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第16話 魔族の子
第16-9話 葬送行進曲
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そして、正午近くにドラゴンが到着する。
「あのドラゴンは、誰ですか?」
「わからん、わしとて全てのドラゴンを知っているわけでは無いからな」
その手からエルフ、ドワーフ、弧狼族、魔法使いの里の者達がそれぞれ降り立った。モーラがその者達の所に行き。こう言った。
「こんな辺鄙なところに呼び出して。すまなかったな。身体に特徴ある種族ばかりじゃ、それぞれの紹介は必要なかろう。ドリュアスもすでに来ているので、こんな場所で申し訳ないが、早速会議を始めようか。」
モーラは、その場所に土を起こして、円卓と椅子を作り出す。もちろん、私達と元魔王様家族の席もその円卓の椅子のモーラの座る椅子の後ろに作られている。
「皆座るが良い」
全員が着席した。
「すでに会議の目的を話してあったと思うが、わしのところでは、魔族が襲いに来て、ここには置きたくないのだよ。それで、この元魔王の住むべき所をどこかにしたいのでな。どちらかの種族のところへ預けたいのじゃがどうだろうか。」
「別にどこでも良いですよ。私の所で無ければ。」
と、エルフ族の若い男は言った。
「同意見です。私の所は、場所は、知られていませんが、いつかは見つかって魔族から攻撃されることになるでしょう。魔族とは相互不干渉としていますが、その人達をかくまうことでそれも反古にされるでしょうから。」とドワーフの男が言った。
「そうですね。私の所も同様です。無理ですね。仮にそれが恩ある人たちからの依頼であったとしても同じでしょう。」弧狼族の若き男は、少しだけ申し訳なさそうに言った。
「魔法使いの里は、どうなんじゃ。」
モーラは、話そうとした魔法使いの里の女性の会話をわざと遮って言った。
「あえて、そんな危険な人たちをかくまうなんて無理に決まっているでしょう。元魔王様には、これまでの関わりもあるので、できる限り協力はしたいと思うけれど。さすがにそこまでは出来ないわねえ。」冷たくもこやかに笑いながら魔法使いの女性は言った。
「まあ、ドリュアスの所はどうにも出来ぬからなあ。」
とモーラはドリュアスを見ながら言った。
「わかりました。所詮私達はどこにも受け入れる先など無いと言うことですね。一生逃げ回ることしか出来ないと。」そう大声を出して立ち上がる元魔王様。
「まだ、話の途中じゃが。」
「もういいです。さあ行こう妻よ息子よ」
元魔王は、そう言って妻と息子の手を取り森の方に向かって走りだす。
「まて、会議はまだ始まったばかり・・・」
「いいえ、私達は所詮、魔族に殺される運命なのです。ならばいっそ。」
「いいから待たんか。」
モーラは、他の種族代表が立ち上がろうとするのを制して、自ら追いかけようとする。しかし、親衛隊がそれを防ぎ、元魔王の家族は森近くまで走り、そこで立ち止まり。こちらを向いて叫んだ。
「それでは、殺されるのでは無く、自らを殺します。さようなら。」
元魔王は、そう言って自分と家族に火を付けた。
「まて、よさんか。親衛隊も止めぬか。」
モーラは親衛隊に阻まれてその場所まで行けないでいる。そして、炎はさらに範囲を広げ、かなりの高さまで炎は燃え広がっている。
すでに3人は、炎の中で体を寄せ合い座り込み、燃え続けている。
数分の後、元魔王家族は消し炭になって地面に転がっている。
席に着いたままの族長代理達は、呆然とそれを見ていたが、炎が少しずつ小さくなっていきだししたところで、全員が立って、その死体を見に行こうとした。
しかし、近づこうとする者達に元魔王親衛隊の魔族は、
「近づくな、魔王様とその家族のご遺体は我々で供養する。決して触れないように」
そう言って、それぞれのマントをその遺体にかける。
私が近づくと、親衛隊のひとりが、
「すまないが馬車を手配してもらえないか。」
と、申し訳なさそうに言った。
「うちの馬車を使いましょう。遺体を入れる棺もご用意しますからここでお待ちください。」
「お手数をおかけします。」
「こちらこそ何の手助けもできませんでした。このような結果になったことを残念に思います。あと、遅くなりましたが、お悔やみ申し上げます。」
「いえ、何から何までお世話になりっぱなしです。」
モーラは、深いため息をつくと、族長代理達にこう言った。
「まあ、一度座り直してくれ。」
そう言われて、族長代理達は、座り直した。
「会議を主催したわしとしては、こういう結果になって不本意だが、ある意味互いの種族にとっては、幸運だったとも言えるであろう。なので、今回の会議は、無かったことにしてくれぬか。」
全員がうなずいている。
「では、この結果を持って、それぞれの里に帰って報告してくれ。会議は行われなかったとな。」
「納得できません。死体を確認したいのですが。」エルフ族の若い男が言った。
「そうか、そうだな。では、見てくるがいい。わしも少し気になるのでなあ。」
そして、親衛隊が見守る遺体の所に全員で移動する。
「遺体に触らないで欲しいのですが。」
「わかっておる。魔法使いの里の者。どうじゃ、調べられるか。」
「確認しましょう。」何か呪文を口にして手を動かす。しばらくして、こう言った。
「確認しました。間違いなく正真正銘、死体が3つですね。」
「だそうだ。わしがだましているとでも思ったか?」
「いえ、決してそのようなことは。」
「まあよい、わしの疑いも晴れたであろうからよかったわ」
「信じていないわけでは無かったのですが。念のためと。」
「帰った時に聞かれるであろうからのう。ちゃんと報告するが良い。」
「申し訳ありません。」
「では、そこに待っているドラゴンに乗り里へ帰るが良い。」
全員が一礼してドラゴンに向かって歩いて行く。ドラゴンの手に乗り空へ飛び立っていった。
「ドリュアデス殿、ありがとうな。」
「ええ、本当に死んだようでしたよ。では、私はこれで」そう言って、草の中に沈んでいった。
しばらくして、ユーリとエルフィが馬車に乗って近づいてくる。
「棺桶を持ってきましたので、遺体を運びましょう」
乗せてあった、棺桶をそこに並べる。彼らはその中に丁寧に遺体を入れて、私たちの馬車に積んだ。3つの棺をぎりぎり並んで積むことができた。
「お住まいになっていたあの洞窟に移動させましょう。そして今後のことを考えましょう。」
「そうですね、では、一度あの洞窟に戻りまして考えます。」
