【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水

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第15話 帰還

第15-2話 事後処理

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○ 暇な時にはくだらない会話をするものです
 魔力の回復に2週間もかかりましたので、その間に色々と作業をしていました。薬草の培地を選定したり家の増築案を考えたりしていました。
「家の増築、結界の補強いろいろあるわね」アンジーが言う。
「家についてですが、とりあえず地下シェルターを作りませんか」
「シェルター?何じゃそりゃ。ああ、地下に部屋を作るのか。さすがにもういらんじゃろう」モーラがあきれたように言いました。
「そんな。あるじ様から聞いて楽しみにしていたのに」ユーリが意外と乗り気ですね。そうです。秘密基地は男のロマンです。ユーリが私に感化されてしまい、これでは男の子になってしまいます。まずいですね。男の娘にはなり得ませんけど。
「おぬしユーリに何を吹き込んだのじゃ」モーラが私を不審者を見るような目で見て言いました。
「以前、馬車を壊されて中の衣類とかが燃やされて途方に暮れたこともありましたよね。幸いお金は大丈夫でしたけど。家を作っても、急に旅に出て戻ってきたら家が無くなっていたら困るだろうなあと思いまして。泥棒が入って、お金とか貴重品とかを持って行かれたら嫌じゃないですか」私としては、馬車と一緒に燃やされた、メイド服が惜しまれます。ええ、大変良い出来だったのに。
「それはそうじゃな。そういえば、わしの巣も住めなくなったからしばらく持ってきて入れておこうか」
「おやあ、光り物がいっぱいありそうですねえ」アンジーが茶々を入れる。
「魔力も回復したのですから、モーラはここに籠もっていないで新しい洞穴探しましょうよ」私は、いつも通りアンジーの突っ込みを華麗にスルーして言いました。
「まあそうじゃな」モーラがしつこいぞおぬしと言う目でアンジーを見ていました。

 魔力も回復して安心して村に顔を出せると思いましたが、もう一つだけ問題がありました。お金です。培地の検討もありますが、とりあえず薬草を作って持って行かないとお金がありません。
「朝から薬草摘みですよー。ちょっと奥まで行きますよー」残念ながら、近くの薬草はまだ生えそろっていませんでしたので、少し遠出をしました。
「ああだるいのう」モーラがしゃがんで作業をしています。座って作業できる動く台はあの街に置いて来てしまったので。
「一応日課にしておかないと。これからはこれは生活の糧ですから」
「しかし、結界張ってあるのじゃろう?誰も入り込めないじゃろうから。何か機械でも作ってパーッと刈れないのか」
「魔力の無い人には効かない設定をつけてみました。その検証も兼ねています。キリリ」私は研究者です。研鑽しないと死んでしまいます。
「相変わらずそう言う技量だけは上がっていくのう」
「だから師匠が欲しいといっているじゃないですか。もっと魔法の技術あげたいなあ」私はそう言ってモーラを見る。
「これ以上技量が上がるのも問題なのではありませんか?アンジー様」メアが意味ありげに私を見て言いました。
「そうなのよ。指名手配犯というよりは執行猶予中の犯罪者みたいなものなんだからね。変に魔法を覚えて見つかったら本気で狙われるわよ」アンジーがため息交じりに言いました。
「ここで魔法使いの里でも訪ねてみよ。一発で討伐対象じゃな」モーラが嬉しそうに言いました。
「知っているんですか?魔法使いの里の場所」私は身を乗り出してモーラに尋ねる。
「おぬしには教えん。教えたらわしらを置いて絶対飛んでいくじゃろう」横を向いて言いました。
「そうですねえ。その誘惑にはあらがえないですね」私は目をつぶって、腕を組み、頷きながら言いました。
「そう答えるか。わしらより魔法習得が大事か」あきれていますねモーラ。
「冗談ですよ。冗談」私は乾いた笑いでそう言いました。
「おぬしの頭の中では、魔法使いの里に飛んでいくイメージが浮かんでいたぞ。まったく」
「気持ちだけなら一瞬です。ひとっ飛び~」私は目の上にひさしを作るように手を当てて、手と頭を右から左に動かしました。
「私たちを置いていくんですか?」ああ、ユーリそのすがるような顔そそられます。でもね、後ろ手にサムズアップしているのが見えたので、本気で飛んでいきたくなりました。ユーリが穢れていく~

