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第22章 過去との再会
第22-7話 レストランと町長
しおりを挟むそして、魔女さんとその弟子やエルミラさんを食事に誘ったが都合が悪いと言って、断られた。
さすがに連日居酒屋というのも何だったので、前回と同じ店に食事に行ったのだが、私達の姿を見たとたん態度が変わり、前回と同じ奥の部屋に案内されて、前回とは違って上客をもてなすような対応に変わった。
「どういうことだ。これは」
「噴水前の戦闘を見ていた人がいたのかしらね」
「そういうことですかねえ。」
メニューからコースを選び、静かに食前酒と前菜を待っていると、支配人らしき人が部屋に入ってきた。
「この度は、この街の危機を救ってくださりありがとうございました。」その男はお辞儀をした。
「何を言っているのかわかりません。むしろ私は街の真ん中でヤクザに絡まれてケンカをしてしまったことで街の皆さんに迷惑をかけていたのではと思っています。」
「そうでしたか、では、あのような無粋な者を追い払ってくれてありがとうございました。心からお礼を申し上げます。それと、昨日は私が不在の折、このレストランをご利用いただきありがとうございました。おそらく、他の街から来たお客様にはあまり良い印象を与えなかったのではと、店員も反省しておりますご容赦ください。」
再び丁寧なお辞儀をする。
「お気になさらずに。実際マナーのマの字も知らない者まで連れてきておりましたので、こちらこそ丁寧に対応いただきありがとうございます。あなたは「ここ」の支配人さんですか。」
「はい、このレストランのオーナーになります。」
「聞きたいのは、この街の支配人さんですかと聞きたかったのです。違いますか」
「わかりますか。隠してもしようがないですね。そのとおりです。この街の町長をしている。モーガン・フリードマンと言います。」
「初めまして。私、」
「魔法使いの方は、名前を明かさないと聞いておりますので、けっこうです。」
「そうですか。ビジネスライクな方のようですから、単刀直入に聞きますね。ご用事はなんでしょうか。食事後でもよろしいですか。」
「失礼しました。では、デザートの後にまたお伺いします。」
「すいません、おなかをすかせた家族が待っておりますので。」
確かに私にまでおなかの鳴る音が聞こえていましたよ。顔を赤らめている数名の方々。
食事は、手早く出てきた。それでもこちらの食事のスピードが速くて申し訳ないくらいだ。
『あの、お代わりありませんか?』めずらしくレイが脳内会話で言った。
「ここはオードブル形式の食事もあったようじゃ。」
「すいません、追加オーダーしたいのでメニューをお願いします。」
あわてて店員がメニューを持ってくる。そりゃあコース料理にメニューなんて必要ないですよねえ普通。
「親方様、メニューの名前がわかりません。」
「ああ、メアさんにどんな種類のものが食べたいのか言って注文してもらってください。例えば肉たくさんとかね。」
ユーリもエルフィもメニューの下に隠れる。
「あなたたち、わからないことをわからないと言っても恥ずかしいことではないのよ。わからないことを隠す方がはずかしいのだから。」アンジーが言った。
「みんな食べ盛りですからねえ。」
「こやつらには、高級料理店より居酒屋の方が良いのかのう」
「私としては、こういう所の料理の味にも慣れてもらわないと困ります。」メアが言った。
「なぜじゃ。必要なかろう。」
「家で作る料理にただ、おいしいだけでは張り合いがないのです。あれを食べたいとかこれを食べたいとか少しは言ってもらわないと。」
「確かになあ。」
「家の食事と外食は違いますからねえ。」
「さて、追加オーダーなどしましたので、用事のある方をお待たせすることになります。私は町長さんにお会いしてきますよ。」
「わしも行こうかのう。」
「皆さんデザートが出てきて、食事が終わったらこちらに合流してください。」
「そうね、そうするわ」
「よかったのでしょうか。私達が一緒でなくて。」パム
「そうですね、少なくとも私も行った方が良いのではありませんか。」とメア
「町長が必要なのは魔法使いだけでしょ。それに回線をつないだままにしているから聞こえるわよ。何かあったら助けに行けるわ。」アンジー、その手に持ったスプーンとほっぺたについたプリンは、説得力がありませんよ。
私は店員に声をかけて、別室に連れて行ってもらう。
