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第9話 DT同居人が増える
第9-4話 DT魔獣に襲われる
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○ 魔族の襲来
ー掴め望むものなら残さず、人はどこまで立ち向かえるのかー
冬と言っても寒いだけです。雪が降るわけでもなく、乾燥した風が吹いています。
私達は薬草の収穫のため森の奥の繁殖地にいます。手袋をしてそれぞれが台車の上に座って薬草を採取しています。全員が私の世界にあった作業服上下を着て作業しています。寒がりのエルフィはその上にさらにモコモコのオーバーを着て作業しています。
「乾期だというのにヒメツキのおかげで、かなり収量が期待できるな」軍手をはいているモーラが立ち上がり、腰を伸ばしながら言いました。
「そうなの?」その場に立っていたヒメツキさんがうれしそうです。ヒメツキさんには、違う区画に水やりをしてもらっていました。
「あの時に育ててもらった時の薬効ほどではないが、かなりのものになっているぞ」モーラが採取した薬草を篭から一つ取り出して見せている。
「それはうれしいわね。でもあの時はどうしたらいいか試行錯誤しながら育てていたのよ、だからあの時の方法がどうだったのかよく憶えてなくて、どうやっても再現できないのよ」ヒメツキさんは手を顎に当てて首をかしげてい言いました。
「いや、あんなものが世にあふれたら、それこそ人間が魔族と本気でやり合う気になるかもしれん」
「何か大きな災害があった時に備えておいてその時に使えば良いのに、戦争に使おうなんて本当に人間は面倒ね」
「それくらいすごいものじゃ。誇らしいと思うぞ。」
「そうそう、魔族で思いだしたのだけど、最近このあたりに魔族の気配が増えたのよ」顎に当てた手を人差し指にしてヒメツキさんが言った。
「わかるのか」作業に戻ろうとしてモーラが顔を上げる。
「祭壇との行き来で感じるのだけれど、これまでにない数の魔族の気配がするのよ。街までの距離はかなり離れているし、面倒を起こしていないから放置しているけどね」
「ここが狙われているのか?」
「それはないと思うけど、用心するに越したことはないじゃない?」ヒメツキさんはあまり心配していないようです。
「家を壊されると困るなあ」
「そうよねえ弁償しなければならないし」弁償にこだわりますね。前に私が言ったからですね。
「わしらに直接攻撃してこないとは思うが、街が心配じゃ。」
「そう言えばそうね。誰かが伝えてあげても良いかもしれないわね。」
「おぬし、すまんが行ってきてくれないか」モーラが不安そうだ。
「行ってきますけど、気付いた理由をどうしますか?」根拠のない通報は聞いてもらえないかも知れません。
「アンジーの予知は・・まずいか。エルフィが感知したことにした方がいいかな」
「わかりました。ちょっと行ってきますね」
「頼む」
と言うことで領主さんの館に来ています。あれ?モーラさん一緒に行かないんじゃなかったのですか。
「そう言うな。ここのお菓子も久しぶりじゃと思ってなあ」それがついてきた理由ですか。大概ですね
「そうそう。個々のお菓子はおいしいからね」なんでアンジーも来ていますかね。あとキャロルとミカさんの2人も連れて来ていますけど。
「いいじゃない。おいしいものはみんなで食べたいでしょ」アンジーあなたが食べたいだけですよね。
領主さんの館の応接に通されました。何度来ても偉い人の家は緊張します。領主さんはなぜか走り込むように部屋に入ってこられました。何か急がれていますか?
「お久しぶりです。どうですか新しい人も増えて。子どもさん達も元気にしていますか」応接セットの後ろにある机の上から書類を集めています。忙しそうですね。
「はい、ここに・・・って、もういない。すいません相変わらずしつけがなってなくて」
「いえいえ。あの子達は察しが良いから、難しい話だと判断していなくなったのでしょう。あなたが突然来るのは、たいがい込み入った話の時ですから。時間はそんなに取れませんがどういったご用件でしょう。」そう言って応接の椅子に座る。
「実はあまり確実性がないのですが、最近遠くの方の森の様子がおかしいのです」私の言葉に急に真面目な顔になる領主さん。正面に座り直す。
「どういうことですか」
「はい。うちのエルフィの話では、魔獣の気配が多くなっていると。もちろんこちらを襲ってきているわけではないのですが、もしかしたら多数の魔獣が森に潜んでいるのでは、と言うのです。」
「あなたの方でも気付かれていましたか。」
「こちらでもそういう噂が?」
「ええ。ファーンとの交易が頻繁になって、道を通る者が増えたため、皆さん注意を払って道を行き来しているのですが、ここからかなり遠い森の中一帯から魔物の気配がすると。それも大量の気配があると私に報告が上がってきています」
「そうなんですか」なんだ知っていたんですねえ。
「もうすぐここを襲いに来るのではないかと噂されています」
「そうですか」いや、かなり緊迫していませんか?ヒメツキさんはずいぶん余裕がありそうでしたが。
「それでですね、もし襲撃があった時には、その」そこで言いよどまないでください。わかっていますから
「冒険者として登録していますから、当然この街の防衛のお手伝いをさせていただきます」
「助かります。」
「いえ当然の義務です」
「それでですが、新参の方はですね」そこでも言いづらそうです。
「最前線で街の外の人の誘導ですよね」私は冒険者登録の時に緊急時の役割を確認していましたよ
「おっしゃるとおりです。」
「気配が消えるまでしばらくは交代で外周を見回りましょう」
「そこまでおっしゃっていただけるのですか」
「この街は私たちが住みやすい良い街です。襲われて失うわけにはいきません」
「ありがとうございます。では私はこれから冒険者組合に行って打ち合わせをしますので失礼します」
「突然伺ってすいませんでした。」
「いえ、外に暮らすあなたから有力な情報をもらって説得しやすくなりました」
「襲撃がない方がもっといいですが」
「杞憂に終わってほしいものです」
そうして領主さんは、挨拶もそこそこに館を出て行きました。私は玄関にいたメイドさんに厨房に連れて行って欲しいとお願いしました。
案の定、厨房でメイドさん達と遊んでいる4人がいました。私は開いたドアからしばらく見ていました。ええ、モーラもアンジーも楽しそうでした。子どもか!!
