巻き込まれ体質な私、転生させられ、記憶も封印され、それでも魔法使い(異種族ハーレム付き)として辺境で生きてます。

秋.水

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第21話 三国騒(争)乱

第21-9話 本当の敵

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  我々は、会議の席に案内された。
  円卓には、正面にロスティアの王女他3名の勇者と文官が2人、王女に向かって左側には、ユージ・イシカリ他4名とハイランディスの文官2名、王女に向かって右側には隻眼のジャガーと他2名と文官2名が座っている。そして、ロスティアの王女の正面の壁際に私達が座わらされている。他の壁際には、たぶん各国の人達が座らされていて、こちらの様子をうかがっている。

「それでは、会議を開催しよう。昨日のうちに文官達が互いに文書をかわして整理してくれている。改めてここで発表し問題がなければ会議を終了しよう。」
 そこで地響きが起きる。なにが起こったのかと、全員が会議場を出て行く。そこで見えたのは、首都ロスティアのある方角に光の柱が立っていた。
「あれは、私の首都が攻撃されているのか、誰に」
「あんな攻撃が出来るのは魔族しかいない。」
「停戦を狙って攻撃してくるとは、我々に対する宣戦布告だ。」
「しかし、あんな攻撃をされたらひとたまりもないぞ。」
「いや、防いだ人がひとりいる。」
「確か、光の柱を防いだという魔法使いが辺境にいると聞いたぞ」
「今日ここにいるらしいぞ。」
「賢者様、どうか魔族との戦いの先陣をお切りください。」王女が私に懇願する。
「そうですねえ、一度、会議場に戻りましょう。」
「事は急を要しますよ。魔族が攻撃してきたのです。もう一刻の猶予もありません。」
「さて、扉の鍵を掛けましょう。これから秘密の話をしますからね。」
「そんなに落ち着いていられる状況ですか。」
 私はそこでパンっとひとつ柏手を打つ。広い会議場が一瞬にして静かになり、壁際に座っていた人達それから文官達が一瞬にして意識を失う。つまり残っているのは3勇者一行と私達家族だけが起きている。
「なにをなさるのですか。」
「良いですか、まず、あの光の柱がロスティアに落ちたかどうかもわからないのにどうしてロスティアだと断定したのでしょうか。それは誰が言いましたか。」
「そう思いましたが」
「私もそう思いました。」
「ではその攻撃は誰がしたと言いましたか。魔族だと誰が言いました。」
「いや、あのような攻撃、魔族以外に考えられないでしょう。」
「そこがおかしいのですよ。事実も確認せず、魔族のせいだと思い込んでいる。おかしいと思いませんか。なぜ、ハイランディスやマクレスタ公国や、それ以外の諸外国と考えなかったのですか。」
「そ・・・それは」
「どうしたのじゃおぬし、なにを怒っている」
「いいえ、怒ってなどいませんよ。でも魔族を疑うのはまだ証拠が足りない。」
「どうして賢者様は魔族でないと思われるのですか。もしかして賢者様がこれをしたのですか」
「だとしたらどうします。」
「あなたは人類の敵だ。今ここで殺す。」
「でも王女様、それは無理なことは、十分わかっていらっしゃいますよねえ。」
「ああ確かに私達では到底無理だ。だが、やらねばならぬ。」
「はい、もしあの攻撃があなたのやったことなら私はこの身が砕けようともあなたを倒します。」
 ジャガーが言った。
「さすが私のところのお2人が想定したとおりですねえ。勇者様方、少し待っていただけませんか?家族のことを終わらせてからその話の続きを始めましょう。」
「さて、ここまでの茶番は終わりにしましょうか。モーラ、アンジーここで何か言いたいことはありませんか。」
「なぜわしらに聞く?」
「そうね、どうしてかしら。」
「嘘は言っていなくても話していないことはあるでしょう。今ここで、みんなの前で話してもらえませんか。」
「勇者達もいるじゃろう、話せないこともある。」
「そうね」
「わかりました。」
 そう言って私は呪文を唱えると、モーラとアンジーの周囲に広がった淡い光が霧散した。
「おぬしこれは、」
「この喪失感、もしかして隷属を解除したの?」
「はい、そのとおりです。」