「できる限りのことはさせていただきます。」
「ありがとうございます。」
そして、全員がその場からいなくなった。夕暮れと共に冷たい風がその場所を吹き抜けていく。夜になると少し離れた場所に穴が出来ていた。
元魔王一家が自殺したという事実は、関係のあるすべての種族に知れ渡ることになった。それでもこれまでと同じようになんの動きもなくなった。特に魔族が動くかと思ったが、動きは今のところない。
「さて、次は遺体の移送ですね。」
「魔族は遺体を欲しがりますかねえ。」
「こればかりは、わからん。新しい里に持って行くと噂が流れたときにどう動くかじゃな」
「とりあえず、すぐに移動しないとだめですね。」
「今夜中に移動かのう」
「さすがに一晩はそのままにしないと怪しまれませんか」
翌日の朝にもう一両の荷馬車に乗ってあの洞窟に向かう。
「用意はできましたか。」
「はい、大丈夫です。」
「では、出発しますね。」
棺の入った馬車は、エルフィが御者台に、小さい馬車はユーリが手綱を握っている。
「遺体の移送にあたっては、2台の馬車でどちらも私がシールドを掛けておきます。周囲からは見つからないでしょう。今日の午後から出発して、モーラの縄張りを越えて夜になってもそのまま移動を続け、明け方に移動を中止して休憩と睡眠を取り、その後は、移動は基本夜に行い。夜が明ける前に早めに森の中に潜んで昼間寝る感じになります。」
「もちろん今回もモーラには不干渉をつらぬいていただきます。」
「まあなあ、魔族のトラブルじゃからなあ。静かに見守っていたことにしておく。」
「では、行ってきます。」
「気をつけてな。」『後でこっそり追うわ』
「はい、わかりました」『見つからないでくださいね』
そうして、2両の馬車は出発した。1両は、今まで使っていた荷馬車で、1頭で引いている。もう一両は今回のことにあわせて作った新しい車両で少し大きめに2頭引きだ。それぞれ、いろいろ進化させている。特に足回りについては、乗り心地を向上させ、悪路走破性と操縦安定性も良くしている。引く馬にも負担がかからないよう車輪のベアリングも改良してある。それらはこの世界では少し未来を先取りしているので秘密だ。
大きい方の荷馬車には、遺体と3人の元親衛隊員と他に獣人と元魔王家族3人が乗っていて、御者台にはエルフィとパムが座っていた。小さい方の荷馬車には、モーラとパムとレイを除く我々が乗っていて、御者台には、私とユーリが乗っている。
「急ぐと怪しまれますしねえ。」
そう言いながら、いつもどおりのペースで馬は駆けていく。
「それでも速度が速い気がするのですが。」ユーリが心配そうに言う。
「まあ、今回のためにいろいろと速く走れるよう馬車に工夫をしましたからねえ。」
「確かに揺れも少なく乗り心地も良くなっているし馬の引っ張る負担も軽くなっているから早くなっているのでしょうけど。この速さで急に止まれるの?」
「馬の動きに合わせて馬車が微妙に加減速するようになっていますから大丈夫ですよ。」
「相変わらずそういうところには便利な技術よねえ。」
「馬のスピードに合わせているのなら馬が走り出せばそのスピードでこの馬車は走れることになりますが。」
メアさんが心配そうにしている。
「きれいな道なら理論上可能ですが、実際は道が悪いですからね。馬の思うとおりには走れません。」
「そろそろ夕暮れです。停車場所を探して食事を取りませんと。」
「そうですね。」
後ろの馬車に灯りで合図を送る。
「馬の調子はどうですか?」
「まだ大丈夫みたいですよ~。少し休ませれば、夜明けまではいけそうですね~」
エルフィが馬と話をしている。かなり余裕がありそうです。
「食事をした後、少し休憩して移動しましょう。」
メアさんと親衛隊の方と元魔王の妻が食事を作り始める。馬用の干し草は、幌の上にカゴをつけて積んでいる。水は、私が生成した。レイとパムが戻ってきた。2人には事前にルートを確認してもらっていた。
「ありがとうございます。どうでしたか?」
「問題はなさそうです。」
「食事をした後、休憩して睡眠をとってください。」
「はい、」
「親方様、膝を・・・」
「ああ、はいはい。」
モフモフされながら眠りにつくレイ。ユーリがうらやましそうに見ている。
「おいで、」素直に私の膝に頭を乗せるユーリ。
「あらあら」
元魔王の妻がそれを見て微笑んでいる。背中にはエルフィが背中を預け、足を伸ばしたすねにはパムが寝ている。
「楽しそうですねえ」
「では私も」
アンジーがそう言って反対側のすねに頭を乗せようとしたところで、
「アンジー様、お食事の用意を手伝ってください。馬車ではずーっと寝てらっしゃいましたよね。」とメアが声を掛けた。
「わかったわよ」
メアが「お食事の用意ができました」の声に全員が目を開け。楽しい食事をする。
「さて、夜の移動です。何が出てくるかわかりませんよ。」
「そうじゃな」
「誰?」
「わしじゃよ。」
「ああ、モーラ、お早いお着きで」
「ふむ、食事には間に合ったか。」
「そろそろ出発のようですので、お早く召し上がってください。」
「さすがに今日は何も無かったか。」
「はい、今夜は何もなさそうです。」
「問題は明日以降じゃな」
「捜索の網にかからないよう移動速度を上げていますが、見つかりますよね。」
「そこの獣人、合流地点までは1週間と言ったか」
「いや、このペースで朝まで移動を続けられるなら、もっと早いかもしれねえ。」
「うむ。では、急ごうか。」
そうして第1日目の夜間移動は、無事に終わった。朝日が昇る頃に木陰のある所を探して、休憩している。
「さすがに眠いのう。」
「エルフィ大丈夫ですか?」
「メアさんと交代だったので大丈夫ですよ。」
「ユーリはどうですか」
「はい、大丈夫です。あるじ様の膝の上で寝ていましたから。」
「なんかずるいです。」なぜレイがそれを言いますか。
「交代制にしますか。」メアさんの目が恐い。
「では、私たちは先行します。」
そう言ってパムとレイが姿を消す。
「お願いしますね。」いなくなったであろう方向に向けて手を振りながら私は言った。
「帰ってきたら膝枕をお願いします。」
「あーー。ずるいー。僕もです。」レイが続けて言った。
「はいはい、でもここからが本番です。気をつけてくださいね。」
「はい」
「さて、仮眠取りますか。・・・皆さん目が血走っていますが。」
「あんたの腕枕を誰が使うか狙っているに決まっているでしょ。」
「いや、私も眠らせてください。」
「御者台で仮眠取ったでしょ。ユーリの膝枕で」
「それはそうですが・・・・」
「仲がおよろしいことですねえ。」
「まったくこんな男のどこがいいのじゃろうなあ。」