「いや、こういう遊びは真剣にやってこそじゃ。そうじゃろう?」なんでそこで息を荒げているのですか。
「そうそう」アンジー他2名が嬉しそうに頷いています。
「まったく。他の2人のお手本になってくださいよ。」
「それは無理じゃ」
「そうそう」
「頼むからこんなお姉ちゃん達にならないでね」私は2人に言いました。
「はいわかってます。ヒメツキねえさんからは、悪い見本だから見習わないよう言われています。そうだよね」
「ねー」
「ちょ、ねえさんですか、サバ読んでいますね。」
「いやそれは正しい。おぬしの言語では、姉と変換したがこの場合「姐」じゃ」
「ああそういうことですか。言語の違いでそう解釈するのですねえ・・・でもごまかされませんよ。」
「まあまあ」モーラが苦笑いして言いました。とほほ
と言うことで、一度家に戻りました。今後の対応を考えなければなりません。
「・・・なのでエルフィは、飲んだくれていないでレーダー役をお願いしますね」
「その飲んだくれているというところは~納得できませんけど~了解しました。びしり」エルフィはそう言って敬礼をしました。その敬礼するの何とかなりませんか。後ろで子ども達が真似しています。
「メアさんとユーリは、エルフィの範囲にいて交代で外周を見回るという事で。何か起きたら外周の人達を街の中に誘導してください。」
「はい」
「私たちはいいの?」ヒメツキさんが言った。
「ドラゴンは干渉できないでしょう。それにできればこの家を守ってください」
「この結界で十分じゃろうが」
「今回の魔獣の件は、もしかしたら私達を狙ったものかもしれません。街を襲っている間にこの家を襲撃してくるかもしれませんので」
「まさか。あの魔法使いの一件以降動きが無いが、だからといっていきなり街まで襲撃する事はあるまい。」
「街を襲撃したついでに狙うというのもあながちないわけではないでしょう」
「紛れてというのはあるか」
「はい。ですのでヒメツキさんには、この家とこの2人とアンジーの命を絶対守ってください。」
「当然よ」ヒメツキさんはそう言ってキャロルを抱きしめた。
「できればあの祭壇に移って欲しいのですけど嫌ですよね」
「どうなの?」2人は顔を見合わせる。
「できればみなさんといたいです。そうだよね」ミカの言葉にうなずくキャロル。
「ならばここにいてください。決して無理しないように。特にキャロル。あなたは魔法の制御が上達していないので、身の危険を感じるまでは、絶対に魔法は使ってはいけませんよ。」
「はい」
「大丈夫です。私がずーっとそばにいます。」
「ミカさんあなたもですよ。慢心は油断を生みます。注意してくださいね。ましてやドラゴンは人の世界に干渉できないのですから。」
「は、はい」私は人なので、そんな風に恐縮しないでくださいね。
「あなたは本当に心配性ね。私もいるし大丈夫よ」ヒメツキさんが言いました。
「子ども達をよろしくお願いします。」
「はい」そこで頬を染めないでください。
その会話を見ていたモーラがはっとして私に言いました。
『おい!もしかしてこの子「属性:英雄」かもしれんぞ!』モーラが脳内で叫びました。いやモーラの叫びは頭に響くんですよ。
『どうしたんですか急に』
『わしがこの子の属性がわからないといったであろう。わしが知識として知っていて、実際に出会ったことがないのが、聖者、賢者、魔道士、竜騎士、混沌そして、英雄じゃ』
『今までだって現れていたでしょう?』
『だがわしは出会ったことはない。なにせひきこもりじゃからな』そんなこと威張らないでください。
『ああ確かにそうでしたね』
『まあ英雄ではなく他の者かもしれんし、あくまでその可能性があるというだけじゃが。こうしてヒメツキの世話を焼いているしなあ、英雄の片鱗も見えんのだが。』
『なにかひらめいたんですか?急に』
『うむ、先ほどの会話でうなずいたその姿を見てなんかそう思ったのじゃ。まあ、属性が英雄だからといって英雄にならなければならないわけでもないのだがなあ』
『気にしてもしようがないですねえ』
そうして見回りの日々が始まりました。領主様との打ち合わせで、エルフィを中心に私とユーリ、メアの4人で週2~3日、三交代で対応することが決まりました。実際に冒険者として参加してみると、結構な冒険者がいることを知りました。さすがに自己紹介をするような間柄ではありませんが、肉屋のご主人は立派な出で立ちで様になっています。宿屋の食堂の女将さんもそうでしたか。まあ、それでないと客が暴れても止められませんものねえ。
翌日には、街の楽しそうな雰囲気がほとんど無くなり、街中の子ども達の声も聞こえなくなってしまい、ちょっと寂しい感じになってしまいました。
「街に遊びに行っても食べるところがないのよ。」アンジーが不満そうです。
「そうですねえ、さすがに家でケバブとか、タコスは食べられませんからねえ。」
「食事のバリエーションを考えなければならないですね。」メアが考え込んでいます。
「今だけでしょ」アンジーもさすがに諦めているようです。
「こちらから攻撃を仕掛けましょうか」メアが目を輝かせています。
「へたに手を出して暴走されるのも問題です」ユーリは冒険者組合に行って説明を受けてきたようです。
「そうですか」その背中に背負ったものは、武器を入れたカゴですよね。何をするつもりなんですか。でも、確かに待っているのは、焦れますねえ。
○ 魔獣との戦闘
しかし、その次の日には動きがありました。
「魔獣が動いたぞ~」
今回、エルフィは役に立ちませんでした。ちょうど交代して休んでいた時だったようです。
「こんな大群どこに隠れていたんですか」かなりの大群が街に近づいています。もっともかなり距離があるので米粒ほどですが、それでもかなりの規模です。土煙を上げてこちらに向かってきています。
「魔族ではなく魔獣ですよ。本来こんなに集団で行動しないはずの魔獣です。統制されていないはずなのになぜ」冒険者達に動揺が走る。
「とりあえず街外の市民を中に誘導してください。」
「はい」団長さんの声にみんな一斉に動き出す。
街の外周に住んでいる人達は、事前に準備していたのですぐに誘導は完了しました。
街の入り口付近に設置してあった物見櫓にいる団長さんに大声で聞く。
「時間的にはまだ先ですがこれからどうしましょう」
「食い止めるにしても規模が大きいですね。たぶん食い止められないでしょう。避難させた方が良いかもしれません。」団長さんは冷静に判断していますが、そうしたくないようにも見受けられます。
「たぶん魔獣を操っている者がいるはずです。それを見つければ何とかなるかもしれませんよ」私はこんな統率が取れているのが不思議です。誰かが操っているのが一番しっくりきます。
「そうですね。でもどうやって探せば良いのでしょうか。まだ距離がありますが方法がわかりません。むやみに飛び出すわけにも行きませんし何か方法はありませんか。当面、冒険者達には、先頭を走ってくる足の速い魔獣が先導しているように見えますので、まずそれを倒すことにします。その間に考えないと。」団長は弓隊に指示を出している。しかし弓の到達範囲よりもかなり遠い。
「そうですね、どう探せば良いか。エルフィどう思いますか?」
「もしかしたら~二・三匹捕まえて~(モーラが)頭を覗けば~探せるかもしれませんよ~」
「ふむエルフィ。ここぞという時のお主のアドバイスは的確じゃのう。危機が来ないと働かないのかその脳は」
「えへへ~」エルフィ、嬉しそうにしないように褒められていませんよ。
『ユーリ、メアさん、走ってくる魔獣達の端の方でとりあえず2~3匹生きたまま捕まえてください。ええ、暴れないように手足切り落として止血するとなお良いです。持ってこられるならこちらに向かってください。私はモーラを連れてそっちに向かいます。そうそう、頭は潰さないでくださいね』