○ 村に顔を出しましょう
 村に薬草を持って村に行きました。帰ってくる時にビギナギルに寄らなかったのか?とか、どこの道を通ってきたのかとか色々聞かれましたが、とりあえず無理矢理ごまかしました。
 村に行って一番驚いたのは、あれからすごく繁栄していて、文化レベルがあの街に近くなってきています。
「あんたたちのおかげであの街と頻繁に流通するようになってなあ。異文化交流?お互いのもてる物資の交換でこの村も潤ってなあ。まさにwin-winじゃな」
 村長からうれしそうにそう告げられ、私はあきれかえってしまいました。まったくどこからそんな言葉を仕入れてきたのやら。しかも薬草を買い取ってもらおうとしたら、こう言われました。
「薬屋もできたぞ。まあわしらにはあまり必要ないけどな」村長はそう言って笑っています。いや、魔法使い嫌いの村だったじゃないですか。どうしたのですか一体。
 薬草に関しては、村で管理していただけで、不要だったわけではありませんでしょ。そうですか薬屋ができましたか。それなら早速お伺いして薬草を置いてもらいましょう。
「では、後で改めてご挨拶に伺います。先に薬草を薬屋さんに買って貰えるか交渉してきます」
「では、また後でな」そう言って村長と私は別れました。

