【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水

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第12話 襲撃と告白と会ってはイケない人達

第12-2話 スパイは誰?

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○ スパイ
 馬車に戻ってみんなで一息つきました。
「勝っちゃうんですねえ」アンジーがため息をつきます。
「勝っちゃだめなんですか?」ユーリが驚いて言った。
「まあ、勝たないと全員死んでいるんですけど。あいつらもちょっとやりすぎましたから、まあ自業自得ですけどね」そう残念そうでもない表情でアンジーが再び言った。
「あいつらも?」その表現にメアが冷静に指摘した。
「はい、”あいつらも”です」アンジーが私をジッと見て言いました。
「知り合いですか?」私は尋ねざるを得ません。
「はい。知り合いではありませんが関係者です。私は現魔王であるルシフェル様からは、いつか殺すつもりで襲うと聞いていましたが、私は巻き込まれてもかまわない、好きにしてくれと言っておきましたから」私を見ながらそう言いました。でも表情は切なそうですね。
「どういうことですか?」
「でも、ここまで強くなっていますか。しかもルシフェル様も人が悪い。あからさまに刺客を寄越すとか、もうあなた達をめぐる状況はかなりまずいですね。私の正体をばらす時が来たようです。私は魔族側の見張りです。見・張・り。魔王ルシフェル様の監視役。スパイです」そう淡々と話すアンジーをみんながぽかんと見ています。ああ、メアだけは静かに冷たい目で見ていました。
「世界の安定は、共通の敵に対して一丸となっている時に一番安定しています。なので魔王ルシフェル様は、その状態を維持したいと考えていて、勇者を何組か見つけて様子を見ていたのです。そう。あえて泳がせて。そしてその勇者一行が魔王と対決するまで人間界は魔族に手は出さないだろうと考えています。そして」ここで一息を入れるアンジー。
「そのパーティーの一つとして見張られていたのです。あなたは」今までに無いくらい真剣な表情でアンジーは言いました。
「なるほどそういうことでしたか」私は納得しました。そうだったのですね。
「それで、私がスパイとして入り込んでいて監視していたわけです。まあそういうことです」そこでアンジーは横を向いて両手を広げてヤレヤレといったポーズを取ります。
「天界の方からとか言っていましたけど違ったんですねえ」私は自分の予想が外れていた事にびっくりしました。
「天界から地獄へ降りて来たルシフェル様のお使いで来ましたので、あながち間違いではありませんよ。嘘ではありません」さらりと答えますねえ。天使というのはみんなそう言う嘘でごまかすのでしょうか。
「やはり消火器商法でしたか」私はいつも通り前の世界の言葉で呟いてしまいました。
「なんですか~その消火器商法って~」今更ですねエルフィ。ああエルフィは初めて聞きましたか。
「人からお金を巻き上げるために役所とか消防とかの偉い人と勘違いさせて売りつけるんですよ。家には必要もない高価な消火器を」まあ皆さん消火器自体知らないですね。
「そんな事は悪魔でもやらないと思うのですが」ユーリがとんでもない事を言いました。
「高齢者とかは、そうですねえ領主様とか国王は偉いと思っていたりするので、その人の命令だとか素直に聞いてしまう。そんな感じですかねえ。」私も知ったかぶりでそう話します。
「今時説明責任も果たさないなんて非常識です」アンジーがつい乗って言いました。
「悪魔に言われましても~」エルフィがアンジーをすでに悪魔呼ばわりです。
「悪魔ではありません堕天使です。まがりなりにも元天界の者ですよ。それは違っていませんから念のため言っておきますね」アンジーは悪魔呼ばわりされてちょっと怒って言いました。
「はあ」エルフィがなんとも言えないため息をつきます。
「それでですね、転生してきた勇者候補を見張る役をしていたのが私です」おお、話を戻しますか。さすがアンジー。
「でも、その人は別なところに転生したと言っていましたが」
「私、一応天使ですので嘘は言わないことにしています。もちろん都合の悪いことは言わないんですけどね。その人は確かにあなたのいた世界から転生していますし、転生前から候補者だったので、あなたの世界に危険を賭して転生し、守護という名を借りて監視をしていました。そしてその人は、前にも言いましたとおりある勇者の近くにいるはずです。いない訳ではありません。
 そして、急にその勇者候補が転生したおかげで、元のこの世界に引っ張られて帰ってきたのです。私も転生してきたのは間違いないので、うそはついていませんよね。
 転生の時にその転生者と離れてしまったのも本当です。そうしたら、たまたまあなたがそばに転生してきたので、ついでだからあなたを見張るように言われました。あなたに記憶がなかったのは、私の上司の仕業でした。わたしがした訳ではありません。まあ、私がやったとは言っていませんし、誰がやったともどうしてそうなったかも一切口にしていませんから嘘はついていません」そこは丁寧に説明されました。その辺は天使だからなのでしょうか?