『はい』すでに2人とも魔獣の群れに向かっていたので、メアは近づいてきた魔獣を捕まえて、そこからユーリのいるところに放り投げる。ユーリは、放り投げられたその魔獣の手足を空中で切断する。切断面は炎の魔法を付与していたのか焼け焦げて血が止まっているようだ。バウンドする魔獣の胴体を掴み、私たちの方へ放り投げた。
私は、その魔獣を重力制御でやさしく受け止め、モーラがすかさず魔獣の頭におでこをつける。
メアさんは、作業が終了したのを見ると、『次行きます。』そう言って同じように魔獣をつかみ投げる。その間にも魔獣の群れと戦っている。ユーリとメアのいるところだけ魔獣達の動きが鈍り、一列だった進行の列がそこだけうねっている。
エルフィは、弓で先頭集団の横一列に一斉に矢を射かけ先頭の魔獣を串刺しにして動きを止めてさらにその手前に矢の柵を作り動きを鈍らせようとしている。
『モーラどうですか。』
『うむ、もう少しじゃ』そう言って次の魔獣の頭に額をあてる。
『さっきの魔獣の方がわかるわ!先導する魔獣がいるはずじゃそれを連れてこい』
『反対側の先頭を走る魔獣を捕らえましょう』そう言って私たちも次に迫っている魔獣の群れの先頭をめざす。
『その間に間引きします。』ユーリはすでに走って行って、魔獣の波の横を分断するように走る。メアがこちらに投げてきた魔獣をモーラに渡す。
『エルフィこの景色の場所はどこじゃ』モーラは脳内通信で風景のイメージをエルフィに送る。
『え~と、森の少し高台の見晴らしの良いところですね~』
『行きますか?』
『いや、あの傭兵団の団長に任せるのじゃ。』
『いいのですか?』
『ああ。それでだめなら手を貸そう。』
「では伝言しにいきます」エルフィがそう言って、団長のところに行き、私はモーラを背負って街に戻って行く。その速さを見られたらばれそうですが、誰にも見られていませんから大丈夫ですよね。
「場所の特定ができたとして、それをどう伝える。アンジーをまた使うことになるかのう」
「いいえ、適当に言いますよ。エルフィが見えたとかね」
『確かに今、見えましたよー』
「ええ?本当ですか」
『はい!ばっちりです』
『魔獣使いも遠見まではできなかったんですね』
「ちなみにエルフィ。その魔獣使いを狙い撃てますか?」
「さすがにこの距離では無理ですね~魔法を乗せれば届かないことは無いと思いますが、射殺すだけの威力は残らないと思いますから無理です」
すでにメアとユーリは、魔獣の群れの中に紛れて見えなくなってしまいました。しかし、群れの突進速度は、かなり鈍り始めている。
「おぬし行けるか?」
「どうするんですか?」
「おぬしの魔法をエルフィの矢に乗せて撃つのじゃ」
「ああそういうことですか」
『エルフィとりあえず、傭兵団の団長に敵が見えたことを話すのじゃ』
『らじゃー』相変わらず、余計な知識だけ私の頭から吸収していますね。
「私も戦場に・・・高台がいいのでやぐらに向かいます。」
「うむ頼んだぞ」モーラは、街の中に消えました。きっとこの街まで魔獣が来てしまった時にどこかで出てくるタイミングを見計らって待機しているでしょう。もちろん今回も出番は作りませんよ。
おや、魔法使いさんがやぐらの上で魔法を使っています。私も高いところにいきましょう。
「見晴らしが良いですね」
「やっと来たわね。さっさと一掃してちょうだい」
「そういう魔法を憶えていないんですよ」
「じゃあ見せてあげるから真似しなさい。」あきらめたようにエリスさんが言いました。
「いいんですか?」
「観察者のあなたに見せるのは不本意だけど、まきこまれて死ぬよりはましですからね。」
「わかりました。では行きます」
「え?今のを見ていたの?」
「はい、観察者の面目躍如ですね。」
「まったくあなたという人は」
『エルフィここに来られますか』
『団長と話しています。あの距離にここからだと攻撃できる武器はないみたいです。この街に魔獣が到着する前にあの魔獣使いのところまで行って攻撃するのも無理だと言われました。何とかして欲しいと』
『そうですか。何とかしてみますと話してこちらに来てください』
『ラジャー』
「おもしろそうなことしているわねえ」
「ああ聞こえましたか。ちなみに言葉まで理解できましたか?」
「ええ内容も明瞭にね。脳内無線通信なのかしら」
「そうですか。話の内容までわかったのでしたらあなたも転生者ですね。しかも日本語を理解しているので日本人でしょうか。」
「あ、そういうことなの?」
「ええ、あとで話しますが、そういうことなんですよ。」
「これは失敗したわ。一応転生者なのは秘密にしているのよ。」
「お互い秘密ですよ。」
「はいはい。で、何をすれば良いのかしら。」
「エルフィがこちらに来ますので、エルフィに照準をつけてもらい、魔法を乗せてこの群れを操っている者を撃ちたいのです。」
「魔法を乗せる?」
「ええ、このシールドをレールにしてそこに金属の棒を平行において、電磁気を帯びさせて金属を打ち出したいのです。」
「レールガン?」
「知っていましたか」
「知識では知っていますがそれを作ったのですか?」
「でも、単に物質を打ち出せるだけですよ。今回は相手まで距離がありますからあくまで威嚇ですね。」
「あなたねえ。観察者だけでなく異世界の理論も持ち込む者だったのね。」
「こんなこと誰にも教えていませんよ。この世界の文明を壊してしまいます。」
「持ち込むこと自体が本来タブーでしょう。もっとも私では、レールガンという言葉は知っていますが、原理や理論や現物を構築するだけの技術は持っていないけれど」
「きっと飛ばされる前の時代が違うからなんでしょうけどレールガンを知っていますから、結構世代的に近いですよね。」
「いや、作れてしまうのもどうかと思うわよ。あの世界で一体何を仕事にしていたの」
「記憶はありませんが知識はありますねえ。」
「ああそうだったわね」
「エルフィ到着しました」エルフィが敬礼をする。
「だから敬礼しないでください。私の頭の中のよけいな知識を勝手に使わないでと言っているでしょう」
「ラジャ~」ああもう!おもしろがっていますねえ。
「で、エルフィ見えますか」私はエルフィに位置の特定をお願いしています。
「まだ見えていますよ。移動していませんね~」
「では、魔法使いさんお願いします」
「え?私?」
「私は残念ながら金属の生成ができません。金属の玉を錬成してください。」鉄は鉄鉱石から作っていますけどね、空中から金属は作れませんよ。
「はあ?これだけのことができるのに?」エリスさんはあきれています。
「残念ながら習ってないものは知らないのです」
「しょうがないわねえ」そういってエリスさんは10数個の金属の玉を生成する。
「ありがとうございます」私はその間に土で雨樋を作り、車輪用に作っていた細長い鉄を引き延ばして雨樋に貼り付けて2本の平行した金属棒を作る。細長い金属線を作って雨樋の周囲に巻き付けていく。
「いつでもいけますよー」エルフィが相手を見失わないように監視している。
「では、エルフィさんこの雨どいのはじから相手を見てください。」両端に突起をつけていて、雨樋自体は一カ所だけ空中に固定して、角度を変えられるようにしてあります。
「はい、見ましたよー。相手がよく見えますよー」
「では、相手の胸のあたりか、おなかのあたりに狙いをつけて、雨樋の先端のとがった部分と後端のとがった部分が重なるように見てください。」
「はい」
「ではちょっとパチパチ言いますが少し我慢してくださいね。」私は生成した2本の金属棒の中に電界を発生させる。
「エリスさん、作っていただいた玉をそっと入れてください」
「わかったわよ」
「エルフィ重なったらはいって言ってください。」
「わかりました。いきますよーーーはい」エリスさんの手を離れた金属の玉は、一度空中に停止した後一瞬にしてそこから消えた。まあ、飛んでいったのですけどね。
「エルフィどうですか?」目を開け続けていて涙目になっているエルフィに聞いた。