 薬屋ができたのか~そう思って薬屋を探して、訪ねてみると見知った顔が座っていました。
「あらずいぶん早かったわね。お帰りなさい」その薬屋にはエリスさんがいて、すでに何年も店をやっているかのような雰囲気のお店に、昔からそこにいるように奥のカウンターに座っていました。いや、お店のレイアウトとかあの街の店とほとんど同じですよね。
「ビギナギルで薬屋やっていたんじゃないんですか。いつからここに?」私は扉を開けながら顎が落ちています。本当にぽかーんです。
「色々とうるさい注文が多くてね、見切りをつけてここに来たわ。まあ、あなたの薬を確実に手に入れるにはここがいいと思ってね」店の奥のカウンターに座って両肘をついて顎を乗せて笑っています。
「いやいや、あの店はどうしたんですか。閉めたら街の人が困るでしょう」私達は話ながら中に入って行きました。
「あのパーティーの時に引き合わせた後輩の魔法使いにお願いしたのよ。そういう意味でここは支店みたいなものね」な~んか嬉しそうに話してますよこの人。
「支店に本店の店長が来たら本末転倒でしょう」もっとも元の世界では、支店開設時には良くある話ですがね。
「本当はね、あなた達が出て行った後、あの薬のおかげで面倒なことになったのよ」
「え?何がありましたか?」
「大手の薬問屋から恫喝されたのよ。薬のレシピを売れとね。それもしつこく。ほとんど営業妨害みたいな事をされたのよねえ」
「それはすいませんでした」私はちょっと申し訳なく思ってしまいました。
「まあ私もちょっとやりすぎたのよ」
「聞いた方がいいですか?」
「簡単よ。しつこくするなら絶対売らないとたんか切ったのよ。で、私がそこにいられなくなっただけ」
「なるほど。ご迷惑をおかけしました」
「本当なら領主さんとか商人さんを介してうまくかわすのだけれど、言ってきたのがハイランディスに本店のある問屋だったから、うちの領主さんも手が出せなくてね。いろいろ考えたけど、あなたが最初にいたこの村を思い出してね。さすがにこんな田舎までは追ってこないでしょうし、何かあったらモーラもいるしね」
「ここじゃあほとんど薬売れないでしょ」
「そうね。私は、店を開いてはいるけれど、研究の傍らに魔法の薬の普及啓発をする販売促進員みたいな感じね。ここの人達はほとんど薬を使っていないから使うようにさせたいのよ」
「なるほど。私の薬の扱いはどうなるんですか?」
「あの街では、あなたの意向どおりになっているわよ。一般人優先にね。余った分を売るのは会員制にして、会員の追加は招待制にして変なことしたら紹介者も一緒に除名するつもりで売っていくわ。私はしないけどね」
「会員の種類はどうするんですか」
「魔法使いとか、勇者とかそれ系の人達になりそうね。一般の人達に売った後の残りの在庫調整に売ってあげるのよ」
「そこまでしますか」
「もうそこまでしないと大変なの。とりあえずあなたの意向だった「街の人達にひととおり行き渡わたせること」は、達成できたから。お金のない人のところにもまんべんなく渡るようになったわよ。良かったわね」
「どうやったのですか?」
「薬を配る人を決めて、使ってしまったら買いに来るようにしてもらったの」
「誰が配るんですか?それとその運用費用は」
「費用は領主にもってもらったわ。配るのはアンジー教の人達ね。だから公平よ。曲がったこともしないと思うし」
「そういうことですか」
「だってねえ、売ってもらえなくなったら困るのはあの領主さんも同じなのよ。私があそこの店をたたむと言ったらそういう条件を出してきたの」
「そうですか」
「領主さんには独占して供給するかわりに街の人に十分に行き渡らせるような仕組みを作って欲しいと話したのよ。あとは製造番号を控えているから、転売が発覚したら販売を中止するとも言っておいたからね。あの街の人は、何かあったら領主のところに薬をもらいに行けばなんとかなる。という仕組みね」
「それでは領主さんが大変そうですねえ」
「領主さんは傭兵団の館のそばに住み始めたアンジー教の人達に管理を任せたのよ」
「とりあえず一般の人に行き渡ったのならよかったです」
「あの安さだから領主もOKしたのよ」
「これから作るのは、供給量はあまり変わらないのですが、効果はちょっと落ちそうなのです」
「ああ例の薬効のものすごい薬はもうないわよ。たまたま気候がよかったから出来たと言ってはあるけど、伝説級の傷の速効薬になっているわ。しかもこちらに知られないように転売されているのよ。高名な冒険者の間でね」
「あれがですか?でもあの時の薬はちょっと特殊な環境で育ったらしくて二度と再現できませんでしたからね。今作ろうとしても無理だと思います」
「あんな物をコロコロ作って安価で売っていたら薬問屋達からひんしゅく買うわよ」
「そうですよねえ」
「でも勇者とか冒険者が魔族との戦いのために備蓄したいらしいので、再現できるなら作ってもらえないかしら」
「もっと効果のある、高価な薬はいっぱいあるでしょう。そっちを使ってくださいよ」
「そうなのよ。でも即効性という面で、あの薬は格段に高性能らしいのよね」
「なるほど。戦闘時には即効性も必要ということなんですか。単なる傷薬なんですがねえ。とりあえず、どういう経過であれができたのか検証しませんと難しいですよ。生産拠点もこちらになりますし」
「私としては、あなたのおかげで結構稼げたのでちょうど良いタイミングだったのも事実ね。自分の研究を再開させるつもりでこちらに来たの。メインは薬屋じゃ無いですけどよろしくね」
「はい。買い取りよろしくお願いします」
「さっそく勇者パーティーから依頼があるけど作る?」
「いえ、特定の人と懇意にはなりません」
「ブレないわねえ。でもそう聞いて安心したわ。あと、ここに住んでいることは内緒なのよ。他言無用で」
「モーラにもですか?」
「いえ、あなたの家族は別に良いわよ。今度食事誘ってね」
「家の改築が終わったらになりますが。」
「ああ手狭だものねえ。またひとり増えたようだし」そう言って意味ありげに笑います。
「さすが事情通ですね」
「その子とも話してみたいわ」
「今度お連れしますね」
「それではまた」