「あなたもそうなんでしょう?」
「ああ、まあ家族じゃからなあ。」
モーラは、元魔王と夜の間ずっと話をしている。これまでのことこれからのこと、知っていること知らないことすべてを共有するかのように話し続けていた。
「わしらに必要なのは情報じゃ。魔族のこれまでのこと、考え方、生き方、生活習慣などを知らないで生き延びてはいけないのじゃ。」
「そうですね。」
「それと他種族についての考え方や、これまでの確執なんかも知っていることを全部教えてもらうつもりじゃ。」
「すべてとは言いませんが話せる範囲でお話しします。」と元魔王様
「すまぬな、わしらの生死がかかっておるでな。」
「それほどに」
「ああ、それほどにじゃ。残念ながら早々にドラゴンの里を出たわしにとっては、ドラゴンの里の事さえもおぼつかぬ。それを補完しないとどうにもならぬ。よろしくな。」
そうして、その日は、夕暮れ近くまで仮眠を取って、パムとレイが戻って来て、経路に問題が無いことの報告を受け、食事を取った後出発して、その日も何も無く朝を迎えた。
その日の夕方の食事の用意をしているとレイとパムが薄汚れて戻ってきた。
「何かありましたか」
「かなり先の方にですが、検問ができていました。ここの土地は人族しかいないはずなのですが、なぜか魔族が道を塞いでおりました。」
「私たちが魔族の領地の境界を歩くわけがないと考えてのことでしょうね。」
「人もあまり通らない獣道ですから、魔獣がいても当然ということなのかもしれません。」
「迂回ルートはありましたか。」
「難しいですね。でも、1つだけ、魔族は谷に陣取っていますので、険しいですが山腹を移動すれば可能かも知れません。」とパム。
「あとは、囮による誘導ですかねえ。」
「今はまだ使わないほうが良いかと思います。ここを通っていることを知られるのが一番まずいと思います。ここで発見されると、この谷を越えられたとしても、その先に待ち伏せされると逃げ場がなくなります。この谷とこの先の平野を越えるまでは気付かれるのはまずいかと。」
「では、パムさんの案で行きましょう。」
「でも、馬車を通すのは難しいですよ。」
「私の魔法を使います。」
「どうやって」
「食事を取って、少し休んでください。休憩を取ってその方法を見てから眠ってください。」
「はあ」
現在の状況をパムがみんなに話している。全員に緊張感が走る。
「ねえ、大丈夫なの?」
「まあ、なるようにしかならんじゃろう、そうじゃな」
「そうですね、なるようにしかなりません。」
そして、谷に降りていく道の横にできていた獣道が見え隠れする山腹に馬車は止まり、向かうべき反対側の山の方角に向かって道のないところに分け入ろうとする。
「そのままは入れないじゃろう」
「で、ですねえ。あのシールドを馬の前に展開します。」
「ほうほう、それで?」
「荷馬車の方につながっているので、直接馬には、負担はかかりません。」
「で、前に進むとですねえ」
「おお、木を倒しながら前に進んでいる。」
「木によってはさすがに折れませんので、切り進みます。」
「何じゃ前について回っているものは、」
「チェーンソーといいまして、刃を高速で回して木を切っていきます。」
『待ってください。』
「おや、誰の声ですか。」
「ふむ、会議に出席していたドリュアスじゃな」
「そうですよ。ちょっとお待ちなさい。そんなことをしなくても私が道を開いてあげますから」
「いいのか?そんなことをして。」
「あなた達が今やっていることは、その足元にある希少種の生態系を破壊する行為なのですよ。私たちにとっては、かけがえのない希少種がおります。ですので、さすがに捨て置けません。手を貸しますからそのような行為はやめてください。」
「なるほど、この領域に入ったときから監視はしていたのじゃな。」
「はい、この辺一帯は私たちが管理する土地、しかしながらそれを知られてはいけないのです。木や草はどこにでも生えるもの。私たちはどこにでもいてどこにもいないことになっていますから。ですが、この地にしか生えない草木もあります。私たち精霊が生きていくために必要なものが。ですので、特別にここを通しますから。その木を切り倒しながら突き進むのをやめてください。」
「それは、大変失礼しました。ですが、ここから戻り魔族のいる谷の方に向かってもいいのですが、手をお貸しいただけるということですか。」
「先ほどから申しておりますとおり、この地は私たちが管理しております。しかし、あの魔族達には知られたくありません。そして、あそこで戦闘が起こりでもしたらこの土地がどうなるかわかりません。」
「環境破壊ですね。ならばお言葉に甘えます。そして、帰りはここを通らないようにします。」
「ありがとうございます。そうしていただければ助かります。」
「ええ、残念ながら私にはそのくらいしか恩には報いることができません。」
「いえ、それでいいのです。この世界を共に暮らす生物なのですから。」
「のう、ドリュアスよ。わしのうろこはいらんか?」
「なにをおっしゃいますモーラ様、そんなもったいない。」
「わしも、借りを作るのがあまりすきではなくてなあ、次にわしが脱皮するときにでもそれを差し上げようじゃないか。それでよいか。」
「そのお言葉だけで十分でございます。いつも最果ての賢者様の恩恵に日々感謝している者からすればもったいない。」
「すまんが、今回の件漏らさぬようにな、」
「私どものことも秘密にお願いします。」
「では、通してくれ」
「はい」
そうして、ドリュアスのおかげで無事にその難関を越えることができた。
「助かりました。」
「まあ、あやつとは持ちつ持たれつらしいからのう」
「らしいって」
「わしの先祖の記憶がそう言っているだけじゃ。わしはよくしらぬ」
「はいはい」
あの谷を通らずに移動できたおかげで、予定よりも数日早く目的地の街の手前に到着した。
「じゃあいってくるぜ」獣人さんは出かけていく。
「十分、気をつけてな。絶対見張られているから」
「そうだな」そうして、街の喧騒の中に消えていった
我々のうち、メアさんとユーリが変装して食料の調達に街に向かった。
「あの2人が一番人間に近いのよ」
かなり大きい街で他種族がいるとはいえ、モーラやアンジーは異質である。獣人もドワーフもエルフも生活しているのかも知れないが、悪目立ちしては困るので様子見だ。
すぐに戻ってきた2人は、特に問題もなく帰ってきた。見張られてもいない。
そして、夜半に獣人が戻ってきた。
「こんなに早くここに到着するとは思っていなかったようだ。だが、むしろ好都合だったようで、ここまで魔族の手が回っていないらしい。すぐ、馬車を替えて出発することになった。」