「土埃だらけで見えません~」あまり目を擦らないようにね。
「当たっていたら良いのですけど」
「あれは当たる当たらないではないでしょ。その周囲が削れていますよ。」おや、エリスさんも見えていますか。さすがですねえ。
「そうですか。やっぱり理論通りにはいきませんね」
「いや理論どおりでしょ。破壊力は!!」
『ご主人様何かしましたか?魔獣達が急に暴れ回りだしました。互いに戦ったりしています』ユーリから連絡が入る。
『統率していた人を倒しましたので、たぶん魔獣達が正気に戻っています。混乱して動き回りますので、動きに注意してください。』
「少なくとも効果はあったみたいですね。それにしてもこの武器はちょっとまずいですね。やはり封印しましょう。」
「使っておいて今更いいますか。」
「そうだ!魔法使いさんが見ていないことにすればいいのです。そしてですねえ、エルフィの矢にエリスさんの爆炎魔法を時限発火にして発射したことにすればごまかせるでしょう。」
「はあそういうことにしましょうか。」
「でも~そんなに私の射程距離は~長くないです~」射程とか私の知識から使わないで
「わたしが風の魔法を付加したことにしましょう」私は白々しく言いました。
「あなた最初はそれを考えていたでしょう。でも、レールガン試したかったから黙っていたんじゃないの?」エリスさん怒らないでください。その通りですから。
「いやまあ、あはははは。ばれましたか。すいません」つい卑屈になって乾いた笑いをしました。エリスさんそんな冷たい目で見ないでくださいね。
「もう、常識人なのか非常識なのかあなたの中のルールがわからないわ」エリスさんが頭を抱える。
「好奇心優先というルールです。すいません。エルフィ、団長に連絡を」
「ラジャー」エルフィの伝言によって団長が指示を出す。
「防衛方法の変更だ。司令塔がなくなり洗脳が解けた。魔獣達はそれぞれ同士討ちをするもの、逃げ出すものなどバラバラだ。こちらに向かってくるものだけ蹴散らせ」
『モーラさんには、逃げ出した魔獣の整理をお願いします』私が黙ったのを見てすかさずエリスさんが私の額に額をつける。
『まかせておけ、って。本来はここを縄張りにしているヒメツキの仕事じゃろう。あ?もうやっている?子ども達は大丈夫なのか?あ?うれしそうに討伐しているじゃと。あまり遊びでやらせるのは感心せんな。ああ、魔力制御の練習に丁度良いって、いいのか?それって虐殺にならないか?追い立てているだけか。それならまあいいか。』モーラは、ヒメツキさんとどうやって連絡を取っているのでしょうか。興味津々です。
『モーラ、ヒメツキさんとの会話までダダ漏れですよ。私の隣にいるエリスさんにまで聞かれていますよ。』
『ああ、こちらの会話まで聞かれるのか。そういうものなのか?やっかいじゃなあ』
『そちらはそちらで大変そうね』冷ややかな声でエリスさんが脳内通信に参加した。
『だれじゃ?ああエリスか。そうかおぬしこの男と同郷じゃな。初めて知ったぞ』
『あまりレディの出自や年齢に興味を持たない事ね』エリスさんはもっと冷たい声で言いました。
『わかったわかった。じゃがこの会話わしらの家族には筒抜けじゃからな。』
『ちょっと伝達範囲は無限なの?』
『無限ではないが、その男のそばで話したら隷属した者には、この距離なら確実に聞かれるようになっておる。注意せい』
「やはり危険ねあなた。ここで殺しておこうかしら。」
「勘弁してください。」
「冗談よ」
『終わったら魔獣使いのいた地点で合流しましょうか』私はハンカチを出して冷や汗を吹きたくなりましたが、持っていないので袖口で額の汗を拭きました。とほほ
『『『『『『『はーい』』』』』』皆さん元気なお返事で。
私は、エリスさんと一緒に残っていた魔獣を街に近づけないようにしばらく攻撃していました。一段落した頃に団長さんに合図をしてから着弾地点に向かいました。
そうして大地が金属の玉でえぐれているところに向かって移動します。実際狙撃した場所の少し離れた街の出入り口から歩いて行きましたので、えぐれている場所を横に見ながら大きくえぐれたところにまっすぐ進んでいます。すごく遠かった。
「こんなに遠いのにエルフィはよく見えましたね」
「すごいでしょー」そう言って頭を下げてくる。
「そうですね、えらいえらい」私はエルフィの頭をなでながら歩く。
「今回は、わしらを狙ったりとかではなさそうじゃな」さきに爆心地に到着していたモーラが言った。
「残念ながら死体が残らないくらい跡形もなく吹き飛ばしてしまいましたから、襲った者の正体はわかりませんねえ」まあ、こういう形なら殺してもけっこう平気でいられるものですね。
「そうでもないようじゃ。これを見ろ」モーラがそう言って着弾地点の先を指さす。
「おやシールドの後ですねえ」
「ああ、防ぎきれなくてケガしたようじゃな。血痕が残っておる」見るとけっこうな血だまりが残っている。もっとも土に吸われて黒くなっているので私にはよくわかりません。匂いでわかったのでしょうか?
「着弾したのはちょっと手前の地点ですね。その人には当たっていません。たぶん着弾した時に飛散したガレキがその者を襲ったのでしょう。」メアが弾道を追ってこちらに戻ってきました。そうですか。さすがにあのぶっつけ本番で命中精度を期待するのは無理でしたか。
「しかも誰かが連れ去っているな。」
「そうね。大きさの違う足が複数残っていて、ひきずったあとまで残っているようだし。足跡の大きさから魔族と獣人かもしれないわねえ。」エリスさんが考え事をしています。
「エルフィ、見た時はひとりしかいなかったんですよね」私は確認のために尋ねた。
「はい、いませんでしたよ~」キョロキョロと周囲を見渡しながらエルフィが言った。
「最初はいなかったのか、後から合流する予定だったのか、誰かが監視していて助けたのか、いろいろ想定できますねえ」私は顎に手を当てて考え込んでしまう。
「うむ、にしてもうちの家もやられていないようだから目的もわからんな。」
「そうですねえ」
ほどなく団長も現れた。経過を話して納得していただきました。まあ、すでにこちら側の人ですしね。
現場を確認して街に戻ると領主さんが商人さんと一緒に待っていました。後ろには冒険者さん達もいます。
「またあなたに助けられたようですね」
「いえ私は何も。しいていえばエルフィの機転とエリスさんの魔法のおかげですよ。私は手伝っただけです」
「今回はそういうことにしておくわ」エリスさんが横を向いて頭に手をやりながら言った。
「お二人ともありがとうございます」今度は商人さんが頭を下げる。
「わーい何かくれるんですか?」エルフィは、うれしそうに言いました。
「こらエルフィ」
「そうですね。何が良いですか?」
「えーと。あの居酒屋でお酒が飲みたいです。おごってくれますか?」
「1年分とかですか?」商人さんがびっくりしている。
「いいえ、みんなと打ち上げがしたいので~ね~」回りの冒険者さん達からおおーっと声があがる。
「そうですか。いいでしょう。こちらもやるつもりでしたから。」
「わ~い」
そう言ってエルフィは冒険者達の所に行って話をしている。
「エルフィさんは良い子ですね」領主さんと商人さんが微笑ましくエルフィを見ている。
「はい素直な良い子です。飲んだくれですけどね」
「はは、それは酒樽を追加しましょうか。」
「お酒は弱いですよ~」エルフィが手を振りながら言いました。そこで言わなくてもというかよく聞こえていましたね。
「そうなんですか?飲んだくれなのに」
「そうらしいです。弱いけど好きで酔ってはすぐ寝て、起きては飲むという感じらしいですね。」
「それってずーっと朝まで続くのではないですか。」
「大丈夫です。その前に連れ帰りますから。」
「えへへ~旦那様よろしく~」
再び私に手を振ってエルフィは冒険者達と一緒に居酒屋に向かった。領主さんも商人さんもあわててその後を追う。私たちは少しだけその後ろ姿を見ていました。