○村長再び
 村長のところに改めて挨拶に行きました。当然パムさんも一緒に行きました。
 村長の家の中には当然数人の人たちが作業をしていて、私の顔を見た途端明るい顔になり、隣にいるパムを見るとびっくりしたような顔になり、最後に私を睨みました。別の人は舌打ちをしています。なぜでしょう?
 私が村長の机の前に立つと、村長が顔を上げました。
「なんじゃもう戻ってきたのか」いや、さっき会って会話しましたよねえ。その時は嬉しそうに私のおかげでとか言っていましたよねえ。たった数時間で何がありましたか?本音では帰ってきて欲しくなかったのですか?
「はあ、当初の目的も果たしました。やっとここで生活を始められます」一応、ここに家も建てるつもりなのですが、もしかして転居しなければなりませんか?
「また家族が一人増えたようじゃな」また急に表情がにこやかになって私に言いました。
「はい。家族が増えました。紹介しますね。ドワーフ族のパムさんです」私は隣に立っているパムを紹介しました。
「パムです。よろしくお願いします」パムはお辞儀をする。
「おお今度の家族はドワーフ族の人か。わしはここの村長じゃよろしくな。この男の連れてくる人はみんな美人さんじゃなあ」村長の言葉に部屋の男達全員の動きがとまり、私の背中に視線が集中しているのを感じます。そして、怒りのオーラも感じます。
「お戯れを」パムが言いました。
「いやいや素直な感想じゃよ。ほんにおぬしは噂通りの奴隷商人じゃなあ」
「いやそれを村長が言いますか」
「いや、男どもの嫉妬じゃな。またうらやましがられるぞ。なあにしばらく暮らしていれば、その噂は下火になるじゃろうて」
「早めに消してくれませんか」
「今のは冗談じゃ。家はどうするのじゃ? 手狭であろう」
「はいあの家のそばに新築します」
「なるほどな。村の中に住む気はないのか?」
「薬草小屋や厩舎も必要になりますので」
「そうか無理はするなよ。手伝いはいっぱいいるからな」
「ありがとうございます」
「さてパムさん」
「はい」
「この男に何かされたらわしのところに相談にくるがいい」
「はいわかりました」
「殴り倒してからわしのところにきてもかばってやるぞ」
「いやもしかしたら私が死んでいるかもしれませんよ」
「まあその時は死体の始末をしてやろう。 あとこの者の周りにおる家族との悩みでも話してみるがいい。話すだけでも気が落ち着くものじゃ」
「ありがとうございます」
「決して死人を出してはならんぞ」
「物騒なことを言わないでください」私は誤解をされそうなのでそう言いました。
「まあ死人になるのはお主だろうがなあ。では冗談はそのくらいにしておこうか。落ち着いたら顔を出してくれ、相談したいことが山積みなのでなあ」
「そっちが目的でしたね」
「まあな」
「では後日」
「帰り道と夜道には気をつけるのじゃぞ~」そう言って手を振る村長に背を向けて部屋を出ようとすると、部屋の男達が全員手を止めて私をじっと睨み続けています。いやだから事情も知らずに睨まないでくださいよ。とほほ

○魔法使いを受け入れた理由
 あの後村長さんとお話をして突然魔法使いを受け入れるようになった理由を聞かされました。
「憶えているかのう、おぬし達が一度戻ってきたじゃろう。あの一連の事件があったからなあ。やはり魔法を使える者が数人でもいてくれたほうが安心なのではと言う話になったのじゃよ。魔法使いが嫌いでこの村に住み着いた者たちもこの村に住み続けるためには必要だという考えに変わってきたのだよ。そこにたまたまエリスさんが来てくれたのでなあ。 まあ、渡りに船とばかりに薬屋の営業を始めてもらったのじゃよ」
「エリスさんもなあ。 最初の頃は結構無視されたりいろいろあったのじゃが、それさえも彼女はスルーしてくれていてな。それでも、事故が起きて薬が必要な時に真っ先に高価な薬を提供してくれたのじゃよ。何も言わずになあ。 それもあってもう表立っては何もなくなった。むしろ擁護するまでになったのでなあ。これも良い結果になっているのじゃ」
 なるほど、きっとエリスさんも苦労したのですねえ。