「なるほどそういうことでしたか」
「記憶の封印に関しては私がした事ではありませんが申し訳ないと思っています。転生者も色々で、面倒な人も多いのです。記憶を封印したのは上司の考えで、念のためその人の心根を確認したかったと言うのもあるみたいです。もっともあなたの場合は必要なかったみたいですが、それは結果論なので。
 でも、最初に会った時に空気を圧縮して投げて、偶然とはいえ魔獣を一撃で倒したときには、これはやばい人が転生してきたなあと思いましたよ。でもその後はおとなしいものでしたね」アンジーさんがなぜか腕を組んでウンウン頷いてそう話します。
「・・・・」
「それから、次々とパーティーメンバーがそろっていくのを見ていると、本命の勇者なのかと思わざるを得ませんでした。しかも隷従させて」アンジーはそう言いながら皆さんを見渡します。冷たい目ではなく何か変なものを見るように見ています。ああ、珍獣を見るような感じですか?
「そこじゃ。なんでアンジーは隷従されたのじゃ」モーラが我に返ったのかそう尋ねました。
「あれは、本当にハプニングですよ。さすがに自分のホーリーネームがあなたの口から飛び出して、なおかつそばにドラゴンがいたと言う偶然が重なったとはいえ、まさか隷従させられるとは思いませんでした。まあ、私の意志で解除できるようにしてもらっていますし、いつでも抜けられますからねえ」
「ならば、今解除していないのはなぜじゃ?」
「え?ああ、なんでなんでしょう。まあ、解除してしまったことがばれるのもまずいと思っていましたし、いつでもできますから」
「普通なら解除した後にネタばらしをするものじゃないのか?」モーラがそこを突っ込み続けます。
「え、まあ確かにそうですね。でも、隷属を解除するよりも、タイミング的に今、話しておかないと色々とまずいので」
「おぬしはこいつに、いや、こいつだけではなくわしらにも未練があるのであろう?」モーラが確信を持ってそう言った。
「はあ?何を言っているんです。いつでも解除できるんですよ」
「おぬしは、自分の意志で解除せずにいるのであろう」
「!!」
「無意識に隷従を理由に逃げたいのではないか?今の状況から」
「そ、そんなことは・・・ないですよ」アンジーさんそこで下を向いてはいけません。
「ならば、なぜ今この話をする。別に今でなくても良かろう。わしらがお主の本当のあるじであるルシフェルとやらに殺される段階でばらしても良かろう。なぜ今なのじゃ」
「実はですね、あと3組ほど勇者候補が存在しています。一つのグループは、転生者ですが、何というか実力は無いのに虚勢を張ってそれでも何とか周りの人達が頑張ってくれて徐々に成長してきているグループ。もう一つは、この辺では一番大きい国の王族のエリート王女様と王国の生え抜きで構成されたグループ。もちろん転生者も含まれています。あともう一つのところは、情報が回ってこないのでよく知りません。そして・・」
「わしらか」
「はい、のらりくらりとここまで来ましたが、人材で言えば一番のパーティーらしいのですよ。あくまで潜在能力という点ですが。もっとも”人族は一人しか仲間にしていない”ので本来の勇者パーティーとして扱って良いものかどうかは不明ですが」
 そこでアンジーが一息つく