「人気者じゃのう」
「ええ、引きこもりと言っていませんでしたかねえ」
「里が悪かったのじゃなあ」
「そうですね。」
そこにアンジーがミカさんやキャロルと共に現れました。
「アンジーさんそういえば、今回はどこにいましたか。」
「家で震えていたわよ。わかっているでしょう?」
「でしょうねえ。」
「非力な私に何ができるというの。」
「確かに。」
Appendix
そして、何事もなく時は過ぎる。
数ヶ月の暮らしの中でキャロルは魔法の技術をより高みへと伸ばしていく。ドラゴンの子ミカ(幼名をそのまま使っている。)と競うように。
「本当に属性がわかりませんねえ。」
「ああ本当にな。なんでもそこそこ使えるな。」
「マルチタイプですね。ただ問題はひとつだけありますね。」
「ああ複合技が出せないのう。」
「ええ、右手に炎、左手に氷とかができないみたいです。あまり器用ではないですね。」
「しかも単体でも威力がない。」
「魔力量がけっこう多いのでしょう?」
「やはり最初に起こした何かで、同時に違う魔法を使ったり、そもそも魔法を使うことをためらっているな。これは克服するまで難しいかもしれんな」
「そうですねえ。無理しなくても生活に影響が出ないんですからかまわないでしょう。」
「ああ」
Appendix
「なんで助けた。俺は人間だぞ」
「俺たちは人が嫌いだ。そこはおまえと変わらない」
「だから俺も人間だと言っているじゃないか」
「いいんだよ。俺たちと一緒に来い。その前に傷の治療が先だがな」
「わかった。助けてくれて感謝する。」
「そういうところは素直なんだな」
「うるさい」
続く
ー掴め望むものなら残さず、人はどこまで立ち向かえるのかー
冬と言っても寒いだけです。雪が降るわけでもなく、乾燥した風が吹いています。
私達は薬草の収穫のため森の奥の繁殖地にいます。手袋をしてそれぞれが台車の上に座って薬草を採取しています。全員が私の世界にあった作業服上下を着て作業しています。寒がりのエルフィはその上にさらにモコモコのオーバーを着て作業しています。
「乾期だというのにヒメツキのおかげで、かなり収量が期待できるな」軍手をはいているモーラが立ち上がり、腰を伸ばしながら言いました。
「そうなの?」その場に立っていたヒメツキさんがうれしそうです。ヒメツキさんには、違う区画に水やりをしてもらっていました。
「あの時に育ててもらった時の薬効ほどではないが、かなりのものになっているぞ」モーラが採取した薬草を篭から一つ取り出して見せている。
「それはうれしいわね。でもあの時はどうしたらいいか試行錯誤しながら育てていたのよ、だからあの時の方法がどうだったのかよく憶えてなくて、どうやっても再現できないのよ」ヒメツキさんは手を顎に当てて首をかしげてい言いました。
「いや、あんなものが世にあふれたら、それこそ人間が魔族と本気でやり合う気になるかもしれん」
「何か大きな災害があった時に備えておいてその時に使えば良いのに、戦争に使おうなんて本当に人間は面倒ね」
「それくらいすごいものじゃ。誇らしいと思うぞ。」
「そうそう、魔族で思いだしたのだけど、最近このあたりに魔族の気配が増えたのよ」顎に当てた手を人差し指にしてヒメツキさんが言った。
「わかるのか」作業に戻ろうとしてモーラが顔を上げる。
「祭壇との行き来で感じるのだけれど、これまでにない数の魔族の気配がするのよ。街までの距離はかなり離れているし、面倒を起こしていないから放置しているけどね」
「ここが狙われているのか?」
「それはないと思うけど、用心するに越したことはないじゃない?」ヒメツキさんはあまり心配していないようです。
「家を壊されると困るなあ」
「そうよねえ弁償しなければならないし」弁償にこだわりますね。前に私が言ったからですね。
「わしらに直接攻撃してこないとは思うが、街が心配じゃ。」
「そう言えばそうね。誰かが伝えてあげても良いかもしれないわね。」
「おぬし、すまんが行ってきてくれないか」モーラが不安そうだ。
「行ってきますけど、気付いた理由をどうしますか?」根拠のない通報は聞いてもらえないかも知れません。
「アンジーの予知は・・まずいか。エルフィが感知したことにした方がいいかな」
「わかりました。ちょっと行ってきますね」
「頼む」
と言うことで領主さんの館に来ています。あれ?モーラさん一緒に行かないんじゃなかったのですか。
「そう言うな。ここのお菓子も久しぶりじゃと思ってなあ」それがついてきた理由ですか。大概ですね
「そうそう。個々のお菓子はおいしいからね」なんでアンジーも来ていますかね。あとキャロルとミカさんの2人も連れて来ていますけど。
「いいじゃない。おいしいものはみんなで食べたいでしょ」アンジーあなたが食べたいだけですよね。
領主さんの館の応接に通されました。何度来ても偉い人の家は緊張します。領主さんはなぜか走り込むように部屋に入ってこられました。何か急がれていますか?
「お久しぶりです。どうですか新しい人も増えて。子どもさん達も元気にしていますか」応接セットの後ろにある机の上から書類を集めています。忙しそうですね。
「はい、ここに・・・って、もういない。すいません相変わらずしつけがなってなくて」
「いえいえ。あの子達は察しが良いから、難しい話だと判断していなくなったのでしょう。あなたが突然来るのは、たいがい込み入った話の時ですから。時間はそんなに取れませんがどういったご用件でしょう。」そう言って応接の椅子に座る。
「実はあまり確実性がないのですが、最近遠くの方の森の様子がおかしいのです」私の言葉に急に真面目な顔になる領主さん。正面に座り直す。
「どういうことですか」
「はい。うちのエルフィの話では、魔獣の気配が多くなっていると。もちろんこちらを襲ってきているわけではないのですが、もしかしたら多数の魔獣が森に潜んでいるのでは、と言うのです。」
「あなたの方でも気付かれていましたか。」
「こちらでもそういう噂が?」
「ええ。ファーンとの交易が頻繁になって、道を通る者が増えたため、皆さん注意を払って道を行き来しているのですが、ここからかなり遠い森の中一帯から魔物の気配がすると。それも大量の気配があると私に報告が上がってきています」
「そうなんですか」なんだ知っていたんですねえ。
「もうすぐここを襲いに来るのではないかと噂されています」
「そうですか」いや、かなり緊迫していませんか?ヒメツキさんはずいぶん余裕がありそうでしたが。
「それでですね、もし襲撃があった時には、その」そこで言いよどまないでください。わかっていますから
「冒険者として登録していますから、当然この街の防衛のお手伝いをさせていただきます」
「助かります。」
「いえ当然の義務です」
「それでですが、新参の方はですね」そこでも言いづらそうです。
「最前線で街の外の人の誘導ですよね」私は冒険者登録の時に緊急時の役割を確認していましたよ
「おっしゃるとおりです。」
「気配が消えるまでしばらくは交代で外周を見回りましょう」
「そこまでおっしゃっていただけるのですか」
「この街は私たちが住みやすい良い街です。襲われて失うわけにはいきません」
「ありがとうございます。では私はこれから冒険者組合に行って打ち合わせをしますので失礼します」
「突然伺ってすいませんでした。」
「いえ、外に暮らすあなたから有力な情報をもらって説得しやすくなりました」
「襲撃がない方がもっといいですが」
「杞憂に終わってほしいものです」
そうして領主さんは、挨拶もそこそこに館を出て行きました。私は玄関にいたメイドさんに厨房に連れて行って欲しいとお願いしました。
案の定、厨房でメイドさん達と遊んでいる4人がいました。私は開いたドアからしばらく見ていました。ええ、モーラもアンジーも楽しそうでした。子どもか!!