「そうですか。それで馬車は?」
「用心して、別な場所に手配した。」
「では、場所を教えてください。レイ、パムお願いします。」
「わかりました。場所を教えてください。では、行きましょう。」
「俺は、あっちの馬車を誘導してくるぜ。」
3人がいなくなった後、
「それでは、我々も移動をしますか。」
「お待ちください。周囲が急に静かになりました。」
「なるほど、やはり監視されていましたか。エルフィどうですか?」
「少ないです、10人くらいですね~」
「では、外に出ますか。」
「わしは・・・」
「そのローブをかぶって静かにしていてくださいね。」
「とほほ、」
そうして、メアさんと私、ユーリの3人が外に出る。アンジーとエルフィは、それぞれ御者台で手綱を持っている。
「どこの手の者ですか?攻撃してきたら反撃しますよ。まずはお話ししましょうか。」
「ああ、話し合いから始めてくれると助かる。」
見覚えのある顔が暗闇の中から現れる。そこには、獣人のゾンビを追ってきた時の魔族の人が立っていた。
「おや、あなたは。」
「久しぶりだなあ。あの時、あんたが言った言葉を思い出したぜ、次はどこで会うでしょうねえとな、こんなところで会うことになるとはな」
「その節は、ご苦労様でした、あれから戻って何か言われませんでしたか」
「あんた達の推察どおりさ。おかげでこうして無事に生きているよ。」
「それはよかったです。さて、このたびの出会いは、敵ですか味方ですか?」
「ああ、少なくともこちらに攻撃の意思はない。」
「少なくともとは、物騒ですねえ。」
「そう言う意味にも取れるか。大丈夫、戦う意志はない。むしろ周囲の敵を排除してあるから安心して欲しい。」
「そうでしたか。それでこの後はどうしますか。」
「いや、そこの馬車にいる元魔王親衛隊にそれを伝えにきたんだ。今後、お前達に手を出す者はいないと、安心して新しい里に元魔王の遺体と共に行くがいいとね。」
「そうでしたか。多分聞こえていると思います。」
「そうそう、もうひとつだけ、今後元魔王一家の関係者については、何者にも手を出させないと、現魔王が確約したことも伝えて欲しい。」
「なるほど、それほど重要な言葉を伝えに来たあなたは、さぞかしすごい人なのでしょうねえ。」
「いや、ただの刺客さ、裏切り者や悪人を成敗しに陰で暗躍するただの刺客だ。そうだろうアンジーさん」
「あああああああ、あなたが、そそそそそそそそのししししししかくさんだったのですねねねねねねね、もももももももしかして、わわわわわ私を殺しに来ましたか。」
「まさか、本当にただのお使いさ。あんたが本当に俺を知らなかったとはなあ。あの時知らない振りをしていたのはてっきりばれないようにだと思っていたのに、演技じゃなかったんだ」
「私も知らないことはいっぱいありますよ。わたしもルシフェル様の使いっ走りですから。」
「そういうことにしておくよ。では、あんたとは、次に会うときはどこであうんだろうなあ。」
「願わくば敵味方ではないことを祈っていますよ。せっかくお知り合いになったのですから。」
「ああ、俺もそうありたいよ。そうそう、その遺体ずいぶんと新鮮だなあ、元魔王の匂いがプンプンしているぜ。ではな。」そう言って10人ほどの気配は一度に消えた。
「背中に冷や汗があふれています。」エルフィがガタガタ震えています。
「あ、あんたねーあたりまえよ。あれが、ルシフェル様の懐刀なのよ。前回は、どうして気付かなかったのかしら。予想しておくべきだったわ。あの時ルシフェル様が殺せと命じていたら、あんた本当に死んでたわよ」
「あの時にみんな言っていたじゃないですか、殺意を感じないと。」
「笑いながら殺すのよ、殺意なんか感じないの。」
「それは恐いですねえ。」
「緊張感がないのう」
「とりあえず、今回の件はこれで手打ちということですね。」
「まあ、すべてをだますためにはまだ遺体を運び続けなければなりませんが。」
その緊張感がやっと解けた頃
「おーい、合流地点に来ないから何かあったんじゃないかと迎えに来たぞ。」
「不用心ですねえ。」
「途中で、獣人ゾンビの時の魔族に会いました。」パムがぼそりと告げる。
「そうですか。何か言っていましたか。」
「もう、茶番は終わったと。」面白くなさそうに言いました。
私は、彼が言っていた言葉を伝え、全員が安心し、違う馬車に遺体を移動して私たちはそこで引き上げることにした。
「いろいろありがとうございました。」
元魔王親衛隊長は、顔を出せない元魔王に変わり頭を下げる。
「新しい里で幸せに暮らせることを祈っています。」
「ありがとうございます。里が安定すれば、きっと交流ができるようになると思いますので、その時にまたお目にかかれることを祈っています。」
「私もそちらの里を見てみたいのでぜひ遊びに行かせてください。」
「よろこんで」
そうして我々は帰路についた。
「2両で帰るの?」
「いいえ、後ろに連結させて1両にします。」
「重くならない?」
「そのへんは調整しています。」
「深くは聞かないわ」
「そうしてください。」小さい馬車の馬具の部分をはずし、大きい方の馬車の後ろに連結器をつけて、後ろにつなげる。馬は3頭立てに調整を行う。
「なるほど、これはすごいな。」
「本当は、2階建てにしたり、小さい馬車の車輪を取って重ねたりしたかったのですが、支える柱が重量に負けそうだったり、乗るスペースがへるのであきらめました。」
「まあ、それが良いな。」
そうしてゆっくりと我が家に戻りました。
アンジーが深いため息をついた。安堵のため息なのはみんなが感じていた。
メアが
「今回もしかしたら魔族が家族になるのではと不安に思っていましたか?」
「ああ、そうよ。でも、馬車の中にも誰もいないし、荷車の方にも誰も乗っていなかったので安心したわ」
「あそこで全員別な馬車に乗ったじゃないですか。」
「そうよね、そうなの。エルフィがしつこく魔族がいませ~んって言っていたものだから、気になっちゃっていてねえ。」
「私は予言者じゃありませんよ~」
「これで、エルフィの予言はあたらないこともあると安心したわ」
「これまでの予言は、ほとんど予知でしたものね。」
「エルフィの場合は願望をいっているだけじゃからなあ。」
「たくさんの家族の方が楽しいじゃないですか~」
「そうなれば馬車を増やす必要もでてきますねえ」
「しかし、この馬車なら長距離乗っても疲れないのう」
「荷物も後ろにあるからゆっくり座れるし。」
「エルフィ、荷台の上は涼しいですか。」
「ばっちりです~」