「なぜ・・・そんなことをしたら」
「はい、信頼関係にない人と一緒にいることは出来ません。」
「私は、あなたを好きなのよ。愛しているの。だから」
「だからこそです。私もアンジーを大好きです。愛しています。それは間違いありません。でもね、そんな間柄だからこそ、話して欲しいこともありますよ。」
「だから・・・そんなことを話したらあなたが・・・」
「知ってしまえば、私がその人達を相手に戦うだろうと。」
「ええ、あなたはそういう人だから。」
「すまぬ、あの霧の事件の時にちゃんと話しておくべきじゃった。わしは、あの時から、おぬしを監視する立場から、守る立場に舵を切っていたのじゃ、しかし監視していたことを伝えるのが怖くてなあ。おぬしの激情を思うと足がすくんで、結果こうなってしまった。」
「私だってそうよ。最初に会って一緒に暮らすようになってから。その心は変わっていたのよ。そして予定通りの隷属。けれど少しも嫌じゃなかった。あの時の充足感は今でも憶えているのよ。でも、そうね自業自得ね、遅かったわ。」
 アンジーはそう言って崩れ落ちた。
「さて、他の人たちもどうですか。こんな狭量な男に隷属している必要はないです。」
 メアが私を抱きしめる。その後ろからパムが抱きしめる。
「お二人ともどいてください。」
 2人の抱擁から無理矢理引き剥がすように逃れる私。
「貴方たちも離れてください。裏切り者。どちらも魔法使いの里とドワーフの里から派遣されてきたスパイのくせに」
「そんな私は、里を捨ててきたのに。そんなことを言うのですか。」
「確かに逃げてきましたけど、里の長は元気なんでしょう?あの里でのイメージは嘘なんでしょう。それにメア。あんなに安直に惚れないでくださいね。それと、レイ、治療があろうとなかろうとついてきて仲間になる手はずだったのでしょう。そしてユーリは、人族からの回し者だったのでしょうねえ。」
「どうしてそんなことがいえるんですか。あるじ様ひどいです。」
「ねえどうしちゃったの旦那様、おかしくなっちゃったの」
「そうですねあなたも見ず知らずの私に隷属するなんて、ああ、そこで変に思わなかった自分を呪います。」
「ひ~ど~い~」
「誰かに操られているな。」
「そんなことありませんよ。これまでのことを冷静に考えれば行き着く結論です。そうですよね」
「ああそうだとも、早くその子達の隷属も外してあげたまえ。」
 見知らぬ男の声がしたと思ったら、私の横にスーツ姿の男が現れる。まるで耳元にささやくようにくっついている。
「はい」
「あ、あなたは親書配りの時にあった人ですね。」とメアが言った。
「おや、顔を変えていたのによくわかりましたねえ。」
「あたりまえです。顔だけ変えても体型からすぐにわかりましたよ。おや、前回と違うその魔力の流れ、まさかホムンクルス?」
「ああ失敗、失敗。偽装するのを忘れていました。初めまして。私、ジャミロッティ・アクスファイと申します。もっともこれも偽名ですが。」
「貴様がこの男の意識操作をしたのか。」
「いいえ、一緒に目を見ながらお話をしただけですよ。」
「やはり意識操作ではないか。」
「そうかもしれませんが、意識誘導ですよねえ。さて、隷属も解けましたし、この男を殺せば、私の役目は終わりです。」
「これは誰が仕組んだんじゃ、教えてくれ」
「最初は、この男を利用して人族を統率させ、魔族を倒させようとしていましたが、貴方たちが色々邪魔をしてくれたおかげで、この有様ですよ。ですから、邪魔になったので今度は殺しなさいと言われたのですが、隷属させられている人が死んでしまう可能性があるんだそうです。それでは困るので、隷属の首輪が外されるまで時期を待ちました。やっとですよ、やっと殺せる。」
「いつから見ていたのですか私達を」
「隣の町に旅立った頃からですねえ。記憶を戻してくれなかったおかげで、全然勇者してくれないのでイライラしていました。」
「じゃから誰の手引きじゃ。」
「異世界からの転生なんてことが出来るのは、この世界の」
「この世界の?」
「神しかいないじゃないですか。」
「神がこの男を呼んだとして、神がこの男を殺せば良いだけではないか。それにおぬしが神の使いだと?」