「いや、こういう遊びは真剣にやってこそじゃ。そうじゃろう?」なんでそこで息を荒げているのですか。
「そうそう」アンジー他2名が嬉しそうに頷いています。
「まったく。他の2人のお手本になってくださいよ。」
「それは無理じゃ」
「そうそう」
「頼むからこんなお姉ちゃん達にならないでね」私は2人に言いました。
「はいわかってます。ヒメツキねえさんからは、悪い見本だから見習わないよう言われています。そうだよね」
「ねー」
「ちょ、ねえさんですか、サバ読んでいますね。」
「いやそれは正しい。おぬしの言語では、姉と変換したがこの場合「姐」じゃ」
「ああそういうことですか。言語の違いでそう解釈するのですねえ・・・でもごまかされませんよ。」
「まあまあ」モーラが苦笑いして言いました。とほほ
と言うことで、一度家に戻りました。今後の対応を考えなければなりません。
「・・・なのでエルフィは、飲んだくれていないでレーダー役をお願いしますね」
「その飲んだくれているというところは~納得できませんけど~了解しました。びしり」エルフィはそう言って敬礼をしました。その敬礼するの何とかなりませんか。後ろで子ども達が真似しています。
「メアさんとユーリは、エルフィの範囲にいて交代で外周を見回るという事で。何か起きたら外周の人達を街の中に誘導してください。」
「はい」
「私たちはいいの?」ヒメツキさんが言った。
「ドラゴンは干渉できないでしょう。それにできればこの家を守ってください」
「この結界で十分じゃろうが」
「今回の魔獣の件は、もしかしたら私達を狙ったものかもしれません。街を襲っている間にこの家を襲撃してくるかもしれませんので」
「まさか。あの魔法使いの一件以降動きが無いが、だからといっていきなり街まで襲撃する事はあるまい。」
「街を襲撃したついでに狙うというのもあながちないわけではないでしょう」
「紛れてというのはあるか」
「はい。ですのでヒメツキさんには、この家とこの2人とアンジーの命を絶対守ってください。」
「当然よ」ヒメツキさんはそう言ってキャロルを抱きしめた。
「できればあの祭壇に移って欲しいのですけど嫌ですよね」
「どうなの?」2人は顔を見合わせる。
「できればみなさんといたいです。そうだよね」ミカの言葉にうなずくキャロル。
「ならばここにいてください。決して無理しないように。特にキャロル。あなたは魔法の制御が上達していないので、身の危険を感じるまでは、絶対に魔法は使ってはいけませんよ。」
「はい」
「大丈夫です。私がずーっとそばにいます。」
「ミカさんあなたもですよ。慢心は油断を生みます。注意してくださいね。ましてやドラゴンは人の世界に干渉できないのですから。」
「は、はい」私は人なので、そんな風に恐縮しないでくださいね。
「あなたは本当に心配性ね。私もいるし大丈夫よ」ヒメツキさんが言いました。
「子ども達をよろしくお願いします。」
「はい」そこで頬を染めないでください。
その会話を見ていたモーラがはっとして私に言いました。
『おい!もしかしてこの子「属性:英雄」かもしれんぞ!』モーラが脳内で叫びました。いやモーラの叫びは頭に響くんですよ。
『どうしたんですか急に』
『わしがこの子の属性がわからないといったであろう。わしが知識として知っていて、実際に出会ったことがないのが、聖者、賢者、魔道士、竜騎士、混沌そして、英雄じゃ』
『今までだって現れていたでしょう?』
『だがわしは出会ったことはない。なにせひきこもりじゃからな』そんなこと威張らないでください。
『ああ確かにそうでしたね』
『まあ英雄ではなく他の者かもしれんし、あくまでその可能性があるというだけじゃが。こうしてヒメツキの世話を焼いているしなあ、英雄の片鱗も見えんのだが。』
『なにかひらめいたんですか?急に』
『うむ、先ほどの会話でうなずいたその姿を見てなんかそう思ったのじゃ。まあ、属性が英雄だからといって英雄にならなければならないわけでもないのだがなあ』
『気にしてもしようがないですねえ』
そうして見回りの日々が始まりました。領主様との打ち合わせで、エルフィを中心に私とユーリ、メアの4人で週2~3日、三交代で対応することが決まりました。実際に冒険者として参加してみると、結構な冒険者がいることを知りました。さすがに自己紹介をするような間柄ではありませんが、肉屋のご主人は立派な出で立ちで様になっています。宿屋の食堂の女将さんもそうでしたか。まあ、それでないと客が暴れても止められませんものねえ。
翌日には、街の楽しそうな雰囲気がほとんど無くなり、街中の子ども達の声も聞こえなくなってしまい、ちょっと寂しい感じになってしまいました。
「街に遊びに行っても食べるところがないのよ。」アンジーが不満そうです。
「そうですねえ、さすがに家でケバブとか、タコスは食べられませんからねえ。」
「食事のバリエーションを考えなければならないですね。」メアが考え込んでいます。
「今だけでしょ」アンジーもさすがに諦めているようです。
「こちらから攻撃を仕掛けましょうか」メアが目を輝かせています。
「へたに手を出して暴走されるのも問題です」ユーリは冒険者組合に行って説明を受けてきたようです。
「そうですか」その背中に背負ったものは、武器を入れたカゴですよね。何をするつもりなんですか。でも、確かに待っているのは、焦れますねえ。
○ 魔獣との戦闘
しかし、その次の日には動きがありました。
「魔獣が動いたぞ~」
今回、エルフィは役に立ちませんでした。ちょうど交代して休んでいた時だったようです。
「こんな大群どこに隠れていたんですか」かなりの大群が街に近づいています。もっともかなり距離があるので米粒ほどですが、それでもかなりの規模です。土煙を上げてこちらに向かってきています。
「魔族ではなく魔獣ですよ。本来こんなに集団で行動しないはずの魔獣です。統制されていないはずなのになぜ」冒険者達に動揺が走る。
「とりあえず街外の市民を中に誘導してください。」
「はい」団長さんの声にみんな一斉に動き出す。
街の外周に住んでいる人達は、事前に準備していたのですぐに誘導は完了しました。
街の入り口付近に設置してあった物見櫓にいる団長さんに大声で聞く。
「時間的にはまだ先ですがこれからどうしましょう」
「食い止めるにしても規模が大きいですね。たぶん食い止められないでしょう。避難させた方が良いかもしれません。」団長さんは冷静に判断していますが、そうしたくないようにも見受けられます。
「たぶん魔獣を操っている者がいるはずです。それを見つければ何とかなるかもしれませんよ」私はこんな統率が取れているのが不思議です。誰かが操っているのが一番しっくりきます。
「そうですね。でもどうやって探せば良いのでしょうか。まだ距離がありますが方法がわかりません。むやみに飛び出すわけにも行きませんし何か方法はありませんか。当面、冒険者達には、先頭を走ってくる足の速い魔獣が先導しているように見えますので、まずそれを倒すことにします。その間に考えないと。」団長は弓隊に指示を出している。しかし弓の到達範囲よりもかなり遠い。
「そうですね、どう探せば良いか。エルフィどう思いますか?」
「もしかしたら~二・三匹捕まえて~(モーラが)頭を覗けば~探せるかもしれませんよ~」
「ふむエルフィ。ここぞという時のお主のアドバイスは的確じゃのう。危機が来ないと働かないのかその脳は」
「えへへ~」エルフィ、嬉しそうにしないように褒められていませんよ。
『ユーリ、メアさん、走ってくる魔獣達の端の方でとりあえず2~3匹生きたまま捕まえてください。ええ、暴れないように手足切り落として止血するとなお良いです。持ってこられるならこちらに向かってください。私はモーラを連れてそっちに向かいます。そうそう、頭は潰さないでくださいね』
『はい』すでに2人とも魔獣の群れに向かっていたので、メアは近づいてきた魔獣を捕まえて、そこからユーリのいるところに放り投げる。ユーリは、放り投げられたその魔獣の手足を空中で切断する。切断面は炎の魔法を付与していたのか焼け焦げて血が止まっているようだ。バウンドする魔獣の胴体を掴み、私たちの方へ放り投げた。
私は、その魔獣を重力制御でやさしく受け止め、モーラがすかさず魔獣の頭におでこをつける。
メアさんは、作業が終了したのを見ると、『次行きます。』そう言って同じように魔獣をつかみ投げる。その間にも魔獣の群れと戦っている。ユーリとメアのいるところだけ魔獣達の動きが鈍り、一列だった進行の列がそこだけうねっている。