店長の部屋が特別に作っている店なんですねえ。やはり高級な店は違います。
「すいません食事の途中で抜け出してしまいました。マナー違反ですね。」
「お待ちするつもりでしたが、よろしいのですか?」
「食べ盛りの子が多いので、こちらの在庫を心配した方がよろしいかと思いますよ。」
「そうでしたか、それは困りましたねえ。さて、あなたもビジネスライクな方とお見受けしました。ご相談がございます。」
「なんでしょうか。」
「さきほど、森の魔女様からお話がありまして、明日には街の人達を集めて説明をすることになりました。その内容を聞かせてもらったのですが、まあ、先に考えられることを相談しておきたいと思いまして。」
「私にですか。」
「はい、あなたにです。辺境の魔法使い様。お嫌いでしょうけどあえて言わせていただければ、マジシャンズセブンの代表者様」
「まあ、色々言われていますが、マジシャンズセブンはやめてください。」
「失礼しました。ですがあなたは重力制御の魔法を使われて、空間魔法も使えると聞きました。違いますか?」
「空間魔法はだめですが、重力制御の魔法は使えますね。」
「やはりそうでしたか。で、お願いをしたいのですが、この街をどこかに移せませんか。」
「私は化物ですか。無理に決まっているじゃないですか。」
「やはり無理でしたか。では、話を変えましょう。この街はどうやって作られたか知っていますか。」
「知りません。」
「この街はルネ、いやアスターテが作ったのですが、なんとたったの1ヶ月で作ったのですよ。」
「そうなんですか。それはすごいですね。(棒」
「その秘密知りたくありませんか?」
「興味はありますが、街の移転と取引するほどではないでしょう。」
「その方法はですねえ、たったひとつの小さな機械を街の中心に埋めるだけなのです。」
「なるほど。それはすごい。」
「でしょう、その技術の情報と交換でその街をあなたの住んでいる町の近くに作って欲しいのですよ。どうですか。」
「無理です。」
「どうしてですか。そこに街を作り、人を移住させればそれで終わりですよ。」
「その人達は自分を守れますか?誰かに守ってもらおうと思っていませんか。」
「そ、それは、」
「自分たちで暮らす意志があるならここでも問題ないでしょう。街を移して私に守らせようというのは虫が良すぎませんか。」
「そう取られても仕方がありませんね。では、移住先を探してもらえませんか。」
「紹介は出来ますが、相手が断る場合もありますよ。それにこの街の人達は、本当に労働しますか?」
「もう少し猶予期間が長ければなんとかなりそうですが、この短期間ではかなり難しいでしょう。しかし、実際にどこに行くかも決まらないままに決断させたくはないのです。」
「それは、あの魔女さんにお話しください。」
「わかりました。方向性が決まった段階では協力いただけますでしょうか。」
「あの魔女さんを通して、になりますが。」
「わかりました。その時はよろしくお願いいたします。」
ちょうどタイミング良くモーラが入ってくる。他の家族も一緒だ。
「さて、ごちそうさまでした。料金は、」
「ご主人様、すでに支払い済みです。」
「では、帰りましょう。ごちそうさまでした」
そうして、その店を出る。なぜか店員が出口でお辞儀をしている。いや、いりませんよ、そういうのは。
「さて、何をさせたいのか、のう。」
「皆さん話の内容は聞いていたのでしょう。」
「彼がしたかったのは、この件について協力をとりつけること、かしらねえ」
「途中に出ていたあの魔法の話は?」
「まあ乗ってきたらそれでよしと思ったのではないでしょうか。」パム
「にしても口ぶりからあの街を作った最初からいたようじゃのう。」
「そうみたいねえ。あのエリクソンとか言う錬金術師よりも前からこの街を知っていそうじゃない。」
「にしてもおまえ、あの技術の知識を欲しがらなかったのはなぜじゃ。」
「私には必要ないからですよ。あっても使わないと思いますよ。」
『さてはすでに見切っておったな。』
『まあ、あの噴水の下に潜った時に少しは見ましたが、メアさんを作った技術に比べるといささかしょぼかったのですよ。想像ですが、この街を作って暮らしはじめて、そうですねメアさんを作り始めた時に一番技術が進歩したみたいです。あと、魔鉱石の力がすごいですねえ。かなりの魔鉱石を使ってこの街を作ったと見ました。』
『なるほど、魔法が優秀なのではなく魔力量が膨大に必要だったと。』