「さらに説明するとですね。まずあなたは、転生者で魔法使いなんですが、自分では日常生活能力に特化しているように見えていますが、使っている魔法はかなりやばい高位の魔法を使っていますよね。
 次にモーラですが、本人は末席と言っていますけど、ドラゴンの世界では、たぶん序列一桁台と噂される土属性の始祖の正統後継者のドラゴンらしいのです。
 エルフィは、ハーフクォーターとは言え、魔力量、回復能力がエルフ族でも抜きん出ていて、実は弓の腕も一族の中でも屈指なのに、一族の中では冷遇されて、自分でもいまいちぱっとしないと思い込んでいるハイエルフなのです。
 そしてユーリ、成長著しい女魔法剣士、成長限界が未だ見えていません。相手の魔法を切るなんて普通の魔法剣士にだってできませんよ。
 さらにメア。万能ホムンクルス。近接戦闘も魔法攻撃もできるマルチアタッカー
 そして、今はここにいませんが、魔力耐性、薬物耐性ほぼ100%のタンカー役が可能なドワーフのパム。
 まあ、あと遠距離攻撃か、強化魔法を付与できる人がいれば、たぶんルシフェル様単体と互角に戦えるところまで成長できるでしょう。ほぼ完璧です。まあ、その分もこのやる気の無い魔法使いがやる気を出せば何とかなるんですけどね」
「そこにぬしが入れば」
「確かに今は、能力を限定していて何もできませんけど。能力解放すればさらにすごいことになりますよ。もっとも私は数に入れられても困ります」
「聖属性の天使じゃものなあ」
「堕天使ですから使えるのは光属性ですし、魔族に対しては絶対的な効果がありますね。なので、雑魚を蹴散らすことくらいはできそうです」
「制限をはずせんのか」
「まあ私のあの方への忠誠の意志表示ですから。あの方から気持ちが離れればそうなりますけど」
「おぬし。なぜその者。ルシフェルとやらに加担するのじゃ」
「拾われた恩ですね。私が天界を追放されたときに拾ってもらいましたから」
「もう恩は返せたと思わぬか?」
「それはまだだと思います。ですが最近わからなくなってきたのです。魔族の王国を作り、人間を間引きしてもあまり意味が無いと思うようになっています。そんなことをすれば、人間はむしろ打倒魔王に結束して頑張り出すような気がします。ですから共存こそが大事だと。でも人間というのは度しがたいのです。一度懲りても世代が変わると同じ事を魔族とか他の種族と争いを起こすのです。まったく強欲ですよね」あの~2人とも話がドンドンずれているのに気付いていますか?
「確かにな。人間というのは50年単位で人生が終わるからなのか、せっかちよのう。なんで人の物まで欲しがるか。同一種族の中での差別も偏見もかわらないし度しがたいのう」
「しかも狡猾です。魔族も使わないような姑息な手を思いついて攻撃していきますよね」
「そうですねえ、他の種族に比べて力や能力が足りないことがコンプレックスなんでしょうね。自分を守るだけでは無く相手まで攻撃するのはやり過ぎの部分もありますね」
「なのでルシフェル様は、人間を間引く方向で考えているのです。定期的に」
「そっちも度しがたいがなあ」
「お互いの領域の間に不可侵領域でも作ってみてはどうですか」私は、話自体は面白そうなのでつい参加してしまいます。他の人はついてきているのでしょうか?