○村の中でまったり
 さすがにもう襲撃もないようなので、別行動で村を散策していました。パムはもちろん歓迎されました。エルフィと一緒に居酒屋に招待されています。いろいろな国を回っているので話題も豊富ですから。
 居酒屋から戻った2人と買い物を終えたメアさん達と合流して家への道を全員で歩いています。
「幸せですね~」エルフィが大きな声で伸びをしながら言った。
「そうですね。これまでの諸々が嘘のようです」パムも楽しく飲んできたようでうれしそうに言いました。
「あとは家の新築じゃな。みんなで寝るのも良いが、さすがになあ」モーラもやっとわかってくれたようです。
「ええ。お風呂が手狭ですから」私はそう言いました。ええ決意表明みたいなものです。
「やはりそこか。おぬしはブレぬなあ」モーラがあきれています。
「ええ、多少大きく作っていたとはいえ、2~3人しか入れませんから。みなさんも納得していませんよねえ」私は歩きながら皆さんを見回します。
「これまでどおりにゆったりした風呂に入りたいじゃろう。絶対必要じゃ」モーラも力を込めて言いました。
「旅の途中もずーっと一緒に入浴していましたから特にそう思いますね」メアが言います。
「パムさんも一緒にはいるのに慣れましたか」
「はい。一緒に入るのはなんでもありません。それに小さいとはいえあのお風呂はすごいですね。癒やされます。いったいどういう原理なんですか?」
「原理?何も無いですよ。お湯も普通の水ですし、普通にわかしています。ただ、浴槽、内壁、床に使っている木の素材と気密性をしっかりしているだけですかねえ」
「そうなんですか。あの空間に何か仕掛けがしているのかと思いました」パムが不思議そうに言いました。
「この人、この家を作った時に浴室だけ異常にこだわっていたのよ」アンジーさんその通りです。
「そうらしいなあ。当然今回もこだわるんじゃろう?」モーラがにやりと笑って言いました。
「でも、皆さんで入れる大きさは自信が無いですねえ」
「あきらめちゃうんですか?」ユーリが私を期待のまなざしで見ています。
「いえ、ユーリ見ていてください。もっと良いものを作って見せます」
「わーい」ユーリが喜んでいる。
「相変わらず乗せられやすい性格じゃ」
「そうね」とはアンジー
「そうです」とはメア
「そうなんですか?」とはパム
「そうかも~」とはエルフィでした。
 そうして、帰ったら今日もみんなでお風呂に入ります。

○マジシャンズセブン
「そういえばあんた。マジシャンズセブンとか言っていたわよねえ」アンジーが私を睨んで言いました。
「ああ覚えていましたか。まさか本当になるとは思いませんでしたよ」私もエルフィ並みに予知能力が発現しましたかねえ。
「次はないわよ」アンジーが強い口調で言いました。
「アンジー。あなたがそれを言いますか」私は納得がいきません。
「なんでよ」意味がわからないという感じでアンジーが聞き返します。
「なんだかんだ言ってパムさんだって受け入れたじゃないですか」
「それはまあそうだけど。もう増えないわよね?」
「わかりません」
「はーそうよね~」最近アンジーはため息しかついていませんよ。
 「もう魔族からの刺客も来ないですよねえ。増えても問題はないでしょう?」
「確かにそうなんだけどね。こうも各種族の生え抜きばかりになると、それ以外の所も注目し始めるのよ」またため息ですか。幸せが逃げますよ?
 「まあ生え抜きなのはユーリとエルフィとパムくらいじゃないですか」
「モーラもでしょう?あとあんたも」アンジーがそう言って私を見返す。
「アンジーだって実はそうなんですよねえ」私は負けずにそう言いました。
「あたしは使いっ走りだわ」おお。かわしましたか。
「使いっ走りが魔王様直属な訳ないでしょう?」
「それはまあ色々よ」
「だからドラゴンズセブンとかエンジェルセブンとかでも良い訳じゃないですか」
「あんたがみんなを隷属させているんじゃないのよ。いまさら言わせないでよ」
 そういえばそうでした。

○残りの勇者
 念のため、私はモーラに聞いてみました。
「残りの勇者グループはどうしましょうか。会いに行きますか?」それに答えてモーラはこう言いました。
「わしらが会ったのが、不死身の勇者と王女の勇者じゃろう?どっちも癖がありすぎてなあ。もう一つのグループを見に行く気がなくなったわ」
「ですよねえ」
「もっともしばらくは隠遁生活をしないとまずいしのう」それでもモーラは会いに行くつもりはまだあるのかも知れませんね。
「旅のついでならまだしも戻ってきましたからねえ」
「そうじゃ」