『そんなところです。だから知ってもあまり使えないんですよ。』
『でも、相手は希望を達成したと。』
『妥協点がそこであればですが。』
そして、食事の後にお風呂です。公衆浴場に行くと何やらジロジロと見られています。さすがに近寄ってくる人はいませんが、声は聞こえてきます。
「なんか悪い奴を追っ払ったらしいぜ、」
「すごい技を使うらしい」
でも、
「あいつらが招き入れたんじゃないのか」
「早くいなくなって平和が戻ってくれば良いのに。」
と言う声も聞こえてきます。まあ、災いを持ち込んだと言えばそうなのでしょう。
あまり気持ちよくではありませんでしたが入浴も終わり、宿屋に戻ります。でも、ここの文化レベルはすごいものです。牛乳とか卵とか肉とかどうやって手に入れているのでしょうか。
「あまり気持ちの良いお風呂ではなかったようじゃのう」
「そうね、本当に噂話というものは、なかなかにかまびすしいわね。」
「でも、本当に噂ってひどいですね。簡単に噂を信じてしまう。嘘かどうかなんて疑いもしない。」
「仕方のないことだと思っていますよ。さて、宿に着きました皆さんおやすみなさい。」
「今日は、ああ、メアはどうするのじゃ。」
「ご主人様、私はひとりで眠らせてください。どうやら補助脳との整合性がまだとれないらしくて、今日も寝ろとアラームが鳴っています。」
「宿屋の方もう一部屋取れますか。あ、今からだと部屋の準備が出来ませんか。であれば良いです。メアさん私の部屋で寝てください。私は床で寝ますから。」
「いいえ私が床に。」
「とりあえず何かあったら困りますので、そばにいたいのです。よろしいですか?」
「ということであれば。お願いします。」
「では、皆さんおやすみなさい。」
そうして夜は更けていく。どうやらみんな好き勝手に夜を楽しんでいるらしい。
「おう、夜の散歩か?」私が外を歩いていると後ろから声がかかる。
「モーラですか、あなたも夜の散歩ですか。」
「わしのは見回りじゃな。」
「噴水までですか?」
「ああ、そういうことじゃ。」
その日も星空が綺麗でそれにしては、月もなく道は暗い。こういう街なら夜は街灯くらいありそうですが、何もありません。
「のう、本音を聞かせてくれ。ここの街の人をどうしたい。」
「本音ですか。魔女さんに言ったとおりですよ。関わり合うのは2人だけで良いと思っていますよ。」
「それでも他の土地に行きたいと言えば手伝うのであろう。」
「ええまあ」
「どこも行き所がなくてわしらの所のファーンに泣きつくことになるか。」
「そういう未来が見えますね。でも、」
「でも?」
「一方でこの街から離れたくない人達も出ます。そうなったら行きたい人だけ連れて行くことになるのではありませんか。」
「そうなるよなあ。」
「さて、噴水まで来ました。引き返しますか」
「おぬし、さきほどはいらないと言っていたが、本当は知りたいのではないか。」
「気になったのはですねえ。簡単に作れると言うことは、簡単に壊せるということかなと思いまして。もしかしたら他にも装置があるのか不安になりまして。それと」
「それと?」
「ああいう話は、誰かが聞きつけてその場所を荒らしに来ると相場が決まっていますよ。ねえ」
そこには人影があり、小太りな男が立っていた。
「そうですね。見つかってしまいましたか。」
「エリクソンさんではないですか。どうしてここにいらっしゃるのですか。あの町長との話を聞いていたのですか。」
「町長と私、そしてヘリオトロープと、今後のことを先ほどまで話していました。それと、ここの装置のことは私も知っていました。しかし、そんな経緯でここが出来ているとは知らなかったのです。」
「最初に入ってこられた魔法使いの方達だったと言うことですか。」
「テスト期間が終了して私達は、ここに住むようになりました。そして、一定の期間をおいて出ていく人は出ていき私は残りました。その後、町長と共に残っているなら街に住む住民の体調管理やら建物の管理などを依頼されて。まあ、出て行くタイミングを逃したというのが本当のところです。」
「そうなのですか。」
「私は、とうに探究心もなくただ淡々とここで暮らしていました、何の成果も出せずに。それでもここで暮らして行けたのです。おかげで土木工事から建設工事、果ては電気の修理まで何でもこなせるようになりました。もっとも、この街の維持に特化した形で、なのですが。」
「・・・・」