「わたしも日光浴しようかしら」
「あ~なんか煙が見えますよ。」
続く
「あのドラゴンは、誰ですか?」
「わからん、わしとて全てのドラゴンを知っているわけでは無いからな」
その手からエルフ、ドワーフ、弧狼族、魔法使いの里の者達がそれぞれ降り立った。モーラがその者達の所に行き。こう言った。
「こんな辺鄙なところに呼び出して。すまなかったな。身体に特徴ある種族ばかりじゃ、それぞれの紹介は必要なかろう。ドリュアスもすでに来ているので、こんな場所で申し訳ないが、早速会議を始めようか。」
モーラは、その場所に土を起こして、円卓と椅子を作り出す。もちろん、私達と元魔王様家族の席もその円卓の椅子のモーラの座る椅子の後ろに作られている。
「皆座るが良い」
全員が着席した。
「すでに会議の目的を話してあったと思うが、わしのところでは、魔族が襲いに来て、ここには置きたくないのだよ。それで、この元魔王の住むべき所をどこかにしたいのでな。どちらかの種族のところへ預けたいのじゃがどうだろうか。」
「別にどこでも良いですよ。私の所で無ければ。」
と、エルフ族の若い男は言った。
「同意見です。私の所は、場所は、知られていませんが、いつかは見つかって魔族から攻撃されることになるでしょう。魔族とは相互不干渉としていますが、その人達をかくまうことでそれも反古にされるでしょうから。」とドワーフの男が言った。
「そうですね。私の所も同様です。無理ですね。仮にそれが恩ある人たちからの依頼であったとしても同じでしょう。」弧狼族の若き男は、少しだけ申し訳なさそうに言った。
「魔法使いの里は、どうなんじゃ。」
モーラは、話そうとした魔法使いの里の女性の会話をわざと遮って言った。
「あえて、そんな危険な人たちをかくまうなんて無理に決まっているでしょう。元魔王様には、これまでの関わりもあるので、できる限り協力はしたいと思うけれど。さすがにそこまでは出来ないわねえ。」冷たくもこやかに笑いながら魔法使いの女性は言った。
「まあ、ドリュアスの所はどうにも出来ぬからなあ。」
とモーラはドリュアスを見ながら言った。
「わかりました。所詮私達はどこにも受け入れる先など無いと言うことですね。一生逃げ回ることしか出来ないと。」そう大声を出して立ち上がる元魔王様。
「まだ、話の途中じゃが。」
「もういいです。さあ行こう妻よ息子よ」
元魔王は、そう言って妻と息子の手を取り森の方に向かって走りだす。
「まて、会議はまだ始まったばかり・・・」
「いいえ、私達は所詮、魔族に殺される運命なのです。ならばいっそ。」
「いいから待たんか。」
モーラは、他の種族代表が立ち上がろうとするのを制して、自ら追いかけようとする。しかし、親衛隊がそれを防ぎ、元魔王の家族は森近くまで走り、そこで立ち止まり。こちらを向いて叫んだ。
「それでは、殺されるのでは無く、自らを殺します。さようなら。」
元魔王は、そう言って自分と家族に火を付けた。
「まて、よさんか。親衛隊も止めぬか。」
モーラは親衛隊に阻まれてその場所まで行けないでいる。そして、炎はさらに範囲を広げ、かなりの高さまで炎は燃え広がっている。
すでに3人は、炎の中で体を寄せ合い座り込み、燃え続けている。
数分の後、元魔王家族は消し炭になって地面に転がっている。
席に着いたままの族長代理達は、呆然とそれを見ていたが、炎が少しずつ小さくなっていきだししたところで、全員が立って、その死体を見に行こうとした。
しかし、近づこうとする者達に元魔王親衛隊の魔族は、
「近づくな、魔王様とその家族のご遺体は我々で供養する。決して触れないように」
そう言って、それぞれのマントをその遺体にかける。
私が近づくと、親衛隊のひとりが、
「すまないが馬車を手配してもらえないか。」
と、申し訳なさそうに言った。
「うちの馬車を使いましょう。遺体を入れる棺もご用意しますからここでお待ちください。」
「お手数をおかけします。」
「こちらこそ何の手助けもできませんでした。このような結果になったことを残念に思います。あと、遅くなりましたが、お悔やみ申し上げます。」
「いえ、何から何までお世話になりっぱなしです。」
モーラは、深いため息をつくと、族長代理達にこう言った。
「まあ、一度座り直してくれ。」
そう言われて、族長代理達は、座り直した。
「会議を主催したわしとしては、こういう結果になって不本意だが、ある意味互いの種族にとっては、幸運だったとも言えるであろう。なので、今回の会議は、無かったことにしてくれぬか。」
全員がうなずいている。
「では、この結果を持って、それぞれの里に帰って報告してくれ。会議は行われなかったとな。」
「納得できません。死体を確認したいのですが。」エルフ族の若い男が言った。
「そうか、そうだな。では、見てくるがいい。わしも少し気になるのでなあ。」
そして、親衛隊が見守る遺体の所に全員で移動する。
「遺体に触らないで欲しいのですが。」
「わかっておる。魔法使いの里の者。どうじゃ、調べられるか。」
「確認しましょう。」何か呪文を口にして手を動かす。しばらくして、こう言った。
「確認しました。間違いなく正真正銘、死体が3つですね。」
「だそうだ。わしがだましているとでも思ったか?」
「いえ、決してそのようなことは。」
「まあよい、わしの疑いも晴れたであろうからよかったわ」
「信じていないわけでは無かったのですが。念のためと。」
「帰った時に聞かれるであろうからのう。ちゃんと報告するが良い。」
「申し訳ありません。」
「では、そこに待っているドラゴンに乗り里へ帰るが良い。」
全員が一礼してドラゴンに向かって歩いて行く。ドラゴンの手に乗り空へ飛び立っていった。
「ドリュアデス殿、ありがとうな。」
「ええ、本当に死んだようでしたよ。では、私はこれで」そう言って、草の中に沈んでいった。
しばらくして、ユーリとエルフィが馬車に乗って近づいてくる。
「棺桶を持ってきましたので、遺体を運びましょう」
乗せてあった、棺桶をそこに並べる。彼らはその中に丁寧に遺体を入れて、私たちの馬車に積んだ。3つの棺をぎりぎり並んで積むことができた。
「お住まいになっていたあの洞窟に移動させましょう。そして今後のことを考えましょう。」
「そうですね、では、一度あの洞窟に戻りまして考えます。」
「できる限りのことはさせていただきます。」
「ありがとうございます。」
そして、全員がその場からいなくなった。夕暮れと共に冷たい風がその場所を吹き抜けていく。夜になると少し離れた場所に穴が出来ていた。