○服屋さん
 町の中でナナミさんを見かけました。私に気付いて走ってそばに来ました。
「ナナミさんお久しぶりです」
「あ~DTさんじゃないですか。旅はどうしたのですか?」
「無事目的を果たして帰ってきました」
「また一人家族を増やしたと聞きましたよ」
「お耳が速いですねえ。そのとおりです」
「そうですかー。ぜひ衣類は私の店で」
「もちろんそのつもりです。ところで店長さんは?」
「今はこの村にはいませんよ~」
「そうでしたか」
「アンジーちゃんとモーラちゃんがビギナギルを旅立ってからは、腑抜けのようになっていましたから。ここに戻って来た事を知ったら飛んで帰ってきそうですけどねー」
「その時はお手柔らかに」
 しばらくして、また町中でナナミさんに出会いました。
「ねえDTさん。可愛い子を知りませんか?」
「え?誰ですか」
「最近見るようになったのですけど、小柄でナイスバディな女の子なのですよ。見かけませんでしたか?」
「さあ。私は元々、村にあまり顔を出しませんから」
「そうでしたか~。たまに見かけるんのですがすぐいなくなるのですよ。こんな田舎は頻繁に来られる場所ではないので、きっとどこかに住んでいると思うのですが、さっぱり家が見つからないのです」探しているのですか?あなたもしかしてストーカーなのですか?
「隣町という事はありませんか?」
「ああ確かにそうかもしれません。イツミ姉さんに聞いてみます」
「イツミさん?もしかして姉妹の?」私は俄然興味が湧いてナナミさんに尋ねました。
「従姉ですよ~。縫製の講師として来ているみたいです。どうして姉妹だと思ったのですか?」
「ムツミさんに聞いたのです。従妹含めて9人いて、全員顔が似ていると。今度ぜひお会いしたいですね」
「ああ、ビギナギルにいるムツミ姉さんに聞いたのですね。そうですか。きっとアンジーちゃんとかなら会いたがると思いますよ。たぶん服を縫ったの従姉だと思いますから」
「縫製を教えに来られているのですか」
「ええっ?あなたがそれを言いますか?あなたがアドバイスしたと言っていましたけど、違うのですか?」
「ああ、確かに生糸だけではダメだから加工も出来るようにした方が良いと。そんな事もアドバイスしていましたねえ」
「やっぱり~DTさんがそう言った事でどんどんこの村が良くなっているのですよ」
「はあ」
「では、可愛い子の新しい情報がありましたら教えてください~」
 そう言ってナナミさんはどこかに行った。


○ルシフェルの悩み
 発端は魔族の魔王ルシフェルが側近の男と会話しているところから始まる。
「戻ったのかそれはしかたがないな。しかしどこにいるかわからんのだよ」
「場所を知らないのですか」
「ドラゴンの縄張りだとしか聞いてないよ。聞く必要もないしね」
「とりあえず監視者を送りましょうか」
「アンジーから連絡が入らなくなったら考えようか」
「彼女を信頼していますね」
「いや放置するって約束したし」
「それにしても魔族絶対主義の者たちをどうしますか」
「どうもせぬ言ったところでしらを切るでしょう?こちらとしては、それに乗じて色々動こうとは思うよ」
「わかりました」
「これは功績と言っていいものなのか?」
「罠にはめられて殺されかけたとも言えますね」
「事の発端は、誰が起こしたのかなあ。闇の魔法を見たのはどっちなんだ?こちら側?それとも人間?」
「わかりません。魔族か人かと言われれば人の可能性が大きいです」
「あれだけの魔力量を持つ人がいるという事なのか?」
「それを言われるとどうなのでしょう。いったい何がしたかったのでしょうか」
「魔族にもリークしていますから、人でもなさそうな気もします」
「それは結果的に土のドラゴンがあそこにいたというだけのことだろう」
「一連の事件すべてがつながっているとしたらいかがですか?」
「あそこでドワーフまで関わってくることまでがつながるのか?」
「あの魔法使いがかかわったのがイレギュラーなのか、それでもあの魔法使いが傷を負ったのがイレギュラーなのか。そのどちらもなのか」
「そうなると黒い霧だけが事件だったことにならるよねえ」
「堂々巡りですね。黒い霧を起こすことを知った誰かがそれを利用して土のドラゴンの抹殺を考えたのでしょうか」
「たまたまつながったということか」
「それが一番自然なのではありませんか」
「それにしても、一度顔合わせをしなければならないなあ」
「長老たちとですか」
「少なくとも始祖には謝らなきゃならないでしょう」
「そうですね。とりあえず一度里には連絡してみましょう」
「そうしてくれ」