「そんなの知りませんよ。ただ、神は魔族を創ったけれど、神自身では殺せないみたいなんですから、そういうことなんだろうなあと。それと私自身もこの男を殺すことは出来ませんよ。だって一応神の使徒ですもの。ああ、そこの天使様、天界の天使も神の使徒ですけど、系統が違いますのであしからず。神はいつも天界を天使を見守っていますよ。信仰をなくさないようにね。」
「おかしいではないか。おぬしはさきほどやっと殺せると言ったではないか。」
「ええ、ドラゴンの里によって殺してもらいます。」
「なるほど、そういうことであったか。おぬしがドラゴンの里を揺さぶっていたのじゃな。」
「おや、知っていたでしょう?あなたが里の説得に応じなかったから、ここまで引っ張らざるを得なかったんですよ。だって相手は神ですものねえ。そして、あなた自身が隷属していれば殺されない、ギリギリの駆け引きをしていたのに、この男の不満をちょっと煽ってやったら簡単に隷属を外しましたよ。こんなものですよ人間なんてね。」
「それに、アンジーさんあなただってそうだ、天界から、隷属解除しろと言われていたのを断り、ここまで頑張ってきたのに、その事を隠していただけで疑心暗鬼に囚われ隷属を解除するこの男。尽くしてやる意味なんかないでしょう。」
「そうじゃな」
「確かにそうね」
「でもね、君がここで全部白状したのはなぜですか?」
 と、私は彼からそーっと離れて向かい合ってから問いかける。
「え?」
「そうよね、普通はこいつが瀕死になってからそのことを言うのが普通よねえ。」
「あ?」
「なぜ今、わしらの前で、しかも勇者達の前でそれを告白するのかのう?」
「あ、あ、私、言わされました?」
「正解です」「正解だわ」「正解じゃ」私達は3人とも拍手をする。

「でもドラゴンの里は・・・」
「じゃから動かん。おぬしの思い込みじゃ。それに隷属はされたままじゃ。」
「それって、」
「ああ、わしらの隷属は解けておらんし、こやつもおぬしの甘言に乗っていたわけではない。」
「確かに私の術に掛かっていたはず。」
「ええ、そう見えたでしょう?でもね、私の性格をわかっていないのですよ。」
「性格をわかっていない?」
「あなた、最初から私を観察していたら知っているはずなんですがねえ。私の分析に対する異常な執着心を。」
「そんな、見せたこともない術をちゃんとわからないように香りに混ぜて吸い込ませたのに。わかるわけがないじゃないですか」
「なるほど、吸い込ませるんですね。あれを」
「あれが見えるのですか?」
「神様は、私のことを何でも教えてくれていたのでしょう?」
「ええ、重力系の魔法使いで、分析解析が得意で何でも見えるし、その中身も知識としてあれば理解できると。どんなものも分子レベルまで見えると聞かされていました。分子? あれ?」
「そうですか、言葉で聞いてもその意味を理解していなかったんですねえ。」
「でも、見たこともない魔法をどうにかできるわけがないでしょう。そう聞いていますよ。」
「はい、初見では出来ませんねえ。でも見ていましたからねえ。」
「いつ?だってあの魔法は、あの廃城の道路にしか撒いていないはず・・・まさか。」
「正解です。私は見ているのです。なのであなたと会った時にそれがわかりました。そして、先ほどあなたが現れても私は誰?とも言わず、自然に隣に立っていたでしょう?どうしてその時に気付かないんですか。」
「でも、あの時あなたは家にいましたよね。私は見張っていましたから知っていますよ。」
「そうです。ずっと家にいました。」
「どうして見られるんですか。」
「どうしてでしょうねえ。あなたの知らない秘密がいっぱいあるんですねえ。」
「パムを誘導していた時からわかっていたのですか。だから隠して。」
「これまでずいぶんそちらの都合に巻き込まれていましたので、用心深くもなりますよ。なので、昨日、あなたが接触してきた時にあなたに逆に術をかけておきました。このような状態になるとあなたが話してくれたので、あなたには、私が殺されると判断したらここに現れて正体とその理由を全て白状するようにね。」
「私はホムンクルスだから術をかけたらわかりますよ。ましてや自分の術ならなおさらわかります。」
「術は術でも催眠術ですからねえ。」
「催眠術ですか。」
「深層意識に暗示をかけるのです。そしてかけたことを忘れるようにね。なので魔法ではありませんからわかりませんよ。」
「そんなことまで、できるのですか。」