元魔王一家が自殺したという事実は、関係のあるすべての種族に知れ渡ることになった。それでもこれまでと同じようになんの動きもなくなった。特に魔族が動くかと思ったが、動きは今のところない。
「さて、次は遺体の移送ですね。」
「魔族は遺体を欲しがりますかねえ。」
「こればかりは、わからん。新しい里に持って行くと噂が流れたときにどう動くかじゃな」
「とりあえず、すぐに移動しないとだめですね。」
「今夜中に移動かのう」
「さすがに一晩はそのままにしないと怪しまれませんか」
翌日の朝にもう一両の荷馬車に乗ってあの洞窟に向かう。
「用意はできましたか。」
「はい、大丈夫です。」
「では、出発しますね。」
棺の入った馬車は、エルフィが御者台に、小さい馬車はユーリが手綱を握っている。
「遺体の移送にあたっては、2台の馬車でどちらも私がシールドを掛けておきます。周囲からは見つからないでしょう。今日の午後から出発して、モーラの縄張りを越えて夜になってもそのまま移動を続け、明け方に移動を中止して休憩と睡眠を取り、その後は、移動は基本夜に行い。夜が明ける前に早めに森の中に潜んで昼間寝る感じになります。」
「もちろん今回もモーラには不干渉をつらぬいていただきます。」
「まあなあ、魔族のトラブルじゃからなあ。静かに見守っていたことにしておく。」
「では、行ってきます。」
「気をつけてな。」『後でこっそり追うわ』
「はい、わかりました」『見つからないでくださいね』
そうして、2両の馬車は出発した。1両は、今まで使っていた荷馬車で、1頭で引いている。もう一両は今回のことにあわせて作った新しい車両で少し大きめに2頭引きだ。それぞれ、いろいろ進化させている。特に足回りについては、乗り心地を向上させ、悪路走破性と操縦安定性も良くしている。引く馬にも負担がかからないよう車輪のベアリングも改良してある。それらはこの世界では少し未来を先取りしているので秘密だ。
大きい方の荷馬車には、遺体と3人の元親衛隊員と他に獣人と元魔王家族3人が乗っていて、御者台にはエルフィとパムが座っていた。小さい方の荷馬車には、モーラとパムとレイを除く我々が乗っていて、御者台には、私とユーリが乗っている。
「急ぐと怪しまれますしねえ。」
そう言いながら、いつもどおりのペースで馬は駆けていく。
「それでも速度が速い気がするのですが。」ユーリが心配そうに言う。
「まあ、今回のためにいろいろと速く走れるよう馬車に工夫をしましたからねえ。」
「確かに揺れも少なく乗り心地も良くなっているし馬の引っ張る負担も軽くなっているから早くなっているのでしょうけど。この速さで急に止まれるの?」
「馬の動きに合わせて馬車が微妙に加減速するようになっていますから大丈夫ですよ。」
「相変わらずそういうところには便利な技術よねえ。」
「馬のスピードに合わせているのなら馬が走り出せばそのスピードでこの馬車は走れることになりますが。」
メアさんが心配そうにしている。
「きれいな道なら理論上可能ですが、実際は道が悪いですからね。馬の思うとおりには走れません。」
「そろそろ夕暮れです。停車場所を探して食事を取りませんと。」
「そうですね。」
後ろの馬車に灯りで合図を送る。
「馬の調子はどうですか?」
「まだ大丈夫みたいですよ~。少し休ませれば、夜明けまではいけそうですね~」
エルフィが馬と話をしている。かなり余裕がありそうです。
「食事をした後、少し休憩して移動しましょう。」
メアさんと親衛隊の方と元魔王の妻が食事を作り始める。馬用の干し草は、幌の上にカゴをつけて積んでいる。水は、私が生成した。レイとパムが戻ってきた。2人には事前にルートを確認してもらっていた。
「ありがとうございます。どうでしたか?」
「問題はなさそうです。」
「食事をした後、休憩して睡眠をとってください。」
「はい、」
「親方様、膝を・・・」
「ああ、はいはい。」
モフモフされながら眠りにつくレイ。ユーリがうらやましそうに見ている。
「おいで、」素直に私の膝に頭を乗せるユーリ。
「あらあら」
元魔王の妻がそれを見て微笑んでいる。背中にはエルフィが背中を預け、足を伸ばしたすねにはパムが寝ている。
「楽しそうですねえ」
「では私も」
アンジーがそう言って反対側のすねに頭を乗せようとしたところで、
「アンジー様、お食事の用意を手伝ってください。馬車ではずーっと寝てらっしゃいましたよね。」とメアが声を掛けた。
「わかったわよ」
メアが「お食事の用意ができました」の声に全員が目を開け。楽しい食事をする。
「さて、夜の移動です。何が出てくるかわかりませんよ。」
「そうじゃな」
「誰?」
「わしじゃよ。」
「ああ、モーラ、お早いお着きで」
「ふむ、食事には間に合ったか。」
「そろそろ出発のようですので、お早く召し上がってください。」
「さすがに今日は何も無かったか。」
「はい、今夜は何もなさそうです。」
「問題は明日以降じゃな」
「捜索の網にかからないよう移動速度を上げていますが、見つかりますよね。」
「そこの獣人、合流地点までは1週間と言ったか」
「いや、このペースで朝まで移動を続けられるなら、もっと早いかもしれねえ。」
「うむ。では、急ごうか。」
そうして第1日目の夜間移動は、無事に終わった。朝日が昇る頃に木陰のある所を探して、休憩している。
「さすがに眠いのう。」
「エルフィ大丈夫ですか?」
「メアさんと交代だったので大丈夫ですよ。」
「ユーリはどうですか」
「はい、大丈夫です。あるじ様の膝の上で寝ていましたから。」
「なんかずるいです。」なぜレイがそれを言いますか。
「交代制にしますか。」メアさんの目が恐い。
「では、私たちは先行します。」
そう言ってパムとレイが姿を消す。
「お願いしますね。」いなくなったであろう方向に向けて手を振りながら私は言った。
「帰ってきたら膝枕をお願いします。」
「あーー。ずるいー。僕もです。」レイが続けて言った。
「はいはい、でもここからが本番です。気をつけてくださいね。」
「はい」
「さて、仮眠取りますか。・・・皆さん目が血走っていますが。」
「あんたの腕枕を誰が使うか狙っているに決まっているでしょ。」
「いや、私も眠らせてください。」
「御者台で仮眠取ったでしょ。ユーリの膝枕で」
「それはそうですが・・・・」
「仲がおよろしいことですねえ。」
「まったくこんな男のどこがいいのじゃろうなあ。」
「あなたもそうなんでしょう?」
「ああ、まあ家族じゃからなあ。」
モーラは、元魔王と夜の間ずっと話をしている。これまでのことこれからのこと、知っていること知らないことすべてを共有するかのように話し続けていた。