「その効果はもって2世代くらいですね。人間というのはすぐそういう約束を忘れて不可侵領域を壊そうとするのです。ですから定期的に魔族は恐いものであって、手を出してはならないものと言うのを見せつけて、忘れさせないようにしないとダメなのです」
「間引かれたくないですねえ。その点エルフはどうなんですか?」
「私たちは基本的に自分の領域から出ませんから、危害も加えないし加えられたくもありません。魔族とは共存できるとは思います。ですが人間は・・・」
「エルフと人間はどうなの?」アンジーそこで軌道修正しないで話をさらに脱線させてどうするんですか。
「本当にしつこくこちらの領域に入り込もうとします。ええ、新しい文明とかを武器にして、貿易という形を取って侵略してきます。でも、文化・文明なんてエルフには必要ないのです。人間は便利になったらうれしいでしょうとか言いますが、自分の生活に必要なものではなく余計なものが多いのです。それは便利という名の堕落であることが多いのです」エルフィはそう言いました。
「なるほどね」
「私は、変わり者ですので外界に出てきましたし、あそこに戻る気にもなりませんが、森から一歩も出ないことを誇りに思っているエルフもいます。何百年も何千年も」
「さて人を代表して何かないですか?」ユーリの意見も聞きたい。
「いえ、人は欲望があるからこれだけ増えたんだと思います。強欲に人間同士でも奪い合っています。でも優しい人達もいます。仮に間引かれるとしてそんな人達まで間引かれるのであれば抵抗せざるをえません」
「もっともじゃ。メアはどうじゃ」
「残念ながら間引かれようとあまり関心はありませんが、ご主人様が間引かれるというのであれば全力で抵抗します」
「そうじゃろうとも。さて我々を隷属させている、おぬしはどう思うのじゃ」
「私ですか?そうですねえ。皆さんが間引かれるのは勘弁して欲しいですね。私も間引かれるのは勘弁して欲しいですよ。さらに他の人も間引かれるのはちょっとねえ。幸い私の周りには良い人ばかりでしたし、人間はもちろんですが、天使さんもドラゴンさんもエルフさんもドワーフさんももちろん魔族さんも獣人さんもいろいろな人がいないとお話しできなくなって寂しいですよ」
「わりと平和主義者なのじゃなあ。もっとも敵対する者にはかなり厳しいと言わざるを得んが」
「ですから、一度ルシフェル様とやらにお話しをしたいですねえ」
「どうしてじゃ」
「なんとか心変わりして欲しいですね。なので説得は無理としても一度お話ししてみたいです」
「な、何を言うんですか」アンジーが驚いています。話をする事は別に問題なさそうですけどねえ。
「どうせ間引かれるなら話を聞いて納得したいじゃないですか。まあ、彼の言う理屈が理不尽であって、私が納得できなくても結局間引かれるんでしょうけど」
「話すこともできず、いきなり殺されるかも知れませんよ」アンジーがなぜか止めにかかっています。
「これだけ用意周到に計画をする方がそんなことをしますかねえ。まあ私の話し方によっては気に入らなくてその場で殺されるかも知れませんけど」
「やめてください」アンジーが真剣な目をして私を見て言いました。
「どうしてですか?」
「あなたたちがルシフェル様の刺客を倒してしまったこの時点で、私がこの話をしたのは、あなた達に死んで欲しくないからです。あいつらを倒して力を示してしまったこの段階では、勇者としての意志がないと知れられれば、抹殺につながる可能性がぐんと上がるのです。なのでこれ以上成長して欲しくないと思っています。なので彼らがうまくごまかしてくれるのを祈るのみなのですよ」
「でも今はそれで良いかもしれませんが、最終的には無差別に間引かれるんですよ。いや、特に私のような転生者はまっさきに間引かれるでしょう。たとえ無害だとしてもこのまま黙っていてもこの先には、生きていける可能性が1ミリもないんですよ。たぶん」私は十数年後に殺されるのは嫌ですよ。
「やっぱりそうですよね。私があなたは無害だから見逃してくれとお願いしても無理ですよね。きっと」がっくりと肩を落としうなだれている。
「悲しまないでください。アンジーのせいではないですよ」いつものようにポンポンと頭をたたく。
「なぜそこで黙って殺されようとするのじゃ。なぜ戦わん」モーラはなぜか怒っています。
「人間の業は度しがたい。それは私自身も思うからです。こうしている私だっていろいろな欲望と同居しているんです。これは人のもった業(ごう)なのでしょう。人間は変えられないんです。だからこそこんなに急激な文化・文明の発達があるのだと思っています。短い生だからこそ知恵を絞り、いかに便利に快適に暮らそうと考える。欲望が原動力なのです。でもそれを是としない自分がいます」私は人間である事に少しだけ悲しくなりました。ええ、自分自身が悲しくなりました。