○4者会談
「呼び出しは、例の事件のことか?」ドラゴンの里の始祖龍が言った。
「それしかないわよねえ」魔法使いの里の方です。
「どんな話をするつもりなのかな?」天界の方です。
「今回は私どもの部下の不手際がありまして、族長会議での謝罪のため、事前にご説明をと思いまして」魔族をア代表するルシフェルが言う。
「謝罪されることなど何もないぞ?」とは始祖龍が何を言い出すんだという感じで返した。
「そうでしょうか?黒い霧の事件についてですよ?」ルシフェルがびっくりしたように言った。
「あれか?縄張りを越えてあの事件に関わったのはあやつの自業自得じゃ。もっとも土のドラゴンとしては正しい行いであったから。あやつを咎めるつもりもないがな」飄々と始祖龍は言う。
「そう言いますが、事件に乗じて我々の部下が・・・」ルシフェルが言い始める。
「いや襲われたのはあの転生者と隷属している者たちだろう?土のやつは攻撃されておらぬ」始祖龍がにやりと笑ってそう言った。
「そういう判断をするのですか?」
「判断も何もそれが事実であろう?」始祖龍はそう言ってルシフェルを見る。
「わかりました。私の認識違いを正さねばなりませんね」
「そうじゃ。それにしても誰があの黒い霧を発生させたのかなあ?」始祖龍はそう言って魔法使いを見る。
「私の所ではないわよ。むしろ誰か知らないけど勝手なことをしてくれるわね」むしろ嫌そうに魔法使いは言った。
「魔女よ。おぬしのところが怪しいのだが本当のところどうなんじゃ」始祖龍は真顔になって言った。
「私も知らないわ。むしろあれをうちがやったとか、変な噂が出て魔法使い排斥に世界の意思が傾くことの方が怖いわよ。魔女狩りだけは勘弁して欲しいもの」魔女と呼ばれた魔法使いは昔の事思い出しているのか、苦々しい顔をして言った。
「ああそういう影響もあるのか」天界の天使は頷いてそう言った。
「天界はいまさらそれを言うのかしら」あきれたように魔法使いは天使を見ながら言った。
「色々あるからねえ」天使は気にした風でも無い。
「今回の件、謝罪は不要じゃ。むしろあの男の脅威度が明らかになったことが良かったと思っておる」始祖龍は3人を見回しながら言った。
「あれをどうするのかしら」嬉しそうに笑いながら魔法使いは言った。
「まだ討伐させぬ」始祖龍が嫌そうに言った。
「あら残念ねえ」本当に残念そうな顔をしています。
「隷属の首輪が厄介なのでなあ。隷属している者達に影響が出ても困るのでな」始祖龍が魔法使いの目を見て念を押すように言った。
「じゃあ手は出さないわ。その時が来たら呼んでね」本当に残念そうに視線をはずす。
「その時は頼むな。では終わりにするぞ」始祖龍は何か見えない合図を送った。魔女が消えた後、魔族と天界の窓が再び現れる。
「私達は居残りですか」
「ルシフェルよどうなんじゃ。わしのところの使いは、あの転生者にどうやら篭絡されたらしくてなあ。最初から一切報告してこないのだよ」
「うちもねえ。隷属のせいか報告が甘くて。それでも今のところ魔族に対して攻撃の意思はないみたいですよ」
「魔族に対してだけか」
「ああすいません。魔族以外に対しても攻撃さえされなければ反撃はしないというところですね」
「そうなのか」
「家族を傷つけられなければという前提ですが」
「ほう家族となあ。話ではこの世界のトップクラスの才能と一緒にいると思うから、家族がそうそう傷つけられるものではないと思うのだが」
「家族のうち一人でも人質に取ったり、命を狙ったりした場合は、人質が殺されようとも相手を殺しにいくそうですよ。本人がそう言っています」
「そいつ頭おかしいのではないか?」始祖龍があきれている。
「人質に取った段階で人質は殺されたものと考えて自分も死ぬ気で相手を倒すそうですよ。そのあと人質が死んでいたら多分自死するかもしれませんが、相当の犠牲者がでるとは思いますよ」ルシフェルもあきれている。
「本当に頭がおかしいのだな」
「過去に何かあるのかもしれませんよ」
「記憶は戻していないのか?」
「ええ。そろそろ戻してもいいかとは思っていますが」
「しばらく様子を見て欲しいですね」天使が口を挟む。
「そうします」
「記憶を封じて正解だったのではないですか」
「ああ、封じていなかったら、この世界はどうなっていたのかなあ」天使はそう言った。


 続く


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