそうです。パム、レイ、申し訳ありませんがもう1泊だけそちらでお願いします。』
『わかりました。ああ、レイが帰ったら頭をいっぱいなでて欲しいと小声で言っています。』
『レイ、聞こえているんでしょう。大きな声で言わないと聞こえませんよ。』
『帰ったら僕の頭なでてください!』
『いっぱいなでてあげますからもう少し頑張ってくださいね。』
『ワン』ああ、尻尾を振っているイメージまで伝わってきます。
「さて、休んだらもう少しだけその場所に近づきますかね。」
「さすがに斥候がいるんじゃないの?」
「ええ、なので近づくだけで周囲から様子をうかがいます。気付かれそうなら引き上げますよ。」
仮眠を取った後、食事をして、その草原が見える森の外れまで到着して、息を殺している。さすがに森の中で火を使うわけにもいかず、干し肉を食べている。もぐもぐ
『エルフィ、誰かいますか。』
『誰もいません~。ああ、周辺には本当に誰もいませんよ~。』
『明日の朝までここで待機ですねえ。』
『本当にうまくいくの?』
『予想通りならですが。あ、ちょっと催してきました。失礼。』
『まったく、早く行ってきなさいよ。』
『はいはい。』
そう言って私は適当な場所を探す。意外に適当な場所がない。広すぎるのだ。そうして草原をうろうろしている。
『遅くないかしら。何しているの?』
アンジーから聞かれた。
『見晴らしが良すぎて、なかなかするところが見つからないんですよ。』
『誰もいないんでしょう?』
『でも、いつ斥候が到着するかわかりませんよねえ。見つかって鉢合わせというのは、ちょっとねえ。見られたら恥ずかしいですし。』
『ばっ、ばっかじゃないの』
『真剣ですよ。』
『本当に誰もいませんよ~、ゆっくりしてきてくださいね~』
『エルフィはやさしいなあ、さて戻りますか』
『旦那様、まずいです。誰か来ました。』
メアがそう告げる。
『そうですか。では、逃げましょう。』
かなり遠回りして、しばらくしてから私はみんなのところに戻った。馬車はこの森を越えたところに止めていて、ユーリが見張っている。
『ただいま~』
『まったく、いつもは用を足しに行くとか言わないくせに』
『今回みたいな時には、言っておかないと誰かさんが心配して探しに来そうでしたからねえ。』
『そういうことは言わなくて言いの!』
『はいはい』
『斥候は、そのままここに居続けますかねえ。』
『普通は、ひとりは部隊に戻りますよね。』
『2人とも一度戻ったみたいですね~』
『ここではなくて野営地まで戻りましたねえ。確かに野営地の方がここよりは、防衛しやすそうですね。』
『ここは定期的に見に来るつもりなのかも。』
『我々も馬車まで戻りましょう。交代で見張れば良いと思います。』
そして夜が明ける。明日の昼まではまだ時間がある。
『レイは、書状を届けました、私達はどうしますか?』
『レイは、見られていますので、そのまま街道沿いに戻ってくださいね。しばらく走って追っ手から逃げられたと思っても街道をゆっくりで良いですから歩いていてください。パムは、進軍している隊のそばにいてつかず離れず見張ってください。そして、合流したのが王女なのを確認してからこちらに戻って来てください。』
『了解しました。』
『では私は、アと一緒にモーラの手に乗って、ちょうど明日の昼くらいにここに到着するような場所に降ろしてもらい、街道に出てレイと合流してぶらぶらとここを目指します。』
馬車に向かって移動し、アに鞍をつけてモーラの手に乗って街道の横に降ろしてもらう。そこには、すでにレイが座って待っていた。いや、獣人化していてください。馬に乗ったままだと、もふもふはできませんよ。そして、パムから連絡が入る。
『たぶん、王女と思われる一行が合流しました。このまま続けますか。』
『いえ、無理しないでくださいね。かなり迂回しながらみんなに合流してください。』
『はい、』
『ひまじゃー』
『確かにそうですが、もう少ししたら森も探索されますから、さらに森から離れた方が良いですよ。』
『あ?さきほどその兆候があったので、あの場所からかなり離れているぞ。というかお主すでに周りに何人か張り付いておるのではないか』
『ええ、攻撃してこないだけ楽ですねえ。もっとも寝込みは襲われそうですけど、レイもいますしね。あら、レイ、寝ていましたね。』
『馬が狙われないか?刻限に間に合わなくさせる手も打てるぞ。』
『そこまでしますかねえ。レイの毛が逆立っていないので大丈夫だと思いますよ。』
『では、そろそろ星が見えてきましたのでここで野宿しますね。』
『ああ、何かあったら言ってくれ。』
『私が行きます。』
ユーリの声がとがっている。
『必ず街道を来てくださいね。あと明日の朝には、馬とレイを託しますのですごすごと帰ってくださいね。』
『わかりました。しばらくしましたら合流できます。』
そして、夜遅くにユーリが合流した。わたしは、怒っているふりでユーリもしょぼんとしたふりで最後には私が抱きしめて許すという演技をしています。
『ユーリ~ずるい~、私が代わりたい~』
『えへへ』
そうして、2人とも私の膝枕で寝ていました。まあ、朝方には交代してユーリの膝枕で寝ていましたが。どうだ見張りの人うらやましいだろう。
起きてから、ユーリにアとレイを託し、そこからは歩いて現地に向かう。昼を過ぎおなかがすいた頃、草原の傍らに到着した。すでに3千人の兵士が隊列をきれいに組んで待ち構えていた。
続く
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ファンタジー
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彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
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