「ここで私が、私達が間引かれたとして、人間はきっとルシフェルさんを倒すために知恵を絞り、何度も繰り返して、たぶん最後には倒すでしょう。きっと何百年か何千年か後には必ず。それまでは、無力な人間は間引かれるのもやぶさかではないのです。でも抹殺されないだけルシフェルさんに慈悲はあると思いますよ」
「割り切っておるのう。まあ魔族だけでは生きてはいけないからしようがないが」
「人は全滅させられないんですか?」ユーリがモーラに聞いた。
「人に寄生する魔族もいるからのう。全滅したら困るじゃろう」
「少なくとも共存しなければならないのに人間がわがまますぎるんですかねえ」私はため息をついてしまいます。
「魔族やエルフなど多種族の存在は、人間側にはメリットはないからのう。奴隷にできれば別じゃろうが」
「ああ、アンジーさん話がそれてしまいましたね。私としてはこの状況はしょうがないと思っていますよ」
「そんな!生き残りたいと思わないのですか。記憶をとり戻したいとは思わないのですか」
「ごめんなさい。これまでの人生がどういうものだったのか、たぶん悔いが残っているからこちらに来られたのでしょうけど、どうやり直したかったもの定かではありませんので。もし今、記憶が戻ってもきっと今更なのです。死ぬことは決まっています。それならどうか皆さんとの楽しい思い出だけを残しておきたいです」私は素直な気持ちをアンジーに伝えます。
「そんな、私が記憶を戻しても良いとルシフェル様に言わなかったせいでこんな事に」
「どうせ、ルシフェルとやらに入れ知恵されたのじゃろう?」
「確かに私の意志ではありません。ある程度見定めてから徐々に解除していくように言われていました。私は、あなたから無理に解除すると今の記憶が無くなってしまうかもしれないと言われていたのでそれも嫌だったのです」
「むしろ感謝していますよ。過去に何が起こっていようと今の私が本当の私であると言えます。もしかしたら極悪人で大量殺人者だったかも知れません。だったとしても私はたくさんの誤解や無理解の中でそこに行き着いた可能性もあるわけです。また、ただの無能力者で家の中でひたすら惰眠をむさぼっているような人だったのかもしれません」
「話の腰を折るが、おぬしはそうではなさそうじゃがな。どちらかというと上司と部下の間に挟まれて心を病んだ中間管理職というイメージじゃぞ。それで自殺でもしたのでは無いか?」
「そうかもしれません。でも、今のこの状態を少なくとも幸せと思っています。ただこの幸せを壊されるのであれば、少しでも長く続くように多少はあらがってみせますよ。もちろんその中にはアンジーさんも入っているのですけどね」
「最初に隷属した時からこうなることはわかっていたんですよね。何をやってもあなたは優しかったんです。わたしを疑いもせず。むしろ心配して。私は心の中に罪悪感がありました」
 そこで一同沈黙しました。何か話が飛躍しすぎていて何も話せなかったらしいのですが。
「であれば私が殺されたせいで皆さんに影響が及ぶ可能性が出てきましたので最終ロックもはずしましょう」
「なんじゃその最終ロックとは」
「皆さんには失礼なことですが、皆さんの意志ではずせると言っていたのですが、実は、ちょっと仕掛けをしていました。これについては、私が魔方陣構築が楽しくてついやってしまった部分もありますが、何かあったときのためでもありました。でもそれは言い訳ですね。皆さんに話していなかったのですから」
「わしらからは解除できないのか」
「今かかっている隷属の魔法の上にさらに隷属の魔法をかけた形になっていまして、隷属の魔法を解除すると一層目の魔法が解除されるのです。すると、すべての能力は解放され、私からの強制力はなくなったように見えます。でも、皆さんが自分の意志で無くあやつられて解呪した時のためにもう一つ鍵をつけていました。それを全て解呪しますね」
「なるほどのう。そんなことまで考えていたのか」
「いや、技術的な好奇心ですね。理由は後付けです。だって、あやつろうとする魔法を跳ね返すことが可能な魔法もありそうじゃありませんか。まあ私には構築できませんけど」
「それは無理というものではないか?すべての魔法を跳ね返すことになるぞ」
「そうですよねえ。なので本来は話しておけば良かったのですが言わずにいました。本当にすみません」
「ご主人様謝らないでください。そんなところなのですよ。やさしすぎるというか、冷たいというか。私はそんなことをいつも思っておりました」黙って聞いていたメアさんが急に話し出しました。
「ええ?私冷たいですか?」
「私達に甘えることはありません。さらに無理を言うことも。もう少し私たちを頼って使って欲しいと思っておりました。少なくとも私はそう思っております。もちろんご主人様は、何でも出来てしまいますから、そうそう頼ることはないのでしょうけれど。いろいろな事を全て自分がと思っているところがございます。それでは私たちはお邪魔としか思えません」