「しかし彼は違った。この街を作り長寿化を発見し、娘のためとはいえホムンクルスまで作った。それでもなお、この世界の理さえも紐解こうとしていたのです。それに比べて私は、何もしていない。」
「それでこのぬるま湯のような世界を破壊しようとしていると。」
「はい、街が、家がなくなればきっと死ぬか生きるか選択できると思いました。」
「それであなたは、今すぐにこだわったのですね。」
「はい、かねてよりの懸案であった親友との約束も果たせましたので。」
「ご自分だけ死ぬことは考えませんでしたか。」
「自ら死を選ぶだけの根性もありません。」
「それで、この噴水を壊しに来ましたか。」
「先日の騒ぎの時に私も見ていましたから、中に入れさえすれば何とかなりそうでしたので。」
「あなたは一体何がしたいのですか?錬金術ですか、死ぬことですか、生きがいを見つけたいのですか。」
「死というもの、老化というものを感じたいのです。いつか死ぬではなく、もうじき死ぬとう切迫感なのだと思います。旅をして路銀がなくなり飢えて死ぬでもいいんです。でも長命であるが故にその意欲が削り取られるのです。もっとも人それぞれなのかもしれません。少なくとも私はその域には達していませんでした。」
「先ほどのお話では、この街のメンテナンスはあなたが一手に引き受けているのですね。もしかして、あなたが死んだらそれが出来る人がいなくなるのではないですか。」
「ある程度は自動修復しますが、家の明かりや、調理器具などは、たぶん無理ですね。そうでした、まだ私はこの街に縛られて生きることになるのか。」
エリクソンは、残念そうにその場から家に帰って行った。
「早朝に魔女さんに話をしておいた方が良さそうですねえ。」
そうして私とモーラは宿に戻った。
翌朝は、噴水のところで集会が始まっている。人々はごった返していて、広場は人で埋め尽くされている。町長は、横の建物の前に高い台を作り、その上から住民に話をしている。何を言っているのかは、遠すぎて聞き取れない。後から紙でも配ると話しているようだ。
「わしらは行かぬ方が良かろう。敵意を向けられるかもしれんぞ。」
「そこも含めて話しておいて欲しいですけどね。」
そこに集まった市民達は、動揺し、そしてそんな話は知らないと叫んでいる。それはそうだ、長命とはいえ最初から生きている人もいるが、2世代までは子どもが出来ているのだから話を聞いていない者もいる。混乱の中、説明は終わり、台を降りた町長は皆からもみくちゃにされている。しかし、やがて人々はまばらになり、噴水前の広場は誰もいなくなった。
私達は、馬車に乗り魔女さんとその弟子の家に向かう。メアは、エルミラの所に様子を見に行った。
「おや、お揃いで、家は狭いから外で話そうかねえ。」そう言って外に出て、私達は馬車からテーブルを出してきてそこでお茶を沸かす。
「旅するのも良いかしらねえ。」
「魔法使いの里とは話がついたのか。」
「昨日もう一度里に行ってきたわ、最終的に今後の方針を1ヶ月で決めて、残る者への支援は1年間だけと決まったわ。そして、それ以降も建物はこのまま使っても良いと。」
「本当に壊す気だったのか。」
「それについては、否定しなかったわ」
「1年間は物資の補給をするのか。」
「いいえ、残った人に対して食料は1年間保証するらしいわよ。でもお金や物資は渡さないらしいわ。」
「修理とかを引き受けていた、錬金術師のエリクソンさんがいないと困りますよねえ。」
「家などは、1年間は修繕するそうよ。その後は自分ですることになるわね。」
「ひとりずつの意向を確認するのですか?」
「いいえ、ここから移動する人を募集するだけよ。私がどこかへ連れて行くわ」
「おぬし、目的地は、まあ、まだだわな」
「あなたのところはダメなのかしら。」
「すすめはせん。何しろ、人族以外の不可侵地域となっているからな」
「当然、魔法使いの里からは、干渉できないのでしょう?」
「わしの目が届く範囲ならなあ。魔法使い達は、不可視化されていたりするとわからんので完全ではない。わしがいないときに何かあっても何も出来ない。これからは、そういう時を狙ってトラブルを起こされる可能性が高いじゃろうなあ。」
「でも、そこに町もあるのでしょう?どうしているの?」
「一度トラブルがあったが、その時はすぐ戻って、何とか防いだし、今のところは何もないから放置しているわ。エリスもいるから何かあっても帰るまでしのいでくれそうだしなあ。正直なところ、おぬしらが来たことによってリスクは増えることになりそうじゃ。」