エルフィは、弓で先頭集団の横一列に一斉に矢を射かけ先頭の魔獣を串刺しにして動きを止めてさらにその手前に矢の柵を作り動きを鈍らせようとしている。
『モーラどうですか。』
『うむ、もう少しじゃ』そう言って次の魔獣の頭に額をあてる。
『さっきの魔獣の方がわかるわ!先導する魔獣がいるはずじゃそれを連れてこい』
『反対側の先頭を走る魔獣を捕らえましょう』そう言って私たちも次に迫っている魔獣の群れの先頭をめざす。
『その間に間引きします。』ユーリはすでに走って行って、魔獣の波の横を分断するように走る。メアがこちらに投げてきた魔獣をモーラに渡す。
『エルフィこの景色の場所はどこじゃ』モーラは脳内通信で風景のイメージをエルフィに送る。
『え~と、森の少し高台の見晴らしの良いところですね~』
『行きますか?』
『いや、あの傭兵団の団長に任せるのじゃ。』
『いいのですか?』
『ああ。それでだめなら手を貸そう。』
「では伝言しにいきます」エルフィがそう言って、団長のところに行き、私はモーラを背負って街に戻って行く。その速さを見られたらばれそうですが、誰にも見られていませんから大丈夫ですよね。
「場所の特定ができたとして、それをどう伝える。アンジーをまた使うことになるかのう」
「いいえ、適当に言いますよ。エルフィが見えたとかね」
『確かに今、見えましたよー』
「ええ?本当ですか」
『はい!ばっちりです』
『魔獣使いも遠見まではできなかったんですね』
「ちなみにエルフィ。その魔獣使いを狙い撃てますか?」
「さすがにこの距離では無理ですね~魔法を乗せれば届かないことは無いと思いますが、射殺すだけの威力は残らないと思いますから無理です」
すでにメアとユーリは、魔獣の群れの中に紛れて見えなくなってしまいました。しかし、群れの突進速度は、かなり鈍り始めている。
「おぬし行けるか?」
「どうするんですか?」
「おぬしの魔法をエルフィの矢に乗せて撃つのじゃ」
「ああそういうことですか」
『エルフィとりあえず、傭兵団の団長に敵が見えたことを話すのじゃ』
『らじゃー』相変わらず、余計な知識だけ私の頭から吸収していますね。
「私も戦場に・・・高台がいいのでやぐらに向かいます。」
「うむ頼んだぞ」モーラは、街の中に消えました。きっとこの街まで魔獣が来てしまった時にどこかで出てくるタイミングを見計らって待機しているでしょう。もちろん今回も出番は作りませんよ。
おや、魔法使いさんがやぐらの上で魔法を使っています。私も高いところにいきましょう。
「見晴らしが良いですね」
「やっと来たわね。さっさと一掃してちょうだい」
「そういう魔法を憶えていないんですよ」
「じゃあ見せてあげるから真似しなさい。」あきらめたようにエリスさんが言いました。
「いいんですか?」
「観察者のあなたに見せるのは不本意だけど、まきこまれて死ぬよりはましですからね。」
「わかりました。では行きます」
「え?今のを見ていたの?」
「はい、観察者の面目躍如ですね。」
「まったくあなたという人は」
『エルフィここに来られますか』
『団長と話しています。あの距離にここからだと攻撃できる武器はないみたいです。この街に魔獣が到着する前にあの魔獣使いのところまで行って攻撃するのも無理だと言われました。何とかして欲しいと』
『そうですか。何とかしてみますと話してこちらに来てください』
『ラジャー』
「おもしろそうなことしているわねえ」
「ああ聞こえましたか。ちなみに言葉まで理解できましたか?」
「ええ内容も明瞭にね。脳内無線通信なのかしら」
「そうですか。話の内容までわかったのでしたらあなたも転生者ですね。しかも日本語を理解しているので日本人でしょうか。」
「あ、そういうことなの?」
「ええ、あとで話しますが、そういうことなんですよ。」
「これは失敗したわ。一応転生者なのは秘密にしているのよ。」
「お互い秘密ですよ。」
「はいはい。で、何をすれば良いのかしら。」
「エルフィがこちらに来ますので、エルフィに照準をつけてもらい、魔法を乗せてこの群れを操っている者を撃ちたいのです。」
「魔法を乗せる?」
「ええ、このシールドをレールにしてそこに金属の棒を平行において、電磁気を帯びさせて金属を打ち出したいのです。」
「レールガン?」
「知っていましたか」
「知識では知っていますがそれを作ったのですか?」
「でも、単に物質を打ち出せるだけですよ。今回は相手まで距離がありますからあくまで威嚇ですね。」
「あなたねえ。観察者だけでなく異世界の理論も持ち込む者だったのね。」
「こんなこと誰にも教えていませんよ。この世界の文明を壊してしまいます。」
「持ち込むこと自体が本来タブーでしょう。もっとも私では、レールガンという言葉は知っていますが、原理や理論や現物を構築するだけの技術は持っていないけれど」
「きっと飛ばされる前の時代が違うからなんでしょうけどレールガンを知っていますから、結構世代的に近いですよね。」
「いや、作れてしまうのもどうかと思うわよ。あの世界で一体何を仕事にしていたの」
「記憶はありませんが知識はありますねえ。」
「ああそうだったわね」
「エルフィ到着しました」エルフィが敬礼をする。
「だから敬礼しないでください。私の頭の中のよけいな知識を勝手に使わないでと言っているでしょう」
「ラジャ~」ああもう!おもしろがっていますねえ。
「で、エルフィ見えますか」私はエルフィに位置の特定をお願いしています。
「まだ見えていますよ。移動していませんね~」
「では、魔法使いさんお願いします」
「え?私?」
「私は残念ながら金属の生成ができません。金属の玉を錬成してください。」鉄は鉄鉱石から作っていますけどね、空中から金属は作れませんよ。
「はあ?これだけのことができるのに?」エリスさんはあきれています。
「残念ながら習ってないものは知らないのです」
「しょうがないわねえ」そういってエリスさんは10数個の金属の玉を生成する。
「ありがとうございます」私はその間に土で雨樋を作り、車輪用に作っていた細長い鉄を引き延ばして雨樋に貼り付けて2本の平行した金属棒を作る。細長い金属線を作って雨樋の周囲に巻き付けていく。
「いつでもいけますよー」エルフィが相手を見失わないように監視している。
「では、エルフィさんこの雨どいのはじから相手を見てください。」両端に突起をつけていて、雨樋自体は一カ所だけ空中に固定して、角度を変えられるようにしてあります。
「はい、見ましたよー。相手がよく見えますよー」
「では、相手の胸のあたりか、おなかのあたりに狙いをつけて、雨樋の先端のとがった部分と後端のとがった部分が重なるように見てください。」
「はい」
「ではちょっとパチパチ言いますが少し我慢してくださいね。」私は生成した2本の金属棒の中に電界を発生させる。
「エリスさん、作っていただいた玉をそっと入れてください」
「わかったわよ」
「エルフィ重なったらはいって言ってください。」
「わかりました。いきますよーーーはい」エリスさんの手を離れた金属の玉は、一度空中に停止した後一瞬にしてそこから消えた。まあ、飛んでいったのですけどね。
「エルフィどうですか?」目を開け続けていて涙目になっているエルフィに聞いた。
「土埃だらけで見えません~」あまり目を擦らないようにね。
「当たっていたら良いのですけど」
「あれは当たる当たらないではないでしょ。その周囲が削れていますよ。」おや、エリスさんも見えていますか。さすがですねえ。
「そうですか。やっぱり理論通りにはいきませんね」
「いや理論どおりでしょ。破壊力は!!」
『ご主人様何かしましたか?魔獣達が急に暴れ回りだしました。互いに戦ったりしています』ユーリから連絡が入る。
『統率していた人を倒しましたので、たぶん魔獣達が正気に戻っています。混乱して動き回りますので、動きに注意してください。』
「少なくとも効果はあったみたいですね。それにしてもこの武器はちょっとまずいですね。やはり封印しましょう。」
「使っておいて今更いいますか。」
「そうだ!魔法使いさんが見ていないことにすればいいのです。そしてですねえ、エルフィの矢にエリスさんの爆炎魔法を時限発火にして発射したことにすればごまかせるでしょう。」
「はあそういうことにしましょうか。」
「でも~そんなに私の射程距離は~長くないです~」射程とか私の知識から使わないで
「わたしが風の魔法を付加したことにしましょう」私は白々しく言いました。
「あなた最初はそれを考えていたでしょう。でも、レールガン試したかったから黙っていたんじゃないの?」エリスさん怒らないでください。その通りですから。