「そんなことは無いとみんなはわかっているのじゃ。じゃが一人で頑張ろうとしているのが寂しいのじゃ。おぬしはいったではないかわしらは仲間いや家族じゃと」
「すでに皆さんご主人様の背中に守られていなければならない者ではありませんよ。それは、ご自身がよくおわかりでしょう。もっともアンジーさんは知りませんが」
「私はあなたに守ってもらってばかりで、この身が引き裂かれる思いを何度もしました。何度も本当の事を話して一緒に戦いたかった。守りたかった。でも優先すべき事がありました。今ここに話しているのはもう死んで欲しくないからです。お願いだからこれ以上頑張らないでとは思っているわ」
「ここにきてようやっと本音か。長かったのう。恩というのは確かにあらがいがたいものじゃ。じゃがもうよかろう。わしらが言わずとも今お主が選んだではないか。死んで欲しくないと。それは、恩あるルシフェルとやらに背くことじゃ。ならばルシフェルに謝り、袂を分かつがよい」
「それでもこれまで私は内通者として状況を報告し、皆さんを裏切っているのですよ。いまさらじゃないですか」
「それでもここに一緒にいて話をしてくれたじゃないですか、ならばそれは懺悔です。懺悔をされたら神はその罪を許すのでしょう?」
「はい。はいそうです。それが神です」アンジーはそう言いながらショボンとしてしまいました。
「ならばもう許されても良いのではないですか。私たちに黙っていた事は後味が悪い行為です。でも私たちに何かデメリットがありましたか?」
「それは・・・実はいろいろ襲われていたのはそのせいだったのだと思います。それも黙っていましたし」
「これまでの事であなたが事前に話を知っていたことはありましたか?」
「いえ、実働部隊の行動は私に教えるなと言っていました。問い詰められたら嘘をついているのがばれるからです」
「では、あなたは責任を取る必要はないでしょう」
「そうなんですけど」
「むしろそのせいで、あなた自身が危機に陥ったこともありますよね。それはルシフェル様のせいではないのですか?」
「それは違います。あの方は、ルシフェル様はそのようなことをしませんでした。今回のを別にしてだいたいは実働部隊の暴走だったのです。私は定期的に報告していましたが試す必要がないほど弱いと報告していましたし」
「そうであれば問題ないのではありませんか。あなたは恩を返している。十分だったのでは。」
「いいえ、まだ私の恩は返せていません。・・・いないと思います」
 そこでしばらく沈黙があった。すかさず声が聞こえる。

「ほほう、面白い話を聞かせてもらった」
「どこから聞こえるのか、誰ですか?」全員で周囲を見回す。
「ああ、どうして出てきてしまうんですか。ルシフェル様どうして急に」
 私達は全員で周囲を見回しています。エルフィは両耳に手を当ててだらかが周囲にいないか探していますが、頭を振ってしまいます。ではこの声はどこからしているのでしょうか。


Appendix
俺の事をどこに連絡していた。死海文書の守人達かヘルゲートの手先か
いったい何を言っている。違うそんなことはしていない
ふむ。いい心がけだ。さすが私の元に送り込まれるだけの事はある。だがしゃべってもらうぞ
私は魔族から頼まれてあんたのことを報告していただけだ。信じてくれ。
魔族だと?そんなたわごとを信じると思うのか。ハプシエルの軍勢の戦力は今どのくらいだ?
言っている事の意味が分からない。おまえは何を言っているんだ?
いいから答えろ。俺はしつこいぞ。
だから魔族に頼まれていたと
拷問はしないが、昼夜を問わず何度でも何万回でも聞くからな。私は何日眠らなくても死なないからな
いや、あんたの言っていることの意味が分からない。わからない事には答えられない
ああ、洗脳されているのか。ならば洗脳が解けるまで付き合ってやる。そのほうがお互いのためだ
洗脳もされていないし、魔族に頼まれたんだ本当なんだ
ジャガーさんこれ以上は無理ですよ
いいや、こいつの洗脳が解けるまでやるぞ
ゴフ
おいあんた大丈夫か?そんな大量の血を吐いて
大丈夫だ死なない俺は死なないんだ。これだってちょっと興奮しただけだ
もういい!あんたと付き合ってられない俺は降りる
ああ俺も降りるお前みたいな奴と組んだのが間違いだった


続く

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 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

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