「あなたはホムンクルスで、純粋で素直でしたからねえ。」
「なるほど、では残念ながら立ち去りましょう。でも、しばらくしたらまた殺しに来ますからね。その時までお元気で。ああ、悔しいのでひとつだけ、私がこの世界で唯一のホムンクルスで、メアさんあなたはまがい物ですからね。では皆さんさようなら。」
 そう言ってその男はそこから消えた。
「おや転移魔法で一瞬でいなくなりましたねえ。」
「お疲れ様でした皆さん。茶番に付き合わせて申し訳ありませんでした。」
 私は部屋にいた勇者達全員に頭を下げる。
「どういうことか教えてもらえませんか。」俺様勇者のところのライオットが言った。
「まあ、わしら全員手のひらの上で踊らされただけじゃ。こいつひとりを殺すためになあ。」
「そんな。賢者様」王女が手を伸ばそうとする。
「ごめんなさいねえ皆さん。さきほど聞いたように、神は魔族が邪魔になって私を呼んだのですが、記憶もなく根がぐうたらなものですから、神はあきれて捨てようと思ったのです。でも、ただ捨てたらもったいないから人族が魔族に一丸となる時の生け贄にしようとしたのですよ。でもさすがに私もそれはいやだったので他の勇者様達が団結して魔族に一丸となるように話を進めたのですが、それも面白くなかったみたいで、余計なことをする私を殺すことにしたのですねえ。」
「先ほどの光の柱は、どうなったのですか。」フェイがそう聞いた。
「想定されていたので、防御の魔法を張っておいて、停戦記念になればと思って魔法を変換して、実際には花火に見えているはずですよ。」
「そんなことまで出来るのなら、さっさと勇者になって魔族を討伐すれば良いじゃないですか。」
 ライオットが怒って言った。
「いいですか?あなたは宣託を受けた身なのでしょうけど、私は記憶をなくしてこの世界に飛ばされ、その目的も告げられていないのですよ。別に記憶がなくてもお前は勇者だって宣託しても良かったと思いませんか。」
「それは確かに。でも」
「それに与えられた技術は重力系の魔法初期レベルと、分子レベルの解析ができることしか与えられていません。でも、そちらの2人も同じようなものでしょう?」
「ああ、俺は、体に関する技量と剣術についてと攻撃魔法だよ。」イシカリが言った。
「私は、不死身の体と体術と攻撃魔法だ。」とジャガーが言った。
「そして、2人とも言語はすぐ習得しているはずでし、物質を解析できましたよね。言葉も生えている草木も全部理解できたはずです。」
「ああ、言語は習得できた。しかし、草木は見えたが他に役に立つスキルが欲しかった」
「私も言語はありがたかったが、解析については、ああ、この草は毒か食べられるかはわかったから便利だったくらいですね。」
「そうでしょうね。でも、私が今持っているスキルのほとんどが、その解析から得た技術なのですよ。」
「どういうことだ。」
「私が、最初に憶えたのは空気を練ることでした。手を握ったり開いたりしたら手の中に空気の球が出来ました。やってみてください。」2人とも実際にやってみると確かに出来る。
「おおできた」
「これは作ったことがある。」
「さらにどんどん圧縮していってください。」
「え?え?」
「あぶないので、この中に投げ入れてください。」そう言って私は四角い箱を作り、その中に大きな花瓶を入れる。
「あててください」
 それぞれが投げた圧縮した空気は、軽く投げたのに花瓶は粉々に砕け散った。
「おあ、すごい」
「これはすごい」
「貴方たちは自分の能力にばかり注目して他のことをおろそかにしすぎていたのです。わかりましたか。それだけの豊富な魔力量を持ちながらそれを有効活用していないのです。はっきり言って勉強不足です。慢心しています。」
「すいません」
「頑張ります」
「それから、神の敵は私ひとりです。皆さんには、決して手は出してきません。なぜなら、神と称する者は、魔族と戦う人達を大事にするからです。皆さんは、これから起こるであろう魔族との戦いを意識して力をつけていってください。魔族は、人族を間引きあるいは全滅するために戦争を仕掛けてくるつもりですから。自分の力をより高めるように精進してくださいね。」
「あんた本当に先生向きねえ。」
「まったくじゃ。よいか2人の勇者達よ。こやつは研究者タイプなんじゃよ。じゃからのめりこみすぎてなあ。深く掘り下げてしまう悪い癖もある。ほどほどが肝心じゃ。わかるな。そして、王女よ」