「わしらに必要なのは情報じゃ。魔族のこれまでのこと、考え方、生き方、生活習慣などを知らないで生き延びてはいけないのじゃ。」
「そうですね。」
「それと他種族についての考え方や、これまでの確執なんかも知っていることを全部教えてもらうつもりじゃ。」
「すべてとは言いませんが話せる範囲でお話しします。」と元魔王様
「すまぬな、わしらの生死がかかっておるでな。」
「それほどに」
「ああ、それほどにじゃ。残念ながら早々にドラゴンの里を出たわしにとっては、ドラゴンの里の事さえもおぼつかぬ。それを補完しないとどうにもならぬ。よろしくな。」
そうして、その日は、夕暮れ近くまで仮眠を取って、パムとレイが戻って来て、経路に問題が無いことの報告を受け、食事を取った後出発して、その日も何も無く朝を迎えた。
その日の夕方の食事の用意をしているとレイとパムが薄汚れて戻ってきた。
「何かありましたか」
「かなり先の方にですが、検問ができていました。ここの土地は人族しかいないはずなのですが、なぜか魔族が道を塞いでおりました。」
「私たちが魔族の領地の境界を歩くわけがないと考えてのことでしょうね。」
「人もあまり通らない獣道ですから、魔獣がいても当然ということなのかもしれません。」
「迂回ルートはありましたか。」
「難しいですね。でも、1つだけ、魔族は谷に陣取っていますので、険しいですが山腹を移動すれば可能かも知れません。」とパム。
「あとは、囮による誘導ですかねえ。」
「今はまだ使わないほうが良いかと思います。ここを通っていることを知られるのが一番まずいと思います。ここで発見されると、この谷を越えられたとしても、その先に待ち伏せされると逃げ場がなくなります。この谷とこの先の平野を越えるまでは気付かれるのはまずいかと。」
「では、パムさんの案で行きましょう。」
「でも、馬車を通すのは難しいですよ。」
「私の魔法を使います。」
「どうやって」
「食事を取って、少し休んでください。休憩を取ってその方法を見てから眠ってください。」
「はあ」
現在の状況をパムがみんなに話している。全員に緊張感が走る。
「ねえ、大丈夫なの?」
「まあ、なるようにしかならんじゃろう、そうじゃな」
「そうですね、なるようにしかなりません。」
そして、谷に降りていく道の横にできていた獣道が見え隠れする山腹に馬車は止まり、向かうべき反対側の山の方角に向かって道のないところに分け入ろうとする。
「そのままは入れないじゃろう」
「で、ですねえ。あのシールドを馬の前に展開します。」
「ほうほう、それで?」
「荷馬車の方につながっているので、直接馬には、負担はかかりません。」
「で、前に進むとですねえ」
「おお、木を倒しながら前に進んでいる。」
「木によってはさすがに折れませんので、切り進みます。」
「何じゃ前について回っているものは、」
「チェーンソーといいまして、刃を高速で回して木を切っていきます。」
『待ってください。』
「おや、誰の声ですか。」
「ふむ、会議に出席していたドリュアスじゃな」
「そうですよ。ちょっとお待ちなさい。そんなことをしなくても私が道を開いてあげますから」
「いいのか?そんなことをして。」
「あなた達が今やっていることは、その足元にある希少種の生態系を破壊する行為なのですよ。私たちにとっては、かけがえのない希少種がおります。ですので、さすがに捨て置けません。手を貸しますからそのような行為はやめてください。」
「なるほど、この領域に入ったときから監視はしていたのじゃな。」
「はい、この辺一帯は私たちが管理する土地、しかしながらそれを知られてはいけないのです。木や草はどこにでも生えるもの。私たちはどこにでもいてどこにもいないことになっていますから。ですが、この地にしか生えない草木もあります。私たち精霊が生きていくために必要なものが。ですので、特別にここを通しますから。その木を切り倒しながら突き進むのをやめてください。」
「それは、大変失礼しました。ですが、ここから戻り魔族のいる谷の方に向かってもいいのですが、手をお貸しいただけるということですか。」
「先ほどから申しておりますとおり、この地は私たちが管理しております。しかし、あの魔族達には知られたくありません。そして、あそこで戦闘が起こりでもしたらこの土地がどうなるかわかりません。」
「環境破壊ですね。ならばお言葉に甘えます。そして、帰りはここを通らないようにします。」
「ありがとうございます。そうしていただければ助かります。」
「ええ、残念ながら私にはそのくらいしか恩には報いることができません。」
「いえ、それでいいのです。この世界を共に暮らす生物なのですから。」
「のう、ドリュアスよ。わしのうろこはいらんか?」
「なにをおっしゃいますモーラ様、そんなもったいない。」
「わしも、借りを作るのがあまりすきではなくてなあ、次にわしが脱皮するときにでもそれを差し上げようじゃないか。それでよいか。」
「そのお言葉だけで十分でございます。いつも最果ての賢者様の恩恵に日々感謝している者からすればもったいない。」
「すまんが、今回の件漏らさぬようにな、」
「私どものことも秘密にお願いします。」
「では、通してくれ」
「はい」
そうして、ドリュアスのおかげで無事にその難関を越えることができた。
「助かりました。」
「まあ、あやつとは持ちつ持たれつらしいからのう」
「らしいって」
「わしの先祖の記憶がそう言っているだけじゃ。わしはよくしらぬ」
「はいはい」
あの谷を通らずに移動できたおかげで、予定よりも数日早く目的地の街の手前に到着した。
「じゃあいってくるぜ」獣人さんは出かけていく。
「十分、気をつけてな。絶対見張られているから」
「そうだな」そうして、街の喧騒の中に消えていった
我々のうち、メアさんとユーリが変装して食料の調達に街に向かった。
「あの2人が一番人間に近いのよ」
かなり大きい街で他種族がいるとはいえ、モーラやアンジーは異質である。獣人もドワーフもエルフも生活しているのかも知れないが、悪目立ちしては困るので様子見だ。
すぐに戻ってきた2人は、特に問題もなく帰ってきた。見張られてもいない。
そして、夜半に獣人が戻ってきた。
「こんなに早くここに到着するとは思っていなかったようだ。だが、むしろ好都合だったようで、ここまで魔族の手が回っていないらしい。すぐ、馬車を替えて出発することになった。」
「そうですか。それで馬車は?」
「用心して、別な場所に手配した。」
「では、場所を教えてください。レイ、パムお願いします。」
「わかりました。場所を教えてください。では、行きましょう。」