「なるほど、渋っているのはそういうこと。そして今はエリスと名乗っている魔法使いがいると。でも、もう一つの町はどうしているの。」
「ほう、よく知っておるな。ベリアルは、何もしておらん。でもあそこにもひとり魔法使いがいたはずじゃ。そうだよなあ」
「ええ、定期的にファーンに結界を張りに来ていた人がいますねえ。」
「結界を張りに来ているの?名前は聞いているのかしら。」
「どうなのじゃ」
「残念ながら、名前は教えてくれませんでしたねえ。」
「ねえ、あなたその魔法使いの魔法を解析して憶えていないのかしら?」
「解析ですか、最初に解析した魔法ですから、よく憶えていますよ。それがどうかしましたか?」
「今ここで見せてくれないかしら。展開前の魔法陣でいいので」
「ええ、今やりますね。」私は魔法陣を軽く指の前に展開してみせる。
「ああ、シンカなのね。あの子そんなところにいたのね。ふうん。それならいけるわね。いいわ、私を含めたこの3人なら、あなたのいない間であってもあなたの縄張りを完全に守ることができると思うの。それでは対価にならないかしら?」
「具体的には、どういうことなんですか。」
「ああ、教えてくれぬか。」
「あの地域に3人の力で防御結界を張るのよ。あなたが動けない時や不在の時の守りは、何が起きても私が事前に察知して、それを防ぐことが出来ると思う。その代わり私の連れて行く人達の働き場所を確保して欲しいのだけれど。」
「ほう、結界を張るのか。しかし、それだけのリスクを負って、対価は、働き先だけで、住まいや食料、費用を求めるわけではないのか。」
「私もねえ。無気力な人を連れて行くつもりはないわ。3ヶ月間ちゃんと働かないなら、この街に戻すし、」
「家はどうするのか。」
「山の中にあの街を作るわ。あっという間にね。」
「あの街をそっくり作れるのですか。」
「一応、この街の建築に携わったのよ。でもね、森の中にあの街を作るのもどうかと思うのよ。まあ、そんなのは後からで、どうでも良いことなの。どう?受け入れるつもりはあるの?」
「おぬし、どう思う。」
「人族としては、無理だと思っていますよ。」
「そうなのか」
「人は差別する種族なので、あえて長命人族みたいなくくりで最初から違う種族であることを示して差別を受け入れ、相手に容認させるのが必要かと。」
「ふむ、人族の中の優位種とはしないわけか。」
「むしろ劣等種としてなじむしかありませんねえ。」
「ふむ、」
「あと、わたしからいいかしら。」
「どうしたアンジー」
「うちの教会を手伝ってもらおうかしら。」
「はあ?おぬしどういう心変わりじゃ。」
「まあ、神の教えを伝える宣教師とかどうかしら。」
「アンジーさんそれはいいのですか?」
「本当はダメなのだけどねえ。」
「やめましょうよ、余計な波風は立てない方が良いのではないですか。」
「やっぱりやめとくわ」
「その方が良かろう。」
「それにしても。結界を張るのですか?」
「私ならできるわ。この街を見守っているのは私ですもの。もっともあなたの縄張りの大きさになると、他の2人にも結界を張るときには協力してもらうけど。」
「まあ、わしもこれからファーンが大きくなって人が増えたときに対処しきれないなあとは思っていたところじゃ。わしにとっては悪くない条件じゃが。」
「2人の魔法使いと2つの町の人達次第でしょうねえ。」
「ぜひ聞いてもらえないかしら。」
「はい聞いてみます。では、一度戻りますかねえ。」
「ちょっと待って。エルミラはどうするのよ。残したまま戻るの?」
「メアさんどうでしょうか。必ず戻ってくるからどうするか考えておいて欲しいとは、まだ言えませんねえ。」
ちょうど戻ってきたメアに尋ねる。
「まだ、家から出てきませんし、話も聞いてくれません。食べ物は用意して玄関に置いていますからそれを食べてくれているようですが。」
「サフィ。あなたから話してみてもらえないかしら。この方達が早く動けるように。少なくとも一度ここから町に戻って、またこちらに来ること位は伝えて欲しいのよ」
「レイさんをお借りします。良いでしょうか。」
「レイ、行ってくれるかい?」
「メアさんではなくて、僕で良いのでしょうか。」レイはメアを見る。メアが頷く。
「それならば行ってきます。」
そうして、私達は、別れた。サフィーネさんとレイをエルミラさんの家に送り届けて、宿屋に戻った。
「エルミラさん。私ですサフィーネです。」
「・・・」