「はい、」
「こやつに言いたいことがあるのであろう?今のうちじゃ言っておけ。」
「あなたは、私を混乱させることしか言い残してはくれなかった。悩ませ混乱させることしか言わない。挙げ句頼りにしていた仲間を死なせ、父の威を借る魔法使いには騙され、挙げ句戦争を仕掛けられる始末。いったい私にどうしろと?賢王たれとそれと勇者たれと言いましたよね。どちらも出来ません私には。」
「残念ですが、国の命運を左右するような指示を私はできませんでしたよ。私には選択肢を示すくらいしかできません。」
「むしろこちらへ進めと言って欲しかった。そうすれば彼女を死なせずに済んだのに。」
「では再び問いましょう、気持ちとしてはどちらを選びたいのでしょうか。国王の病状、国のこれまでの成り立ち、そして自分自身の勇者としてのこれまでを一切考えずに気持ちをお答えください。」
「答えられません。」
「そうでしょう、それが今のあなたの限界なのです。結局あなたは勇者たることも賢王たることもいずれも選べない優柔不断なのです。私に救いを求めても本心がないんですよ。だから私が行った方向に向かいたい。賢者が示した道ならきっと間違いないと」
「そう・・・です。」
「あと、国を捨てられますか?」
「なにを言いますか。」
「こちらの勇者様達はね、貧乏で碌な装備もなく、それでも勇者としての実績を積み上げようと頑張っていました。あなたにそれが出来るかと言うことですよ。」
「それは、わかりません」
「ですよね、ならば一度全てを捨てて一からやってみませんか?」
「全てを捨てて?」
「はい。冒険者になるのです。勇者ではなく。」
「冒険者になってなにをすれば、」
「旅をしてください。野宿をして料理を作って野獣や魔獣を倒し、お金を得て。困っている人がいれば助け、集落の人と交流してください。もちろん名を隠してね。」
「それでもだめならどうしたらよいですか」
「その時は国に戻って賢王になってください。その時には市井の暮らしも理解できる、きっと良い王様になっているでしょうから。」
「しかし、父が」
「ああ、それはね、たぶんもう回復していると思うわよ。」アンジーが言った。
「もしかしてそれは、一連の騒ぎのために仕組まれていたと言うのですか。」
「そうね、戦争からこれまでに一度でも国王を見たのかしら。」
「いいえ、心の病で何か傷つけてしまうことを言ってしまうからと会わせてもらえませんでした。」
「そういうことよ。」
「では、王女様、先ほどの会議の続きを行ってください。」私は、お辞儀をしてそう促す。
 そこでフェイとライオットが近づいてきて、全員が頷く。
「ああ、今回の事。全ては、謀略によるもの、関係者はそれぞれの国で処分。賠償金等については、当然支払わせる。ただしそれぞれの街の治安に関しては、双方の国が共同で行い、街の中立を図ろう。」
「ロスティアとしては不満でしょうが、痛み分けとして欲しいところです。良いですか」
「領土は保持し賠償金はもらう。それでよしとしよう。亡くなった者の家族や、傷ついた者達へと補償金として支払う。」
 そのような話をしている間に私達は逃げるように帰ろうとした。
「お待ちください、名もなき辺境の賢者様。」勇者達全員が一列に並ぶ。
「このたびのこと、いいえ、なにも言いますまい。ありがとうございました。」
 全員がならんで一礼する。長い長い一礼だ。その間に私達は姿を消す。
 全員が頭を上げてお互いを見合う。少しの寂しさと笑いがこぼれる。
「どうしてあの方が勇者になってくれないのだろうなあ。」
「さきほど王女が言ったではありませんか。勇者ではなく賢者様と」
「そうか、そうだな。では、これからも何かあったら相談することにしよう。しかし、家を知らぬなあ。」
「あ、私が知っていますから。旅姿で言ったら歓待してくれますよ。」
「そうだな。」
 その後、その会場では、お付きの人たちの意識が戻ってから、滞りなく勇者会議は進められて、ギクシャクした関係ではなく勇者同士が親しくなっていた。それを見てお付きの人たちは首をかしげていた。


 - 続く -

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