「俺は、あっちの馬車を誘導してくるぜ。」
3人がいなくなった後、
「それでは、我々も移動をしますか。」
「お待ちください。周囲が急に静かになりました。」
「なるほど、やはり監視されていましたか。エルフィどうですか?」
「少ないです、10人くらいですね~」
「では、外に出ますか。」
「わしは・・・」
「そのローブをかぶって静かにしていてくださいね。」
「とほほ、」
そうして、メアさんと私、ユーリの3人が外に出る。アンジーとエルフィは、それぞれ御者台で手綱を持っている。
「どこの手の者ですか?攻撃してきたら反撃しますよ。まずはお話ししましょうか。」
「ああ、話し合いから始めてくれると助かる。」
見覚えのある顔が暗闇の中から現れる。そこには、獣人のゾンビを追ってきた時の魔族の人が立っていた。
「おや、あなたは。」
「久しぶりだなあ。あの時、あんたが言った言葉を思い出したぜ、次はどこで会うでしょうねえとな、こんなところで会うことになるとはな」
「その節は、ご苦労様でした、あれから戻って何か言われませんでしたか」
「あんた達の推察どおりさ。おかげでこうして無事に生きているよ。」
「それはよかったです。さて、このたびの出会いは、敵ですか味方ですか?」
「ああ、少なくともこちらに攻撃の意思はない。」
「少なくともとは、物騒ですねえ。」
「そう言う意味にも取れるか。大丈夫、戦う意志はない。むしろ周囲の敵を排除してあるから安心して欲しい。」
「そうでしたか。それでこの後はどうしますか。」
「いや、そこの馬車にいる元魔王親衛隊にそれを伝えにきたんだ。今後、お前達に手を出す者はいないと、安心して新しい里に元魔王の遺体と共に行くがいいとね。」
「そうでしたか。多分聞こえていると思います。」
「そうそう、もうひとつだけ、今後元魔王一家の関係者については、何者にも手を出させないと、現魔王が確約したことも伝えて欲しい。」
「なるほど、それほど重要な言葉を伝えに来たあなたは、さぞかしすごい人なのでしょうねえ。」
「いや、ただの刺客さ、裏切り者や悪人を成敗しに陰で暗躍するただの刺客だ。そうだろうアンジーさん」
「あああああああ、あなたが、そそそそそそそそのししししししかくさんだったのですねねねねねねね、もももももももしかして、わわわわわ私を殺しに来ましたか。」
「まさか、本当にただのお使いさ。あんたが本当に俺を知らなかったとはなあ。あの時知らない振りをしていたのはてっきりばれないようにだと思っていたのに、演技じゃなかったんだ」
「私も知らないことはいっぱいありますよ。わたしもルシフェル様の使いっ走りですから。」
「そういうことにしておくよ。では、あんたとは、次に会うときはどこであうんだろうなあ。」
「願わくば敵味方ではないことを祈っていますよ。せっかくお知り合いになったのですから。」
「ああ、俺もそうありたいよ。そうそう、その遺体ずいぶんと新鮮だなあ、元魔王の匂いがプンプンしているぜ。ではな。」そう言って10人ほどの気配は一度に消えた。
「背中に冷や汗があふれています。」エルフィがガタガタ震えています。
「あ、あんたねーあたりまえよ。あれが、ルシフェル様の懐刀なのよ。前回は、どうして気付かなかったのかしら。予想しておくべきだったわ。あの時ルシフェル様が殺せと命じていたら、あんた本当に死んでたわよ」
「あの時にみんな言っていたじゃないですか、殺意を感じないと。」
「笑いながら殺すのよ、殺意なんか感じないの。」
「それは恐いですねえ。」
「緊張感がないのう」
「とりあえず、今回の件はこれで手打ちということですね。」
「まあ、すべてをだますためにはまだ遺体を運び続けなければなりませんが。」
その緊張感がやっと解けた頃
「おーい、合流地点に来ないから何かあったんじゃないかと迎えに来たぞ。」
「不用心ですねえ。」
「途中で、獣人ゾンビの時の魔族に会いました。」パムがぼそりと告げる。
「そうですか。何か言っていましたか。」
「もう、茶番は終わったと。」面白くなさそうに言いました。
私は、彼が言っていた言葉を伝え、全員が安心し、違う馬車に遺体を移動して私たちはそこで引き上げることにした。
「いろいろありがとうございました。」
元魔王親衛隊長は、顔を出せない元魔王に変わり頭を下げる。
「新しい里で幸せに暮らせることを祈っています。」
「ありがとうございます。里が安定すれば、きっと交流ができるようになると思いますので、その時にまたお目にかかれることを祈っています。」
「私もそちらの里を見てみたいのでぜひ遊びに行かせてください。」
「よろこんで」
そうして我々は帰路についた。
「2両で帰るの?」
「いいえ、後ろに連結させて1両にします。」
「重くならない?」
「そのへんは調整しています。」
「深くは聞かないわ」
「そうしてください。」小さい馬車の馬具の部分をはずし、大きい方の馬車の後ろに連結器をつけて、後ろにつなげる。馬は3頭立てに調整を行う。
「なるほど、これはすごいな。」
「本当は、2階建てにしたり、小さい馬車の車輪を取って重ねたりしたかったのですが、支える柱が重量に負けそうだったり、乗るスペースがへるのであきらめました。」
「まあ、それが良いな。」
そうしてゆっくりと我が家に戻りました。
アンジーが深いため息をついた。安堵のため息なのはみんなが感じていた。
メアが
「今回もしかしたら魔族が家族になるのではと不安に思っていましたか?」
「ああ、そうよ。でも、馬車の中にも誰もいないし、荷車の方にも誰も乗っていなかったので安心したわ」
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「そうよね、そうなの。エルフィがしつこく魔族がいませ~んって言っていたものだから、気になっちゃっていてねえ。」
「私は予言者じゃありませんよ~」
「これで、エルフィの予言はあたらないこともあると安心したわ」
「これまでの予言は、ほとんど予知でしたものね。」
「エルフィの場合は願望をいっているだけじゃからなあ。」
「たくさんの家族の方が楽しいじゃないですか~」
「そうなれば馬車を増やす必要もでてきますねえ」
「しかし、この馬車なら長距離乗っても疲れないのう」
「荷物も後ろにあるからゆっくり座れるし。」
「エルフィ、荷台の上は涼しいですか。」
「ばっちりです~」
「わたしも日光浴しようかしら」
「あ~なんか煙が見えますよ。」
続く
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