「エルミラさん入りますよ。」
「・・・どうぞ。」
「どうしたのですか?」
「メア様が怖いのです。」
「どうしたのですか。」
「実は、あの森の地下室のところで男と戦っていたのを見てしまったのです。」
「そうだったのですか。」
「戦いは大変綺麗で美しい戦いでそれは輝いて見えました。でも」
「でも?」
「強いのです。強すぎるのです。人ではない何か。ホムンクルスであり人造サイボーグなのだと認識してしまったのです。人ならざる者。いえ人を超えた者であることを。だから怖いのです。」
「一緒にいられないくらい怖いですか?」
「私には何もありません。自分が世間知らずなのをよく知っています。井の中の蛙。いいえ、井戸の中のオタマジャクシなのです。戦いも怖いです。そしてメア様の隣にいれば必ず迷惑をかける。そして、私にはこの街を出ることも出来ない。それも怖い。」
「・・・・」レイもサフィーネさんもどちらも黙っている。
「せっかくできた肉親だとも思うのですが、それよりも得体の知れない何かと思ってしまう自分が悲しい。そしてつらい。」
「だから会えないのですか。」
「はい、色々なことがありすぎて、メア様のこと、そしてこの街のこれからのこと。きっと会えば一緒においでと言ってくれる。でもその手を取る勇気もなく断る勇気もない。」
「考える時間が必要ですか?」
「きっと結論は出ないと思います。」
「町長さんが公園で話していたことは、大体そんな話で、たぶんこの街を出るかとどまるか、1ヶ月で結論を出さなければならないと思います。」
「やはりそうなんですね。」
「詳しい話はこれからになりますが、メアさん達は一度この街を離れます。」
「帰られるのですか。」
「はい、でもこちらには、また戻って来ますよ。この話の決着がついたらここからいなくなると思いますが。」
「そうですか。では、メア様にお伝えください。私は、まだお会いできません。心の整理がつくまで待ってもらえないでしょうかと。」
「それは、1ヶ月の期限を超えることもありますか?」
「わかりません。でも、早めに心を整理して結論を出したいとは思いますとはお伝えください。」
「わかりました。そう伝えます。」
その話をサフィーネから聞いたメアは、ため息をついて
「そうですか、見られていましたか。あの時は、頭と体がなじんでいくのがうれしくて楽しくて、周囲の状況まで確認していませんでしたねえ。」
「レーダーは何をやっておったのじゃ。」
「メアさんに見惚れていましたよ~」
そうサラリと言葉を返すエルフィだったが、実際にはわかっていたのだろう。そうして、知らせずにいたのだろう。まあ、エルフィは、そういう良い子だから。その心のつぶやきにみんなが頷いている。
「だから皆さん。私の心の独り言に頷かないように。」
「メアも頷いているではないか。」
「おや、エルフィの顔が真っ赤だわねえ。」
「知らない~」
「さて、では一刻も早く話を通してこちらに戻って来ましょう。」
「うむ、場所はわかったしなあ。」
「一応、あの地下室のあたりにマーカー打っておきますね。」
「転移する気満々じゃなあ。」
「ええ、一応本来の私の魔法ですからねえ。」
「あっちにもマーカー打ってあるのじゃから一気に飛べるであろう?」
「いつも渡しているペンダントにはそういう仕掛けがありますが、うちのマーカーはお風呂場ですからねえ。馬車ごとは無理ですよ。それに、テストがまだ完了していませんから。」
「テストじゃと?」
「はい、あそこ一回も使っていないんですよ。構築は完璧だと思うのですが、やっぱりやめといた方が良いかもしれませんよ。」
「そうか、少し安心したわ」
「何がですか?」
「おぬしにも、家族を実験に使わないだけの思慮が芽生えていたのだということがな。」
「ああ、確かに。最初の頃ならうれしそうに実験していました・・・ってそれはないですよ。さすがにその前にちゃんと物質の転送テストをしていますよ。今回もそこまでは成功しているのですから。」
「他に何が足りないのじゃ?」
「魔獣とか獣とかの生物の転送テストをしていないのです。」
「あ、なるほどな。もし成功していたら、」
「ええ、転送しますね、迷わず。」
「何も成長しておらぬではないか。」
「メアさん残っても良いのですよ。」
「いいえ、決心が鈍るでしょう。いない方が良いと思います。」
「そうですか。」
続く
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