「いやまあ、あはははは。ばれましたか。すいません」つい卑屈になって乾いた笑いをしました。エリスさんそんな冷たい目で見ないでくださいね。
「もう、常識人なのか非常識なのかあなたの中のルールがわからないわ」エリスさんが頭を抱える。
「好奇心優先というルールです。すいません。エルフィ、団長に連絡を」
「ラジャー」エルフィの伝言によって団長が指示を出す。
「防衛方法の変更だ。司令塔がなくなり洗脳が解けた。魔獣達はそれぞれ同士討ちをするもの、逃げ出すものなどバラバラだ。こちらに向かってくるものだけ蹴散らせ」
『モーラさんには、逃げ出した魔獣の整理をお願いします』私が黙ったのを見てすかさずエリスさんが私の額に額をつける。
『まかせておけ、って。本来はここを縄張りにしているヒメツキの仕事じゃろう。あ?もうやっている?子ども達は大丈夫なのか?あ?うれしそうに討伐しているじゃと。あまり遊びでやらせるのは感心せんな。ああ、魔力制御の練習に丁度良いって、いいのか?それって虐殺にならないか?追い立てているだけか。それならまあいいか。』モーラは、ヒメツキさんとどうやって連絡を取っているのでしょうか。興味津々です。
『モーラ、ヒメツキさんとの会話までダダ漏れですよ。私の隣にいるエリスさんにまで聞かれていますよ。』
『ああ、こちらの会話まで聞かれるのか。そういうものなのか?やっかいじゃなあ』
『そちらはそちらで大変そうね』冷ややかな声でエリスさんが脳内通信に参加した。
『だれじゃ?ああエリスか。そうかおぬしこの男と同郷じゃな。初めて知ったぞ』
『あまりレディの出自や年齢に興味を持たない事ね』エリスさんはもっと冷たい声で言いました。
『わかったわかった。じゃがこの会話わしらの家族には筒抜けじゃからな。』
『ちょっと伝達範囲は無限なの?』
『無限ではないが、その男のそばで話したら隷属した者には、この距離なら確実に聞かれるようになっておる。注意せい』
「やはり危険ねあなた。ここで殺しておこうかしら。」
「勘弁してください。」
「冗談よ」
『終わったら魔獣使いのいた地点で合流しましょうか』私はハンカチを出して冷や汗を吹きたくなりましたが、持っていないので袖口で額の汗を拭きました。とほほ
『『『『『『『はーい』』』』』』皆さん元気なお返事で。
私は、エリスさんと一緒に残っていた魔獣を街に近づけないようにしばらく攻撃していました。一段落した頃に団長さんに合図をしてから着弾地点に向かいました。
そうして大地が金属の玉でえぐれているところに向かって移動します。実際狙撃した場所の少し離れた街の出入り口から歩いて行きましたので、えぐれている場所を横に見ながら大きくえぐれたところにまっすぐ進んでいます。すごく遠かった。
「こんなに遠いのにエルフィはよく見えましたね」
「すごいでしょー」そう言って頭を下げてくる。
「そうですね、えらいえらい」私はエルフィの頭をなでながら歩く。
「今回は、わしらを狙ったりとかではなさそうじゃな」さきに爆心地に到着していたモーラが言った。
「残念ながら死体が残らないくらい跡形もなく吹き飛ばしてしまいましたから、襲った者の正体はわかりませんねえ」まあ、こういう形なら殺してもけっこう平気でいられるものですね。
「そうでもないようじゃ。これを見ろ」モーラがそう言って着弾地点の先を指さす。
「おやシールドの後ですねえ」
「ああ、防ぎきれなくてケガしたようじゃな。血痕が残っておる」見るとけっこうな血だまりが残っている。もっとも土に吸われて黒くなっているので私にはよくわかりません。匂いでわかったのでしょうか?
「着弾したのはちょっと手前の地点ですね。その人には当たっていません。たぶん着弾した時に飛散したガレキがその者を襲ったのでしょう。」メアが弾道を追ってこちらに戻ってきました。そうですか。さすがにあのぶっつけ本番で命中精度を期待するのは無理でしたか。
「しかも誰かが連れ去っているな。」
「そうね。大きさの違う足が複数残っていて、ひきずったあとまで残っているようだし。足跡の大きさから魔族と獣人かもしれないわねえ。」エリスさんが考え事をしています。
「エルフィ、見た時はひとりしかいなかったんですよね」私は確認のために尋ねた。
「はい、いませんでしたよ~」キョロキョロと周囲を見渡しながらエルフィが言った。
「最初はいなかったのか、後から合流する予定だったのか、誰かが監視していて助けたのか、いろいろ想定できますねえ」私は顎に手を当てて考え込んでしまう。
「うむ、にしてもうちの家もやられていないようだから目的もわからんな。」
「そうですねえ」
ほどなく団長も現れた。経過を話して納得していただきました。まあ、すでにこちら側の人ですしね。
現場を確認して街に戻ると領主さんが商人さんと一緒に待っていました。後ろには冒険者さん達もいます。
「またあなたに助けられたようですね」
「いえ私は何も。しいていえばエルフィの機転とエリスさんの魔法のおかげですよ。私は手伝っただけです」
「今回はそういうことにしておくわ」エリスさんが横を向いて頭に手をやりながら言った。
「お二人ともありがとうございます」今度は商人さんが頭を下げる。
「わーい何かくれるんですか?」エルフィは、うれしそうに言いました。
「こらエルフィ」
「そうですね。何が良いですか?」
「えーと。あの居酒屋でお酒が飲みたいです。おごってくれますか?」
「1年分とかですか?」商人さんがびっくりしている。
「いいえ、みんなと打ち上げがしたいので~ね~」回りの冒険者さん達からおおーっと声があがる。
「そうですか。いいでしょう。こちらもやるつもりでしたから。」
「わ~い」
そう言ってエルフィは冒険者達の所に行って話をしている。
「エルフィさんは良い子ですね」領主さんと商人さんが微笑ましくエルフィを見ている。
「はい素直な良い子です。飲んだくれですけどね」
「はは、それは酒樽を追加しましょうか。」
「お酒は弱いですよ~」エルフィが手を振りながら言いました。そこで言わなくてもというかよく聞こえていましたね。
「そうなんですか?飲んだくれなのに」
「そうらしいです。弱いけど好きで酔ってはすぐ寝て、起きては飲むという感じらしいですね。」
「それってずーっと朝まで続くのではないですか。」
「大丈夫です。その前に連れ帰りますから。」
「えへへ~旦那様よろしく~」
再び私に手を振ってエルフィは冒険者達と一緒に居酒屋に向かった。領主さんも商人さんもあわててその後を追う。私たちは少しだけその後ろ姿を見ていました。
「人気者じゃのう」
「ええ、引きこもりと言っていませんでしたかねえ」
「里が悪かったのじゃなあ」
「そうですね。」
そこにアンジーがミカさんやキャロルと共に現れました。
「アンジーさんそういえば、今回はどこにいましたか。」
「家で震えていたわよ。わかっているでしょう?」
「でしょうねえ。」
「非力な私に何ができるというの。」
「確かに。」
Appendix
そして、何事もなく時は過ぎる。
数ヶ月の暮らしの中でキャロルは魔法の技術をより高みへと伸ばしていく。ドラゴンの子ミカ(幼名をそのまま使っている。)と競うように。
「本当に属性がわかりませんねえ。」
「ああ本当にな。なんでもそこそこ使えるな。」
「マルチタイプですね。ただ問題はひとつだけありますね。」
「ああ複合技が出せないのう。」
「ええ、右手に炎、左手に氷とかができないみたいです。あまり器用ではないですね。」
「しかも単体でも威力がない。」
「魔力量がけっこう多いのでしょう?」
「やはり最初に起こした何かで、同時に違う魔法を使ったり、そもそも魔法を使うことをためらっているな。これは克服するまで難しいかもしれんな」
「そうですねえ。無理しなくても生活に影響が出ないんですからかまわないでしょう。」
「ああ」
Appendix
「なんで助けた。俺は人間だぞ」
「俺たちは人が嫌いだ。そこはおまえと変わらない」
「だから俺も人間だと言っているじゃないか」
「いいんだよ。俺たちと一緒に来い。その前に傷の治療が先だがな」
「わかった。助けてくれて感謝する。」
「そういうところは素直なんだな」
「うるさい」
続く
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そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
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